けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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過去編後章12「あるトラのきぼう」

 ヒグラシ所長が、ついにCフォースの機密を話す決意を固めた。

 私は彼を車椅子に乗せながら、カコさんに会いに行こうとした。

 

 しかし彼女は難民受け入れの手続きやら何やらで、日がな一日激務に追われている様子だった。とても話しかけられる雰囲気ではなく、ようやくお目通りが叶ったのは、夜もすっかり更けた頃だった。

 銃を携えた黒人兵士たちが、カコさんが休むトレーラーの前で見張りをしていたが、私と所長の姿を見つけると、何かの事情を察したようにあっさりと通してくれた。

 

 そうして後部からトレーラーの中に入っていくと、パソコンに向き合って一心不乱にキーボードを叩いているカコさんが私たちを出迎えた。

 

 簡素な部屋だった。ここのリーダーが休む寝室であっても、特に華美でも何でもなかった。私が前に入れられた牢屋とそう変わりない内装だ。

 ただ物がたくさんあって、デスクの上には乱雑に書類が積まれて、さらにその上に食べ終わった食器やコップなんかが乗せられている始末だった。昼も夜もない激務に追われていることが伝わってくる。

 壁には動物や自然を映した写真が何枚も貼られていて、カコさんへのそれらへの愛情が伝わってくるようだった。

 

「このような場所で申し訳ありませんね、日暮博士」

「いや僕のほうこそ。君はとても忙しいのに、時間を作ってくれて恐縮だ。ところでここで話しても大丈夫かね? 外には兵士たちが・・・・・・」

 

 所長は怯えたように振り返ってをドアの方を見た。そんな彼に向かってカコさんは表情ひとつ変えずに答えた。

「私たちは日本人。母国語で話せばいいでしょう。そうすれば彼らには何もわかりません」

「そ、そうか」

 

「さて、日暮博士。あなたは必ずパークの理解者になってくれると思っていました。Cフォースに籍を置きながらも、フレンズを倫理的に扱うことを動画や論文で主張されてましたものね」

「・・・・・・そんな主張をした結果、スパイの疑いをかけられて、南アフリカへ左遷させられた。そして今まさに密告者になろうとしている」

 

 張りつめた空気で会話を始めた所長とカコさんを後目に、私はトレーラーの外へ出ようとすごすご歩き出した。

 話の内容にとても興味があったけど、2人きりで、大事な内密な話をはじめようというのに、それを脇で立ち聞きするのも気まずくて、この場にいない方がいいような気がしたからだ。

 立ち去ろうとした私を、カコさんが「どこへ行くのですか?」と引き留めてきた。

 

「シベリアン・タイガーもこの話を聞く資格が十分にあるはず。そうですね博士?」

「アムールトラ、君にも真実を知ってほしい・・・・・・奇しくもこの南アフリカの地ですべてが始まったのだ」

 

 その時初めて知った。フレンズには「天然」と「人造」がいることを。

 私やクズリなどの人造は、セルリアンと戦わせるために動物の死体から作られた。

 パンサーなどの天然は、野生動物がある日突然にフレンズの姿を得た存在。そもそもの生まれた経緯からして全然違うんだ。 

 

 今から20年前、私が生まれるよりもずっと前に、南アフリカで世界で一番最初の天然フレンズが発見された。

 ヒグラシ所長は医者をやめて生物学者に転向して、研究者の一員として南アフリカを訪れていた。その頃の彼には再生医療の発展という夢があった。

 カコさんはまだほんの幼い子供だったけれど、研究者である父親母親に連れられてこの地で暮らしていたらしい。

 

 最初はすべて上手く行っていた。希望と発見に満ちた研究の日々だった・・・・・・と、あの頃同じ出来事を経験した者同士、2人は目を伏せてあの時に起こった出来事に思いを馳せていた。

 

 すべてのはじまりはセルリアンだった。

 フレンズしかセルリアンに対抗できる存在がいないことがわかった瞬間、研究者たちの意見が真っ二つに割れてしまった。

 フレンズをセルリアンを倒す兵器として使おうと主張したのは「グレン・ヴェスパー」。今のCフォースの頂点にいる、ヒグラシ所長の上司にあたるヒトだ。

 それに反対し、フレンズが自由に生きる権利を保護しようと声を上げたのは、カコさんの父親「遠坂重三」さんだったという。

 

 2人を旗印にして研究者チームは二つに分かれ、互いに相手を憎み合い否定し合う間柄になってしまった。

 その諍いは今も水面下で続いているという。グレン・ヴェスパーの派閥はCフォースとして。遠坂重三が興し、今はカコさんが受け継ぐ組織はパークとして。

 Cフォースは世界中に影響力を持つ巨大な軍隊に発展し、パークは存在を悟られずに活動する地下組織として、真逆の道を歩んでいった。

 

 今まで同じものを信じて歩んできた仲間が、ある日突然に敵になってしまう。相手との間に埋められない溝が出来てしまう悲劇・・・・・・なんとなくわかるような気がした。

 脳裏にチラリと、クズリの姿が思い浮かんだ。

 

