おシャニの盛り合わせ   作:ドレモネード

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はぴばふゆこ





誕生日なのに縛られてしまった黛冬優子を祝う会

 

「なんだこれは」

 他社での打ち合わせを済ませ、事務所に戻ってきたプロデューサーが目にしたのは、黒いアイマスクで視界をふさがれて、手足も縛られ、おまけにボールギャグを噛まされて身動きも物言いも許されず、もがもがともがく黛冬優子の姿だった。せめてもの救いは、床に転がされず、パイプ椅子に座らせられているところか。ただ、その椅子も冬優子の動きによりガタガタと硬質な音を立てており、かえってプロデューサーに物々しい雰囲気を伝える要因になっていた。

「これは……いったいなんのつもりだ。なぁ、あさひ」

 酷い仕打ちを受けている冬優子の傍ら、ぼけっと突っ立っているアイドルの姿がひとつ。芹沢あさひ。日頃から冬優子に最も世話になっているアイドルであり、感謝こそすれど、こんな状態の彼女を放っておくなんて所業は許されないはずだ。あさひの瞳は無機質な宝石のごとく透けて輝いているが、いつものように何を考えているのかは不透明だった。

「こうすれば、喜ぶと思ったんす」

「喜ぶ? 誰が?」

「もちろん、冬優子ちゃんっす」

「……そうか」

 とりあえず返答をしながらも、プロデューサーの脳裏は疑問で満ちていた。

(拘束されて冬優子が喜ぶだって? なんの冗談だそれは。もし本当に嬉々として縛られたのなら、冬優子はとんだドM人間ってことになるわけだが、おそらくその可能性はない。なぜなら、当の本人は、今こうして身をよじり抵抗の意を示している。きっと、あさひの早とちりや思考の異次元的飛躍があったせいで、こんな事態に陥ったんだな)

 どんな理由があろうが、女の子が縛られているのを黙って見ているのは良心が痛む。プロデューサーは、冬優子とあさひに歩み寄った。

「とりあえずは……あさひ、冬優子の拘束を解くが、構わないよな」

「あ、だめっす」

 思いのほか真剣味を帯びた声に咎められて、プロデューサーはたたらを踏んだ。次いであさひによって告げられた内容に、彼は驚きのあまりポカンと口を開く。よほど意表を突かれたらしい。しかしすぐに彼は、心の中の葛藤を押し殺すように唇を引き結ぶと、力強く頷いた。

「わかった。あさひに従うよ。それで、俺はどうすればいいんだ?」

 

 

 ♡

 

 

 ふゆが馬鹿だった。

 あの何考えてんだかわかんない馬鹿あさひも馬鹿だけど、ふゆはもっと馬鹿。

 どうして、のこのことあさひに言われるがままに、不自然に用意されていたパイプ椅子に座って、両手を差し出してしまったのよ。

 部屋の中にふゆとあさひだけじゃなく、摩美々ちゃんと灯織ちゃんがいたから油断していたわ。他人の目があれば、そう酷い目には合わないだろうって。まあ他ユニットの子がいたから、なりふり構わず抵抗ができなかったわけだけど。

 その結果が、これよ。

 視界は真っ暗。身動きは取れず、耳栓をはめられているから、音も聞こえない。感じるのは人の気配と、いろんな物が混じったかすかな匂いだけ。あろうことか口にもなにか着けられてるみたいで、喋れないしシンプルにキツイ。

 ていうかなんで、摩美々ちゃんも灯織ちゃんも止めてくれなかったの。耳栓を入れられる直前、手足を縛られながらパニクってる最中に「本当にこんなことをしていいんでしょうか?」って灯織ちゃんの不安げな声と、「まぁ、なるようになるでしょー」って間延びした摩美々ちゃんの声は聞こえていたから、まるっきりふゆの惨状を無視していたはずではないと思う。だからこそ、未だに縛られている理由がわからなかった。普通、止めるでしょ。人が、人を拘束してるのよ。サイコパスかあんたらは。

