『一刀のいたクリスマス』   作:成宮

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本来ならば新規で書きたかったのですが、時間がなかったためこのような形になってしまい残念無念です。もしかしたらリメイク前を読んでことがある方もいらっしゃいますかもしれませんが、お久しぶりです、そして申し訳ありませぬ。


『一刀のいたクリスマス』

 

 

「まったく、平和になっても仕事は尽きないわね」

 

 

  魏によってこの大陸は平定されたことにより、大規模な戦いは終わり賊相手の小規模な戦闘がほとんどとなった。しかし比較的平和になったからといって、内政といった文官はむしろ戦時中よりも慌ただしい。

 

 日は沈み夜が更けてもいまだ目の前には積み重なった竹簡の山がずらりとできている。

 

「まったく、誰のせいでこんなに忙しいのやら」

 

「ほんとそうです。あの変態男はこんな忙しいときにいないなんて・・・」

 

 消える前に一刀が残してくれたもの、それは平和だからこそ重要なもの。当時は様々な事情によって実行できなかったが、最大の敵がいなくなったことで、時間、資金、人材を当てることができるようになった。これにより魏はさらに豊かに、強大になっていくだろう。

 

 残した本人が不在とはね、まったくいい迷惑だわ。

 

 一刀が残したものがこうした形として息づいてゆく。それが嬉しくて、少しだけ、切ない。

 

 やりがいも感じるし、乱世の時とは違った充実感もある。だが思わず愚痴を零してしまうのは、仕事の辛さではなく一刀がいないことに対してだ。

 

 これじゃ駄目ね。

 

 落ちつつある気持ちを切り替えるべく少し休憩を取ろうと思う。政務の手を一旦止めて外を見ると、ちらちらと白いものが降っていた。すぐそばで共に仕事をしていた桂花も同じく手を止める。

 ここ数日冷えると思っていたけどもうそんな時期なのね。

 

「華琳様、今夜は特に冷えるみたいです。華琳様が風邪をひかぬよう私がご一緒に・・・」

 

 桂花が私を気遣い、声をかける。

 

「いえ、大丈夫よ」

 

 そんな気遣いを嬉しく感じつつも、意識は別のことに向いていた。雪を見ると思いだす。

 

 一刀と共に過ごした「クリスマス」というものを。

 

 

 

 

 

 

 

「俺の世界ではこの時期、クリスマスっていうのがあってさ」

 

 寒くなり、雪がちらつきはじめたある日、一刀がそんなことを言い出した。よく見るいつものふざけた感じではなく、ここ最近はほとんど見ることもなくなった寂しげな表情。

 

「へぇ、いったいなんなのかしらそのクリスマスっていうのは」

 

そんな一刀の表情に気づかないフリして、皆が疑問に思っているであろうことを代表して尋ねる。その場にいた全員が一刀のほうを振り向いた。

 全員に見つめられ、少し照れたあと話を続けた。

 

「パーティ・・・大切な人を集めてお祝いをしようって感じかな。家族だったり、恋人だったりね。もともとはイエス・キリストっていう人の誕生を祝う記念日だったんだけど、時代が経つにつれて騒ぎたい口実っていうか、まぁ、お祭りの一種みたいになったんだ」

 

「一刀、なんやそのキリストっちゅーのは王様とかなん?」

 

「いんや、キリスト教っていう宗教の開祖、っていえばいいのかなぁ」

 

「宗教というと、天和殿たちみたいな感じなのですか?」

 

「あー、ある意味間違ってないかな」

 

 一刀は稟の例えに微妙な表情で返す。

 

「へー、隊長もキリスト教徒だったん?」

 

「いや、俺のいたところでは宗教に入ってる人は一部の人で数も多くなかったかな。クリスマスは儀式というよりほんとにお祭りなんだ。ほとんど世界中で行われる祭りだから、経済の活性化にも一役買ってたかな」

 

 皆一刀の語るクリスマスに興味深々のようだ。まぁそれぞれ注目するところは違うのでしょうけど。

 皆、それぞれクリスマスというのを思い浮かべ話し合う。にわかに騒がしくなった中でぽつりと秋蘭が呟いた。

「ふむ、大切な人とか・・・」

 

