海に沈んだジャパリホテルにたどり着いたともえ達。
____・・・ジャラッ・・・
「ウゥ・・・」
自分の体が眠りから目覚めたことに気付いた。ここはどこだろう? 狭くて冷たくて、何もない場所だ。自分以外には誰もいない。寝ている間に、首に鎖が付けられている。つくづく鎖に縁がある人生だ
最後の記憶は、あの草と岩の丘だ。あそこで私は、何者かに捕えられた。私をここに連れてきたのもその者たちだろう
・・・だが、その者たちを責める気持ちはない。こういうことになったのは、私のせいだ。私はなるべく人目を避けて隠れ住んできたつもりだった。フレンズに遭遇すれば、自分の意志と関係なく私の体は暴走をはじめる
なのに、なぜ私は、誰かと遭遇してしまうかもしれないような場所をうろついたのか・・・なぜ同じ場所に長期間留まってしまったのか・・・最近の私の行動は異常だ。そんなことをしていたら、こういう目に遭っても仕方がない
自由のない檻の中・・・だがしかし、ここは私にとって、悪い場所ではないのではないか? ここに閉じ込められ続けていれば、誰も傷つけずに済む。私はいつも、そういう場所を探していた。誰にも知られずにいられる場所を・・・そうだ、この場所に留まり続けよう・・・そうするより、他にない・・・
どうせ、私の心はすでに死んでいる、後は肉体がそれに追いつくのを待つだけだ・・・
「・・・・・・(ついにビーストが覚醒した・・・心拍数、血圧、血中酸素飽和度ともに正常値・・・)」
「あ、あの~・・・?」
「・・・・・・はい?」
ビーストを入念に観察していたハツカネズミの後ろから、声をかける者がいた
オオコノハズク達の弟子の一人、メガネフクロウだ。オオコノハズク達とは交替でビーストを見張ると決めた。そしてそれの補佐をする弟子たちも同じだ。今はハツカネズミとメガネフクロウがビーストを見張っていた
仕事上偶然一緒になっただけの、お互いを良く知らない二人同士、特に会話もなく、沈黙のまま時間が経っていた
「いや、自分喋んないの苦手でしてww ハツカネズミ博士とちょっとお話出来ないかって思ってww? 」
「・・・・・・そうですか。それで・・・何の話をすればいいのですか?」
「何の話ってww えーとww疲れたっすねww」
「・・・・・・私は別に疲れていません」
「そっすか。それにしても、ビーストって怖いっすよねーww?」
「・・・・・・どう思おうが・・・やるべきことをやるだけです」
「はは、そうっすよね・・・ww(うわぁ・・・アタシこの人苦手だしwwビーストより苦手だしww)」
ウィィィィン・・・
噛み合わない会話が交わされていた密室の扉が突如開かれた。先ほど呼び寄せたオオコノハズク博士、ワシミミズク助手の後ろから、本来ならここにいるはずのない三人の人影が・・・
「待たせたのです」
「わ~~~んww博士~~~ww」ガシィ ブンブン
「一体なんなのですメガネフクロウ! 落ち着くのです! ・・・ハツカネズミ博士、状況を教えるのです」
「・・・・・・先ほど・・・無線で連絡した通りです。ビーストは動く様子を見せません・・・ただ起きただけ・・・それより・・・あなた達こそ・・・説明してください・・・なぜ・・・部外者がいるのですか?」
「・・・そ、それは・・・」
「(食い物に釣られて部外者入れたなんて、言えるわけないよなー)」
「ビ、ビーストの調査に必要と思い、ここに招いたのですよ・・・ともえ、ほら、あなたの見解を述べるのです!」
「あ、う、うん・・・あたしは・・・かくかくしかじかで・・・」
「・・・・・・なるほど・・・・・・ビーストと会話し・・・和解する・・・ですか・・・ビーストにこちらの意志が通じる可能性があると・・・。・・・それと関係あるのかはわかりませんが・・・ビーストを捕獲する時に・・・ある違和感を感じました」
ハツカネズミは説明した。ビーストを捕鯨網の中に捕え、相対した刹那、ビーストの中から膨れ上がる殺気を感じたことを、そしてその殺気が、突如薄れていったことを
「・・・・・・ビーストを無事捕獲できたことは・・・幸運でした・・・私はあの瞬間・・・作戦は失敗したと思いました。ビーストの威勢が・・・何らかの原因で削がれたことで・・・捕獲することが出来ました・・・あの時・・・ビーストに何が起こったのか・・・それは・・・解明する価値があるでしょう・・・」
「ほう、ほう・・・わかりました。やはり私達は、間違っていなかったのです。そうですね、ともえ」
「・・・あ、いや、それはわからないけど」
「博士、ハツカネズミ博士、とりあえず当初の予定通り、ビーストに何らかの刺激を与えて、反応が変化するかどうかの実験を行いましょう・・・メガネフクロウ、仕事の時間なのです」
「ひぇ・・・! な、なんっすかww? ワシミミズク准教授ww?」
「ビーストに餌をやるです」
「あの、餌ってなんすか・・・ww?」
「餌といえばジャパリまんと水に決まっているです。さあ、下に行って、ビーストに与えてくるのです。あらかじめ話した通りにやれば、危険はないのです」
「あ、ああ・・・wwそうっすねwwジャパリまんと水、ビーストにあげてくるっすww」
メガネフクロウは、小走りで部屋の隅に走った。部屋の隅には、小さな階段があった
そしてあっという間に階下へと消えていった。
「あの、この部屋、どうなっているの? ビーストは一体どこに?」
「・・・・・・どうぞ・・・ここへ来てください」
ハツカネズミがともえ達を部屋の奥の壁へ手招きした。薄暗くてよくわからなかったがそこはガラスになっており、その奥の空間が透けて見えた。しかしガラスの向こう側にはただ無機質な壁が見えるだけ・・・
「・・・? 何も、ないけど」
「・・・・・・下を見てください」
「・・・あ!」
言われた通りに下を見下ろすと、そこにはある程度の広さの部屋があった。その部屋の隅っこに、見覚えのある橙色の姿が、壁を背にひっそりと、胡坐をかいて座っていた
