『一刀のいたクリスマス』   作:成宮

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おかえり

頭痛が痛い。

 馬鹿なことをいってるのはわかっているのだけどそれほど私は混乱している。とりあえず頭を冷やすために状況を整理したい。

 いまだ外は薄暗い。ここは私の寝室。先ほどまでクリスマスの準備の疲れかぐっすり寝ていた。その寝室の床には真っ赤な服を着て倒れている人。傍には白く、中身のない大きな袋。そして私の手には赤い何かが付いた絶。

 はて、こんな状況を以前にも体験したような。いや想像だったかもしれない。状況から判断すると私はクリスマス前日に侵入してきたやからを無意識で斬り捨てたらしい。それにしても私の寝室に侵入者を許してしまうしなんて、まったく警備は何をやっているのだろうか。

 クリスマスの準備で疲れていて、気づけなかった私がいうのも滑稽でしょうけど。

 

 とりあえずこのド派手な侵入者の顔を拝んでやろうと近づく。輪郭がはっきりしてくるにつれて、私の中の、何かが疼いた。鏡がないからわからないが、もしかしたら顔が真っ赤になっているかもしれない。もしかしたら、期待と不安が入り混じったこの感情が理解できずに戸惑う。

 ただわかるのは侵入者を見れば決着がつくってこと。

 意を決して私は近づき、突然起き上がった彼に寝台に押し倒された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、突然私たちの前から消え去ったあなたがなぜそんな恰好でここにいるのかしら?」

 

「いやぁあの時は本当に申し訳ないというか、刃、刃が当たってる当たってる!」

 

「当ててるのよ!」

 

 床に正座した一刀の首に絶を押し当てたまま思わずキレた。あれだけ私たちを悲しませておいて、全くこの男というやつは。一般的に言えばこの再会は感動的になるはずだと正直思う。

 

 運命によって分かたれた二人。けれどもその運命を跳ね返し、再度舞い降りる一刀。私は誰よりも速く駆けより、一刀に抱きつく。そして「お帰りさない」と声をかけ、唇を押し付ける。

 そんな三流小説と思われるような甘い妄想、なのになぜ、なぜ現実はこんな漫才のような再会を果たさねばならないのか!!無意識にだが愛しき人を侵入者と間違えた上に、殴り気絶させる。お帰りなさいと言おうと思ったら、なにを間違えたのか手で口を塞がれ押し倒される。そして驚き、反射的に一刀の鳩尾に膝をいれてしまい一刀悶絶、落ち着いたところで正座させて今に至る。まったくもって何やってるんだか。

 ちなみに人を呼ばなかったのは明日はクリスマスだし、その準備で皆疲れているためゆっくり眠らせてあげようという建前で、本音は一刀と二人っきりになりたいからである。

 

「ところでなんで俺蹴られたの?」

 

「・・・正当防衛よ。むしろどうして押し倒して来たりしたのよ」

 

いきなり口を塞がれ押し倒されれば、武人として反射的に反撃してしまう不可抗力だ。

 

「いやぁ、ようやく華琳の顔を見たら、つい我慢ができなくなった?」

 

「場合によっては最低ないい訳ね」

 

そんな浮気がばれた言い訳をするような情けない顔で平謝りする一刀を見て、

 

「入ってきたのが一刀だと解ってたらそんなことしなかったわよ」

 

ついついそんなことをぼそっと呟いてしまう。けれども

 

「ん?今なんて言った?」

 

「なんでもないわよ、この馬鹿」

 

相変わらず大事なところは聞き逃すんだから。

 

「色々聞きたいこともあるし、とりあえず初めから説明しなさい」

 

そうそこが本題。あの時消えたはずの一刀がなぜ再びこちらにこれたのか。

 

「うーん消えた理由は役目を終えたから・・・かな。平和をもたらす天の御使いとしてね。ここに再び来れたのは華琳がいい子にしてたからかな」

 