「昔話はこのあたりにして、さっそく本題に入ろう」

「でしたら日暮博士、まずは私から話させてください。私たちが何者なのか、数日前もシベリアン・タイガーとウルヴァリンに話そうとしていました。結局ウルヴァリンに話すことは出来ませんでしたが、あの時の続きを今」

 

 カコさん達パークは、人造フレンズをCフォースから解放することが目的だと言った。

 Cフォースからの解放は、すなわち”オーダー”からの解放に他ならないという。

 

 Cフォースが人造フレンズに刷り込んだオーダーは「ヒトを殺傷してはならない」の他に、さらにもうひとつ大事なものがある。それは「脱走してはならない」という命令だ。その命令を本能レベルで刷り込まれているだけでなく、本能を踏み越えて逃げようとした場合は、やはり強制的に意識を失わさせられてしまうらしい。

 パークがCフォースに勝利した暁には「脱走してはならない」オーダーを人造フレンズから消去し、生きたいところで自由に生きられるようにしてあげたい、というのだ。

 

「オーダーを消すことなんて出来るんですか?」

「ええ、今すぐには出来ないけれど、私たちの本拠地に行けば可能よ」

「・・・・・・待ってくれカコくん。オーダーは全て悪というわけではないぞ。”脱走禁止”はともかく”殺傷禁止”は消去すべきではない」

 

 あわてて口を差し挟むヒグラシ所長に、カコさんも合いの手を挟むように頷いた。

 

「もちろん私たちも、うちで保護している天然フレンズにもオーダーとは違う形でのブレーキはかけています。というのも、フレンズが肉体に秘める潜在能力はあまりにも強大で、何らかのブレーキがなければ制御が利かなくなって暴走してしまう恐れがある」

「暴走・・・・・・?」

 

「理性をなくして、自分の意志とは無関係に、周りを傷つけてしまう怪物になってしまうかもしれない、ということよ。あくまで可能性の話で・・・・・・私が知る限りそんなフレンズはいませんが」

 

 自分の意志とは無関係に周りを傷つける怪物・・・・・・何だかその言葉を聞くだけでゾッとするような気分になる。そんなのセルリアンと同じじゃないか。私たちは考える頭と言葉を持っているはず。それが無くなってしまうことなんて想像も出来ない。

 

 仮にクズリみたいに強いフレンズがそんな怪物になってしまったら、止めることなんてきっと誰にもできない。

 まあ彼女はフレンズの中でも取り分け頭がいいから、理性をなくした怪物なんかになるとは思えないけれど・・・・・・私なんかもっとあり得ないはずだ。根っからの野生知らずの私には、刷り込まれるよりも前に、自前のオーダーがすでに染み付いてしまっている。

 

「ところで、シベリアン・タイガーは今のところオーダーの影響が何も出ていないわね。Cフォースから逃げたいとはこれっぽっちも思っていないようね」

「だって、Cフォースが間違っているとは思えないんです。私は今までCフォースのヒトと一緒にセルリアンと戦ってきました」

「Cフォースがセルリアンから人類を守るためになくてはならない組織なのは認めるわ。でもそれは最前線で戦う「軍部」のことよ。私たちの敵はCフォースの「研究部」なの。彼らを解体して無力化するのが当面の私たちの目的よ」

 

 Cフォースは大きく分けて「研究部」と「軍部」に分かれている。研究部はフレンズを研究し、生み出して訓練している部署だ。ヒグラシ所長もそこに勤めている。

 そして軍部は、セルリアンの出没地域に赴いて、フレンズに指示を下して戦わせたり、後方で人災の鎮圧を行ったりしている。私が元いたブラジルの部隊などがそれにあたる。

 

 でも、そこから先のことは良く知らなかった。

 Cフォースは最初、ヒグラシ所長も含めた数十人の学者で構成される研究部があるだけで、軍部っていうのは、組織が膨れ上がる中で後から加わったヒトたちだという。

 力関係は明らかに、最初からいた研究部の方が上。軍部は研究部の命令に半ば従っている形だ。

 

「つまり君たちパークの目的は、Cフォース研究部と軍部の分断なのだな。全面的な戦争を望んでいるわけではないと」

「そうです・・・・・・矢面に立って戦っている軍部の中には、安全な所から指示を飛ばしてくるだけの研究部に不満を持つ人間も多いはず。私たちはそこを突きます。軍部と交渉して私たちの味方に付け、研究部を孤立させます。その後に、フレンズに頼らずにセルリアンと戦う新組織を作り上げてみせる」

 

 あまりにもスケールが大きくてピンと来なかったけれど、カコさんの表情からはそれが冗談でも何でもないことが伝わってくる。

 セルリアンを倒す虹色の弾丸「SSアモ」はその交渉材料の一つだという。

 前線でセルリアンと向き合いつつも、戦闘はフレンズに任せるしかない軍部のヒトからしてみれば、SSアモは喉から手が出るほどに欲しい代物のはずだろう。

 

「CフォースがSSアモみたいな兵器を開発してこなかったのは、フレンズこそがセルリアンに対する最大の対抗手段であると信じているからよ。そこに私たちが付け入る隙がある」

「でも、SSアモだけでセルリアンと戦えるんですか?」

「資金不足で実用化できないというだけで、兵器はSSアモの他にもあるのよ。Cフォース軍部と同盟を組んで潤沢な資金を手に入れることが出来れば、十分にセルリアンを撲滅し得る組織になるわ」

