けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

7 / 90
 あるトラのものがたり第7話です。
 
 ともえ達に同行し、海底の牢獄からなんとか抜け出したアムールトラ。
 突如海面から襲い来た、謎の船型巨大セルリアン。
 両者がついに相まみえる時が来た。


現代編 7 「へりぽーと」

「どうしよう・・・このままじゃ博士達が危ない!」

 

 海底の牢獄から脱出し、海面を下方に望む場所に辿りついていたともえ達はその場所から今現在ホテルに起きている状況を観察していた

 ほどなくして、ともえ達の位置からでも、海を割って現れた巨大セルリアンの存在を一目瞭然に把握することが出来た

 ホテルの入り口である中庭は、ともえ達がいる場所のはるか右下方に位置していた。そこには豆粒みたいに見えるフレンズ達が大勢ひしめいていた。しかしセルリアンの異様な大きさは、高所から見ても十分に把握することが出来た

 フレンズ達が蜘蛛の子を散らしたように大混乱に陥っている様子を見た。このままではあの場にいるフレンズ全員がセルリアンの犠牲となるのは火を見るより明らかだった

 

「何とかこっちに注意を逸らせねーかな!? いっちょオレ様が飛んで行ってあの化け物を挑発してこよーか!?」

「ねえ、それよりも、またラモリさんに光ってもらって、あのセルリアンに光を当ててみるっていうのはどう? この位置からでもすぐに届くよね?」

「わふっ、どっちにしても、都合よくこっちだけを狙ってくれるはずがないです・・・下にはあんなにたくさんのフレンズさんがいるんだから」

 

 アムールトラは、眼前で焦っている3人を後目に、胸の中で繰り返し言葉を念じた。今、自分の中には、自分ではない者の意志が宿っているのだ。その者の声を聞こうとした

 

(ビャッコ、ひとつ教えてくれ)

≪おぬしの聞きたいことはわかっておる。あの巨大な“虚無”の狙いは何かということであろう?≫

(そうだ、お前は言ったな、セルリアンに統制が取り戻されたと・・・そう断言するお前にはあのセルリアンについて、何か推測できるはずだ)

≪虚無どもを率いているのが“かつての女王”だったなら、一番最初に狙うのは、己の脅威となり得る存在・・・数多くの虚無どもを倒した不倶戴天の敵・・・つまり、今も生き延びているおぬしをおいて他にはおらぬだろうな・・・繰り返すようだが“かつての女王なら”の話じゃがのう≫

(そうか、狙いは私か・・・)

≪おぬし、どうするつもりじゃ・・・≫

(奴の狙いが私ならば、他の者を巻き込むわけにはいかない)

 

 アムールトラはそこまで聞くと、ビャッコとの声なき会話を打ち切り、今度は眼前のともえ達に声をかけた

 

「おい、聞け。今から私が奴の注意を引きつける。奴の注意を逸らして・・・あの場から引き放す・・・」

「え・・・? でも・・・どうやって・・・?」

「今から私一人で、あそこまで降りる・・・私の身体能力なら一瞬だ。お前らとはここでお別れだ。お前らは何とかして下まで降りて中庭へ辿り着き、下の連中と合流して陸へ逃げるんだ。お前らが付く頃までには、セルリアンを引き放してみせる・・・」

「待てよアムールトラよぉー、何とかして下まで降りろって言われても・・・どこからどうやって・・・」

 

 ロードランナーは、悪態を付きながら辺りを見回してみた。そして壁面にただひとつだけある、さっきから気になっていた扉を開けてみた。扉の向こうには、上にも下にもどこまでも続いてそうな螺旋状の階段が現れていた

 

「お、おー・・・ここから降りられるっぽいなー・・・」

「お前らはそこから下に降りろ。今すぐだ」

 

 ともえ達一行は、アムールトラの有無を言わさぬ硬い意志を感じ取った。そして決断の速いロードランナーは、すぐに扉の中に入っていった。それに続いてラモリも小さな歩を進めていった。ともえとイエイヌはしばしアムールトラの傍に残った

 

「せっかく一緒に行けると思ったのに、ここでお別れなの?」

「わふっ、あの・・・そんなことないですよね? きっとまた会えますよね?」

「他人のことを気にする前に、自分達が生き残ることを考えろ・・・そうだ、これを返しておく」

 

 アムールトラは、左胸にあるポケットから何かを取り出した。それは海底の牢獄でともえからプレゼントされた、白い花のブローチだった

 

「・・・ブローチ、捨てないで持っていてくれたんだね」

「ああ、お前のプレゼント、気に入ったよ・・・だが、このまま持っていると落としてしまいそうだからな」

「き、気に入ったなら、返したりしないでちゃんと受け取ってよ。ほら、こうすれば落としたりすることなんてないんだから」

 

 ともえは、アムールトラの手からブローチをひったくると、花びらの裏側にある針を取り出した。そしてアムールトラの左胸の内ポケットに差すと、針を留めて固定した

 アムールトラは無言で、自身の左胸にある白い花をしばし撫ぜた。そして誰にもわからないぐらい、わずかに口元を緩ませた

 

「わかった。受け取ろう・・・じゃあな、私はもう行くぞ」

「アムールトラさん! また会おうね! 絶対に! これで終わりだなんて・・・」

 

 アムールトラはともえの声に答えずに後ろに振り向き、そのまま飛び降りた。後ろから聞こえる声が急激に遠ざかっていった

 

