クズリさんが、VRマシーンが描き出した仮初の夢の中で戦っている。僕はそれをスパイダー隊長と一緒に現実世界から俯瞰視点で眺めていた。
彼女の両腕には、例の腕輪が嵌められていなかった。僕の両腕にもあるそれと全く同じ、決して外すことが出来ない強者の証が無くなっている。
・・・・・・それは目の前の映像が現実ではないことを証明する決定的な証拠だ。VRの中では再現する必要がない情報だからだ。
相手はあのアムールトラだ。”最強の養殖”の二つ名で名高い、もう一人の英雄。クズリさんが動ならば、アムールトラは静。荒れ狂う竜巻と動かざる巨岩。とことん対極的な存在感を放つ2人が対峙している。
といっても本物のアムールトラではなく、それを模倣して作られたVRプログラムにすぎないのだろうが。
本物がこの「スターオブシャヘル」にいるはずはない。当初はクズリさんと一緒にここに送られてくる予定だったらしいが、奴はCフォースから離反し、敵対勢力であるパークとかいう地下組織に寝返ったと聞かされている。
所在は不明だが、おそらくは南アフリカのどこかで、Cフォースに反抗するための企てに携わっているのだろうという話だ。
そして、奴の生みの親である日本支部研究所の元所長ヒグラシもアムールトラと共に組織を出瓶した。
何の因果か、僕とクズリさんもアムールトラと同様にヒグラシによって作られたフレンズだ。同じヒトの手で生み出されたフレンズ同士が今や敵味方に分かれている。
ヒグラシには恩がある。あの男は死んだ僕をフレンズとして生き返らせ、戦う術と読み書きを教え、本という友を与えてくれた。過ぎ去りし過去に思いを馳せていると、何か感傷的な感情が一瞬脳裏をよぎった。
・・・・・・しかし、そんなことは最早どうでもいい。問題は今、目の前で起きていることだ。
事前の通告もなく、いつもと違う場所でVRでの模擬戦が行われているのはどういう理由があってのことだろう? なぜ僕には声がかからずクズリさんだけが戦わされているのか?
そしてその相手にアムールトラが選ばれた理由とは?
クズリさんは体のあちこちから血を流しており、息も上がっているようだ。その有様が戦いが始まってからすでにいくらかの時間が過ぎていることを示している。
・・・・・加勢したくても、この狭い部屋にVRマシーンはひとつしかなく、あの中に入っていくことすら出来ない。
今の僕には、答えの出ない問いを顔面にいくつも張り付けて、茫然とした表情で立ち尽くし、目の前で行われている1対1の戦いを眺めることしか出来ないのであった。
≪っっろすぞあああァッッ!!≫
両足を大きく開き前かがみになって金色の炎を全身にまといながら、クズリさんが吠えている。
その顔つきを見て驚いた。尋常ならざる殺気の薄皮一枚下には、この瞬間にすべての情熱を注いでいるような歓喜が垣間見える。
僕が今までに見たことがない、本気のクズリさんがそこにいる・・・・・・それもそのはずだ。本気に値する相手が目の前にいるのだから。
VRで作られた虚像とはいえ、アムールトラの姿をここまで間近で見るのは初めてだった。
黒い稲妻のような縞模様を全身に走らせる大柄な体躯は、ただその場にいるだけで威圧感がある。2又に分かれた豊かな長髪をなびかせながら、一分の隙もない鉄のような姿がクズリさんに向かってジリジリと距離を詰めてくる。
異様なのはその構えだ。スラリと長い手足を自然体に下ろして、構えらしい構えを取らずにただ歩いているようにしか見えない。
2人の身長は数十センチ近くも違う。低く身構える小柄なクズリさんと、真っ直ぐに立っている長身のアムールトラは、そのファイティングポーズの違いも相まって、子供と大人が対峙しているかのような体格差を感じさせる。
