けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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 あるトラのものがたり第6話です。

 ともえ達一行とアムールトラが海底の牢獄で再び向かい合う。
 そして平和だった海上のホテルに不穏な影が迫るのだった。



現代編6 「でじゃびゅ」

 ともえとイエイヌは、監視部屋から閉め出され、その先に続く研究室へと訪れていた 

 そこにいたフクロウの学生たち4人から遊びに誘われたが、それを断り、静かに佇んでいた。フクロウたちは気にせず遊びに興じていた

 ともえは先ほどから変わらず、頭を伏せて黙り込んでいた。イエイヌはともえの傍で遠い目をしながら、何か考え込んでいた

 

「6を四枚、革命、あがり」

「こ・・・これでアオバズクの5連勝・・・アナホリフクロウが2位、私が3位

 チョンボのメガネフクロウがビリで連敗中・・・ふ、運命の女神は時として嗜虐の愉悦を求める・・・」

「メメメ、メンフクロウ・・・なんかカッコいいこと言っても、顔が引きつってますよ」

「アオバズクなんでこんなに強いのwww絶対イカサマしてるっしょwww」

「これは才能だよ。早く“賭けジャパリまん”ちょうだい。2位から一個、3位から二個、

 ビリから・・・五個・・・そういう約束だったよね」

「ちょwwwアタシこれでおけらやぞwww今日一日水だけで過ごせってかwww」

「勝って取り返してみなよ」

「ももも、もしまた負けたら・・・」

「メガネフクロウは明日も水だけの生活かな・・・どうするの? もう一戦やるの? 降参するならそれでもいいよ。あたし、お腹が空いたから、上のホテルで一番高いごちそう食べて来るよ。“海の幸五つ星フルコース”が、確か35JP(ジャパリまん35個分)だったかな? そしたらメガネフクロウに返すものがなくなるけど、それでいいんならこれで終わりにするよ」

「こいつwwwリアルで鬼畜wwwねえ、ともえとイエイヌwwwアンタ達も参加して一緒にアオバズクを成敗しよwwwね、お願いwww」

「せこいね・・・参加者が増えればが何とかなるとでも・・・? ま、いいけどね。ともえさんと、イエイヌさんだったっけ、アナタ達、参加するの?」

「・・・・・・・・」

「ちょwww聞いてる? ともえ?」

 

「え! ・・・あ・・・ううん。ごめん、あたしは良いよ」

「わふっ・・・わたしも、今は遊ぶ気持ちじゃなくて・・・」

 

「・・・だってさ、残念だったねメガネフクロウ」

「うっさいwwwもうひと勝負じゃボケェwww」

「おお、試練に打ち勝った時、明星が暗雲を切り裂き、我を照らすであろう・・・」

 

 フクロウたち4人は、カード遊びに再び興じ始めた。ともえ達はただ沈黙していた

 音のない海底の研究室といえど、耳を凝らせば様々な物音が響いていた。どこかから空気が循環する音。そして、海底の圧力を受けて、部屋全体がわずかに軋む音・・・

 

_______ウィィィン・・・

_________タッタッタッ・・・ポコ、ポコ、ポコ、ポコ・・・

 

「ともえー! イエイヌー!」

 

 研究室の自動ドアが開かれ、新たな闖入者が二人、姿を現した

 

「ロードランナーちゃん! ラモリさん!」

「わふっ、良かった。無事に帰ってこられたんですね」

「へへっ、見ろよこれ・・・噂に聞いた通り、海の底に沈んでいたぜー。ま、オレ様にかかればよぉー、ざっとこんなもんだな」

 

「青い・・・オーブ・・・」

 

 ロードランナーの右手に掲げられた青いオーブは、研究室の薄灯りを反射し、なだらかな表面を複雑に煌めかせていた

 

「ありがとう。手に入れてくれたんだね・・・」

「ともえさん・・・良かったですね・・・」

「うん・・・・・・」

「い・・・・・・・・・いやいやいや・・・ともえもイエイヌも、なんだってそんなテンション低いんだよ・・・オーブだぜ? なんで、もっと喜ばねぇんだよぉー?」

「わふっ、あの、ロードランナーさん・・・聞いてください・・・かくかくしかじかで」

 

 イエイヌから事情を聞いているうち、ロードランナーの高揚する気分は冷め、いつしか

ともえ達と同じように顔を伏せていた

 

「・・・おー、そっか・・・そんなことがな・・・ビーストがそんなことしたのか・・・」

「ねえ・・・アムールトラさんのこと、もうあきらめるしかないのかな?」

 

 イエイヌとロードランナーは黙って顔を見合わせた。ともえのその問いを肯定することも、否定することも出来なかった

 

_______ウィィィィン・・・

 

 監視部屋にこもっていた学者たち三人が、研究室に戻ってきた。三人の表情は一様に暗く、神妙だった

 

「あれwww三人お揃いじゃないっスかwww」

「じじじじゃあ、ビビビビーストは今放置状態? あ、あ、危な・・・」

「みんないるですね・・・良いですか、よく聞くです。もう、ビーストの研究は終わりなのです。すぐにここを出るです。そして、キョウシュウに帰るです・・・ともえ・・・お前たちは自分の旅を続けるがいいです」

 

「待って、なんでいきなりそんな事に?」

「我々が三人で話し合って決めた事なのです」

「じゃあ、アムールトラさんはどうなるの?」

「こことは違う所に移されるです。きっと、悪いようにはされないです」

「こことは違う所・・?」

 

____“大変ですゥ! 誰か出てェ!” 大変なことが起こりましたァ!

 

「・・・・・・デグー・・・!?」

 

 突如、大きな声が研究室に鳴り響いた。ハツカネズミは壁面に走りよると、そこに備え付けられた金属の杯のような物体を引っ張り出し、そこに耳を当てた

 

「・・・・・・デグー!・・・聞こえますか・・・私です・・・!」

 

_____“あ、博士ですかァ!? 聞いてくださいィ! ホテルを、巨大なセルリアンが襲っているんですゥ! セルリアンがホテルのガラスを砕いて・・・ホテルが浸水し始めましたァ!

_____“お客様たちも大混乱で・・・避難誘導もままならないですゥ!

「・・・・・・セルリアン・・・!? そんな・・・バカな・・・」

_____“博士ェ! みんなァ! そこにいちゃダメですゥ。そこが・・・海の底が一番危ないですゥ! 早く上に戻ってきてェ!早くしないとエレベーターが止まってしまうかも・・・そうしたら、海の底に閉じ込められてしまいますゥ! あっ、やばっ・・・水がそこまで・・・もう切りますゥ! 博士! みんな!ともかく早く来てくださいィ!

 

「突然現れた巨大なセルリアンが、ホテルを襲っているのですって? そんなことありえないのです。このホテルは海に囲われているのです」

「最近各地で目撃されている、空を群れで飛び回る小さなセルリアンなら、海を渡りホテルを襲うこともできると思うです。ですが、巨大なセルリアンが一匹でここに来るなんて・・・」 

 

_____ギ・・・ギギギ・・・! ゴォォォォッッ・・・

 

「・・・!!」

 

 研究室に、鈍い震動音が響きわたっていた。それはただの音に過ぎなかった。海底の圧力や波の揺らぎで部屋が静かに軋む音なら、いつも響いていた

 しかし、それらとは明らかに異なる、断続的で不規則な音だ。この海の上で何か異常な出来事が起こっていることを、研究室にいる全員が実感した

 

「ともかく、早く上に戻ったほうがよさそうなのです」

「もとより、ここから立ち去るつもりだったのです。これ、お前たち、1分以内に荷物をまとめるです。特に机の上の書類は全部かばんに詰め込むです」

 

 フクロウたち4人は手に持ったカードを放りだして、弾かれたように動き出した。さっきまでふざけ合い、遊びに興じていた表情はとうに消え失せていた

 

「ハツカネズミ博士も急ぐです。もうここには戻ってこないのだから」

「・・・・・・ええ・・・早く上の皆と合流しなければ・・・」

 

 ともえ達は、せわしなく動くオオコノハズク達の様子を、呆然と見ていた

 もう、ここから出るしかない・・・そんな空気に呑まれていた

 