______ガギギッ! ドッ・・・!

 

 アムールトラは壁面に爪を突き立て、壁面にまばらに突き出た小さなでっぱりに着地した。このホテルの壁面にはこのようなでっぱりが無数にあった。これらはおそらく客室の窓枠であると思われた

 そして、鉄に覆われた海底の牢獄と違い、このホテルの壁面には爪を突き立てることが出来た。このような条件が揃えば、垂直な壁面であっても容易に移動することが可能だ

 

 アムールトラは自分の肩ごしに、眼下の状況を確認しようとした。海面に浮上した怪物の姿は、想像以上に巨大であった。禍々しく蠢く瞳のひとつひとつに無機質な敵意が感じられた。フレンズ達の悲鳴のひとつひとつがはっきりと聞き取れた

 一番驚かされたのは、船型巨大セルリアンに抵抗する者がいたことだ。それはたった2人の鳥のフレンズだ。小さな体で必死に飛び回り、セルリアンの注意を引いていた

 おそらく、他のフレンズを守るために必死に時間を稼いでいるのだろう。だが、このままではあの2人に真っ先に危険が及ぶことは自明の理だった

 

(なんて無茶なことを・・・)

 

 アムールトラは壁に突き立てた片手を支点にして身を翻すと、もう一方の手を壁に再度突き立て、後ろを向いていた体を前方へと向けた

 飛び下りて中庭に降り立ち、セルリアンの注意を引きつける・・・アムールトラは自身の体に命令を刻み込み、それに従って動き出そうとしていた

 しかしその刹那、激しい焦燥が胸の中でざわつきはじめた

 

(もし、また私の中のビーストが目覚めてしまったら・・・下にいるフレンズ達はいったいどうなる?)

 

 交錯する敵意、途切れることのない緊迫感・・・これらの要素はすべて、己の精神をビーストへといざなう事を、アムールトラは経験則で理解していた。そのような状況は出来る限り避けたかった

 今まで片時も離れずに纏わりついていた己への恐怖心が、再びアムールトラの心で存在感を増していた

 

 アムールトラが動かずにいる間にも、船型巨大セルリアンの猛攻が2人のフクロウを襲い続けていた。2人のフクロウは、船型巨大セルリアンの体表を滑るように攻撃を繰り出しながら、真上へと回り込んでいた。しかしそこも2人にとって安全地帯などではなかった。巨体から伸びる無数の触手が2人を休む間もなく追い立てていた

 そして2人の内の1人、褐色のフクロウが無数の触手に捕らわれ、セルリアンの体表へと引きずり込まれた

 白い体のもう1人が、沈んでいく相棒の体を必死で引き止めようとしていた。しかしそれは無駄な足掻きであった。ひとつの輝きが奪われる瞬間が間もなく訪れようとしていた

 

(行くしかない・・・!)

 

 アムールトラは、恐怖で動けなくなっていた体を、がむしゃらに動かした。突き立てた爪を外し、壁を蹴って飛び出した。中庭ではなく、眼下で猛威を振るう巨大セルリアンへと一直線に落下していった

 

_______ドチャリッ・・・

 

 アムールトラが飛び下りた船型巨大セルリアンの体表は、泥の膜を張った硬いゴムのようであった。特異な感触の体によって、落下の衝撃は吸収されていた

 セルリアンの体表の上半分は、平たい突起物が段になって重なっていた。段の中ほどに着地したアムールトラの存在に、2人のフクロウはまだ気付いていなかった

 2人は、突起が生えている根本である一番広い所にいた。アムールトラは、段を駆け下りて2人の所へ向かった

 そしてアムールトラは、セルリアンの体に飲み込まれそうになっていた褐色のフクロウの体を掴んだ

 

「ッッ!!」

 

 白い体のもう一人が、弾かれたようにアムールトラの方を向いた。突如現れた闖入者を前に、驚きのあまり声をあげることも出来ない様子だった

 アムールトラはそれを無視し、両腕にあらん限りの力を込めた。セルリアンの体から褐色のフクロウを引き抜き、投げ飛ばしてその場から離脱させた

 

「そんな・・・どうやってここに来たのです」

「お前がなぜここにいるのです・・・ビースト!」

 

 褐色のフクロウは、宙へ投げ出された体を持ち直すと、再び羽ばたいてセルリアンの上空へと浮上した。白いフクロウともども、驚愕と敵意が混ざった表情でアムールトラを見た

 

「ウオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 アムールトラは、体を振るわせて出せる限りの大声を張り上げた

 その様子を警戒した白いフクロウは、すぐさま真後ろに飛び退いた。そして翼をはばたかせて上昇し、自身の相棒と合流した

 アムールトラはフクロウ達の姿を一瞥した。二人のフクロウが船型巨大セルリアンから十分に離れたことを確認すると、目の前のことに集中した

 

______ビュンッ

 

 アムールトラの頭上を、風切り音が通り抜けた。セルリアンがアムールトラの存在に気付き、触手による攻撃を仕掛けてきたのだ

 次の瞬間、鞭のようにしなる触手が四方八方から襲い来るのが分かった。アムールトラは側方から伸びてきた触手を打ち払った

 アムールトラは、船型巨大セルリアンが予想以上に恐ろしい能力を持っていることを理解した。こうして懐に入ったところで、触手によって迎撃してくるのだ。隙も死角もない相手だと思った