ビーストの首元には、大きな首輪と、それにつながる鎖が付けられていた。開かれた目は遠くを見ているような、何も見ていないような、虚ろな様子だった
コンッ・・・コンッ・・・・・・スススッ
下の空間の、ビーストがいる側とは反対側、ともえ達が見下ろしている側から小さなトレイが出てきた。トレイの上には数個のジャパリまんと、水の入ったコップが乗せられて
いた
トレイは細長い棒で押されながら、ゆっくりとビーストの方へ近づいていった。ビーストに与える食料だ。食料を押し出しているのは、たった今下に降りていったメガネフクロウだろう
やがてトレイは、ビーストのすぐ前で止まった。メガネフクロウが持つ棒は、急いで部屋の奥へ引っ込んだ。ビーストは、目の前にある食料に見向きもしなかった。ただ、微動だにせず座っていた
「ほう、何も反応しないです。」
「・・・・・・おそらく空腹と思われますが・・・反応、しない理由は・・・?」
「博士、ハツカネズミ博士、少し様子を見るのです。ビーストは明らかに警戒しているです。時間が経てば、警戒心が薄れてくる時があるはずなのです。」
「あの・・・」
学者たち三人の会話に、ともえは口を挟んだ。
「あの、ビーストが元々フレンズだったって教えてくれたけど、ビーストは何のフレンズだったの?」
「ん・・・? ああ、ビーストは元々「アムールトラ」のフレンズと思われるです。様々な文献で集めた情報と、身体的特徴が一致します。まず間違いないのです」
「アムール、トラ・・・? 文献で集めた情報?」
「かつて極寒のちほーに住んでいたといわれる、最大のトラなのです・・・というかそのあたりは、すでに知っていると思っていましたが? そこの、あなたが連れているラッキービーストに教えてもらわなかったのです?」
「ああ、ラモリさん、フレンズのこと、あんまり詳しくないんだって。ね、ラモリさん」
【・・・ソウダ。フレンズ ノ セイタイ ジョウホウ ハ オレ ノ メモリー ニ キロク サレテ イナイ。ホカ ノ ラッキービースト ト オレ ノ ヤクメ ハ チガウ】
「フレンズに詳しくないラッキービースト・・・? 見た目といい、ますます妙なのです」
「うーん、他のラッキーさんを良く知らないけど、そうなんだ? でもラモリさんは、ヒトの道具の使い方とか、歴史とか、ちほーの気候風土とか、すごく詳しいんだよ」
【ソレヨリ トモエ、コレカラ ドウスル キ ダ?】
「う、うん・・・あの、オオコノハズクさん、ワシミミズクさん、ハツカネズミさん・・・もしよければ、あたしが、アムールトラさんに、声をかけて見ても良いかな?」
「ともえよー、それは、さすがにOKしてくれないんじゃねー?」
「いや、いいでしょう、特別に許可してやるです。いいですね、助手、ハツカネズミ博士」
「異論はないのです」
「・・・・・・ビーストの反応を調べるためには・・・有効・・・かもしれません・・・」
「えっ、意外とすんなり」
「私達が躊躇したのは、部外者に私達の研究を知られることです。知られてしまったからには、特に気に留めることはないのです」
___タッタッタッ! ピョン!
部屋の下に降りていたメガネフクロウが、大急ぎで階段を駆け上り戻ってきた
「ヒェ~~ww あ~まじ怖かった~ww」
「ごくろうです。しかし、何もそこまで恐れなくても・・・あの檻なら、ビーストが暴れてもまず安全なのです。」
「ですけど~ww ビーストを、間近で拝むと、やっぱ迫力スゲ~ッすよww」
「あの階段を下りればビースト、じゃなくてアムールトラさんに会える・・・よし、あたし行ってみる」
「わふっ、待ってください! ともえさん、わたしも、わたしも一緒に・・・」
「・・・・・・いいえ・・・行くなら一人でお願いします・・・多人数で押しかけても・・・ビーストを無駄に刺激するだけですので・・・」
「でもっ・・・」
「イエイヌちゃん、大丈夫だよ。心配しないで」
「はい・・・」
コツン・・・コツン・・・
ともえはゆっくりと、狭くて暗い階段を下りていった。そして一番下にたどり着いた。灯りは上の部屋からしか当たらない。何の音もしない。そして、何も物がない・・・なんて寂しくて冷たい感じのする場所だろう、と思った。ともえは牢屋のすぐ前まで近寄った
一本一本がともえの腕と同じような太さの鉄格子を掴み、暗い空間の奥に浮かび上がる姿を見つめた
「あの・・・」
アムールトラの側からも、ともえの姿は確実に見えているはずだった。しかしアムールトラは相変わらず俯き、その瞳に何も映そうとしなかった
「はじめまして、って言うのも変だよね・・・あたし達、何度か会ったよね」
「・・・」
「あたしの名前、ともえっていうの。あなたは、アムールトラさんだよね?」
「ッ・・・」
アムールトラは、長らく呼ばれていなかった自身の名前を聞き、一瞬だけともえの方を見やり、目が合った。しかし、そのすぐ後には視線を外した
「あなたとお話がしたいの・・・あの時の続き・・・。だから、その・・・あなたのことを、もっと教えて欲しくって・・・」
ともえは息を押し殺しながら、アムールトラの反応を待った。恨み言でもいい、気持ちを言葉として吐き出して欲しかった
「・・・ナ・・・」
「え?」
「・・・ハナシ、カケルナ・・・」
アムールトラは、絞り出すように、喉を振るわせて声をだした。何の感情も感じない声
だったが、明確にコミュニケーションを拒絶するという意志を伝えた。
「ア、アムールトラさん、あたしはあなたの敵じゃないよ。お話がしたくて、ここに来たの!」
「・・・キエテ、クレ・・・」
ともえは、今この場で、これ以上話すことは無理だと悟った。微動だにしないアムールトラの姿が、より一層かたくなに思えた
「うん・・・ごめんね。あたし、帰るよ」
「・・・」
コツン・・・コツン・・・
「あ! ともえさん・・・」
「はは・・・なんか、全然ダメだった」
「いや、やはりあなたを呼んで正解でしたです」