 

「・・・・・・よくわかったよ。君たちパークの目的、そして展望が」

 

 ヒグラシ所長は神妙な表情で深いため息を付くと、車椅子の手すりを握りしめながら「今度は僕の番だ」と、土気色の肌を上気させながら顔を上げた。額には冷や汗が浮いてきていた。

「この南アフリカでCフォースが何をしようとしているのか、全部話そう」

 

「・・・・・・まず、Cフォースは最強の人造フレンズを開発しようとしている。そのためにアムールトラとクズリ、現時点での最強候補である2人が南アフリカへ呼ばれたのだ。研究所では君たち2人からあらゆるデータを採取することが計画されていた」

「所長、データって?」

「君たちの戦闘パターン、遺伝情報、さらには”野生解放の先にある力”の謎・・・・・・それとフレンズの潜在能力をすべて引き出した”暴走状態”のことも調べるつもりだった」

 

 最強の人造フレンズがどのようなものかはまだ解明できていないという。

 ただCフォースが望んでいるのは、それを安定して生み出し、制御することだと言った。

 

 同じ姿形をした、同じ強さのフレンズを何体も生み出すなんて、それはもうフレンズじゃない別の何かなんじゃないだろうか、という寒気にも似た嫌悪感が胸の中に沸き起こる。

 今まで色んなフレンズと助け合って戦ってきたからわかる。私たちには個性がある。強みもあれば弱みもあるんだ。同じフレンズなんて1人としていない。

   

「解せませんね。Cフォースは何故この南アフリカを実験場に選んだのですか?」

 カコさんが、当然とも言える疑問をぴしゃりと投げかけた。

 確かに、私とクズリのデータを集めるだけなら南アフリカまで呼び寄せる必要なんて何もない。Cフォースは世界各所に大型の研究設備があるのだから、そこに呼べばいいはず。

 

「Cフォースの目的は、最強の人造フレンズ開発の他にもうひとつある・・・・・・ふたつの目的を同時に、秘密裏に成し遂げられる場所は、南アフリカを置いて他にはないのだ」

 ヒグラシ所長の顔が一層青ざめる。これから自分が発しようとしている言葉に恐れおののいているのが伝わってくる。

 

「もうひとつの目的・・・・・・それはセルリアンを研究し、支配下に置くことだ」

 

 静かだった室内が一層冷たく張りつめた。

 聞き捨てならない言葉を聞いたと言わんばかりに、カコさんは机に身を乗り出して覗き込むように所長を見つめている。

 所長は真っ青な顔で下を向きながら、カコさんの視線に耐えるのがやっとといった様子で浅く頻回な呼吸を繰り返している。

 

「南アフリカにはセルリアン発生の謎を解く鍵が眠っている。フレンズだけでなくセルリアンもまた、南アフリカにて初めて存在が確認されたのだから」

 そういえば所長はセルリアンの発生源の調査を行っていたんだっけ。その時に武装集団に襲われて、1人で逃げていた所を、私とクズリと再開を果たしたんだった。

 

「セルリアンをどうやって支配するつもりなのですか?」

「君も知ってのとおりだと思うが、上位のセルリアンは下位の個体を生み出し、従わせる力がある。それはあたかも、女王アリが働きアリを従わせるように」

 

 かつてブラジルで最初に戦った難敵ハーベストマン。つい最近オレンジ川のほとりで倒したゼリーフィッシュ・セルリアン・・・・・・両者とも自分では戦わず、幼体を生み出して戦わせるタイプの相手だった。

 幼体は親を守るために死力を尽くして立ち向かってきた。

 感情がないはずの彼らが、どうしてあんなに必死に自分の親を守ろうとしたのかはわからない。

 しかし彼らを突き動かしている何かがあることは、戦っていてなんとなく感じていた。

 

「我々はこう結論した。すべてのセルリアンを従わせる”女王”を人の手で生み出すことが出来れば、セルリアンを支配できると・・・・・・後は簡単だ。女王を介して人間に従わせれば、世界中のセルリアン災害を収束させることが出来る」

 

「それで終わるはずがないでしょう」と、カコさんがきっぱりと断じた。

「あなた方Cフォース研究部は明らかに暴走しています。仮に研究部がセルリアンを手中に収めたとしたら、今度はフレンズに代わる己の尖兵にする可能性がある・・・・・・その時こそ人類の、いえ、すべての命にとっての真の危機が訪れます・・・・・・そんなことはパークが絶対に阻止してみせる」

 

 あのカコさんが、彼女らしからぬ相手を責めるような剣幕でまくしたてた。

 ヒグラシ所長は返す言葉もないといった風に黙り込む。思い当たる節がいくらでもあるといった感じだ。

 所長はここに来て意外な落ち着きを取り戻し始めた様子だった。

 

 今まで所長は一人で秘密を抱え込んで、上司への恐怖と良心の呵責との間で苦しんでいた。

 勇気を出して秘密を打ち明けた今、彼は自分の中の壁をひとつ乗り越えたんだ。そのことが彼に、傷つくことをも厭わない勇気と覚悟を持たせたようだ。

 

