けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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過去編終章17 「カコのけつい」(後編)

《さて、時間がない。早速本題に入ろうか。ウィザード、まずは君が説明したまえ》

 

 そう言いながら将軍が隣にいるウィザードの肩を叩く。すると放心していた彼は抜けていた魂が帰ってきたようにビクリと震えた。かと思いきや今度は半狂乱で泣き叫びはじめて、まるで何かを話せるような状態ではないように見えた。

 

《終わりだァァッ! もうミーたちは終わりなんだァァッ!》

「ウィザード、おちついて。何があったか私に教えてください」

《ぼ、ボスゥ~・・・・・・》

 

 ウィザードはハート形のサングラスを外して、涙でショボショボになった素顔を晒すと、深く落ち込んだ溜め息を付き《マジでヤベエんだヨ》と、ようやく語り始めた。

 

《・・・・・・”エジプトの聖母”がヨ、殺されちまったんだヨ。死後数日は経ってるみてーなんだ》

「何ですって!?」

 

 パークの4リーダーが1人、アフリカ北方を治める”エジプトの聖母”・・・・・・。

 彼女とはここ数日連絡が取れなくなっていたという。

 そしてウィザードはヒルズ将軍の命令で、現地の部下たちが彼女を捜索するのに遠隔から協力していたそうだ。

 エジプトはカイロ郊外の警備システムをハッキングして、総当たりで監視カメラの映像などを調べた結果、一台のカメラに彼女と思しき人物を映した記録が残されていた。車の後部座席に乗ってどこかへと向かう姿だった。

 

「それで彼女はどこへ?」

《車はスエズ湾沿いのとある貸倉庫に向かってったんだヨ。映像は丁度連絡が取れなくなった日付に記録されてたから”ビンゴ”だと思ったゼ。そンで、早速その倉庫付きの船着場を向こうの連中に探らせてみたらヨ・・・・・・海ン中から、彼女のコンクリ詰めの水死体が出てきやがった!》

 

 ウィザードが泣き顔のまま早口で語り終える頃には、カコさんもシガニーさんも顔が真っ青になっていた。イーラ女史も眉間の皺をさらに深くしている。

《・・・・・・映像に写っていた車は、彼女が私用で使っていた物だ》

 この場で唯一落ち着き払っているヒルズ将軍が、ウィザードに代わって言葉を続けた。

 

《エジプトの”マリア”は、セルリアンやCフォースとの戦闘に備えた厳戒態勢の下、いつも通り慎重な潜伏活動を行っていた・・・・・・事が起こったのはそんな状況だったろう。外部から彼女だけを誘拐の後に暗殺し、それが何日も気付かれないことなど不可能だと思わないか?》

「つまり内部の犯行であると?」

 

 そうだ。と将軍はカコさんの言葉に相槌を打つと、持ち前の巧みな弁舌で推理をはじめた。

《僕はこう考える》

 エジプトの聖母を乗せた車は、ある時点まで予定通りの道を進んでいた。しかし車は突然に違うルートを進み始めた。

 彼女を殺したのは、車に同乗していた数名の彼女の側近たちだ。ある者は平静を装いながら運転を続け、ある者は彼女に銃か何かを突き付けて動けないように脅し、倉庫へと車を走らせた後に殺害、遺体を海に投棄。そして夜が明ける前に忽然と姿をくらませた。

 あらかじめ計画を立て、タイミングを見計らったように行われた暗殺・・・・・・彼らは実行犯に過ぎず、彼らを背後で動かしていた黒幕が存在する。

 

「その黒幕とやらがパークを裏切り、マリアを暗殺し、私たちを指名手配犯に仕立てあげたのですね。それは一体誰なのですか? 実行犯に逃げられたなら、手がかりだって簡単には見つからないのでは・・・・・・」

 

 カコさんが先回りするように問い詰めたが、ヒルズ将軍は意味深に頷くだけで答えなかった。怪訝に思っていると、とつぜん画面が別の物に切り替わった。

 スーツ姿の白人男性が、机の上に肘を乗せて座りながら、今にも何かを話しだしそうな様子で固まっている。画面下部には何やら英語のテロップが表示されている。

 

《3時間ほど前、僕たちが指名手配されたのとほぼ同時に配信された、最新のニュース映像だ》

 

 いったん画面から姿を消したヒルズ将軍がそう言うと、止められていた映像が再生され、白人のニュースキャスターがあれこれと話を始めた。

 私にはよくわからない、どこかの外国の出来事が映像と共に淡々と説明されていく。

 そんなことが何度か繰り返されて、次第に関心も薄れそうになる頃、映像の中に一人の男が現れた。その姿は私たち全員の度胆を抜いた。

 

「長老っ!!」

 カコさんが画面に映る男に向かって呼びかけるように叫んだ。

 モザンビークの長老。パーク東エリアのリーダー。

 年齢を感じさせない筋骨隆々の巨体に穏やかな顔。私も一度映像ごしに見たことがある姿だ。

 それにしても、スパイダーによってCフォース側に拉致されたはずの彼が、どうしてテレビなんかにでているんだ・・・・・・?