「怪我の功名というやつなのです、博士」
「え? 何も話せなかったよ?」
「・・・・・・いえ・・・話しました。ビーストが言葉を発しました・・・つまり・・・ビーストとはコミュニケーションが出来る・・・というあなたの仮説が実証されました・・・」
「あ、そうか。確かに、アムールトラさんが喋ってるの、はじめて聞いた・・・ところで・・・アムールトラさんをここから外に出してあげるには、どうしたらいいの?」
「ビーストがフレンズを襲う原因と、防止策が明らかにならない限り、外には出せないのです。そのためにももっとビーストを研究する必要があるです。だから、ともえ・・・もっと話しかけて、ビーストの発語を促すのです」
「うん、わかった・・・けど、普通に話しかけただけじゃ、アムールトラさんは何も話してくれないと思う。だから、何かやり方を考えなきゃ・・・・・・・・・あ、そうだ!」
「? 何なのです?」
「オオコノハズクさん、さっき言ってたよね。文献で集めた情報でアムールトラさんのことを知ったって。その文献を見せてもらえないかな?」
「ほう、何か考え付いたですか? ・・・まあ、見せるだけならただです。メガネフクロウ、アレとアレとアレとかその辺を研究室から急いで取ってくるです」
「ま、またパシリっスか~ww? 」
メガネフクロウは勢いよく部屋を飛び出すと、ものの数分であっという間に舞い戻ってきた
「へー、俺様ほどじゃねーけど足の速い鳥類だな」
「はぁ・・・はぁ・・・これでいいっすかww」
~~~~「野生ネコ大百科」~~~~
~~~~「密林の帝王 トラの不思議100」~~~~
~~~~「虎に関する史話と伝説民俗」~~~~
~~~~「阪神タイガース その挫折と栄光」~~~~
~~~~「令和の虎」~~~~
「ありがとうメガネフクロウさん! やっぱりそうだ、動物図鑑みたいな本だ! この5冊、ちょっとあたしに貸してくれないかな?」
「ごくろうメガネフクロウ。で、その本をどうするですか?」
「うん、ちょっとひらめいたことがあって・・・ふむふむ」 ペラペラ
「さすがにヒトのフレンズは、苦も無く字が読めるようですね・・・それはともかく、ここで読書に耽られては困るです」
「今日のところは、上に戻って休むです」
「え、ここで何かお手伝いすることは出来ないの?」
「・・・・・・ここには・・・食料も寝床も・・・我々の分しかありません。だから・・・上で、食事と・・・休息を・・・」
____グゥゥゥッ・・・
「やっべー、そういえばリャマさんところで朝食食べたきりじゃねーか、今、夕方ぐらいか? めっちゃ腹減ってんな」
____グゥゥゥッ・・・
「クゥン・・・わ、わたしも」
「ほう、ははは、イエイヌもロードランナーも、中々大きな腹の虫なのです」
____キュルルッ・・・
「え、な、何です今の音は?」
「あたしの・・・腹の虫だよ」
「変な音なのです」
「変過ぎるです」
「ほ、ほっといてよぉ」カァァァッ
ともえ達3人が、アムールトラの監視部屋を出て、その先の研究室を通り過ぎ、上へと向かうエレベーターの前まで来ると、後ろから呼び止める声が聞こえた
「・・・・・・私も・・・上に戻ります・・・」
「あ、ハツカネズミさん」
「・・・・・・ちょうど交替の時間ですので・・・上での仕事をしようかと・・・」
エレベーターにてホテルの階層へと戻ると、窓ガラスから覗く海の中もすっかり暗くなっており、太陽が沈んでしまったことを示していた。ホテルはすっかり夕食時で、宿泊客はみんなどこかで食事をとっているのか、ロビーでは人影をほとんど見かけなかった
ともえ達とハツカネズミが4人で歩いていると、どこからか言い合う声が聞こえた
≪いくら頼んでもダメです! そんな危険なことを許可するわけないでしょう!≫
≪で~も~! 本当にスゴかったんだから! あれを持ち帰れたら、良い客引きになるよ~! ねっ支配人お願い!≫
「おー? 何だ何だー?」
「あれは、オオミミギツネさんと、マイルカさん? それと頭にヒレのあるフレンズの人達が数人・・・」
「あ、お客様! お戻りになったんですか? ・・・すみませんお見苦しい所を・・・ハツカネズミさん、仕事は一段落したんですか? 今日はもう休む?」
「・・・・・・いえ・・・最近、あまりこちらで仕事できてなかったから・・・それより今、何の話をしていたのですか・・・?」
「あ、ハツカネズミさんも聞いて!」
海生哺乳類のフレンズ達は語り始めた。つい先日のこと、船頭を務める彼女たちは、いつものように、仕事帰りに集まって海中を泳いで遊んでいた。普段は、暗闇である夜の海中を"ソナー"頼りに泳ぎ回っていたが、ある時"眩しい青い光を放つ何か"が海底にあるのを見つけたという
彼女たちが不思議に思って近づいてみると、青い光の近くを"船みたいな大きな影"がゆっくりと動いているのを見つけた
彼女たちはその影が怖ろしく思えて、岩陰や、海底に沈む古代の建物に隠れてやり過ごした
影がどこかへ消えた後で、再び青い光を探してみたものの、光は失われており、見つけることは出来なかったという・・・
「だから、明るい昼間のうちに、青い光の正体を探してみたいの! あれ絶対すごい宝石か何かだよ!」
「・・・・・・それは・・・ウミホタルや、クラゲなどの・・・水中で光る生物とは違うのですか・・・?」
「ああいうのとは全然違うよ! 太陽みたいに眩しかったもの!」
「わふっ、ともえさん、聞きました? 突然光ったり、消えたりする何かって、もしかして、もしかして・・・」
「もしかしなくても、オーブだよなぁー?」
「うん、ラモリさんが言ってたこととも一致するよね・・・白じゃなくて、青いオーブか・・・あ、オーブっていうのはね、かくかくしかじかで・・・」
「・・・・・・つまり・・・あなた達が探している物なんですね・・・それをすべて集めれば、セントラルエリアへの道が開かれ、他の“ヒト”に会えると・・・」
