転生した理由は明らかだった。
いつものように容赦無く訪れた朝、いつものように駅のホームで電車を待っていた時、ふと思ってしまったのだ。
あ、ここで一歩踏み出せば、もうあそこに行かなくて済むかも、と。
まるで転がり落ちるかのように、僕は気づけばホームの下の線路で莠コ髢薙□縺」縺溽黄になっていた。
そして、僕は次の瞬間、見知らぬ家の見知らぬ家族に囲まれ、見知らぬ場所で目が覚めた。
それは傍から見れば、”ゾルディック家の第一子の誕生の瞬間”だったようだが、僕がそれを知るのは、これよりずっと後、物心が追いついた後……よりも更に後になってからだ。
物心が着いた、僕が”僕”としてキチンと自分を認識出来るようになって初めて目にしたのは、牢獄だった。
体中がギシギシと軋む。あまりに身体が不自由だったので、鎖にでも繋がれているのかと思ったほどだったが、どうやら単にダメージを受けすぎて、というか、死にかけて、動けなくなっているだけに過ぎないようだ。
目覚めてすぐ「ああ、ここが地獄なんだ」と思ってしまったのも、無理はないと思う。
そうして最早痛みすら感じない、ただただ不自由だけが与えられた時間が過ぎていき、声すら出せないと知り、どうしようも無いと諦め、何分かした後になって、牢獄の前に誰かが来た。
それは逆光で顔やどんな姿をしているかがハッキリとは見えなかったものの、とてつもない偉丈夫で、ウェーブのかかった銀色に光る長い髪と、微かに、鋭く、冷たい目線だけが見て取れた。
見てすぐ、”鬼”だ、と僕は思った。
その鬼こそが僕の父親である、シルバ=ゾルディックであると知ったのは、更に更に後になってからだ。
鬼は自分で動くに動けない僕の右足をむんずと掴み上げると、僕は鬼の手にぶらぶらと宙ぶらりん状態になり、鬼はそのまま僕を牢獄からどこか別の場所へと、移動し始めた。
床に鼻血やら涙やらが廊下にポツポツと跡を作るのを見ながら、僕は、これからこの鬼に一体何をされるのか、という恐怖に怯えて、だが動く気配の無い身体を必死になって動かそうとして……何もできず、ただ恐怖を受け入れた。
そして、実際に鬼が僕に対して行った行為は、僕が考えていた”いかにも鬼がやりそうな残虐そうな事”の、何万倍も残虐で、熾烈で、苛烈であった。
僕がこの時行われた
最初に、あまりの痛みに鈍化した痛覚を”無理矢理活性化させる”劇薬を注射され、直後身体を襲った壮絶な痛みに、絶叫を上げようとした所までは覚えている。
そして、その状態でいくつかの拷問が行われる。
爪を剥がされたりだとか、指を折られたりだとか、毒を盛られたりだとか、焼かれたりだとか……。
そういうのを、何度も、何度も……。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もなんどもなんどもなんどもなんどもナンドモナンドモナンドモナンドモナンドデモ
そして最後には生前でも見た事が無い程巨大なムカデのような多足類の何かを口から突っ込まれ、体内でそれがウゾウゾと蠢き、ブチブチと噛みちぎって行く感触を、これでもかと味わいながら……腹を突き破ったソイツがぼちゃりと血溜まりに落ちたのを最後に、
それから何日?何時間……?かに分けて、何度も拷問を受けた。
僕はそれを地獄の拷問か何かだと思い込んでいたから……泣いて謝った。
死んで楽になろうとした事。
色々と、置いてきてしまった事。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。許して下さい。許せ。許せよ。もう許してくれ。許してくれ。
それから何度か同じような拷問を受けながら、僕は痛みから逃げるように意識を手放そうとして、空虚になった頭でふと「なんでこんな目に遭っているんだ?」と、漠然とした疑問が湧いてきた。
激痛に耐えながら……僕は自分を苦しめている鬼を見た。
彼は何だか……何故かは良く分からないが、僕を拷問して、とても……それはそれは
僕がこうして拷問されている事を、ではなく、それによって得られる、あるいは理解出来る何かに対して喜んでいるようだ、と気付いたのは、五回目になる拷問になってからだ。
どうしてそんなに l
……ああ、違う、そうじゃない。それは僕がこうなっている理由じゃない。そんなの、どうだっていい。
僕がこうなっている、理由、なんだ?
