けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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 あるトラのものがたり第4話です。

 ロードランナー、オーブを求めて深海の冒険に挑む。



現代編4「ほのおのらんなー」

「ともえさん、おはようございます! ほらっロードランナーさんも起きて!」

「・・・あ、うん・・・」

「んあ・・・プロングホーン様・・・もう食べられないよ・・・・・・はっ! ・・・・・・お、おーイエイヌ! おはよーさん・・・!」 

 

 三人の中で一番早起きなイエイヌの、明るい声で目が覚めた。いつもと同じ目覚めだ。イエイヌは昨日のやり取りを、何も気にしてないように思えた。

 ともえは作業をしながら寝落ちしてしまい、机にそのまま伏して寝ていたはずだったが、頭の下には枕が敷かれ、布団をかけられていた。ダイニングテーブルには色鉛筆やメモなどの道具を散らかしたままのはずだったが、それらはすべて几帳面に整理され、机の上に並べられていた

 イエイヌがしたことだろう。イエイヌはともえが寝るまで待っていて、ともえが眠りについてから、さりげなく、そっと身の回りのことをしてくれたのだ

 

「イエイヌちゃん・・・」

「はい」

「今日もがんばろうね」

「・・・はい」

 

 ともえは“昨日はごめん”と言うことは出来なかった。謝ったところで、これから自分がやろうとしていることを中止する気はない・・・そんな形だけの謝罪など不誠実だ・・・だから普段通りに接するしかないと思った

 

 ともえ達三人が身支度を整え、ロビーに向かうと、すでに海生哺乳類のフレンズ数人が

ロードランナーを待ち受けていた

 

「おーい、ロードランナー! 準備が出来てんなら行くよー!」

「おはようアンタら! オレ様は準備OKだ!」

 

【トモエ、オーブ ヲ サガス ナラ、オレ モ ヤク ニ タテル ハズ ダ】

「ラモリさん? でも、あたしは行かないよ? 他の子とは話せないのに、オーブの場所をどうやって知らせるの?」 

【カイワ イガイ ノ ホウホウ ダ】

「じゃーオレ様、ちょっくらオーブ取ってくるからよー! ともえとイエイヌは安心して待ってるといーぜ。・・・え? ラモリさんも行くって? わかったぜ! 一緒に行こうじゃあねーかよぉー!」

 

 ロードランナーは、ラモリを担ぎ上げながら、颯爽と海生哺乳類のフレンズの中に駆けより輪に入っていった。振りかえってともえ達に向かって親指を立てた

 

「ロードランナーちゃん、ラモリさん、気を付けてね」

「まかせとけー!」

 

____ザァァァァァ・・・

 

 ロードランナーは、マイルカ達とともに、ホテルの入り口となる中庭の石造りの階段の目の前に来ていた

 昨日と変わらず、辺りは深い霧に包まれていた。しかし、真上の空の色は深い群青色だった。今は間違いなく朝だ。日が昇ってから数時間と経っていない・・・そして今日の天気は快晴・・・冒険びよりだ・・・ロードランナーの胸が躍った

 階段の入り口に座り込み、何か機械のようなものを点検するフレンズがいた

 

「おー、おめーデグーじゃあねーか、おはよっ!」

「オオミチバシリさん、おはようございますゥ! これから、例の“光る球”を探しに行くんですよねェ! ほら、こちらへどうぞォ“水中でも呼吸が出来る機械”を装着しますよォ!」

 

 デグーはロードランナーの上半身に黒いベストのような上着を着せると、ベストの背中側についたベルトやラックに金属の容器を取り付けた。金属の容器は、透明なバケツのような物体と繋がっていた。ロードランナーはそのバケツをすっぽりと、頭から首回りまで被った

 

「うへー、変な感じだぜー、背中めっちゃ重いし」

「やだー、こんな変な物付けて海に潜るなんて、アタシ達だったら絶対やだなー」

「失礼しちゃいますねェ!これは水中でも呼吸しながら会話もできる優れものなんですよォ! あ、でもひとつ注意してほしいのは、ずっと潜ってられるわけじゃないってことですゥ・・・時間が経つと、この金属の容器の中の空気がなくなって・・・息が出来なくなって・・・」

「そ、そっか・・・(ゴクリ)で、いつまで空気が持つのか、どーやって知ればいいんだー?」

 

 デグーはロードランナーの左手に、黒いバンドに付いた小さな丸いレンズを取り付けた。このレンズもチューブによって金属の容器と繋がっていた

 