「そ、それより、動く大きな影って何なんです!? ホテルに危険が及ぶような物なら支配人として看過できませんわ!」
「・・・・・・フレンズよりずっと大きくて、動く生物・・・といえば・・・セルリアンしか該当する
ものがありませんが・・・」
ハツカネズミの口から出た単語に、その場にいる全員がざわついた
「・・・・・・しかし・・・海中で活動するセルリアンなど、聞いたこともありません・・・セルリアンの体表が水分に触れると、体の組成を維持できずに溶けてしまう・・・と、オオコノハズク博士達から聞きました・・・だからこのホテルには、セルリアンの危険が及ぶことはないと・・・だから支配人、ひとまずセルリアンの線は薄いです・・・」
「そ、そう・・・? あなたがそう言うのなら、信じるけど・・・」
「支配にーん! お客様がどうしても欲しい物なんだってさ! だから、やっぱり探しに行かせてよー!」
「あなた達・・・お客様の事情にかこつけて、探検ごっこがしたいだけなんじゃないの?」
「うん、ここはオオミミギツネさんが決めるべきだよ。ホテルのみんなが危ない目に遭うかもしれないんだもの・・・あたしだって、無理は言えないよ」
「ともえー、そんなこと言ってる場合かよー、つい先日だってオーブを手に入れそこなったんだぞー」
「えぇ、でも・・・関係ないホテルの人達を巻き込むのは・・・」
「だからよぉー、オレ様もそこに付いていくぜー! それならフェアだろーよ?」
「ろ、ロードランナーちゃん?」
「え? どこに行くかわかってんのー? 海ん中だよ? アンタ鳥じゃん」
「そ、それはよー、何か手があんだろぉー?」
「えー何それー、泳げない子は連れてけないからね」
「・・・・・・スキューバ・・・自給気式水中呼吸装置・・・つまり、水中に適応していない生物でも、長時間水中での活動が出来るようになる道具があります・・・ロードランナーさんには・・・それをお貸ししましょう・・・」
「えっ、マジで! よ、よっしゃ、決まりだぜー! ともえはビーストの研究を手伝う。イエイヌはともえの傍に付いて守る、でーオレ様はオーブ探し! これが明日の予定っつーことで!」
「わふっ・・・ロードランナーさんはいつも、ごーいんぐまいうぇい、ですね」
「ちょっと、ハツカネズミさんも、後押しするようなことを言わないでください」
「・・・・・・すいません支配人・・・オーブは何やら、未知の物質らしいので・・・私も見てみたいと思って・・・」
「もう・・・。いいわ、わかりました。明日、そのオーブとやらを探しに行くことを許可します・・・あなた達、もう、今日は帰りなさい」
「「「はーい! おつかれさまでしたー!」」」
「はぁ・・・気苦労が絶えないわ。あ、お客様、お夕食がまだお済みでないなら、食堂へご案内しますわよ? ハツカネズミさん、あなたもまだでしょう? 一緒に来なさい」
ともえ達がオオミミギツネの指差した先へ向かおうとしていた矢先、通路の向こうから声をかけてくるフレンズがいた
≪はぁ、はぁ・・・あ、ハツカネズミさん、ちょうどいい所に!≫
「・・・・・・ブタさん・・・どうかしましたか・・・?」
「はぁ、はぁ・・・ほら、あの機械、自動で洗濯物を乾かしてくれるアレ、調子が悪くって・・・お部屋のアメニティが準備できなくて困ってるの、ちょっと、見てみてください」
「・・・・・・乾燥機が故障したのですか・・・わかりました・・・・・・では、皆さん・・・失礼します・・・」
「ま、待ちなさいブタさん、ハツカネズミさんは休憩中なんですのよ?」
「・・・・・・構いません・・・支配人・・・食事は仕事をしながらでも出来ます・・・では」
ハツカネズミはブタに招かれ、一足先に去って行った
「へぇ・・・仕事熱心な人なんだな」
「ええ、仕事ばっかりじゃなくて、遊んだり、美味しい物を食べたりしないかと言っているのですが、まるで興味がないようなのですの。まあ、珍しい物とか、機械の仕組みとかには興味があるみたいですけど」
「わふっ、あの、オオミミギツネさん、ハツカネズミさんは、このホテルで働く前、どこで何をしていたんですか?」
「私も、それはわかりませんわ。何しろ自分のことは話さない子だから」
「そ、そうですか・・・」
オオミミギツネの案内を受け進むと、赤絨毯にシックな木製の柱が立ち並び、高い天井からシャンデリアが垂れ下がる、ひと際豪華な内装の広間に出た。宿泊客のフレンズ達が談笑しながら食器をつつく音で賑やかな場所だった。オオミミギツネはウェイターに話しかけ事情を説明した
承ったウェイターが、ともえ達を空席に案内した。オオミミギツネはともえ達に笑顔で会釈すると、食堂を後にした。少し経つと、料理が次々と運ばれてきた。海鮮野菜サラダ、ナスとジャガイモがたっぷり入ったチーズドリア、海に面したちほーでしか作られていないという黒いジャパリまんetc・・・
「ガツッモグモグッ ゴックン・・・プハーッ、生き返るぜーこいつはよー!」
「ともえさん、美味しいですね!」
「・・・うん」
「・・・ともえさん?」
「・・・アムールトラさんは、ちゃんとご飯、食べたかな・・・」
「・・・あ・・・はい」
「食べなかったの、何か理由があんのかなー? ぜってー腹減ってるだろーにな」
ともえは食事に集中できず、味もよくわからなかったが、とりあえず腹は満たされた。明日までに、博士たちから借りた本を使ってやることがある。そのために、早くどこか落ち着ける場所に行きたい・・・そう考えていると、一人のフレンズに声をかけられた
≪カッカッカ! よう! 楽しんでるか!?≫
「あ、あなたは?」
「オレはハブってんだ。このホテルの副支配人だが・・・まあ実質、ホテルで一番偉いフレンズだ」
「ハブさん? はじめまして。あたし、ともえ。こっちはイエイヌちゃんで、こっちはロードランナーちゃんだよ」
「カッカッカよろしくな。ところで、このオレが直々にこのホテルを案内してやってもいいぜ」
「おー? マジかよー?」