 不思議とその一言は皆の耳に届き、騒がしかった面々も思案顔になる。

 

 春蘭と秋蘭はたぶんお互い、そして私のことを考えているんでしょう。春蘭のころころと変わる表情が見ていて楽しい。

 

桂花はどう見ても私のことを考えている顔ね。きっと私と二人っきりでお祝いした後そのまま閨に・・・ってところまで想像してるんでしょう。

 

 季衣と流琉は二人に一刀を加えたってところかしらね。ただニコニコと笑顔の季衣と顔を真っ赤にしている流琉ではその想像に差異があるんでしょう。季衣は食事のことを、流琉は・・・いつの間に女の顔をするようになったのかしら。

 三羽烏の凪、真桜、沙和はお互いと時折一刀のことをチラチラ見ている。北郷隊として長い時間一緒にいただけあって三人の輪に一刀がいることが不自然じゃなくなった三人一緒、という意識が強すぎて離れ離れになった時が心配だったけれど、この調子で輪を広げていければ、きっと大丈夫。

 

 霞は少し寂しそうな顔をしていた。あれはきっと董卓たちのことを考えているのでしょう。離れ離れになってしまった人との思い出や絆はやはり強い。それは美化されるものだし、現状に不満を持っているのならば尚更。霞があんな顔を浮かべるなんて、少し妬けるわね。

 

 風と凜は・・・いつも通りね。私の真名を呟いて鼻血を出す凜を風が優しく介護する。どんな時でも変わらない、二人のあり方が少し羨ましい。しかし表情から思考を読めない風は別にして、凜はどうにかならないかしら。軍師があんな簡単に冷静さを失っていては、それを支える風も大変ね。

 

 一刀の顔を見ると・・・霞と同じで少し寂しそうな顔に窓の外を眺めていた。クリスマスのことを考えて寂しそうな顔・・・それは家族に対して、それとも恋人に対してどちらなのかしら。もし天の国に残した恋人がいたとしたら・・・ちょっとムカつくわね。

 

「ところで一刀、あなたはそのクリスマスとやらはどうすごしていたの?まさか、た・い・せ・つ・な・こ・い・び・とと過ごしていたのかしら?」

 

 その発言を聞き、皆が一斉に一刀を見る。春蘭、秋蘭、そしてちょっと意外だけど桂花がムッとしたように。霞、真桜、沙和はからかうネタを見つけたと楽しそうな表情で。凪と季衣、流琉は子犬とか小動物を沸騰させる寂しそうな顔で。風と凜は以下略。

 私の表情は・・・いったいどうなっているのかしらね。

 

 先程までのしんみりとした空気は吹き飛び、皆一刀注目し、一部はそばに詰め寄った。一刀は急に目の色が変わり詰め寄られたことにしばし唖然とし、動揺していた。

 

「いや、まぁうん。俺は恋人とかいないし、大体は家族と一緒にいたかな」

 

「大体は?」

 

 曖昧な返事に素早く秋蘭が切り返す。

 

「あー、去年は及川っていう男友達に誘われて合コンに・・・」

 

「兄様、ごうこんってなんですか?」

 

 流琉の無機質な目が少し怖い。初めて聞いた言葉のはずなのに何かを感じ取った様子、予想以上に嫉妬深いというか、腕力がある文桂花よりも怖いわね。

 

「えっと合コンっていうのはね、えっと友達とご飯を食べたりお酒を飲んで語りあ」

 

「華琳様、この変態男は嘘をついています!間違いありません」

 

一刀の発言を遮って桂花が断定する。あれだけ目を泳がせていれば誰だってすぐに気づく。

 

「なにぃ北郷!貴様、華琳様の前で嘘をついただとぉ!華琳様、すぐさま北郷を拷問にかけて白状させましょう」

 

「いやホントだって、俺は」

 

「では隊長。その合コンの時の出来事を詳しく説明していただけますか」

 

「別に何もなかった!」

 

「説明していただけますよね」

 

「凪ぃ・・・」

 

「観念しーや、隊長」

 

「そーなの。凪ちゃんの詰問からは逃げられないの。むしろ春蘭様や桂花様みたいな拷問じゃないだけマシなのー」

 