アムールトラがクズリさんに向かって歩を進める度に、見ているだけで息が詰まりそうな圧迫感が映像越しに伝わってくる。
とうに互いの間合いに踏み込んでいる2人が限界ギリギリまで近づき、張りつめた空気がピークに達した瞬間、殺気が弾けた。
先に動いたのはクズリさんだ。目にも止まらぬ速さで鋭く低く跳ね、アムールトラの胸元に下から潜り込んだ。それは僕の脳裏に一撃必殺の投げ技の炸裂を予感させた。
______パンッッ!!
しかし結果は予想とは真逆だった。飛びかかったはずのクズリさんの体が後方に吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた。一方のアムールトラは、いつの間にか腰を落としながら拳を前に突き出していた。
何物を見逃すまいと瞬きすらせずに凝視していたはずなのに、いつの間にか一連の攻防が終わってしまっていた。まるで時間が消滅し、結果だけを見ているような気分にさせられる。
この有様には既視感があった。かつて東京の研究所で見た映像と一緒だ。クズリさんやアムールトラの戦闘記録は、Cフォース中に広く出回っているのだから。
奴の攻撃を言い表すのにしばしば使われる言葉がある。「何をしているのかわからない」というものだ。
何をしているのかはわからないが、奴に攻撃を仕掛けたセルリアンがひとりでに爆散している様だけは何度も見たことがある。あの時と同じなのか・・・・・・クズリさんの強烈な攻撃をもってしても、アムールトラを制することは出来ないのか。
「無敵の野生」が「最強の養殖」の前に敗れ去ってしまうというのか。
すかさず立ち上がり、果敢に攻撃を繰り出そうとするクズリさんだったが、足を一歩前に踏み出した瞬間に、血を吐いてよろめいた。認めたくないことだが、彼女はすでに満身創痍といえるほどにダメージを負っている。
そして、クズリさんが見せた隙をアムールトラは見逃さなかった。例によって事の起こりが見切れない程のスピードで接近し、クズリさんの脇腹に回し蹴りを打ち込んだ。
鈍い音と共に小柄な体が宙を舞い、横方向にきりもみ回転しながら落下した。
「違うっっ!!」
突如、僕の横で一緒に映像を見ていたスパイダー隊長が憤慨したように怒鳴った。
「隊長、何が違うのですか?」
「シベリアンはあんな戦い方はしないっス。あのVR、動きとかはかなりよく真似てると思うけど、全然本物と違うっスよ」
クズリさんとアムールトラ、またの名をウルヴァリンとシベリアン・タイガー。
スパイダー隊長は、かつてCフォースブラジル支部フレンズ部隊の同僚として、2人の戦いを一番近くで見てきたフレンズだ。そんな隊長が言うには、アムールトラは自分からは決して攻撃を仕掛けないと言うのだ。仕掛けるのは自らが襲われた時か、あるいは誰かを危機から守る時の二つに限られると。
「怯んだ相手の隙を突いて攻撃するなんて、シベリアンは絶対にやらないっス」
「どうしてそんなことが」
「本人から聞いたことがあるっス。自分は”先手なし”がモットーなんだって、実際アタシが知る限り、あの子はそのモットーを貫いてた」
先手なし・・・・・・その言葉は全くもって理解不能だった。
アムールトラというフレンズは、敵の隙を突くことが卑怯だとでも思っているのか?
敵に隙があればそこに付け込んで叩かなきゃ、こちらが負けてしまう。殺し合いというのはそういうものじゃないのか。
奴が争いを好まない温厚な性格であることはすでに聞かされていたが、命のやり取りの場においても不条理極まりない生ぬるいルールを持ち込んでいたというのか。
しかし、そうか。だとしたら目の前のVRは、本物のそういった弱点を修正し、より効率的な行動を取るようになった、いわば強化版とでも言うべき存在なのではないだろうか。だからクズリさんがあんなにも苦戦を強いられているのだ。そうに違いない。
だが、僕とスパイダー隊長の見解はここでも食い違った。
「あの偽物は、本物の足元にも及ばないっス」
「クズリさんがあれほど追い詰められているのにですか?」
「シベリアンは”先手なし”だからこそ強いんスよ。あのVRはそこんとこを履き違えてる・・・・・・それに、純粋な殺し合いってなったら、ウルヴァリンの方が絶対に有利っス」
映像から片時も目を逸らさないまま、スパイダー隊長がそう断言する。その自信は一体どこから来るのだろうか? 認めたくないことだけれど、どう見てもクズリさんはアムールトラ相手に一方的に押されてしまっているのに。
「アイツも、もう気付いてるはずっス・・・・・・目の前の偽物が、自分のよく知るシベリアンとは別物なんだってね」
______ザキュキュキュキュッッ!!
映像に視線を戻すと、アムールトラはまたしても防戦一方のクズリさんに強烈な一撃を見舞っていた。いや、正確には四撃・・・・・・
指を真っ直ぐに伸ばした平手で、クズリさんの喉元、胸元、みぞおち、下腹部を一瞬で刺し貫いてみせた。思わず背筋がぞくりと震えるほどの情け容赦ない攻撃・・・・・・奴の鍛え抜かれた手は、僕の槍なんか歯牙にもかけぬほどに研ぎ澄まされた凶器だ。
「くそっ! ここまでなのか!」
胴体から血を噴き出すクズリさんの膝下がついに崩れ落ちる。致命的とも思える攻撃を食らった彼女を見て、いよいよ敗北を確信してしまう。
しかしアムールトラは攻撃の手を緩めない。万にひとつも勝ち目を残さんとばかりに、仰向けに力なく倒れこむクズリさんに向かってダメ押しの正拳を振り下ろした。
______ゴゴゴゴ・・・・・・
無慈悲な拳がクズリさんを捉えようとする刹那、彼女の目に今までより一層激しい殺気が宿ったような気がした。
刹那、場の空気が一変する。アムールトラの巨大なプレッシャーに今にも押しつぶされそうだったクズリさんの気迫が弾け、画面中を覆いつくしていくように見えた。
(な・・・・・・!?)