「あの、あの・・・ともえさん、ロードランナーさん・・・私、ちょっと行きたいところがあって・・・」
「カッカッカ、案内してやっから言ってみな」
「あ、いえ、良いんです。わたし一人で行こうと思ってて・・・ともえさん達とは、すぐ合流します」
それだけ言うとイエイヌは、足早にその場を立ち去って行った
「どうしたんだろイエイヌちゃん」
「あー、あれじゃねー? ・・・その、お花を摘みにさ。イエイヌはそこらへん恥ずかしがるからなー」
「えぇ? そんなことかな? あ、ところで、あたしもこの本を早く読みたくて、ホテルの案内はまた次の機会に・・・」
「おいおい、案内してやるっつってんのに、次々いなくなるなよ」
「ともえー、行って見よーぜ。このホテルには、ヒトの機械とか色々あんだろー? 絶対なんかタメになるもんがあるって」
「それはそうだけど・・・わ、わかったよ」
「さあ付いてきな、まずはこのホテルで一番流行ってる所に案内してやんぜ!」
_____・・・キュッ キュッ・・・カチャン
場面は変わって、ここはホテルの“りねんしつ”。ブタに呼ばれたハツカネズミが目の前の、フレンズの背丈ほどの機械の修理に取り掛かっていた。機械の背面からドライバーをねじ込み、外装を取り外して中身を観察した
「・・・・・・これは・・・」
「ハツカネズミさ~ん、どお? かんそうき直りそお?」
「・・・・・・ええ・・・ブタさん・・・バックフィルターに異物が絡まっていました・・・これなら簡単です・・・」
「そお? 良かった~」
「・・・・・・すぐに動かせるので・・・今の内に洗濯物を集めてきてはどうですか・・・」
「は~い! 良かった~、これで洗濯物がサラサラのホカホカになるわ~!」
______コン、コン・・・
「・・・・・・ん・・・?」
ブタが踵を返して仕事を始めようとした瞬間、渇いた音が鳴った。普段なら忙しく従業員が出入りするだけのリネン室の扉に、丁寧なノックをして訪ねる者がいた
≪わふっ・・・あの、あの、すいません≫
「はい~どなたです~? 道に迷われたんですか? ここはお客様が来るところでは・・・」
≪入っても、いいですか?≫
______ガチャン・・・
「わふっ、わたし、ハツカネズミさんに少し用事があって・・・」
「・・・・・・あなたは・・・イエイヌさん・・・ともえさんと一緒だったのでは・・・」
「あなた、ハツカネズミさんの知り合いですか? えーとつまり、今から、なんか難しい話をする感じ?」
「・・・・・・大丈夫・・・仕事は遅らせませんよ・・・ブタさんは・・・早く洗濯物を・・・」
「え~? そう・・・?」
ぽかんとした表情のまま、ブタはリネン室を後にし、イエイヌとハツカネズミが2人きりで対面した。パイプを伝う水の音や、換気口を通り抜ける空気の音・・・様々な音が両者の沈黙を際立たせた
「ごめんなさい、お仕事してる所にお邪魔しちゃって」
「・・・・・・私に用事とは・・・何ですか・・・?」
「あの、ハツカネズミさん、あなたとわたし、なんだかよく似ているって思って・・・」
イエイヌとハツカネズミは、互いの体を見比べた。二人とも、体中ほとんどの部分が白かった。手先、足先、髪色や耳などが灰色だったり、黒かったりすることや、手袋や履物など身に着けた装飾品に違いがあるだけだった
そして一番の共通点は、左右異なる色の光を湛える双眸・・・
「・・・・・・あなたはイヌ科・・・私はネズミ科・・・どうして似ていると思うのですか・・・? 白い体色のフレンズなら・・・他にいくらでもいる・・・目の色だって、確かに珍しいですが・・・時々そういうフレンズを見かけたりします・・・」
「わふっ・・・わたし、あなたみたいに頭が良くないから、上手く説明できないんですけど・・・フクロウのお二人から、気になる話を聞いたんです。フレンズには、元となった動物の記憶はないって、だからやりたいことは“後から決まる”って・・・でもわたしのやりたいことは、最初から決まっているんです。“ヒトの傍にいて、その人を守る”って・・・でも、どうしてそう思うようになったのか、自分でもよくわからなくて・・・理由が分からないような気持ちは、いつか消えてしまうんじゃないかって、不安なんです・・・それで、ハツカネズミさんに聞いてみたいことがあるんです」
「・・・・・・と、言うと・・・?」
「ハツカネズミさんは、機械いじりが得意ですよね? それは、誰から教わったんですか? 機械のことなんて、ヒトじゃない限り、わからないと思うんですが」
「・・・・・・なるほど・・・」
_____カチャ、カチャ・・・
ハツカネズミは、乾燥機の方へ向き直り、修理を再開した。そのままのイエイヌの質問に答え始めた
「・・・・・・私は、生まれつき機械をいじるのが得意です・・・誰かから教えられたわけではありません・・・・・・イエイヌさんは・・・・そのことにヒトが関係しているのではないかと言いたいのですね・・・?」
「は、はい。ハツカネズミさんは、わたしと同じ“生まれつきヒトのことを知っているフレンズ”なんじゃないかと思って・・・わたし、自分のことが良くわからないから、仲間がいたら、何か教えてもらえるかなって・・・」
「・・・・・・私は・・・具体的にヒトのことを憶えているわけではありません・・・ですが・・・多分・・・どこかでヒトに影響を受けているように思います・・・」
「影響・・・どんな影響ですか?」
_____カチャ、カチャ、コン・・・
ハツカネズミは話しながら作業を続けた。みるみるうちに乾燥機のパーツが分解され、それをひとつひとつ床に置いていた。
「・・・・・・あなたが“ヒトを守りたい”と思うように・・・私にも、生まれた時から持っている気持ちがあります・・・それは・・・“知りたい”という気持ち・・・フレンズや機械、この世界の仕組みを知りたいという気持ちを抑えられないのです・・・その気持ちが一体どこから来たのか・・・これは推測ですが・・・この気持ちは、ヒトから受け継いだものではないのかと思っています・・・」
