けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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 あるトラのものがたり第5話です。

 ようやく今章の主役アムールトラの話が書けます。



現代編5 「とらととら」

「・・・・・・」

 

 アムールトラは、昨日からピクリとも動かずに、牢獄に座していた・・・ここに入れられてから二度、ジャパリまんと水が目の前に出された。しかしこちらが何も反応しないことがわかると、ほどなくして引っ込んでいった

 自分は上にいる連中に注意深く見張られている・・・連中は自分を放置したり、無暗に危害を加えるつもりはないようだ・・・と、アムールトラは理解した

 自分が一人ぼっちであることは、外と変わりない・・・しかしここには優しい風も、穏やかな陽射しも、自分を包み込むような木々もない・・・アムールトラは、外の世界に思いを馳せた・・・

 こんなにも自然を愛おしむ気持ちが、自分のなかにあったのかと思った

 限りなく無に近い冷たい空間の中で、アムールトラは思考に耽った。ここには自分を“ビースト”に引き戻すようなものは何もない。だから、本来の自分のまま物を考えていた・・・

 それは随分と久しぶりの経験だった

 

________コツン・・・コツン・・・

 

「・・・こんにちは・・・アムールトラさん」

「・・・ッ?」

 

 それは昨日、自分が無下に追い返した“ともえ”と名乗るフレンズだ。自分に話しかけてくるフレンズは、昨日も今日もこいつだけ・・・一体こいつは何がしたいのか

 

「ねえ、聞いて、アムールトラさん・・・こんな寂しい所だから、せめて気がまぎれる話をしようと思って、今日は来たんだ」

 

______コンッ、コンッ・・・

 

 食事用のトレイが、棒に押されて前に出てきた。しかし乗っていたのはジャパリまんではない・・・一枚の絵だ

 その絵には、隙間なくびっしりとたくさんの木が描きこまれていた。そして木の隙間にはアムールトラと思しきフレンズが描かれていた。自分の似姿が、木の中に紛れるように・・・いや、包まれるように、森の中に佇んでいた

 

「タイガって知ってる? 寒くて、尖った木がたくさん生えてる森のことなんだって。アムールトラさんの仲間は、そういう寒い森の中で生きていたんだって。森の中を一日中、とても長い距離を歩き回っていたんだって・・・アムールトラさんは、森は好き? こういう場所のことを知ってる? ・・・それと、森の他にもね・・・」

「・・・」

 

 正直、あまり上手とは言えない絵だった。しかし、自然へ思いを馳せる今のアムールトラには、絵が示す情景が、ありありと脳裏に浮かんできた

 そして森の他にも、アムールトラが憧憬を馳せる自然の姿がともえの口から語られた

 上にいる連中が自分を監視するために、自分の周りは灯りで照らされていた。しかし鉄格子の向こう側にいるともえの姿は、薄暗闇の中で、ぼんやりとシルエットが視認できるだけだった

 唯一、はっきりと感じ取れるともえの声に注意を向けた

 淡々と語り続けるその声からは敵意も恐怖も感じられなかった。しかし、何らかの強い意志をもってこの場に来たことはアムールトラにも感じ取れた

 

_____スススッ

 

 絵が乗ったトレイが、紐に引かれて鉄格子の前まで引っ込んでいった。ともえがまた違う絵をトレイに乗せ、棒で突いて押し出してくるのがわかった

 こいつは、こんなことを何の目的でやっているんだ? アムールトラのともえに対する感情が、嫌悪ではなく警戒、そして関心へと少しずつ変わっていった

 2枚目の絵には、風景はなかった。白いキャンバスに自分と同じような縞模様の動物の絵が数体描かれていた。ひとつひとつの絵に統一性はなく、極端にデフォルメされているものや筆で描かれたようなぼんやりしたものが混在していた

 

「その絵はね、あたしの絵じゃないの。色んな時代の、色んなヒトが描いた“虎”の絵を模写してみたんだ・・・ヒトはね、虎を“強さ”や“勇気”の象徴としてたみたいなの・・・だから、自分たちの“縄張り”を示すデザインとして、虎を良く使ったみたいなんだ。ヒトは虎にとても関心を持っていたみたいなの。アムールトラさんは、ヒトのことを何か知ってる? ヒトと話をしたことはある?」

 

 ともえの言葉が、そのままアムールトラの思索へと直結していった。ヒトの知り合いが自分にはいたのだろうか・・・思い出そうとすればするほどに、自分の記憶は薄もやにつつまれ、曖昧になっていることに気付いた