「よし、もう準備はできたですね。さあ、行くです」

「・・・ね・・・ねえ、あの、アムールトラさんは?」

「・・・ともえ、お前はまだそんなことを言っているですか? もう我々がビーストをどうこうすることは出来ないのです。・・・実際、お前が時間をかけてビーストを説得しても、あの怪物の心を動かすことは出来なかったのです」

 

 ともえは、心が折れそうになった。もうアムールトラのことは、本当にあきらめるしかないのかもしれない

 そうだ。これは運命なんだ。自分はやるだけのことはやった・・・けど、ダメだった

 自分の無力さから逃げたい。そんな気持ちが膨れ上がっていった

 研究室を出ようとしていたオオコノハズク達に、ともえは続こうとした

 しかし、歩き出したともえの手を、後ろから掴む者がいた

 

「あきらめちゃダメです、ともえさん・・・行きましょう・・・もう一度ビーストに、いえ、アムールトラさんに会いに」 

「い・・・イエイヌちゃん!?」

 

「・・・わたし、今までずっと、アムールトラさんのことを、セルリアンよりも怖い怪物なんだと思ってました。だから、ともえさんをアムールトラさんから引き離したかった・・・でも、それは間違いでした・・・見たんです・・・アムールトラさんが涙を流しているのを・・・あの涙を見た時、実感したんです。あの人も、フレンズなんだって・・・そして、ただ一人ともえさんだけが、あの人に寄り添おうとしました・・・ともえさんがやろうとしたことは、絶対に間違ってなんかないです。だから・・・だから、あきらめちゃダメです!」

 

「でも、あたしが行ったら、アムールトラさんは余計に苦しむ・・・」

「アムールトラさんは、ともえさんと話していて、何かを思い出したのかもしれません。それは、思い出したくない辛い出来事だったのかも・・・でも・・・だったら、アムールトラさんの過去には触れなければいい。今、現在のあの人に寄り添えばいいんですよ」

「だけど・・・」

「そして今、アムールトラさんのことをあきらめたら、彼女は誰にも理解されないまま、たった一人で消えていってしまいます・・・それはとっても悲しいことだと思います・・・だから行きましょう、ともえさん」

「・・・・・・イエイヌちゃん」

 

 不安、恐怖・・・そして無力感が、変わらず自身の中に渦巻いていた、しかしそういった負の感情に勝る強い気持ちが自分の中にあることを確信した

 それは自分が正しいと思うことに向き合いたいという気持ちだった。そしてイエイヌが自分の気持ちに賛同してくれている

 そう思うと、勇気が静かに湧き上がってくるのを感じた

 ともえは、静かにイエイヌの手を握り返した

 

「うん・・・行こう」

「ば、バカなことはやめるです! 」

「そうなのです! お前がもう一度ビーストに会いに行って、それで何か変わるですか? 何も変わりっこないのです・・・」

「ビーストに襲われるのがオチなのです。いいえ・・・仮にビーストと和解出来たとしても、海の中から出られなくなるです」 

 

「おー、無茶だよな・・・マジでよぉー」

「ロードランナーちゃん・・・」

「成功する見込みはちょっぴり・・・失敗したら、ここで終わりなんだぜ?」

「うん・・・そうだよね・・・だけど」

「でも・・・無茶だろーが、なんだろーが、やるって決めたんだろ? 良いぜ、オレ様も行くよ」

「くっ・・・わかりましたのです。好きにすればいいです。お前たちのことなど、もう知らないのです」

 

 オオコノハズク達がエレベーターに向かおうと踵を返す中、ハツカネズミだけが一人、ともえの傍に近寄り、右手を突き出した

 

「・・・・・・これを・・・あなたにあげます・・・これは・・・あの牢の扉を・・・そして、ビーストを縛る鎖を解き放つカギです・・・構いませんね・・・? オオコノハズク博士・・・ワシミミズク助手・・・」

「ええ、そのカギはもう私達に必要ない物なのです。“どこで、誰が”拾おうが、関知する所ではないです」

「・・・・・・私達だけ先に逃げるようなことをして・・・すまないと思います・・・」

「ううん、それは違うよ。上には、ハツカネズミさんのことを待っている仲間がいる・・・急いで行ってあげて」

 

 オオコノハズク達は今度こそ、エレベーターの方向へ、一糸乱れず歩き出した

 ともえ、イエイヌ、ロードランナー、ラモリは、それを見送るやいなや、反対方向に向き返った。ラモリはイエイヌの両腕に抱きかかえられた

 

 

_______________________________________

 

「・・・」

 

 アムールトラは、その鋭敏な感覚によって、異変を感じ取っていた

 この牢獄全体が絶え間なく震動している。不自然な圧力によって軋み、歪んでいる・・・

 上で何かあったのだろうか? 自分を監視する連中がいなくなったことと、何か関係があるのだろうか? 

 

≪ アムールトラよ、聞けい。おそらくここはもう、長くは持たぬ・・・虚無じゃ。奴らの尖兵が、上の建物を襲っておる・・・≫

(セルリアンが? ・・・何故だ?)

≪ 儂にもわからぬ・・・まさか・・・いや、何でもない。ともかくここを出るのじゃ≫

(・・・何度も言うが、再び戦士として戦うなんて私には無理だ。それに、私はフレンズ達から疎まれる怪物だ・・・誰からも必要となどされていない)

≪仮に、おぬしを必要とする者が現れたらどうする・・・?≫

(・・・何?)

 

 ビャッコは無言のまま鉄格子の方へ向き直ると、その先を指差した

 

_______ガチャンッ・・・ギギィィッ・・・

 

 鉄格子の錠前が解き放たれ、重い鉄格子がゆっくりと内側に開かれた

 ともえがみたび、アムールトラの前へと姿を現した。そして今度は見覚えのあるフレンズ達も一緒だ。ともえはすぐにアムールトラの目の前まで駆け寄った

 

「アムールトラさん!」

「・・・ともえー、こんなタイミングで悪いんだけどよぉー」

「ロードランナーちゃん、何?」

「オーブが突然光り出したんだ」

 

 ロードランナーの手に握られた“青いオーブ”が、淡く弱弱しい光を放っていた

 しかし牢獄の薄暗闇の中では、それでも十分な存在感があった

 

「ほ、本当だ・・・」

「お? 何か光が一瞬強まったような」

 

 ロードランナーはまたしても異変に気付いた。オーブを掲げた右腕を、何かを探るように動かしてみた

 間違いない。オーブの光は、ある方向を向いた時だけ強くなっている。そして動かしているうちに、その方向がわかった

 ロードランナーは、その方向へとオーブを突き出し、歩を進めた

 青い光は、みるみるうちに、眩しいとさえ感じるほどに強くなっていった

 

「これは・・・一体どーなってんだ?」

 

 青い光が指し示す先には、それと同じくらい強く輝く“白い光”があった

 その白い光は、アムールトラの体から放たれていた

 その異様な光景を、光を放つ当人であるアムールトラも、ただぽかんと見ていた

 

≪・・・セイリュウよ、遅かったではないか。この儂を待たせるとは何事じゃ≫

(ビャッコ、お前は誰と話している?)

≪ ああ、我が同胞(はらから)じゃよ・・・あれも儂と同じように、今や自分一人では動けぬ玉っころじゃ・・・だが、我々はどこにいても、通じ合うことができる・・・そして儂らは、同じ目的のもとに動いていたのじゃ・・・≫

(私に女王を倒させることか?)