「良いですかァ? 難しい理屈は抜きにして説明しますよォ。このレンズの中を見てくださいねェ・・・このレンズの右側は緑色、真ん中は黄色、左側は赤になってますねェ。そしてこの針・・・今は右側の緑色の一番端っこにあるけど、時間が発つごとに半時計周りに動いていくんですゥ、最初は緑色だけど、次は黄色、次は赤に針が傾いていって、左側の端っこに針が届いたら、それで中の空気がなくなったってことになりますゥ・・・。行きと帰りを考えたら、針が赤のエリアに入る前に引き返さないと危険だと思いますゥ」

「アタシ達が“青く光る眩しい何か”を見つけたのは、ここからそんなに遠くない所だったよ。あんまり時間はかからないと思う・・・すぐ見つかればだけどね」

「もうわかったと思いますけどォ、本来は陸で暮らすフレンズが海に潜るっていうのは結構大変なことですよォ・・・だから危なくなったら、無理せず引き返してくださいねェ?」

「お、おー、わかったぜ・・・」ドキドキドキ

「さてと、じゃあ行こ? ああ、このラッキーさんも連れてくんでしょ? アタシがこの子持ってるよ」

「ありがとよ、マイルカ」

 

______バシャン! ブクブクブク・・・

 

 自分がいまだ足を踏み入れたことのない場所に、ロードランナーは入っていった・・・鮮やかな珊瑚が生い茂る海の花畑・・・地上でもあまり見られないぐらい大きな岩棚・・・そしてジャパリホテルの周囲にあったと思しき、海に沈んでしまった珍妙な建造物の数々・・・

 それらはすでに、ホテルの窓の中から見ていた光景ではあったが、実際にそれらの近くを動き回ってみると、窓から眺める風景とは比較にならないぐらいに、高低差と奥行きがどこまでも広がっていた

 陸とは違う、もうひとつの世界だった

 

「すっげー! これが海ん中かよぉー! アンタらいつもこんな所泳いでんのかよぉー、いいなー! めっちゃうらやましいぜー!」

「そう? ありがと! そうやって感動してるの見ると、なんか嬉しいね。アンタってけっこー素直で良い子だよね・・・そうそう、アタシ以外の自己紹介がまだだったっけ・・・みんな、ロードランナーに名前教えてあげてよ」

 

「うちはスナメリだよ。うちもうみのなかだいすき。あんたをあんないしたげる」

「あたいはミンククジラだ、鳥類のツレは始めてて緊張してるぜ・・・シクヨロ」

「ピース! ピース! おいらゴマフアザラシだよ! なんかアンタとおいら似てない?」

 

 ロードランナーはもちろんのこと、泳いだことは一度もなかった。そのためスナメリとゴマフアザラシに両腕を引かれる形で海に潜っていった。4人のリーダー格のマイルカがラモリを腕に抱えながら全体の指揮をとっていた。副リーダーのミンククジラが先行してオーブの手がかりを探っていた

 ロードランナ-は見様見真似で、マイルカ達のように足をバタつかせようとしたが、泳ぎの邪魔になるからやめろと言われた。せっかくここまで来たのだから、何か役に立たないとつまらないとロードランナーは思った

 引かれるまま深く潜っていくと、海面からの日光がだんだんと届かなくなり、ほどなくして夜とそう変わりない暗さになっていった。きっと地上も霧に包まれていて、日光が乏しいことも関係しているのだろう

 

「だめだマイルカ。この先も何も光るものなんてない、真っ暗だ」

 

 先行していたミンククジラが、暗闇の中から舞い戻ってきた

 

「うーん、困ったな・・・これじゃあの夜と同じじゃない・・・アタシ達は“ソナー”で、周りの地形は把握できるけど・・・“光る球”みたいな小さな物なんて、目に頼らなきゃ探せないわ・・・」

 

【ピコーーーーーン・・・・・・ピコーーーーーン・・・・・・】

 

「え、何このラッキービースト! 急に音が鳴り始めたよ」

「おー、ラモリさん・・・話せるともえがいないから、話す以外の方法で何かを伝えようとしてんだなー?」

「ロードランナー、何かわかんの? 」

「いやー、わかんねー。だが、もうちっと進んでみよーぜ」

 

