けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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 あるトラのものがたり26話です。

 アフリカ編その4。
 アムールトラと、謎の女性カコが率いるパークの戦士たちとの共闘戦線。


過去編後章9 「アフリカのせんしたち」(後編)

 川のほとりを歩いていた避難民たちが、急いでそこから退避している。銃を持ったパークの兵士たちがその先導をしていた。

 

 私はパンサーと一緒に避難民の間を縫うように走り、雑多な木々が立ち並ぶ林の中に入っていった。木が生えていても、地形は変わらず下り坂だ。

 林を抜けると、静かな川のほとりに突き当たった。ここもオレンジ川の一部なんだろうけど、先ほどとは違って川幅はかなり広い。

 ここだけ切り取って見ればちょっとした湖みたいな広さがある。

 

「遅かったですね」と、スプリングボックが憎々し気な瞳で私を一瞥すると、再び川の方へと視線を戻した。

 私たち3人は、セルリアンの反応が出ているという川のほとりで散会し、まだ見ぬ敵の気配を探り始めた。

 広い水辺を3人で探るのは並大抵のことじゃないな・・・・・・と思いつつ、目線を川と陸地の間に走らせていると、私たちと同じように川ぞいを探っている黒人兵士がざっと20人くらいいることに気付いた。

(な、なんでヒトがここに!?)

 

「彼らを下がらせてくれ!」と、近くにいるスプリングボックに急いで伝えた。彼女は鼻息を荒くしながら、どこにいるかもわからないセルリアンを威嚇するように、槍の穂先をあちこちに向けている。

「ヒトがここにいたら危ないよ!」

 

「何を言ってるのです? 故郷を守るのにヒトもフレンズも関係ありますか?」

「だってヒトの武器じゃセルリアンには効果がないんだよ。知らないの?」

「ふん。どうやらCフォースの技術は遅れているようですね? 我々パークは、ヒトでもセルリアンに対抗できる武器をすでに持っているんです」

「な、なんだって・・・・・・? それは本当?」

 

 あわてて黒人兵士たちが携えている銃を眺めてみた。太い金属の筒が縦に2本重なったように見えるあれは「散弾銃」って言ったっけ?

 歩兵が一番良く使ってる「突撃銃」とは違う武器なのは知ってるけど、散弾銃だってごくありふれた通常兵器のはずだ。セルリアンに効くはずがない・・・・・・今までの常識とあまりにもかけ離れている。

 まあ、このスプリングボックがそんなウソをつくわけがないから、本当なんだろうけど。

 

 私は無理やり自分を納得させると、スプリングボックへの物言いを切り上げて、己の持ち場である川岸へと戻っていった。

 深く集中を張り巡らせながら、夕陽を反射するオレンジ色の川の水面へと注意を向けていると、その中から、氷のように冷たくて無機質な、しかし刺すように鋭い”意”が近づいてくるのを感じた。

「あそこだっっ!!」

 と、私は川面の一点を指さしながら大声を張り上げた。パンサーたちも、黒人兵士たちも私が指さす先へと急いで向きなおった。

 

______ズズズッ

 その場にいる誰もが息を飲んで見つめる中、水面と同じくらいにきらびやかな反射光を湛えながら、液体が命を成したような不定形な塊がいくつも無数に川の中から浮かび上がってきた。

 まだ決まった形を持っていない、生まれたての幼体セルリアン・・・・・・それも割とよく見かけるオーソドックスなタイプだ。

 頭頂部には他の部位よりも赤みがかった触手を生やし、その体には核が見当たらない。全身に攻撃が通用する「石なし」だ。

 一体一体ならば大した相手じゃないし、フレンズならば難なく蹴散らせるけど、この手の幼体セルリアンは一匹見かけたら百匹はいると思ったほうがいい。典型的な、数で押してくる相手だ。

 

______「Skiet!!」

 

 黒人兵士の1人が、野太い声で何ごとか叫んだ。

 それを聞いた他の兵士たちが散弾銃を構えると、幼体セルリアンの群れめがけて一斉に引き金を引いた。

 私はその様子を固唾を飲んで見守った。銃がセルリアンに効くなんて、まだ半ば以上信じることが出来ない。

______ダァンッ! ダンダンダンッ!

 火薬が爆ぜる破裂音とともに銃口の先から撃ちだされたのは、セルリアンが死ぬときに見せる光によく似た虹色の粉塵だ。

 撃ちだされたいくつものそれが、末広がりに広まりながら、普通の弾丸と変わりない勢いで直進すると、群れの中の何匹かに降りかかるように命中した。

 虹色の煙をかぶった幼体セルリアンは、その透明な水っぽい体が石のように硬質化してしまい、ただの無機物と化したように川面に落下した。

 そのまま沈黙し、川の中へと姿を消していった。

 

 信じられない。まさか本当に銃でセルリアンを倒してしまえるだなんて。

 散弾銃から発射された虹色の弾丸・・・・・・あれは普通じゃない。セルリアンを倒すために作られた特別な武器だ。

 あんなすごいものはCフォースだって持っていない。あれが世界中に広まれば、どれだけヒトにとって心強いことだろう。

 