 頭から毛布を被って、大きな体を丸く屈めて震えている。怯えきった、ひどく恐ろしい目に遭ったような風情だ。

 

「きっとCフォースから逃げてきたんだよ!」

 シガニーさんがガッツポーズをして喜んでいる。ヒルズ将軍に対しては露にしていた不信感がまったく感じられない。

 確か長老は、カコさんの父である遠坂重三と一緒にパークを立ち上げた一人で、昔から苦楽を共にした仲間だったという話だったよな。カコさんと懇意であるなら、シガニーさんともそうであるのは当前だ。

 組織の古参同士、カコさんと長老は関係が良好だった。逆に新参者のヒルズ将軍とは反りが合わずに対立しがちだった・・・・・・パークの4リーダーの関係図はそんなところだろうか。殺された”エジプトの聖母”がどういう立ち位置だったかはわからないけれど。

 

《今のご心境をお聞かせください》

 怯え震えている長老の口元に、画面の奥から伸びて来る何本ものマイクが当てられる。

 カコさんとシガニーさんが安堵の溜息を付きながらその様子を見つめている。

 ・・・・・・そして私もほのかな期待を抱いた。長老が逃げられたということは、一緒に拉致されたヒグラシ所長も無事なんじゃないだろうか?

 

《今、アフリカの地にて、とある組織が非道を働いています》

 

 画面の内外から注目を集めていた長老が、硬く押し黙っていた口をついに開いた。

《組織の名はNGO団体パーク。元は私が興した団体です。アフリカの貧困問題や難民支援に長年取り組んできました。しかし・・・・・・今や社会の敵と成り果てました》

 

 その言葉を聞いて「え?」と、カコさんが言葉を無くして固まった。

 画面の中で何が起きているのか、まったく理解が追いつかない私たちをよそに、モザンビークの長老は休む間もなく報道陣に向かって迫真の表情で訴え続けた。

 

 長老いわく、今のパークはマフィア組織と癒着して武装し、アフリカ大陸中に根を張る巨大な犯罪シンジケートとして民間人を苦しめている、と。セルリアン災害で疲弊した社会の中で、火事場泥棒のごとく暴利をむさぼっているというのだ。

 その動きを主導しているのがカコ・クリュウとリクタス・ヒルズの2名であると。

 自分は彼らを止めようと言葉を尽くしたが、逆に策略に陥れられ失墜。刺客を差し向けられて暗殺されかかった所を命からがら逃げ延びてきた、と。

 ・・・・・・まったく事実と異なる事をさも真実であるかのように訴え、報道陣もそれを息を飲んで聞いていた。

 

《必ずやパークを無法者たちから取り戻してみせます》

 モザンビークの長老が丸めていた背筋を伸ばし、その巨大な背丈を誇示するように胸を張って立ち上がった。

《私には心強い味方がいる・・・・・・世界中でセルリアンから人々を守る正義の組織Cフォース。彼はその指導者たる人物なのです》

 

 モザンビークの長老はそう宣言した後、晴れ晴れとした様子で後ろを振り返った。

 彼の背後にあった壁一面にプロジェクターの光が当たり、画像が投影される。そこに写っていたのは、長老よりもさらに私たちの度胆を抜く人物だった。

 

「ま、まさか本当に長老が私たちを・・・・・・?」

 

 その人物を見た途端、カコさんが机にがっくりと突っ伏した。シガニーさんは動揺を隠せない様子でカコさんとタブレットの画面に交互に視線を送っている。

《私はパークの代表として、彼と同盟を結ぶことを宣言します》

 画面の中では、モザンビークの長老が、壁一面のグレン・ヴェスパーの胸像を背にしながら報道陣に向かってお辞儀した。

 傷つきボロボロになった被害者が、それでも勇気を出して立ち上がったとでも言わんばかりの構図・・・・・・そんな彼の姿は、途切れることないカメラのフラッシュと喝采によって鮮やかに彩られていた。

 その様子を最後にニュース映像は途切れ、タブレットには再びヒルズ将軍やウィザードたちの姿が映しだされた。 

 

《・・・・・・ボスよォ、長老は多分メガバットと同じだゼ》

 ウィザードが口にした言葉に、私もカコさんも驚いて目を見開く。

《あの子、言ってたじゃネーか。グレン・ヴェスパーは自分の側近の脳内にマイクロチップを埋め込んでるってサ》

 

 そうか、そうだったんだ。

 モザンビークの長老は、マイクロチップを通じて誰にも知られずにグレン・ヴェスパーと連絡を取り合っていた。

 だから誰も気付けなかったんだ。普段から密偵に情報を集めさせているヒルズ将軍でさえも・・・・・・だとしたら、長老はいったいどれだけ前からグレン・ヴェスパーと繋がっていたんだろう? この裏切りはいつから計画されていたのか?

