僕が「最強のフレンズ作成計画」における2番目の実験体に選ばれてから、いくらかの月日が流れた。
あの日以来、地上のセルリアンのサンプル回収に行かされることはなくなった。
もっぱら「スターオブシャヘル」の内部で、培養され生み出された実験体セルリアンを相手に戦わされる日々を送っている。
もちろんのこと、1番目の実験体であるクズリさんも一緒だ。
≪これより実験体C-27型を投下します≫
どこからかアナウンスが聞こえる。
平坦なトーンの声が、今日も定刻通りに戦闘実験が開始されることを知らせてくる。
戦いの時を待ち受ける僕とクズリさんがいるこの場所は、起伏に飛んだ岩場だった。
歩みを進める足元からは小石が飛び、土埃が舞っている。成層圏に浮かぶ機械じかけの要塞にいることを忘れてしまいそうな、まるで地上にいるのかと勘違いしてしまいそうな空間だ。
だが僕たちがそれを見て狼狽えることはなかった。
この岩場の正体は、ただの人工物。自然界の風景と見まがうこの有様は見せかけだ。
実体はシャヘルの他の区画とそう変わりない、半透明なガラスの中に基盤が透けて見える無機質で直線的な部屋に過ぎないのだ。
最新鋭のテクノロジーを結集して作られたというこの実験室は、現実でありながらもVRに匹敵するほどに自由な環境設定が行えると聞く。
ある時は岩場になり、ある時は草原や川、氷河なんかにも変化することが出来る。
要は地上のあらゆる地形を人工的に再現することが出来る。集めたいデータに応じて地形を変化させ、そこでフレンズとセルリアンを戦わせるというのだ。
この空間はフレンズではなく、むしろ実験体セルリアンの戦闘データを収集するために作られたらしい。当たり前だが、意思疎通の出来ないセルリアンにVRを受けさせることは出来ない。そこで地上のあらゆる環境を再現できるこういう場所が必要だというわけだ。
最強のフレンズだけでなく、すべてのセルリアンを総べると言われる”女王”を生み出すのがシャヘルの目的。それを実現するための実験室だ。
今日はどんなセルリアンが相手なのだろう。
クズリさんは、地面から突き出た偽物の岩の上に、腕を組んでふんぞり返りながら座っている。
僕はその傍らで、具現化させた槍を肩に立てかけながら、直立不動で身構えている。
そのツーショットは、端から見たら、玉座に君臨する暴君と、それにかしずく忠実な近衛兵みたいな絵面なんだろうな。
・・・・・・中々にいい気分だ。クズリさんのような凄まじい戦士に付き従っている自分が誇らしい。彼女のことを心から尊敬している。
しかし僕はクズリさんの手下になったわけではない。序列としての上下関係はあれど、そんな立場に甘んずることは許されない。
僕は2番目の実験体。計画に欠かすことが出来ないピースという意味では、僕は彼女と同格だ。
その証拠に、いま僕の両腕には彼女と同じ、鎖で繋がれた腕輪が嵌められている。
他のフレンズの例に漏れず、僕の中にも見えざる首輪”オーダー”が仕込まれていた・・・・・・しかしそれも過去のこと。
オーダーは消去された。その代わりに、決して破壊できないと言われる拘束具が付けられた。
この腕輪こそが、クズリさんと並び立つ強者であることの証。これを身に着けている限り、僕は力を試される存在として強くあり続けなければいけない。
(腕輪にかけて、どんな敵が相手でも・・・・・・勝つ)
沈黙しながら意気込んでいたのも束の間、目の前の地面が音もなく割け始めた。
割れている場所だけ、岩のテクスチャーが剥がされて、基盤が覗く元のガラス状に戻っている。
出現した裂け目から、下の様子が何もわからない暗黒が垣間見える。その裂け目から押し上げられるようにして、今日の相手である実験体セルリアンが姿を現した。
「おや、2匹だけですか」