 すでに暗闇と化した海の中をロードランナーたちは進み続けた。海生哺乳類達のソナーにより迷いなく進んではいたが、オーブが見つかる気配は一行になかった

 ロードランナーは海中において目も耳も聞かなかったが、なんとなくの感覚で、辺りがどんどん狭くなっていることに気付いた

 おそらく、辺りは海底から隆起する岩に囲まれて、入り組んだ迷宮のようになっていた・・・マイルカ達に連れられていなければ、自分は間違いなくここから生きて出ることは叶わないだろう・・・目を凝らして、自分の左腕にあるレンズを見つめた

 レンズはちょうど“緑色”から“黄色”に針が切り替わろうとしているところだった

 

【ピコーーーーーン、ピコーーーーーン、ピコーーーーーン】 

「もうイラつくな、このラッキービースト! さっきよりうるさい・・・」

「(ラモリさんの、この音は何なんだー? 何か意味があんだろぉーよ?)」

「マイルカ、どうする? もうここが海底だ・・・海底をしらみ潰しに探すか? あたいらはともかく、ロードランナーは危ないんじゃないのかい?」

「そうだね・・・ロードランナー、誰か一人付けるから、もう上に戻って・・・ついでに・・・」

 

【ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン・・・】

「このラッキービーストも・・・どんどんうるさくなってるし、悪いけど連れて帰ってよ」

「いや、まだ帰らねえぜ・・・わかったんだ・・・ラモリさんが発する音の意味が! 多分だけどよぉー、この音・・・オーブが近づけば近づくほどうるさくなるんじゃあねーか? オーブが光らないなら、このラモリさんの音が唯一の手掛かりだぜ! マイルカ、ちょっとラモリさんを放してみてくんねーか? ラモリさん、頼む・・・海底に降りて、オーブの位置を案内してくれよ」

 

 ラモリはマイルカの腕を離れ、底まで沈んでいった・・・もはや暗闇の中でラモリの姿は見えない・・・しかし・・・

 

【ピコ、ピコ、ピコ、ピコ、ピコ、ピコ・・・】

「やっぱり! またうるさくなったぜー! 音のする方に行ってみようぜ!」

 

 ロードランナーはほどなくして、自分の足が地面に付く感覚を感じた。自分は今海底に立っている。周りにいるマイルカ達も泳ぎではなく、海底を蹴って進んでいる・・・そうだ、この辺りの海底にオーブがある・・・

 

【ピピピピピピピピ・・・】

「ここだ! もうその辺にオーブがあるぞ! みんな、辺りの地面を探ってくれねーか?」

「「「わかった!」」」

 

_____ザッザッザッ

 

 海底の地面は、陸の上の砂浜のように、細かな砂が堆積していた。地面を手当たり次第に探っても、動かした分だけ砂の重みが手の平に乗り、そしてすぐに霧散していく

手ごたえを感じるだけだった・・・

空気は後どれだけ持つ? さっき確認してから、ずいぶん時間が経ったのではないか・・・?

 

_____ザッ・・・・・・コロンッ・・・

 

「何だー・・・? 今なんか丸っこいのが手に触れたような・・・なんも見えねえけど、この辺りか?」

 

_____ガシッ・・・

 

 五本の指に収まるこぶし大の球体をロードランナーはその手に掴んだ・・・これがオーブなのか? 暗闇では何もわからない・・・ただの丸い石かもわからない・・・ロードランナーが疑心暗鬼に陥りそうになっていた時、突如目の前を光が照らした

 

「お、お、ラモリさん!?」

 

 オーブが光ったのではない。光源は自分の前にあった。ラモリの体の中央にある“レンズ”から放たれた、サーチライトのような細く鋭い光が、目の前のロードランナー、そしてその右手に握られた球体をもはっきりと光の中に捉えた

 球体は、自然物ではあり得ないほど滑らかな表面を持つ、完全な球だった。球の表面は水のようにつややかな半透明だった。しかしよく見つめてみると、複雑な紋様が360度すべてに走っていた。その模様のひとつひとつが、ラモリのサーチライトを反射して、きめ細やかな光の点を作っていた

 そして球の一番中央は、光が反射する部分が集中していた。反射光が結び合わさる形はなんとなくどこかでみたような形を思い起こさせた。それはジャパリパークを象徴する“の”の字に似たシンボルだった

 ロードランナーは、手にした球のあまりの異様さに一瞬思考を停止してしまった

 

「・・・おっと、いけねぇ・・・これが、オーブなんだな。そうだろぉー? ラモリさん?」

【・・・・・・】

 