 だが私が感心しているのもつかの間、何匹も何匹も、広い川面を埋め尽くすような数のセルリアンが現れていた。

 アフリカの大地を流れる穏やかで美しいオレンジ川の中に、どうやってこんなに紛れ込んだというのだろう。

 蜘蛛の子を散らすように、セルリアンの群れが四方八方へと飛び出してきた。

 もはや完全に、戦闘開始だ。

 

 兵士たちに背中を預けるようにして、スプリングボックとパンサーもセルリアンの群れの真っただ中に突撃していた。

 

「貴様らの好きにさせませんよっっ!!」 

 スプリングボックのジャンプ力は、想像をはるかに超えていた。

 私だって十分な助走があれば数十メートルは跳べるけど、彼女ときたら、助走なしの垂直跳びでその倍近くの高さまで跳んでいるように見えた。

 空の上、雲を掴めそうな高さまで飛び上がった彼女は、叫び声を上げ続けながら落下し、セルリアンの一匹を真上から二又槍で刺し貫いた。

 そしてセルリアンが消滅する直前に、その体を踏み台にしてまた飛び上がり、落下攻撃を繰り返してセルリアンを仕留めていた。

 反撃が難しく、威力も高い真上からの攻撃。それを何度も連続して繰り出せるなんて、とても頼もしい味方だ。ついさっきまで敵だったのが恐ろしくなるぐらいだ。

 

「故郷はアタシらが守るッ!」

 パンサーの蹴り技は、威力もさることながら、技のレパートリーが尋常じゃなかった。

 機関銃のごとき勢いの前蹴りを連射して一瞬で何匹ものセルリアンを仕留めたかと思いきや、軽く飛び跳ねて体を捻りながら、体重の乗った跳び後ろ回し蹴りを放った。

 それを食らったセルリアンは後方に吹き飛んで、別の個体を巻き込みながら消滅していた。

一番驚いたのは、パンサーの背後からセルリアンの一匹が襲い掛かってきた時。

 彼女は地面に倒れこむようにして両手を付くと、それを軸にして逆立ちしながらセルリアンに後ろ蹴りを食らわせて撃破し、その勢いのまま素早く立ち上がってみせた。

 逆立ちの状態から繰り出すあんな蹴り技なんて、見たことも聞いたこともない。パンサーは、何か私が知らない格闘技を使っているに違いない。

 

 思わず感心するぐらい見事なパンサーの蹴りを見ていると、私の方にも何匹かのセルリアンが向かって来ていることに気付き、慌てて向きなおって後屈立ちで身構えた。

 最適の間合いにセルリアンが近づいてくる瞬間を狙いすまして、内側から両腕を引き絞るように裏拳や手刀を繰り出し、一番後ろのセルリアンには低く踏み込んでからの中段突きを命中させた。

 

(おめェは手技の筋が良い。だが手技に頼り過ぎちまって、足技がおろそかになっている)

 仕留めたセルリアンたちが断末魔のように放つ光を浴びながら、かつてゲンシ師匠に言われた一言を思い出していた。

 私はその課題をいまだに克服出来ていない。攻撃のほとんどすべてを手技に頼ってしまっている。蹴りを打とうと思ったら、片足立ちにならなきゃいけないから、その不安定感がどうも性に合わないんだ。しっかりと2本足で立って、安定した姿勢で放つ手技が一番しっくり来る。

 受け技は足でも結構やっているけど、速さも正確さも手に比べればお粗末なものだ。

 

 つい手技ばかりになってしまうのは、私がトラだからだろうか? 

 いつかヒグラシ所長が、野生のトラが狩りをする時の映像を見せてくれたことがあった。

 映像の中のトラは、獲物に牙で噛み付くよりも、前足で叩いたり引っかいたりすることの方がずっと多かった。噛み付くのは最後の止めの瞬間ぐらいだ。

 

 フレンズの戦闘スタイルは、元々の動物としての個性と、後天的な経験が混ぜ合わさることで固まっていく、と聞かされてきた。

 いかに野生知らずの私だって、生まれ持った肉体の個性は持っている。トラというのは、手技が根本的に性に合う生き物だということだろうか。

 だからと言って、手技に偏ってばかりの不完全な戦い方じゃ、これから強いセルリアンと戦う時にきっと困ったことになる。

 なにより私が未熟なばっかりに、師匠の教えを腐らせてしまっているのがくやしい。

 

 そんなことを思いつつも、やっぱり得意な手技を使ってセルリアンを撃破していった。足技を使いたいと思ったって、今すぐできるものじゃない。

(ともかく今は自分のできることをやろう) 

 

 虹色の弾丸を撃つ20人足らずの兵士たちの戦いぶりも中々のものだった。

 各々が川沿いの木陰などの安全な位置に陣取りながら、確実にセルリアンを仕留めていた。

 遠距離からの射撃を行っているにも関わらず、セルリアンと至近距離で戦う私たちと絶妙に息を合わせながら、的確に援護をしてくれていた。

 普段からフレンズと一緒にセルリアンと戦っている証拠だ。

 

 私たち3人のフレンズと兵士たちの奮闘によって、この川面の戦場においては安定して敵を迎え撃つことが出来ているように思えた。

 だがそんな有利な状況でも、大量のセルリアンの中には、撃ち漏らされて戦場から抜け出してしまう個体が出てきてしまっていた。

 逃がした敵を追いかけることは、ここの戦力では無理だ。持ちこたえることは出来ても、この場で完全に封じ込めることはできない。多勢に無勢が過ぎる。

 