ぼそりと呟きながら、敵の様子を観察してみる。2匹の成体セルリアンで、共に体長は7~10メートル級の中大型といったところか。6本の直線的で長い脚が、楕円形の体を支えている。体も足も、節々が尖っていて硬そうな印象を受ける。
足は腹部から放射状に生えており、根本と膝とで2か所の間接を備えている。
あの姿を何に例えたらいいものか。虫? ・・・・・・いや甲殻類か。
いつか図鑑で読んだことがある。海の底には足の長いクモみたいなカニがいるらしい。あれは何というカニだったか? 図鑑なんて文学に比べればつまらないから、ろくに思い出せやしない。
2匹のセルリアンは、姿かたちは兄弟のように似通っているが、体色がそれぞれ全く違う。片方は鮮血を頭からかぶっていると見まがうほどの鮮やかな赤色をしている。
そしてもう片方は影が形を成したような黒一色の体をしていた。良く見れば、黒い個体の方が赤色よりも体格が一回り近くも大きかった。
「あの2匹を赤ガニと黒ガニと呼ぶのはどうです?」
「殺すだけの相手に名前はいらねえと思うがな」
「そうですか。では僕の好きにします」
体の色や体長の他にも、無視できない決定的な差異が一点だけあった。
赤ガニには「石」があった。6本の足が生えている付け根に取り囲まれるようにして、腹部の中央には緑色の結晶体が飛び出ていた。
それに対して、黒ガニには一見してそのような部位は見当たらない。
「赤ガニは石あり、黒ガニは石なしですか。体格に反して小さい赤ガニの方が格上なのですね」
「いや・・・・・・あの黒いのは”石かくし”だ」
クズリさんは座り込んでいた岩から跳ね起きると、気怠そうに首をコキコキと鳴らしながら解説を続けてきた。
「あんなに硬そうな見た目じゃあ、石なしって線はまず考えられねえ。それに姿形が同じなら、でけえ方が育ってるに決まってる・・・・・・黒い方は石を腹ん中にでもしまってやがんのさ」
なるほど・・・・・・僕自身は今までにそのような特徴を備えたセルリアンに出会ったことはないが、クズリさんが言うことなら間違いないだろう。
石ありと同等以上の強靭な体を持ち、急所を隠してしまっている”石かくし”は、石ありの純粋な強化版とでもいうべき種なのだろう。であるならば、赤ガニよりも黒ガニの方が、数段強いと見るべきか。
「あの黒ガニは僕に任せてください」
「笑えねえんだよ。もっと冗談のセンスをみがけ、メリノヒツジ」
(冗談を言ったわけではないのですが、仕方ないですね)
溜息交じりに会話を打ち切ると、僕とクズリさんは示し合わせたかのように、それぞれ違う方向へと走り出した。
クズリさんは黒ガニの方へ、僕は赤ガニの方へ。
・・・・・・美味しい部分を常に1番手に持っていかれると言うのは、2番手のやりきれない所だな。
だが、クズリさんのパワハラによって余り物を押し付けられた結果とはいえ、あの赤ガニも中々の獲物だと思っていいだろう。
外部に無防備に露出した急所、奴の石は生えそろった長い足の付け根に囲まれるようにして、腹部の中央に位置している。体高もこちらの背丈の数倍以上は有にあり、尋常な攻撃が届くような高さではない。踏みつけてくる6本の足を躱しながら、あんな所にある石を狙い撃つのは容易なことではないだろう。
ああいう大物は、ダメージを与えて怯ませてから石を狙うのがセオリーだが、あの分厚い外殻に果たして攻撃がまともに通るだろうか。
「さて、どうしたものかな」
赤ガニの間合いギリギリで足を止め、手にした槍をそびえ立つ巨体に向けて構えた。
むこうも僕を敵だと認識した様子であり、6本の足を岩場に突き立てて、大地を揺るがしながら接近している。
______グパァァッッ・・・・・・
虚無の殺気を輝かせる単眼の下、その体の胸元に当たる外殻が、有機的な音を立てて左右に切り開かれる。それはあたかも大口を開けて獲物を捕食しようとしているかのようだ。
そして、赤ガニの体から、その見た目からは意外とも思える攻撃が飛び出してきた。
(・・・・・・あ、あれは!)