何が理由でこんな酷い目に。
あ、そういや前に読んだ漫画でこう言ってたっけな……。
なんだっけ、こういうの……確か……そうだ、アレだ。
「この世の全ての不利益は当人の能力不足。」
これは、
彼は、伝説の暗殺一家と名高いゾルディック家の一員であるという特殊な生まれとはまた別に……それこそ、天が彼に与えたとしか考えられないような、天性の才能を持っていた。
「なんだ……!?このオーラは!?」
「トルイ様!?」
彼がまだ、物心もついていない幼子だった頃、彼の祖父ゼノと父シルバ、そして彼の警護にあたっていた使用人達は、彼の身体から絶えず溢れる
オーラとは、通常の人間には見えない……念能力と呼ばれる特殊な技術を身につけていなければ、感知することも視覚する事も出来ないエネルギーのようなもの。
本来彼のような幼子が念能力を修めているハズも無い。ただただ体から空気に溶けるように放出されていくだけで留めることすら不可能なはずである。
それが、いつからか、黒々としたオーラを発するようになっていたのだ。
まるで死神でも憑いているのかと思うほどに真っ黒なのに、悪意や殺意といったものは一切乗っていない、乗っているはずもない、ただただ真っ黒なだけのオーラがただの幼子から発せられていたのである。
初めは何らかの念能力による攻撃を疑った程だ。なにせ暗殺一家であるからして、命を狙われる何て事は往々にしてありえるどころか日常茶飯事であったし、ゾルディック家に新たな暗殺者の一族の血を宿す者が増える事を望まない者も居るだろう。
だが誰がどう見たって、オーラの発生源はトルイだった。
流石のゾルディック家の一族と言えど、これには大いに動揺した。
オーラが黒い。それだけならまだしも、量が異常であった。
まだトテトテ、とぎこちなさが残る歩き方しか出来ないような幼子、体重にして15.7kg、たったそれだけの体積でありながら、並みの念能力者に迫ろうかという程の、驚愕という言葉でも足りない程のオーラの総量。
祖父と父は、それを見て、トルイには天性の殺しの才能がある、と、当時たった二歳の子供に期待を寄せたが、肝心のトルイはと言えば、なんと自分の醜悪なオーラで自分自身を傷つけてしまう、という一歩間違えれば死ぬかもしれなかった事故を起こしてしまう。
生命のエネルギーたるオーラは、ただ体から流れ出ていくだけのそれに物理的な攻撃力なんてものは一切無い。
だが、オーラに何らかの意思を乗せて発したりするだけで、常人ならば十分に恐怖を与えることが可能……そしてトルイの場合、そのオーラによって自分が傷つけられたと錯覚し、思い込み、それが刷り込みのような効果で本当にダメージを受けてしまうのだろう、というものだった。
これが成熟し精神力のある者であれば、流石に話は別だっただろうが……。
彼のオーラはどんな念能力者が見ても異常な程ドス黒く、そんなものが常時彼の体から放出されているとしたら、そして彼がまだ自我も芽生えきっていない幼子であれば、こうなってしまうのも仕方ない事かもしれない。
ゾルディック家はすぐに彼のために医師を手配し、緊急的に処置を施した。
一応死を回避することには成功し、最終的に、体のありとあらゆる場所に青あざのような物ができたり、ドス黒い血が鼻や耳から吹き出したりと、見るも無残な姿になっていた。
彼が物心ついた時に身体が言うことを聞かなかった理由である。
彼が牢獄だと思ったそれは、ゾルディック家が彼のために用意した特製の檻であり、本来は誰か、あるいは魔獣等を収容する為に作られた物であり、業者からも「暗殺一家と呼ばれる君達が何に使うつもりなんだ?」と首を傾げられてしまった。
だが、無論ただの檻ではない。檻には“オーラを沈静化させる”という神字が書かれており、対念能力者用に開発された物であり、並の念能力者であればこの中では殆ど無力と化してしまうという優れモノだ。
