サルヴァドール防衛戦もいよいよ山場を迎えようとしていた。
奮戦を続けるアムールトラと仲間たちの運命はいかに。
「伏せるっスよシベリアン!」
後ろから飛んできたスパイダーの指示に従って地面にしゃがみこんだ私が見たのは、クズリというたった一人の強者が多数の弱者をいたぶるように破壊する一方的な戦いだった。
「・・・・・・てめえは今から俺の”味方”な」
クズリは受け止めた幼体の足をがっちりと脇に抱え直すと、地に響くような唸り声を上げながら、自身よりも何倍も大きな敵の体を垂直に持ち上げた。そのまま投げ飛ばすのかと思いきや、あろうことか腕に抱えたまま振り回し始めた。
数メートルはある体が、フレンズの中でも小柄なクズリにされるがまま、猛烈な勢いで風を切り、立ち並ぶ建物や辺りに群がる他の幼体など、近くのあらゆる物に激しく叩きつけられた。
そこら中の建物の外壁に叩き付けられ、何体もの仲間たちと激突させられ・・・・・・そんな風に扱われているうちに、幼体は全身バラバラに千切れ飛んでしまった。
「チッ、つかえねー」
先だっての攻撃で重なるように転倒してもがいている近くの幼体たちに向かって、歓喜の表情を浮かべるクズリが突っ込んでいき、一匹の腹の上に飛び乗ると、力任せに核を引っこ抜いた。
クズリの凶行を後目に、立ち直った幼体のうちの一匹が再び彼女に向かって攻撃を繰り出すが、さっきと同じように彼女の”味方”にされてしまうのだった。彼女の近くにある物のすべてが、なすすべなく破壊されていく。物言わぬ幼体たちが悲鳴を上げながら絶命していくように見えた。
クズリの戦いぶりは過去に一度見ているけど、あの時よりもさらに容赦なく圧倒的だった。
サルヴァドールに来る道中、輸送機の中で聞いた“敵じゃないことを神に感謝したくなる”という評判はまさしくその通りだった。神っていうのが何なのかは知らないけど。
クズリと私は、とことん違う。
空手という私なりの戦い方を身に着けた今、あらためてそう思うのだった。
私は「先手なし」だけど、クズリは「先手必勝」だ。先手を打ち続けて、さらにその中に新しい先手を作り出すように戦っている。彼女の中には後手に回るという選択肢はない。
「あ? 何のつもりだ?」
クズリによってみるみる数を減らされているとはいえ、まだ半数以上も残っていた幼体たちだったが、彼らは予想だにしない動きを見せ始めた。
生き残った個体が一斉に後ろに下がり始めたのだ。
前進から退却へ、彼らすべての意志が、あたかも同じタイミングで切り替わったように見える。
それを見たクズリの表情が、歓喜から憤怒へと切り替わる。
「つまんねえことしやがる!」
怒気をみなぎらせるクズリが後退していく幼体たちを追いかけ、最後尾にいる個体に飛びついて転ばせ、その腹に腕を突き入れて核をえぐり取った。だがその間にも他の個体にどんどん距離をはなされていくのだった。
恵まれた体躯の幼体たちに逃げの一手を打たれてしまうと、クズリほどの実力をもってしてもどうにもできない様子だった。
彼女は自身の手の中にある、持ち主を失った核を、腹立ちまぎれに握り潰した。
来た道以外を建物に囲まれた路地裏の行き止まりが、元の寒々しいまでの静寂を取り戻すのに時間はかからなかった。私とクズリとスパイダーの3人がそこにぽつんと取り残されている。