 

 アムールトラは触手をいなすことで手一杯になり、その場から動けずにいた。フレンズ達の中ではかなりの長身であるアムールトラでさえ、このセルリアンが相手では小虫も同然だった。アリ地獄に落ちたアリのようであった

 ほどなくして、反応し切れなかった触手の一本が、後方からアムールトラの体を打ち据えた。橙色の体が宙を舞った

 そして再びセルリアンの体表に落ちる間もなく、次の一撃がアムールトラを捉えた。衝撃で全身が打ち震えた

 

「がはっ・・・!!」

 

 アムールトラは、セルリアンの体表から叩き落された

 落下した先は、元々の目的地である中庭だった。脱出するために中庭に集まった数十人ものフレンズ達は、最初は混乱し各々が自分勝手に逃げていたが、ホテルの従業員の避難誘導によって、なんとかホテルの入り口の扉の前で固まっていた

 フレンズ達の恐怖と混乱は、落ちてきたアムールトラの姿を見て、再び火が付いたようにぶり返し始めた

 

〈な、何あの子! さっきの大きな声はあの子が出したの?〉 

〈あたし見た事ある! あれはビーストよ! 何で? 何でビーストまでここにいるの!?〉

〈もうおしまいだ・・・!〉

 

“セルリアンだけでも絶望的なのに、さらに怪物がもう一匹現れた” アムールトラはフレンズ達のざわめき声を聞き、自分の存在がそういう風に認識されたことを知った

 フレンズ達の予想通りの反応に対して、アムールトラは何の感情も沸かなかった。そういう風に思われて当然の存在であるということは自分でもよくわかっていた

 

 アムールトラは、フレンズ達のざわめきを後目に、痛む体を何とか立ち上がらせると、船型巨大セルリアンの方へ向き直った。アムールトラは、生物とも無機物ともつかぬ異形にあらためて戦慄した

 セルリアンの体表が蠢き、大小さまざまな大きさの“目”が現れた。そして、アムールトラに視線を返すかのように、白目の中の黒い瞳が一斉に動き、アムールトラを見据えた

 船型巨大セルリアンが放つ殺意は、遠目から感じた無機質な印象とは打って変わって、生々しく明確なものであるように思えた

 

______プロロロロロロ・・・!

 

 セルリアンは、どこから出しているのかもわからない咆哮を上げると、左右の胸鰭を威嚇するように広げた。アムールトラよりも何倍も大きな体が、さらに再現なく広がっていくように感じた

 アムールトラはその様子を見て、だんだんと体が熱くなっていった。煮えたぎる溶岩のような闘争心が体から湧き出てくるのを感じた。自分の口から、自分が考えてもいない言葉が出てきた

 

「・・・じょう・・とう・・・だ・・・か、かって・・・こい・・・」

 

 熱くて、熱くて、この熱を誰かにぶつけなければ居ても立っても居られないと、アムールトラは感じた。自分自身に纏わりつく恐怖は、いつの間にか戦いへの渇望にすり替わっていた。それは恐怖と同等か、それ以上に、あらがうことが難しい感情だった

 

「・・・ろしてやる・・・殺して・・・やる・・・バラ、バラに・・・引き裂いてやる・・・」

 

 うわ言のように暴力的な言葉をつぶやくたび、アムールトラの心が麻痺していった。それらの言葉はいつの間にか、自分の心からのものであるように思えた

 アムールトラは両腕をいからせて、戦いの構えを取った

 

≪うつけ者が! 冷静になるのじゃ! おぬしは己自身で言うとったであろう・・・虚無をここから引き離すと! おぬしの目的は戦いではない・・・陽動じゃ!≫

 

 ビャッコの大声が頭の中で鳴り響いた。しかし内容を聞き取ることは出来なかった。いよいよ体がビーストに乗っ取られる、自分の心が消えていく、とアムールトラは思った

 

≪このままでは誰も助からぬぞ! ともえ達もじゃ! おぬしはそれでもよいのか!≫

「・・・と、もえ・・・?」

 

 その言葉だけがやっと聞き取れた。その言葉は、意識の大穴の中へ転げ落ちていくアムールトラの心に引っ掛かり、繋ぎ止めた。そうだ、こんなことをしている場合ではない・・・

 アムールトラは両手で頭を抱え込んだ。そして、溢れ出るビーストの意志を押さえつけるかのように、頭蓋を圧迫した

 

「グゥゥオオオオオッッ!!」

 

______キシッ・・・キシッ・・・!

 

 アムールトラの額を鮮血が伝った。ぼんやりと泳いでいた瞳に光が戻った。己が己に与えた激痛によって、アムールトラの意識はギリギリのところで現実に引き戻された

 

≪戻ってきおったか・・・≫ 

「・・・・・・すまない・・・ビャッコ・・・私はなんてことを・・・」

≪詮無きことじゃ・・・さあ、一刻も早くこの場から動くとしようぞ≫

 

 今この場においては、何とかビーストを押さえつけることに成功したが、戦いを求める熱気が依然ヒリヒリと五体から発せられていた

 アムールトラは踵を返し、海に面する場所の反対側であるホテルの入り口側へと走りだした

 全速力で自分達の方へ向かって駆けてくるビースト、アムールトラの姿を目にしたフレンズ達は、阿鼻叫喚の悲鳴をあげた

 

______ダァンッ

 