 そして元凶はもっと何を考えているのか不明なのよね。

 今のところ移動も、命令も、なにもない。

 ただ、じっとさせられているだけ。

 あの子のことだから、なにしでかすか予測できなくて怖い。痛いのだけは嫌よ。やっぱびっくりするのも嫌だし、つーかこの状況がまず嫌。ほどけ、さっさとほどきなさいよ馬鹿あさひ。

「――ッ」

 他ユニットの子たちがいる可能性も踏まえて、『ほどいて、あさひちゃん』と言ったつもりだった。でも忘れていた。口に何かを噛まされているから、意味のある言葉は喋れない。

「……」

 もう、どうしろっていうのよ。

 拘束が解かれるまで、このまま待ってろというの?

 絶対、ヤなんだけど。

 トイレ行きたくなったら困るしヤバイし大惨事だし。

 放せ! 放して! 放しなさいよ!

 怒りを込めて、身をよじる。けど、お腹と太ももあたりを椅子とくくりつけられていて、両足も動かせないから、下手に動くと横転してしまう恐れが。椅子と一緒に地べたに這いつくばったまま、暗闇の中で過ごすのは今よりもっと嫌だ。でも、このままなのも嫌だ。

 というわけで叫んだ。「――ッ‼︎」って、思い切り。言葉にならない声だけど、意思くらいは感じてくれるでしょ。あと単にうるさいだろうし。

 ――ひっ⁉︎

 右耳が、人の手にさわられた。背中の底から、ぞわぞわと粟立つ波がのぼってきて、思わず体が震える。

 なに? なんなの?

 身構えていると、今度は左耳にも似たような感覚。ぞわぞわぞわぞわ。鳥肌が立ちそう。気持ちいいのか気持ち悪いのかわかんないけど、とにかく気味が悪い。

 ゴソゴソと大きな音が、耳栓を通じて脳へダイレクトに響く。ふゆの耳がというより、耳栓が触られている……? あっ、これってもしかして……と予感した瞬間、聴力が復帰した。

 耳栓が外されたみたい。

 ようやく外の状況が少しでも知れる。わずかに安堵したのも束の間、憎きヤツの呑気な声が聞こえた。

「冬優子ちゃん、大丈夫っすか?」

「あぃぉーぅいゃあいあぉ」

 大丈夫じゃないわよ。そう言ったふゆの肉声は、意味なき音に変換された。腹立つわね。

「あっはは、冬優子ちゃん、なに言ってるのか全然わからないっす」

「ウーッ!」

 こいつ腹立つ‼︎ 誰のせいでこうなってんのか分かってんの? あっ、そういやこの部屋、あさひ以外にも誰かいるかもしれないんだった。摩美々ちゃんと灯織ちゃんは言わずもがな、他に誰か入ってきていてもおかしくない。誰か入ってきてるなら、その誰かさんはいち早くふゆを解放してほしいんだけどね。

「あ、安心していいっすよ。いまこの部屋にはわたしたち以外、誰もいないっすから」

「……」

 それのどこに安心できる要素があるのよ、というツッコミはさておき……そう、誰もいないのね。誰もいない。……誰もいない? えぇ……あの二人、ふゆのこの状況を把握していながら、部屋を出て行ったってワケ? えぇ……さすがに、ちょっとソレは……えぇ……? いたずら好きの摩美々ちゃんはまだしも、あの真面目が服を着て歩いているような灯織ちゃんすらも……どうしたっていうのよ……。

「たぶんそろそろプロデューサーさんが帰ってくるから、それまで冬優子ちゃんは待ってて欲しいっす」

 ズボッ。

 前触れがなかったから驚いたけど、どうやらまた耳栓を両耳に入れられたっぽい。

 ……ん?