 

《ノヴァ、何を腑抜けているのかね? 長老は敵だ。早く切り替えたまえ》

 

 画面の向こうのヒルズ将軍が無情に檄を飛ばして来る。彼の金髪と黒い肌から、金属的な冷たさを感じずにはいられない。

 一方のカコさんはうなだれたままだ。顔を上げることも出来ず、将軍に返事をすることすらままならなかった。亡き父の時代からの盟友に裏切られたショックに心を打ち砕かれてしまっているようだ。将軍はそんな彼女を見ながらフンと呆れるように鼻を鳴らすと、おもむろに視線を私の方に向けてきた。 

 

《ところでアムールトラ、君に謝罪しなくてはなるまいな》

 今の今まで、部屋の入り口で蚊帳の外みたいな距離感で突っ立っていたものだから、声を掛けられてびっくりしてしまった。

《・・・・・・僕としたことが、的外れな推理を捗らせたあげく、君の大事な人にスパイの疑いをかけ、君に不快な思いをさせた》

 

 彼が言わんとしていることはすぐにわかった。彼は当初、ヒグラシ所長がスパイだと疑っていた。だけど実際はそうじゃなかった。

 私たちの動きがCフォース側に筒抜けだったのは、モザンビークの長老が情報を流していたからだ。スパイダーが長老を影の中に連れ去ったのも、全くの自作自演。前もってグレン・ヴェスパーと示し合わせて行ったことだろう。

 多分だけどヒグラシ所長は、万が一にも長老に疑いが向かないための目くらましとして一緒に攫われたんだ。元Cフォースである所長はどうしたって疑われやすい立場だ。だから長老の策略に体よく利用されてしまったんだ。

 

《本当に申し訳ないことをしたよ》 

 そう言うとヒルズ将軍は私に向かって神妙そうに頭を下げた。彼らしからぬ態度ではあったけれど、なんとなく心からの謝罪であるような気がする。

 彼は目的のためには手段を選ばない悪党だ。でも何故だかある種の誠実さも感じられる。

 少なくとも彼は、出会って間もない私に「最悪の未来を回避するために戦う」という己の目的を打ち明けてくれた。フレンズを道具としか見ていないグレン・ヴェスパーのような本物の外道とは違うと思う。

 

《そして残念ながら、もはやヒグラシ博士の安全は保証されない。Cフォース側にとって、彼は用済みとなっただろうからね》

 

 私にとって残酷きわまりない現実を、立て板に水のように告げてきた。

 それを聞いた瞬間、握りしめた拳がひとりでにギリギリと大きな音を立てた。彼の誠実さが何となくわかるからこそ、発せられる言葉が無慈悲に突き刺さってくるような気がした。

 私の隣に立っているワオキツネザルが「大丈夫?」と心配そうに呼びかけてくれた。

 今の私には、煮えくり返るような怒りを押さえつけながら黙り込むことしか出来なかった。

 

「だいたいの話はわかったわ」

 言葉を無くしていた私やカコさんに代わって、イーラ女史が口を開いた。

 それまでの優し気な表情とは打って変わって、刻まれた皺の一本一本に、遠目からでもわかるほどの迫力が宿っている。元はアメリカ大統領夫人で、何十年も政治の世界で権力を握ってきたヒトの本領が今まさに発揮されているようだ。

 ワオキツネザルが「あんなイーラ様はじめて見た・・・・・・」と呆気に取られている。

 

「あなた方は敵にすべての手立てを潰されたようね」

 イーラ女史が今の状況を今一度まとめてくれた。

 裏切り者の長老は、自分こそがパークの代表だと言っていた。世間もそう受け取った。

 その上であの男はグレン・ヴェスパーと同盟を組む宣言をした。つまり、パークとCフォースの停戦調停は既に成立していることになる。この上でカコさんが停戦調停の打診をした所で何の意味も成さない。

 仮にカコさんが自分の要求を通すためには、モザンビークの長老ではなく、自分こそがパークの代表なのだと世間に証明する必要がある。

 だが世間に浸透したイメージを払拭するためには時間がたくさん必要だ。とうぜん私たちにはそんな猶予など残されてはいない。

 

 そして、グレン・ヴェスパーの最高機密を世間に公表しても十分な効果は望めない。世間がパークの敵に回った今、世論を味方に付けることは出来ない。

 長老を取り戻すための交渉材料にするために、あえて機密の公表をしないでおいたのに、その目論見は最悪な形で破綻することになってしまった。

 

「すべては核実験を行うためなのでしょうね」

 イーラ女史は続けた。モザンビークの長老はグレン・ヴェスパーの走狗。飼い主の意向に背くことは無い。

 つまりはパークはCフォースに全面降伏した状態に等しいのだ、と。そうなってはもうグレン・ヴェスパーの野望を止める障害は何もない。

 

《だ、だったらヨォ、アンタが直々にグレン・ヴェスパーを糾弾してくれヨ! アンタ偉いんだロ?》

「あの男を潰すのは私でも無理だわ」

 

 ため口で無礼に懇願するウィザードにも、イーラ女史は顔色ひとつ変えず答えた。

 20年前ならいざ知らず、今のグレン・ヴェスパーは国連内でイーラ女史に匹敵する権力がある。利権に群がる仲間も大勢作っている。長老との同盟をスピーディに実現させたのが何よりの証拠だという。

 たとえ彼女の発言力を借りて最高機密を発信したとしても、国連の議会にひと悶着を持ち込むのがせいぜいだと。

 何よりもあの男は、自分の野望を実現するために以前から緻密な準備をしてきている。パークを指名手配させたのもそのための布石のひとつにすぎない。核発射を行った後、カコさん達を悪者に仕立てるカバーストーリーを作って真実を闇に葬り去るのは目に見えている、と語った。

 