「おい沙和!それはどういうことだ!」

 

「ちょっとぉ!この脳筋なんかと一緒にしないでよねっ!」

 情けない顔をしたそ一刀の腕を左右それぞれ真桜と沙和が逃げないように捕まえ、怒り狂った春蘭と桂花の盾として使う。霞は様子を見て、少し前の寂しさを吹き飛ばす様に、笑う。

 

「せやな、こーなったら一刀の昔の女関係を洗いざらいはいてもらおうやないか」

 

「か、か、一刀殿の女性関係は酒池肉林で、はふぅ・・・」

 

「はーい、凜ちゃんトントントンですよ~」

 

 凜は相変わらず歪みないわね。確かに一刀の昔の女関係は気になるところだし、ちょうどいいわ。いつのまにかクリスマスの話題が一刀の女関係にすり替わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 詰問もひと段落し、一刀は憔悴しきっていた。結果は限りなく黒に近い黒。話を聞くだけで多くの娘が一刀に対して何かしら思いがあったことがすぐにわかった。しかし本人はそのことに気づいてないのが、なんとも救いようがない。それは果たして良かったことなのか悪かったことなのか。いやきっと良かったのだろう。不器用な、でも優しい一刀だからこそ、皆が気に入っていて、好きなのだから。

 

しかししゃべればしゃべるほど深みにはまってゆく姿は、ほんとにしょうもない。徐々に皆の視線が厳しくなっているのに打開しようとすればするほど、余計なことを口にするのだから。

 

「さてそろそろ話を戻すわね。誰かさんのせいで結局クリスマスの内容についてはあまりわからなかったわね。」

 

「それは華琳があんなこと言いだしたせいで」

 

「あら、私はクリスマスのことについて聞いただけよ?自爆したのはあなた自身じゃない」

 

 そういって笑顔を浮かべる。客観的に見ても白々しい、私自身も思った以上に一刀の言葉にイライラがきていたようだ。

 

「あなたの話で分かったことは合コンについてくらいかしら」

 

「それは皆が詰問してきたからだろ!」

 

 合コン、という単語を聞き、数人が頬を赤くする。そして凜は思いだし鼻血を出していた。特に王様げーむとやらの話は興味深かった。遊びで王様を名乗る豪胆さもさるものながら、なかなか過激な命令が飛び交う混沌とした遊び。何より合法的にいろいろできるところが良い、いつの日か関羽を交えて試してみよう。

 

「ま、とりあえず合コンの話はおいておきましょうか。桂花、先のクリスマスの話、あなたはどう思ったのかしら?」

 

「面白い試みだと思われます。今はまだ難しいと思いますが、いずれ大々的に行ってもよいのではないかと。ただ」

 

「ただ?」

 

「キリストうんぬんは説明はしてもどうしようもありませんので、何かしら別の理由を考えねばなりません」

 

桂花がハキハキと答える。

 

「例えば?」

 

「か、華琳様の日などどうでしょう!」

 

目を輝かせる桂花を、残念な目で見る凜、風といった面々。春蘭は「おお、それはいい考えだ!」と嬉しそうにしているが。

 

「まぁその話は実行できるときまでに考えておきましょう。冬が過ぎれば最後の決戦となるわ。せっかくだから息抜きにそのクリスマスパーティとやらをやりましょか。一刀、発案者はあなたなのだから、あなたがすべて取り仕切りなさい」

 

「ええ?!俺が全部?!」

 

「当たり前でしょう。クリスマスを知っているのはあなたしかいないのだから」

 

驚く一刀にため息をつきながら答える。

 

「これは命令よ一刀。せいぜい私たちを楽しませて頂戴」

 

さて一刀はどんな風にするのかしら。楽しみね。

 

 

 

 

 

次の日から一刀は慌ただしく動き出す。さすがにそこまで費用を出すことができないので城内のみ、参加者は幹部と限定している。それを聞きどこまで再現できるかなぁと一刀は頭を悩ませていた。

 

 今日はクリスマスは普段と変わった料理が出るようで、流琉と試行錯誤しているようだ。厨房からの今まで嗅いだことのないとてもよい匂いが風に乗って流れてくる。その匂いに誘われた春蘭なんかが厨房に突撃したが。