 私は自分の働きどころについて今一度考え直した。

 ここを抜け出したセルリアンたちが、まるごしの避難民に襲い掛かるかもしれない。

 ならば私がやるべきことは一つだ。

 

「貴様、戦いの最中にどこへ!? やっぱり逃げるつもりですか!?」

「後ろに下がらせてくれ。私は避難するヒトらを守る!」

「か、勝手なことを!」

「オッケー、ここはアタシらで十分! 後ろの皆を頼んだよ!」

  

 未だ私を信用していないスプリングボックに代わって、パンサーが相の手を入れてくれた。

 私は急いで走り出しながら「ありがとう!」とパンサーに返事をかえした。

 来た道を戻って短い雑木林の中を駆け抜けると、すぐに元居た丘へと戻ることが出来た。

 

 セルリアンの湧き出る川から逃れるように、なだらかな丘の上へ上へと遠ざかっていくたくさんのヒトがいた。

 下っている時にはほとんど平地にしか思えなかったこの荒野も、登るとなると見え方が随分違ってくる。勾配がしっかりと付いていることを感じた。

 大人ならなんてことない道だけど、子供やお年寄りが周りに付いていくのは難しい。ちらほらと、周りから足並みが遅れ始めたヒトたちがいるのだった。

 

 そして私たちが倒し損ねた何匹かの幼体セルリアンが、宙に浮く体を活かして、逃げ遅れ始めた避難民たちに素早く追いすがっていた。

(・・・・・・あ、危ない!)

 子供が1人、道端の石につまづいて勢いよく転んだ。近くにいた大人たちはそれに構うことなく逃げ続けて、その子だけが孤立してしまっていた。

 

 うずくまったまま悲痛な叫び声を上げる子供に向かって、空中からセルリアンの赤黒い触手が振り下ろされた。

「せりゃッッ!!」

 私は鋭く低く跳躍すると、着地しざまに手刀を繰り出してセルリアンを真っ二つに切り裂いた。

 間一髪のタイミングでなんとか子供を助けることが出来た。

 

「大丈夫!? さあ早く逃げて!」

 その子の手を握って起こそうとした時、ある違和感に気付いた。その子は片方の手がなかった。

 傷口は丸くふさがっていて、血などは出ていない。今どうこうしたわけじゃなくて、ずっと昔に片手を失っているんだ。

 黒人の女の子だった。男の子みたいな恰好をしているけれど、ちぢれた長い髪をかわいいピンク色のゴムで後ろに留めていた。

 女の子は丸くて愛らしい瞳に涙を浮かべながらも立ち上がって、また逃げて行った。彼女を見ているとなんだか胸の奥に重たい塊が引っかかるような気持ちになった。

 

 私のいる位置から少し離れた所で、またヒトが襲われていた。

 セルリアンは無機質な殺意を宿しながら、逃げ遅れたヒトとの距離をみるみる詰めていっている。 

 私はそれを見て再び駆け出すが、今度はもう間に合わないような距離だった。

 

______ズドォンッッ!

 まばらに生えた茂みの一つから散弾銃が火を吹くと、輝く粉塵がセルリアンに降りかかった。物言わぬ石と化した体が地面に落下すると、砂のように粉々に砕け散った。

 さっき川面にいた兵士たちと同じように、この丘の辺りにも兵士たちが配置されていたんだ。

 

「あなた、なんで戻って来たの?」と、押し殺すような声がしたので振り返ってみると、小さな木の横から深緑色の髪を揺らしながら、カコさんが顔を出していた。その両腕には手慣れた手つきで散弾銃が握りしめられている。

 彼女はここの集団のボスだというのに、自らも銃を取って前線に出ているんだ。

 

「あっちは人手が足りてた。こっちを手伝わせてください」

「なるほど・・・・・・助かるわ」

 カコさんは腰のポーチからアンテナが伸びた黒い端末を取り出すと、私の知らない言葉で部下たちに何ごとか指示を飛ばした。

 

「我々はより広い範囲を守るために後方に下がります。シベリアン・タイガー、あなたにはセルリアンの出現地に近いこの位置で、しんがりをつとめて欲しい」

「はい!」

 

 私は向きなおって、雑木林の向こう側から飛び出してくるセルリアンを倒していった。私がカバーしきれなかった個体は、後ろに控えるカコさんたちが虹色の弾丸で仕留めてくれていた。

 すごくいい感じで戦いを進められている。この調子なら逃げるヒトたちをみんな守ることが出来るだろう。

 

 そう思いながら戦っていると、襲い掛かってくるセルリアンが少しずつ減っていき、やがてパタリといなくなった。

 川のほとりで戦っていたパンサーたちが、セルリアンを倒し切ってくれたんだ・・・・・・そんな安堵感でほっと胸をなで下ろした時だった。

 

 後ろの方にいるカコさんが、何やら難しい顔つきで端末を握りしめて会話をしている。会話が終わった後も、その表情からは緊張感が漂っている。

「あの、どうしたんですか?」と、私は思わず彼女に向かって詰め寄った。

 

「向こうで戦っている者から報告があったわ。セルリアンが何やら異常な動きを見せている、と」

 

 カコさんはセルリアンの出現地点に向かうために、例の雑木林の中へと足を踏み入れていった。現場に赴いて直接指示を下すためらしい・・・・・・なんというか、ボスなのに、前に出ることに全く躊躇がないヒトなんだな。

