仕事終わりの摩美々を待たせてしまっていたので、別の現場から超特急で車を飛ばした。
もうとっくに日は沈み、お月様が雲間に紛れる時間帯。摩美々は高校生なんだから、できるだけ早く家に帰しておかなければならない。急がねば。
想定よりも早く待ち合わせ場所に着いたものの、しっかり待たせたことには変わりないので、摩美々は少しばかり不機嫌になっているかもしれない。
ざっと辺りを見回すまでもなく、対象は見つかった。特徴的な紫色のもこもこツーサイドアップに、後ろから声をかける。
「摩美々」
返事がない。もしや不機嫌度数が上限を突破してしまったのかと思ったが、どうやら違うらしい。純粋に俺の存在に気づいていないようだ。聞こえてもいなかったから、耳にイヤホンでも着けてるのかもな。
本来なら驚かせないためにも、相手の正面に回った上で声をかけるのが思いやりに溢れた模範的行為なのだが、そうしなかったのは普段より受けている些細なイタズラへの意趣返しという側面が多分に含まれていた。
「まーみみ」
声音が不恰好にうわずった。そのぶん、摩美々の肩に置こうとした手も不自然にうわずってしまう。よって、触れるはずのなかった部位に触れてしまった。
まとめられた紫色のわたあめの内側で、ひっそりと息をひそめるように隠れていた耳に引っかかった人差し指の腹は、慣性にしたがって耳輪を撫で下ろす。一拍を置いて、肩に手が着地。
「ひっ」
甲高く短い悲鳴が聞こえた気がする。
誰の声だろう。
あぁ。
摩美々か。
しかし意識がはっきりしない。
右手、人差し指の先が、燃えるような熱を帯びている。親指とこすり合わせてみても、熱は冷めない。むしろ感触が鮮明に蘇ってくる。
摩美々の右耳。肌とも唇とも違う、柔らかさの中に芯を感じさせる触り心地だった。すべすべしていて、なまあたたかくて、丸みを帯びていて、なぞるだけで、なぞるだけで、なぞるだけで……なんだろう。
「あのー、プロデューサー……そういうイタズラは感心しないんですケドー」
目の前で摩美々が、むくれた顔で不満を唱えている。
「あぁ……」
「わかってるんですかー?」
「あぁ、わかってるよ。悪かった。今度からはちゃんと前から声をかけるよ」
「ならいいですケド」
会話を重ねるにつれて、感覚が正常に戻っていく。ということはさっきまでの俺は、正気ではなかったのだろうか。わからない。
もう一度、摩美々の耳に触れてしまったらならば、俺は一体全体どうなってしまうのだろうか。
知りたいような、知りたくないような気がした。
車に向かう途中、摩美々はしきりに紫色のもふもふを触っていた。両側でなく、右側ばかりを。
もしかして、摩美々が気にしているのは髪ではなくて……。
夜の闇の中では、髪の隙間からチラリと覗く楕円の色づきは判別できない。
でも、どうしてだろう。
冷めきったはずの熱が、右手の人差し指にぽうっと灯っていた。
†
翌日。
「あっ、すみません。右手が滑っちゃいましたぁ」
「……っ」
「今度は左手がぁ〜」
「くっ……」
「とどめはこれに決めました〜」
「やめて……もう、やめてくれ……」
「ふぅ〜〜」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
あの手この手で両耳をいじられる俺の姿が、あったとかなかったとか。
摩美々ッ! 次は俺のターンだからなッッ!! 覚悟しておけよッッッ!!!
(おしまい)
水着まみみ。。。