≪ それはあくまで最終的な目的じゃ。我々は・・・おぬしと、おぬしの味方になってくれるフレンズを引き合わせたかった・・・そして、その目的は果たされた≫

(だが、私は・・・私には・・・)

 

≪ のう、アムールトラよ。生きておる限り、やりなおす機会は巡ってくるものであるな・・・いや・・・正確には生きてさえおらぬ、こんな体の儂にさえ機会が訪れた・・・そして儂はその機会をものにしたぞ・・・さあ、次はおぬしの番じゃ。おぬしを助けるために命を賭してきた彼らの気持ちに応えるか? それともここから動かず、すべてから目を背け続けるか? 好きに決めるがよい・・・≫

(待て・・・待ってくれ、ビャッコ)

≪随分と疲れたのう・・・おぬしの中で、少し休ませてもらうとしよう・・・≫

 

 まばゆい二つの光は、急速に消え失せていった。上から差す薄灯りだけが、四人の

姿を頼りなく浮かび上がらせた

 

「おー、何だったんだ? 今の・・・」

「アムールトラさんが光ってた。まるでオーブみたいに・・・青じゃなくて白、あたし達が最初に見つけたオーブの色・・・」

「わふっ、それより、早くアムールトラさんを!」

「う、うん! 見て、アムールトラさん・・・今からこの鍵で、鎖を外すからね・・・だから、一緒に逃げよう」

「・・・」

 

 以前までのアムールトラならば、ともえに牙を剥いて威嚇して、拒否しただろう

 だが、今はもうどうしたらいいのかわからなくなっていた

 ともえにされるがまま、無抵抗となった

 

______カシャンッ・・・ズシッ・・・

 

「よし、首輪が外れた・・・次は腕だ・・・あ、あれ、カギが合わない・・・ていうか、鍵穴がない・・・」

「あの、ともえさん、アムールトラさんの両腕の鎖は、はじめて会った時から付いてたものですよ。その鎖はどことも繋がってないですし、もう逃げられます」

「あ、そっか・・・アムールトラさん・・・立てる?」

「・・・」

 

 アムールトラはその場に座り込んだまま、ともえを静かに見つめた。謝辞でも述べて素直に歩み寄れれば、どんなによかっただろうか

 消すことのできない、自分自身への恐怖・・・それは、自分に近づいてくる他者をも恐怖の対象へと変えていった

 ともえ達のことが、怖かった

 

「・・・いいよ、あたし達と一緒に来なくたっていい。そんなこと、強制しないから・・・でも、ひとつだけお願いがあるの。ここから逃げて・・・生きて欲しいの。そして、あなたの行きたいところに行ってほしい・・・・・・あたし達は、もう行くよ・・・」

 

 アムールトラは座したまま顔を伏せていた

 ともえはすでにわかっていた。アムールトラを強制することは出来ないのだと。後はアムールトラが自分の意志でここから出てくれるのを願うしかないと

 いくらかの沈黙の後、ともえ達は振り返り、牢獄を後にしようとしていた

 

______ゴゥゥゥゥゥン・・・!! ズシャアッ!!

 

「わぁっ!」

 

______ブツッ・・・

 

 ひと際大きな震動が牢獄に響き渡り、ともえはバランスを崩して地面に膝をついた

 なんとか立ち上がろうと顔を上げた時、異常に気付いた。ともえの視界は、真っ暗闇となっていた。牢獄の上から差す薄灯りが消えていた

 

「みんな、大丈夫!?」

「は、はい! みんな無事です!」

「ともえー! 灯りだ! 灯りを・・・そうだ、ラモリさんに頼んでくんねぇーか? 光ってくれってよー」

「え? うん・・・ラモリさん、光れる?」

・・・ゼンホウイ ショウメイ キドウ

 

 イエイヌに抱かれたラモリの体が、火のように辺りを照らしはじめた

 アムールトラも含めた4人の姿と、周囲の床を照らしはじめた。しかし光の及ばない範囲は、相変わらず一切の視認が敵わない暗闇だった

 

「参ったな、これじゃ海の底とかわんねーぞ。まあでも、これで一応足元はわかるし、上に戻れるよなー?」

「うん、早く“動く小さな部屋”に戻らないとね」

 

・・・ダメダ・・・ モウ ウエ ノ エレベーター ハ ウゴカナイ・・・】

「え、ラモリさん、どういうこと?」

ウエ ノ アカリ ガ キエタ・・・ツマリ ハイデン ガ トマッテ シマッタ ノダ。デンキ ガ ナケレバ エレベーター ハ ウゴカナイ・・・トモエ、ホカ ノ デグチ ヲ サガセ。イソガナケレバ テオクレ ニ・・・】

 

______ガキィンッ! ・・・ギギギギ・・・

 

「こ、こんどは何だー!?」

「わふっ! 冷たい・・・足が冷たい」

 

 ラモリの話を遮るように、大きな震動が牢獄を揺るがした。金属音が轟いた一瞬後、ともえは、足元に違和感を感じた。空気よりも冷たく、抵抗を与える存在が足首にまで纏わりついていた

 

「浸水してきてる・・・」

「ともえさん! 早く階段を上がりましょう! アムールトラさんも・・・お願いです、一緒に来てください・・・」

「ま、待てよイエイヌ・・・階段を上がって監視部屋や研究室に行ったって、ここらは全部海の底なんだぜ? 意味ねーよ・・・それよりラモリさんが言う他の出口とやらのことを考えるべきじゃあねーか? 何か手掛かりはねーかな?」

 

 ともえの心臓が早鐘のように鳴っていた。もはや一刻の猶予もない。ロードランナーの言う通り、闇雲に動き回っても意味はない

 ともえは情報を整理しようとした。自分達がはじめてホテルに来た時、自分達よりも前にオオコノハズク博士達が到着し、アムールトラをこの牢獄に運び込んでいた

 しかしオオミミギツネ支配人をはじめとするホテルの従業員は、アムールトラが運び込まれたことはもちろん、博士が出入りしていたことさえ知らなかった。そしてあのエレベーターは、ホテルのロビーがある階の廊下へと直接通じていた

 あのエレベーターを使った場合、誰にも見つからないように出入りすることは不可能だ。つまり、あのエレベーター以外の、誰にも見つからずに外から出入りできる出口が存在するはずなのだ

 

「出口はあるよ・・・きっとある・・・でも、どこに・・・? 何で、博士たちはその出口を使わずに、止まってしまうかもわからない“動く小さな部屋”を使ったんだろう?」

「と、ともえさん、ここに来た時に少し気になったんですけど・・・この牢屋、結構上のところまで続いているみたいですよね? 上に監視小屋があるから高いのかなって思ったけど、監視小屋よりもさらに上まで続いてるような気がしたんです・・・なんか、不自然です」

 

「上・・・? も、もしかして・・・ロードランナーちゃん、お願いがあるの。ラモリさんを持ちながら飛んで、この牢獄の天井を探ってきてくれない?」

「天井? なんだってそんな・・・まあいーや、けどよ。探るだけならもっと手っ取り早い方法があるぜ、ラモリさんに頼もうぜ・・・違う光り方をしてくれってなー」

「え、どういうこと?」

「ラモリさんはよぉー、こういう松明みたいな光り方じゃなくて、まっすぐに、陽射しみたいに光を出すこともできんだぜ・・・ともかく早く言ってみなって」

「わかった! ラモリさん、陽射しみたいに光を出してみて!」

サーチライト キドウ

 

 満遍なく周囲を照らしていた光が消え失せると、鋭い一筋の光が天井へと照射された

 ともえ達の周囲は再び暗闇に包まれ、お互いの姿も見えなくなったが、代わりに天井は眩い光に照らし出された。イエイヌが言った通り、天井までの高さは結構なものであるように感じた

 そして天井の様子は、少なくとも下から観察する限りは、自分達が今いる場所と変わらない様子の壁面があるだけに思えた

 ともえの口から落胆のため息が漏れようとしたその時

 

「と、ともえー! カギだ! カギを貸してくれ! 早く!」

 

 ロードランナーが堰を切ったように騒ぎ出した。ともえは暗闇の中、ロードランナーの声のする方を探った。そして自分の手が、小さな手と触れあったのを確認すると、その手に牢獄のカギを手渡した

 

_____パタパタパタ・・・

 

「オレ様、目が良いからよぉー、バッチリ見えたぜ!」

 

 ロードランナーが、サーチライトの照らす先へと飛び上がり始めた。他の鳥類には劣る拙い飛行であっても、ただ上昇するだけなら容易かった

 そして数瞬の後に、天井に触れることが出来る距離に達していた

 天井は一面に錆びた鉄色だったが、その中に一か所、不自然な穴が空いていた。そしてすぐ近くには、四本指を引っかけられそうな凹みまであった。これらが自然に出来たものではないことは明白だった。そしてその穴に牢獄のカギを差し入れた