「いやあああ!! ・・・えっ?」

 

 フレンズ達の目の前から、アムールトラが突然姿を消したように見えた。しかし動体視力に優れるフレンズの一人が、すぐにアムールトラを発見した

 

「ビーストは上よ! 上の壁! ほら、あそこ!」

 

 アムールトラは中庭から飛び上がり、再び垂直な壁面に爪を突き立てて貼り付いていた。手近にある、壁面から突き出た窓枠に足を乗せると、次に行けそうな足場を見定めた。そしてさらに隣の窓枠へと飛び移った

 動きながら、船型巨大セルリアンの出方を観察した。アムールトラが狙いであるなら、アムールトラを追跡するために中庭から離れるはずだった。そのまま中庭から出来るだけセルリアンを遠ざけることがアムールトラの狙いだった

 見たところ、セルリアンはまだ動いていなかった

 しかし、セルリアンの様子がおかしいことにアムールトラは気付いた

 

(あれは・・・あれは一体何なんだ?)

 

 船型巨大セルリアンの黒い体表が、沸騰した湯のようにブクブクと泡立ち始めた

 そのまま体の輪郭が歪み、泥のように溶けだしたかと思うと、その巨体が一回り、二回り、どんどんと縮んでいった

 左右一対の胸鰭も、芯を失った蝋燭のようにグズグズと溶け落ちて、体の中心に垂れていった。そしてセルリアンの体は、ゆっくりと海面に沈んでいった

 セルリアンはここから離れるつもりなのか? それとも何かの原因で動けなくなったのか? アムールトラは必死に考えを巡らした

 セルリアンの体は海面へ沈みきり、その位置からは泡だけが立ち昇った

 

≪気を付けよアムールトラ・・・何か非常にまずい予感がしよるわ≫

 

______グバァァァッッ!! 

 

 泡の中から、黒い触手が次々と飛び出した。1本、2本、3本・・・合計8本、左右4対の触手だった。いや、それは触手などではなかった

 触手よりもはるかに強靭で長大な、芯の通った8本の足が海面から生えていた

 

______ズズズズッッ・・・

 

 8本足に持ち上げられるように、セルリアンの体が海面を割って姿を現し、さらに海面を越えて宙へと浮き上がった。8本の強靭な足がセルリアンの体を完全に支えていた

 セルリアンの姿は、今までの“船”とは別の形に変わっていた

 その体は、ついさっきまでの船の姿の半分程度の大きさしかなかった。扁平な船の姿とは打って変わって、台形の上半身と楕円形の下半身に分かれており、その間が細くくびれ、8本の足を台形の上半身から放射状に生やしていた。胴体が小さくなった分、その容積が足に回されたものと思われた 

 

 セルリアンは、長大な8本の足を上下左右、波打つように動かしながら前進した

 やがて、一番手前にある一対の前足をホテルの壁面に突き刺した。それに続くように、一本、また一本と、足を壁にめり込ませていった

 そして、足に合わせるようにして胴体が向きを変えた。海面から、ホテルの壁面へ、直角に90度の方向転換を果たした

 8本の足がすべて壁面に突き刺され、巨体が垂直な壁面をよじ登りはじめた。セルリアンは再び、アムールトラへと肉迫しようとしていた

 

≪2つの姿を持つ虚無・・・厄介極まりない相手じゃ・・・用心せよ≫

 

 ビャッコに言われるまでもなく、アムールトラは相対した怪物に全神経を集中した。アムールトラが当初考えていたのは、横方向へ逃げることだった

 セルリアンが“船の姿”のままであれば、海面に浮いたまま、壁伝いに横方向へアムールトラを追跡するしかなかったはずだった。しかし、セルリアンは“8本足”へと変貌を遂げた。壁すらもよじ登ってアムールトラに追いすがってきた

 もう、横へ逃げた所で意味はない。上だ、ともかく上へ逃げるんだ、アムールトラは咄嗟に判断すると、斜め上方向にある窓枠を見据えた

 幸いに、8本足が壁を登るスピードはそれほど速くなかった。これならアムールトラが追い付かれることはない

 このまま上へ上へと逃げれば、当初の予定と同じく、セルリアンを引き放すことが出来るはずだ・・・

 

 アムールトラは、窓枠から窓枠へ飛び移り、壁面に爪を突き立てながら上に進んだ

 そして、8本足はそれを一歩一歩確実に追跡していた。足を壁面に突き刺し、破壊しながら、ゆっくりと、しかし大股な一歩で壁を登っていった

 アムールトラははるか上を眺めた。壁面はまだ続いていた。しかし、その先は立ち込める霧によって視認することができなかった

 

 このホテルがどんなに巨大であったとしても、天にまで届くわけではない。いずれ登り切るはずだった。では、登り切った先には何があるのだろう?

