ブラック・ブレット【蒼き閃光】   作:ウィキッド

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任務初日

「なるほど、会談ですか」

 

 天使ちゃんが言うには明日大阪エリア代表の斉武大統領と会談を行うらしい。なぜこのタイミングかはおそらく菊之丞さんがいないからだろう。

 

 

「何も起こらないと信じたいのですが何があるかわかりませんからあなたに護衛を頼みたいのです」

「それに、英雄様も一緒よ」

「里見のこと?」

 

 英雄と聞いて思いつくのはこの間東京エリアを救った里見のことだろう。ガストレアステージⅤを倒したのだから確かに心強い。

 

「まぁ凄腕の民警が二人もいれば十分よね」

「俺は凄腕じゃないけどね」

 

 凛ちゃんが何言ってんだコイツ、とでもいいたいような顔でこちらを見る。

 

「あなたが本気出せば里見ぐらい楽に倒せる戦闘力はあるでしょ」

「いや、無理無理。アイの力全力で使えば何とかなるかもしれないけど」

 

 正直勝てる気がしない。良くて引き分けだろう。

 

「謙遜も過ぎれば嫌みに聞こえるわよ。もっと自信を持ちなさいな」

 

 背中を軽くたたかれ気合を入れられる。……まぁ信頼されているのはすごくうれしいけど

 その時コンコンと軽いノックの音が聞こえた。

 

「聖天子様。入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 

 部屋の外から入ってきたのは若い長身の男性だった。

 

「水木さん。今回の護衛任務で隊長を務めていただく保脇さんです」

 

「よろしくお願いするよ、水木君」

「こちらこそ」

 

 保脇さんは笑顔でこちらに握手をもとめられる。

 

「そうそうこの後いいかな」

「はい?」

 

 

 あの後喫煙室に連れてこられた。あまり使われていないのだろうか少し汚い。聖居なのにいいのだろうか?

 そんなことを考えていると保脇さんがこちらに振り返った。

 

「単刀直入に言おう。君はこの任務から降りてくれ」

「なぜですか?」

「役者不足だからだ」

 

メガネをくいっとあげさも当然のように事実を告げた。

 

「確かに役者不足ですね。正直なぜ自分が護衛に選ばれた理由がわからないですし」

「それでは――――」

「でも、お断りします」

 

 遮るように断りを入れる。

 

「僕は金蜂凛の傀儡です。その彼女が命令したならば理由がわからなくても従います。自分に実力が無くても彼女が命令したならば自分はただ従うだけです」

 

頭をさげ謝罪する。顔は見えないが保脇さんは怒っているだろう。プライドが高そうな人だし。

 

「ですので彼女が命令したならばまだしもアナタの命令には従うことなんてありえません。すみません」

「――――それなりの礼はするが?」

「お断りします」

 

 強めに断言するとため息と共に何かを懐から出したような音が聞こえ、顔を上げるとそこには拳銃を取り出した保脇さんがいた。

 

「……残念だよ」

 

 向けられる銃口。とっさのことで反応ができない。死ぬことはないだろうが怪我はしてしまうだろう。

 俺は顔面を腕で防ごうとした瞬間カキンという音と共に保脇さんの驚く声が聞こえた。

 

「なっ!」

「これ以上やると、血を見ますよ?」

 

 遠くに弾かれる拳銃。

 そしてそれを行った人物――レンがいた。

 

「レン! いつのまに!?」

「お嬢様からもしもの時のために護衛を頼まれてましたから」

 

 飛ばされた拳銃に刺さっていたナイフを抜き取り保脇さんに刃先を向ける。

 

「それで? まだやりますか?」

 

 肌に張り付くような緊張感を感じる。その時こちらに走ってくるような音が聞こえ、扉が勢いよく開かれた。

 

「隊長! またですか!」

 

 舌打ちをしながら部屋から出て行く保脇さん。残されたのは自分と止めに入ってくれた男性のみ。レンはいつの間にか姿を消していた。

 ……沈黙が続く。

 空気を変えようと何か話そうとする。しかし相手の方から話しかけてきてくれた。

 

「今回の護衛任務副隊長の烏山と申します。先ほどは隊長が失礼を」

「なんであんなことを? さすがに発砲されそうになるとは思いませんでしたよ」

 

「実は……隊長は聖天子様に好意を抱いておりまして」

 

 なるほど。それで嫉妬していたと。しかも”また”ということは被害者は俺だけじゃないのだろう。

 ……残念だけど確か天使ちゃんには好きな人がいたはず。報われない恋をしている彼もかわいそうだがそのフォローをしている烏山さんがもっと大変そうだ。

 

 

「なんといいますか……ご苦労様です」

「……ありがとうございます」

 

 苦笑いしながら頬を掻く彼は本当に大変そうだった

 

□□□□□□

 

 学校帰りに蒼矢の家、金蜂の屋敷に寄り約束通りサラに会わせてもらうことになった。

 

「お帰りなさいませお嬢様」

 

 門をくぐり屋敷に入るとそこにはサラ、それに蒼矢。そしてメイド服を着た夏世がいた。……なぜ彼女もメイド服を着ているのだろう?