 2枚目の絵が引っ込み、3枚目の絵が押し出された

 次の絵では、紅白模様の明るい背景の中央で、自分の似姿が高台に上がり、手を広げて片足立ちになり、ポーズを決めていた。そしてその左右には、ゾウやサルなどのフレンズが立ち並び、球に乗ったり、楽器を演奏したりするなどの芸を披露していた

 天井からは紙吹雪が舞い降り、フレンズ達の芸が喝采を浴びていることが明確に表現されていた

 

「これはね、サーカスっていう所なの。動物とヒトが集まって、色んな芸を披露して観客を楽しませる場所だったんだって・・・いろんな動物がサーカスにいたらしいんだけど、その中でも、トラもその中の花形スターの一角だったんだって・・・自然の中で生まれたトラが、後からヒトの中で暮らすのは難しかったみたいだけど、赤ちゃんの頃からヒトに育てられたトラは、ヒトととても仲が良くて、色んな芸を覚えることも出来たんだって・・・アムールトラさんは、自分が生まれ育った場所を憶えてる? 自然の中だった? それとも、ヒトが傍にいたりした?」

「・・・・・・ウ、ウマレ・・・?」

 

 アムールトラは、俯いた頭を両手で抱え込んでいた。ともえの問いかけが繰り返し頭の中を反響した。考えても何も答えが出なかった。自分はこんなに大切なことをなぜ忘れてしまっていたのか? 忘れたことさえ気にしないでいたのか?

 

「ごめん。なんだか、質問責めしてるみたいだね・・・少し話を中断するね・・・ねぇ、アムールトラさん、ここに来てから、食事してないんじゃない? お願いだから、何か口に入れて・・・ジャパリまんも、水も、普通の物だから安心して」

 

 サーカスの絵が乗ったトレイが暗闇の中に引っ込み、そのトレイの上に、ジャパリまんと水が乗せられて出てきた・・・すでに空腹と、喉の渇きは限界に来ていた

 今までで一番強い逡巡が頭をよぎった

 差し出された食べ物を受け入れるということ・・・それは、“食べ物を差し出した人物を全面的に信用する”ということだ

 鉄格子の向こう側にいる、ともえというフレンズが、自分に敵意も恐怖も持っていないことは半ば確信できた。だがそれでも、誰かを“信用する”ということは、今のアムールトラにとって、他の何よりも難しいことだった

 アムールトラは誰のことも信じることは出来なかった・・・そして、この世で一番信じられないのは、自分自身だ

 

「お願い・・・アムールトラさん、食べて」

「・・・」

 

 アムールトラは、この場を切り抜けたいと思った。差し出された食べ物のうち、水が注がれた杯を手に取り、一息に飲み干した

 渇ききった喉に、水が染み渡ってきた。それは考えていたよりもずっと、気持ちの落ち着きと、安心感をアムールトラにもたらした

 だが、受け取るのは水だけだ。空になった杯と、手つかずのジャパリまんが乗ったトレイを、静かに前方へと押し出した。“もういらない”という意志を体で伝えた

 これでいい、差し出された物のすべては受け入れない

 

「わかったよ、ありがとう・・・もし、ジャパリまんが食べたくなったらいつでも言ってね」

 

 トレイが静かに鉄格子の方へ引き込まれて消えていった

 

 イエイヌは、ともえとアムールトラのやり取りを、牢獄の上の監視部屋から静かに眺めていた。正確には、ここからはアムールトラの姿しか見えなかった。だが音響設備によって二人の会話は克明に聞こえていた

 

「・・・・・・ともえさんは・・・上手くやっているようですね・・・」

「ハツカネズミさん」

 

 ハツカネズミに後ろから声をかけられた。オオコノハズクとワシミミズクもすぐ傍に控え下の様子を固唾を飲んで見守っていた。学者たち三人は議論をはじめた

 

「・・・・・・ビーストは・・・ともえさんの話に深く聞き入っている・・・そして・・・私達の手からは受け取らなかった食べ物を受け取った・・・短い間に・・・ともえさんとビーストの間で着実に信頼関係が築かれている・・・」

「それだけではないのです。“感覚遮断”という言葉を聞いたことはあるですか? ビーストは丸一日、何も見えない、何の音もしない場所に閉じ込められているです。感覚が制限された場所では、逆にすべての感覚が研ぎ澄まされるです」

「今のビーストは、ともえの話も、ともえが見せる絵も、数少ない刺激として、過剰に反応せざるを得ないのです。狙ってそうしたわけではないですが、あの牢屋に閉じ込めたことが、思いもよらぬメリットを産んだです」 

「・・・・・・後は・・・ビーストの側から・・・何らかの表出が得られればいいのですが・・・」

 