「・・・・・・さて、もう少し踏み込んだ話をしましょう」

 絶望にうなだれたままの私たちを他所に、イーラ女史はより一層強い調子で言葉を続けた。

 今や彼女に対して陳情を行う役目は、カコさんから将軍に入れ代わったようだった。

「ミスターヒルズ。あなた、私に嘘を付いているわね?」

 

《と、言いますと?》

「暗殺の件よ。あなたは”犯人に逃げられた”と言った。事件の一部始終を、己の推理という体で語った・・・・・・でも本当は違うのでしょう?」 

 

 イーラ女史は断言した。

 決して推理などではない。ヒルズ将軍は情報の裏をすべて取った上で話している。言っていることが具体的過ぎるし、態度が自信と確信に満ちているからだ、と。

「私に悪印象を抱かせないために誤魔化しを効かせたつもりかしら? 見くびられたものね」

 

《・・・・・・さすがは海千山千のお方ですね》

 ヒルズ将軍が参ったと言わんばかりにお手上げしながら真実を語った。

 推察の通り、エジプトの聖母を殺した犯人は捕まえている。そして真実を吐かせるために拷問にかけた。

 得られた情報はグレン・ヴェスパーの最高機密と照らし合わせることで裏を取った。

 

《これがなかなか難儀しました》

 将軍は遠方から拷問を監督していただけ。実際に行ったのは現地エジプトのメンバーだ・・・・・・彼らは自分たちのボスを殺されて怒り狂っていた。暗殺の実行犯は4人いたが、そのうち3人は、現地メンバーが将軍の命令を聞かずに痛めつけ過ぎてしまったことで殺してしまった。残ったたった1人は発狂寸前になって洗いざらいを吐いた。もちろん後でその1人も殺し、仕返しのようにコンクリ詰めにしてスエズ湾に沈めた。彼らの怒りを少しでも鎮めるためだ。

 そんなことを、将軍は涼しい顔で言ってのけた。 

 

「パークがマフィア組織と化したというのは、まったくの出まかせでもないようね」

《僕は組織のために必要なことをやっているまでですよ》

「・・・・・・悪党にありがちな言い訳だこと」

 

 うそぶくヒルズ将軍だったが、イーラ女史は早くも彼の正体を見抜いたようだ。

 何を隠そう彼はアフリカ裏社会の大物なんだ。兵器や資金を横流ししてパークを武装化させている張本人でもある。後ろ暗い話を数えたら両手足の指じゃ足りないだろう。

 

「そんな貴方がこうして話し合いの場に立っているからには、私を恫喝するための情報も用意しているのよね」

《・・・・・・お望みとあらば、さらに踏み込んだ話をすることもできますが》

 

 2人が画面越しに険悪な様子で向かい合っている。

 ヒルズ将軍はあろうことか、イーラ女史に対して暗に脅迫を仄めかすようなことを言っている。自分たちがいよいよ本当に無法者の集まりになったみたいで嫌な気持ちになる。

 このまま交渉を将軍に任せていいんだろうか? もしイーラ女史の怒りを買って警察に突き出されでもしたら・・・・・・カコさんが逮捕されでもしたら、私たちは終わりだ。

 

「まあいいわ。今後はどうするつもりなのか、とりあえず聞かせてもらいましょうか」

 

 こういった輩の相手は慣れている、と言わんばかりに動じないイーラ女史が話の続きを促す。そんな彼女に対して、将軍は《はい》と慇懃に頷いてから、今度は己の考えを包み隠さず話した。

 

《打って出ようと思います》

「武力行使に踏み切る、と?」

《その通りです。今彼らの怒りを抑え込めば、彼らは暴走し、組織は崩壊するでしょう・・・・・・それを防ぐためにも反撃するのです。さすれば統率は保たれる》

 

 元々ヒルズ将軍の配下だった西側の軍に加えて、エジプトの聖母を失った北側も彼に全面的に賛同しているようだ。

 裏切り者の長老が指揮していた東側は、いらぬ衝突を避けるために一時的に距離を置くことに決めたそうだ。後はカコさんがボスを務める南側だが・・・・・・

 

《ノヴァ、今こそ例の作戦を発動する時だ。君の部下に号令をかけたまえ》

「・・・・・・いい加減にしな!」

 未だ黙りこくるカコさんの代わりに、シガニーさんが怒り心頭に発し言葉を荒げた。

 彼女は創立当時の清廉なパークの姿を良しとしている。組織を血生臭い方向に誘導していくヒルズ将軍には良い感情を抱いていないんだ。

 

「ヒルズ将軍、裏切り者はアンタも同じだ! 最初からパークを牛耳るつもりだったんだろう! こんな機会が来るのを待っていたんだ!」

《心外だよミセス・スティッケル。グレン・ヴェスパーを潰すという目的は君たちと同じだ》

「パークはうちのボスの物だ! アンタみたいなヤクザ者に売りわたしゃしないよ!」

《だったらどうするのかね? この非常時に組織を割るつもりか?》 

 

「お黙り」

 味方同士でのっぴきならない口論を始めた2人に、イーラ女史が皺がれた声で一喝した。

「・・・・・・あなた方が嵌められた理由がこれではっきりしたわね」

 