「・・・・・・何が起こっていやがる?」と、追撃をあきらめたクズリが静かにつぶやいた。自身から噴き出す烈火のごとき怒りを引っ込めて、早くも冷静さを取り戻した様子だ。
「セルリアンが戦いから逃げるなんてあり得ねえ。奴らは自分の命を惜しまねえんだからな」
私はスパイダーの方を見てみたが、やはり彼女も何が起こったかわからないといった様子でかぶりを振っていた。私もクズリもスパイダーも状況が飲み込めずに立ち尽くしていた。
だが、予想だにしない声が静寂を切り裂いて、私たち3人の耳朶を打った。
≪・・・・・・こちらメガバット。皆様、聞こえていて?≫
右耳の奥から、落ち着き払った涼やかなメガバットの声が聞こえてきた。
私は思わず右耳に手を当ててその声を聞き漏らすまいと耳を澄ませた。クズリもスパイダーも同じようなポーズを取っている。
私たち3人だけじゃない。きっとこの戦場にいるフレンズ全員が息を呑んで彼女の声を聞いているだろう。
≪たったいまハーベストマン本体が動き始めましたわ≫
メガバットが現在の状況を語り始めた。
それまで高層ビルを押しのけるように屹立していたハーベストマンの巨体が、ゆっくりと地面を揺るがすように移動し始めたという。
爆薬が仕掛けられているという、サルヴァドール随一の高層ビル群へと真っ直ぐに進んでいるとのことだ。
それはつまり、作戦が成功したことを意味する。
このまま行けばハーベストマンは爆薬で破壊された高層ビルの下敷きになって仕留められるだろう、とメガバットは述べた。
フレンズ部隊が幼体を倒し続けたことによって、ハーベストマンは“ガス欠”となった。それを裏付けるように、新たな幼体の発生も止んでいるとのことだ。
≪さて、皆様に新しい指示をお出ししますわね≫
メガバットが私たちに告げた指示はふたつあった。
ひとつめは”これ以上は深追いしないこと”
そしてもうひとつは”ハーベストマンの動きを把握出来る場所で待機すること”だった。
フレンズ部隊には爆薬の正確な加害範囲が知らされていないため、無暗に深追いしたら巻き添えを食ってしまう可能性があるのだという。だから今は離れた場所で成り行きを見届けるのが最善であろう、と。
「ふええ、なんとか今日も生き延びたっスよ~!」
メガバットの指示を聞いて、スパイダーは安堵の表情を浮かべて胸をなで下ろした。
それとは対照的に、クズリは明らかに不満そうな顔で歯噛みしている。そしていよいよ気持ちが抑えきれなくなった様子で、舌打ち混じりに、離れた場所にいるメガバットへと質問を投げかけた。
「幼体どもはどうすんだ? アイツら逃げていきやがったぜ?」
≪それは私のほうでも把握していましてよ。けれども今は放っておいて問題ありませんわ。本体さえ倒せれば、幼体たちのことは後でどうとでもなりますもの≫
「ふーん、あっそ・・・・・・」
クズリはなおも不満を見せていたが、いったん折れたようであった。
私たち3人はメガバットの指示通りに、薄暗く狭い路地裏を出て、このあたりで一番高い建物の屋上に身を潜めるために、立ち並ぶカラフルな建物の壁を登っていた。
先陣を切るのはスパイダーだ。