 このホテルは遠い昔、ヒトの作った建物のはずだ・・・それならば・・・と、アムールトラはあやふやな記憶を掘り起こした

 ヒトの作った建物は、自然に生えている樹木とは異なり、平たい段を積み重ねたような構造をしているはずであると、うっすら記憶に残っていた

 登り切った先にある物・・・それは積み重なった段の一番上だ。つまり、開けた平らな地形があるはずなのだ。そう推測した結果、アムールトラは一つの考えに思い至った

 

 このままセルリアンを建物の一番上に誘導すれば、こちらも存分に動ける平らな地形でセルリアンを迎え撃つことが出来る・・・一対一でセルリアンと戦うことが出来る

 今この状況において、建物の一番上に近寄るフレンズなどいないはずだ。つまり、誰にも危害が及ばない。たとえアムールトラが何をしたとしても・・・

 考えをまとめたアムールトラは、再び壁面を登り進むことに集中した。8本足が壁を這いずる音、そして震動をすぐ後ろに感じながら・・・

 

(そうだ・・・私を追ってこい・・・化け物同士、最後までお前に付き合ってやる)

 

____________________________________________

 

 

 中庭にいた数十人のフレンズ達は、一様にホテルの壁の上を眺めていた

 壁をよじ登るビースト、それを追う8本足のセルリアン・・・二つの影が、みるみる遠ざかり、そして立ち込める霧に覆い隠されて見えなくなっていった

 フレンズ達は、つい先ほどまで命の危険すら感じる恐怖に晒されていた

 しかし、それらは突然に去っていった。誰もが、目の前で起こったことをスムーズに受け止めることが出来ず、ただ呆然と立ち尽くしていた

 オオコノハズクとワシミミズクが、ゆっくりと地面に降り立った。その姿を見つけたハツカネズミは2人に声をかけた

 

「・・・・・・お二人とも・・・ご無事で何よりです・・・」

「・・・かなり危ない所だったです」

 

 2人のフクロウは、肩で息をしていた。ハツカネズミは2人の疲労を慮った。あんな恐ろしいセルリアンにたった2人で立ち向かい、あまつさえワシミミズクの方は“元に戻る”一歩手前まで追い詰められたのだ

 ハツカネズミは、海に面する階段の方を見た。そこには、セルリアンに海に引きずり込まれたフクロウの学生4人組と、網で運ばれようとしていた最初の7人が、水浸しの体でへたり込んでいる姿があった。どうやら運よく難を逃れたようだった

 見た所、犠牲者は一人も出ていなかった。ハツカネズミはそっと胸をなでおろすと、思考を切り替え、周囲に訴えかけた

 

「・・・・・・ともかく・・・セルリアンは去りました・・・海面の安全が確保されました・・・船を使いましょう・・・船頭の皆さんは・・・この近くにある船を動かして中庭に接舷してください・・・」

 

 ハツカネズミは人ごみの中にいる船頭達に声をかけた。リーダー格のマイルカはハツカネズミの声に反応しつつも、黙って動かなかった。隣のミンククジラは俯いて黙っていた。そして残り2人、スナメリとゴマフアザラシは、あろうことか、地面に突っ伏して大声で泣いていた

 

「・・・・・・なぜ泣いているのですか・・・? ・・・わけを話してください・・・」

「う、うちたちが、みんなうちたちがわるいの! セルリアンがやってきたのは、うちたちのせいなの! ・・・うっ・・・うっ・・・うああ・・・」

「おいら・・・おいら・・・もう一生ハッピーな気持ちになれないよぉ」

 

 2人は泣きじゃくりながら、嗚咽を飲み込みながら答えた。そして、冷静ではあったが顔色の悪いマイルカが、それに付け加えるように説明した

 

「・・・つい今日の朝なんだけど、あたし達、ロードランナーと一緒に“青く光る球”を探しに行ったんだ・・・その時、あの“船のセルリアン”に出くわしたんだ。その時は、あたし達はあのセルリアンには見つかってないと思ってた・・・でもやっぱり、見つかってたんだ・・・だから・・・だから、あの化け物はこのホテルにやってきたんだ・・・!」

 

「何それ? アンタ達のせいなの!?」

「こんなことになって・・・どうしてくれんのよ!」

 

 宿泊客達からの非難が轟轟と上がった。マイルカ達4人は釈明する言葉もなく、ただ俯いて耐えていた

 危機から逃れるためにまとまっていた皆の心が、今また簡単に崩れ去ろうとしている様子を目にした

 

「お、お客様! 今は言い争っても仕方ありませんわ!」

「うるさいっ! あたしが住処に帰れなかったらアンタ達のせいだ!」

 

 オオミミギツネら従業員が何とか宿泊客をなだめようとしたが、誰も聞き入れはしなかった

 ハツカネズミは静かに決意した。皆が一つにまとまるために、今こそ自分が知り得たことをすべて話さなければならない、と。たとえそれがどんなに恐ろしいことであっても・・・

 

「・・・・・・いいえ・・・マイルカさん達のせいではありませんよ・・・・・・皆さん・・・よく聞いてください・・・あのセルリアンがどうしてここに来たのか・・・私は知っています・・・」

 

 宿泊客のフレンズ達は一様に、唖然とした表情でハツカネズミを見た。そして、ハツカネズミの一挙一動に注目をはじめた

 視線が自分へと向けられるのを確認し、ハツカネズミはゆっくりと語りはじめた

 

「・・・・・・あのセルリアンは・・・最初からこのホテルのことを知っていました・・・そして・・・私達のことなど・・・最初から相手にすらしていません・・・あのセルリアンの目的は・・・ビーストただ一人です・・・あの化け物は・・・ビーストを捕食する最良のタイミングを見極めて・・・ここに姿を現したんですよ・・・」

「適当なこと言わないでよ! セルリアンがそんなに色々考えたり出来るもんか!」

「・・・・・・そうです・・・セルリアンが自分で考えているわけではありません・・・あのセルリアンは・・・ある一人のフレンズに操られています・・・」

「ハツカネズミ博士っ・・・!」

 