真横に開かれた異形の口の中から、奴の舌が飛びだしてきた。細長く鞭のように素早く伸びてくる舌の本数はざっと5~6本程度だ。その様相は舌ではなく「触手」と言い換えた方が適切かもしれない。
いまひとつ有効な手が浮かばずに攻めあぐねていた僕に向かって、赤ガニの方から先手を仕掛けてきたのだ。
僕はあわてて飛び退いた。触手の何本かは僕が寸前までいた岩場を穿ち、何本かは避けようとする僕に追いすがってきた。
素早くてリーチが長く、手数も多いこの攻撃は厄介だ。躱し切るのは難しい・・・・・・空中でトンボを切りながら咄嗟にそう判断し、直前までと異なるイメージを脳内から指先に向かって走らせた。
いったん虚空の中に還った1本の二又槍が、2本の直槍へと変形を遂げ、再び手元へと戻るまでの時間はコンマ数秒といったところか。
(やはり簡単な相手ではないな)
二刀流の得物を用いて、左右から襲い来る触手を打ち払いつつ着地したが、赤ガニの口から放たれる触手の猛攻はとどまるところを知らない激しさを見せる。
防戦一方で後退する僕を、敵が捉えるのにさほど時間がかからなかった。
______ガッ・・・・・・
鞭のようにしなり四方から襲ってくる触手の一本が、片手に握っているドリル状の直槍に巻き付いた。
「・・・・・・くっ!」
もう片方の槍で触手を切り裂いて取り返すことを思案したが、それをすれば今度は自分自身が捕まってしまうであろうことは想像に難くなかった。
仕方なく片方の槍を手放して、脱兎のごとく後ろに下がった。
敵に押されてしまっている事実に、腹の底が憤怒で煮えくりかえる思いだったが、あくまで冷静を保とうとする僕の思考は、屈辱の選択肢を瞬時に選び取った。
近くに突き出している岩陰に体を潜り込ませると、そこから上半身だけ乗り出して、奪われた槍を取り返そうとイメージの再形成を試みた。突き出した片腕の先に、奪われた槍の行方を捜した。
落ち着きなく右往左往させる瞳孔の向こう側に、予想だにしない光景が待ち受けていた。
赤ガニは僕から奪った槍を食べ物であると勘違いしたかのように、触手で引き寄せて、左右に開かれた大口に収めようとしていた。
(槍を食べる気か?)
確かにあれは僕の一部で、美味しそうな肉の匂いでもするのかもしれない・・・・・・だからと言って、あんな鋭く尖った物を口の中に入れても痛い思いをするだけだ。まったく、思考力のないセルリアンはやることが愚かと言うほかはない。
・・・・・・だが、待てよ。
愚かなのはこちらも一緒だ。どうしてこんなことに気付けなかったのだろう。強固な外殻を持つあの赤ガニにも、たった一か所だけ攻撃が通じそうな場所がある。今まさにそれを無防備に展開しているところではないか。
反撃のチャンスが巡ってきた。
そう確信した僕は急いで岩陰から抜け出て、槍を大口の中に取り込まんとしている赤ガニに向かって身構えた。
手元に残ったもう一本の槍を、弓を引き絞るような動作で後ろへと引き、片手を添えながら穂先を赤ガニの口元へと向ける。慎重に狙いを定めて、必殺の一撃を見舞ってやるためだ。
視界を凝らした先には、柄の大部分が呑み込まれてしまい、赤ガニの腹に収まりそうになっている自身の得物があった。
「・・・・・・ふふっ」
思わず口元から愉悦が漏れ出たが、まだ早い。本当に楽しいのはこれからだ。
______ブォンッッ!!
狙い澄ませた一点へと向かって、視界が弾け飛ぶ程のスピードで飛び出した。自身が稲妻と化したような感覚を覚えたのも束の間、僕は一瞬で赤ガニの口元まで移動していた。
足が宙に浮いてしまっていたが、僕の体は空中に留まり続けていた。その手に握った槍が赤ガニの喉元にまで食い込んでいるからだ。
跳ねたのでもなければ、もちろん飛んだわけでもない。僕の体ではそんな芸当は出来ない。イメージの力によって、2つに分かたれた得物を再結合させた結果だ。どちらの槍を基準にして結合させるかは自由。