クズリさんは仰向けに倒れながら、アムールトラの拳を足の裏で受け止め”固定”すると、それを踏み台にして勢いよく後方にバク転を決めた。そしてそれに引っ張られるように、アムールトラの長身が宙を舞った。
クズリさんの足の裏に拳を固定されたままのアムールトラは、クズリさんの体重と、己の攻撃の勢いに引っぱられるように空中で回転し、まっ逆さまに地面に叩きつけられようとしていた。
「やった! クズリさん!」
「まだっス」
______ダンッッ!
やはりアムールトラの動きは並のフレンズと一線を画している。そのまま投げられるのを良しとせず、持ち前の身体能力により空中で身を翻し、足から先に落ちることで投げを堪えてみせた。
・・・・・・しかし、僕もスパイダー隊長もこの瞬間にアムールトラの敗北を確信した。
「さ、さすが」
アムールトラは今もなお、何とか踏ん張って立っていた・・・・・・が、しかし、必死に耐え忍ぶ奴に対して、クズリさんの恐るべき追撃がすでに仕掛けられていた。
クズリさんは両膝でアムールトラの首を前後から挟みこみながら、奴の右腕に抱き着くようにして空中に制止していた。
あれは格闘技でいう所の「三角締め」だ。相手の腕を固めながら、両足で首を絞める技だ。
アムールトラをバク転で投げた直後、互いの上下が入れ替わり、奴が地面に落ちるまでのわずかな間に空中で三角締めを完成させてしまっていたのだ。
投げ技だけではなく、絞め技も間接技も、組み技全般がクズリさんの領分であることを改めて思い知らされる。
______グギュウウウウッッ・・・・・・
骨と肉が軋む鈍い音が聞こえる。
完全に極まった三角締めが、アムールトラの息の根を強烈に締め上げる。奴はそれから逃れようと拘束された右腕を振り回して足掻くが、クズリさんの腕力や”固定する能力”がすべての可能性を奪い去る。
そうこうしているうちに、万力のごとき両膝で首を絞められ続けたアムールトラの長身がガクリと崩れ落ちる。
データ状の存在に過ぎない偽物の肉体であっても、リアルを忠実に模倣しているのがVRだ。セルリアンと違ってフレンズは呼吸をしなければいけない。息の根が止められれば、意識を失うのが道理というもの。道理から外れた動きは出来ないのだ。
何ともあっけない決着だった。
だが、まだ終わりじゃない。ルールのある格闘技の試合だったら、これで終わりかもしれないが、セルリアンと戦う兵器である僕らフレンズの戦いはそうではない。
あとひとつだけ、やることが残っている。
クズリさんはうつ伏せに倒れたアムールトラの背中に流れるような手際で馬乗りになると、奴の頭部に生えそろう縞模様の長髪を引っ張って頭を持ち上げ、両腕で鷲掴みにした。
「・・・・・・っ!」
スパイダー隊長が始めて映像から目を逸らした。見るに堪えないものが眼前に去来するのを見越しているかのようだ。
______ゴグッッ・・・・・・
硬質で耳障りな異音が聴こえたと思った瞬間、アムールトラの頭部が180度捻じ曲がった。奴の全身が雷に打たれたように一度だけビクリと震えると、それきり動かなくなった。
クズリさんはアムールトラの背中に乗ったまま、動かなくなったその顔と真正面から見つめあっている。先ほどの歓喜に満ちた表情はどこへやら、静寂を張り付けたような冷たい眼差しの奥に何を想っているのだろうか・・・・・・
◇
戦いの終わりと共に、眼前の映像がかき消された。
冷たい部屋の中央に坐する鋼鉄の棺桶から煙が吹き出し、分厚いガラスの蓋が開かれた。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
VRマシーンの中にいたクズリさんが、ゆっくりと上体を持ち上げた。それに引っ張られるようにして彼女の全身に纏わりついた端子がプチプチと音を立てて外れた。
「大丈夫ですか?」
思わず駆け寄って声をかける。
今しがたの激闘を制したクズリさんの体には、当たり前だが傷一つついていない。だが肩で息をする彼女の顔からは冷や汗がびっしょりと吹き出ており、視線はぼんやりと宙を泳いでいる。
VRは仮初めの体験に過ぎず、したがってそのダメージも幻に過ぎない・・・・・・だが、脳はその幻を現実にあったものとして認識し、脳が出した指令に従った全身が悲鳴をあげているようだ。