 彼のことを偽善者だと思っていた。優しいけれど、自分が悪者にならないように隠し事をしてばかりのヒトだった。でも目の前にいる彼はもう偽善者じゃない。傷ついても自分の善を貫こうとする覚悟を決めた善者だ。

 

「・・・・・・ここからが肝要なのだ。このことは、君の部下にもみだりに口外しないでほしい。信頼できる人間だけに話してほしい。どうやって”女王”を生み出すかについてだ」

 

 所長がまたとんでもないことを言おうとしていることを悟り、私もカコさんも同時に息を飲んで身構えた。

 衝撃の事実の上に、さらにそれを超える情報が盛られていく。

 カコさんほどのヒトであっても冷静を装うことが不可能である様子だった。

 

「女王を生み出すためには、素となる”完璧なセルリアンの遺伝子”が必要だ。今Cフォースアフリカ支部研究所では、セルリアンの体組織を採取して培養を行っている。南アフリカほど多様なセルリアンの体組織が手に入る場所は他にないからな・・・・・・そうして培養したセルリアンは、フレンズと戦わせることで能力の試験が行われる」

 

「すべて合点がいきました。Cフォース研究部は、最強の人造フレンズ開発と、セルリアンの遺伝子研究を並行して行うつもりなのですね」

「そうだ」

 

 強いフレンズと強いセルリアンを、実験の名のもとに戦わせる。フレンズのデータも、セルリアンのデータも同時に集められるって寸法だ。

 研究して生み出されたセルリアンを相手に、私とクズリは戦わされる予定だったんだ・・・・・・。

 

(何で行ってしまったんだ、クズリ!)

 クズリがこの場にいてくれれば、この話を聞くことが出来ていれば、一緒にあらがうことが出来たかもしれないのに・・・・・・Cフォースを探すために出て行った彼女を待ち受けているのは、実験台としての扱いだ。

 最強の人造フレンズとやらを完成させるために、どんなひどいことをされるかもわからない。

  

 ヒグラシ所長が私の苦悩を察したかのように、車椅子の高さから心配そうに私を見ていた。

 あらゆる覚悟を決めた所長には、私のことを気遣う余裕すら生まれているようだ。

 そんな彼の邪魔をしたくないと思って「それで」と、彼に言葉の先を促した。

「どうやったらセルリアンの女王が生まれるの?」

 

「南アフリカの地中奥深くには、セルリアンの発生源と思しきコロニーがいくつか存在する・・・・・・アリの巣を想像してほしいのだが、コロニーの一番奥には、無尽蔵にセルリアンを生み出す卵管とも呼ぶべき場所があるはずなのだ。それを元に”女王”を作り出す」

 

「私たちもセルリアン・コロニーの存在は勘付いていました。ですが最奥に人間が到達することなど不可能です。ましてや卵管の回収など」

「回収などする必要はないのだ。女王の遺伝子と、育てるための栄養分を一緒にして、地下深くの卵管に向けて送り出せばいい。栄養分・・・・・・それは核だ」

 

「バカな!」

 ついにカコさんが椅子から立ち上がって、真っ青な顔でデスクを叩いた。積まれた書類や食器がいくつか音を立てて床に落ちた。

「核兵器を地中に向けて撃つつもりですか!?」

 

 カコさんの追及に、ヒグラシ所長は沈黙で答えた。

 核兵器のことは私も聞いたことがある。放射能を使った爆弾のことで、ヒトが使う武器の中では最も強力なものだと。

 その強力なエネルギーと、完璧な遺伝子を材料にして、地下深くの卵管に女王を生ませるというのだ。どんなに強力な兵器であっても、ヒトの兵器でセルリアンが傷つくことはないのだから。

 

 核兵器がもたらす被害は、地上を生き物が住めない世界に変えてしまう程のものだと聞く。

 にわかにゲンシ師匠と空手の修業に励んだ特急拘置所のことが思い出された。果てることなく瓦礫で埋め尽くされ悪臭を放つ大地。ゴミが浮かぶ黒く濁った海。

 師匠とのかけがえのない思い出の場所ではあるけれど、あんなにひどい風景は後にも先にも見ることはないだろうと感じたのも確かだ。

 そういえばあの拘置所は、ヒトの所業のせいで汚れた島の上に建てられたものだと師匠が言ってたっけ。

 

 この美しい南アフリカが、あの奇跡の花畑が、核兵器によって拘置所のように汚れきった場所に変えられてしまうのだとしたら・・・・・・

 

「なんで」

「なんでそんなひどいことをするの?」

 

 考えたことがそのまま口に出ていた。

 Cフォースとかそういうことは関係なしに、この世界に生きているのに、どうしてそんなことを考え着くのか、実行できてしまうのか不思議で仕方がなかった。

 

「・・・・・・きっと、前しか見えていないからだ」

 ヒグラシ所長はいくらかの沈黙の後、まとめきれない言葉を何とか形にするように答えた。

「周りのことも、過去も未来も見えていない。自分たちの進む先しか見ていないから、他のすべてを蔑ろに出来てしまうんだ」

「・・・・・・」

 

 ヒグラシ所長の密告がすべて終わり、狭いカコさんの寝室に今度こそ深い沈黙が訪れる。私も所長もカコさんも、三者三様に疲れ切って黙り込んでいた。

 机に手を付いて立ち上がっていたカコさんが、再び椅子に腰かけると「なんてことを・・・・・・」と顔を手で覆いながら嗚咽交じりに呟いていた。

 