 

「……なんですか」

「いや、なんでもない!」

 

 夏世はこちらの視線に気づいたのだろうか不愉快そうな目でこちらを見る。あわてて目をそらす。

 

「お客様よ」

「いまお茶をお持ちいたしますね」

「サラ。里見は貴方に用事があるみたいだから」

「俺がやるよ」

「私も手伝います」

 

 屋敷の中に入ると大きな揺れを感じた。

 

「な、なんだ?」

「ああ気にしないで。馬鹿が馬鹿を鍛えているだけだから」

 

 そして大広間に案内された。そこには先ほど出ていったはずの二人がすでに紅茶の準備を終えて立っていた。

 

「さて、座りなさいな」

「いろいろ突っ込みたいことがあるがまぁいい。それより…………あんたの所のメイドが作られたってのは本当か?」

 

「ええ。そうですけど、それがどうかしましたか?」

 

 サラは首をかしげながら返答した。

 ……こちらとしては衝撃の事実なのだがこうも簡単に答えられてしまうと拍子抜けしてしまう。

 

「本当なのか?」

「ええ。私には多数のガストレアウイルスが体に混ざっています」

 

 数を数えるように指を折り始め、それが十を超えたあたりで数えるのをやめた。

 

「犬や猫から虫や鳥。ワニやミトコンドリアなど数多くのものが入ってますね」

 

「誰がそんな事を、いやまて」

 

 いろいろ疑問が湧くがそれよりも気になることがあった。凛たちのいうことが本当ならばどうしてもありえないことが起きている。

 

「なんであんたはガストレアになってないんだ? 浸食率は?」

 

 通常呪われた子供たちは常にガストレアウイルスによって少しずつだが浸食率が上昇続けている。それゆえに彼女たちは長く生きられることができない。

 実際にはどこまで生きられるかは個人差があるのでわからないが少なくともサラの年齢まで無事でいられることは無理なはずだ。

 

「サラがガストレアになっていないのは………」

 

 凜は紅茶を一口のみ、そして静かにカップを置き口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――偶然よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 拍子抜けしてしまい変な声が出てしまう。

 

「そんな驚いた顔しないでちょうだい。いくつか予測は立てられるけどしっかりとした理由がまだわからないの。ただ偶然、というのが一番納得できるのよ。それと誰が、と聞いたわね。残念がらあなたにはそこまでのことを教える義理はないわ」

 

 彼女は自分とあまり親しくはない。嫌われているわけでもないがそちらの事情を教えてくれるほどの中でもない。当然断られても仕方ない。

 

「こちらからも質問いいでしょうか?」

 

 サラが手を小さく上げ尋ねる。了承の意味を込め頷く。

 

「延珠ちゃんの浸食率についてです」

「延珠は……」

 

 彼女たちになら話しても大丈夫だろうと信じ話す。

 

「前回の戦いで浸食率が跳ね上がっている。いつガストレア化してもおかしくない」

 

 この事実を聞いても彼女たちは余り驚いたような顔はしていなかった。

 

「言っておくけど延寿ちゃんをサラと同じようにするのは無理よ。さっきも話したように原因がわからないのだから」

「……わかっている。でもなんでそんなことを?」

 

「いえ、ただ気になっただけです。不快な気持ちにさせてしまったのならば申し訳ございません」

 

 

「それで? 確か蒼矢から聞いた話だと延寿ちゃんに学校に通わせたいそうだけど。どうなの?」

 

「ああ、桃は普通の学校に通っているんだろ?」

 

「ええ、しかも呪われた子供ということを学園の全員が知っているわ」

 

 今日ここにきて一番の衝撃だった。思わず俺は身を乗り出す。

 

「そこに延珠を通わせたいんだが!」

「ふーん」

「いや、ふーんって」

「それで?貴方は私になにをくれるのかしら?」

「は?」

 

 凛はため息をつき冷えた目で自分を見る。

 

「里見蓮太郎。貴方は私と取引をしたいの?それともお願い?……どちらにしても私たちに何の利益もなければ断ることには変わりないけど。紅茶を飲み干したら帰りなさい。次にあなたと取引するときはマシになっていることを願うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、里見と延寿ちゃん。桃と俺、そして護衛相手である聖天子様の五人はリムジンの中にいた。

 

「斉田武彦大統領と面識あるの? 里見は」

「一応な」

「どんな人なの? 俺は昔一回あった程度だからよく覚えてないんだ」

 

「アドルフヒトラー」

「「え?」」

 

 天使ちゃんと一緒に驚きの声を上げる。

 

「冗談、ですよね」

「マジだよ。斉武はやばい。ほかのエリアの奴らは気性が荒い奴ばかりだがその中でもダントツだ。注意しとけよ」

「わ、わかりました」

 

 そんな人と会うなんて緊張がすごい。天使ちゃんはどうなんだろう?

