間接照明が放つ暖色の光に包まれて、私とお兄ちゃんは向かい合います。
両手を広げて「はやく」と急かす私に一瞬戸惑うお兄ちゃんですが、次の瞬間には意を決したように息を飲み、スっと真剣な眼差しになります。
その瞳に見つめられた私は急に緊張して、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまいます。それを見兼ねてかお兄ちゃんは「目を瞑って」と私に優しく囁きかけてからクイッと私のほうに半人分、ソファの上で近づいてきました。
私のほうもコクンと息を飲むと、お兄ちゃんがゆっくりと顔を近づけてくる気配がしました。
……あと数センチで唇が触れ合ってしまうような距離で、お兄ちゃんが「じゃあ、抱っこするからな」なんて言ってきます。
そして両手を広げたお兄ちゃんが覆いかぶさって来るのですが……。
「ちょ、ちょっとタイムです、落ち着かせてください、深呼吸させてくださいっ!」
……なんだか恥ずかしさで噴火しそうなほど沸騰してしまった私はストップを掛けてしまいました!
「お風呂、入って来てからでいいですか……っ?」
「お、おう、そうだな! 俺も帰ってきてワイシャツのまんまで汗臭いかもしれないし!」
……やっちゃいました。
私はお風呂で一人、嘆息します。
恥ずかしくなって直前で逃げる。
せっかくお願いできたのに、本番になって怖気付いてちゃ駄目じゃないですか!
「私のバカ……」
呟いて、私はシャワーを浴びます。
いつもは熱いお湯をめいっぱい被りたい私ですが、さっきの火照りがおさまらない私は冷たい水をしゃわしゃわと浴びます。
そしてそのさっぱりとしたお水に私の熱を……あわよくば私の恐怖心も一緒に流してしまって欲しくて、脳のみそが冷えて正常作動するまでしゃわしゃわの冷却装置を浴び続ける私なのでした。
それから、いつもより大分短いお風呂の時間が終わってリビングへ。
私はある程度落ち着いた精神をより落ち着けるため、カップのバニラアイスをすくっては口に運びます。
あまり溶けていないそれは少し力を入れないとすくえないため、すくっているというよりは表面を削って舐めているような、そんな感じです。
こうしていると大抵お兄ちゃんがお風呂から出てくるのですが、今日はお兄ちゃんのお風呂はゆっくりめ。
私との抱っこを控えて、入念に身体を洗っているんでしょうか?
そんなふうに妄想で時間を繋いでいると、私がアイスを食べ終わるのを待っていたかのようにお兄ちゃんが引き戸を開けてリビングに入って来ます。
そして火照った顔を隠すようにそっぽを向いて、「美咲……じゃあ、始めるか」なんてぶっきらぼうに言いました。
……お兄ちゃん、かわいいかよです。
それからも、ふたりはなんだかんだ理由をつけて抱っこするまでの時間を引き延ばそうとしました。
恥ずかしさからか、この時間の作業の進むこと進むこと。
面倒くささの欠片も感じずに、ただ恥ずかしさからの逃避のためだけに食器を洗ったり細かいところの掃除をしてみたり。
そしてお互いなんにも他のやることが見つからなくなったとき……。
お兄ちゃんが、キッチンに立つ私を後ろから抱きしめました。
そして、耳元で「そろそろ……しよ」なんて甘く囁くんです。
それに小さく頷いた私は、再度ソファーの方に移動します。
そして目を瞑ると……、真正面から、お兄ちゃんが抱きしめてきました。
それに対応するように、私もお兄ちゃんの大きな身体に手を回します。
私の小さな手はお兄ちゃんの身体の全部を包むことなんて到底出来ませんでしたが、両手いっぱいにお兄ちゃんを感じることが出来て、私はこの上なく幸せな気持ちになります。
私に覆い被さるお兄ちゃんと、それを受け入れ抱きしめる私。
その時間は長いものではありませんでしたが、永遠にも感じられるほどに価値のある一瞬で。
脳が蕩けるような感覚に陥った私は、そのまま意識を夢の彼方へと浮つかせて、部屋のベッドに行って布団を抱いてごろごろするのでした。
続く。