 

「すみません春蘭様。にーちゃんからここには誰も入れるなって」

 

と涙ながら季衣に止められ、悔しそうに引き下がっていた。いつもなら真っ先に突撃しそうな季衣が逆に止める側に回っているということが、その本気をうかがわせる。

 張三姉妹もちょうどこちらに帰ってきているようだ。何やら一刀と色々相談している人和をよく見かける。彼女たちも一枚噛んでいるのだろう。

 あとは北郷隊の人たちがなにやらごそごそやっているみたいだ。真桜と共に工房に入り浸るところも見たし何を作ってるのだろうか。

 

 

 

 

 

 忙しさにあっという間に日々は過ぎ去り、そして遂にやってきた当日。玉座は明るく彩られ、中央には見たことのない木に、飾り付けがされている。その木の装飾は安っぽいところがあれども見ているものを楽しくさせるような華やかさがちりばめられていた。

 

「これはクリスマスツリーっていうんだ。本来はもみの木を使いたかったんだけどさすがに用意することはできなかったからね。園丁無双の人たちに頼んでそれっぽくしてもらったよ」

 

 傍にやってきた一刀がごめんねと微笑みながら語りかけてきた。一刀と製作者である真桜を除き皆もクリスマスツリーに見とれていた。

 そして次に興味を惹かれたのは匂い。机には既に数多くの料理が並んでいる。その中には慣れ染んだものや見たことのないもの、様々なものがあった。既に季衣と春蘭はツリーから視線はこっちに釘付けとなっている。全くいつもどおり過ぎて苦笑するしかない。

 パンッと一刀が手を叩き、皆の注意を引く。

 

「それじゃぁさっそくクリスマスパーティを始めようか、流琉、皆にあれを配ってくれる?」

 

「はい兄様。給仕のみなさーん、よろしくお願いしますね~」

 

 その掛け声とともに普段と異なった、ひらひらの服を纏った給仕たちが飲み物を配っていく。恐らく一刀が意匠したのだろう。給仕もその服に良く似合っていて、わざわざ見繕ったのだろうか、相変わらずいい趣味している。さて、給仕にばかり目がいってしまったが、その飲み物も入った杯も見たことのないようなものだった。

 

「真桜、これは?」

 

「ええ、隊長に言われて作ったもんです。いやぁかなり苦労しましたけど、なかなかいい仕事させてもらってこっちもえらい満足でしたわ」

 

と笑顔で微笑んだ。透明で透き通った容器。それは繊細で見た目にも美しさを感じる。そしてそこに注がれた透き通った飲み物。濁ったお酒などでは決してこの美しさはでなかったであろう。

 真桜とこそこそやっていたのはこれも作っていたからか。そこそこ真桜と杯のことで盛り上がりかけたところで周囲が少しざわついていることに気づいた。何人かが机はあっても椅子がないことに疑問を抱き、少し戸惑っているようだ。

 

「おい北郷、椅子がないぞ?」

 

「ああ、できる限り自由に話したりできたほうがいいと思って立食っていう形にしたんだ。勿論疲れたら席を用意してあるから、遠慮なく言ってくれ」

 

「ふむ、そういった理由ならば従おう。だそうです華琳様、椅子はよろしいでしょうか?」

 

「ええ、必要ないわ。主催者は一刀だもの。できる限りその意向に沿いましょうか」

 

 秋蘭、そして私がそういうと戸惑っていた皆も、頷き思い思いの場所に移動する。

 

「じゃぁ主催者の俺があいさつをするよ」

 

そういってステージに一刀が上るとシンと静まり返る。意外と場慣れしているのか、皆の注目を浴びながらもその堂々とした姿は認めざる負えない。

 

「えーおっほん。皆様このたびは私主催のパーティに来ていただき・・・」

 

「ほんごぉぉぉぉぉx!そんなもんいいからさっさと始めんと斬るぞ!!」

 

「せやで、一刀。そんな似合わんことせんでええからさっさと始めようや!!」

 