 

「ビンゴ・・・」

 

 カギを開け、凹みに指を引っかけて横へとスライドさせてみた。凹みは重量がありながらも引いた分だけスムーズに開かれていった。凹みを引ききると、その奥から鉄格子が姿を現した

 鉄格子の向こうから、生暖かい空気が漏れてくるのを感じた

 

「見つけたぜ! ここがもうひとつの出口だ!」

 

 ロードランナーは鉄格子のノブをねじり、開いた。鉄格子と合わせ口の間にほんの少しの隙間が空いた。しかし、そこから先の手ごたえはなく、出口が開かれることはなかった

 

「な、何ぃ・・・ふぬぬ、ふぬぬぬ・・・!」

 

 ロードランナーは両腕を支点にして、天井に両足を付けた。重力をも利用して思い切り鉄格子を引っ張った。しかしビクともしなかった

 

「ロードランナーちゃん! 鉄格子が開かないの!?」

「ち、違うぜ・・・開いたんだけどよぉー・・・動かねーんだ・・・!」

 

 度重なる衝撃によって、区画全体の骨組みが微妙に歪んでしまっていた。そしてそのわずかな歪みによって、本来なら開いたものが開かなくなっていた

 ともえは歯噛みしながら、ライトに照らされる天井を見つめた。浸水は、すでに太ももにまで達していた

 

_____ザバァッ! タンッ・・・! ヒュンッ・・・!

 

「・・・え?」

 

 ともえの脳裏に絶望が浮かんだその時、ラモリのサーチライトに一瞬、視認できないほど素早く動く何者かの影が映った

 

_____ガシィッッ

 

「どいていろ」

「わ、わ、わぁああああああっ!! ビーストぉ!?」

 

 ロードランナーの目の前に、突如アムールトラが姿を現した。牢獄の壁面を蹴り、三角飛びの要領で天井近くまで駆け登ってきていた。そして天井にある鉄格子を掴み、ぶら下がったのだった

 アムールトラも、ロードランナーが今までそうしていたように、両足を天井に付けて鉄格子を下へと思い切り引っ張った

 

_____メキメキメキメキ・・・バキャンッ!!

______・・・・・・ドシャァンッ!!

 

 アムールトラは天井から落下し、再び牢獄の床へと降り立った。ラモリはサーチライトの向きを修正し、アムールトラの姿を捉えた

 その右腕には、針金のようにひん曲がり、引きちぎられた鉄格子の束が握られていた。そしてアムールトラは鉄格子の残骸を静かに投げ捨てた。大きな着水音が鳴った

 

「・・・アムールトラさん、一緒に来てくれるの?」

「ああ、外まで・・・お前たちを逃がすまで・・・それまでは」

「ありがとう・・・」

「ともえさん・・・でも、わたし達はどうやって天井まで行きますか?」

「大丈夫! 昨日、イエイヌちゃんが良いもの貰ってくれたじゃない!」

「良いものって・・・ああ! あれのことですか?」

 

 ともえはショルダーバッグの中をまさぐった。目当ての物は、目が見えなくとも、手触りだけですぐに探し当てることができた

 そしてバッグから取り出したオレンジ色の塊をアムールトラに手渡した。それは昨晩、ハブのおみやげコーナーでイエイヌが貰ったロープだった

 

「アムールトラさん、早速お願いがあるんだけど、上の出口からこれを垂らしてくれない? それで、上からロードランナーちゃんと一緒にあたし達を引っ張り上げて・・・」

「・・・わかった」

 

 アムールトラは再び、三角飛びで壁を登っていった。滞空しながら下の様子を呆然と見守っていたロードランナーと再び接近した。アムールトラは片手で鉄格子の合わせ口に掴まるともう片方の手をロードランナーに突き出した

 

「これを持って、上に行け」

「お、お、おう!」

 

 ロードランナーは羽をはばたかせ、天井裏へと入った。暗くて辺りのことはよくわからなかったが、ある程度の高さと、どこかから伝わってくる生暖かい空気を感じさせた

 ・・・ここなら上にまで続いていたとしてもおかしくない、そしてここがオオコノハズク博士達の隠し通路だとしたら納得がいく。空を飛べる鳥のフレンズでなければ、ここを出入りするのは不可能だ

 そして博士達が脱出にここを使わなかったことも納得がいく。アムールトラのいる牢獄の中に再び入っていくわけがないからだ。ともえのここ一番の洞察力はさすがなものだと感心した

 だが、そんなことよりも・・・と、ロードランナーはおそるおそる向き直った。アムールトラは穴の淵にしがみついていた

 

「よ、よー・・・オレ様が引き上げてやるよ・・・て、手ェ貸しな・・・」

「さがれ」

「わっ!」

 

 アムールトラは両手に力を籠めると、握力だけで体を上に引きよせ、その勢いのまま跳ね上がった

 

_____ズガンッッ!!  ・・・パラパラッ・・・

 

 次の瞬間、アムールトラの右腕は、“天井裏の天井”にめり込んでいた。右腕を支点に体を持ち上げ、難なく天井裏に入り込むことに成功していた

 

(や、やべぇーーーー! コイツやっぱり、マジの怪物じゃあねーか!)

「ロープを貸せ」

「ひゃ、ひゃ、ひゃい・・・」

 

 アムールトラは、ロープをほどくと、その一端を下の牢獄へと放り投げた。すぐにロープがピンと張り詰めた

 アムールトラは、ともえとイエイヌ、そしてラモリの重量が乗ったロープを、微動だにせずに手繰り上げた

 

「ありがとう、アムールトラさん」

「さっさと進むぞ」  

 

 ラモリはサーチライトで辺りを見回した。天井の低い空間には、上にも下にも、いくつも金属製のパイプが張り巡らされていた

やがてサーチライトは壁にまで伸びた。パイプが散在する壁面に一か所、二本の金属柱が縦に伸びている場所があった。そして金属柱の間には、横棒が等間隔で配置されていた

 

「ねえ、あれ・・・きっと梯子だよ!」

「わふっ、あそこからたくさん空気が入ってきています!」

「みんな、梯子の所へ行こう!」

 

 一行は梯子に近寄った。サーチライトで梯子の上を照らした。梯子が続く天井には、フレンズが一人通れる程度の穴が空いていた。梯子はその穴を貫き、ライトでも照らしきれないぐらい上へ上へと続いていた

 

「ここから先は、一列に進むしかないね」

「お前・・・トリ」

「と、トリじゃあねーって! ロードランナーって呼べよなー!」

「ロードランナー、お前が先頭だ。何かあったら、飛べるお前が周囲を探れ・・・私は一番後ろだ。行くぞ」

「お、おー・・・」

 

_____ガシッ・・・ヒタッ・・・ヒタッ・・・

 

 暗くて狭い梯子を、一行は登り始めた。先頭を進むロードランナーは、本来ならこういう閉所は恐怖の対象とすら思える苦手な場所だった

 しかし、今は弱音を吐くことすら許されない極限状況だ。高鳴る心臓を押し殺し、一段一段梯子を登っていった

 ロードランナーは、恐怖に耐えるため、自分でも気づかないうちに、目を閉じていた

 そして四肢の感覚だけに注意を向けた。一体どれくらい登ったろう? すでに時間も距離も曖昧になっていた。唯一、後ろにいるともえ達の気配だけが意識に残されていた

 

「わふっ! ろ、ロードランナーさん、止まって! 上見て! 上見て!」

 

 自分のすぐ下にいるイエイヌの声が聞こえた

 

「あー? なんだよー、?」

 

_____ゴチンッ

 

「痛っ! うううっ、な、なんだぁ?」

 

 梯子はそこで終わっていた。ロードランナーのすぐ頭上は行き止まりだった。だがここまで梯子が続いていて、行き止まりであるはずがなかった

 ロードランナーは、辺りを探りまわってみた。ほどなくして、梯子のすぐ前にある持ち手らしきものがあることを認識した

 持ち手を捩じると、思い切り前へと突き出してみた

 

_____ブォォォォォ・・・!!

 