クモザルのフレンズである彼女にとって、壁を登ることなど朝飯前といった様子で、ビルの壁にあるわずかな取っ掛かりに器用に手足や尻尾を引っ掛けて、地面を走るのと大差ない様子で進んでいる。
そしてクズリもスパイダーのすぐ後ろに問題なく付いて行っている。
彼女には取っ掛かりすらも必要ではなく、硬いコンクリートの壁に5本の指を深々とめり込ませて力づくでよじ登っていた。
セルリアンの核を軽々と引っこ抜くほどの凄まじい握力を持っているからこそ出来る芸当なのだろう。
「待ってくれ!」と私が呼びかけると、クズリとスパイダーはやれやれといった感じで動きを止めて、高い所で私を待ってくれていた。
「さっさと来いよウスノロ・タイガーちゃん」
「まあまあ、アタシ達と同じ速さで登るなんて無理っスよ」
私は壁をよじ登ることが出来なかった。
というのも、私は高い所が苦手なんだ。それはつい何時間か前、輸送機から落とされた時に自覚したことだった。足が地面を離れているのは恐ろしくて耐えられない。
野生のトラなら木登りも得意だって聞いたことがあるけど、私にはとても無理だ。
なので代わりにジャンプして、低い建物の屋上とか、あるいは建物の壁面からせり出した非常階段とか、そういった足場になりそうな場所を探して飛び移っていくことにした。
幸いジャンプだけならひと跳び数十メートルは跳べるので、何とか置いてけぼりにならずに済みそうだ。
そんなこんなで、何度か2人に待ってもらいながらも、この辺りで一番高い建物の屋上にようやくたどり着いた。
辺りを一望できる高さの屋上が、太陽が西に沈もうとする直前の鮮やかなオレンジ色の光に覆われていた。私たち3人は屋上の隅まで駆け寄って、ビルの下に広がる街の風景を眺めた。
南国サルヴァドールの濃い夕焼けが、天を衝くような高層ビルを等しく照らし出し、すべてを光と影の中に切り取っていく。電力が吸い尽くされて明かりが灯らなくなった都市は、まるで漆黒のジャングルのようであった。
光と影が、一枚の完成された絵みたいな調和した静けさを描いている。
だが、たったひとつの異常な存在が、その調和を台無しにしていた。高層ビルの影と遜色ない大きさを持つ巨大な異形が、それらの中を掻き分けるようにして動いているのが見える。
それが前に進むたびに、地鳴りのような腹の底に響く轟音が、何秒か遅れてこっちにもやってくるのを感じる。
「・・・・・・やっぱさ、あんなのアタシたちじゃどうしようもないっスよね?」と、スパイダーが絶句交じりに感想をこぼした。
「さっさと爆弾でやられちゃえっスよ、もう帰りたいっス」
「おいおい、早速気ィ抜いてんのかよ? まったく図太いエテ公だぜ」
クズリは皮肉交じりの笑みを浮かべながらスパイダーにやんわり釘を刺した。
意外なことに、2人の間にはそれなり以上の信頼関係が築かれている様子だった。スパイダーはクズリの性格に引き気味だけど、たった一人で囮役を引き受けることに何のためらいもなかったのは、相方を心から信じているからだろう。
そしてクズリも、あきらかにスパイダーに一目置いている様子だ。私は彼女の意外な一面を見たような気持ちになった。
私のイメージするクズリは、自分の力のみを信じ、他人のことなど一切あてにしない・・・・・・そんな孤高の価値観を持って生きていると思っていたけど、別にそういうわけでもないんだな。