 2人が冷水を浴びせられたように黙るのを横目に、イーラ女史は溜息を付きながら、冷めた紅茶を啜りはじめた。

「正義を成すために悪を抱えるという矛盾。そのジレンマと向き合わず、対立を抱えたまま成長した組織など、どんなに巨大でも脆いに決まっているわ。モザンビークの長老はそこを突いたのね」

《・・・・・・くっ》

「もちろん私も、意思統一が図れていない組織などに手を貸すつもりはないわ」

 

 びしゃりと告げられた最後通告に、さしものヒルズ将軍も気圧され口ごもった。

「さあ、去りなさい。警察には通報しないでおいてあげるわ」

 退室を要求するイーラ女史に対して、シガニーさんが「ほんとうに申し訳ありませんでした」と赤面しながら頭を下げると、放心状態のカコさんを引き寄せて立ち上がらせようとした。

 

(これで終わりなんて・・・・・・)

 私は入口の傍に立ったまま歯噛みしていた。

 イーラ女史の言う通りだ。こんな状態でヒルズ将軍と合流したって、グレン・ヴェスパーと戦うことなんか出来っこない。

「あなたたち、帰っちゃうの?」と、ワオキツネザルが残念そうな顔を見せてきた。「パークはフレンズの幸せのために戦っている」なんて言葉で期待を持たせておいて結果がこれでは、彼女が失望するのも無理はない。

 

「カコさん! しっかりしてよ!」

 私は無意識のうちに、懇願するように叫んでいた。

 長老に裏切られたことがショックなのはわかる。それでもカコさんには私たちが進む道を示してくれないと困るんだ。フレンズもヒトも、彼女を信じて付いて来ている者のたくさんの思いを背負っているんだから。

 ・・・・・・それがとてつもない重圧なのはわかる。でも、重たい物を背負って立ち上がるのがボスの役目じゃないか。

 

_______バチンッ! 

 暗い空気が立ち込める部屋に、とつぜん乾いた音が鳴り響いた。

 見ると、カコさんが自分の頬を思いきり平手で叩いている所だった。隣にいるシガニーさんが思わずギョッと身をすくめるほどの勢いだった。タブレットの中のヒルズ将軍も一瞬目を見開いた。

 そして私は、心のなかでガッツポーズを取った。

 

「・・・・・・もう少々、お話してもよろしいでしょうか?」

 カコさんが頬を赤く腫らし、唇から血を流しながら口を開いた。イーラ女史は紅茶を啜りながら黙って何も答えなかった。彼女流の肯定のサインだと思う。

 

「まず疑問なのは、なぜ私は暗殺されなかったのか、ということです」

 カコさんは推理を展開した。

 モザンビークの長老から見て、ヒルズ将軍の暗殺は困難を極めるだろう。潜水艦に身を潜め、味方にも所在を明かしていないほどの徹底した秘密主義者なのだから。

 だがカコさんを暗殺するチャンスはいくらでもあったはず。普段から連絡を取り合い動きを把握していたのだから。

 

「マリアだけを殺し、私とヒルズ将軍を残す・・・・・・前々から不仲だった私たちが揉めることで統率を失わせる。それこそが長老の、またグレン・ヴェスパーの目論見なのだと考えます」

 

「それで」とイーラ女史が紅茶のカップを脇に置き、組んだ両手に鼻先を乗せながら食い入るように問い詰めた。

「あなたはどうするつもりなのかしら?」  

 

「私たちは今こそ固く結束しなければならない。だから、ヒルズ将軍の意見に全面的に賛同します。私の部下たちにもそう伝えます」

《・・・・・・ほう》

「ぼ、ボス、自分が何を言っているのかわかってるのかい!?」

 

 カコさんの言葉に、将軍は不敵に微笑み、シガニーさんは狼狽えていた。ただ一人まったく動じないイーラ女史が、納得したように深々とうなずいた。

 

「いよいよパークとCフォースの全面戦争が始まるのね・・・・・・」

「せっかく貴重なお時間をいただきましたのに、このような結果になってしまい本当に申し訳ありません。それでは失礼いたします」 

「お待ちなさい」

 

 お辞儀し立ち上がろうとしたカコさんを、イーラ女史は引き留めた。

 カコさんはギョッとした顔で座りなおした。

 

「組織の方針が固まったのでしょう? ならば私も助力しましょう」

「わ、私たちは武力に訴えようとしているのですよ? 国連の要人であるあなた様がそれに加担するというのですか?」

「核実験を止めるためなのでしょう? 例え後の世で犯罪者と呼ばれようとも、あなた達には大義があるわ。そしてそれに肩入れする私にも」

 

 イーラ女史の願ってもない言葉に、私たちも、そして画面の向こうのヒルズ将軍も深々と頭を下げるのだった。

「ワオキツネザル、君のご主人様は私たちの恩人だよ」

「イーラ様があそこまで信用してるんなら、パークは本当にいいヒトたちなんだね・・・・・・あたしもパークを信じるよう」

 どちらからともなく手を差し伸べて、ワオキツネザルと握手した。

 

「さて、そろそろ一番重要な話をしてもらいましょう」

 俄かに明るくなってきた部屋の雰囲気を後目に、イーラ女史がなおも老獪な眼差しを光らせながら言い放った。

「グレン・ヴェスパーの最高機密とやらについて、詳しく教えてもらえるかしら」

 