 風がロードランナーの顔を通り抜けるのを感じた。そして眩い光が差し込んだ

 ロードランナーは光の先へと頭を出した

 霧の合間から降り注ぐ日光を見た。一行は海底を脱出し、地上に戻ることに成功していた

 

「・・・・・・よっ!」

 

 ロードランナーは、穴から身を乗り出して下を観察していたかと思うと、そのまま飛び降りて姿を消した

 ロードランナーの突然の行動に、すぐ下にいたイエイヌは驚き、大急ぎで穴から顔を出して安否を確認しようとした

 

「ロードランナーさん! 返事してください!」

「おー! ここだ! ここ! ここ! 下を見てみなって!」

「あ・・・!」

 

 イエイヌが真下を見やると、そこには石畳の庭園があった。ここと似たような場所を、つい先日見かけたばかりだ。ホテルの入り口に当たる海に面した中庭・・・ちょうどあそこと似たような広さと間取りの場所だった

 一行は庭園に降り立つと、周囲の観察を始めた

 

「ここは海面よりもかなり高い場所にあるみてーだな・・・見ろよ、海があんなに下に見えるぜ・・・いつの間にかこんな高い所に来てたのか」

「わふっ、ここ、手入れされてないみたいです。使われていないんでしょうか?」

「うん、そうかも。思えば昨日、あたし達が案内を受けたのも、海の下だけだ・・・海の上は、誰も立ち入っていないのかもね」

「どっかから下に降りられねーかな? 博士達と合流して一緒に逃げられたらそれが一番だよな? お? あそこに扉がある・・・行ってみよーぜ」

 

「・・・待て」

「アムールトラさん?」

「動くのは、周りをもっとよく観察してからだ。ここは視界も足場も良い・・・他にこういう場所はないかもしれない」

「あー? そんな悠長なことを・・・」

「ま、まーまー・・・アムールトラさんのほうが、あたし達よりも、こういう“荒事”にきっと慣れてるはずだから・・・そういう人が言うことは、的確だと思うよ」

「・・・ちぇ、わーったよ」

 

「わふっ・・・あの・・・」

 

 イエイヌは、顔を伏せながらアムールトラの傍に近寄った。そしてアムールトラの黒いかぎ爪が生えた手を、両手で握りしめた。伏せた顔を上げ、アムールトラの双眸を見つめ

 

「何だ?」

「あの、自己紹介がまだでした。アムールトラさん、わたしイエイヌっていいます・・・一緒に来てくれて嬉しいです・・・ここを出たら、ゆっくりお喋りとかしたいなって・・・その、アムールトラさんが良ければですけど」

「・・・」

「ああ、えーと・・・オレ様はロードランナーだ・・・って、ついさっき名乗ったか。オレ様も、アンタのことアムールトラって呼ぶことにするよ。あ、勘違いすんなよ、オレ様はまだ全然アンタのこと信用してねーぞ」

「わかっている、ロードランナー」

「だ、だがよぉー、アンタがオレ様の名前をきちんと呼ぶならよぉー、オレ様もアンタのことをきちんと呼ばなきゃだろー? それが筋ってもんだからなー」

 

「うん・・・うん、いいね・・・あたし達・・・すごく良い仲間になれそう! アムールトラさん、一緒に来てくれてありがとう! ・・・そうそう、この赤い色のラッキーさんは、ラモリさんっていう名前なの! この子のこともよろしくね!」

「・・・勘違いするな。お前たちをここから逃がすまで、一緒に行くだけだ。私を助けにきたばかりに、お前たちが命を失くす・・・そんなバカな話はないからな」

「うん、それでも、ありがとう・・・ねえ、ところでアムールトラさん、ちょっと失礼なことを聞くけど、つい昨日よりも、だいぶ自然に話せているよね?」

「お前たちが来る前、おしゃべりな奴とずいぶん話した・・・たぶん、それで話し方を思い出すことが出来たんだ」

「え、あの牢屋に誰か来てたの?」

「・・・いや、何でもない。それより観察に集中しろ。四方に散って辺りを探るんだ。イエイヌ、いいかげん手を放せ」

「わふっ、ごめんなさい・・・でも、きっとここを一緒に出ましょうね」

 

 

_____________________________________

 

 

 オオコノハズク達は、エレベーターから出て、ホテルの廊下にたどり着いていた

 すでに足元は海水に浸っていた

 廊下も、ロビーも、まったくの無人だった。しかし、少し道を進むと、混乱の喚声が響き渡っていることがすぐにわかった。一行は声のする方向へ駆け寄った

 ホテルの入り口である中庭に続く一本道の階段、そこにホテルの宿泊客である数十名のフレンズ達がひしめき合っていた

 中庭に続く扉は閉鎖され、扉の前には、オオミミギツネ達ホテルの従業員が立ち塞がっており、興奮する宿泊客達を何とか宥めようとしていた

 

〈ちょっと! 何で通してくれないの! 出して! 出してよーーーー‼〉

〈なんなのこのホテルは! 客を溺れさせるつもりなの!?〉

「お、お客様方! 今少しお待ちを! 外の様子が確認できてません! 安全のために外にお出しするわけにはいきません!」

〈じゃあ早く確認してきてよーーー!〉

 

「・・・・・・オオミミギツネさん・・・!! 大丈夫ですか・・・!!」

「ハツカネズミさん! フクロウの皆さんも!」

「はいィ! 通してェ! 通してェ!」

 

 デグーが宿泊客がひしめき合う隙間を縫い、階段を駆け下りてオオコノハズク達に近寄ってきた

 

「・・・・・・デグー・・・状況は・・・? 巨大なセルリアンはどこですか・・・?」

「はいィ・・・それが・・・」

 

 デグーが言うには、巨大なセルリアンは、今はどこかに姿をくらませているのだという

 セルリアンは客室や廊下、ロビーなどの数か所に現れては、その巨体で、窓ガラスや壁面に攻撃を加えたとのことだ

 だが、逃げ回るホテル内のフレンズを襲うことはなく、別の所へ向かったらしい。それきり暗い海の中で姿を捉えることは出来ていないとのことだ

 それでも、セルリアンが加えた散発的な攻撃は、ホテルに甚大な被害を与えていた

 元々海底に沈んでおり、奇跡的ともいえる均衡の上に成り立っていた建造物だった

 そしてその均衡が衝撃によって打ち崩された。その結果、連鎖的に建造物が崩壊をはじめたのだった。セルリアンがいなくなったところで、このホテルが完全に倒壊するのは、もはや時間の問題だった

 宿泊客は、ホテルから一刻も早く逃げようと大混乱に陥っていた。だが、外にセルリアンがいるかもしれない状況の中で、冷静さを欠いた客達を外に出すわけにはいかないと判断した従業員たちは、出入り口を封鎖した

 そして従業員達と、宿泊客の間で押し問答が起きていた

 

「なるほど、正しい判断なのです。そうですね、助手?」

「そうなのです、博士。こういう状況でこそ、パニックになったらまずいのです。何とかして宿泊客を落ち着かせる必要があるのです」

「なので、一芝居打つのです、助手・・・これをやるのは久しぶりなので気が滅入るですが」

「・・・・・・お二人とも・・・何か考えが・・・?」

 

 オオコノハズクとワシミミズクは静かに目を閉じた。心なしか二人の周囲の空気が重苦しくなったように思えた・・・数秒、十数秒、息を殺していた二人の目が開かれた

 

______「野生解放!」____

______ブォンッッ!!____

 

「・・・・・・な・・・!?」

 

 裂帛の気合が、二人のフクロウから突風のように放たれた。その場にいるフレンズ全員がそれを認識した。二人の瞳は、金色に輝いていた

 

「北方の民よ! 聞くのです!」

〈・・・な、なに? あの二人は?〉 

「我々は南方のオサ・・・! 群れを率いるフレンズなのです!」

「我々が来たからには安心なのです! 今この時だけ、我々は群れになるのです! 群れで危機に立ち向かうです!」

「我々の指示に従ってここを出るのです! 危機に対して、群れで乗り越える・・・それがフレンズというものなのです!」

 