 いや違う。

 なんだかさっきとは、耳の穴に触れる温度が違う。少し冷たい。ただ、すごくしっくりきている。

 ――テテテテテテテテ♬

「っ⁉︎」

 大音量が、鼓膜を殴ってきた。心臓が大きく跳ねて、一瞬、頭が真っ白になったけど、徐々に意識は回復。

 ――テテテテテテテテ♬

 それと同時、耳に差し込まれたイヤホンから流れる音楽に、どこか懐かしさを感じ始めた。なーんか、聴いたことあるというか、最近もどこかで聴いたようなテンポ感というか、いつもこの寒い時期に入ると聴いているような雰囲気というか……

 流れ始めてからおよそ二十秒が経って、あ、歌い出すわねと直感したふゆの感性は間違っておらず、男性の歌声が現れた。もちろん依然、爆音で。

 ――ラァストクリスマス、アゲイビュマイハァ♬

 そうそう、この曲この曲。名曲よね。クリスマスシーズンのど定番。ラストクリスマス。確か、ワム!ってどっか外国のグループの。

 あと二十日も経てば、その日なのよね……。今年は仕事入ってたはずだし、家族でクリスマスってわけにはいかないだろうけど……ってしみじみしてる場合じゃないわ。なにこれ、耳栓代わりのつもり? にしてはうるさすぎるし、頭が痛くなりそう。

 ――フフフフフン、フフフフ〜ン♬

 って、あれ? 鼻歌?

 なにこれ、こんな歌だっけ。違うわよね。ていうか歌声も違う気がする。素人みが強い。一般人のカラオケ並みか、あるいはさらに気が抜けている。それこそ鼻歌みたい。

 ――フ〜フーン、フフフフフーン♬

 これまんま素人の鼻歌じゃない。なんなのこれ。

 ――ま〜だ〜、越えられなァ〜い、キミはいまでもスペシャル♬

 いやなんでここだけエグザイル版なのよ。

 しかもサビを歌いきったところで、急に音楽止まったし。ぶつ切り感、満載。……まったく。

 なによこれ。

 ――テテテテテテテテ♬

 また!?

 またイントロから流れんの!?

 ――テテテテテテテテ♬

 なにが悲しくて、知らない男の歌声を二度も聴かなきゃならんのよ。

 ――ラァストクリスマス、アゲイビュマイハァ♬

 案の定、失望は裏切られなかった。さっきと全く同じ、微妙なハーモニーが右耳から左耳から注ぎ込まれる。耳栓突っ込まれて無音で過ごすよりは幾分かマシだけど、マシってだけで辛くないわけではない。いったいいつまでこの謎曲を聴かせられるのか。

 だいたい、なんで耳を塞がれてんの。聞かれてはまずいことでも、いま部屋の中でやってんの? でも部屋にはふゆとあさひしかいないみたいだし。もう、なんもわかんないわね。

 ズボッ。

 両耳に開放感が訪れた。

「どうっすか? プロデューサーさんの歌声は」

「モガッ?」

 は? プロデューサー?

 プロデューサーの歌声ですって?

「今の曲、こないだ仕事中に口ずさんでたプロデューサーさんの歌声を使って、合成したものなんすよ」

 言われてみると確かに、あいつの声によく似ていたような気がする。もう一回聴かなきゃ確証は持てないけど。ていうかなにげに中々の技術力ね。誰が合成なんて手の込んだことやったのかしら。それ以前に、まずなんであいつの歌声を録音しようって発想に至ったのよ。

「冬優子ちゃんが喜ぶと思って録ってみたんすけど、どうっすかね? なんて聞いても、今の冬優子ちゃんには答えられないっすけどね、あはは」

 あはは、じゃないわよ。

 なにが面白いの。

 しかもあいつの歌声で喜ぶなんて子、いるわけないでしょ。歌、そんな上手くなかったし。もちろん、ふゆも聴かされて別に嬉しくなんてなかった。もう一度できるだけ入念に聴いて、どこがどう下手くそなのか分析くらいはしてやってもいいけど。

 ズボッ。

 またなんかはめられた。

 感触的には、先程と同じイヤホンっぽい。

 ということはつまり、

 ――テテテテテテテテ♬

 うんうん、そうそう、これこれ…………じゃないわよ!