 最高機密・・・・・・その言葉にカコさん達の表情が固まった。

 そういえば、私も詳しいことは知らされてない。核実験の日時や場所、使用される核弾頭の所在について記録された物だとしか。

 

 カコさんとヒルズ将軍が画面越しに目を見合わせて頷くと「では、私から」と、カコさんが説明を始めた。

 日時は6月7日、今からわずか13日後。場所は南アフリカ首都プレトリア郊外の平原。

 使用される核弾頭は地中貫通型ミサイルに搭載され、地下1800メートル地点で起爆されるように出来ている・・・・・・

 と、具体的な数字を含んだ情報が語られる。

 

「プレトリアというと、歴史上はじめてセルリアンと、奴らを生み出す”卵管”の存在が確認された場所ね」

「はい。グレン・ヴェスパーはまさにその地で核実験を行おうとしているのです」

 

 イーラ女史が怪訝そうに眉をひそめながら「でもあの場所は確か」と思案を巡らせている。

「今はもうほとんどセルリアンが出現していないはず」

 

 セルリアンとは文明を食らう怪物。電力やら石油やら、あらかた食べ終えれば次の獲物を求めて移動する性質を持っている。今までにもさんざん聞かされた話だ。

 プレトリアは南アフリカ最大の都市だったが、そこから得られる豊富なエネルギーを食べ尽くすと、今度はケープタウンやダーバンなどの港湾都市に矛先を向け、その後に海を渡った。

 セルリアンが去ってから、避難して身を潜めていたプレトリア付近の住民たちは、少しずつ元の居場所に戻って生活を再開し始めているらしい。

 電気や石油に頼らない、自然の中で生きる農耕生活だと。そういう暮らしをしている限りはセルリアンに狙われにくいらしい。

 

「しかしごく最近、またもやプレトリア郊外にセルリアンが急増し、住民に危害を加えているようなのです」

「何故かしら? エサとなるようなエネルギーが枯渇した土地のはずなのに」

「・・・・・・人為的な原因によるものです」

 

 カコさんが彼女らしからぬ額に皺を寄せた表情で語った。

 すべてはグレン・ヴェスパーが計画した、セルリアンの女王を誕生させるための核実験が原因だという。

 プレトリア郊外の地下深くに存在するセルリアンの卵管・・・・・・そこに効果的に核弾頭のエネルギーを到達させるために、あの男の配下の手で地盤の掘削工事が行われているらしい。爆薬をふんだんに使った急ピッチの乱暴な工事だ。それによって刺激された卵管が、エサを求めて急激に活性化したそうだ。

 

「さらにもうひとつ、あの男はとある計画を裏で推し進めています。どうやらあの男は、廃墟と化したプレトリア都心部の跡地に新たな街を作るつもりのようです」

「そんなことをする意味が分からないわ。自分の手でセルリアンを増やしておいて何故?」

「曰く、人類がセルリアンを乗り越えた証だと・・・・・・」

 

 グレン・ヴェスパーが取り仕切る都市の開発計画の調印式には、Cフォース軍部の軍人、また国連の要人が多く参列する予定のようだ。

 調印式が行われるのは核実験と同じく6月7日。

 すべてのセルリアンを支配する能力を持つと言う”女王”の誕生と同時に式を執り行うことで、あの男の野望が完全に成就することになるという。

 

「あなた達はどうやってそれらを食い止めるつもり? 核ミサイルの発射基地を襲撃するの? それとも式に乗り込んで行って、グレン・ヴェスパーのことを・・・・・・」

《残念ながらどちらも不可能でしょう》

 

 核ミサイルは地上ではなく、雲の上の高さを飛ぶ成層圏プラットフォームから発射されるという。パークがそこに乗り込む手段はない。

 そして調印式を襲うことも困難を極める。特設された会場周辺は人造フレンズも含めた大部隊によって鉄壁の防御が敷かれているという。パークの戦力ではそれを破ることは出来ない、特にフレンズの数に違いがあり過ぎる。正面衝突は極力避けなければならない、とヒルズ将軍が悔しそうに述べる。

 

「私たちが考えていたのは、ミサイルの進路を妨害することです」

 

 停戦調停が失敗した場合を想定して、カコさんや将軍らは別の作戦をすでに立てていた。

 核実験の妨害・・・・・・それは地中の卵管に向けて発射される核ミサイルの狙いを逸らして別の所に落下させること。

 女王誕生の栄養となる核エネルギーが不足して、女王が生まれなければグレン・ヴェスパーの計画は失敗。パークの勝利となる。

 

「そのためにはジャミング装置を地上に設置する必要があります」 

 

 電波攪乱によってミサイルの誘導装置を狂わせることで狙いを逸らす。理屈はシンプルだが、かなりの賭けになるという。

 上空から発射されるミサイルの弾道は、ほぼ下に落ちるだけとなる・・・・・・地上から発射して、放物線を描いて飛ばすよりも格段に狙いが付けやすいそうだ。地上から電波攪乱を仕掛けた所で、ほんのわずかしか狙いを逸らすことは出来ないだろう、と。

 ・・・・・・さらに、ジャミング装置の設置作業がグレン・ヴェスパーの手先に勘付かれて、刺客が差し向けられる可能性だってある。

 