 オオコノハズクが、その先を言わせまいと声を荒げた。しかしハツカネズミはそれを無視して話し続けた

 

「・・・・・・すべては・・・そのフレンズが引き起こしたことです・・・そのフレンズは・・・自分のことを“園長”と言いました・・・園長が何のけものなのかはわかりません・・・ですが・・・セルリアンを操って何かをしようとしていることだけは間違いないようです・・・皆さんは・・・セルリアンの異常な動きに心当たりはありませんか・・・?」

 

 ハツカネズミの突拍子もない話に、宿泊客のフレンズ達は一様に腑に落ちない表情をしながらざわめいていた。しかしその中に一人、青ざめた表情で自分の頭を抑えるフレンズがいた。そのフレンズは大声で語り出した

 

「ねえ・・・聞いて・・・! あたしの住処・・・あたしは今まで“フラノ”っていう所に住んでいたの。そこは大きな湖と、たくさんの花と木があって、今までずっと平和だったの。でも、少し前に、何匹ものセルリアンが襲ってきたの・・・まるで嵐みたいだった。もしかして、それってあなたの言う“園長”のせいなの!?」

「・・・・・・その可能性はあります・・・ともかく用心してください・・・皆さんが今やるべきこと・・・それは・・・ここから生きてそれぞれの住処に帰ること・・・そして・・・住処に戻ったら・・・共に暮らすフレンズさん達に伝えてください・・・今日起こった出来事を・・・“園長に気を付けろ”・・・と・・・」

 

 ハツカネズミはすべてを言い切った。宿泊客のフレンズ達は、それぞれの“住処”に思いを馳せていた様子であった。そして、ともかくこの場から早く逃れようという意見でまとまった。そしてマイルカ達への非難を取りやめ、押し黙った

 

 マイルカは、その場にへたりこんで泣きはらしているスナメリとゴマフアザラシをなんとか立ち上がらせた。4人の船頭達は、肩を落としながらも歩きだし、船を取りに行くために海へ飛び下りていった

 中庭に残されたフレンズ達は、霧が立ち込める薄暗い海面を眺めながら、船頭達が戻ってくるのをじっと待った。宿泊客のフレンズ達は何も話さなかったが、命の危機を脱したことで、その表情は幾分か落ち着き、明るくなっていた

 

 安堵するフレンズ達を後目に、オオコノハズクとワシミミズクは、先ほどよりも明らかに意気消沈した様子だった

 2人は“園長がセルリアンを操っている”というハツカネズミの主張を、最初は妄想であると切り捨てた

 しかし、あまりにも状況証拠が出そろってしまった現状においては、もはや妄想ではなく真実であると認めざるを得ない、しかし認めたくない・・・2人はそんな感情の板挟みに苦しんでいる様子であった

 ハツカネズミは、オオコノハズクとワシミミズクの賢さ、勇敢さ、統率力に、尊敬の念すら抱いていた。しかしそんな2人でさえ、園長のこととなると、これほどまでに判断が鈍ってしまう・・・そのことに戦慄を憶えざるを得なかった。園長と名乗る謎のフレンズの影響力は、それほどのものなのか・・・

 

「・・・・・・それにしても・・・なぜビーストが中庭に現れたのだと思いますか・・・?」とハツカネズミは、2人のフクロウに気を遣ってか、別の話題を切り出した

 

 3人は、自分達が見た事を冷静に思い起こし、共有しようとした

オオコノハズク達がセルリアンと戦っている最中、いつの間にかセルリアンの体の上にビーストが飛び乗っていた

 ビーストは、セルリアンに飲み込まれそうになったワシミミズクを引き抜いて投げ飛ばした。明らかに、ワシミミズクの命を救おうとしたとしか思えない行動だった

 そして、中庭に姿を現した後も、フレンズ達に一切の危害を加えることなく、速やかにその場から離れていった。ビーストの行動の意図はわからなかった。しかし結果だけ見れば、ビーストはセルリアンからフレンズ達の危機を救ってくれたのだ

 

 もう一つの疑問は、どうやって海底の牢獄から抜け出したのかということだ。上から現れたのだとしたら、出入り口は一つしかない。しかしそこは、たった一人で出られるような場所じゃない。ビーストが、いかに驚異的な肉体を持っていようともそれは不可能だ

 3人はしばし黙り込み、考え込んでいたが、ほぼ同時にある考えに思い至り、驚嘆の声をあげた。その声に、近くにいるフレンズ達が驚いて振り返った

 

「ともえ達が絡んでいるです!」

「ですね、博士・・・!」

「・・・・・・ともえさん達・・・ビーストと協力してあそこから脱出したのですね・・・ビーストと心を通わせることが出来たのですね・・・」

 

_______ザザァァァァ・・・ガゴンッ・・・

 

 3人が会話に集中していると、ほどなくして霧の中から船が姿を現した。2隻の木造船だ。船は中庭から海面まで下りた石畳の階段を、左右から挟み込むようにして接舷していた

 左右それぞれの船体から2人のフレンズが姿を現した。スナメリとゴマフアザラシだ

 2人は両手に縦に細長い物体を抱えていた。それは木製の梯子だった。2人は梯子を、船体に立てかけるようにしながら石畳みの階段に下ろし、即席のタラップとした

 右の船の船尾にいるマイルカが、中庭のフレンズ達に呼びかけた

 