「メリノヒツジ・・・・・・いたのかよ」
息も絶え絶えなクズリさんが力なく放心した視線をゆっくりと動かして僕の方を見ると、舌打ち交じりに毒づいて来る。
「オレ一人に戦わせて・・・・・・てめえはのんきに見学か」
「すいませんね。お呼びが掛からなかったもので、出遅れてしまいましたよ。それとね、見学は僕一人だけではありませんよ」
僕の後ろにいる意外な姿を見て、クズリさんは少しハッとしたような顔をした。
「メリノに誘われて見に来たっス。まさか、シベリアンと戦ってるとは思わなかったけど」
「・・・・・・そう、かよ」
それきりクズリさんとスパイダー隊長の間に沈黙が訪れる。久方ぶりに顔を合わせた2人がいきなり対面して話すには少々気まずいシチュエーションだったということか。
______パチパチパチ・・・・・・
沈黙を破るようにして、乾いた拍手の音が聞こえる。その音に向かって僕とクズリさん、スパイダー隊長の3人が振り返ると、何もない空間の中に2人のヒトの姿が投影された。
1人は見知った姿だ。
後ろに結んだ豊かな金髪の下の眼鏡越しに、冷徹で端正な表情を覗かせる若い女。「スターオブシャヘル」の所長イヴ・ヴェスパーが、背筋を伸ばして凛と立っている。
・・・・・・だが、その隣にいる人物は初めて見る顔だ。
その金髪碧眼はイヴと同じだったが、年齢は倍以上も違うであろう老人が、豪奢な椅子に座り込み、クズリさんに向かって高らかに拍手を続けている。
≪紹介するわ。我が父にしてCフォースの最高指導者、グレン・ヴェスパーよ≫
イヴが老人の横に立ち、僕らの方を見て、芝居がかった手つきで指し示しながらそう告げた。
老人は己の姿を誇示するように椅子から立ち上がると、説明を続けようとする娘を手で制止し、自らの口で自己紹介を続けた。
≪私がグレン・ヴェスパーだ。ウルヴァリンよ、見事な戦いぶりだった。やはり君こそがフレンズの次なる可能性を開く個体だ≫
「はっ・・・・・・そりゃどうも」
高らかに笑うグレンの映像と、未だマシーンの中で上半身だけをやっと起こしているクズリさんの疲労困憊な顔が向かい合う。
物腰穏やかなグレンの堀の深い端正な顔からは、年齢に見合わぬ貫禄と、説明しがたい底知れぬ迫力が伝わってくる。
なるほど”業が深い”とはこういう風貌のことを言うのか。
実際に、数多くのフレンズやヒトがこの男の一声で動かされ、命を散らしていっている。この男の剛毅な態度からはそれになんら呵責を感じることもなく、己の欲望や目的のためには他人が犠牲になって当然だと思っている傲慢さが見て取れる。
世界中のCフォースを束ねる立場にあるグレンが、「スターオブシャヘル」に姿を現した理由は、最強のフレンズを作り上げる計画の進捗をその目で確かめることだった。
アムールトラのVRプログラムは、グレンの配下が作成しこの場に持参した物らしい。最強に至る第一候補であるクズリさんをそれと戦わせることで、仕上がり具合を確かめにきたというのだ。
そしてクズリさんは、奴が課してきた試練を見事クリアしてみせた。
≪それにしても、ウルヴァリンの働きは見事だったが、我々の方に手ぬかりがあった可能性が否めないのが残念なところだ≫
機嫌が良さそうにクズリさんを称賛していたグレン・ヴェスパーだったが、やがて口角を真一文字に下げ、苦虫を噛み潰したような表情で椅子に再び座り込んだ。
≪そこで見ていた君・・・・・・確か、スパイダーモンキーだったか? 君の推察は実に的確だったな≫
「どういうことっスか?」
≪君が言った通り、あのVRプログラムはシベリアン・タイガーの行動パターンを忠実には再現していない。本物のシベリアン・タイガーはいかなる時も自分からの攻撃を行わないのだが、我々はそれを甚だ非効率的と判断し、状況に応じて自発的な攻撃を行わせるようにプログラミングし直したのだ・・・・・・だがその結果が、このザマだ≫
≪ウルヴァリン、君もスパイダーモンキー同様に、シベリアン・タイガーの動きを読んでいたのか? わざと無防備な姿をさらして相手の大振りな攻撃を誘発し、それに反撃することで勝利を収めた、ということか?≫