僕は、赤ガニが呑み込もうとしている槍に向かって、自身が握っている槍をくっ付けたのだ。それを握っている僕の体ごと・・・・・・
「食ってみろよ」
結合させた2又槍を再び分離させ、左右それぞれの手に握ると、金色の気迫を解き放った。抑えがたい程の殺意と歓喜が胸に溢れてくる。
______ブチブチブチッッ
野生解放によって強化された腕力で、左右の槍をテコのように交差させながら真横に開いた。二本の槍を使ってセルリアンの顎を無理やりこじ開けさせ、限界を超えてもなお広げさせた。
黒い液体が鮮血のように赤ガニの口元から噴き出した瞬間、僕はそこからの脱出を試みた。一本の槍を手放し、その柄頭を踏み台にしてもう一本を引き抜き、空中にその身を放りだした。
数メートル下の地面に着地した僕の上に、尚も赤ガニの口元から迸る液体が降ってくる。かざした手で液体から顔を庇いながら、その先にある物を垣間見ようとした。
ここはちょうど赤ガニの胴体の真下だ。放射状に広がる6本の足がドーム状に僕を囲んでいるのがわかる。ここからは良く見えるのだ。腹部のちょうど真ん中にある奴の急所が、鮮やかな瑠璃色の結晶体が・・・・・・
赤ガニからの反撃はない。奴ときたら、与えらえた激痛を堪えるのが精一杯で、僕がすでにチェックメイトをかけていることにも意識が及ばないようだ。
______ヒュンッッ
野生解放がもたらす馬力に任せて、槍を真上に向けて放り投げた。穂先は一直線に吸い寄せられるようにして結晶体に突き刺さった。
びくりと震えた巨体が、虹色の光燐となって爆散する。僕の真上で爆散した命が降り注ぐさまは、まるで勝利を褒め称える花吹雪のようだ。僕はそれを得意満面の笑みで仰ぎ見て受け止めた。
「やるねえ、メリノヒツジ」
勝利の余韻に浸る僕を冷やかすような余裕たっぷりの声が聞こえた。声がした方向を見やると、離れた所からクズリさんがニヤニヤと笑いながら僕を見ていた。しかしその後方には黒ガニが未だ健在だ。
彼女ときたら、自身の敵との戦いをほっぽり出して、今の今まで僕を観察していたとでもいうのか。まったく食えない性格をしている。
「そちらはまだ敵を倒せていないようですね。加勢、いたしましょうか?」
「クククッ・・・・・・うるせえよ。そこで見とけ」
_______ゴゴゴゴ・・・・・・
クズリさんは不敵に笑いながら黒ガニの方へ向き直った。そして意味ありげに両腕を突き出すと、何かを念じるように黒ガニと真正面に相対した。
両腕を突き出した構えからどんな攻撃を仕掛ける気なのか、皆目見当がつかない。まさか魔法か念力の類でも使うつもりでは・・・・・・と、思わずくだらない想像をしてしまったが、それがあり得ないことだと否定し切る自信もなかった。
開かれた両手から尋常ではない殺気が放たれている。
まるで彼女のシンボルである白い炎が、全身から噴き出して燃え盛っているかのようだ。後ろから見ているだけの僕でさえも熱に当てられてしまいそうなほどだった。
殺気を推し測る術を持たない黒ガニが、お構いなしに距離を詰めてくる。やがて射程距離にクズリさんを捉え、その胸元の口を展開し、赤ガニと同様の触手攻撃を放ってきた。
一方の彼女は先ほどの姿勢のまま一歩も動かない。
______グッッ!!
殺気が最高潮に達した瞬間、動かないままのクズリさんが自身の両手を握りこんだ。
が、しかし、その両手には何も掴んではいない。まるで意味があるとは思えない動きだ。案の定、上下左右から襲い来る触手に絡め取られてしまった。
「・・・・・・な、何故動かない!?」
クズリさんは一切の抵抗を見せずに、敵に成されるがまま触手に引き寄せられ、そのまま黒ガニの大口の中に飲み込まれてしまった。
「まさか」と脳裏に広がった感情を抑えつつも、槍を携えて全力で駆け出した。信じたくない。彼女が何もせずに一方的にやられてしまうなどあり得ない。
だがクズリさんを飲み込んだ黒ガニは、相も変わらず悠然と巨体をそびえ立たせている。
さっきと同じ要領で口をこじ開けてやれば、クズリさんを助けられるだろうか?