……まぁゾルディック家がターゲットとするような強者達には、100歩譲って拘束に成功しこの中に入れたとしてもあまり効果は成さないだろう、という程度の脆弱なものでしかないのだが。
ともかく、この中ならば自分のオーラで傷つけられることは無いだろう、とトルイをこの檻の中に入れた。すると、数分したあたりでトルイの気配が段々薄れていき、オーラも小さく萎んでいく。
シルバは、まさか死んだのかと不安に思いながら檻の中に入り、ちゃんと鼓動しているか見るつもりで、彼の体を見た。
外からだと遮光でよく見えなかったが……驚いたことに、先程まで彼の体を傷つけていたオーラが、今度は彼の身体の傷を癒しているではないか。
念能力には、【絶】という精孔を閉じ、オーラが全く出ていない状態にする事で、回復力を上げたり、疲労を回復を早める効果があるが、ここまで極端に早いのは……初めてではないにしろ、この歳で言えば異常なのは変わりなかった。
トルイはオーラの総量が凄まじいだけではなく、適応力にも優れているのでは?とシルバは推測し……そして、「こいつなら俺の後を継げる優秀な暗殺者にも成れるかもしれない」等と考えてしまったのだ。
それこそが、トルイにとっての悲劇の始まりであった。
まず、オーラで傷の治りが早くなるようなので、オーラの溢れ出す穴「精孔」を刺激する”劇薬”を使用し、強引に怪我を早く治すことにした。
無論そんな事をすれば事故でズタズタになった身体はせっかく治り始めた所もズタズタになる訳だが、これは一刻も早く彼が彼自身のオーラに
それだけの適応力が彼にはあるはずだ、とも考え、そして幸いにも、あるいは不幸にも、シルバの思惑通り、彼の体は最初こそズタズタになったが、最終的には元通りにしてみせた。
シルバはそんな彼を見ながら、ある決断を下す。
「トルイに暗殺者としての
それは聞く人が聞けばなんて残酷なことを言うんだ、と捉えられる、当時二歳九ヶ月程度の幼子に下された、あまりにも残酷過ぎる決定だった。
……いや、元々こうなる予定ではあったのだ。
ゾルディック家の一員として生まれたのだから、それ相応の訓練をする必要があるが、それを始めるのは5~7歳程度から。あまりにも苛烈な訓練に、体が耐え切る事が出来ないという理由である。
だが彼のように優れた回復力を持っているなら話は別だ。
これほどの才能ならば早いうちに。まだ自我も芽生えきっていない今のうちに。まだ発芽さえしていない天才の種に暗殺者としての素養と教育を施せば、一般的に少年と呼ばれる年代ぐらいになれば、即戦力に成り得るかもしれない。
……最後のは流石に誇張し過ぎかもしれないが、誰だって我が子が可愛い。可愛くて仕方がない。だから突然魅せられた驚くべき才能にシルバが自分でも驚く程酔ってしまうのも無理はない。
全てはトルイが立派な暗殺者になるために。
一枚一枚爪を引き剥がすのも。ざらざらした砂鉄を強引に塗りこんで肌をボロボロにするのも。毒虫を体の中にブチ込むのも。電流を流すのも。
最初のは痛みに対する訓練、次に皮膚を丈夫にする為、次に毒に対する耐性を得るため、次に電流に対する耐性を得る為。
「これにも耐え切るとは……フフ、我が息子ながら先が楽しみだよ」
他にも様々な……シルバが思いつく限りの方法でトルイを虐め抜いた。
それも、全てはトルイが立派な暗殺者になるため。
伝説の暗殺一家と名高いゾルディック家の一族、シルバがトルイに与えた、あまりにも歪んだ愛の形である。
彼がその地獄から解放されるのは、彼が7歳の時だった。
解放されるといっても訓練が終わったというわけではない。
だが、トルイ自身の様子が始めの頃とはだいぶ変わってきたのだ。
まず、度重なる訓練によって得た彼の腕力を前に、最早鎖は意味を成さないので外してある。代わりに、逆らうと神経が鋭敏になり痛覚が普段の何倍以上にも感じられるようになる劇薬が注射される、彼を飼い慣らす為の首輪がつけてある。