春蘭や霞に続き、真桜、沙和が茶化す様に野次を入れる。桂花は一刀を殺さんばかりに睨み付け、秋蘭はやれやれと溜息を吐く。季衣がこっそりと料理に手を付けようとして流琉はあわあわと慌てそれを止めに入る。凜はその様子を見て微笑を浮かべ、風はこくり、こくりと船を浮かべる。

 

「だぁぁぁぁぁわかったよ!!いくぞっ・・・・乾杯!!」

 

「「「「乾杯!!!」」」

 

 やけくそになった一刀の声に合わせ皆が乾杯と叫ぶ。

当たりから杯と杯がぶつかる音が響く。皆の笑い声と透き通るような綺麗な音色が会場中を包み込む。

 

 一刀主催のクリスマスパーティが開催された。

 

 

 

「おい北郷。この杯、すぐに割れてしまったぞ」

 

「だぁぁこの馬鹿力!それ一つ作るのすげー苦労したんだぞ!!」

 

綺麗なものは壊れやすい、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 皆杯に注がれたお酒、そして料理に舌鼓をする。どちらもまだまだ改良の余地があるものの、その普段食べたことのない味は皆を笑顔にさせる。そしてその中にきちんと親しみがある料理が含まれているのは、初めての料理に戸惑う人たちに向けた配慮であろう。誰もが春蘭のように好奇心の赴くまま箸が動くわけではない。

 まずは第1段階は合格、といったところかしら。

 

 そして色々なところで笑い声が聞こえる。普段の業務を忘れ、気分転換ができているようだ。これまで厳しい戦いが続いている。緊張感はいつまでも続かない。だからこういった息抜きが大切なのだ。

 そして立食にしたことで普段見え隠れする壁のようなものが幾分か和らいでいるようだ。領地は広がり、人も増えた。そして人が集まれば派閥もできる。こうやって交流を深めて互を理解し合う機会を作るのはいい手である。

 

「どう、華琳。楽しんでる?」

 

「ええ、まぁまぁかしら」

 

この場に似つかわしくない思考に陥っているところに、杯を片手にやってきた一刀が私の返事を聞いて満足げに微笑み隣に並び立つ。

 

「あら、何故笑っているかしら?」

 

「そりゃ華琳が楽しんでくれてるみたいだからね。率直にひねくれてる華琳がまぁまぁでも楽しんでるって言葉が出たんだから、俺としては結構成功の方だと思っているよ」

 

「率直にひねくれてるって、あなたね・・・」

 

 それは普通に侮辱しているのではないのかしら。まぁそんな言葉も聞き流せるくらいには気分がいい。ここまででもそれなりに満足している。でもこれで全部ってわけじゃないわよね。

 

「食事をして、談笑して・・・これでクリスマスパーティは終わりかしら?」

 

「いや、まだメインイベントが残ってるよ。そのためにわざわざ天和たちに準備してもらったんだからね。もうそろそろいい頃かな」

 

そういってあたりを見渡す。最初の頃の勢いはだいぶ落ち着き、ゆったりとした空気が流れている。

 

「そこまでいうならよほどすごいんでしょうね。楽しみに待ってるわ」

 

「ああ、こっちでできる限りのものを用意したから。結構自信ありだぜ」

 

「へぇ、じゃぁもし満足できなければ罰でも与えましょうか」

 

「じゃぁ満足したらご褒美でももらおうかな」

 

一刀はじゃ、忘れるなよーと手を振って会場からいったん出て行った。その様子を見ていたのか秋蘭がそばに寄ってくる。

 

「楽しそうなご様子でしたね。何をお話していたのですか?」

 

「これから一刀が私たちをあっと驚かしてくれるそうよ」

 

「なるほど、それは楽しみですね。っと」

 

 急に明かりが消え、部屋が薄暗くなる。なるほど、この為に窓に厚めの布をかけておいたのだろう。そして若干あたりが騒がしくなるものの、直ぐに収まった。

 

「慌てずに。一刀様の指示ですので問題ありません」

 

 給仕が慌てる人々に声をかけている。この辺の手抜かりもないあたり、最初の頃の一刀に比べれば今の一刀は別人と言っても差し支えない。

 

「本当に、北郷は成長しましたね」

 