「また、現地住民の避難誘導も行わなければなりません」

 

 当たり前だけど、核ミサイルの狙いを逸らしたところで、地上が核の炎に焼かれることには変わりない。

 落下予測地点の周辺に住んでいる住民は概算で8千人前後。相当な人数だ。そのすべてを避難させることは恐ろしく難しい事だろうけど、出来る限りのことはやらなきゃいけない、とカコさんが拳を握りしめながら呟いた。

 

「・・・・・・わかったわ」

 途方もない内容の話を聞き終えて、イーラ女史は疲労困憊になったように溜め息をついた。曾孫のカレンダちゃんと一緒に映っている例の家族写真を見やり、そして静かに口を開いた。

「私に依頼したいことを言ってごらんなさい」

 

 カコさん達がイーラ女史に対して要求したのも、また途方もない内容だった。

 まずはミサイルの落下予測地点の周辺地域に対して、増加したセルリアンからの避難という名目で緊急避難勧告を発令することだ。国連からの公の勧告となれば、少なくとも避難民の誘導がCフォース側に妨害されることはなくなる。セルリアンはお構いなしに襲ってくるだろうけど。

 次の要求は、現地に赴くパークの戦闘員たちに、偽造のIDを発行してもらうことだ。でなければ国際指名手配を受けた私たちは身動きが取れないからだ。

 最後は、避難民を乗せて逃げるための輸送機の調達だ。これに関してイーラ女史は、100トン級の輸送力を持った機体を3機用意することを約束してくれた。その機体が潜水艦に代わる私たちの拠点にもなるんだろう。

 

「今の要求は私を持ってしても大仕事よ。どんなに急いでも6日はかかるわ。ミサイル発射までにあなた方が動けるのは7日間・・・・・・それで足りるのかしら」

《十分です。多大なご助力感謝いたします。少ないですが謝礼として100万ドルほどご用意が・・・・・・作戦が成功したあかつきにはさらにその倍額をお支払いしましょう》

 

 ヒルズ将軍がけろっとした顔で報酬の支払いを申し出る。さっきまでの将軍は脅迫することで無理やり言うことを聞かせようとしてたのに、まったく変わり身の早いヒトだ。

 しかしイーラ女史は、大金を貰う資格が十分にあるにもかかわらず「結構よ」と興味なさそうに断った。

「そんな金があったら人命のために使いなさい」

 

 将軍以下、タブレットに映っていた全員がお辞儀した。潜水艦からの通信もお開きという空気を醸し出している。

「・・・・・・将軍、待ってください」

 だがカコさんがおもむろにそれを引き留めた。予想外の成り行きに将軍が眉を細める。

 

「私は潜水艦には戻りません」

《何を言っている?》

 

 将軍だけでなく、私たちも呆気に取られているのを横目に、カコさんはイーラ女史に向きなおり再び頭を下げた。

「最後にもうひとつだけ不躾な願いをお聞きください」

 

 カコさんの嘆願は耳を疑うような内容だった。自分一人で、プレトリアの新都市開発の調印式に潜り込ませて欲しい、と言うのだ。

 イーラ女史が裏で工作して、カコさんのことを調印式に出席する国連の要人を守るSPに紛れさせることが出来ればそれは成る。

「調印式にはCフォースの軍人が数多く出席するという話。私はいちかばちか、彼らに対して物事の是非を問うてみたいのです」

「私の力で潜り込ませることは出来ても、逃がすことは出来ないのよ? あなたはまだ若いのに、どうしてそんなに死に急ぐのかしら?」

「・・・・・・私の考えをわかってくれる人物がCフォースの中から現れて、後の世でパークを盛り立ててくれたら・・・・・・それが今の私に出来る最善の道だと思うのです」

 

《フン、馬鹿げた話だ》

 カコさんの決意の重さを受け取ったと言わんばかりに、イーラ女史が厳かな面持ちで頷いているところに、ヒルズ将軍が鼻で笑いながら異を唱えた。

《今さら連中と話などする意味はない。何故それがわからない?》

 カコさんの兼ねてからの構想は、世界中でセルリアンから人々を守っているCフォースの軍人たちを、グレン・ヴェスパーが主導する研究部から切り離すことだった。

 それを可能にする交渉材料のひとつが、ヒトの手で直接セルリアンに対抗することが可能となるSSアモなどの兵器群だ。対セルリアン戦力をフレンズに一手に任せているCフォースには存在しないはずの技術。

 ・・・・・・だが、パークの幹部であるモザンビークの長老がCフォースに内通していた以上は、パークの技術はすでに漏れてしまっているだろう、と将軍は指摘した。

 

「それはそうだと思います。しかし、私は彼らの善意を信じてみたい。最後に残された可能性に賭けたいのです」

《空しい妄想だな。グレン・ヴェスパーの片棒を担ぐ者どもに善意などあるものか》

「・・・・・・全員が核実験の詳細を知っているとは限りません。新都市開発の構想しか知らされていない可能性だってあります。あるいは、すべてを知っていて良心の呵責に苦しんでいる者もいるかもしれない。あのヒグラシ博士のように・・・・・・」