それも初めはただの毒薬だったり神経毒だったりしたのだが……適応して耐性を得てしまいあまり効かなくなってしまったので、これが36種類目の劇薬である。
また、今回のこれによっては、彼の神経が薬を使っていない状態でも、常人の何倍も鋭敏な感覚を手に入れることになったが、まぁ、これも彼の才能が成す業だろう。
そして、精神的にもだいぶこの訓練に慣れてきた。
というのも、掃除をしていた使用人の話しぶりから、自分に地獄を見せている鬼が自分の父親であると知ったりだとか、自分達がゾルディック家という名の暗殺一家であること。
その訓練のために、あらゆる方法で死ななくなるための物であるだとか、そしてそんなゾルディック家の中でも、”ここまでやって”死なない自分には、才能というものがあるらしい、と知ったためである。
更に、この地獄を受け続けた事で、人間離れしたスペックを手に入れたのも事実。
意図的に絶叫を上げないようにしたことで喉が治って話せるようになってからは「この世の全ての不利益は当人の能力不足だ」が口癖の彼にとってはこれは喜ばしい事だった。
強ければ、奪われない。侵されず冒されず犯される事がなくなる。
その為なら、いくらか方法が歪んでいようと構わない。
彼はそう思い込む事で、日々の過酷な訓練から精神を護る事に成功していた。
「さあ、今日も始めるぞ、トルイ」
「……はい!お父様!」
そして、そういった事情とは別に、父に自分に対して悪意があるわけではないと知ってからは、いくらか気分が楽になった。
まあ何度か趣向を変えて精神的に追い詰められたりもしたけれど、それも自分の精神力を強くするためなんだと知ったら、耐え切ることができた。
……まぁ、もう
7歳でここまで仕上がったのは、一重にシルバの訓練の技術とトルイの並々ならぬ才能と執念が見せた業だった。
そして更に3年が経過し、彼が10歳になると、ようやく訓練も終盤に差し掛かり、シルバが彼の幼い頃から懸念していた、あの黒いオーラを自分のものにさせるため、本格的に念能力の修行を始めることとなった。
まずは、オーラを出し入れできるようにならなければいけないのだが……方法は基本的に2つある。
まず、他の念能力者によってオーラをぶつけられる事で、体の精孔を刺激し、強引に目覚めさせるという方法。
これは場合によっては死ぬ危険性があるし、特にトルイのような特殊なオーラを持った者である場合その危険性は倍以上に跳ね上がる。
ここまできて事故死はシルバ的にも父親的にも勘弁して欲しい所だ。
次に、とにかく座禅や瞑想でオーラの流れを体感しながらゆっくりと開花していくという方法だ。これならば、基本的に危険らしい危険は少ないと言えるだろう。
そうして、オーラがどういうものであるか、といった基本的な知識と、お前に限ってはオーラ自体が少し特殊である為後者の方法をとるといった事を伝え、珍しく、数年ぶりに彼の首輪を外した。
首輪が外され自由になったトルイは、逃げ出すことを考えもせず、大人しく念能力を手に入れるために修行することにした。
とはいえ、どんなに才能があったとしても、ものの数日で身につけられるようなものではない。長ければ数年かかっても身につけられないようなものも存在する。
まぁ彼の才能を鑑みるに一ヶ月もかからないだろう、とシルバは考え、ひとまずは、決して音の届くことのない防音状態かつ光の届くことのない密室で彼を放置することにした。
本当の本当に珍しく、訓練で不快感を感じる事も無かったので、トルイは瞑想しながら少しだけ現状について考えることにした。
まずここはどこか。
ゾルディック家と呼ばれる伝説の暗殺一家である。
自分は誰か。
トルイと呼ばれる上記の一族の一員である。
そして日本という国で生まれそして自殺した男が転生した姿でもある。
……この世界は一体何なんだ?
ゾルディック家、シルバ、そして念能力、オーラ。
……今更だが……本当に、本当の本当に今更だが、僕は、ひょっとして……【HUNTER×HUNTER】の世界に居る、のでは……?