 ラモリは何も答えなかった。だがその場を微動だにせず、ロードランナーを照らし続けた

 

「・・・いぃぃよっしゃーーーーっ!!」

「ピース! ピース! オーブって綺麗だなー、おいらにも見せてよ!」

「うちもうちも!」

 

 ロードランナーは見事に目的を達成し、来た道を引き返した・・・早く帰ってともえとイエイヌにオーブを見せてやろう、二人がどれくらいびっくりするのか想像しただけでもウキウキする・・・そんなことを考えていると、辺りは再び海面から指す日光に照らされ始めた

 

「待って! ・・・皆、そこで止まって!」

 

 日光を遮る巨大な影があった。黒く浮かび上がる“船のような形の何か”が左右に付いた“胸ビレ”を悠然と動かしながら、海中をゆっくりと移動していた

 

「・・・あのでけーのが、アンタらが先日見たってヤツかよぉー?」

「そうだよ・・・あれ、本当何なんだろう? ハツカネズミさんはセルリアンじゃないって言ってたけど・・・もし、仮にセルリアンだったら、あんな大きいのに見つかったら、アタシ達全員ここで“元に戻る”ことになるよね」

「やだ、うちそんなのやだ・・・」

「いやー、それよりもヤバいのはよぉー、ここでオレ様達が見つかったら、もうホテルに戻ることは出来ねぇっつーことだぜ・・・オレ様達の後を付けられて、ホテルに奴が来ちまったら・・・」

 

「・・・あの時みたいにやり過ごすしかない。みんな、一人ずつ散って、岩陰に隠れてアタシが良いって言うまでじっとしてて」

「わりぃ、マイルカ・・・オレ様、じっとしてるのは無理みたいだぜ」

「ロードランナー、あんた・・・」

 

 ロードランナーの左腕に付けられたレンズの“残気量”は、今にも左端に到達せんとしていた。それは、ほどなくしてロードランナーが呼吸できなくなることを意味していた

 

「なあ、あの“船もどき”も海の中を泳いでるんだからよぉー、アンタ達みたいに、暗い海の底でも物の位置を見分けられる能力があるはずだろぉー? その能力ってのはなんなんだ?」

「“音”だよ・・・アタシ達は音を出して物の位置を探るの。音が物に当たると跳ね返ってアタシ達の耳に返ってくる。その音が物の位置や動きを知らせてくれるんだよ・・・だから、視界に入らなくても、音を立てたり、身動きとったりするだけで見つかる可能性があるわ」

「そ、そっかー・・・ヤバい能力だなー・・・マジでずっけーだろぉーよ、そんなの」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ・・・どうすんの?」

 

 ロードランナーは辺りを見回した。岩陰に隠れてじっとしてはいられない、しかし動いて海面に出るわけにはいかない・・・ならば・・・

 海に沈んでしまったヒトの時代の建築物が、辺りに軒を連ねていた。その中に、苔に覆われた細長い柱が垂直に突き立っていた、見た感じ、柱は海面まで伸びていた

 

「なあ・・・あそこ、あの柱まで、連れてってくれねーか?」

 

 思った通りだ、この柱は、ロードランナーの体がちょうど隠れる分だけの幅がある

 この柱を背にすれば“船の怪物”から完全に姿を隠すことが出来る。後は、動かずに上に上がる方法があれば・・・

 ロードランナー達が動いたことで生まれた小さな泡が、海面に向かって浮いていた。そして、よく見ると、柱に生える小さな苔も、ちらほらと上に向かって登っていくのが見えた。それを見てある考えが脳裏によぎった

 

「なあマイルカよぉー、海の中のことはよく知らねーが・・・軽くて小さな物って、浮いたりするのか?」

「・・・そうだね、浮くよ。体の力を抜けば、アタシ達の体だって・・・」

「なら、オレ様・・・浮いて海面まで上がることにするぜ」

 

 ロードランナーは、左腕に付けられたレンズを見た。もう針は左側に傾ききっていた

 こうなったらもう、自分が身に着けているものはただの重しだ・・・ロードランナーは、レンズを外し、さらにベストに手をかけ始めた。そして急いで自分の考えを伝えた

 

「はー・・・お願いがあるぜ・・・スナメリ・・・」

「え? うち?」

「はー・・・おまえは、オレ様より体が小さいから・・・この柱に隠れて、オレ様と一緒に浮いてってくれねーか・・・この柱から、オレ様の体が離れたりしないように、支えて・・・あの化け物から・・・見えないように・・・たのん・・・・・・・・・」

