午前の授業が終わると、私は一目散にかなちゃんのところへ行って廊下に呼び出しました。
最初は驚いた様子のかなちゃんでしたが、私が恋愛関係の話だと囁くと、真剣な表情で黙って私についてきます。
かなちゃんの手を引いたまま、屋上まで。
屋上の重たい扉をガコンと閉めて、私はかなちゃんと二人きりの空間を作り出します。
「さ、小百合……? どうしたの急に?」
真剣ながらもまだ困惑の拭いきれないかなちゃんに、私はポシェットから取り出したそれを見せつけます。
「……え、それって……」
目の前のかなちゃんが、目をまん丸くさせて口を押さえています。
「……かなちゃん、これ、あげる」
「え、でもそれって、今はあんまり手に入らないチケットじゃ……」
そう。私がかなちゃんに渡したのはチケットです。
それも、カップルで行けば必ず結ばれるという噂で大人気の動物園のチケットです。
現在では噂のおかげで人気が高まり、入場制限がされている程ですが、時間を繰り返している私はかなり前から無期限のペアチケットを購入していました。
「ほ、ほんとにいいのっ!」
かなちゃんが頬を紅潮させて、今にも飛び上がらんばかりにはしゃいでいます。
「うん、いいの。……でもね、一つだけ約束して?」
「……な、なあに……?」
「絶対に、私がチケットをあげたことも、動物園に行くことも、みーちゃんには内緒にしてくれる……?」
「……え、な、なんで……?」
急に不審がるかなちゃん。
まあ、それも無理はありません。
でも私は時間を繰り返している身です。
当然そんなこともカバー出来ていて……。
「あのね、このチケット……みーちゃんも欲しがってたんだ。私と行きたいって言ってたんだけど……かなちゃんのほうが今は必要かなって思って。だから、みーちゃんには内緒にしてくれる……?」
ループした時間で初めてこの方法で話しをはぐらかしたときはヒヤヒヤしましたが、今となっては答えを知っています。
かなちゃんは「そっか、わかった」とすんなりことを受け止めると、満面の笑顔とともに感謝の言葉を述べてきます。
その嬉しそうな顔が私には、何度も見た光景であるはずなのに、初めて見る花のように神秘的に見えて。
……かなちゃんが死ぬ前に時間を戻せてよかったなって、改めて思いました。
次の日曜日。
私とみーちゃんは、動物園の最寄り駅に集まっていました。
かなちゃんにチケットを渡したあと、私はみーちゃんにかなちゃんとお兄さんのデートを密告して、尾行に誘ったんです!
私はいつも通り、白を基調としたロングのスカートに白のシャツ。そしてカーディガンというスタイルで待っていたのですが……。
私より少し遅れて訪れたみーちゃんは、なぜかボーイスカウトのような格好をしていました!
「えっ、みーちゃん……それ……」
「えっ……? 尾行するならちゃんとしないとですよね?」
首に下げた双眼鏡を片手に、不思議そうに首を傾げるみーちゃんですが、いや!
動物園のループは数回目ですが、みーちゃんがこんなエセ自衛隊みたいな格好で現れたのは初めてです。
……やはり、私以外の干渉者が関係しているんでしょうか?
今までの繰り返しとはまた違った運命に、私は気を引き締めます。
と、そこで。
「……あっ、小百合さん! あれを見て下さい!」
みーちゃんが、小声で声を張りました。
その方向を見ると、ばっちりオシャレをしたかなちゃんと普段通りの服装をしたお兄さんが並んで立っています。
……あれ? お兄さんが今こっちを見たような……?
気の所為ですかね? 今までのループでは気が付かなかった現象なので、とりあえず気にとめておきます。
「小百合さん、いきますよ!」
……なぜかいつにも増して張り切っているみーちゃんに連れられて、私はお兄さんたちの十メートル後ろくらいを隠れながらつけていきます。
二人の手が触れ合いそうになる度に隣から「ふぅぅぅぅぅうっ」とハムスターの威嚇のような声が聞こえますが、無視無視。
何はともあれ、私の作戦の第一歩、かなちゃんとお兄さんのデートを見せてみーちゃんの嫉妬を溜める作戦がスタートしたのです。
続く。