《君はつくづく学ばないな。ついさっき手ひどい裏切りに遭ったばかりなのに、また根拠なく他人を信じる気かい?》

 

 どこまで行っても平行線を辿るような2人の会話が続いている。

 空を見上げるように理想を追い求めるカコさんと、海の底から冷徹に現実を見定めるヒルズ将軍は、まったく対照的で、互いに相手にない感性を持つ者同士のような気がした。

 

《決戦が迫っているのに、リーダーの君が身勝手な行動を取ってどうする?》

「あなたがいれば指揮は十分です。こうなっては、もはやリーダーは1人でいい。そして戦術指揮官としては、私などよりもあなたの方がよほど優れています」

 

 カコさんがヒルズ将軍を褒めちぎった。一緒に行動してみてあらためて優秀さがわかった、と。

「あなたは叩き上げで今の地位にまで上り詰めた確かな実力があります。それに比べて私は、組織の二代目の看板を頼りに、仲間に支えられて何とかやってきただけ」

 一方のヒルズ将軍は、称賛されているのにも関わらず、額に皺を寄せて不愉快さを隠そうともしない表情になっていった。

 そしてカコさんは、決定的な一言を告げた。

 

「私に何かあったら、パークの一切をあなたにお任せします」

 

《何故だ!》

 カコさんを乗り越えて権力を握りたがっていたはずのヒルズ将軍が、感情をむき出しにしながら激昂している。 

《どうしてそんなに他人のことを信じられる!? 僕は他人を欺くことで生きてきた悪党だぞ!》

 

「この子はそういう子なんだよ、将軍」と、シガニーさんが割って入る。先ほどとは打って変わって、落ち着き払った何かを悟ったような表情を見せている。

「不本意だけど、うちのボスの指名となりゃ、アンタと反目するわけにはいかなくなったね」

 

《疑うことではなく、信じることで人物の真価を推し量る、か・・・・・・ノヴァ、君はどうやら、僕には到底できない生き方をしているようだ》

 画面の中のヒルズ将軍が遠い目をして項垂れている。何かに自信を打ち砕かれたように自嘲的な笑みを浮かべている。

《君のような人間を見ていると、自分がみじめに思えてくるよ》

 

 僕の負けだ、と将軍が最後に言い残した後、タブレットが今度こそブラックアウトした。

 激論が終わり静寂が訪れると、シガニーさんが深いため息を付いた後に口を開いた。

 

「・・・・・・もう心に決めてるんだね?」

「はい」

「アタシが付いて行っちゃだめかい?」

 

 カコさんは静かに目を閉じながら顔を横に振った。

 自分一人で行くことに意味があるのだと。

 Cフォース側も、調印式がパークに襲われる可能性は警戒しているはずだろう・・・・・・だが彼らが想定しているのは、パークが集団で襲い来るシチュエーションのはず。

 カコさんが単独で潜入してくることなんて、万にひとつも考えていないはずだ、と。

 

「シガニー、あなたには私に代わってサウスの仲間たちをまとめて欲しいのです。ヒルズ将軍の下で団結するようにと」

「・・・・・・本当に酷い子だよ」

 

 カコさんとシガニーさんが肩を寄せ合って抱擁を交わしている。

 元々は赤の他人だったのに、数奇な運命に惹かれて、20年間も生死を共にしてきた2人。その固く強い絆は本物の家族に劣らない・・・・・・そんな彼女たちの別れの瞬間だった。

 

「これでお別れなんてイヤだよ、カコさん」

 私の瞳にも熱い物が込み上げてきた。彼女は私の言葉に対して「許して」と彼女らしい優しくさりげない声色で返してきた。

 

「アムールトラ。ヒグラシ博士のこと、さぞ辛いでしょうね」

「うん・・・・・・でも、私のやることは変わらないよ。最後までパークのために、カコさんのために戦い抜くよ」

「あなたは本当に強くなったのね」

 

 違うんだカコさん。私は強くなんかない。

 自分を奮い立たせて何とか前を向いているだけなんだ。叶えたい願いだけが私を支えてる・・・・・・あなたと同じなんだ。

 

「私はきっと帰ってきます。アムールトラ、いつか私と一緒に、飛行機で飛びましょうね。どこまでも広がる自由な空を」

 

to be continued・・・




_______________Cast________________
    
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種
「アムールトラ」
哺乳綱・霊長目・キツネザル科・ワオキツネザル属
「ワオキツネザル」

_______________Human cast ________________

「久留生 果子(くりゅうかこ)」
年齢:26歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 南アフリカ事業所代表
「シガニー・スティッケル(Sigourney Stickell)」
年齢:41歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 南アフリカ事業所副代表
「リクタス・エレクタス・ヒルズ(Rictus Erectus Hills)」
年齢:30歳 性別:男 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 リベリア・ギニア事業所代表
「ウィザード(本名不明)」
年齢:30代半ば 性別:男 職業:フリーランス・ブラックハッカー
「イーラ・C・アルマナック(Era Chronicle Almanac)」
年齢:83歳 性別:女 職業:国際連合 安全保障理事会特別顧問ならびにマダガスカル支部局長 
「イブン・エダ・カルナヴァル (Ibn Edd Carnaval)」
年齢:67歳 性別:男 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 モザンビーク事業所代表

______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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