 カコさんの護衛には、屈強そうな兵士が2人くっ付いてきているだけだった。そんな中、私も彼女に頼み込んで、同行させてもらうことにした。

 二度目の行き来になるこの雑木林だったが、大した広さもないから、もうすぐさっきの川のほとりに到着するだろう。それに、やはりセルリアンの気配はもう近くにない。

 

 私はさっきからずっと気になっていたことを、今のうちにと思ってカコさんに尋ねた。

「どうしてヒトの武器でセルリアンを倒せるんですか? その銃はいったい?」

「銃はただのショットガンよ。特別なのは弾丸。この弾丸は”SSアモ”と呼ばれるものなの」

 

 カコさんは、複雑な仕組みとかの説明は抜きにして、SSアモがどういうものかを簡単に教えてくれた。

 サンドスターと呼ばれる、セルリアンの体を流れるエネルギー。

 SSアモにはそのエネルギーの隙間に不純物を食い込ませて、流れをせき止めてしまう働きがあるらしい。

 だから撃たれたセルリアンは石みたいに固まってしまうんだ。

 

「す、すごい・・・・・・Cフォースだってそんな武器は持ってないのに」

「実用化したのはつい最近よ。研究に研究を重ねて、ようやくショットガンのシェルに収められるサイズにまで小型化できた」

 

 カコさんと一緒に雑木林を抜けて、さっきまで戦っていた川のほとりに戻って来た。

「こ、これは・・・・・・!」

 私たちが目にしたのは、川面にそびえ立つ、とんでもなく巨大なゼリー状の塊だった。

 その巨大な一体以外には、一匹たりともセルリアンはいなかった。さっきまでウジャウジャと溢れかえっていたのが嘘みたいだ。 

 

 私は良く知っている。セルリアンとは、経験則が通用しない敵だ。

 戦うたびに、今まで知らなかった新しい行動を取って、こっちの常識を覆してしまうんだ。今回もその例に漏れなかったということだろう。

 目の前のアイツはどんな新しい手口を使ってくるのか・・・・・・どうしたらそれに対応できるのか、今一番重要なのはそれだ。

 

「あっボス! それにシベリアン!」

 パンサーが私たちを見つけて声をかけてきた。彼女は川の流れの際で、何人かの兵士と一緒に、なすすべもないといった感じでセルリアンの塊を見上げていた。

 

「どうしようボス!? アイツ、攻撃がまるで効かないんだよ!」

 パンサーは言った。兵士たちがSSアモであの塊を何度も撃ったけど、表面を固めただけで、体の奥の方には攻撃が通らないという。そして時間が立てば、固まった所を埋めるように新しい体が再生し、より大きくなってしまうんだと。

 

「SSアモでは小型のセルリアンを倒すのがせいぜい・・・・・・あのサイズのセルリアンを倒すのはかなり厳しい」

 カコさんは言った。「石あり」のセルリアンをSSアモで倒そうと思ったら、核を正確に狙わなきゃならない。石以外の装甲は分厚くてまず歯が立たない。

 逆に「石なし」のセルリアンはその全身が弱点になり得るが、標的が巨大になればなるほど、表面の薄皮一枚削ったところで致命傷にはなり得ない。どてっ腹に風穴を開けるような強力な一撃がなければ、倒すことは出来ない、と。

 

「こっちに向かってきたんならアタシでも相手できるけど、川のど真ん中に居られたんじゃ手出しできない!」

 パンサーが苛立ち紛れに吐き捨てた。その気持ちはよくわかる。手技も足技も、それを支える足場がなければ意味をなさない。「立ち技」って呼ばれてるんだから、立つことが大前提だ。

 水場に足を取られたりしたら、もうまともに戦うことは出来ない。

 ましてやこんなに幅が広い川は、水深もそれなりに深そうだ。泳ぐか潜るかしなければ川の真ん中に行くことは出来ないだろう。

 

______ダンッ!

 空の上から大きな着地音を立てながら、スプリングボックがすぐ近くに降り立った。

「くっ! あれは何だというのですか!」と、悔しそうに吐き捨てる彼女の瞳には金色の燃えるような光が揺らめいている。

 彼女は野生解放を行い、持ち前のジャンプ力をさらに強化させて、真上からの全力の一撃を見舞ってみたらしいが、槍が体に飲み込まれていくばかりで、全く手ごたえがなかったという。

 それであきらめて戻ってきたものの、闘志はまったく収まらない様子で、威嚇するように槍を巨大セルリアンに向けて掲げている。

 

 SSアモでは倒せず、フレンズの攻撃も通用しないとくれば、もはや打つ手がないように思えた。

 川のほとりで私たちが歯噛みしている間にも、セルリアンはどんどんとその巨体を膨れ上がらせていた。

 あんな体で体当たりでもされたら、こっちはひとたまりもない。

 

 カコさんは近くにいる部下の兵士たちと、アフリカの言葉で何ごとか話しあっている。たぶん目の前の巨大セルリアンをどう倒すかの作戦を立てているんだろう。

 その内容を聞きたいと思っても、言葉がわからない私には無理な相談だった。

 

「ボス達はこういう話をしてるよ」 

 困惑している私を見かねたのか、現地生まれのパンサーが通訳をしてくれた。

 カコさん達は、目の前のセルリアンの行動で不可解な点が2つあることに気付き、それの謎を解こうと話し合っているのだという。

 