「ヒトから、気持ちを受け継ぐ・・・?」
「・・・・・・遥か昔、この世界を支配していたのはヒト・・・私達フレンズは、ヒトと様々に関わりながら生きていた・・・そしてイエイヌさんと私はそれぞれ、ヒトと違う形で関わっていた・・・その名残が今もそれぞれの心の中に残っている・・・そう解釈することはできませんか・・・?」
「あの、でも、他のフレンズさんはどうしてヒトのことを憶えてないんですか?」
「・・・・・・それはやはり・・・あなたの推理通り・・・イエイヌさん、あなたと私が、ヒトと特別に関わりの深いフレンズだったからかもしれません・・・・・・やりたいことに裏付けがなくても・・・自分が本当にそうしたいと思っているなら・・・それは揺るぎないもの・・・そう思いませんか・・・?」
「わふっ・・・ハツカネズミさん、ありがとう・・・その話を聞いて、少し楽になりました」
白い体にオッドアイを持つ、奇妙な二人のフレンズの邂逅は、これでひとまず終わった
_____〖てんじしつ〗
「カッカッカ! どうだ、ここがこのホテルの一番の目玉だぜ!」
「うわ、すごいな・・・」
ハブに連れられたともえとロードランナーは、ホテルの中でもひと際広い部屋を訪れていた
そこには見たこともない、何のために使っていたのかもわからない機械の数々がライトアップされ飾られていた
「見な、これが“れじ”だ! ヒトはこれで通貨のやり取りをしていたんだぜ! で、その隣のショーケースを見てみな・・・」
「なんだこりゃー? 変な模様が掘られた石?」
「これが通貨だぜ! つまり今のジャパリまんなんだよ! まあ、食うことは出来んけど」
「わあ・・・これがヒトの通貨なんだ! すごいなあ、はじめて見た! これは茶色い・・・これとこれは銀色で、こっちは紙で出来てる! ねぇハブさん、こんなに種類があるのはどうして…?」
「カッカッカ、そりゃあな、ジャパリまんにもいろんな色があるのとおんなじだよ」
「え? 本当に? 何か意味があるんじゃ」
【カズ ノ オオキサ ガ チガウ】
「ラモリさん?」
【タトエバ コノ チャイロ ノ ツウカ ガ 10コ アツマル ト コノ ギンイロノ ツウカ 1コ ブン ニ ナル・・・コマカイ キンガク ヲ ヤリトリ スル タメ ニ ツウカ ノ シュルイ ヲ ワケタ ノダ】
「へぇ、そうなんだ! ラモリさん、他の通貨のことも教えて!」
【コノ カミ ノ ツウカ ハ コノ ギンイロ ノ ツウカ 10コ ブン デ・・・】
「カ、カッカッカ・・・おい、次行くぞ次!」
____〖あんてな〗___
「カッカッカ! この奇妙な形の棒を使って、“でんぱ”を受信していたんだぜ・・・でんぱにのって、色々な音や映像を楽しんでいたって聞くぜ」
「へぇ! でんぱっていうのは、どれくらい遠くから届いているの?」
「すごい遠くから届いているぜ」
【デンパ ノ トドク キョリ ハ アンテナ ノ シュルイ ヤ シュウハスウ テンコウジョウキョウ ニ ナド ニ サユウ サレ・・・】
「次だ! 次!」
____〖へりこぷたー〗__
「わー! でけー! なんつー化け物だよこれはよー!」
「カッカッカ! 中々迫力あんだろ? これは乗り物の一種だぜ、ヒトはこいつを使って空を飛んだんだぜ、この頭に付いたデカい羽でな!」
「後ろのほうの、尻尾みたいなのはどういう働きがあるの?」
「頭でっかちだとバランスが取りにくいから、尻尾でバランスを取っているんだぜ」
【ヘリコプター ノ メインローター ハ ヨウリョク ダケデナク キタイ ヲ カイテン サセル チカラ モ ウミダシテ シマウ。ソレ ヲ ウチケス タメ ニ コノ テールローター ガ・・・】
「おい、コラ! そこのラッキービースト! さっきからオレの仕事に茶々入れてんじゃねえ!」
「あ、ごめんなさいハブさん。ラモリさんもきっと悪気はないから」
「ま、まー・・・ラモリさんの解説に比べると、ハブさんのはちょっとシンプル?かもよ・・・? しかし、あれだな・・・こんなもんに乗って空を飛んじまうんだから、やっぱヒトってーのはすげーよな」
「うん、ところでこの“へりこぷたー”・・・今も飛べるのかな・・・?」
「おー、飛んだらすげーよな・・・オレ様も自分の羽以外で飛んだことはないからよぉー。こいつがどんなふうに飛ぶのか、全然想像もつかねーぞ」
その後も、ともえとロードランナーは、様々な“ヒトの機械”を見て周り、楽しんだ
そして次にハブに案内された所は、海生哺乳類の顔が模された大きな入口だった。その暖簾をくぐると、そこには実に多種多様な“物”が整然と陳列されていた
「さあ! ここは“みやげものこーなー”だぜ! ゆっくり見ていってくれ!」
「すげー! ともえ、何か買って行こうぜー!」
「だ、ダメだよロードランナーちゃん。ジャパリまんは無駄遣い出来ないんだから」
「いや、支配人から聞いてるぜ、アンタたち、ハツカネズミの仕事を手伝ってるんだろ? だから、ホテルからのお礼だ。一人一個ずつ、この店のもん、何でも好きなものタダでやるよ」
「マジでー!? タダ? ちょー太っ腹だな!」
「へへっ、だろ?」
ロードランナーは目を輝かせながら、陳列された品々のひとつひとつを見て回った
「わー! 色々あんなー! ん、何これ? ハブさん教えてよ」
ロードランナーが手に取ったのは、色とりどりの細長い筒が入った透明な袋だった
「おう、これは・・・これは・・・見せてみな」
ハブは透明な袋をひったくると、それを必死で観察した。正直、こんな袋のことなど、自分が扱う商品の中にあることすら知らなかったが、それを客に知られるわけにはいかなかった
そして袋の後ろ側にイラストが描かれているのを見つけた。その絵は、ロウソクの火にヒトの子供がこの“細長い筒”を近づけているものだった。そしてその下のイラストでは、筒からいろんな色の光のようなものが出てきていた