「そうね、恐ろしいくらいに」

 

 私たちと対等といえる存在に。いえ、なくてはならない存在に。

 

 ぱん、という音と共に光が灯され、人影が映し出される。それは勿論。

 

「みんな大好き天和ちゃん!」

 

「皆の妹ー地和ちゃん!」

 

「とってもかわいい人和ちゃん!」

 

「三人揃って役満しすたーず いん クリスマス公演開催しまーす!」

 

煙と光、そして爆発音とともに3人が現れる。突如現れた張三姉妹に、会場は時が止まったかのように静まり返る。まったく玉座でいったい何をやっているのかしら・・・

 

「あ、あれ?」

 

 何の反応もしめさない私たちに戸惑い、地和が一刀をチラ見する。まったく、私を驚かせたいからってこんな舞台公演のような演出をして、末端の兵士たちはきっとそのノリについていけるのでしょうけど、それなりに矜持をもってるこの場にいる将達じゃ率先して騒ごうというものは中々現れないだろう。最初からきちんと説明して登場させればこうはならなかったのにね。

 

「ホァーーー!!」

 

 一刀が盛り上げるために叫ぶ。その声と現状を見て、季衣が無邪気に続けて叫びをあげ、恥ずかしながら流琉も続く。そして最初から知っていた真桜が、恥ずかしながら凪が、二人に釣られて沙和が。ノリの良り霞も参加し、一人、また一人と事態を理解した人間が続々と叫ぶ。その叫びはやがて大きなうねりとなり、いつも通り騒がしい公演へとなっていく。

 

「「「ほ、ほ、ほ、ほぁぁぁぁーーーーーー!!!」」」

 

「今回は私たちの曲ではなくて、一刀から教わったクリスマスの曲を歌いまーす!」

 

 

「皆楽しんで行ってね!」

 

 

「それじゃすたーと!」

 

いつの間にか張三姉妹の後ろには見たことのない服を着た少女たちが並んでいた。彼女たちは見たことのないものを持ち、それを振ると金属音が鳴る。それは戦場で聞くような音ではなく、透き通るような心地よさを残すことから間違いなく楽器だった。

 その初めて聞く軽快な音と共に楽しげな歌が流れ出す。ところどころ知らない単語が歌詞に紛れているが、きっと一刀の国の言葉なのだろう。わからないなりに、それでも皆その歌を楽しげに聞き、たどたどしくも手拍子をする。

 こうゆうのをあまり好んでいない桂花でさえ、楽しげに小さく手拍子をしている。暑苦しい男たちがいるためにどうしてもきちんと聞く機会がなかったものね。

 

 祭りにふさわしい楽しげな曲が3曲歌われ、ちょっと会場中から疲労が見え始めたころ壇上に一刀が上がってきた。

 

「今回のクリスマスパーティは楽しんでもらえたかな。本来の形とはだいぶかけ離れちゃった気もするけど、皆が楽しめたのならよかったと思う。俺の国ではクリスマスは大切な人と過ごす日だ。だから皆と共に今日を過ごせたことがとても嬉しい。まだ平和な世の中じゃないし、大変なことも待っているだろう。それを乗り越えて皆でまた来年、クリスマスを過ごしたい。次で最後の曲になる。この曲は手拍子などせず、目を瞑って音を、彼女たちの歌声を楽しんでくれ。そして大切な人を思い浮かべてほしい。そうすればきっともっともっと頑張れるよ」

 

 一刀は照れながらも笑顔を浮かべた。そして手を上げると、会場中の光が消えてゆく。舞台と会場をほんのりと照らす光だけが残される。

 

 そして流れる音楽は深く深く心に響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、華琳。どうだった?」

 

 一人中庭でたたずんでいると一刀が隣にやってきた。あの歌の後お開きになったわけだが、皆なかなか会場から出て行かなかった。皆、あの歌から何かを感じたのだろう。暗闇の中でいくつものすすり泣く音が聞こえた。私も少し涙を浮かべそうになっていた。そんなわけでいち早く会場から出て中庭に出てきたという訳だ。

 

「そうね、よかったわ」

 