 なにが悲しくて、あいつの歌声をエンドレスリピートしなきゃなんないの?

 

 

 ♡

 

 

 あー、もう……うんざりよ。

 正直に言うわ。

 たしかにあいつの歌声なら聴いてみたいって思いが、ふゆの中でなかったとは断言できない。

 でもね、だからといって。

 同じフレーズ、同じ音程、同じ発声の曲を何度も聴いてれば当然、飽きるし退屈だし苦痛なの。音楽に限らず、どれほどすぐれた対象でも延々と摂取していれば、いつかは飽きがくる。いや俺は私は違う、好きなものだったら無限に浴びられるって人も中に入るかもしれない。でもふゆには無理。

 ――テテテテテテテテ♬

 ねぇ、腐るほど聴いたイントロがまたもや流れ出したわよ。

 曲自体に罪はないのに、今後、この曲を街中で聴くたびに、今回の件を思い出して気が滅入ってしまいそう。

 ――ま〜だ〜、越えられなァ〜い、キミはいまでもスペシャル♬

 はいはいスペシャルスペシャル。

 どんだけふゆが特別な存在なのよ。ヴェルタースオリジナルかっての。

 ――テテテテテテテテ♬

 体感で何百回目かのイントロが流れ出した直後、

「っ⁉︎」

 新たな人の気配を察した。

 視界は閉ざされているから、もちろん誰かはわからない。ただ、少なくとも現状は打開できるはず。

 というわけで、横転事故を起こさない程度に身体をよじって椅子を揺らす。声は上げなかった。きっとみっともないうめき声しか出せないだろうし、それを他のアイドルやプロデューサーに聞かせるのは抵抗があった。

 縛られているだけなのに? 縛られているから?

 とにかく疲れる。精神的にも、体力的にも。動かずじっとしていれば、体力ゲージは減らないと分かっている。しかしチャンスがあれば手を伸ばしてしまうのは人間のサガってもの。

 アイマスクの外で何が繰り広げられているのか判然としないけど、動かずにはいられなかった。

 ……けど、ふゆの願いも叶わず、一向に進展はない。

 なんなのよ。

 入室してきたどなたかも、あさひとグルってわけ? それともふゆの哀れな姿を目の当たりにして、いい気味だなとでも思ってんのかしら。その疑念はすぐに晴れる。ふゆの目から見て、この事務所に、そんな性根の腐った子はいないと踏んでいるから。ふゆ以外には。

 そんで曲がうるさい。

 ずーっと流れてるもんだからそのうち慣れるかと楽観してたのが甘かった。ぜんぜん慣れないし、うるさいものはうるさい。

 さっさと外しなさいよ、馬鹿あさひ。

 スポッ。

 あ、外れた。なんか外し方が、前の二回よりすこし優しいような気がした。

「冬優子、大丈夫か?」

 予想以上に至近距離からぶつけられた声に、驚いた。しかもそれが予想外の人物によるもので、さらに驚いた。

 待ちに待っ……ってないプロデューサーだ。

「ムーッ!」

 別にムー大陸がどうのと訴えたわけじゃない。あんたそこに居るんなら、喋りかけてないでさっさとふゆを助けなさいよ!と言外に伝えたつもりだ。

 ところがどっこい。耳元の気配は、離れようとしない。

「その態勢は辛いと思うし、一刻も早く解放してほしい気持ちも痛いほどわかるんだが、もう少しだけ待ってくれないか。悪いようにはしないから」

「――っ」

 悪いようにはしないって、もうこの時点で悪いんだけど? なにいってんのこいつ。あと耳元で囁くの早くやめてほしい。息がかかったり音の振動に耳がやられてんのか、身体の底からなんか湧き上がる感覚がするのよ。すんごい、こそばゆい。不覚にも声が漏れそうになる。なにこれ。