「あら、つまり私の日頃の行いがよかったから、というわけね。今日も愛紗にいたずらしたいところを、桂花を苛めることで我慢したし。雪蓮が勝手に私の作ったお酒を飲んだことも笑顔で対応したわ。冥琳の顔が引き攣るほどの金額を請求したけど」

 

「いやそれ全然いい子じゃないし!むしろダメな子だから!」

 

 子供扱いされて少しムッと来て言い返してしまう。でもいい子にしてようと心がけていたのは本当のこと。あとは見解の違いだ。

「相変わらず、だなぁ華琳は。まあ華琳のおかげっていうのは間違いないかな。クリスマスを天の御使いの日って広めたの華琳たちだろ?だからやってこれたってわけさ」

 

 そう私たちはクリスマスを『天の御使いの日』とした。消え去った御使いが再び現れてくれるように願いを込めて。魏には一刀が消えて喜んだ人は誰もいなかった。誰もが消えた一刀を想い、悲しんだ。

 そんな中、しばらくしてこんな噂が流れ出した。

 かつて天は私たちの願いを聞き、乱世を鎮静するために天の御使いである北郷一刀を遣わした。そしてその役目を終えて帰っていった。では私たちはもう一度天に願おう、平和な世をともに歩んでくれる天の御使いを、と。

 

「そういった一人一人の願いが積み重なって、もう一度こっちに来れることになったのさ。ま、色々大変な目にもあったけどようやく帰ってこれたよ。

 ただいま、華琳。今度はずっとそばにいるよ」

 

 あの時と変わらない笑顔。そして何より一刀が、帰ってきたと、ただいまと言ってくれたことが嬉しい。それはこちらを自分のいる場所と思ってくれているのだから。

 

「ええ、お帰りなさい一刀。私たちはあなたを待っていたわ。そして今度はずっと私の傍にいなさい」

 

 笑顔と共に一刀の胸の中に飛び込んでゆく。私は久々に感じる一刀の温もりに酔いしれた。

 

 

 

 

 

 

 

「あーサンタのお兄さんなのだぁ!」

 

夜が明け、二人そろって通路を歩いている途中、騒がしくも元気な声が響き渡る。遠くから鈴々が満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。その後ろには桃香と愛紗も見える。そして隣の一刀から「あ、しまっ」といって逃げ出そうとしたためとりあえず足を引っ掛け転ばせておいた。

 

「んにゃ?何をやっているのだ?」

 

「気にしなくていいわ。鈴々、それよりサンタのお兄さんっていうのはどういうことかしら?」

 

 一刀は今度は鈴々に向けて何やら合図を送っていた。しかし残念ならが鈴々には通じなかったようだ。

 

「昨日の夜、そこのサンタのお兄さんが鈴々の部屋に来て、お菓子をたーくさん置いていってくれたのだ」

 

にししっと笑いながら少し頬を染めて答える。その様子を見て、きっとそれ以外のこともあったんだと確信する。

 

「鈴々、急にどうしたのだ」

 

「そうだよ鈴々ちゃん、って、あ、華琳さんと昨日のサンタのお兄さん!」

 

 今度は桃香と愛紗が小走りで駆け寄ってきた。そして一刀を見つけた瞬間、桃香の顔に赤みがさし、笑顔が輝いた。一刀の手を握り、ぶんぶん振り回す。

 

「あ~、もう会えないと思ってたから。また会えて嬉しいです。サンタのお兄さん」

 

 そんな様子を見て、私と愛紗はしかめっ面になる。

 

「一刀、説明しなさい」「桃香様、この方はどなたでしょうか」

 

 気まずそうにそっぽを向いている一刀に視線が集まる。

 

「えーと、とりあえず着替えだけさせてもらえないでしょうか・・・?」

 

 誤魔化そうとする一刀に蹴りを入れておいた。

 

 

 

 

 

「つまりおにーさんは桃香様の寝室にも忍び込んでいたわけですね~」

 