「さあ! 梯子を登って! 一人ずつゆっくりとだよ!」

 

 フレンズ達は落ち着いて左右二列に並び、一人、また一人、着実に梯子を登り始めていた

 ハツカネズミも、フレンズ達が作る列の最後尾に並ぼうと歩き出した。ふと後ろを振り返ると、オオコノハズクとワシミミズクの二人は、先ほどから一歩も動かずに中庭に佇んでいた

 

「・・・・・・お二人とも・・・どうしました・・・? ・・・ここから逃げないのですか・・・?」

「我々、やることが出来たので、ここに残るです」

「・・・・・・ともえさん達を助けに行くつもりですか・・・?」

 

 2人のフクロウは、先ほどまでとは打って変わって活気を取り戻していた。一見無表情に見える大きな瞳が、使命感と決意に燃えている・・・ハツカネズミにはそんなふうに見えた

 

「あの時は状況が状況だったから置いていくしかなかったですが、賢くて優しい我々は、誰かを見捨てるようなことは基本的にしないのです・・・では、行くですよ、助手」

「ええ、博士・・・善は急げなのです。そして、ハツカネズミ博士、後のことはまかせたですよ、ここにいる皆が無事に避難できるように、あなたが指揮を執るですよ」

「・・・・・・あっ! ・・・待って・・・!」

 

 2人のフクロウが、音もなく中庭から飛び立った。小さな2つの影は、壁面に沿って垂直に上昇していった。そしてみるみるうちに霧の中に吸い込まれ、見えなくなっていった

 ハツカネズミは、霧の向こうに消えていった2人のフクロウに、もはや届かないとわかっていながらも声をかけた

 

「・・・・・・どうか・・・どうか無事に帰ってきてください・・・!」

 

_________________________________________

 

 

______ガッ! スタッ

 

 アムールトラは、8本足のセルリアンをだいぶ引き離したまま壁面を登り切り、その先に降り立った。予測していた通りの平らな地形がそこにはあった

 ほどなくして到着するであろう8本足を迎え撃つために、アムールトラは目を凝らし、地形を観察した。立ち込める霧で辺りがぼやけており、全体をはっきりと視認することは出来なかったが、ホテルの巨大さを考えると、ここも相当の広さがあると思われた

 思い切り走り、跳ね回ったりしたところで、何の問題もない・・・存分に戦うことが出来る・・・とアムールトラは確信した

 平らな中央部を、一段下がった高さの外縁部が囲んでいた。外縁部の先端には、巨大な海生哺乳類の頭部がかたどられていた。アムールトラがいる場所からは先端しか確認できなかった

 アムールトラは、地形の一番中央へと近寄った。中央の地面には、大きな二本の縦線と、その真ん中に走る横線が、白い塗料で引かれていた。その線の意味はよくわからなかったが、特に興味も沸かなかった

 さらに後端の方へ視線をやった。海生哺乳類の背びれをかたどったと思われる三角形の突起が地面にそびえ立っていた。その突起の根本には、出入り口と思われるドアがあった

 アムールトラはその場所を見て驚愕した。よく見ると、ドアが開け放たれており、そのすぐ近くに3人のフレンズの姿を見たからだ

 

「何故だ・・・! 何故お前らがここにいる・・・!」

 

 ともえ、イエイヌ、ロードランナー・・・3人は、アムールトラの声のする方向へと、弾かれたように向き直った

 

「あ・・・アムールトラさん!?」

「お前らは下に向かったのではなかったのか・・・?」

「聞いて・・・あたし達、下に行く事は出来なかったの」

 

 ともえの口から、アムールトラと別れてからの事が語られた。3人と、そしてラモリは、螺旋状の階段を駆け下りていたが、ある所まで降りると、階段が崩れ落ちており、そこから先に降りることは叶わなかった

 その時、3人はラモリからある指示を受けた。“階段を登り、建物の一番上へ行け”という指示だ

 そしてラモリはこうも言った。“脱出の手段を用意して3人を迎えに行く”と。直後、ラモリはとんでもない行動を取った。自ら崩れ落ちた階段の先へと飛び込み、落ちていったのだ

 ラモリが何をするつもりなのか、3人は皆目見当がつかなかった。しかし、ラモリのことを信じていた3人は、とにもかくにも階段を登ることにした。そうしてここへ辿り着いたのだ

 

「ねえ、アムールトラさん、それで・・・下にいたセルリアンはどうなったの?」

「・・・・・・。」アムールトラはともえの質問を無視した。答えなくても、嫌でもすぐにわかることだからだ

 

_______ガシィンッ・・・ガシィンッ・・・ベキィッ!!

 

 ともえ達の視線の先、屋上の淵に、黒く長大な足が先端を覗かせた。足先が1本、2本・・・次々と屋上を踏みしめた。それに持ち上げられるように、上半身と下半身でくびれた異形の存在が屋上に姿を現した

 黒い体のあちこちで見開かれた瞳がせわしなく蠢いていた。やがて、たくさんの瞳はある一点を見据え、ピタリと動きを止めた

 

「お、おいアムールトラよぉー! あのキモいのはどこから湧いて出たんだよー!? 船の化け物はどこ行った!?」とロードランナーが目を白黒させながら怒鳴った

 

「“あれ”が、それだ・・・奴は姿を変えた」

「・・・んだとぉー? そ、そんなんありかよ・・・」

 