 学者たち三人は“ビースト”という存在の謎を注意深く探ろうとしていた。決して危険は冒さずに、慎重に・・・一方でともえは、ビーストをあの檻から出して自由の身にすることを目的に、精いっぱい知恵を振り絞って行動していた

 学者たちとともえの思惑は全く違うものだ。しかし共通しているのは、今この場においておのおのが何をすべきかを明確に決めていることだ

 イエイヌは、自分だけが、何も決められていないと思った。ただただビーストが怖ろしかった。ともえから遠ざけたかった。しかし自分の気持ちを押し通すことも出来ず、ただ流されるまま、ここに足を運んでいた。自分の情けなさが腹立たしかった

 

 アムールトラは、ともえの言葉に導かれるまま、思索にふけっていた。曖昧な記憶の暗闇の中を手探りで進んだ

 タイガの森の中を歩いている自分、サーカス小屋の中で喝采を浴びる自分・・・どれも心惹かれる風景であったが、決定的に自分の心の中に残っているものではなかった

 

「今日は、あたしの方から勝手に色々話しかけちゃってごめんね・・・最後に、受け取って

欲しいものがあるの。別に、なんてことはなくて・・・ちょっとしたプレゼントだよ」

 

 最後にトレイに乗って運ばれてきたのは、白い花が象られた飾り物だった

 

「つい昨日、上のホテルでもらった物なんだけど・・・ブローチっていうんだって・・・アムールトラさん、あの草と岩の丘で、たった一輪だけ咲いてた白い花のお世話をしてたよね? あのお花、アムールトラさんには大切なものだったんだよね・・・でも、あたし達があのお花と引き離すようなことをしちゃって・・・アムールトラさんには悪いことをしちゃったと思ってる・・・だから、お詫びってわけじゃないんだけど、アムールトラさんに“白い花”をプレゼントしたかったの。本物のお花じゃなくてごめんね・・・」

 

 アムールトラは、白い花のブローチを拾い上げ、見つめた

 ともえの言葉通り、自分はあの丘で、白い一輪の花の世話をしていた。理由は分からない・・・苦しくて、一人ぼっちで、寂しくて・・・そんな時に、あの一輪の花を見つけた・・・

 あの白い花を見つめていると、“自分自身”すら自分の居場所ではない“完全な孤独の世界”の中で、唯一自分の居場所がここにあると思えた

 ・・・白い花は、自分の中に、穏やかで優しい気持ちを呼び起こす・・・それはなぜなんだろうか? 

 アムールトラは手の平の上のブローチが、自分の中に残った最後の希望であるかのように思えた

 しかし・・・

 

________ビチャリッ___

_____・・・ポタッ・・・ポタッ・・・___

 

「・・・!?」

 

 アムールトラは異常な光景を見た。手の平の上のブローチが、突如赤く染まったのだ。そして赤黒い液体がブローチから染み出てきた。そして瞬く間に、アムールトラの右手を走り、染み渡っていた

 ・・・血だ・・・白い花から血が溢れてきた・・・止まらない・・・止められない・・・気が付けば自分の周りの地面すらも血まみれだった

 アムールトラは嫌悪と恐怖に襲われ、たまらずブローチを床に投げ出した。それでもなお、ほとばしる鮮血が体を覆いつくしていった

 すでに視界は血の赤に染まっていた。四肢は感覚を失い、口も鼻も、血に塞がれて自由が利かなかった

 私の居場所・・・そんなもの、やっぱりなかったんだ・・・

 

「アムールトラさん!? ・・・何やってるの・・・やめてよ! やめて!」

「ウワァァァァァッ!!」

 

_____ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 

 アムールトラは激しく何度も、床に頭を打ち付け始めた。上の監視部屋まで、その振動が響きわたった。学者たち三人は、窓ガラスに顔を押し付けて、突如起こった異変を必死に観察した

 

「ビーストは何をしているです!? また暴走を始めたですか? ここから出ようというのですか?」

「・・・・・・違う・・・これは・・・自傷行為です・・・ビーストは“自分自身を”傷つけています・・・なぜ? ・・・つい一瞬前まで落ち着いていたのに・・・」

「止めるのです! このままではビーストが!」

「・・・・・・ですが・・・止める方法なんて・・・こんなことは想定していなかった・・・ビーストが“自殺を図る”なんて・・・」

 

_____ガンッ! ガッガッ! ゴンッ・・・ゴシャッ!

 

「やめて! アムールトラさん! やめてぇ! なんで、なんでこんなことを・・・」

「ウウウッ・・・! アアアッ・・・」

 

 アムールトラは、目の前の悪夢から逃れたくて仕方がなかった

 辛かった、もう何も感じたくないと思った・・・

 すべてが辛い・・・すべてが私を苦しめる・・・自分を覆いつくす鮮血は、いっこうに消えなかった・・・消し去るためには、自分自身が消えるしかないと確信した

 