クズリさんは未だVRマシーンの中から自力で降りることも出来ずに、グレンの詰問をぼんやりとした表情で聴いていた。
数瞬黙りこくっていたが、やがて深いため息を付いてからその口を開いた。
「・・・・・・ぶち殺すぞ、てめえ」
______ドガンッッ!!
ぶつぶつとぼやきながら、クズリさんの怒りが前触れもなく爆発した。上半身を弓のようにしならせて、自身の体を覆っているVRマシーンを思いきり殴打した。
分厚い金属の外殻が粘土のように歪み、砕け散った内部の基盤がバチバチと電撃を放った数瞬の後、周囲のいくつもの電灯が消えて、部屋が一層薄暗くなった。
あれだけの戦いをした後で、まだこんな力を残しているとは・・・・・・
「このオレにつまらねえ戦いをやらせてんじゃねえッッ!!」
クズリさんはグレン・ヴェスパーを燃えるような目つきで睨み付けながら、我を忘れたように怒鳴った。彼女が本来持っているクールさや知性がまるで失われている。
≪君が怒るのも無理はないな・・・・・・だが安心したまえ≫
竜巻のような殺気を画面越しに受け流しながら、グレン・ヴェスパーがポツリと返答を返した。
まったく信じられない有り様だった。クズリさんのそれに負けない程の迫力が、グレンの静かな佇まいから感じられるのだった。これほどのプレッシャーが、か弱いヒトから発せられているのか? それも老境に達したこの男から・・・・・・。
≪もうじきここに本物のシベリアン・タイガーを連れてきてやるぞ。思う存分にライバルと競い合うがいい≫
「・・・・・・な、何だとォ?」
≪シベリアン・タイガーの奪還は現状の最優先課題だ。そして我々はすでに動き出している≫
グレン・ヴェスパーが、有り余る覇気を五体に纏わせたまま静かに語り始めた。
敵対組織パークの手にアムールトラとヒグラシが寝返り、行動を共にしている現状。それは、Cフォースにとって途轍もなくまずいことなのだという。
言わずもがな、アムールトラはクズリさんと互角の強者。つまりはフレンズの次なる進化形態にもっとも近い一体である。
そしてヒグラシは、グレン・ヴェスパーの弟子として長きにわたってフレンズの研究と育成に第一線で携わってきた、Cフォースの最先端技術の粋を知り尽くした人材だ。
最高の実験材料と、最高の技術者が、同時に敵の手に渡ってしまった。
その状況から、あるひとつの可能性が懸念されている。
Cフォースの念願であるフレンズの進化形態、究極の戦闘生物が、敵対勢力パークの側から生み出され、その技術が確立されてしまうかもしれないということを。
≪もしそれが現実になった場合、Cフォースは窮地に立たされるであろう。我々がいかに兵力的にも物量的にも優位であっても、パークを排除することは容易ではなくなる・・・・・・すでに奴らは、ヒグラシの口から我々の機密を知り得ていることだろうし、我々の寝首を的確に掻きに来るだろうから尚更だ≫
≪お父様・・・・・・どうかお許しください。愚かな娘を≫
突如、イヴがグレンの前に立ち、神妙な態度で首を垂れた。その目には光る物が浮かんでいる。
≪今回の責任はすべて私にあります。私がヒグラシの叛意を見抜けず、地質調査になど向かわせてしまったばかりに、このような事態を招いたのです。本当に、本当に申し訳ありません≫
≪親子ともども、人物を見る目が足りなかったようだな≫
すり寄って許しを請う娘に視線もくれないグレンの表情に影が立ち込めると、顔面に刻まれた数多の皺が歪み、般若のような怒りの形相を形作った。
≪ヒグラシめ・・・・・・医者崩れの凡愚の分際で、長年目をかけてやった恩を仇で返しおって! あの裏切り者だけは私がこの手で直接八つ裂きにしてやる! いや奴だけじゃない・・・・・・パークの首魁である”あの男の血を受け継ぐ小娘”もだ!≫
「で、最高指導者さんよォ、具体的にどうすんだ?」と、怒りに震えるグレンとは対照的に落ち着きを取り戻したクズリさんが嘲笑するような声色でそう尋ねた。
≪シベリアン・タイガーとヒグラシを捕え、それに随伴する連中を始末するための刺客を、すでに南アフリカ国土に放っているのだ。人間とフレンズの混成部隊をな≫
「ケッ、どんなフレンズを向かわせたんだか知らねえが、アムールトラと戦えるような奴がオレの他にいんのかァ?」
≪無論いるとも。おそらくは君すらも凌駕する実力者が1人・・・・・・私の腹心として様々な汚れ仕事を任せている故、実験体としては登用していないがな≫
思いがけない回答を聞いて、クズリさんの眉毛がピクリと動いた。
横にいるスパイダー隊長が「ま、まさか」と口をパクパクさせながら声にならない感想を漏らしている。
どうやら2人には共通の思い当たりがあるようだった。クズリさんすらも凌駕する実力者とはいったい誰のことだ?
≪もうひとつ大事な知らせがある。時期は未定だが、君たちの出番もやがて回ってくるぞ≫
僕があっけにとられていたのも束の間、刺客の名を明かす気もないグレン・ヴェスパーが新たな話題を続けた。
≪そう遠くない内に、アフリカ大陸全土に散らばるパークの賊共を根絶やしにする大規模侵攻作戦を展開する予定だ。君たちには私の手勢に加わってもらわなければならん≫
「ちょっと待ってくださいよ! アタシはそんなことやりたかないっス!」
意外にも、声を荒げたのはスパイダー隊長だった。最高指導者の命令を当然のように切って捨て、投影された彼の映像に向かって猛然と詰め寄った。
