けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

71 / 90
過去編終章34 「あおぞらへのいし」

 

「この男、あんな状態から生き返るとは・・・・・・奇跡としか思えん」

「だが酷い状態であることには変わりない。早く運ぼう」

 

 ジフィ大佐たちは突然息を吹き返したヒグラシ所長に慌てふためきながらも、てきぱきと応急処置を施した。

 あちこちに止血包帯が巻かれ、口元に携帯型の酸素マスクが当てられた所長は、将官たちの中でも最も体格の良い男が背負うことになった。

 所長の浅かった呼吸が心なしか穏やかになってきている。

 

「・・・・・・」

 メリノヒツジは泣きはらした顔をぬぐいながらも、だんだんと表情に険しさを取り戻していた。涙と一緒に自分の弱さをも拭い去って、再び冷酷な戦士に戻ろうと努めているように思える。

 

「メリノ、これでアムールトラに借りが出来たなァ」

「・・・・・・え?」

「アイツがヒグラシを蘇らせたんだぜ。たぶんだけど、二つ目の”先にある力”を使ってな」

 

 クズリが後ろからメリノヒツジの肩を叩き、私に横目で視線をやりながら告げる。メリノヒツジも驚いた顔でそれに倣った。

 ・・・・・・クズリの観察眼はさすがだ。

 私の技のことは知らなくても、所長を救うために行動を起こしたことだけは事前に見抜いてしまっていたのだろう。

 

「アムールトラ、お前は・・・・・・」

 メリノヒツジは無言のまま私のほうに向きなおって、神妙な表情で目を細めた。

 弁の立つ彼女には珍しく言葉が見つからない様子だ。

 私に対して素直に礼を言ったりするような気持ちにはなれないんだろう。かといってこれまでのように冷徹な態度を貫き続けることにも葛藤が芽生えているように見える。

 

「さあ、出発するぞ」

 ジフィ大佐が懐中電灯を暗闇に向けながら号令をかける。

 いまだ意識が戻らず重傷を負っているヒグラシ所長を連れて戦うことは出来ないので、とりあえずファインマン氏がいるマザーユニットへ戻ろうという流れになった。

 ハツカネズミの証言が正しいならば、ここに所長以外のヒトはいないはず。

 所長をマザーユニットに匿ったのちに、カコさんの探索を一からやり直すしかないだろう。

 

 そんな見解で場が一致し、クズリがこじ開けた通り穴の方へ向き直る。

 ・・・・・・思えばこの部屋の間取りは不自然極まりない。

 私たちが今いるこの区画はイヴ・ヴェスパーの私設ラボだという話だった。

 確かにこの部屋以外は研究室らしき様相の設備の部屋が続いていた。

 だがヒグラシ所長が倒れていたこの部屋は、一切物が置かれてない四角い箱の中に等しいような空間で、照明すら一つとして存在していない。

 

「・・・・・・待て、おかしいぞ」

 ジフィ大佐たちが向ける懐中電灯の光が、壁に突き当たって行き止まる。

 たとえ明かりのない部屋であっても、通り穴からは多少の光が漏れ出ていた。だから一目で目に付くはずだった。

 だが、穴はいつの間にか消失してしまっており、部屋が完全な密閉空間と化しているのだ。

 

 スターオブシャヘルは変幻自在の要塞。壁や床が現れたり消えたりすることは当然のことだ。しかしそれは言うまでもなく、要塞をコントロールする者の意志が介在しているはずであり・・・・・・

 この事実が意味することは一つしかない。敵がこちらを補足しているんだ。そして間もなく攻撃を仕掛けてくる。

 

「穴なんかもう一回開けりゃいいんだろうが!」

 

 肌を刺す危険な予感に誰もが息を飲むなか、ただ一人恐れ知らずのクズリが前に躍り出て、壁のそばで異形の右腕を振りかぶった。

 正しい判断だ。この密室に長居し続けるべきじゃない。いっこくも早く出るべきだろう・・・・・・

 

 だがクズリの背後に、とつじょ忍び寄るようにして接近する姿が見えた。

 白く小柄な体躯・・・・・・ネズミのハイブリッドと呼ばれたあの子だ。

_______ザキュッッ!

「なんだァッ・・・・・・!?」

「く、クズリさんッ!」

 ハイブリッドはクズリの背中目掛けて、迷いのない手つきで手刀を繰り出し、いとも簡単に刺し貫いてみせた。

 

 不意の強烈な一撃をまともに食らったクズリが、腹部から大出血しながら膝を付いた。

 きっとその場にいる誰もが目を疑ったことだろう。

 私もクズリも敵の殺気を事前に読むことは出来る・・・・・・だがそれは敵だと認識し注意を向けている相手だけだ。

 無垢で憐れなこの子が敵だなんて予想すらできなかった。

 私たちに近づいてきたのは演技だったというのか? あの恐怖に震えた青白い顔が演技だったとは到底思えないのだったが・・・・・・

 