 金色の双眸を輝かせ、毅然と語りかける二人のフクロウの威容は、その場の何物をも圧倒する存在感を放っていた

 そして本能的に、二人に服従することが最適な行動であると思わせた

 

〈そうだ・・・そうよ・・・あの二人の言うことを聞こう!〉

 

 今まで、従業員たちの前を押し破らんとしていた宿泊客は、みんな一様にオオコノハズクとワシミミズクの方に向き直り、じっと見つめた

 

「よし、今から少人数で外の様子を探るのです! 脱出の手段も確保するです! ここで働く船頭のフレンズは返事をするのです!」

「はーい! あたし達4人が船頭だよー! 船を動かすんだね!」

 

 マイルカたち4人が歩み出て返事をした

 

「船舶はどこにあるですか?」

「ここからすぐ行った所に停めてあるけど、みんなが乗るためには、中庭の海に面した階段に乗り付ける必要があって・・・それには少し時間がかかるよ」

「いや・・・脱出に船は使いません。ある物を大急ぎで取ってくるのです。ある物とは・・・網です」

「え? 網?」

「あるはずなのです。船倉を調べてくるです」

「ここでお前達が使っている船は、ヒトが生きていた時代、海の生き物を捕えるための船だったとハツカネズミ博士から聞きましたです。実際につい先日、ここの船の中にあった網の一つをビーストの捕獲に使ったです」

 

 オオコノハズク達が提案した脱出方法はこうだった

 ここを襲ったセルリアンが今どこにいるのかはわからないが、ともかく海の中にいることだけは確かだった。それならば、どのみち海上を船で渡るのは危険なのだ

 なので、鳥のフレンズが、飛べない者たちを空輸して陸まで運ぶという方法が一番安全だという結論だった。だが、鳥たちが他のフレンズを直接背負っていたのでは時間がかかり過ぎるために、網でフレンズ達を包んで運ぶのだ

 しかしそれでも、何往復もしなければ全員を助けることはできないことは明白であり、救助が完了するまでの間にホテルの倒壊に巻き込まれる危険は否めなかった

 だが海を渡れない以上は、この方法に賭けるしかないと判断した

 

「わかった。網を探してくるよ! ミンククジラ、スナメリ、ゴマフ、行くよ!」

 

「さて・・・おまえ達の中で、鳥類と海生哺乳類、そして他にも泳げるフレンズがいたら挙手するです」

 

 宿泊客の中からまばらに手が上がった

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・鳥類が3人、泳げるフレンズが7人・・・思ったよりいたのです。鳥類は我々を手伝うです。そして泳げるフレンズを運ぶのは後回しにするです。飛べない、泳げないフレンズを優先して救助するです」

「泳げるフレンズが7人いるということは・・・それに合わせて、一度に運ぶ人数も7人が良いと思うです。網を使うには、四隅を1人ずつ持つ必要があるです。鳥類4人で7人を運ぶ・・・ちょうどいいのです。ギリギリ飛行速度も高度も安定するのです」

「よし、お前達・・・近くにいるフレンズと7人ずつグループを作るです! 同じグループのフレンズと一緒に行動するですよ!」

 

 オオコノハズク達は階段を上がり、扉の前に固まっていたオオミミギツネをはじめとする従業員たちに近寄っていった

 7人ずつグループを作った宿泊客達は、階段の左右に寄り、オオコノハズク達が通る道を開けた。静まり返った宿泊客達が固唾を飲んでこちらを注視する視線を感じた

 

「ああ! あなた達が来てくれて助かったわ!」

「・・・・・・すごい統率力ですね・・・さすがキョウシュウエリアのオサといわれるお二人・・・それに・・・野生解放というものを始めて目の前で見ました・・・」

「キョウシュウは昔からセルリアンが多いのです。我々は今まで何度もフレンズを指揮して戦ってきたです。キョウシュウのフレンズは皆戦い慣れしているし、野生解放だって別段珍しくもないのです」

「それに比べるとホッカイのフレンズは全然戦い慣れしていないようなのです。それだけ平和だったのですね・・・そんな平和なエリアで、明らかに異常な事態が起こっているです」

「・・・・・・巨大なセルリアンは・・・なぜこのホテルを襲ったのでしょう・・・?」

 

 ハツカネズミは不可解な点に気付いた。本来なら“なぜ”などと考えること自体おかしい。セルリアンはフレンズに対して反射的に捕食行動を行うだけの存在のはずだ。そこに理由なんてない。そういう存在であるというだけだ

 ここでもう一つおかしな点に気が付いた。デグーの話によれば、巨大なセルリアンは誰も襲わずにどこかへ消えたということだ

 セルリアンがフレンズを捕食するだけの存在であるならば、これほどに多くのフレンズが密集している場所を見つけたのなら、真っ先に襲ってくるはずなのだ。それをしないのは、何か他に優先すべきことがあるからではないのか? 

 

「ともえ達はどうなったと思いますですか? 博士、ハツカネズミ博士? 今思えば、無理やりにでも連れ出すべきだったのかもしれないのです」

「無理なのです、助手。この状況で、我々の指示に従わないフレンズを連れていくなんてことは、我々の命まで危うくするのです。ともえ達は、ビーストと運命を共にすることを選んだです」

 

「・・・・・・そういえば・・・さきほど・・・園長が言っていましたね・・・ビーストを回収しに“使い”を向かわせたと・・・“フォルネウス”という名前の・・・しかしフォルネウスとやらはどうやって海底の牢獄に入るつもりなのでしょうか・・・もう・・・エレベーターは動かない・・・そして・・・牢獄に直通する抜け道のことを仮に知っていたとしても・・・私達の手引きなしで出入りするには難所すぎる・・・お二人は・・・フォルネウスと呼ばれる者について・・・何か知りませんか・・・?」

「皆目見当がつかないのです。園長には何人かの仲間がいると聞いたことはあるですが」

 

 園長はこう言っていた。“後は僕の使いが全部やる”と・・・彼の口ぶりは、明らかに自分達の協力を拒否していた。それどころか、これ以上ビーストに関与すること自体をやめさせようとしていた

 ビーストを捕獲するように仕向けておきながら、なぜ今さらあんなことを言いだしたのか?

 園長の言動はすべて不自然で、得体の知れないものだった。彼は自分の要求だけ一方的に伝えながら、こちらの知りたいことには何も答えなかった

 園長と名乗る謎のフレンズ、そして突如ホテルに襲い来た巨大セルリアン・・・なぜこうも立て続けに、異常な存在がホテルに現れるのか

 そしてハツカネズミは、ある仮説にたどり着いた

 

「・・・・・・もし・・・もしここを襲っているセルリアンが・・・園長の使いだとしたら・・・?」

「ハツカネズミ博士? 何を言っているですか?」

「・・・・・・園長は・・・セルリアンを操ってビーストを探しているのではないですか・・・? ・・・それで全部辻褄が合います・・・お二人はどう思いますか・・・?」

「冷静になるです。セルリアンを操ることの出来るフレンズなどいるはずがないのです。そんなことを考える時点でだいぶパニックに陥っているです」

「・・・・・・私は冷静です・・・」

 

______ガチャン

 

 目の前の扉が開かれ、マイルカが顔を出した

 

「網を持ってきたよ! セルリアンにはまだ見つかってない・・・どうする?」

「よし・・・皆、一歩ずつゆっくりと階段を上がって外に出るです」

 

 ホテルの宿泊客達は、オオコノハズク達に誘導されながら、ホテルの中庭へとゆっくりと歩を進めた

 そして階段の近くに集まった。海に面する石造りの中庭の、手前と奥に一か所ずつ、すでに網が広げてあった。これならばすでに避難をはじめることができるだろう

 

「これは準備が良い・・・上出来なのです」

「先ほど作った7人グループで、まとまって動くです」

 

 7人グループが二組、奥と手前のそれぞれの網の中央に集まった

 奥の網をフクロウの学生4人組が

 手前の網をワシミミズクと、宿泊客の中にいた3人の鳥類を加えた4人が、それぞれ四隅を持つために駆け寄った

 ハツカネズミら従業員は、後方に待機して避難の様子を見守っていた

 