「セルリアンと戦うのがアタシらの仕事だったはず! ヒトやフレンズと戦わされるなんてゴメンっス! 話聞いてっとアンタの口からはパークのことばっかじゃないっスか!」
≪スパイダーモンキーよ、我が娘から話を聞かされているはずだが≫
「・・・・・・女王とかいうのを生み出して、セルリアンに言うことを聞かせるって例の話っスか?」
≪その通り、すでに我々の方針はセルリアンの根絶にあらず。支配だ・・・・・・それこそがこの世界を次なる繁栄に導くための最良の選択なのだよ。その崇高な目的を妨害するパークをこそ最優先で排除しなければならん≫
事態はすでに抜き差しならない方向に向かっていた。今、グレン・ヴェスパーの頭の中を占めているのはパークを滅ぼすことだ。
Cフォースとパークとの戦争がすでに勃発していることを思い知らされる。
「ひとつ聞いていいっスかね」と、スパイダー隊長が間髪入れずに追及の姿勢を見せる。
グレン・ヴェスパーの弁にすっかり圧倒されてしまっている僕と違って、隊長はまだ心が折れていないようだ。
「アンタの言ってることを、他のお偉方は承知してるっスか? アンタまさか独断で動いているんじゃ? 自分の娘とか、言いなりになる手下だけを使って」
≪・・・・・・何が言いたいのかね≫
「Cフォースには、フレンズたちと一緒に体張ってセルリアンと戦ってきた兵隊さんがいっぱいいる。たとえばアタシの元いたブラジル支部の司令官だってその1人っス。アンタがどれだけ偉い立場だろうと、あのヒトたちが”セルリアンともう戦わない”なんて馬鹿げた命令を素直に聞くはずないっス。最悪、組織が真っ二つに割れてしまうかもしれない・・・・・・そうっスよね?」
≪ほう、組織というものに理解があるな。君にはリーダーの素質があるようだ≫
グレン・ヴェスパーは、一兵士どころか所有物に過ぎないフレンズにしつこく詰め寄られて、不機嫌になるどころか、感心したように舌を巻いていた。
≪察しの通り、現段階ではこのプロジェクトは公にしていない。頭の固い軍閥共は、こちらが結果を見せぬ限りは納得せぬ・・・・・・だが案ずるな。女王の力を見せつけてやれば奴らとて首を縦に振らざるを得なくなるだろう≫
「そ、そんなに何もかも上手くいくはずが」
≪物事の是非は我々が判断すること。スパイダーモンキー、君に出来ることはひたすらに役目に励むことだけだ。君のその五体に”オーダー”が刻まれていることを忘れるな≫
「・・・・・・くっ!」
まるで聞く耳を持たない態度で無慈悲な言葉を被せてくるグレンに対して、ついにスパイダー隊長はついに反論する言葉をなくした。
その表情には堪えようのない口惜しさと困惑が滲み出ている。
≪ではまた会おう。君たちの働きに期待している≫
ありきたりな挨拶の中に、自身への従属を強調させるような一言を告げると、グレンがゆっくりと立ち上がって画面の外へと出て行った。
イヴは父親が消えたのを見送った後で、申し訳なさそうに垂れていた彫像のような顔をゆっくりと持ち上げた。
______ニヤリ・・・・・・
彼女の口元が、静かに、だが確かに笑みを形作っていた。その意味を推し量る術もないが、ただひとつわかるのは、眼鏡越しの瞳の中に、身の毛もよだつほどの邪悪な意志が感じられるということだ。
この女は、怒りに身を焦がす父親の傍でいったい何を考えている?
≪ご苦労様。今日はもう解散でいいわ≫
まじまじと見つめる僕に気づいたように視線を合わせてきたイヴが、例の笑みを浮かべたままそう告げると、光で作られた幻影が消失した。狭く冷たい部屋に暗黒が再び取り戻される。
「なんでこんなことに・・・・・・」
スパイダー隊長は相変わらず頭を落としてうなだれている。望まぬ相手と戦わなければいけないと言われたことが、その運命が避けられないことが余程ショックだったようだ。
僕にはよくわからない。隊長は何をそんなに悩んでいるのだ。
「元気を出してください。今の話は僕らにとって確実に朗報ですよ」
僕はスパイダー隊長を励ますために、彼女がまだ自覚していないであろう事実を強調することにした。
「パークを駆逐すれば、僕らの戦いも終わりです。Cフォースの長がそう明言したのだから絶対です。ようやくあなたは、戦いの運命から”逃げ切る”ことが出来るのです。あなたはCフォースのために記憶まで失くさせられて、それでも今まで頑張って戦ってきたのでしょう? その苦労が報われるチャンスがついに巡ってきたのですよ?」
「だからってヒトやフレンズと戦うなんて間違ってるっス」
「なぜですか? あなたほどの優れた能力を持ったフレンズが遠慮することなんか何もないでしょう。強者は弱者からすべてを奪う権利がある。最早帰ることのできない故郷よりも良い住処をパークの奴らから奪い取って、第二の故郷にしてしまえばいいじゃないですか」
「め、メリノ、お前・・・・・・?」
僕が精一杯の言葉で励ましたというのに、隊長は元気を出すどころか、目を見開いて絶句し、軽蔑するような空気を醸し出してきた。
どうしてそんな顔をする? 僕が何か間違ったことでも言ったのか。
「スパイダーよォ、ここはメリノヒツジの言うことが正しいぜ」
壊れたVRマシーンの中にいる満身創痍のクズリさんが、そう言いながらゆっくりと立ち上がり、ひび割れた棺桶の敷居を跨いで冷たい部屋に降り立った。両腕から垂れ下がる鎖がジャラリと音を立てる。