 ひとつめの謎は、目の前にいる巨大セルリアンのエネルギー源についてだ。

 SSアモで撃たれた傷を修復するのにも、巨大な体をさらに膨らませるのにも、何らかのエネルギーが必要だ。その源が何であるか見当がつかないという。

 

 そしてもうひとつの謎は、つい先ほどまで大量発生していた幼体セルリアンと、目の前の巨大なセルリアンとの関係性についてだ。

 両者はまったくの別物なのか、あるいは同一の存在が異なるパターンの行動を取り始めたのか。両方の可能性が考えられるけど、どちらかに断定することが出来ていないという。

 

「ありがとうパンサー。言葉がわからないことがこんなに不便って思わなかったよ」

「べつにお安い御用なんだけどさ・・・・・・アンタはアタシとは話せるのに、ヒトとは話せないって意味わかんない」

「うん、そうだね」

 

 フレンズは動物から生まれ変わった瞬間から、生まれた国の言葉を理解し話すことが出来る。

 私はこの姿になってすぐに、日本語を喋っていた。他の子も同じだろう。

 フレンズはヒトと同じように様々な国に生まれて、様々な言葉を話している。

 

 でもフレンズの言葉っていうのは不思議なんだ。

 フレンズだって生まれた国が違えば、お互いの言葉がわからないはずなのに、たとえどこの国の生まれでも、当たり前のように会話出来てしまう。

 お互いに違う国の言葉を話しているのに、自分の国の言葉のように理解できてしまうという一種のテレパシーみたいな能力をすべてのフレンズが持っていると言われている。

 そして、Cフォースのヒトがフレンズとのやり取りに使う黒い球体「ナビゲーションユニット」も、そんなテレパシーを人工的に再現しているらしい。

 ユニットを使っているヒトが日本語を話していても、英語を話していても、フレンズには同じように理解できるって仕組みだ。

 

「ところでさ」と、パンサーが会話を続けてきた。まだ終わる様子がないカコさん達の話し合いにしびれを切らしたようだ。

「アンタならあのデカいセルリアンを倒せるんじゃない? 例の、わけのわからないすごいパンチを使ってさ」

 

 パンサーは「勁脈打ち」のことを言っているんだ。さすがにCフォースから盗んだ映像を見ているだけあって、私の手の内を良く知っているようだ。

 確かにあの技だったら、どんなに大きなセルリアンが相手でも倒せる可能性はある。「石あり」の巨大な相手の体内に隠された核を探し当てて砕くのは、何度もやったことがある。

 特定の急所がない「石なし」が相手だったら、技そのものが持つ威力にものを言わせて、胴体を吹き飛ばせば倒せるかもしれない・・・・・・巨大サイズの「石なし」には出会ったことがないから確実なことはわからないけれど、試してみる価値はある。

 

「でも、相手に触れないとあの技は出来ないんだ」

「そこでスプリングボックの出番だよ。アンタ、もっぺんジャンプして、シベリアンをアイツの頭の上に運んであげなよ」

「くっ! なんで私がCフォースの奴なんかを手助けしなくちゃいけないんですか。パンサー、そいつに簡単に気を許し過ぎです」 

 言葉とは裏腹に、パンサーの口利きで、スプリングボックも私と共闘するのにやぶさかではないような空気を出し始めていた。自分の相棒であるパンサーの言うことには全面の信頼を寄せている様子だ。

 

 未だカコさんから下される指示を待っている段階ではあったけれでも、この3人がその気になれば、いつでも巨大セルリアンに打って出れる。そんな連帯感で固まろうとしていた時だった。

「待ちなさい。あれを攻撃しても意味はないわ」

 兵士たちと話し合いを続けていたカコさんが、私にもわかる言葉で制止してきた。

「・・・・・・先ほどのふたつの謎に答えが出ました」

 

 カコさんは言った。セルリアンはどこか違う場所から湧いて出てきたわけじゃない。オレンジ川を流れる水そのものが、セルリアンを生み出す根源だと。

「ど、どういうことなんですか? 川の中にセルリアンのエネルギーなんかあるんですか?」

「このあたりの土地は、ダイヤモンドが良く採れることで有名なの。このオレンジ川の底にも、砂粒のようなダイヤの原石が数多く眠っている。仮説だけど、あのセルリアンは体内にそれを取り込んで、エネルギーに変換しているのでしょう」

 

 なんでも、ヒトが用いる最新技術の中には、ダイヤモンドを使った電池っていうのがあるんだとか。原子力発電の一種で、放射性廃棄物からダイヤモンドを生み出して、それを電気に変換する発電方法があるらしい。

 

 フレンズと同じように、セルリアンの体にも放射能が混じっていると言われている。

 オレンジ川のダイヤ原石は、放射能とはまったく関係ないけれど、セルリアンの体内で、自身の放射能と外部から取り込んだダイヤモンドを混ぜ合わせて、即席の原子力電池に加工してしまっている可能性があるというのだ。

 

 セルリアンは電気とか石油とか、ヒトの文明が用いるエネルギーを糧に活動している。

 当たり前のことだと思っていたけれど、それだって大変なことだ。奴らの体内には、それぞれ全く違う物質をエネルギーに変換出来る仕組みが備わっているということなのだから。