「ねえ、ハツカネズミさん」

「・・・・・・オオミミギツネさん・・・」

「さっき、フクロウのお二人と話していたことはなんだったの? あなたはここを襲っているセルリアンに心当たりがあるの? ねえ、教えてちょうだい」

「・・・・・・それは・・・」

「一人で抱え込むなよハツカネズミ・・・そりゃあ、頭の良いお前からしたら、オレたちなんて随分頼りないのかもしんないけどさ!」

「そうですよ~、いままでみたいに4人で助け合いましょうよ~」

 

「・・・・・・ごめんなさい・・・オオミミギツネさん、ハブさん、ブタさん・・・今はお話することができません・・・」

「どうして? 私達4人、ホテルを切り盛りしてきた仲間でしょう? どうしてそんなに一人で抱え込もうとするの?」

「・・・・・・あなた達が何も心配することなく・・・やりたいことをやれるために・・・面倒事は全部私が引き受けるつもりでした・・・全部自分が解決しようと考えていました・・・」

「なんでそんな寂しいことを言いますの?」

「・・・・・・許してください・・・私は思い上がっていました・・独りよがりでした・・・これから先・・・何かあったら一番先にあなた達に話すようにします・・・でも・・・それでも・・・今このホテルを襲っている異常事態のことは・・・簡単に話せることではないんです・・・」

「わかりましたわ。あなたが言いたくないならそれでもいい・・・わたくし達があなたを信じていることには変わりないわ」

「・・・・・・オオミミギツネさん・・・」

 

 オオミミギツネは、静かにハツカネズミの手を取った。二人は手を繋いで見つめ合った

 

「あ、あのォ・・・お取り込み中悪いんですけどォ、そんな話をしている場合ではないかと思いますよォ・・・?」

 

 避難はスムーズに続いていた。フクロウの学生4人組が網を掴んで飛び立ち始めた。網に包まれた7人の宿泊客の体が、ゆっくりと宙に浮き始めた

 

「・・・何でこんなことに・・・本当なら今ごろ海鮮フルコースを食べてたはずなのに・・・もうマジで嫌・・・ぐうううっ、上がれえええ!」

「賭け事で得たゼニなんか結局身になんないんだって、アオバズクwwwひぃ、ひぃ」

「そ、そ、そ、そうですよ! い、い、命あっての物種ですよ! フンヌーッ」

「おお、いかなる言葉もこの状況を打開してはくれない・・・んぐぐぐっ」

 

 フクロウ達4人組は、無駄口をたたき合いながらも懸命に羽ばたいていた

 それぞれに癖のある4人であったが、共に寝起きし勉学に励み、幾度も危機を乗り越える中で本物の絆で結ばれていた

 そして、この場においても完璧に息が合っていた。4人組は交差しながらそれぞれの位置を変え網を閉じた。これで網による移送の準備は整った

 4人組は網を掴みながら飛び立ち、ゆっくりと中庭を離れようとした

 

「ねえwwwひょっとして皆サボってる? 網が動かないんだけどwww」

「ち、ち、ち、違います! 重い! 網がすごく重たくなってる!」

 

 4人が抱える網は、中庭から数メートル離れたところで動きを止めた

 それ以上はどんなに引っ張っても動かなかった。まるで下から何者かに引っ張られているような・・・

 

「・・・友人たちよ、あれを見たまえ。あれは何かの冗談かな?」

 

 メンフクロウは顎で3人に合図した。網の一部に、いつの間にか、一本の黒い触手が巻き付いていた。触手は海面から伸びていた

 触手はまるで海面に根を張っているかのように、ぴくりとも動かずに網を拘束していた

 

_____シュル・・・ガシッ・・・ガシッ・・・

 

 直後、同じような黒い触手が2本、3本と海面から飛び出し、網へと巻き付き始めた

 網の中にいる宿泊客達は、恐怖のあまり声を上げることも出来ず、ただ身を寄せ合った

 

「あれは・・・まさか!」

 

 異変に気付いたオオコノハズクが猛スピードで飛び立ち接近したが、すでに遅かった

 4人組が掴んだ網は、猛烈な力によりなすすべもなく海面へと引き寄せられた。4人組と宿泊客達は、そのまま海面に叩きつけられた

 海面から飛沫が巻き上がり、泡が立ち昇った。海面から顔を出したフレンズ達が手足をバタつかせて必死に逃げようとしているさなか、近くの海面が異様なほどに盛り上がった

 押し上げられた海水が重力に引かれ、轟音を立てて零れ落ちた。それと同時に、その中にいる存在が露わになった

 海水を割って現れたそれは、フレンズがはるかに見上げるほど巨大だった。そして体の大きさを格段に上回る体長を持っていた。体の上からは段になった直線的な突起物が現れていた。そして体の左右両端には、魚の胸鰭のような、長大な一対のヒレが伸びていた

 

「ついに現れたですね・・・! セルリアン!」

 

_____プロロロロロロロ・・・

 

 セルリアンがいなないた。無機質な、背中がざわつくような、フレンズのそれとはかけ離れた声だった。セルリアンの黒い体表が蠢いた。そして体表を裂くようにして、夥しい数の“目”が現れた。無数の無機質な目が、中庭に集まったフレンズ達を見下ろした

 

「いやぁぁぁっ!」

「たすけてぇぇ!」

 

 その場に居合わせたフレンズ達は、たちまち大混乱に陥った。フレンズ達は各々がバラバラな行動を取り始めた。中庭から海に飛び込む者、その場にうずくまって震える者、ホテル内に戻るために来た道を逆走する者・・・

 オオコノハズクとワシミミズクは、フレンズ達に必死に呼びかけた

 

「ダメなのです! 落ち着くのです!」

「後ろで一か所に固まるのです! 孤立したら奴の餌食なのです!」

 

 呼びかけに応えるものは誰もいなかった。あちこちから悲鳴が響き渡っていた

 もはや完全に指揮系統が崩壊したことを悟った。

 二人は顔を見合わせると、静かに頷きあった。自分達だけでもセルリアンに立ち向かい他のフレンズが襲われるのを阻止するしかないと思った

 オオコノハズク達は後方の状況を確認した。逃げ惑うフレンズ達の中に、身構えて立っているハツカネズミの姿を見つけた。この状況においても冷静さを失っていないのは、自分達の他には彼女ぐらいだろうと思った

 

「ハツカネズミ博士! 後の指揮はあなたが取るのです!」

「網はもう一本残っているのです!」

 

 ハツカネズミは頷いた。そして近くにいるフレンズに呼びかけ、後ろに下がらせ始めた

 セルリアンは、左右一対のヒレを威嚇するように広げた。中庭に、セルリアンが作る巨大な影が広がった。セルリアンは、広げたヒレを今にも打ち下ろさんと巨体をゆがませ、振りかぶった

 

「我々が相手になってやるです!」

 

 2人のフクロウが音もなく飛び立った。風を切りながら上昇する2枚の翼は、同じ高さで身を翻すと、セルリアンへと急降下を始めた

 2人の姿はそれぞれ“青と赤”に光る鋭い矢と化した

 

「野生解放!!」

 

_______シュバッ! ヒュンッ! バシュッ!

 

 青と赤の爪の連撃がセルリアンの体表を縫うように幾度も交差した。2人は視認できないほどのスピードで飛び回り、攻撃の軌跡だけが幾度も閃いた。攻撃はすべて命中していた

 

「くっ・・・この感触は・・・!」

 

 セルリアンの表皮は硬く、分厚かった。自分達の爪ではまるで歯が立たないことを実感させられた。二人は、過去の戦いを思い出した。フレンズの攻撃を容易には通さない堅牢な装甲、そして異様な大きさと禍々しい存在感・・・