≪・・・おぬしは、それでよいのか?・・・≫

「・・・ウッ・・・ウッ?」

 

 自分の中から、自分ではない何者かの声が聞こえた

 この声を聞くのははじめてではなかった

 自らの手で、死に向かおうとしていたアムールトラの意識が、いくらか引き戻された

 

≪・・・顔をさわってみよ・・・己の顔をさわるのじゃ・・・≫

 

 謎の声に言われるまま、顔に手を当てた。触ったところから、鈍い痛みが走った

 

≪・・・己の手を見てみるがいい・・・何が見える?≫

 

 アムールトラは、言われた通りに手の平を見つめた・・・目の前にあるのは、うっすらと

手の平にへばりつく生暖かい血液・・・そうだ、これは自分自身の血だ・・・

 では、今まで自分を覆いつくしていた、溢れんばかりの血だまりはどこに消えた・・・?

 アムールトラは、謎の声によって現実に引き戻された。薄暗い牢獄へと意識が戻ってきたそして、必死に自分の名を呼ぶ声が聞こえた・・・

 

「アムールトラさん! 聞こえる? ねえ、返事をして!」

「ウウッ・・・」

「アムールトラさん・・・」

「・・・モウ、ヤメテクレ・・・」

「・・・え?」

 

 アムールトラは、鉄格子の向こう側の影を見つめた。体の輪郭がぎりぎり視認できる程度の暗闇の中で、小さな影が鉄格子に張り付くようにして、息を凝らしているのがはっきりとわかった

 その影に、静かに自分の意志を告げた

 

「・・・話スノヲ、ヤメテクレ・・・辛クナルカラ、ヤメテクレ・・・モウ、来ナイデクレ・・・」

 

 ビーストが自傷行為をやめたことは、上の監視小屋からもしっかりと確認できた。学者たち三人は安堵した

 イエイヌは窓ガラス越しにビーストの顔を眺めた。そしてビーストの頬を、透明な雫が、いくつも伝っているのを見た

 

「泣いている・・・ビーストが、涙を流している・・・」

 

 ほどなくして、ともえが階段を登り監視部屋へと戻ってきた。部屋にたどり着くなり、ともえは床にへたり込み、うずくまった。両手で自分の頭を抱え込むと、そのまま黙り込んだ。その背中が静かに震えている

 イエイヌはともえに近寄ったが、かける言葉を見つけることができなかった

 

「・・・ダメだったよ。あたし、イエイヌちゃんに偉そうなことを言って、自分がやりたいようにやった・・・でも、ダメだった。結局、アムールトラさんを・・・ますます・・・傷付けただけだった」

「・・・ともえさん・・・」

 

______ポコ、ポコ、ポコ、ポコ・・・

 

 ともえは、聞き覚えのある音が近づいてくるのを感じた

 

「ラモリさん?」

【・・・】

 

 ラモリではなかった。マゼンタではなくシアンのボディカラーを持ち、親しみやすいつぶらな瞳とふさふさな質感の尻尾を持つ、一般的なラッキービーストが、牢獄の監視部屋に姿を現していた

 ともえの傍を通り過ぎ、オオコノハズク達の所へと近寄った。心なしかオオコノハズクとワシミミズクの表情が曇ったように見えた

 

「・・・?」

「これから、我々三人だけで今後のことを話し合うです・・・ともえとイエイヌは先に研究室に戻っているです」

「え・・・うん・・・」

 

 ともえとイエイヌが細い通路の中に入ると、自動ドアの扉が静かに閉じられた。監視部屋には、オオコノハズク、ワシミミズク、ハツカネズミの三人・・・そしてつい先ほど部屋に入ってきたラッキービーストが向かい合い、卓を囲む形となった

 押し黙る梟の二人組とは対照的に、ハツカネズミは動揺していた

 

「・・・・・・このラッキービーストは何ですか・・・?」

【やあ、君はハツカネズミさんとか言ったよね?】

 

 ラッキービーストがつぶらな瞳を発光させながら、声を出し始めた

 その声は砂嵐のような雑音が混じっていた。そして不規則に揺らいでいた

 しかし、喋り方はラッキービーストが発する機械的な音声ではなく、生きているフレンズそのものの肉声だった

 

「・・・・・・? ラッキービーストが・・・私に話しかけている・・・?」

【気にしないでいいよ。僕は、こいつをただの無線機として使っているだけだから】

「・・・・・・じゃあ・・・あなたは誰ですか・・・?」

【そうだね・・・僕は“園長”と呼ばれているよ】

「・・・・・・園長? ・・・あなたは何の用事でここに来たのですか・・・?」 

【用事も何も、今回、ビーストを捕える作戦を立てたのは僕なんだ。オオコノハズクさんとワシミミズクさんは、君を誘ってそれを実行しただけだよ】

 