 いつの間にかいた風ののんびりとした声が食堂に響き渡る。改めてそのことを認識した桃香は顔をさらに真っ赤にし、愛紗の瞳は鋭さを増す。その様子を見た鈴々ははにゃ?とよくわからない顔をし、風は目を吊り上げた。

 

「いやぁそれもこっちにくる条件だったからさ。桃香たち蜀の人たちにもプレゼントを、とね。武将の人たちはたぶん気づかれちゃうだろうから、そのほかの人たちのところは俺が配りました」

 

「では、朝起きた時にあった髪留めは?」

 

一刀を睨みながら愛紗が訪ねる。

 

「それは貂蝉・・・俺をこっちに連れてきてくれた人かな」

 

「じゃぁ鈴々は?」

 

「桃香と一緒に寝てるなんて思ってもみなかったから仕方なかったんだ」

 

「おにーさんは真名まで交換してるほど親密になってしまったんですねぇ。さすが魏の種馬と呼ばれていたことはありますね~。消えた後でも腕は衰えていないという訳ですか」

 

風の毒舌が冴えわたる。いつもとろんとした風の瞳も珍しく鋭さがあり、不機嫌を隠すこともしない。

 

「プレゼントだけ置いてさっさと行こうと思ってたんだけど、なんでか気づかれるんだよなぁ」

 

「例え武将ではなくても彼女たちは蜀の中心人物。一刀程度の隠密じゃ到底そんなことできっこなかったってことね」

 

「ちなみに、おにーさんはどなたのところへ行ったんですか?」

 

「朱里と雛里と月と詠と恋と音々と・・・あ」

 

 黙っていればいいものの、つい口が滑りやっちまったーという顔をする一刀の失言を即座に風が拾う。

 

「ちゃっかり真名まで受け取ってますね~。これは何かしら罰を与えないと・・・」

 

 そうとんとん拍子で話が進む中、おずおずと桃香が手を上げる。

 

「えっと華琳さん。できればお兄さんに酷いことをしないでくれるとうれしいかなーなんて・・・」

 

「桃香、これは私たちのことよ。口を挟まないでちょうだい」

 

そういって桃香を睨み付けたとき、不意に違和感が芽生える。普段の桃香と少しズレがある。

 

「あう・・・」

 

そういって胸に両手をあてて落ち込む桃香を見てその違和感に気づく。

 

「桃香、その首飾り・・・。昨日まではつけてなかったわよね」

 

「はい。サンタのお兄さんにもらったんです。似合ってますか?」

 

 大事そうに手を触れ、私たちによく見えるように胸をそらす。たゆんとした胸がちょっと忌々しい。しかし桃香がそういったものをつけるのは珍しい。今だ昔の習慣が抜けきらないのか質素な格好や食事を好み、麗羽とは正反対といっていい彼女が、ましてや昨日今日出会った男のプレゼントを身につけるなんて。

 まったく、風の言うとおり種馬ね。本気で手を出す前に去勢させるべきかしら。

 ピンクの花びらをモチーフとした首飾りは、ふんわりとした桃香によく似合っていた。

 

「風は何をもらったの?」

 

ついつい気になってそんなことを聞いてみる。

 

「風はですねぇ、ストールという物をもらいましたよ。軽くてとても暖かいんですよ。華琳様は・・・昨夜はお楽しみでしたね?」

 

その一言で私と一刀の顔が真っ赤になる。うまく切り返され、完全にしてやられた。平然としようとするも、一度染まった赤はなかなか抜けることは難しい。

 

「華琳様、こちらにいらしたんですか」

 

運良く、秋蘭が急ぎ足てやってきた。

 

「少しご報告したいことがありまして、大丈夫でしょうか」

 

「ええ、助かったわ秋蘭。で、その報告とは?」

 

「呉のほうで少し騒ぎが起きていまして。なんでも黄蓋殿の亡霊がでたとか化物が現れたとか」

 

 はっきりとしない内容、秋蘭も詳しくは把握していない様子だった。しかし意外なところからその答えが返ってきた。

 