 ダイヤモンドから電気を取り出せるセルリアンがいたとしてもまったく不思議ではない。

 やっぱりセルリアンは、いつもこっちの想像を超えてくるんだ。

 

「しかし、電気や石油と違って複雑な行程のエネルギー変換であることは事実よ。ある程度体の大きなセルリアンでなければ出来ない。先ほどまで発生していた小型セルリアンではそんな真似は不可能。つまり・・・・・・」

 

 セルリアンの本体は川底にいる、とカコさんは言った。

 あの大量の小型セルリアンは、その本体が生み出していたものだったんだ。かつてブラジルで戦ったハーベストマンのように、一部の大型セルリアンには小型セルリアンを生み出す能力がある。

 本体は、体内で発生させた電気を、自分が生み出した小型セルリアンを動かす燃料にしていた。そして、小型セルリアンではこちらに通用しないことを悟って、より強力で大きな子供を作ろうとしているんだ。

 その結果生み出されたのが、目の前の川面にそびえ立っている巨大な塊だ。

 

 良く見ると、川面に接するセルリアンの胴体が、水を吸い上げているように見えた。川の水を吸い上げて、風船みたいにどんどんと巨大化していっている。

 

「奴の体はまるでクラゲのよう」と、カコさんは言った。クラゲというのは、薄い皮一枚張った下は全部水で出来ているような生き物らしい。

 川の底にいる本体は、水を材料にして、クラゲのような体の子供を作れてしまうのだろうか? 自分の体をすり減らすのはほんの少しでいい。皮だけ用意すればいいのだから。

 だとしたら、目の前の塊に勁脈打ちをお見舞いしたところで、まったくの無意味だ。

 

______ズドォンッ! ドウッ! ドウッ!

 カコさんが周囲の兵士たちに号令をかけると、巨大なゼリー状の塊への射撃が再開された。

 狙いは川面に接している胴体の部分だ。

 中身は川の水でも、表面はセルリアンの体組織だ。SSアモを浴びせられて、表面が石化するのが見て取れる。

 倒すことは出来なくても、石化している限りはそれ以上大きくなることは出来ない。

 でも時間が立てば新しい体組織が出来てしまって、石化した部分も覆い隠されてしまうから、一時的な効き目しかない。

 

「もうこの方法しかありません」と、カコさんが静かに言い放つ。

「私たちはSSアモで時間を稼ぐ。その間にあなた達3人で、水中にいるセルリアンの本体を仕留めてほしい。相手は地中のダイヤモンドを吸収するために、おそらくは川の底にへばり付いているはず。何とか見つけ出してください!」

 

 川の底と聞いて、パンサーとスプリングボックが青ざめていくのがわかる。

「い、いいでしょうボス。私の槍で川底のセルリアンを仕留めてご覧にいれましょう」

「適当な強がり言わないでよ。無理でしょ。スプリングボックは泳いだことなんてないじゃん。アタシもだけど」

「パンサー、君は泳げるんじゃないの?」

「あ、アンタの友達が泳げるってだけでしょ。同じヒョウでも、アタシは違うの」

 

 彼女は言った。ヒョウは、世界中色んな所に住める適応力があるけれど、逆にいったん住んだ場所にはとことん合わせるから、他の地域の同種とはまるで違う生き方をするのだという。

 南アフリカ共和国生まれの彼女は、水辺の少ない所で育ったから、泳ぐことはついぞ経験がないらしい。

 

 生まれ育った場所で得意不得意が決まるのは、何もヒョウに限った話じゃない。

 生きるために泳ぐ必要があるなら、泳げるようになる。必要がなければ泳ぎは身につかない。ただそれだけの話だという。

 

「シベリアン。アンタは泳げるって言ってたよね?」

「うん、泳げるけど・・・・・・」

 

 私はただ”楽しむ”程度に泳ぐことが出来るだけだった。水中で戦うことなんて経験もないし、とてもできそうにない。

 それ以前に、川底にへばり付いているという情報だけで、どこに潜んでいるかもしれないセルリアンの居場所を探ることだって難しい。

 川の底はきっと、まともに日の光が当たらない暗闇のはずだ。

 近づいて相手の体に触れなければ、頼みの勁脈打ちだって打てないし・・・・・・

 

(待てよ。本当にそうか?)

 私はふと、自分が考えていることがおかしいことに気付いた。触れなければ打てない? 私が教わったのは、そんな技だったか?

 ゲンシ師匠が勁脈打ちを教えてくれた時のことを思い出してみた。

 師匠が亡くなる寸前に見せてくれたのは、座禅を組んだまま砂浜に手を触れて、離れた所にある流木を触れもせずに破壊する様だった。

 必ずしも相手に触れている必要はないんだ。揺らぎを完全に相手を合わせることが出来れば、離れた所にいる敵が相手でも打つことが出来る。そういう技だったはずだ。

 がんじがらめになった思考が、頭の中でほどけていき、やがて一本の糸になっていくような気がした。

 

「パンサー、頼みがあるんだ」と告げながら、その後の言葉は彼女の耳元で、他の誰にも聞こえないように囁いた。

「わ、わかったよ。それぐらいやってあげる」

「貴様ッ! パンサーに何を吹き込んで・・・・・・? いったい2人で何を始める気なんですか!?」

 