「・・・・・・話が呑み込めません・・・」

【そうだね、一から説明してあげるよ。僕には、大事な役目があるんだ。“ジャパリパークを浄化し、正しい方向に導く”という役目がね・・・そのために、今、僕の所で働くフレンズを集めている所なんだよ】

「・・・・・・オオコノハズク博士と・・・ワシミミズク助手は・・・あなたの仲間ですか・・・?」

【まだ、正式な仲間じゃないよ。ビーストを捕まえるという、僕の下したオーダーを二人が達成できたら、仲間に加えてあげる・・・そういう約束なんだ】

 

「・・・・・・何故です? なぜ二人は・・・あなたの仲間になりたいと思ったのですか・・・?」

「我々は、さらなる知識が欲しかったです」

「園長と最初に会話をしたのは、2つ前の夏なのです。彼は、今のようにこうしてラッキービーストを操って、自分の素性を明かさず、我々に接触してきたです」

「とある研究に行き詰っていた我々は、突如現れた園長の助言によって、研究を完成させることが出来たのです。その後も、我々だけでは解けない数々の謎に、園長は答えをくれたです」

「我々は賢いのです。しかし、悔しいことですが、園長は我々以上に・・・我々の遥か上の賢さを持っているです」

「我々には目標があります。サンドスターとフレンズの関係、フレンズが誕生する仕組み

を完全に解き明かすことです」

「目標を達成するために、園長のもとで知識を深めたい・・・我々はそう思ったです。だから我々は、園長の仲間になることを決意したです」

 

【ふふ・・・聞いた? つまり、そういうことなんだ。僕の仲間になったフレンズには、その子が望むものを与えてあげる・・・まあ、僕の仲間になるためには、それに値する能力があると僕に示す必要があるけどね】

「・・・・・・園長・・・あなたは一体・・・・」

【・・・ハツカネズミさん、何で君にこんな話をするかわかる? 君も、僕の仲間にならない? 君も、いろんなことを“知りたい”フレンズだよね? その頭脳を僕のために使ってよ・・・その代わり、君が知りたいことを何でも教えてあげるからさ】

 

 ハツカネズミは考えた。園長と名乗る謎のフレンズの知識は本物だ・・・ラッキービーストを操って、無線機の代わりとして使用する・・・それだけでも、自分をはるかに上回る頭脳と技術を持っていることはわかる

 確かに園長ならば、自分の知りたいことを何でも教えてくれるのかもしれない・・・それは自分にとってどれほど幸福なことだろう・・・

 しかし、知識と引き換えに、園長が自分に何を要求するのかわからないのは気がかりだった

 そして何より、オオミミギツネ、ハブ、ブタ、デグー・・・ホテルの仲間の顔が思い浮かんだ

 園長の下に付いたら、今の仲間から離れなければいけなくなるのではないかと思った

 

「・・・・・・私は・・・まだあなたのことが信用できません・・・」

【そう・・・まあ仲間になるかならないか、ゆっくり考えてくれればいいよ・・・それより・・・問題はビーストだ・・・さっきの様子を見てたよ。このままだとビーストが自殺しちゃうかもね。それは少し困るんだ・・・だから、ビーストのことは、こっちで預かることにするよ】

 

 “園長”の突然の言葉に、そこにいる学者たち三人は一同に驚愕した

 

「え、園長・・・それはあまりに突然なのです! 預かるといっても、こちらにもビーストをあなたに引き渡す準備が必要なのです! 今ビーストを閉じ込めている場所は、入ることも出ることも容易には敵わないのです」

【準備なんて必要ないよ。後はこっちで全部やるから、余計なことはしないでいい・・・君たちは早くそこから立ち去ってくれ。そして邪魔が入らないように、ビーストに誰も近づかないようにしてよ】

「し、しかしなのです!」 

「・・・・・・説明してください・・・あなたはどうやってビーストをここから出すつもりで・・・」

【今、僕の“使い”がそこに向かっている・・・後はそいつが、全部やる】

「・・・・・・使いとは・・・」

【使いの名は“フォルネウス”】

「・・・・・・フォルネウス・・・? 何ですか・・・? そういう名前のフレンズですか・・・?」

【ふふ・・・まだ正式な仲間ではない君たちに、これ以上教えることはないよ。ともかく、ビーストには誰も近づけないでね。頼んだよ・・・】

 

______ブツッ!

 