 このセルリアンは、かつてキョウシュウで戦った“4本足”に似ていると思った。こいつが4本足に近しい存在ならば、二人で戦うには荷が重すぎる相手だ

 4本足を倒すことが出来たのは自分達だけの力ではなかった。キョウシュウに住まう頼もしいフレンズ達が総力を結集したからこそ成し得たことだった

 何より、4本足は海水を弱点としていた。海に誘導することにより無力化することが出来た。しかし、この船型巨大セルリアンはそれとはまるで違う

 こいつにとっては、海は弱点であるどころか、自分の庭場に等しいのだろう。あの時のようにはいかない・・・万にひとつの勝機もない

 ・・・だが、それでいい。セルリアンの気を引くことさえ出来ればいい・・・

 2人の攻撃に注意を逸らされたセルリアンは、振りかぶっていたヒレを元の位置に戻していた。自分達が戦っている限り、他のフレンズに危険が及ぶことはない

 オオコノハズクとワシミミズクは、セルリアンの体の上半分に当たる、段になった突起の近くを飛んでいた。この位置ならばセルリアンの胸鰭の攻撃は届きにくいはずだった。ここで敵の様子を伺い、再び攻撃に転ずるつもりだった

 

「まったく厄介な相手なのです。我々、いつも苦労ばかりなのです」

「我々、偉いから仕方がないのです、博士」

 

 いつか読んだ本に出てきた言葉のことを思い出した。優れた能力を持つ存在は、そうでない存在を守る責任がある。なんという言葉だったか・・・ワシミミズクの脳裏に一瞬そんな思考が浮かんだ

 

______ビュンッ! 

 

「おっと!」

「この触手のことを忘れていましたのです!」

 

 セルリアンは、胸鰭が届かない位置に陣取った2人のフクロウに対して、体のあちこちから生えた触手による攻撃を放ってきた。言葉を交わす余裕もなくなった2人は、お互いに背中を預け、回避に専念した

 触手の攻撃の中に間隙を見つけた2人は、攻撃の機会が巡ってきたことを確信した

 再び2人は、まったく同じタイミングで急降下を行おうとした。しかし突然、オオコノハズクの動きが急激に遅れた

 

「博士・・・!?」

 

 オオコノハズクの足首に、セルリアンの触手が巻き付いていた。オオコノハズクが触手を掴んで外そうとしても、万力のごとくびくともしなかった

 ワシミミズクは、攻撃のことも忘れて触手に近寄った

 

「博士を放すのです! 化け物!」

 

 ワシミミズクはその場で滞空しながら、オオコノハズクを掴んでいる触手に幾度も爪を浴びせた。触手は少しずつ削られ、やがて引きちぎることに成功した

 

「すまないのです、助手」

「これぐらい、なんてことは・・・・・・うっ!?」

 

 今度はワシミミズクの胴体に、幾本もの触手が巻き付き、完全に拘束していた。そのまま触手は体表へと戻り始め、ワシミミズクの体がみるみるうちにセルリアンへと引き込まれた

 

「助手! 助手ッ!」

 

 ワシミミズクの体が、セルリアンの体表へと埋まっていった。オオコノハズクはワシミミズクの手を掴むと、必死に引き上げようとした

 しかし無駄な抵抗であった。足首から腰、胴体に至るまで、ワシミミズクの体は沈んでいった

 

「もういい・・・逃げるですよ、博士」

「バカを言うなです、助手!」

「バカは博士の方です! このままでは博士まで手遅れになるです!」

 

 オオコノハズクの体も、わずかに沈み始めていた。底なし沼のような、へばりつく溶けたゴムのような体表に、足裏が埋まっていく気配を感じた

 

「早く飛び立つのです博士! 今ならまだ逃げられるですよ!」

「・・・嫌なのです・・・助手と一緒じゃないと・・・私はひとりでは何も出来ないダメなフレンズなのです・・・助手と一緒に行くのです・・・」

 

 ワシミミズクの肩から下が、セルリアンの体内に沈んでいた。ほどなくして頭まで沈みきってしまうだろう・・・ついに“元に戻る”時が訪れたことをワシミミズクは実感した

 

「助手ぅぅぅぅ!! いやぁぁぁ!! わぁぁぁっっ!!」

 

 聞いたこともないような声を上げてオオコノハズクが泣き叫んでいた

 オオコノハズクと過ごした日々の記憶が消えてしまうと思うと、ワシミミズクは寂しさとやるせなさを感じざるを得なかった

 

「ありがとう、元気で・・・」

 

 オオコノハズクと出会ったのはいつの頃だっただろう。今思えば、実りのある幸福な人生だった。こんなに充実していたのは、オオコノハズクと一緒だったからだ。最後に胸の中に去来した感情は、寂しさよりも、悲しさよりも、言葉に尽くせぬほどのオオコノハズクへの感謝だった

 そしてそれが自然に口から漏れ出ていた

 自身で発しておきながら、いつかどこかで聞いたような台詞だとワシミミズクは思った

 誰かの言葉だったのかもしれないが、今この瞬間、他の誰でもない自分自身の言葉になっているとワシミミズクは思った

 

______ガシッ・・・!!

 

「グゥゥゥゥッ・・・」

 

 観念し、静かに生を終えようとしていたワシミミズクの体を、何者かが引き止めた

 力強い両手が、ワシミミズクの襟首を掴んでいた。その手の主をワシミミズクの視点からでは見ることが出来なかったが、目の前にいる、涙に顔を腫らしたオオコノハズクが、呆然と前方を見ていた。一体、自分の後ろに何がいるのだろうとワシミミズクは思った

 

______ブチッ・・・ブチッ・・・ズリュッ・・・

 

 ワシミミズクの体が、尋常ならざる怪力によってセルリアンの体表から引き抜かれていった

 そして指一本動かすことが出来なくなっていた体が、急激に軽くなったことを感じた

 

_______ブォンッッ!!

 

 ワシミミズクは、猛スピードで視界が回転していくのを感じた。飛んでいる時よりもはるかに強い空気抵抗を全身に感じた。それでもなんとか翼をはばたかせ姿勢を整えると、自身の身に何が起こったのか確認しようとした

 つい一瞬前まで自分が埋まっていたセルリアンの体が、眼下にあった。オオコノハズクがそこに立っていた。そしてそのすぐ傍にもう1人、オオコノハズクより頭2つ分近く大きな上背が、橙色の長髪を逆立たせながら立っているのを見つけた

 ワシミミズクの視点から見えるオオコノハズクは、突然の異変を理解することが出来ず、口をぽかんと開けて狼狽していた。おそらく自分も博士と同じ顔をしているとワシミミズクは思った

 セルリアンの体に降り立ったフレンズは、両腕を振り上げ、力強くいからせた

 その手には5本の黒く禍々しいかぎ爪が生えていた。手首に巻き付いた鎖がジャラジャラと音を立てていた

 

「なんで・・・どうやってここに来たのです」

「お前がなぜここにいるのです・・・ビースト!」

 

______ウオオオオオオオオオオッッ!!

 

 海底の牢獄で拘束していたはずのビースト・・・アムールトラがそこにいた

 逃げ惑うフレンズ達の悲鳴を打ち消すような怒号が、辺りに響き渡った

 

 to be continued・・・

 




_______________Cast________________
 

哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種 
「アムールトラ」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・イヌ属 
「イエイヌ(雑種)」
鳥綱・カッコウ目・カッコウ科・ミチバシリ属 
「英名G・ロードランナー 和名オオミチバシリ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・コノハズク属 
「アフリカオオコノハズク」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・ワシミミズク属 
「ワシミミズク」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・オオミミギツネ属
「オオミミギツネ」
爬虫綱・有鱗目・クサリヘビ科・ハブ属
「ハブ」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・イノシシ科・イノシシ属
「ブタ」

哺乳綱・げっ歯目・ネズミ科・ハツカネズミ属 
「ハツカネズミ」
哺乳綱・げっ歯目・デグー科・デグー属 
「デグー」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・メガネフクロウ属 
「メガネフクロウ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・コキンメフクロウ属 
「アナホリフクロウ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・メンフクロウ属 
「メンフクロウ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・アオバズク属 
「アオバズク」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・マイルカ科・マイルカ属 
「マイルカ」
 
自立行動型ジャパリパークガイドロボット
「ラッキービーストR-TYPEーゼロワン 通称ラモリ」


四神獣・西方の守護者・白銀の御霊(オーブ)
「ビャッコ」
 
????????????????????? 
「通称ともえ」


_______________Enemies date________________


「船型巨大セルリアン(仮称)」
特殊能力:??????


_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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