トルイは脳内に電流が走った時よりも衝撃を受けた。
何故こんなことも忘れていたのか……?いや、まぁそれだけ訓練が壮絶で、こんな事を考える余裕すら無かったのだから、仕方ない。
しかし、そうだと分かると、色々と思い出してきた。
自分が何故死んだのかとか、前世に残してきたものだとか……ここがHUNTER×HUNTERの世界だとすると、自分は転生者という名の異物であり、トルイという名前から察するに、カルトの後に生まれた末っ子か……あるいはイルミの前に生まれた長男なのかもしれない、と推測した。*1
そして、転生する直前に起こったあの……
……自称、“超次元生命体”との対談も、思い出した。
はっきり言って、もう何年も前の話なのでよく覚えてはいない。
だが、唯一覚えていることがあるとすれば、“彼らから見て、僕は物語の登場人物の一人でしかないという事”そして、“彼らから見て、物語とは作品であり、いくらでも複製出来、違う展開を楽しんだりすることもある”という事。
そして、今僕はソイツの意思で、“もし****という青年が最期に死んだ後、H×Hの世界に転生していたら”という二次創作の世界に居るのだという事。
あと、なにげなく言ってたけど、特典をあげる、とも言っていた。
なんだったか……確か……そうだ。
……“君が好きだったあの漫画に登場するアレを念能力として開花させる”という特典。
……待て、僕が好きだった漫画って、まさ
「何、トルイが……!?」
トルイが部屋に閉じ込もって瞑想をするようになってから早くも10日が経過したある日、トルイが突然部屋のドアを蹴破り、使用人の一人の腕を喰い千切りそうになったという連絡がシルバの元に入った。
どんなに彼が天才であったとしても、念能力の習得には流石にまだまだ掛かるだろう、とタカをくくっていた。
使用人は突然ドアを蹴破って出て来たトルイに驚いて怯んでいる所を一瞬で襲いかかれ、片腕を諦めるかもしれない程の重傷を負ったが、それでもなんとか腕は繋がったそうだ。
いや、今回の件で重要なのはそこではない。
使用人の話だと、トルイの体から、見た事も無い赤黒く蠢く触手のような物が生えており、それがドス黒く攻撃的なオーラを纏っていたという。
それを攻撃ではなく跳躍やバネのように使い高速で移動したかと思うと、それを恐るべき速さで突き刺そうとして来たとの事。それを避けた所を狙われ、噛み付かれたとの事だった。
これが本当なら、トルイはこの歳にして、そしてこの短期間で、”水見式”というオーラの系統を判別する修行も、その過程に存在する基礎的なオーラの運用法を知る為の修行、四大行も、その応用をもスキップして、なんらかの”発”を得た事になる。
もはや、天才がどうのという騒ぎの話ではない。
……化物だ。
トルイが入っていた部屋にたどり着いたシルバ=ゾルディックは第一にそう思った。
部屋の中は暗闇に包まれており、廊下から入る僅かな光でうっすらと全貌が覗けるかどうか。
そして、部屋の中央には、血溜まりと、うねる赤黒い触手。そして、最早濃すぎて本人のシルエットを認識出来ない程になってしまっているドス黒いオーラ。
くちゃっ、くちゃ、と水っぽい音が部屋から漏れており、嗅ぎなれた血潮の匂いが充満していた。使用人との戦闘跡がまだ鮮明に残っている。
「……トルイ?」
シルバは、感じたことのない程の“何か理解できないもの”に満ちたオーラを受けながら……冷や汗を流し、そう部屋の中央に陣取る何かに声をかけた。……返事なんて帰ってこなければいいとすら思った。
これが息子じゃなければ、シルバは躊躇なく彼を殺せたかもしれなかった。
「お、父様……?」
だが返事は思いのほかちゃんと返ってきた。
オーラと暗さのせいでいまいち良くわからなかったがどうやら今は背を向けている状態らしい。
「トルイ……なのか……?」
暗闇の中、ゆっくりと振り返るトルイ。その口元には使用人の肉が咥えられ、口からは血が滴っており、シャツは血に汚れ、腰の部分からは例の赤黒い触手が生えており……そして、冷たくシルバを見据えるトルイの目は、まるで、“人間以外の何か”かのように、赤く光り、そして黒かった。
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能力名:『
系統:特質系(強化系・具現化系・変化系の要素を持つ)
【東京喰種】に登場する“喰種”をモデルにした能力。
・身体能力(筋力を始めとし、感覚器官や耐久力)が爆発的に上昇する。
・赫子(鱗赫)が出せるようになり、自由自在に操れる。
・この世界において殆ど意味は無いが、戦闘時や興奮時に色彩(黒目)が赤くなり、白目が黒くなる。
・血肉を貪る事で、相手のオーラの一部を自分の物に出来る。(使い切りの貯蓄ではなく、これによって自身のオーラの上限値を底上げする事も可能であるが、蟻の王に比べるとその速度には雲泥の差がある)
制約
・この念能力は“常に発動”しており、“解除不可能”である。
・空腹感が人の血肉(念能力者かどうかは問わない)でしか満たせなくなり、味覚も変化する。
誓約
・数週間ないし一ヶ月食事を摂らなかった場合、重篤な飢餓状態に陥り激しい頭痛や幻覚、判断力の低下を伴うようになる。
・普通の食事を強引に摂ると激しい吐き気に襲われる他、一時的に著しく弱体化する。
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……多分、続かない。