「コイツは敵だっ!」

 将官たちの手に握られた懐中電灯が、ハイブリッドを補足せんと一斉に動き出す。しかし彼女はそれを素早い動きで躱し、音もなく闇に紛れてしまった。

 彼女はネズミの一種という話だった。それならば納得のすばしっこさと言ったところだろうか。

「銃は撃つなッ!」とジフィ大佐があわてて声を張り上げる。このような狭い空間で銃を撃てば、跳弾によってたちまち自分たちに危害が及ぶからだ。

 

「・・・・・・クソッ、殺してやる!」

 メリノヒツジが憎々し気に毒づく。クズリを傷つけられたことに対する怒りに燃えている。

 だが彼女も大佐たちと同じく動くに動けない状況のはずだ。

 草食獣である彼女はきっと夜目が利かない。暗闇に紛れる相手を見つけることからして難しいだろう。

 槍などのリーチに優れた武器を生成して戦う戦闘スタイルも裏目に出てしまう。下手に攻撃すれば味方を巻き込む恐れがあるからだ。

 

(ここは私が!)

 

 集中力を研ぎ澄ませたことによって、ほどなくして闇に紛れるハイブリッドの”意”を察知することが出来た。夜目がそれに遅れる形で彼女の姿をうっすら写し出す。

 ・・・・・・彼女は天井に張り付きながら移動していた。ごくごく僅かな音を立てながら行われるその動きには、私以外の誰も気付いてはいない。

 

 やがてハイブリッドは動きを止めた。

 ちょうどメリノヒツジの真上の天井に陣取りながら、片手だけ天井から離して振り返り見下ろしている。

 メリノヒツジを標的に定めて、必殺の一撃を狙っているのが明らかにわかる動きだ。 

 

 ほどなくして白い子は鋭い矢のような殺気を下に向かって伝わらせると、それをなぞるようにして飛び降りてきた。

 ・・・・・・予想通りのタイミングだ。あれなら捕まえられる。

 

_______ブォンッ!

 横から飛び出してハイブリッドの白い体をかっさらう。

 2人してもんどり打つように地面に転がると、彼女が再び動き出すことがないように力強く羽交い絞めにした。

「ああっ! わああああっ!」

 私から逃れようとハイブリッドが奇声を上げながら激しくもがく。小柄であるはずの体からは信じられない程の力で手足をバタつかせている。

 

「し、シベリアン、よくやった!」

 騒ぎを察知して仲間たちが懐中電灯を向けた。私の腕の中で暴れる白い体に光が集まってくる。

 

「死ねよ」

「待て、まだ殺すな!」

 

 メリノヒツジが槍の切っ先をハイブリッドの眼前へと突きつける。

 だがジフィ大佐が何か気付いたような声色でメリノヒツジを制止し、白い子の顔をまじまじと観察した。

 

「目まぐるしく動く血走った眼球、開ききった瞳孔・・・・・・まるで薬物中毒者のようだ」

 

 どう見たって正気の顔をしていない、というのがジフィ大佐の見立てだった。

 ハイブリッドは今もなお叫びながら腕の中で激しくもがいている。というより、手足をただめちゃくちゃに動かしている。

 私から逃れようとか反撃に転じようとか、何かの感情や目的が感じられるような動きではない。 

 

 やっぱりこの子は敵じゃないのかもしれない。

 理由はわからないけど、正気を無理矢理失わされて、彼女の意志とは関係なしに私たちを襲っているんだとしたら・・・・・・。

_______グギュウウッッ

 殺すべき相手なのかどうかは判断が付きかねる。だからとりあえず、締め落として意識だけ奪うことにした。

「そうだな、それが良い」

 私の意図を察したジフィ大佐がうなづく。

 締め落としは相手がセルリアンでもない限り確実に利く技のひとつだ。

 

「うぐああああっ! ぐっ! ううっ・・・・・・」

 たった10秒間ばかりハイブリッドの首を締めていると、ばたつかせていた手足がパタリと落ち、苦しそうな呻き声も完全に収まった。

 

「クズリさん! 大丈夫ですか!?」

「・・・・・・ケッ、てめえは大袈裟なんだよ」 

 心配して駆け寄るメリノヒツジに対してクズリはぶっきらぼうに返事をしている。

 大した傷ではないような声色ではあるが、暗がりに映る荒い息を吐く彼女の姿は、いまだにうずくまったままで立ち上がることが出来ないでいるようだった。

 

 クズリが動けないなら、私が彼女の代わりになるべきだ。

 白い子を無力化した所で問題は何も解決してはいない。

 一刻も早くここをでなくては・・・・・・と思い、意識をなくしたハイブリッドから離れ、壁を打ち破ろうと腕を振りかぶったその時だった。

 

_______カッッ!

「あ、あうっ!?」

 懐中電灯のか細い光しか明かりがなかった部屋が閃光に包まれた。

 まるでトンネルの中から青空に抜け出たように、暗闇に慣れていた瞳に光が焼き付いて視界が奪われる。

 