「日暮博士、ともかく、あなたの情報提供に感謝します。よくぞこれほどの機密を話してくれました。あなたの身の安全は我々が保証します。どこかでしばらく身を隠せる手配を・・・・・・」

「断る。密告をしたのは、身の安全を買うためなんかじゃない」

 カコさんの気遣いを一蹴するように、所長が言葉を被せてきた。

「僕はグレン・ヴェスパーの狂った計画を潰したい。あの男から人造フレンズ達の自由を、そしてCフォースの本来の在り方を取り戻したい。そのために君たちパークに協力を申し出たのだ・・・・・・保護ではない。君たちと共同戦線を結びたい」

 

 ヒグラシ所長はそう言いながら車椅子を漕ぎ出すと、カコさんのデスクの前に止まって、おもむろに片腕を突き出した。

 カコさんが驚いたように顔を上げた。目の前にいる傷ついた痩せぎすの男が、身の安全を求めてすり寄ってきた弱者ではないことを、むしろ自分自身が戦いの中心に向かおうとしている覚悟を秘めていることを感じ取ったようであった。

 

「いいでしょう。日暮博士、私たちに協力してください」

 カコさんが所長の手を取り、力強く握手を交わしながら答えた。

 ついに所長はCフォースから袂を分かつ覚悟を決めてしまった。

 これからどうなるのかわからないという不安を抱きつつも、事態が進行していくのを黙って見守ることしか出来なかった。

 

「2人とも、今日はお引き取りください。明日、連絡が取れる仲間を集めて緊急会議を行います」

 

 

 夜が明けて、私とヒグラシ所長は難民キャンプが所有する中でも一番大きくて広いトレーラーの中に呼び出された。

 中央には大きな金属製の丸いテーブルがあり、それをグルリと取り囲むイスが無数に備え付けられている。一見して集まって話し合いをするための部屋だとわかる風情だ。 

 椅子に座っていたのはパンサーとスプリングボック、そして何度か顔を合わせたカコさんの側近とおぼしき屈強な数名の黒人兵士たちだった。

 

 難民キャンプの中心的なメンバーが集結している中に、カコさんが颯爽と現れた。

 その場にいる全員の視線が注がれる中、カコさんが颯爽と部屋の中心に向かって歩いていくと、小脇に抱えていた何かを円形テーブルの上に置いた。

 Cフォースが使っているナビゲーションユニットにそっくりな黒い球体だった。あれよりも一回り以上小さかったけれど。

 

「あれは全天周囲型ディスプレイだ」と、ヒグラシ所長が言い終える前に、黒い球体の全身から眩い光が放たれ、広いトレーラーの中を照らしつくした。思わず顔を伏せて光から目を逸らした。

 

 眩しさに光が慣れて目を開けると、今まで少数のヒトとフレンズが集まるだけだったトレーラー内部が、見渡す限りの人影に埋め尽くされていた。

 実体はなく、あくまで光の中に投射されただけの映像だったが、その数は半端じゃなかった。

 大多数は黒人だった。その中に白人も黄色人種も少なからず混じっている。

 さらにはヒトとまったく異なる外見をした、一目でフレンズだとわかる少女達もその中に映り込んでいた。

 

 カコさんは映像の向こうにいる大勢のヒトとフレンズに向かって、神妙な表情で高らかな声で、アフリカの言葉で何かを話し始めた。私には聞き取れない言葉だけれど、何について話しているかは考えるまでもない。

 昨日ヒグラシ所長が密告したCフォースの機密を、ここにいる全員に伝えているんだ。

 映像の向こうにいる誰もが、静かにカコさんの言葉に耳を傾けている。

 

 パークとは想像以上に大規模な集団のようだった。

 多数のメンバーを、少数のグループごとに分けてアフリカ大陸中に散らばらせているんだそうだ。彼らはそうすることでCフォースから見つかりにくくしている。

 さらに皮肉なことだけど、セルリアンがCフォースからパークの所在を隠してくれている。アフリカ大陸はセルリアンの本拠地と見なされ恐れられているがゆえに、Cフォースの監視の目が行き届いていないからだ。

 

 やがてカコさんが話し終えて一呼吸つくと、映像の向こうにいる多数のヒトとフレンズが背を向けて立ち去り始めた。

 このトレーラー内にいるカコさんの側近たちとパンサーたちも、それに続くように出口に向かって歩き始めた。

 一目散に解散する空気に従うままに、私もヒグラシ所長が乗る車椅子を押しながらトレーラーの外へと歩き出した。

 

 ちらりと後ろを見やると、カコさんがぽつんと見上げる映像の向こうには3人の男女が残っていた。それはパークの中枢にいるメンバーたちだという。彼らは広大なアフリカ大陸を4つに分割して、それぞれのエリアの指揮にあたっていると聞いた。

 

 西には「リベリアの将軍」。北には「エジプトの聖母」。東には「モザンビークの長老」と呼ばれる各エリアのリーダーがいるらしい。

 そして南エリアのリーダーであるカコさんは「南アフリカの新星」と呼ばれていると。

 パークの代表者たち4人だけで、何か内密な話し合いを行おうとしているようだ。

 