【ジーピーエス シンゴウ ガ ショウシツ、ココハ ジュンカイ エリア デハ ナイ。アワワ、アワワ・・・】

 

 ラッキービーストは突如、ビクリと体を振るわせると、明後日の方向を向き、ぎこちなく部屋の中をあちこち歩き回り始めた。“園長”との通話は、一方的に打ち切られた

 顔を伏せるオオコノハズクとワシミミズクを、ハツカネズミは見据えた

 

「・・・・・・これから・・・どうするつもりですか・・・?」

「“園長”は命令したです。ここから立ち去ること・・・そしてビーストに誰も近づかせないことを・・・それに従うです。彼は、このジャパリパークで一番偉いフレンズなのです。逆らうことは出来ないです」

「ハツカネズミ博士、あなたが納得できないのはわかるです。今まで園長のことについて話さなかったことを申し訳ないとも思っているです」

「我々、自慢じゃないのですが、パーク内で自分たちが一番賢いと思っていたです・・・その自信を“園長”はいとも簡単に覆してしまったです。我々が自分で考えることなど、たかが・・・」

「・・・・・・その先は言わなくて結構です・・・わかりました・・・ここを出ましょう・・・」

 

________________________________________

 

 

 アムールトラは、牢獄の上の気配が消え去ったことを感じた。今、自分を見ている者は誰もいない・・・だがそんなことは、もはやどうでもいい

 天井を見上げた視線を、再び虚空に投げ出した。うずくまり、膝を抱いた

 ともえはもうここには来ないだろう。せっかく歩み寄ってきてくれたのに、私はあの子を二度も拒絶した。三度目はない

 あの子は、忘れ去られた私の過去を掘り起こそうとしてくれた。ビーストではない本来の自分を思い出すきっかけをくれようとしていた

 だが・・・過去にも私の幸せはなかった。思い出そうとするだけで、凄惨な血だまりの幻覚を見るような出来事を、かつて私は体験したのだ

 私が過去のことを思い出せないのは、ビーストになってしまったからなのか・・・あるいは、自らの意志で記憶を封じ込めたのか、それはわからない

 ひとつ確かなのは、過去にも現在にも、絶望しかないということ

 やはり、私の心はすでに死んでいる、後は肉体がそれに追いつくのを待つしかない

 

「・・・」

 

 アムールトラは、考えることをやめようとした

 そのうち、優しい風も、穏やかな陽射しのことも忘れるだろう

 自ら死ぬことすら叶わないならば、一切を感じない生ける屍になればいい

 瞳を閉じ、眠りに落ちようとした

 ・・・しかし

 

≪・・・目を開けよ・・・≫

「・・・?」

≪ようやく、こうして姿を現すことができたわ・・・≫

 

 自分一人しかいないはずの牢獄に、見知らぬフレンズが立っていた

 その体色は雪のように白かったが、アムールトラと同様に、トラのフレンズであることを示す黒い縞模様が全身に走っていた

 金色と青という左右非対称な色合いの、神秘的な紋様が刻まれた装飾品を、両手首と両腿にそして両方の横髪に身に着けていた

 その体は、後光が指すように白く輝いていた。そしてその足元には、影がなかった

 アムールトラは、突然の異常に立ち上がり、身構えた

 

「・・・ッ!」

≪・・・我が名はビャッコ・・・≫

「・・・誰ダ、ド、ドコカラ、デテキタ・・・?」

≪出てきたとな? それは違う・・・おぬしがこの牢に入れられた時から、儂はおぬしの傍におった・・・つい先ほども、おぬしに声をかけたであろう≫

「・・・ウウッ オ、オマエハ、アノ・・・コエ・・・」

≪無理して声を出す必要はないぞ。まだ思うように喋れまい。言いたいことを心で念ずるがよい・・・儂にはそれで伝わる≫

(お前は私の傍にいると言ったな・・・どういうことだ?)

≪儂は今、おぬしの“体の中”におる。おぬしと一体となっておる・・・≫

(・・・言っている意味が分からない)

≪・・・これを見よ≫

 

 ビャッコの体がひと際眩しく光った。同時に体の輪郭が薄くぼやけると、ビャッコの胸元に白い光が集中していった・・・

 そして、拳大の白い球が出現した

 

≪これが儂の実際の姿じゃ。フレンズの姿は、見せかけにすぎぬ・・・どうじゃ? この姿の儂も、見覚えがあるであろう?≫

 