「本当にすまない、冬優子」

「ッ!」

 やばい。ハ行は特にやばい。発音されるだけで、息が耳にかかってくる。

「冬優子?」

「……っ」

「冬優子、大丈夫か?」

「――ッ」

 ぞくぞくぞくぞく。全身の皮膚という皮膚どころか、皮膚の裏側にすら鳥肌がスタンディングオベーション。そんなの錯覚だってわかってる。でもそれくらい、奇妙で、どこか心地いいような、いやこいつの声聞いて心地いいとか認めるのもなんかヤなんだけど、

「冬優子?」

「――んッ⁉︎」

 あーもうッ! 耳元で喋んな!!

「すまん、こんな近くで喋られて良い気はしないよな。ただ、どうしてもってあさひが言うから」

 ……は?

「そうなんすよ。プロデューサーさんにそうしてもらった方が、冬優子ちゃんが喜ぶと思って」

 ……ハァ???

 なにいってんのあの子???

「もっと冬優子ちゃんに喜んでもらうために、準備ができるまで、プロデューサーさんには頑張ってもらうっすからね」

「ちょっ、あさひちゃん、それ言っちゃまずいって〜」

 え? 愛依? 愛依の声よね今の。それに二人の会話……なにか準備でもしてんのかしら。考えられる可能性としては――

「あー、それでな、冬優子」

「っ!」

 もうッ‼︎‼︎

 せっかく考え事しようとしてんのに、あんたが耳元で声出すものだから全然集中できないじゃない! なんなのよ! 喋るなら喋るで、もっとはっきり言いなさいよ! もしくは本気で囁くか、どちらかにしなさ……いやダメよ、そんなのダメ。まず、ふゆの耳をいじめないでほしい。ダメになる。

「冬優子、聞いてくれるか」

 あ〜〜〜、もう…………

 ダメになるって言ってんのに。

「こんな状況で言うことでもないと思うんだが」

 しかもこいつの声音、こんな時に限って過去一、二を争うくらいに真剣味を帯びているし。なんなのよ、なに言おうとしてんのよ。

「冬優子はよくやってくれてると思う」

「……」

「仕事にもレッスンにも熱心で、仕事相手やユニットメンバーのみならず、その場にいる人への気配りを忘れない」

「……」

 急に褒められたんだけど。

「いつもいつも、本当に良くやってくれてる。一度は、そうだな……」

 声のトーンが落ちた。次にどんな内容が告げられるのか、頭は理解していた。

「くじけてしまったこともあったかもしれない。でも、あの時だって、俺はきっと冬優子が戻ってくるって信じてた」

「……」

 思い出す。

 ふゆが無責任にすべてを投げ出して、本心をさらけ出してしまった時の、プロデューサーの顔を。

 結局諦めきれなくて事務所に戻ってきたふゆを見て、ほころんだプロデューサーの顔を。

 もう一度、アイドルをやりたい。そう告げたふゆを、迷わず迎え入れてくれたあいつの顔を。

「初めて会った時から、感じてたんだ。この子は必ず、すごいアイドルになるって」

 そんなわけない。あの頃のふゆには、なんにもなくて、なんにもないのに自分から変わろうとはしていなくて。

「冬優子はそんなわけないって思うだろうけど、俺はそうは思わなかったんだ。あの時の冬優子の目を見たら、わかったよ。この子なら絶対にやれるって。トップを目指せるって。上手く言えないけど、力があった。何者かになりたいって、強く願う力が。だから引き寄せられたんだろうな。偶然にも俺の仕事は、冬優子みたいに何かになりたいと願う子と一緒に頑張ることだったから」

「……」

 願いを叶えてやるのが俺の仕事だって言わないのが、こいつらしい。一緒に頑張ることって、なによ。まったく。子どもじゃ、ないんだから。なによ、もう。

「だからな、冬優子」

 ――。

「出会ってくれて、ありがとう」

 あぁ、だめだ。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

 だからダメだって言ったのに。

「そして……」

 こんなクサイことばっか言われたら、誰だって――

「誕生日おめでとう、冬優子」

 ………………え?