「彼らは核兵器のことについて会議を行うようだ」と、ヒグラシ所長が小声で耳打ちしてきた。

「核兵器のことを誰彼かまわず話してしまえば、きっと混乱が起こってパークの指揮系統が崩壊してしまう。君も口外するのは控えてくれ」

 

 トレーラーの外に追い出されたパンサーや側近たちが暗い表情でうなだれている。スプリングボックは苛立った目付きで私と所長を一瞥すると、やり場のない怒りに振り回されるようにその場から去っていった。

 核兵器の情報を除いても、最強の人造フレンズ開発とセルリアンの遺伝子研究の話を聞かされただけで混乱をもたらすには十分だったようだ。

 

「それにしても、カコくんは若いのに大したものだな」

 ヒグラシ所長は感服したようにため息を付いた。知識や行動力が並外れているだけでなく、他人を引き付ける天性のカリスマを備えている、と賛美の限りを尽くして彼女を褒めちぎった。

「彼女は僕なんかとは器が違う。歴史に名を残す可能性すらある・・・・・・僕は残りの人生を彼女に賭ける。Cフォースの過ちを正し、セルリアンという危機を乗り越えてヒトとフレンズが共存できる世界を目指すために」

 

「うん、そうだね。私も所長とカコさんの下で戦うよ、ヒトを守るために」

「・・・・・・アムールトラ、君が戦う理由がどこにある?」

「え? どういうこと?」

「僕に義理立てする必要はもうないのだぞ」

 

 所長から放たれる空気がガラリと変わった。それまでさっぱりとした穏やかな表情だった彼が、私を遠ざけるような厳しい顔つきになった。

「もう君に戦いを強制するものはない。平和に暮らすこともできる」

 

 私には戦いを捨てる選択肢もある・・・・・・ヒグラシ所長はそのことを私に言ってきているんだ。

 パークの本拠地に行けばオーダーを消すことが出来る。

 昨日カコさんが言っていたことだ。その言葉にしたがってオーダーを消し去り、自由の身を手に入れた後は、パークの庇護のもとで安全な生活を送ることもできるそうだ。

 実際にパークが保護している天然フレンズの中にはそういう子が何人かいるらしい。

 

「僕は過去を清算するために命を懸けると決めた。パークは己の理想のために、そしてあの2人の天然フレンズは愛する故郷を守るために戦っている」

「私だってヒトを守りたい」

「アムールトラ、君は人間のために犠牲になって当然なのか? なんで自分の命を、幸福を一番に優先しないのだ?」

 

「なんだよ、それ」

 私は所長が何を言っているのかわからなかった。言葉の意味はわかっても、心の底でそれを理解することを拒んでいた。

 今までの自分を否定されたような気持ちになった。

 私はヒトの命を守るために戦ってきた。それが当たり前だと思っていたし、そうすることだけが自分の役目だと思っていた。その役目さえなくなったのなら、私には何が残るんだ? 生きている理由なんてないじゃないか。

 

 目頭がぼうっと熱くなり、言葉にできない激しい感情が頭の中を回った。どうやって立っているかもわからないぐらい足元がぐらぐらしてきた。

「あなたが・・・・・・!」

 気が付くとヒグラシ所長の胸倉を掴んで持ち上げていた。のけ反るように宙に浮いた彼の体を、私の顔の高さで止めた。

 

「あなたが私にそうさせてきたんじゃないか! 今さら何を言ってるんだよ!」

 その場にいる誰もが振り向くような大声で、私は所長に怒鳴った。

 ヒトを超えた膂力で成すすべもなく宙吊りにされた所長は、恐れも驚きもせず、ただ強い意志を湛えた目で私を見つめていた。

 

「君のことだ。僕が戦うと言えば、なし崩し的に僕に付いてきて、当然のように命を懸けてしまうだろう・・・・・・それじゃ今までと何も変わらない! 人造フレンズの自由を取り戻すと決めたのに、さっそく君の自由を奪っていることになる」

「私は戦うしかない。それしかないよ・・・・・・帰る場所もない。待っていてくれるヒトもいない!」

「これから見つければいい。君なら出来る」

 

 所長は私を見つめたまま、胸倉を掴んでいる私の両手に、そっと自分の手を重ねてきた。ひんやりとした彼の体温が伝わってくる。

 まるで私が知っている所長じゃないみたいだ。優しくされたことはあっても、こんな風に言葉を尽くされたことはない。こんなに強く見つめられたこともない。

 

 いよいよ惨めな気持ちになってきて、所長を車椅子に降ろすと、今度は私自身がその場にへたり込んだ。熱くなって力が抜けた顔面から、涙がぼろぼろ零れている。

 

 やっと自分のことがよくわかった。

 今までヒトを守ることをお題目のように掲げてきたのは、善意からでも理想からでもない。私にはそれしかないって思ってたからだ。その言葉に依存していたんだ。

 それこそが私を縛るオーダーだった。他のオーダーなんか効かなくなるぐらいの強烈なものだ。だから言われるがまま、疑問にも思わずに戦ってきた。

 Cフォースとパークの間で揺れ動いた時も、クズリのように自分で選ぶことが出来なかった。そしてヒグラシ所長が覚悟を決めた今、例によって考えなく彼に付いて行こうとしていた。