未だに額から冷や汗を吹き出し肩で息をしている有様だったが、その覇気は早くも万全な時とそう変わりないまでに戻っていた。どんなにダメージを負っても、現実には存在しない仮初の傷だ。回復するのに時間はかからないということか。
「パークの奴らは敵だ。四の五の言わずに叩きつぶしてやりゃいい。アムールトラもそうだ。アイツはもうオレたちの仲間じゃねえ」
クズリさんにまで真っ向から否定されたスパイダー隊長の顔が青ざめる。彼女はこのまま黙り、話はそれで終わると思っていた。
しかしそうはならなかった。
「・・・・・・ふざけんなっス」
苦痛に耐えるような顔で俯いていたスパイダー隊長が、ゆっくりとした足取りでクズリさんに近づくと、その胸倉を勢いよく掴みあげた。
まるで信じられない光景だ。隊長がここまで純粋に怒っているのを初めて見た。器用で賢く、常に冷静にふるまう彼女にこんな一面があったとは。
「シベリアンは今でもアタシたちの友達っス。敵とか味方とか、んなモンは全部あのグレン・ヴェスパーの独りよがりな都合なんスよ!」
「だからなんだ? てめえがどう言おうが、オレはアムールトラと決着を付けるぜ」
胸倉を掴みあげられたクズリさんが、その手を振り払いもせずに殺気を覗かせながら抗弁する。
しかしまるで恐れない様子のスパイダー隊長が、クズリさんと額がくっ付きそうな近さまで顔を近づけて、被せるように答えた。
「だったらアタシはそれを止めてみせる!」
「アタシの望みはこの地獄みたいな境遇から抜け出すことっス! でもそん時ゃあ、アンタもシベリアンも一緒だ! アタシは大事な友達みんなと一緒に自由になりたいんスよ!」
「くっ・・・・・・夢みてえなことばっか言ってんじゃねえ!」
意外なことに、クズリさんは隊長の剣幕に押されてしまっていた。戦闘能力において天と地ほどの開きがあることなど、この2人の間には全く関係がないのか。
彼女たちの間には想像以上に深い絆があるようだ。その厚い信頼と友情は、もはや互いに対する敬意と言っても差支えないレベルのように思える。
凶暴凶悪なクズリさんであっても、そんな相手に手を出すことは出来ないのか。
額をくっつけてしかめっ面で睨み合いながらも、2人はどこか遠い目をしていた。その瞳の向こう側には共通のものを見ているようだ。
おそらくは、アムールトラと一緒に過ごした日々のことを。
真っ向から意見が対立しつつも、信頼しあう2人が議論の決着をどう持っていくのか全く分からない。
その結末を見届けたいところだったが、僕にもどうしても言いたいことがあった。今の状況であればそれを口にすることが出来る・・・・・・ここは是非とも一枚かませてもらおうか。
「それにしても、わからないんですよねぇ」
僕はあからさまに水を差すような声色で2人に割って入り、まったく違う話題を振った。
「クズリさんは何故、アムールトラのような弱者をそこまで高く評価するのですか? 敵の隙も突けないような奴なんでしょう? あなたは思い出を美化しているだけで、実際のアムールトラは、あなたに遠く及ばないようなザコだと思いますよ」
「なんだァ?」
クズリさんがスパイダー隊長と向かい合ったまま、横目で僕を睨み付けてきた。まるで自分自身が侮辱されたかのように怒っている。
僕はそれを小ばかにするようなニヤけ顔で受け止めた。
「メリノヒツジ、てめえごときがアムールトラを見下してんじゃねえぞ!」
さすがに、ライバルを侮辱されたら怒るに決まっているよな。
どこにもかしこにも飛び交うありきたりな言葉が、これほどまでに重みのある物であるとは思っていなかった。
ライバルに打ち勝つことこそが人生の目的、自分の在り方すら決めてしまうほどに巨大な存在と言っても過言ではないだろう。
クズリさんにとってのアムールトラは、そういうものだ。
「まあ本当の所はわからないですよ。僕は奴に会ったことがないのだから・・・・・・しかし、話を聞く限り、全然大した奴に思えませんね」
クズリさんを挑発するためにこんなことを言っているわけではない。僕は本音でそう思っていた。戦いには向かないと言われる心優しい性格、先手なしを旨とする勘違いしたフェアプレー精神・・・・・・そんな甘っちょろい奴が強いはずがない。
優しいまま、甘いまま強くなれるなんてあり得ない。アムールトラはかつてヒツジの世界に留まっていた僕同様に、この奪い合いの世界では生きていけない弱者に決まっているのだ。
優しくて強いトラなど絶対に認めるものか。そんな奴のことを、クズリさんが最高のライバルとして恋焦がれることなど到底看過できない。
「アムールトラは僕に殺させてくださいよ。あんなザコ、あなたが相手にする価値はない」
胸に去来した強い意志を、せき止める間もなく口にした。アムールトラをこの手で殺して、その命ごと奴の価値観を否定してやる。
証明してやるのだ。残酷さこそが強さの本質であることを。
そしてアムールトラを殺した後は、僕がクズリさんのライバルの座に付く。
「・・・・・・てめえも懲りねえなァ、また死ぬような思いがしてえのか? いい加減オレのことを舐めてんじゃねえぞ」
「やめろ! 頼むから仲間同士で傷つけあうのはやめてくれっス!」