「あ、それ本人だから。化物は・・・うん一応無害だから大丈夫」

 

一刀の発言にこの場の人間は声を失う。

 

「北郷、それはどういうことだ?」

 

いち早く復活した秋蘭が訪ねる。

 

「これもクリスマスプレゼントの一環・・・というか。実は祭さんを助けた人がいてね、一命とりとめてたんだ。で、ようやくよくなったから連れてきたんだけど、まさか亡霊騒ぎになっているとは思わなかったなぁ」

 

 と明るく言い放つ。

 

「ずっと心残りだったけど、うん、生きててよかったよ」

 

 一刀は最後に安堵と共にそう付け加えた。

 

「なら問題はないでしょう。パーティは夕方からだからそれまで感動の再会を味あわせてあげましょう」

 

「はい。我々は準備に取り掛かりましょう」

 

「そうゆうことでここらでお暇するわね。夕方までゆっくりしてらっしゃい」

 

右手で手を振り、左手で一刀の首根っこをつかむ。

 

「い、いってらっしゃ~い」

 

 桃香たちは何か言いたげだったが、ギロリと睨むとひきつった笑顔で送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

「そういえばあなたたちは一刀を見て驚かないのね」

 

ふと疑問を口に出す。本来ならもみくちゃにされてもおかしくないと思うが。

 

「ええ、昨晩すでにあっていますから」

 

そういって何かを取り出す。

 

「ピアス、という物だそうです。まったく深夜に贈り物とは迷惑な」

 

 蒼い宝石が秋蘭の髪とよく似合う、まさにあつらえたような装飾だった。

 

「まぁ様式美だから」

 

「いやはやまったく驚かせてくれたな北郷。私が止めなければ姉者に叩き斬られていただろう。まぁ怒り泣きという絶妙な表情の姉者も可愛かったが」

 

「そうですよ。風も夢じゃないかと思っておもわず眠っちゃったじゃないですかー。ストールも渡したら渡したですぐに次にいっちゃいますし」

 

 秋蘭と風が一刀を非難する。そういう私も1番に会いに来てくれなかったことをに少し胸が痛む。

 

「ま、でも華琳様を最優先にしたことは評価しよう」

 

「そですねー。風たちをほっぽりだして華琳様を選んだんですからねー」

 

「それはどういうことかしら?」

 

 そういいつつ頭にはある想像がよぎる。期待感で胸が熱くなっていく。

 

「えーと、そこらへんはいわないでって約束を」

 

「秋蘭いいなさい。これは命令よ」

 

「という訳だ北郷。華琳様の命令には逆らえんのでな」

 

 裏切り者ーと非難する一刀をしり目に先を促す。

 

「『寂しがり屋な女の子が待ってるから』。さすがにそれを聞いて北郷を引き留めるほど我々は野暮ではありません」

 

 それを聞いた瞬間足が止まり、ボッと顔に火がついたように赤くなる。一刀も顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 

「おい、てめぇららぶらぶしてないでさっさと動きやがれ」

 

「宝慧、野暮なことは言いっこなしですよー」

 

 風のやり取りを聞き、ようやく冷静さを取り戻す。そして恥ずかしさを振り切るように一刀の襟を引っ張り強引にこちらに顔を向かせた。

 

「一刀、あなたもクリスマスの準備を手伝いなさい。もうそれほど時間はないわよ」

 

「ああ、華琳たちがどんなクリスマスパーティを開くか期待してる」

 

 そういって一刀の手を強く握り、引っ張ってゆく。背後で秋蘭と風のクスクスと小さな笑い声が聞こえるが、あえて無視しよう。

 

 もう離さない、強く、強く手を握り締めた。

 




今振り返るとかなり恥ずかしい
本当は貂蝉、卑弥呼、華佗が大暴れしているシーンも書きたかった
祭さん帰ってきて阿鼻叫喚する呉、果たしてコメディなのかシリアスなのか。


貂蝉は確実に白いモコモコのついた真っ赤なビキニ装備だったでしょうね
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