 

 言い終わるやいなや、ロードランナーは“頭にかぶったバケツ”を外した。デグーが取り付けてくれた機械は、全部体から外れた。ロードランナーはゆっくりと目を閉じ、四肢の力を抜いて、その体を水中に投げ出した

 

「え? でも、うち、うち・・・」

「スナメリ・・・怖いと思うけど、覚悟を決めて。あんたがロードランナーを上まで連れて

帰ってあげて。頼んだよ」

「マイルカねえちゃん・・・」

「さあ、アタシ達は隠れよ。あいつがどこかに行ってしまうまで隠れてるの」

 

 スナメリ以外の三匹は、手際よく静かに散り、すぐに姿が見えなくなった

 

「うう、こわいよ・・・」

 

 スナメリはロードランナーを抱きとめると、柱を背にして、自分の体の一切の力を抜いて、浮くことに専念した・・・

 ロードランナーの無事を考えるならば、すぐに海面に上がりたいのだが、そうすることは敵わず、息を押し殺して、しかし柱から体がはみ出ないように、微妙に体の向きを調整しながら浮力にまかせて少しずつ上昇した・・・それは激しく泳ぎ回るよりもはるかに大変な動きだった

 

「・・・カハッ・・・」

「あっ・・・ロードランナー・・・」

 

 スナメリの肩に手を回していたロードランナーの腕の力が抜けた。そしてその体は一瞬前までよりもさらに、浮力にまかせるまま急激に浮きはじめた

 ロードランナーの意識が失われたことは明白だった。スナメリはただひたすら息を押し殺し力なく四肢が投げ出されたロードランナーの体を抱きとめながら、柱の影に身を潜めた

 日の光が直に自分の体を照らしているのを感じた。しかしスナメリには、海面までの距離がはるか遠くに感じられた

 

「(がんばれ、スナメリ・・・! ・・・あの化け物、いい加減どっかに行ってよ・・・)」

 

 マイルカは“船の怪物”を見上げた。依然として海面近くをゆっくりと泳いでいる・・・自分たちを見つけた様子もなければ、何かを探している様子もない・・・

 いったい、あんな物がなぜここにいるのか、検討が付くはずもなかった・・・黒い巨大な影は、移動したことで陽射しの当たり方が少しずつ変わっていた。やがて陽射しを真下ではなく、斜め方向から受けるようになった。その姿が少しずつ光に露わになった。そのなだらかな胴体の表面には、無数の無機質な“目”が蠢いているように見えた

 

______ブクブクブク・・・_________________________

______・・・・・

 

「う~ん・・・プロングホーン様・・・もう、マジでちょっとお腹いっぱいなんですけど・・・・・・・・・はっ! こ、ここは!」

「寝言ですかァ? ・・・ホント、大した人ですねェ・・・」

「・・・お、デグー! つーことはよぉー・・・もう、ここ海ン中じゃあねーのか?」

 

 ロードランナーは、ホテルの入り口である中庭で目覚めた。座りこんで、あきれたようにため息をついているデグーが目に入った

 

「わりぃーなー、お前に借りた機械、海ン中に置いてきちまったぜ」

「まあ、別にいいですけどォ・・・そんなことより、目的の物は手に入ったんですかァ?」

「おう・・・て、あれ? マイルカ達は?」

「アタシ達はここだよー!」

 

 石畳みの階段を静かに登ってくる4人の姿を目にした。スナメリは階段を登り切るやいなや、ロードランナーに一直線に飛び込んできた

 

「わーん! ロードランナー! こわかった! うちすっごくこわかったんだから!」

 

____ドサッ

 

「わっ! スナメリ! ・・・へへっ! おまえ、オレ様の命の恩人だぜ、よくあんな無茶ぶりに応えてくれたもんだ、ありがとな!」

「びえ~~~~~~~ん!」

「スナメリは本当よく頑張ったよ・・・でね、アタシ達、アンタを中庭まで運んでから“船の怪物”を探してたんだ・・・で、大丈夫だった。あの化け物、この近くにはいない。近づいてくるような物もない・・・アタシ達は見つかってないよ」

「やったぜ! オレ様達、うまく奴を撒けたんだなぁ!」

「ピース! ピース! おいら達大勝利~!」

「で、よぉー・・・オーブなんだけど・・・」

 

 マイルカは、右手をロードランナーの前に掲げた。手の平には青く透き通る球が・・・

 