________ゴウンッ・・・・・・ゴウンッ・・・・・・
再び街中を突き進む巨大な影に視線を戻す。
ハーベストマンは、さっきまで垂直に屹立していたはずの巨体を、やや前のめりに傾けて前進していた。
あのタケノコみたいな円錐形の体が地面をまっすぐに移動しているなんて、実際に目の当たりにしたところで、非現実でバカバカしい光景だった。
奴の根本には、一体どんな足が生えていて、どんな風に歩を進めているのかだろうか? 夕暮れ時の薄暗闇と、立ち並ぶビルの影に隠されていて視認することは叶わない。
≪皆さま見ていまして? まもなく爆薬のスイッチが押されますわ≫
その時を待っていたかのように、メガバットの知らせが飛んで来た。
≪私の方で合図いたしますわね。起爆まで残り30秒前、29、28・・・・・・≫
ハーベストマンの進行方向は、開けた幅広い大通りだった。
奴の左右にある超高層ビル群は、建てられている間隔が空いていくのと反比例するようにして、ひとつひとつの建物の高さが格段に高くなっている。
ついさっきまでは建物にも劣らない大きさで存在感を示していたハーベストマンの影が、その中にすっぽりと隠れていた。
≪10秒前、9、8、7、6・・・・・・≫
メガバットの声が”0”を告げようとするや否や、白くするどい閃光が瞬いた。恐ろしくなるぐらい眩しい光が、爆心地から離れている私の視界をも一瞬奪い去る。
クズリとスパイダーも手で顔を覆いながら身を伏せていた。
________ガカァッッ!! ズドォォォォンッッ!!
だが光は一瞬で過ぎ去った。
少し遅れてから、赤々とした爆炎が広範囲から飛び出し、複数の超高層ビルの外壁を打ち砕いた。
爆破されたのはビルの中腹から頂上にかけて上1/3程度の範囲に過ぎず、根本部分へのダメージはほとんどなかったので、ビルそのものの倒壊は起こらなかった。
ジフィ大佐が言っていた通り、この爆破はビルの上部を破壊して、落下していく巨大な構造物の破片をハーベストマンにぶつけるためのものだった。
________ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
炎をまとった無数の巨大な瓦礫が、雪崩のような勢いと密度で落下していった。
轟音が絶えることなく鳴り響き、それと共に立ち登った噴煙が、辺りの様子をよくわからなくしていた。
「す、すっげえっ! これで決まりっスよ!」とスパイダーが小躍りして喜んでいる。
そんなスパイダーを後目に、私とクズリは爆破された超高層ビル群の方をじっと見つめている。
今は煙によって様子がよく分からないが、あの煙の向こうでハーベストマンが消滅するのを確認するまでは戦いは終わりじゃない。安心するのはまだ早いんだ。
無限にも思えるほどに長かったが、実際にはごく短い時間が経つと、立ち込める噴煙が消え去って、爆心地があらわになった。
すっかりリラックスしてその場に座り込んでいたスパイダーの表情が一瞬で青ざめる。
「ウソっす・・・こんなの絶対にあり得ないっスよ!」
ハーベストマンは健在だった。
今までは超高層ビル群に隠れていたが、爆破によって小さくなった複数のビルの合間から、円錐形の巨体が見えるのだった。
「なんで無傷っス!? あれだけの瓦礫を浴びたくせに!」
「スパイダー、あれを見てくれ」
「な、なんスか? シベリアン」
私はスパイダーに指さしながら、もう一度目を凝らしてハーベストマンの体を見つめた。夕日に照らされた体表のあちこちから、かぼそい光の粒子が漏れ出ているのがわかる。
その全身に、多少なりとも傷を負った証だ。
「攻撃はちゃんと効いてるよ・・・・・・でも、致命傷じゃなかった。ハーベストマンの体内にある核には届かなかったんだ」
「・・・・・・足りてねえんだよ。”距離”が」
クズリが割って入るように語り始めた。彼女はスパイダーとは打って変わって、これを待ち望んでいたと言わんばかりの生き生きした顔をしている。
「威力を出すために一番大事なのは距離だぜ? ビルも高いが、奴も高い。高い所から高い所に物を落としたって、大した威力は出ねえだろ」
「クズリの言う通りだよ。でも、倒せなかった理由はもう一個あると思う」
「あ? 聞かせろよアムールトラ」
「ハーベストマンのあの体、あの形・・・・・・上に行くほど細く尖っていて、表面が丸いだろう? きっとあの形が、落ちてきた瓦礫の衝撃を斜めに逸らしてしまうんだ。体の上の方で衝撃を逸らしてしまっているから、下の方には届かないんだよ」