「あ~! カッカッカ! これはな、松明の一種だぜ」
「松明? 松明ならオレ様たちも持ってるぜー? しかも袋の中に、こんなに何本も松明を入れる意味がわかんねーぞ? 一本ありゃ十分だろーよ?」
「チッチッチッ・・・普通の松明とは違うんだよ。いろんな色に光るんだ」
「何それー! すっげーじゃねーか! なあなあ、オレ様、もうこの松明もらうことに決めたから、試しに一回火を付けさせてくれよー!」
「カッカッカ! いいだろう!」
ハブは快諾すると、透明な袋を束ねる紐を解き、中から無造作に一本“松明”を取り出すと、ロードランナーに手渡した
「ともえー、火付けて、火!」
「い、いいのかな? 屋内で松明なんか・・・どこかに燃え移ったり・・・」
「カッカッカ! 松明だぞ? 物に押し当てでもしない限り、火はつかねえさ」
「えぇ? 大丈夫かな・・・」
_____シュッ ボウ・・・・・・・チリチリ・・・バチバチバチバチ!!!
「うわー!」
松明から勢いよく、色鮮やかな光が飛び出した。光だけでなく、けたたましい炸裂音が辺りに響いた。あまりのことにびっくりしたロードランナーは、松明を投げ捨ててしまっていた・・・床に落ちた“松明”の光が床の絨毯に当たり・・・
「ちょっとロードランナーちゃん! ハブさん! これすごく危ないよ! 後やっぱりこれ、松明なんかじゃなかったよ!」
_____パサッ
「わふっ! ともえさん、ロードランナーさん、お待たせしました!」
「お連れ様をご案内差し上げましたわ! ・・・って・・・きゃああああ!! 何!?」
床に燃え移った火は、居合わせた数人が必死で絨毯を踏みつけたり、水をかけたりすることで、何とか燃え広がる前に消すことができた
イエイヌを案内してきたオオミミギツネは、ハブのことをこっぴどく叱った
「松明」に火をつけた当人であるともえも謝ったが、もう一人の当事者であるロードランナーは、ただただ透明な袋に何本も詰められた“松明”に見入り、興奮していた
「やべーシロモノだぜこいつはよー! 多分、ヒトが使っていた“へいき”だぜー! これがありゃ、この先の旅できっと役に立つぜ!」
「もう、ロードランナーちゃんったら全然反省してないんだから・・・!」
「いえ、お客様が反省することはありませんわ。このことの責任は全部、軽率な言動をした副支配人にありますの」
「わ、悪かったよ・・・」シュン
「さて、ハブさんへのおしおきは後で考えるとして・・・ともえさんとイエイヌさんも何かひとつずつ、いただいていってくださいな」
「うーん、そうだね・・・イエイヌちゃんは何をもらう?」
「はい、わたしは・・・」
イエイヌは、特に自分が欲しいと思う物などなかったが、ともえと一緒に遊べる物があればいいなと思った。投げてもらう玩具「フリスビー」はすでに持っていた。後はどういう物があるだろうか?
曖昧な自分の記憶を掘り起こした・・・ヒトと自分は色々な所を一緒に旅して歩いたが、常にお互いが繋がっていた。繋がり・・・心だけでなく、目に見えて自分たちは繋がっていた・・・そう、紐のようなもので・・・
ヒトが紐を握り、その紐に自分が繋がっている姿を思い浮かべた。それはイエイヌに
とって、とても心が安らぐ光景だった
「わふっ、紐・・・太くて丈夫な紐、ありませんか?」
「はい、太くて丈夫な紐ですか・・・? 知ってます? ハブさん」
「あいよ、んー・・・えーと・・・こんなかな? 紐っつーか、ロープだけど」
ハブが店の一角から取り出したのは、鮮やかなオレンジ色をした繊維で編み込まれた、節々が光沢を放つロープだった。束ねられてはいたが、両手に収まらないほどの大きさであり、ほどいた時の長さは数十メートルに達するのではないかと思しきものだった
「わふっ! それすごく良いです! 特に、先端にフックが付いているのがイメージ通りです!」
「イエイヌちゃんは、どうしてそのロープが欲しいの?」
「これでともえさんと「おさんぽ」したいんです!」
「? 散歩にロープが必要なの? 散歩って、高い山とか、そういう所に行くの?」
「ふふふ・・・」
ともえは、イエイヌの考えはよくわからなかったが、満足しているようなのでまあいいかと思った。次は自分がみやげものを選ぶ番だ。正直、興味を引かれるものはたくさんあって、とても決められないと思った
とりあえず店の中を見て回っていると、とある一角で足を止めた。動物や植物、星や太陽などの、さまざまな形を模した飾り物が陳列された棚がそこにあった
「これは・・・」
「ああ、そりゃブローチっていってな、服に身に着けるもんだ。場所はまあ、付けられるならどこでもいいが、胸元辺りがいいかな。この金具をずらしたら針が出てくるだろ? 針で服に穴を開けて、針にもう一回金具をかぶせて留めるのさ・・・・・・な、なんだよ、これは適当な情報じゃねえからな、俺はこういう物には詳しいんだ」
「え・・・い、いや何も言ってないよハブさん。それと、決めました・・・このブローチをください!」
ともえが選んだのは、銀色の装飾が縁取られた、七枚の花弁を持つ白い花の
ブローチだった
「へー・・・」
「な、何? ロードランナーちゃん」
「いや、意外だなと思ってよー・・・ともえがそんな、普通に可愛い感じの物を選ぶなんて・・・もっとこう、ヘンテコな何かを選ぶと思ってたぜー」
「えぇ・・・失礼しちゃうなもう!」
ともえは白い花のブローチ、イエイヌはロープ、ロードランナーは透明な袋に何本も
入った松明(花火セット)をそれぞれもらった
時間はすっかり夜となり、ホテル内も最低限の灯りがともるだけとなった
ともえ達三人はオオミミギツネに、寝室へと案内された。そこは水色の壁に、貝や珊瑚など海産物をモチーフとする調度品が並ぶ部屋だった
極めつけは、窓際が一面ガラス張りになっており、海底の景色が一望できた。まさに海の中で眠るような気持ちになれる部屋だった
しかし、今のともえには、居心地の良い部屋でゆっくり休息を取る余裕などない。ともえは部屋を見回すと、部屋の中央にある大きなダイニングテーブルに荷物を置き、その近くに一人用の椅子を近づけ、腰かけた。そして、オオコノハズク博士たちから借りた“トラにまつわる文献”を読み始めた