 本当に私は、自分っていうものが何もない。

 

 地面にへたり込んで項垂れている私の肩に、所長が手を置いた。情けなく泣きじゃくる私のことを、優しく穏やかな顔で見下ろしている。

 

「・・・・・・私、何にもない」

「いや君には希望があるぞ」

「希望? 希望って何?」

「花の種みたいなものだ。地面に埋まっている時は見えないけれど、いつか美しい花になるんだ」

 

 

 それから数日経って、難民たちの避難が少しずつ始まった。難民の振り分けはおおよそ国連に委託できるようになったらしい。その後のキャンプの運営はカコさんの部下だけで回せるようにしたらしい。

 

 カコさんは、核兵器を地中に打ち込んでセルリアンの”女王”を生み出すというグレン・ヴェスパーの野望を打ち砕くために、精鋭のメンバーを集めて極秘裏に動き出すことに決めた。

 行き先は「ケープタウン」と呼ばれる南アフリカ有数の大都市だそうだ。

 そこはセルリアンが20年前に出現してから、最初期に落とされた死の街・・・・・・未曽有のセルリアンがひしめき合う危険地帯らしいのだけれども、都市の機能はまだいくらか残っていると。

 目的はふたつ。核兵器が落とされる具体的な地点の情報を入手すること。その情報をもとに、世界中の放送をジャックしてグレン・ヴェスパーの企みを白日のもとに晒すこと。

 そのふたつを行えるのは、この近くではケープタウン以外には考えられないとのことだ。

 

 実働班には、カコさんとその側近が数名。パンサーとスプリングボック、情報提供者としてヒグラシ所長も加わる。目的はあくまで戦闘ではなく情報収集なので、これぐらいの少人数で動くのが望ましいとのことだ。

 後々にはCフォースと一戦構えることになることも想定して、アフリカ大陸中から少しずつパークのメンバーや協力者である天然フレンズ達が南アフリカに集結するとも聞かされた。

 

 そして結局、私もカコさん達に付いていくことになった。

 所長は最後まで私が来ることに反対し、カコさんもそれに同意していたけれど、部下からの反発がすごかったらしい。

 オレンジ川での私の戦いぶりを見ていた彼らは、戦力として私を使わないことはあり得ない、とカコさんに意見をぶつけたそうだ。彼らの声のおかげで私は戦列に加わることが出来た。

 

 今日は私たちがキャンプを発つ日だ。ナマクアランドを出て、南アフリカ西岸から海に漕ぎ出すらしい。海路は陸路よりも追跡されにくいという利点があるからだ。

 

 私は見納めにと思って、奇跡の花畑を訪れていた。ここに来ればいつでも優しい思い出に浸れる。嫌なことを全部忘れて、サツキおばあちゃんに撫でられていたあの頃に戻れる。

 今の自分を見失っている私にとって、最早すがれる物といえば過去しかない。

 

「おーい! アムールトラ!」と、私の感傷を打ち消すように、ヒグラシ所長が丘の下から大声で呼びかけていた。

 何ごとかと思って丘を降りて所長に近づくと、車椅子を漕いでいる彼の膝元には一冊の分厚い本が乗せられていた。花の写真が表紙になっている。

 

「これは植物図鑑だ。あの花畑に咲いている花も全部載っている」

「・・・・・・いきなりどうしたの?」

「アムールトラ、君は花が好きだろ。この図鑑を自分で読みたいとは思わないか?」

 

 所長は私に読み書きを教えたい、と言ってきた。本を読めば自分の世界を広げられると、それが希望になると言った。

 彼は私が研究所から去った後、後輩の人造フレンズ達に読み書きを教えていたんだそうだ。中にはそれを喜んでくれた子がいたらしくって、私にも同じようにしたいんだと。

 

「別に読めなくていいよ」と、所長を冷たく突き放してその場を後にした。彼の気遣いも、今はうざったかった。

 どうせ私は戦うだけの存在なんだ、本なんか読めるようになったって何の意味もない。

 

 卑屈な気分のままキャンプの雑踏を歩いていると、目の前に見知った姿が現れた。美しく長い亜麻色の髪の隙間から、不機嫌そうな相貌で私を睨み付けている。

 腕を組んで仁王立ちで立ちふさがって、いかにも私に物申したいような空気だ。

 

「スプリングボック・・・・・・ごめんね。君は私が嫌いかもしれないけど、これからもよろしくね」

「そんなことはどうでもいいです。シベリアン、貴様は今日ここを発つというのに、アマーラに挨拶をしていかないのですか?」

「え、アマーラに?」

「あの子は貴様のことを友達だと思っています。別れの一言ぐらいあってもいいはず。この近くに彼女が暮らすテントがあります。付いてきなさい」

 

 スプリングボックの意外な申し出に呆気に取られてしまった。

 何というか、感情表現が真っ直ぐすぎるぐらい真っ直ぐな子だ。相手に憎しみも100%ぶつけるし、優しさも同じようにぶつけてくる。その両極端な感情が矛盾なく同居していて、バランスが取れてしまっているんだから不思議なもんだ。

 