「ふーん、いい指摘じゃん。ともかく、奴に上からの攻撃は効きそうにもねえわな。さて、それも踏まえて・・・・・・」
クズリはひとりでに納得したようにうなずくと、不意に私から目を逸らし、右耳に手を当てながら「で、次はどうすんだ?」と押し殺すような声で呟いた。
彼女が話しかけている相手は私ではなく、耳の中から指示を飛ばしているメガバットだ。
≪ハーベストマンは進行方向を変えていませんわ。このまま行けば都市の最深部に辿り着きます。今の爆破を数段上回る量の爆薬が、サルヴァドールで一番高い建物に仕掛けられているのだとか・・・・・・おそらく、今の爆破よりも、それが本丸なのでしょうね≫
「はははっ、また爆薬かよ」と、笑い声を出したクズリだったが、その顔は全然笑っていなかった。
「やめさせろ」
≪あら? よく聞こえませんでしたわ≫
「爆破をやめさせろって言ったんだよ。ハーベストマンには通用しないって今のでわかっただろうが・・・・・・あの髭面の大佐に掛け合って来いよ、アンタなら出来んだろメガバット」
≪やめさせて、どういたしますの?≫
「オレたち51人で奴をブチ殺そうぜ? アンタの命令がありゃすぐだよ」
クズリの意図は結局そこだった。
自分の手でセルリアンを始末したいという、個人的な執着に任せて物を言っているようにしか思えない。
だけど、確かにクズリの言う通り、このまま爆薬に頼って傍観していてもハーベストマンを倒せるとは思えない。
彼女の思惑は別にしても、私たちにはまだやるべきことがあるんじゃないかと考えざるを得なかった。
≪無理ですわ。私たちフレンズはCフォースにとって爆薬と同じ・・・・・・思い通りに動く兵器でしかないんですのよ? 兵器の物言いを彼らが聞くとお思いで?≫
「知らねえよ・・・・・・確かなのは、今のままじゃ負けるってことさ。大佐どもがそれに気付いてねえんなら、そんなアホの命令はもう聞きたくねえな」
≪ウルヴァリン、あなたいったい何を?≫
「もうアンタに話すことねえわ」
クズリは一方的にメガバットとの会話を打ち切ると、己の右耳をほじくり始めた。そして小石のような粒を取り出して、握り潰してしまった。
あれと同じものが私の耳にも入っている。メガバットの声を遠くから私たちに届ける小型通信機だ。
「ウルヴァリン、やっぱやるつもりなんスね?」
「いいかげん覚悟決めろやスパイダー? で、アムールトラ、仕方がないから、てめえも仲間に入れてやるよ・・・・・・今からオレたちだけでハーベストマンを殺りに行こうぜ?」
私は思わず耳を疑った。
クズリのその天井知らずの自信は一体どこから湧いてきているのだろう? そしてスパイダーは例によって、すでに何かを了承しているような感じだ。
「クズリ、何か作戦があるのか? 君が強いのはわかるけど、力任せで何とかなる相手じゃ」
「んな事ぁわかってんだよ」
クズリは苛立ちながら己の耳元をトントンと叩いて見せた。作戦を聞かせてやるから早く通信機を捨てろと、合図しているのだ。
スパイダーもあきらめたような表情で通信機を取り出し、ビルの下に放り投げていた。
通信機を捨てるということは、メガバットや、さらにその上にいるCフォースの指揮から外れるということだ。
もう誰も助けてくれなくなる。何が起こっても自分たちで何とかするしかない。
「どうした? 早くしろよ。言っとくが、怖けりゃ逃げてもいいんだぜ? もともと俺とスパイダーの2人だけでやろうとしてたことだからな」
「いや・・・・・・私も行く」
私はクズリを見つめたまま、勢いよく通信機を右耳から引き抜き、そのまま真横に放った。通信機が地面に落ちる微かな音が少し遅れて聞こえた。
そう、私はたったひとつのことを成すためにここにいる。
やるかやらないか、進むか止まるか。ふたつにひとつと言うのなら、どちらを選ぶかは迷うまでもない。
・・・・・・クズリは私が答えを示したのを見て、我が意を得たり、と得意げな笑みを浮かべた。
「ま、作戦っていうほどのものでもないんだけどな。スパイダーの”力”でハーベストマンの懐に飛び込んで、俺の”力”で止めを刺す・・・・・・それだけだ」
「何だい、その力って?」
「俺たちフレンズの力っていったら、アレしかねえだろ。野生解放だよ」
野生解放のことなら、東京でヒグラシ所長に教えてもらったことがある。