 目の前にある白い球は、つい2日前、けいこくちほーで見た物と同じだった

 白い球を見つけた瞬間、衝動に駆られて白い球を追いかけた。そこには、ともえ達もいた

 ともえ達も白い球を求めているようであった。そして先に手中に収めたのはともえ達だ

 私は渓流を渡るともえ達に襲いかかり、白い球を奪い去ろうとした。そして、奪い取った白い球もろとも、渓流に流されていった

 それだけではない。以前から、私は異常な行動を取っていた。人目を忍んで隠れ住んでいたつもりが、誰かと遭遇してしまうかもしれないような場所を何日もうろついていた

 フレンズやセルリアンに遭遇する度に、ビーストに支配され暴走してしまっていた。それでもなお、何かを探し求めるように各地を徘徊した

 

≪おぬしが探し求めていた何かとは、儂のことじゃ・・・儂はずっと前からおぬしに呼びかけていた。儂には、遠く離れた相手に念を送る能力がある。おぬしは儂の呼びかけを察知して動いていたのだ・・・そして、おぬしが儂を手にして渓流に落ちた時、儂はおぬしの中に入らせてもろうた・・・それから次の日、草と岩の丘で、おぬしが戦いの中で殺意に呑まれそうになった時があったであろう? あの時も、おぬしを引き止めたのは儂じゃ≫

 

 ビャッコの話を聞いて、アムールトラはうろたえた・・・今まで自分が取っていた不自然な行動、そして直面した奇怪な現象のすべてに、説明がついたのだ

 

(お前が私のことを遠くから操っていたというのか・・・私にお前のことを探させるために・・・私が、ビーストとして暴れまわることなど、お構いなしに)

≪そうじゃ・・・強引なやり方で、申し訳ないと思っておる≫

(なぜだ? お前は何がしたいんだ?)

≪おぬしに頼みがある≫

(何の頼みだ? なぜ私に頼む?)

 

≪昔話をしよう・・・遥か遠い過去の話じゃ・・・かつてこの世界で、大きな戦があった・・・世界を呑み込まんとする“虚無”との戦いじゃ≫

(虚無?)

≪おぬしもよく知っておろう、セルリアンと呼ばれる怪物たちのことじゃ・・・奴らは、この世界を支配していた“ヒト”という種族、そしてそれに協力する我々フレンズと激しい戦いを繰り広げた・・・奴らは大地を汚染し、生命をむさぼった・・・大地はヒトの住めない所になった。ヒトはこの世界から消え去った・・・フレンズは大地に取り残され、それぞれに己の生を育んだ。いつしかヒトのことを知る者もいなくなった・・・よいか・・・この世界は一度滅びている。滅びの後に再生した世界・・・それが現代じゃ≫

 

(ヒトとフレンズは、セルリアンに負けたのか?)

≪いや、我々は、何とか戦いに勝つことは出来た。虚無を完全に滅ぼすことは出来なかったが、奴らの頂点に君臨する“女王”を倒すことには成功した・・・そして奴らは女王という統制を失った。目的もなく彷徨い、暴れるだけの存在となった。そうなってはもう、セルリアンなど、ただの天災のようなものにすぎぬ・・・出てくるたびに対処すればよいだけだ。その場を凌げれば、後には何も影響せぬ・・・この世界には、一応の平和が訪れた。大地に取り残されたフレンズ達は平和を享受して幸せに暮らしてきた≫

 

 アムールトラは、ビャッコが話した内容をうっすらと体感した。脳裏に膨大な時間が流れているような感覚を覚えた

 ビャッコが語る内容は、確かに現実味を感じるものだった。しかし、それを真実だと信じるには、あまりにも空白が多すぎた

 頭の中を真実と空白が混ざり合い、ひしめき合っていった。アムールトラは自分が立っていることすら曖昧になり、虚空を漂っているような気持ちになった

 

(わからない・・・お前の言っていることは、何もわからない・・・私には、過去の記憶がない・・・ビャッコと言ったな。お前は、私が何者なのか知っているのか?)

≪無論じゃ・・・≫

 

 ビャッコの体から発せられる光が弱まり、白い球の姿からトラのフレンズへと戻っていった。光に照らされていた牢獄が、再び元の薄暗さを現わしていった

 アムールトラは、自分の足が地面に付いている感覚を取り戻した

 

≪・・・おぬしはかつて、フレンズの中でも卓越した戦士だった。虚無との戦いの時、多くの命を救うために奮戦した“英雄”・・・それがおぬしよ。おぬしだけではない、おぬしと肩を並べる者たちが何人もおった。皆、素晴らしき“もののふ”だった・・・だがもう、彼らはいない・・・この時代に生き残っているのは、おぬし一人だけ・・・≫

 

 ビャッコは、懐かしい過去を見つめるように、遠い目をして語っていた。しかし、今一度アムールトラの顔を見据えると、静かに言い放った

 

≪アムールトラよ・・・この世界のために、もう一度、虚無と戦ってくれ。儂には、おぬしの他には頼めるものがおらぬのじゃ・・・!≫

(話が矛盾しているぞ・・・セルリアンは女王とやらを失って脅威ではなくなったのだろう?)