 スプリングボックの制止を無視したパンサーが私の傍に近づくと、後ろから手と足をまわして抱き着いた。

 私がパンサーをおんぶしたような形になった。

「ありがとう。協力してくれて助かる」

「アタシ、水はマジで怖いから、ちゃっちゃと終わらせてよね」

 

 私はパンサーを背負いながら川の中に足を踏み入れると、そのまま進み続けた。

 パンサーはじっと私にしがみついたまま動かず、彼女を背負った私の体は水に浮くことが出来ず沈んでいった。1人で川の中に入っていっても体が浮いてしまうから、彼女に重りになってもらったんだ。

 あの巨大なクラゲがそびえ立っている川の中腹に近づくよりも前に、私たちは深い川底の暗闇の中に辿り着いた。

 もう目には何も映らない。水の中だから鼻も利かなければ、耳もほとんど頼りにならない。私に抱き着きながらじっと息をこらえるパンサーの腕の力と体温と、そしてその場に留まるのが容易なぐらい穏やかな川の流れだけが感じられる。

 

(よし、もうここらでいい)

 私はパンサーを背負ったまま、おもむろにしゃがみ込むと、右手を川底に押し付けた。開いた手のひらに全神経を集中させて、そこだけが世界のすべてだと思い込んだ。

 手のひらの向こうに広がる暗黒には、川の流れに身を任せるまま水中を漂う、細かな無数の石粒の揺らぎが感じ取れる。

 時たま、素早く動く小さな揺らぎがあるのは、川に住んでいる魚か何かかな?

 そしてそんな中に一点・・・・・・無機質な殺気を宿しながら、ピクリとも動かずに川底に鎮座する、冷たくて巨大な何かの揺らぎが感じ取れた。

 

(アイツだ。あれを打つ!)

 この川底を通じて、私の”意”を走らせれば敵を打てるはずだ。それこそが勁脈打ちの真髄だったはず。

 目標を見定めた瞬間、川底を漂うそれ以外の揺らぎを、意識の中から消去していった。自分と相手以外の存在を無にするための”意識の引き算”だ。

 

______ドクンッ!

 引き算が終わった瞬間。

 水中の圧迫感も、密着して重りになってくれているパンサーの温もりも、すべての感覚が失われていき、凍り付いたような静けさだけが残った。

 極限の集中の果てにある世界。

 ここには何度も入ったことがあるけど、この冷たさに慣れることは決してないんだろうな。

 

 不定形な揺らぎと化した私は、同じように形のない相手に向かっていった。

 稲妻のようなスピードで相手に激突した瞬間、互いが一緒くたになって弾け飛び、冷たい世界を構成するすべてがかき消されていった。

 

 

「・・・・・・はっ!?」

 先ほどまでの景色が夢だったかのように、私は地上で目を覚ました。

 慣れ親しんだ自分の体。その形が意識にくっ付いているのを確認すると、横たわった体を持ち上げて辺りを見回した。

 パンサー、スプリングボック、カコさん、黒人兵士たち。先ほどまで一緒に戦っていたみんながそこにいた。

 兵士たちはお互いに肩を組みながら雄たけびを上げたりしていた。スプリングボックは不機嫌そうにそっぽを向いている。

 そしてカコさんとパンサーが私に近づいてきた。パンサーは私と同じようにずぶ濡れだ。

 

「本当に感謝するわ。シベリアン・タイガー。あなたが本体を倒してくれたおかげで、戦いに勝つことが出来ました。幸いにこっちの死傷者も出なかった」

「アンタ、あれっきり気を失っちゃうんだから焦ったよ。アタシが陸まで引き上げてあげたんだから感謝してよね? ・・・・・・でもやっぱりアンタはすごいね。最強って呼ばれるだけあるよ」

 

 ふと、川の方を見てみた。先ほどまで巨大なゼリー状の塊や、大量の幼体セルリアンが出現していたオレンジ川。

 元の穏やかな雄大なる姿を取り戻して、その美しいせせらぎを夕陽に反射させていた。それを見て、ようやく安堵することが出来た。

「ううん。パンサーのおかげ、みんなのおかげだよ」

 

 勝利の余韻に浸るのもつかの間、その場にいた全員が川のほとりを引き返して、雑木林の中を進み始めた。

 戦いが終わったとはいえ、緊迫した状況は依然変わりなかった。

 カコさんが率いるパークの兵士たちは、大勢の避難民たちを、急いで安全な所に避難させないといけなかったんだ。

 危険なのはセルリアンだけじゃない。ヒトの武装集団だって現れる可能性がある。

 

 雑木林を抜けて丘の上に到着すると、避難をつづけるヒトたちはすっかり遠くに行ってしまった様子で、辺りにはカコさんの部下と思しき兵士たちがちらほらと待機しているだけだった。

 そんな中でただ一点、異様な人だかりが作られている場所があった。

 

 人だかりを形成する兵士の1人がカコさんに呼びかけると、彼女は急いでその場に駆け寄っていき、アフリカの言葉でやり取りを始めた。

 不信に思った私も、カコさんに付いて行って、人だかりの中心にある物を見ようと顔を乗り出した。

 

(そんな・・・・・・なんで?)