そう思いながら身をよじって、分割した槍の片方を投げつけてやろうとした瞬間だった。
______ドチュ・・・・・・!
突如黒ガニの胸元が膨れ上がり、生々しい水音を立てながら破裂した。どす黒く弾ける鮮血の中から、今しがたまで無事を願っていた姿が飛び降りてくる。
クズリさんが着地するやいなやの瞬間に、黒ガニの巨体は爆散し無に帰してしまった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ・・・・・・」
セルリアンの胃液に浸されて皮膚があちこち焼けただれたクズリさんの右手には、鮮やかな結晶体が握られていた。
「チィとばかしやられちまったぜ」とつぶやきながら、土産物だとでも言わんばかりに、セルリアンの核をおもむろに僕に放ってよこした。
「あなたらしくもない」
僕は足元に転がってきたそれを一瞥もせずに踏み砕きながら、思わずやれやれと溜息をついた。
クズリさんが推理した通り、黒ガニの核は体内にあった。それをもぎ取るために自ら体内に飛び込むまではわかる。だがそれならそれでもっとうまいやり方があったはず。触手に自由を奪われたまま飲み込まれたことで、彼女は手傷を負ってしまった。
そして、直前に見せた「両腕を握りこむ動き」は何だったというのだろうか? どう考えてもあの動きに意味があったようには思えない。しかしあの尋常ならざる殺気は嘘偽りのないものだった・・・・・・確実に、何かをやろうとしていたのだ。
怪訝そうに問い詰める僕に目もくれず、クズリさんは己の手のひらを見つめていた。何かを問うような表情で、握ったり開いたりを繰り返している。
「もう少しで何か掴めそうなんだが、なかなか上手く行かねえなァ」
「・・・・・・”野生解放の先にある力”のことを言っているのですか?」
そうか、クズリさんは、あの黒ガニが大した相手ではないことを看破して、自身の修業の練習台にしたのだ。
あの両手を突き出して握り締める動きの意味は、その能力を掴まんとしているクズリさん本人だけが知っているということか。ならば僕が見ても理解できるはずがないのは当たり前だ。
クズリさんやスパイダー隊長、そしてあのアムールトラなど、ごく一部の卓越したフレンズには「先にある力」と呼ばれる謎の異能力がある。
それは野生解放を磨き上げた先に存在すると言われている。
そして異能力には、もう一段回先の進化形があることが判明している。スパイダー隊長はすでにそれを体得し、ダーバンでの作戦において披露してみせた。
あれ以来、クズリさんは自身の能力の先を見ることに執心している。僕も一度味わったことがある強力無比な「固定する能力」の先・・・・・・一体どのようなものなのであろうか。
今のところ、僕には「先にある力」の発現の兆候すらまだ現れていなかった。
槍を2本に分けたり、出したり引っ込めたりして戦う術を体得しているが、これは異能力とは呼べない。武器を持って戦うフレンズならば、言うなれば標準的に備わっている能力に、あれこれ工夫して変化を付けているに過ぎない。
もっとも、セルリアンの眼前で得物を出したり引っ込めたりするようなことは、手間もかかるしリスクも伴うわけで、それを戦闘中に敢えてやろうとするフレンズは他にいないらしい。ほぼ僕のオリジナルだ。
イメージを思い描く力、本を読みふけることで培われたそれが今の僕の戦いを支えている。
まあ・・・・・・今はこれでいい。これを続けた先に新たな力が手に入ることを信じて、戦い続けるだけだ。
≪本日の模擬戦は終了です。お疲れ様でした≫
簡素で平坦なアナウンスが流れ、今しがたの戦場であった岩場の輪郭が光と共に歪みだす。視界が一瞬光で覆いつくされたかと思うと、実験室がもとの姿に戻っていた。
半透明のガラスの下に基盤が透けている「スターオブシャヘル」の内装はいつ見ても不気味だ。冷たく機械的ながらも、どことなく生き物の胃袋の中にでもいるような気分にさせられる。
「帰りましょう」
「・・・・・・」
返事はなかった。クズリさんは先ほどから手のひらを見つめながら、己の技の完成に向けて思索を続けているようだ。
僕は一度だけ呼びかけて、後は構わずに出口に向かって歩き出した。
あの自問自答の果てにどんな能力を会得するのかは知らないけれど、それを最初に味わわされる相手は僕であってほしいものだ。
逆に僕も、自身の先にある力に目覚めたら、真っ先にクズリさんに披露するとしよう。その瞬間が待ち遠しい。己の中にある分かちがたい熱情が沸き立って胸の中で弾けている。
僕はメリノヒツジ。草食獣の体に肉食獣の魂を宿すフレンズだ。
to be continued・・・
_______________Cast________________
哺乳綱・鯨偶蹄目・ウシ科・ヤギ亜科・ヒツジ属
「ヒツジ(メリノ種)」
哺乳綱・ネコ目・イタチ科・クズリ属
「クズリ(ウルヴァリン)」
_______________Story inspired by________________
“けものフレンズ” “けものフレンズ2”
byけものフレンズプロジェクト
“けものフレンズR”
by呪詛兄貴