「オレ様にくれねぇーか・・・? それ、必要なんだよ・・・オレ様、アンタ達の世話になりっぱなしだし、お礼もなんもできないし・・・虫のいい話とは思うんだけどよぉー」

 

 ロードランナーとマイルカは、青いオーブ越しに、静かに視線を交わした。マイルカの真一文字に結ばれた唇が、次の瞬間、大きく開かれた

 

「あははは! OKー! 全然いいよ! ほら持ってって!」

 

 4人の海生哺乳類のフレンズは皆一様に明るく笑い転げた。マイルカはオーブを、まるで大したことのないガラクタのように、ロードランナーに放ってよこした

 

「おっと! いいのかよぉー?」

「アタシ達、冒険がしたかったんだもん! そんな石ころなんて口実だよ! こ・う・じ・つ!」

「おいおい、そんな遊びみたいに思ってたのかよぉー・・・オレ様、途中からかなり命がけだったんだぞー? アンタ達だってマジで危ない所だったじゃあねーか」

「あははは、マジな冒険だからいいんじゃない! おかげで楽しかった! アンタのおかげ!」

「それで納得してんだったらいいけどよぉー。ま、そういうことならオーブはありがたく頂戴するぜ!」

 

「なあ、ロードランナー・・・」と、突如ミンククジラが、ロードランナーに重苦しい口調で話かけてきた

「おう、何?」

「アンタのことを“炎のランナー”って呼んでもいいかい?」

「何だそれ?」

「あははは! ミンククジラはね、仲間に変なあだ名を付けるんだよ! “ヤンキーぶんか”っぽいやつだよ!」

「あだ名じゃねえってマイルカ! “二つ名”だよ! これはあたいの美学なんだ! ロードランナー・・・さっきのアンタの命がけの行動を見て思ったよ。アンタは、燃え盛る炎のような情熱を持った奴だってね・・・あんたは何かやるって決めたら“やってやる!”って感じで、情熱を真っ赤に燃やして、全力で行動する奴だ・・・だから“炎のランナー”・・・カッコイイだろ? あ、“ロード”を省くのは、ちょい長いからだよ」

「ま・・・まあ、いいんじゃあねーの?」

「そうかい! 良かった! この異名と共にあんたの活躍を触れ回ることにするよ!」

 

「あははは! じゃあ冒険ついでにもうひと泳ぎしようよー!」

「ピース! ピース!」

「ちょっとォ! オーブ探しが終わったんだからァ、仕事に戻ってェ! 大体アナタ達4人は、いつもノリと勢いばっかりですゥ!」

「・・・まあよ、アンタら、本当に助かったぜ、デグーもな」

「まってロードランナー! うち、もっとロードランナーとあそびたい!」

「へへ、わりぃーなスナメリ、今度オレ様に泳ぎ方を教えてくれよなぁー!」

「やれやれ、アナタとは昨日会ったばかりだけど、本当に忙しい人ですねェ・・・オオミチバシリさん、いいえェ・・・“炎のランナー”?」

「ちょ、デグー、おまえもそれ乗っかるのかよぉー」

 

 この二つ名が、後にジャパリパーク中に轟くことになる・・・かどうかは定かではない・・・ロードランナーは青いオーブを手に、ホテルに戻っていった

 

【・・・】

 

 ホテルに入ったすぐ先の廊下で、ラモリが佇んでいた。ロードランナーが傍によると、それを待っていたように体を反転させ、前に進み始めた

 

「はははは、待てよ、急かすなよラモリさんよぉー!」

 

 to be continued・・・

 




_______________Cast________________

鳥綱・カッコウ目・カッコウ科・ミチバシリ属 
「英名G・ロードランナー 和名オオミチバシリ 二つ名“炎のランナー”」


哺乳綱・げっ歯目・デグー科・デグー属 
「デグー」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・マイルカ科・マイルカ属 
「マイルカ 二つ名“さざ波のマイルカ”」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・ナガスクジラ科・ナガスクジラ属 
「ミンククジラ 二つ名“偏西風のミンク” 」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・ネズミイルカ科・スナメリ属 
「スナメリ 二つ名“しおしおのスナメリ”」
哺乳綱・ネコ目・アザラシ科・ゴマフアザラシ属 
「ゴマフアザラシ 二つ名“大漁祈願のゴマフ”」

自立行動型ジャパリパークガイドロボット 
「ラッキービーストR‐TYPE-ゼロワン 通称ラモリ」


_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴

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