一触即発の空気を纏い始めた僕とクズリさんの間に、スパイダー隊長が慌てて割って入る。身を挺して諌めてくる友の姿を見て、クズリさんはギリギリで怒りを抑えている感じだ。
隊長の体を貫通して、刺すように鋭いクズリさんの殺気が伝わってくる。だがこれでもまだ彼女は本気じゃない。VRのアムールトラに向けていた殺気はこんなものじゃなかった。
「クズリさん。あなたの方こそ僕を舐めているのではないですか?」
僕は殺気に怯みもせず、それを跳ね返すつもりで言葉を続けた。
「僕がアムールトラを殺すと言った所で、あなたがそれをとやかく言う権利はないはずだ。なぜなら、たとえ何者であろうと獲物を独占する権利などないのだから。獲物とは早い者勝ちで奪い合うもの・・・・・・それが弱肉強食のルールのはずだ。違いますか?」
クズリさんは悔しそうに歯噛みしている。”獲物は早い者勝ち”それは少なくとも野生の肉食獣にとっては共通普遍の真理だ。それを否定することはクズリさんの信条に真っ向から反する。実に返答に詰まるはずだ。
(あなたには何も出来まい)
僕と2人きりならば、暴力で僕を黙らせるのは簡単だろうが、今はスパイダー隊長が間に入っているのだ。
生意気な後輩に論破されたからといって、五分の兄弟分ともいうべき親友の目の前で、暴力を行使して論戦の負けをひっくり返すような恥晒しなマネは、誇り高いクズリさんには出来るはずがないのだ。
「・・・・・・さあ、どうするのですか?」
最初から僕のことなど相手にしなければ”安い挑発”と一蹴出来たものを・・・・・・僕が売ったケンカを言葉のはずみで軽々しく買うからこういうことになるのだ。
うすうす気づいていたことだが、クズリさんはその戦闘能力に反比例するように、口喧嘩がまるで弱い。良く言えば筋が通った、悪く言えば直情的な思考をしているがゆえか。
「もういい。この話はこれで終わりっス」
間に入っていたスパイダー隊長が、クズリさんに完全に味方するような態度で、僕の前に正面から立ちはだかった。まるでこの場を引き受けたかのようだ。
確かに隊長なら、クズリさんよりはるかに弁が立つだろうな。
彼女は例の悲しそうな瞳で僕を見ている。何でそんな顔をするのかわからない。
「メリノ、お前のことがよくわかったっス」
「何がわかったのですか?」
「お前は別に変わったわけじゃなくて、元々今みたいな性格をしていたんスね。でも今までずっとそれを隠して我慢してきた・・・・・・それが今になって爆発して、タガが外れちまってるんスね」
素晴らしく心地よい言葉だった。他人に自分の内面をズバズバと言い当てられることがこんなに気持ちのいいことだとは思わなかった。
やはり隊長は僕のことを一番深く理解してくれているのだ。
「でもね、限度っていうのを知るべきっスよ。自分のことを抑える術を知らない奴には、破滅しか待っていない」
「そうですか。肝に銘じておきましょう・・・・・・では失礼」
「どこに行くっスか?」
「広い場所を探して自主トレーニングでもやりに行こうかと思います。イヴ・ヴェスパーには今日は解散と言われましたが、体を動かさずに終わる一日など気持ち悪いのでね・・・・・・ご安心を、もちろんトレーニングは1人でやりますよ。あなたの部下を巻き込んだりはしません」
僕は隊長が出してくれた助け舟に便乗するように、その場を足早に立ち去りはじめた。
さしもの僕も自殺願望があるわけじゃない。一度目は感情を抑えられずに必死だったけど、二度目の今なら冷静に状況を推し量ることができる。今の僕の実力でクズリさんにケンカを売って生き残れる道理なんてないのだ。
・・・・・・だから隊長の存在を利用して、言いたいことだけ言わせてもらった。アムールトラを横取りしてやるという宣言をな。
クズリさんはライバルであるアムールトラと決着を付けたい。
スパイダー隊長は友達同士が殺し合うのをやめさせたい。
そして僕は、アムールトラを否定して己の信念の正しさを証明したい。
3人ともやりたいことがまったく違うのだ。いずれ衝突は避けられないだろう。それでも僕は譲らない。
なぜならば、やりたいことを徹底的にやるのがフレンズの生き方なのだから。
クズリさん。あなたが教えてくれたことだ。あなたの言葉のおかげで今の僕がある。僕は命が絶えるその瞬間まで、この言葉を忠実に守り続けるだろう。
to be continued・・・
______________Cast________________
哺乳綱・鯨偶蹄目・ウシ科・ヤギ亜科・ヒツジ属
「ヒツジ(メリノ種)」
哺乳綱・ネコ目・イタチ科・クズリ属
「クズリ(ウルヴァリン)」
哺乳綱・霊長目・クモザル科・クモザル属
「ジェフロイズ・スパイダーモンキー」
_______________Human cast ________________
「グレン・S・ヴェスパー(Glenn Storm Vesper)」
年齢:74歳 性別:男 職業:Cフォースアメリカ本部総督ならびにアトランタ研究所所長
「イヴ・B・ヴェスパー(Eve Brea Vesper)」
年齢:25歳 性別:女 職業:Cフォースアフリカ支部研究所(別名スターオブシャヘル)所長
_______________Story inspired by________________
“けものフレンズ” “けものフレンズ2”
byけものフレンズプロジェクト
“けものフレンズR”
by呪詛兄貴