 

≪そう・・・そのはずであった・・・じゃが、状況が変わった・・・ここ数年、虚無どもは何かの目的を持って動いている。儂にはそうとしか思えぬ≫

(どういうことだ)

≪虚無どもに“統制”が取り戻された・・・かつての女王・・・あるいは、それに近しい何者かが奴らに命令を下しておる・・・このままでは、再び虚無が世界を脅かすであろう・・・アムールトラよ、重ねて申すぞ。もう一度この世界のために戦ってくれまいか? 虚無に命令を下している存在を探し出して、倒すのじゃ。この世界の生きとし生ける者たちを、おぬしの手で救うのじゃ≫

(・・・そんなこと・・・私には無理だ)

 

 アムールトラは顔を伏せ、ビャッコの視線から目をそらした

 

(かつては、誰かを守るために戦っていたのかもしれない・・・だが、今の私はビーストだ・・・セルリアンも、フレンズも、目の前の物をすべてを破壊するだけの存在だ。守ることなんて、出来っこない。壊すことしか出来ない・・・私は、セルリアン以上に、この世界にとって害悪なんだ・・・私なんて、いないほうが良いんだ・・・)

 

 思いを口にするたび、自己嫌悪に押しつぶされそうになった。だが、これは紛れもない真実だ

 ビャッコがどれほどに重い使命感を持って、心から懇願しているのかは理解した

 だが、ビャッコの思いに応えることなど、ビーストと化した自分には到底無理な相談だ

 

(すまない・・・私には出来ない)

≪今のおぬしは、恐怖に支配されておるな・・・己自身への恐怖に・・・≫

(・・・私は人前に出ると、いつも誰かを傷つけてしまうんだ・・・自分でも止めることが出来ない・・・体が言うことを聞かないんだ・・・それが、怖い。こんな体でなければ・・・ビーストなんかでなければ・・・) 

 

≪・・・己にまとわりつく恐怖を消し去りたいか?≫

(それが出来ればな・・・)

≪じゃが、そうやって消したいと願えば願うほど、恐怖は大きくなり、おぬしを支配するであろう・・・恐怖とはまこと厄介なものじゃ・・・これは儂の推測じゃが、おぬしが恐怖を抱けば抱くほど、おぬしの中に潜むビーストはその恐怖を糧にして、強大になっているとしたら、どうじゃ?≫

(結局・・・私にはどうしようもないじゃないか)

 

≪儂の経験から言わせてもらうとな、恐怖とは“消す”とか“乗り越える”とか、そういう風に捉えるものではないぞ・・・なぜなら、恐怖自体は、悪いものではないのだから・・・恐怖とはただの心の移り変わりにすぎぬ・・・よいか、恐怖を消そうと思うな。恐怖は“ただそこにある”と認めるだけでよい≫

(・・・それで何が変わるんだ?)

≪恐怖を認めることが出来れば、恐怖に支配されなくなる・・・おぬしが見つめるべきは恐怖ではなく”己が大切にする価値”じゃ・・・己が何を大切にしているかを、今一度考えよ。それこそが、おぬしが向かうべき真実じゃ・・・大切なのは、結果ではない。真実に向かおうとする、今この瞬間のおぬしの在り方なのじゃ・・・≫

 

 ビャッコは、不意に牢屋の中を歩きはじめた。己の影を映さないその体からは、光の中心だけが動き、位置を変えていった。そして、ビャッコが放つ白い光が、床に落ちているある物を照らし出し、影を作った

 白い花のブローチだ。ついさっき、血を噴き出して地面を赤く染めていたブローチは穢れなきまま、そこにあった

 アムールトラは目を背けた。すべては恐怖が生み出した幻だとわかっていても、直視することは出来なかった

 

 to be continued・・・

 




_______________Cast________________
 

哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種 
「アムールトラ」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・イヌ属 
「イエイヌ(雑種)」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・コノハズク属 
「アフリカオオコノハズク」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・ワシミミズク属 
「ワシミミズク」

哺乳綱・げっ歯目・ネズミ科・ハツカネズミ属 
「ハツカネズミ」

自立行動型ジャパリパークガイドロボット 
「ラッキービースト M‐TYPE-サンナナヨンゴ」

四神獣・西方の守護者・白銀の御霊(オーブ)
「ビャッコ」
 
????????????????????? 
「通称ともえ」
????????????????????? 
「通称園長」

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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