 確かにアマーラに会っておきたいと思った。私に花や笑顔をくれた彼女の気持ちに対する友情を感じた。

 だけど、ここで一つ困ったことになった。私は彼女に挨拶が出来ない。アフリカの言葉で話せないからだ。それを聞いてスプリングボックも同じように首をかしげてしまった。

 

「貴様の言葉も、私たちの言葉も、区別がつかない」

「そうだよね。フレンズは違う言葉が同じように聞こえてるだけだもんね」

「おーい! ここにいたのかアムールトラ!」

 立ち往生していた私たちに、後ろからヒグラシ所長が車椅子を漕いで近づいてきた。先ほど私に冷たくあしらわれたのを全く気にしていないようだ。

 

 彼は私に耳を貸すように手招きすると、耳元である言葉を囁いた。私はそれにうなづくと、スプリングボックの案内を受けてアマーラがいるというテントの中に入っていった。

 

 狭く薄暗いテントの中で、アマーラは台所に立って仕事をしていた。片手しか無くてもやっぱり彼女は器用で、まな板の上に乗せたジャガイモの皮を包丁で剝いていた。

 そうして丸裸にされたジャガイモがボールいっぱいに乗せられている。

 

 突然にテントの暖簾をかき分けて、光りを取り入れながら中に入ってきた私を見て、アマーラがビクリと振り返った。

 私はその場に膝を付いて、恐る恐る両手を差し出した。

 彼女も包丁をまな板の上に置くと、おっかなびっくりな顔で、それでも私の手を取ってくれた。

 

 跪いた私と、立っている彼女の目線は丁度おなじ高さだ。真っ直ぐに見つめ合う彼女に向かって、私は用意していた一言を告げた。

「タータ!」

 ヒグラシ所長に耳打ちされて教えられたこの言葉は、アフリカの言葉で「さようなら」「またね」みたいな意味なんだそうだ。

 他にいくつも同じ意味の言葉はあるけど、これが一番簡単で、言い間違いがないらしい。

 

 アマーラは笑みを絶やさないままキョトンとした瞳で、私に向かって何かを話し始めた。聞き取れない言葉に向かって私は「タータ、タータ」と繰り返し応えた。

 

「アマーラは貴様の名前を聞いているんですよ」と、後ろからじれったそうにスプリングボックが助け船を出してくれた。

 私の名前、そうか・・・・・・名前を名乗ることなら、言葉が通じなくたって出来る。

 

「私は、アムールトラ」

「・・・アム・・・アムルトラ!」

 

 アマーラが弾けるような笑顔で、私の名前をたどたどしく復唱してくれた。彼女が今見ているのは、Cフォースのアムールトラじゃない。ただのアムールトラだ。

 

 私は今日から、ただの私として生きていく。

 空っぽな自分を埋めるために戦うことに依存するんじゃない。新しい自分を手に入れるために戦うんだ。自分の中にある希望を信じて。

 新しいことを知れば・・・・・・たった一つの言葉でも知ることが出来れば、そこから新しい世界が広がっていくのだから。

 

 

「日暮博士、ここにいたのですか、シベリアン・タイガーと、スプリングボックもそこにいるのですね」

「すまない。もうすぐにここを発てるさ」

「別にかまいませんが・・・・・・あなたに大事なことを聞き忘れているのに気づきました」

 

「何だね、それは」

「Cフォースアフリカ支部研究所とやらの所在についてです。私たちはCフォースの大概の施設は把握している・・・・・・ですがアフリカ支部研究所というのは、いくらハッキングを行っても情報が手に入らないのです。セルリアンの培養実験も、核兵器を搭載することも、並みの規模の研究所に出来ることではありません。かなり大規模な施設でなければ・・・・・・しかしそんな施設が存在するならば、私たちに見つけられないはずがないのです」

 

「見つけることは不可能だ。なぜならアフリカ支部研究所は、地上には存在しないのだ」

「・・・・・・地上にはない? ではどこに?」

「アフリカ支部研究所は、地上数十キロメートルの高さを移動する、成層圏プラットフォームなのだ。センサー対策も完璧で、地上から行方を補足することは極めて難しい。そこから無数の輸送機や爆撃機を発進させて地上に送っている。だからセルリアンのサンプル回収も容易に行える」

 

「成層圏プラットフォーム!? そんなものを維持運営することなんて、国家レベルの予算でもなければ・・・・・・」

「出来るのだよ。Cフォースには、グレン・ヴェスパーには」

「敵は遥か空の上・・・・・・いいでしょう。彼らが巨象ならば、私たちはアリです。アフリカのサスライアリは、ゾウをも倒すことが出来るのです」

 

 to be continued・・・

 




_______________Cast________________
 
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種 
「アムールトラ(シベリアン・タイガー)」
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属
「パンサー」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・ウシ科・スプリングボック属
「スプリングボック」

_______________Human cast ________________

「日暮 啓(ひぐらしけい)」
年齢:51歳 性別:男 職業:Cフォースアフリカ支部職員(元日本支部研究所 所長)
「久留生 果子(くりゅうかこ)」
年齢:25歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 南アフリカ事業所代表
「アマーラ・アモンディ(Amara Amondi)」
年齢:8歳 性別:女 職業:南アフリカ北ケープ州市民

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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