セルリアンとの戦闘経験が豊富なフレンズに時折見られる眼球の発光現象・・・・・・それが起こったフレンズは、短時間だけ力もスピードも普段の倍以上になり、戦闘能力が桁違いに上がると言われている。
もちろん私はまだ出来ない。
「・・・・・・いくら野生解放したって、結局力押しじゃないか。奴に通用するとは思えないよ」
「てめえは知らねえか? ごくひと握りのフレンズは、野生解放の先にあるすげえ力を持ってんだよ。何がすげえって、普通じゃあり得ないことが出来るんだ」
「普通じゃあり得ない? いったいどういうことなんだ?」
「それを今から見せてやるよ」
私は彼女が話していることがさっぱりわからなくて、にわかに不安になってきた。
クズリやスパイダーの大真面目な態度から、言っていることがデタラメじゃないことはわかるが、その言葉だけで何かを察しろと言われても、どだい無理がある。
「さーて、スパイダー。てめえの大一番だぜ? バッチリ決めろよな?」
「・・・・・・わ、わかってるっスよ」
クズリとスパイダーが駆け寄って、お互いの手を取り合った。そしてスパイダーは空いているもう片方の手を私に向けてきた。
「シベリアンもアタシの手を握るっスよ」
「あ、ああ」
半ばヤケクソみたいな気持ちのまま、スパイダーの手を取った。
サルヴァドールの空はすでに日が暮れており、今いるビルの屋上にも薄暗闇が立ち込めている。そんな中で、クズリが彼女の右手を掴み、左手を私が掴んで、三角形を作るように立ち並んでいる。
スパイダーは先ほどから目を閉じて深く精神を集中させている。私はそれを間近で首をかしげながら覗き込んだ。よく見ると、彼女の唇がわずかに動いて、何かをブツブツとつぶやいていた。
________死にたくない、生きたい。死にたくない、生きたい。死にたくない・・・・・・
謎の文言を口にし始めたスパイダーに思わず戦慄した。そして、何か尋常ではないような気迫が少しずつ彼女に宿っていくのがわかる。
「生きたいッッ!」
やがてスパイダー大声を出しながら、興奮気味に眼を見開いた。
彼女の目は、彼女自身の体よりも鮮やかな、まばゆく輝く金色の光を宿していた。あたたかく、それでいて力強い閃光が、薄暗い屋上を照らしている。
「奴の懐に飛び込むっス!」
スパイダーは眼下に望むビル街の向こうにいるハーベストマンを睨み付けながら叫んだ。
________ズルリッ
「なっ! なんだこれは!?」
私の足が地面に埋まっていた。
コンクリートで出来た屋上が底なし沼のように手ごたえをなくして、どんどんと私たち3人の体を飲み込んでいる。
想像を超えた異常な事態を前にして私の頭はパニックになっていた。
「沈んでる! 地面に体が沈む!」
「落ち着けバーカ。スパイダーの手を絶対に離すんじゃねえぞ」
「・・・・・・まさかこれは君のしわざなの?」
思わずスパイダーに話しかけたが、集中しきっている彼女からは返事はない。私の体は彼女に引っ張られるようにして、屋上を満たす”影”の中に沈んでいった。
to be continued・・・
_______________Cast________________
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種
「洋名シベリアン・タイガー 和名アムールトラ」
哺乳綱・ネコ目・イタチ科・クズリ属
「洋名ウルヴァリン 和名クズリ」
哺乳綱・コウモリ目・オオコウモリ科・オオコウモリ属
「洋名インディアン・フライングフォックス(俗称メガバット) 和名インドオオコウモリ」
哺乳綱・霊長目・クモザル科・クモザル属
「洋名ジェフロイズ・スパイダーモンキー 和名ジェフロイクモザル」
_______________Enemies date________________
「ハーベストマン」
身長:およそ93メートル
体重:およそ1、870トン
概要:超弩級の肉体を持つ”ディザスター(都市殲滅)級”セルリアン。その円錐形の体を活かして、普段は地中を移動し、糧である電力を捕食する際は地表を貫いて浮上する。自身からは攻撃を仕掛けず、外敵に反応して無数の幼体を生み出して迎撃させる。それ以外には特筆すべき攻撃手段を持たないが、その耐久力は圧倒的であり、撃破することは非常に困難である。
_______________Story inspired by________________
“けものフレンズ” “けものフレンズ2”
byけものフレンズプロジェクト
“けものフレンズR”
by呪詛兄貴