 セルリアンの8本の足が、すべて屋上に上がった。放射状に広がる足を、前から順番にゆっくりと踏みしめ、まっすぐに前進を始めた

 セルリアンの異容を見たともえ達は狼狽した・・・だが、それで逃げ出すようなことはなかった。互いの顔を見合わせると、呼吸を合わせるようにして向き直り、身構えた。その様子を見たアムールトラは、一層絶望的な気持ちになった

 

「早く逃げろ・・・あれはお前らがどうこうできる相手じゃない。命が惜しいなら、あれに近づくな・・・」

「一緒に戦いましょう・・・きっと大丈夫です。ともえさんも、ロードランナーさんも、わたしも・・・これでも、結構セルリアンとは戦い慣れてるんですよ!」とイエイヌが元気づけるような優しい声で返した

「お前らがいたら・・・私は戦えないんだ・・・! さっさとここから失せろ・・・!」と、アムールトラは顔を伏せたまま、拒絶の怒声を上げた

 ともえは、アムールトラの様子から、彼女がこれから何をするつもりなのかを悟った

 

「ビーストになって、あのセルリアンと戦うつもりなんだね・・・だから、あたし達を巻き込まないためにそんなことを言うんだね・・・」 

「・・・好きでビーストに戻るんじゃない。戦うことで、私の中のビーストが目を覚ますんだ・・・私はそれに逆らうことができない。どうしようもないんだ・・・」

「なんとかして、アムールトラさんのままでいられるように頑張ってみようよ。あたし達も協力するよ・・・みんなでここを出ようよ!」

「無理だ・・・お前らとはここまでだ」

 

「無理なんかじゃない! あたしは絶対にアムールトラさんのことをあきらめない! ここでお別れなんていやだ!」

 

 ともえはアムールトラの胸倉を掴んで怒鳴った。普段はめったに声を荒げることなどないともえの気迫に、イエイヌとロードランナーは唖然とした 

 アムールトラは間近でともえの顔を見た。見開かられた緑と赤の瞳から透明な雫が滲んでいた

 この目は見覚えがある、とアムールトラは思った。嫌悪も恐怖もない、ひたすらに、自分と対話しようとする強い意志を持った目だ

 

≪のう・・・出来る出来ないの話はさておき、おぬし自身は何がやりたいのじゃ? このままビーストであり続けることがおぬしの望みか?≫とビャッコの問い詰める声がアムールトラの頭の中に響いた

 

(私は・・・変わりたい・・・怪物ではなく、誰かを守るために闘う戦士に戻りたい)

 

 アムールトラは答えた。それでもなお、そんなことが出来るわけない、と否定的な思考が頭の中で反響していた。自分のことを信じられなくなったアムールトラには、すべての可能性が閉ざされているように思えた

 再びともえのまっすぐな目を見た。自分と違って、ともえは可能性を信じていると思った。可能性を信じる心に基づいて行動し、そしてビーストであった自分と今こうして和解を果たしてみせたのだ

 

(そうか、信じることからすべてが始まるんだな・・・)

「わかった・・・なんとか、私自身のまま戦ってみせる・・・」とアムールトラはつぶやきながら、自分の胸倉を掴むともえの両腕に触れた

 その言葉を聞いてともえの表情がにわかに明るくなり、アムールトラを掴んだ手を放した。アムールトラは言葉をつづけた

 

「ともえ、イエイヌ、ロードランナー・・・お前らに、頼みがある」

「何でも言って!」「わふっ!」「もったいぶんなよー!」3人は息を飲んで頷いた

 

「見ていてくれ。私のことを信じて、この戦いを見届けてくれ」

「えっ・・・?」

「さあ、下がれ・・・! 奴が危険なのは本当だ! お前らは手を出すな!」

 

 アムールトラはひとしきり思いを告げると振り返った。8本足の怪物の影は、すでにアムールトラの頭上にまで伸びていた。アムールトラは背後にいる3人を庇うように両腕を広げ身構えた

 

 to be continued・・・

 




_______________Cast________________
 

哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種 
「アムールトラ」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・イヌ属 
「イエイヌ(雑種)」
鳥綱・カッコウ目・カッコウ科・ミチバシリ属 
「英名G・ロードランナー 和名オオミチバシリ」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・コノハズク属 
「アフリカオオコノハズク」
鳥綱・フクロウ目・フクロウ科・ワシミミズク属 
「ワシミミズク」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・オオミミギツネ属
「オオミミギツネ」


哺乳綱・げっ歯目・ネズミ科・ハツカネズミ属 
「ハツカネズミ」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・マイルカ科・マイルカ属 
「マイルカ」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・ナガスクジラ科・ナガスクジラ属 
「ミンククジラ」
哺乳綱・クジラ偶蹄目・ネズミイルカ科・スナメリ属 
「スナメリ」
哺乳綱・ネコ目・アザラシ科・ゴマフアザラシ属 
「ゴマフアザラシ」 

自立行動型ジャパリパークガイドロボット
「ラッキービーストR-TYPEーゼロワン 通称ラモリ」

四神獣・西方の守護者・白銀の御霊(オーブ)
「ビャッコ」
 
????????????????????? 
「通称ともえ」

_______________Enemies date________________


「船型巨大セルリアン、8本足(仮称)」
特殊能力:2つの姿に変身する(「船型」「蜘蛛型」)


_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。