 みんなと協力してセルリアンに勝利して、避難するヒト達を守ることが出来た・・・・・・そんな気概と充実に満ちた気持ちが、いっぺんに吹き飛んでしまうような光景が、そこにあった。

「所長っ! クズリっ!」

 人だかりの中心には、地面に横たわる2人の姿があった。ついさっきの戦闘で心を通わせたパンサーたちとは違う。私のもともとの仲間だ。

 

 クズリは相変わらず、意識がないまま倒れているだけだった。

 問題はヒグラシ所長だ。さっきまで元気だったはずの彼が、地面をのたうち回りながら、苦しそうなうめき声を上げていた。

 うずくまる所長が両手で抱えているのは、自身の右足だった。彼の右足の膝から先はひどく傷ついていて、グズグズになりながら血だまりを作っていた。

 

 私は思わず人だかりを押しのけて、うずくまる所長に近寄って抱きかかえた。

「所長! どうしたんだよ!」

 いくら必死に呼びかけても、苦しそうに呻く彼からの返事はかえってはこない。

 代わりにカコさんが私に声をかけてきた。

 

「落ち着いて。彼はどうやら、地雷を踏んでしまったようね」

「・・・・・・じ、地雷?」

「私たちは、この辺りにあらかじめ地雷を敷設しておきました」

 

 カコさんらパークは圧倒的に人員が不足しており、その不足を補うための準備を周到に行っているという。

 セルリアンだけでなく、武装勢力がここに踏み込んできても対処できるように、様々な対人用の罠を仕掛けているというのだ。

 そのひとつが、踏んだら爆発する爆弾。地雷だった。

 

「もちろん私たちは地雷原の場所を把握しているから、避難民がそっちに行かないように誘導を行っていた」

「・・・・・・しかし部下が言うには、ヒグラシさんは我々が誘導する方向とはまるで反対方向へ、部下の制止を無視して走り出して行ったそうよ。そのウルヴァリンという子を背負いながら、ね」

 

「ふん、卑劣ですね・・・・・・。そのCフォースの男、手下のシベリアンに戦わせておきながら、自分はどさくさに紛れて逃げ出そうとしたというのですか? 意識のないウルヴァリンを背負っていたのは、後々自分の身を守らせるため? まったく、油断も隙もない男です」

 

 スプリングボックが溜息交じりに所長を罵っている。周りにいる兵士たちも、心配しているというよりは、どちらかというと軽蔑に近い眼差しを所長に向けてきている。

 どうして彼はこんな無茶なことをしたのだろうか? パークのヒトたちの言うことを聞いて避難しておけばこんな目に遭うこともなかったのに。

 何かよっぽど都合が悪いことでもあったのだろうか?

 

(・・・・・・所長、いったい何を隠しているの?)

 所長の身を案じる気持ちと、晴れることのない疑い。ふたつの感情が双方譲らずに膨れ上がっていき、絶句してしまった。

 

「救護班を呼びました。我々のキャンプでヒグラシさんの傷を手当します」

「しょ、所長は助かるんですか!?」

「大丈夫よ。地雷というのは、ヒトを殺すための兵器じゃない。命を落とすことはまずない・・・・・・それに私としても、今彼に死なれるわけにはいきませんからね」

 

 白いワンボックスカーが車体を揺らしながらその場に到着すると、担架を持った数名の兵士たちが降りてきた。

 グズグズの右足から血を滴らせながら苦しむ所長と、意識のないクズリをそれぞれ担架で車内に運びこみ、カコさんが最後に乗り込むと、また勾配の付いた坂道を走り出して行った。

 私は茫然と立ち尽くしながらその様子を見送った。

 

「・・・・・・シベリアン」と、パンサーが私の肩を叩きながら呼びかけてきた。

「気持ちはわかるけど、今は立ち止まってる場合じゃないよ。キャンプに案内するから付いてきて。早くしないと夜が来ちゃうよ」

 

 雄大な夕陽が、連なる岩山の隙間に今にも飲み込まれてしまいそうだった。

 目の前の出来事に言葉を失った私は、ともかく足だけを動かして、消えそうな夕陽にすがるように歩き始めた。

 

 to be continued・・・

 




_______________Cast________________
 
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種 
「アムールトラ(シベリアン・タイガー)」
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属
「パンサー」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・ウシ科・スプリングボック属
「スプリングボック」

_______________Human cast ________________

「久留生 果子(くりゅうかこ)」
年齢:25歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 南アフリカ事業所代表

_______________Enemies date________________

「ゼリーフィッシュ・セルリアン」
身長:不明
体重:不明
概要:ダイヤモンドを媒体に電気を生み出すという、これまでに目撃情報がない動力器官を備えたセルリアン。
自身では攻撃を仕掛けず、幼体を生み出して攻撃を仕掛けさせる戦法を取るが、状況に応じて幼体のサイズや産出数をコントロールしていることから、ある程度の知能を持っていることがうかがえる。
水中で活動し、生み出された幼体は体組織の大部分が水分で出来ていることから「ゼリーフィッシュ」とカコ博士に名付けられた。

_______________Location________________

「オレンジ川(Orange River)」
概要:アフリカ大陸南部を流れ大西洋にそそぐ大河川。全長はおよそ2090㎞に達し、下流部は南アフリカとナミビアの自然的国境を形成している。19世紀後半、流域内にて大型ダイヤモンドの発見が相次いだことにより、ダイヤモンドラッシュと呼ばれる一大採掘事業の舞台となった。

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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