「ふわ~~~~・・・ともえー、その本で何をしようってんだよー?」
「うん、明日また、アムールトラさんと話すから、その時のために必要な準備をするんだよ」
「準備ねぇー・・・何か手伝えることある・・・か・・・?」コックリ・・・コックリ・・・
「ううん、大丈夫。ロードランナーちゃんは先に休んでて。ロードランナーちゃんは明日、海の中でオーブを探すんだから、それに備えて体力を付けておかなきゃ」
「そーか? わりぃな・・・じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・むにゃむにゃ」
_____スタスタスタ・・・ポスン! ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・
ロードランナーは、ふかふかのベッドに飛び込むと、うつ伏せのまま、数秒で眠りに付きはじめた
ともえは読書を進める傍ら、ショルダーバッグからスケッチブックを取り出すと、画用紙を何枚か破きはじめた
「ねえ、イエイヌちゃんももう休みなよ、あたしのことは気にしないで・・・・・・って、あれ、イエイヌちゃん、どこ?」
____カチャン
「ともえさん。どうぞ、これ」
「イエイヌちゃん?」
「どうぞ、飲んでください。コーヒーっていって、紅茶とは違うんですけど、頭が冴えて作業が捗る飲み物だって聞きました」
「あ、うん・・・」
イエイヌが差し出したマグカップを見つめた。夜の海のように深い闇の色をした飲み物だ。一口飲むと、口の中全体にお湯の熱さと、何とも言えない苦味を感じたが、同時に安堵感が広がっていった。確かに、作業をしながら飲むのには最適だと思った
「ふぅ・・・ありがとう、美味しいね」
「・・・」
コーヒーを片手に本を調べ上げるともえを見るイエイヌの表情は、なぜだか曇っていた
「あの、あの・・・ともえさん・・・わたしは、どうしたらいいのかわかりません」
「え・・・?」
「ともえさんのやりたいことは、応援したいし、手伝いたい・・・でも檻から出てきたビーストが、もしまたともえさんを襲ったらと思うと・・・」
「・・・イエイヌちゃんは、アムールトラさんがずっとあそこに閉じ込められていればいいって思ってるの?」
「・・・ビーストが誰かを襲わずにはいられないんだったら、あそこに閉じ込めているのが一番いいのかもしれません・・・ここにはハツカネズミさんが居ます。あの人ならビーストのことを気にかけて、何かと良くしてくれると思うんです。だから、ここは決して悪い場所じゃないと思います」
「そのビーストっていうのやめてよ・・・あの子はアムールトラさんだよ・・・イエイヌちゃんだけじゃなくて、みんなそう呼ぶけど・・・そういう相手を差別するような呼び方をするから、相手のことが何もわからなくなるんだよ・・・相手のことを良く知りもしないのに、相手の自由を一方的に奪うのは、絶対に間違ってるよ」
「でも、でも・・・」
「もういい! あたしは、アムールトラさんと話して、あの子と分かり合うの。イエイヌちゃんがわかってくれなくても、そうするって決めたんだから・・・だから・・・もう、黙って!」
「・・・はい・・・わかりました・・・」
「あ・・・」
ともえは本に視線を戻しながら、気まずい気持ちになった
“黙って” 相手の存在を否定する冷たい言葉・・・
ともえは、再びイエイヌの顔を見ることも出来なかった。今自分がしている作業に集中するしかなかった・・・でも、自分だって悲しかった。イエイヌなら、自分の気持ちを一番に理解してくれるって思っていた
本を読みながら、画用紙を置き、そこに色鉛筆で下書きを走らせた・・・夜のホテルは静かだ・・・何の音もしない。本をめくる音、色鉛筆を走らせる音が鮮明に聞こえた
コーヒーを一口飲んだ。コーヒーはもう冷めていた・・・
_______ペラッ、シュッ、カリカリカリ・・・ペラッ・・・
_______・・・・・・ペラッ、カリカリ・・・・・・カリ・・・
_______・・・
to be continued・・・
_______________Cast________________
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・イヌ属
「イエイヌ(雑種)」
鳥綱・カッコウ目・カッコウ科・ミチバシリ属
「英名G・ロードランナー 和名オオミチバシリ」
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種
「アムールトラ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・コノハズク属
「アフリカオオコノハズク」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・ワシミミズク属
「ワシミミズク」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・オオミミギツネ属
「オオミミギツネ」
爬虫綱・有鱗目・クサリヘビ科・ハブ属
「ハブ」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・イノシシ科・イノシシ属
「ブタ」
哺乳綱・げっ歯目・ネズミ科・ハツカネズミ属
「ハツカネズミ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・メガネフクロウ属
「メガネフクロウ」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・マイルカ科・マイルカ属
「マイルカ」
自立行動型ジャパリパークガイドロボット
「ラッキービーストR‐TYPE-ゼロワン 通称ラモリ」
?????????????????????
「通称ともえ」
_______________Story inspired by________________
“けものフレンズ” “けものフレンズ2”
byけものフレンズプロジェクト
“けものフレンズR”
by呪詛兄貴