 

 一気に身体が軽くなった。

 

 パパパパパパパパァン!

 

 最初、四方八方から銃で撃たれたのかと思った。

 けど違う。

 すごい量のひらひらが、ふゆにまとわりついてる。

 

『冬優子ちゃん、誕生日おめでと〜〜!!!』

 

「え? ……え? …………あれ?」

 いつのまにか喋れるようになってる。

 視界も開けている。

 じゃなくて、あれ?

 なに?

 すごい人数の、肉声が聞こえたわよ。

 というか、なんて?

 誕生日?

 は?

 ……は?

「……………………は?」

「あれ、冬優子ちゃん……びっくりしすぎて、おかしくなっちゃったっすか?」

「てか冬優子ちゃん、なんか泣いてる感じじゃない? だいじょぶ?」

「なっ、泣いてなんかないから! これは……そう! 汗だから!」

 あいつのせいでちょっと泣いちゃったとか死んでも認めない。

 あさひと愛依から話しかけられたおかげで、ほんの少し冷静になれた。

 いまさっきの口調、みんなに見せてるふゆからは少し崩れちゃってたけど、問題ないわよね? 大声じゃなかったし、そこまで聞かれてまずい発言じゃなかったし。

「……ぁ」

 それよりも。

「……みんな」

 みんながいた。事務所のみんな。どのユニットも、どのメンバーも、はづきさんだって社長だって、そしてもちろん、あさひや愛依、あいつだって。

 ふゆのために。

 ふゆのためだけに。

 集まって、笑ってくれている。

「……ありがと」

 か細く、可愛くもない声が無意識のうちにこぼれていた。みんなにはきっと聞こえていないからもう一度、今度は底抜けに明るく、世界でいちばん愛らしい声で。

「みなさん、ふゆのために、今日は本当にありがとうございます!」

 涙に濡れた口角も、しっかり上げた。

「ふゆ、とっても嬉しいです!」

 

 

 *

 

 

「あさひ、愛依、そこに正座」

「え〜」

「ちょっ冬優子ちゃん、それはちょっと」

「えーじゃない文句も言わない、いいから正座! わかってんのよ、首謀者はあんたら二人だって」

「む、だったらなおさら怒られる意味がわかんないっす」

「あんたねぇ……いくらサプライズにしても、何も言われず急に長時間縛られて、怒らない人なんているわけないでしょうが!」

「わたしは怒らないっすけど」

「ふゆは怒ってるの!」

「あ〜、あさひちゃん、ここは冬優子ちゃんの言う通りにしといた方がいいって」

「納得がいかないっす」

「あさひちゃんマジで頼むから、ね?」

「……むー、わかったっす」

「なんでふゆが言っても聞かないのに、愛依が言った途端、正座すんのよあんた。……それと、そこで見てるプロデューサー。そう、あんたよあんた。あんたも……まぁ、正座しろとまでは言わないけど、ほぼ同罪だからね。縛られてるふゆを、放置したんだから。あまつさえあんなこと急に言ってきて――」

「冬優子ちゃん泣いてたっすもんね」

「泣いてない!」

「プロデューサー、どんなこと言って冬優子ちゃん泣かせたワケ?」

「泣いてないって言ってんでしょうが! あ〜もう、あんたもニヤニヤこっち見てる暇があるんなら、ふゆのために無駄に高い茶葉でも買ってきなさいよ! 甘さ控えめのケーキによく合うやつね! わかった⁉︎」

 

 

(おしまい)

 

 

 





ふゆこはぴば
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