 とちょっとぶっきらぼうになりつつ顔をそむける。確認したわけではないが目元が赤くなっていたら恥ずかしい。

 

「そっか、よかったよかった」

 

 すぐそばで安堵する気配と共に後ろから抱きしめられる。かーっと赤くなり、恥ずかしくて下を向いてしまった。

 

「ちょっと、急になにするのよ・・・」

 

「いやぁこうしたら暖かいかなって思って」

 

 確かに雪がちらつき先ほどまでは少し肌寒かった。けれども一刀の体温、そして匂いを感じ体温がぐんぐん上昇しているのが自分でもわかる。

 

「華琳はさ、最後の歌の時誰を思い浮かべた?」

 

「・・・なんで言わなきゃならないのよ」

 

「いやぁ俺だったら嬉しいなと思って聞いてみただけ」

 

 そういわれ思わず口ごもる。お互いが沈黙し、耐えきれなくなったのか苦笑いしながら一刀が言葉を発する。

 

「・・・もしかしてほんとに俺だったりした?」

 

「そうよ、悪い!でも勘違いしないでちょうだい。あなたもいただけよ」

 

「ん、十分だよ」

 

 顔は見えないが一刀はきっと笑っているだろう。さらっとキザなセリフを吐くこの男が恨めしい。スッと一刀の抱擁が解かれる。急になくなった暖かさに少し無念を感じ、そんな風に感じている自分のことを考えますます顔を赤らめている私の首に何かが巻かれた。柔らかく、そして暖かい。そして再度一刀に後ろから抱きしめられる。

 

「これは?」

 

「クリスマスプレゼント。マフラーっていうんだ」

 

「クリスマスはわかったけどぷれぜんと?まふらーっていうのはこの首に巻かれたものの名称かしら」

 

「プレゼントは贈り物ってことさ。クリスマスのはもう一つお話があってね。クリスマスの夜にはいい子の元に紅白の衣装を着たサンタさんがプレゼントを届けに来てくれるんだ」

 

「へぇ、またおかしな人もいるものね」

 

 紅白の衣装を着たサンタさん。

 

「皆が寝静まった真夜中にね、枕元にプレゼントを置いていくんだ」

 

「・・・それは変態じゃないのかしら」

 

たぶんそんな人が現れたら絶で叩き切ってしまうわね。

 

「まぁこの世界にはサンタさんはいないだろうからね。だから代わりに俺が華琳にプレゼントを持ってきたのさ」

 

そういって首に巻かれたマフラーをぐにょぐにょと触る。

 

「といっても俺の手作りだし、編み物なんて初めてだからちょっと拙いかもしんないけど。そこのところは勘弁してな」

 

 今度は強く抱きしめてくる。

 

「大事に使わせてもらうわね。そして来年はきちんと満足できるものを持ってきなさい。中途半端なものでこの曹孟徳に献上出来ると思わないことね」

 

「ははっ、やっぱり華琳は手厳しいな」

 

 照れ隠しについついそんな風に答えてしまう素直になれない自分が恨めしい。そんな返事にも一刀は気を悪くした様子もなく、むしろ上機嫌だった。

 

「いいよ。ただし華琳がいい子にしていたらな」

 

「・・・次、子ども扱いしたら叩き斬るわ」

 

「そう、じゃぁ大人扱いしようか」

 

 そういって互いに顔を見合わせた後、私は目を瞑る。そして一刀といつもより長いキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様大丈夫でしょうか?」

 

 

そう桂花に言われ、短くない時間物思いに耽っていたことに気づく。まったく、今頃こんなことを思い出すなんてね。

 

「桂花、少しいいかしら?」

 

「はい、なんでしょうか華琳様」

 

「以前やったクリスマス、あれを大々的にやろうかと思うの。劉備や孫策も呼んでね。料理は流琉がわかるでしょうし、ツリー、だったかしら?そのへんは真桜に任せましょう。あときちんと張三姉妹も呼んでおくのよ。そうね、一刀が『なんで俺を呼ばなかったんだよ』なんて羨ましがるような、盛大なものにしましょう」

 

 

 

 

 

 

ここに一刀が残していったものがまた一つ。

 

 




間に合えば、続きを明日上げたいと思います
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