 見てみると肩が小さく震えていた。

 

「大丈夫?」

「少し、緊張してます。ダメですね、私」

 

 震える天使ちゃんの頭をなでる。

 

「ふぇ!?」

「リラックス、リラックス」

 

 桃もこうやると落ち着くんだよね。

 整えられた髪が少し崩れるが仕方ない。彼女の緊張をほぐすためだ。

 汚れ一つない綺麗な髪。しかし少し力ないような、儚さが感じられた。

 

 

「あの、もう大丈夫です」

「ん、そう?」

 

 撫でていた手を頭から離す。震えはすでに止まっていた。これなら大丈夫だろう。

 そしてビルの中に入ろうとすると顔を赤く染めた天使ちゃんが手をぎゅっと握ってきた。

 

「私のそば、離れないでくださいね」

「はいはい」

 

 そうしてビルの中に入ると中にいたガタイの良い男がいた。おそらく斉武大統領のボディーガードの一人だろう。

「ついてきてください」

 

 彼に案内された部屋に入るとそこにはソファーに座って何かの資料を読んでいる男がいた。

 

「始めまして、聖天子様」

 

 白髪の男が振り返りソファーから立ち上がる。

 

「……隣にいるのは天童のもらわれっ子と金蜂のもらわれっ子か」

 

 獅子を思わせるような外見に鋭い眼光。高身長にスーツ姿。俺が小さいだけかもしれないがものすごい威圧感を感じる。

 

――――これが斉武宗玄。

 

 固まっている俺と天使ちゃんを置いて里見が斉竹さんに近づく。そしてにらみを効かせながら告げた。

 

「テメェも生きてたか枯れ木野郎」

「お、おい、里見」

 

 天子ちゃんに言われたばかりなのに全く気にしていないような口調に驚く。天子ちゃんをみてみろよ魚みたいに口をパクパクさせちゃってるよ。

 

「ど、どうしましょう、蒼矢君」

 

 小声で俺の服の裾をつかみながら震えた声で話しかける。

 

「……大丈夫そうですよ」

 

「あの仏像彫は元気か?」

「けっ! 知るか。もう破門されたんだからよ」

 

 なんというかあまり悪い雰囲気ではないようだ。……お互い口は悪いが。

 そのあと会談が始まった。結果を言うと……あまりいいものではなかった。

 

「それにしても――――」

 

「聖天子様だ!」

 

 励まそうと天使ちゃんに声をかけようとするとクマのぬいぐるみを抱えた金髪の少女がこちらを指さしていた。

 

「聖天子様にこんなところで会えるなんて嬉しいです!」

 

『マスター。気をつけてください。なにかおかしいです』

 

 アイの真剣な声に意識を切り替える。

 

「里見。聖天子様を車の中に」

「わかった」

 

 もしものことを考え早く移動させようと里見に伝える。

 

「ごめんんさい。そろそろ」

 

 里見がリムジンの扉を開け入るように促すのを見て天使ちゃんは少女に謝る。

 

「ええー」

「ごめんね」

 

 残念がっている少女の頭を優しくなでる。

 

「ぶー。仕方ないですね。それじゃこれもらってください!」

 

 少女はクマのぬいぐるみを天使ちゃんに押し付けて離れる。

 そして一言。

 

「――――――天国に行くお祝いです。どうぞ」

 

 ぬいぐるみの目が一瞬光る。それを見て急いで天使ちゃんに近づく。

 

「危ない!」

 

 ぬいぐるみを蹴り上げ空に飛ばし、少し乱暴だが天使ちゃんをリムジンの中に投げ入れる。

 直後辺りに爆発音が響き、火薬のにおいが漂う。

 

「くっ! 走れ!」

 

 リムジンの中には里見がいる。何かあっても大丈夫だろう。煙が晴れ辺りを見回すがそこには先ほどの少女はいなかった。

 

「何が起きた?」

 

 周りの護衛たちが天使ちゃんと里見達が乗っているリムジンの後を追うのを見る中烏山さんが無線でこちらに連絡をしてきた。

 

「襲撃です」

『状況は?』

「敵はぬいぐるみ型の爆弾をこちらに投げつけて逃亡。見た目は小さい子供でした」

 

 情報を伝えると少しの沈黙の後烏山さんは訪ねてきた。

 

『呪われた子供か?』

「わかりません。目は赤くはありませんでしたが……」

 

 呪われた子供たちだったとしても常に赤い目をしているわけではないので断定はできない。

 

『ほかに何か気になることは』

 

「えっと、僕たちの方に来ている護衛の人って本当に信用できます?」

「どういうことだ?」

「いえ、ちょっと」

「……わかった。調べておこう」

 

 アイのことをあまり話すべきではないと思ったのでどう伝えようか悩んでいたが電話の向こうからため息と共に返事が聞こえてきた。

 

「苦労をかけます」

「隊長ほどではないさ」

 

 無線を切る。 辺りにはぬいぐるみの燃えカスが漂っていた。

 

「兄さん」

「ん?」

 

 桃がなにか白い紙きれのようなものを手に持っていた。

 

「これが落ちてました」

「”There is strong shadow where there is much light.” 光が多いところでは、影も強くなる、だと?」

「確か……ゲーテの言葉でしたね。ドイツの詩人の」

「……意味が分からん」

 

 わからないが、この依頼一筋縄じゃいかないな。

 

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