≪・・・・・・ごきげんよう、諸君≫

 

 いまや部屋中が光に溢れていた。

 そして華美な椅子に座った一人の男が光に照らされながら、低く落ち着き払った声で私たちに呼びかける姿が見えた。

 正面の壁だけじゃなく、天井や壁にも同じ男の映像が映っている。

 冷たく暗い金属の箱のように思われたこの部屋は、いまや一面一面が巨大なモニターと化しているんだ。

 

 モニターに映る男の顔を私は知っている。

 初めて見たのは、メガバットの記憶を覗きこんだ時だ。

 実験と称して彼女を失明させた時のコイツの楽しそうな顔が脳裏に焼き付いている。

 それからも数えきれないほどの悪行を重ねたこの男への怒りを、今日この日に至るまで忘れたことはない。

 怒りを覚えているのは私だけじゃないだろう・・・・・・きっとこの場にいる全員だ。

 

「グレン・ヴェスパーッッ・・・・・・!!」

 

 メリノヒツジが殺意に満ちた表情でその名前を叫んだ。

 しかし呼ばれた当の本人はほくそ笑みながら黙殺し、その場にいる私たちを万遍なく見下ろすかのごとく居丈高に椅子の上でふんぞり返っている。

 

≪控えるがいい。君たちは絶対的支配者の御前にいるのだ≫

「我々はお前の支配など認めないッ! Cフォースは人類をセルリアンから守るための組織だ! 今こそ組織の腐敗を正してみせるぞ!」

≪フッ・・・・・・私に雇われた兵隊でしかない者たちが、すいぶんと付け上がったものではないか≫

 

 果断に反抗する意思を示す大佐たちを見て、グレン・ヴェスパーはすべてを見透かしたように鼻で笑った。

≪カーネル・ジフィ。君たちの目的は既に知っている。私を追い落とすために組織を割ろうとしているのだろう。

 ・・・・・・そしてその為の旗印となる人物を求めている。違うか?≫

 

_______パチンッ

 

 グレン・ヴェスパーが指を鳴らすと、画面の外側から新たにヒトが入ってきた。

 妙齢の女性だ。白衣の下に黒いワンピースドレスを纏い、しゃなりしゃなりと歩いてくる。 

 あれは確かイヴとかいうグレンの娘だ。その整った顔立ちも金髪碧眼も、父親と同じ遺伝子を持っていることをはっきり示している。

 

_______ズリッ、ズリッ・・・・・・

 グレンの傍らに立ったイヴに続いて画面に入ってきたのは2人の屈強な兵士だ。

 2人がかりで乱暴に誰かのことを引きずっている。

 後ろ手に手錠をかけられているそのヒトは、振り乱した長い黒髪によって顔が隠されてしまっていたが、どうやら女性であるようだった。

 

 女性はグレンがふんぞり返っている座椅子の傍に連れていかれ、そして無理矢理に跪かされた。

≪さて、これは誰だと思うかね≫ 

 ほくそ笑むグレンが、倒れている女性の長髪をひっつかみ、私たちに見せつけるように引き起こした。

 

 ・・・・・・ずっと会いたかった。しかしこんな場面では最も会いたくなかった相手の顔がそこにはあった。

「あ、あうあぁぁッッ!!」

 頭が真っ白になって彼女の名前を叫んだ。

 言葉を失ったこの口では、それは最早ただのうめき声でしかなかったが、私の声を聞いて、彼女もまたモニター越しに私と目を合わせてくれた。

 

≪・・・・・・フーッ、フーッッ!!≫

 カコさんは苦しそうに鼻を鳴らすだけで何も話せないでいる。その口元には太い縄のような猿ぐつわを嚙まされてしまっているからだ。

 

≪美しい女の顔に、このような下品な物を付けたくは無かったのだがね・・・・・・こうでもしないと舌を噛んで死のうとしてしまうから仕方がないだろう? もちろん、いずれ外してやるつもりではあるがね≫

 

 グレンがカコさんの艶やかな髪を無遠慮にべたべたと触りながら独りごちる。まるで彼女が自分の所有物であるといわんばかりだ。 

 

≪この女は私がすべてに勝利した証。丁重にあつかうのは当然だろう≫

 

 ご満悦のグレンがカコさんのことを今後どうするかを語りだした。

 長い時間をかけて、薬物なども用いて洗脳を施していくつもりらしい。

 自分の言うことには絶対服従をつらぬく奴隷に仕立てあげると言うのだ。

 

 その暁には各国の記者団を前に会見を開かせる。

 用意した原稿をカコさんの口から喋らせるのだ。

 パークのこれまでの活動がすべて間違っていたことを。亡き父遠坂重三が犯罪者であったこと。グレン・ヴェスパーが全てにおいて正しかったことを。

 ・・・・・・そのように歴史を捏造することこそが、奴にとっての”完全勝利”になるのだと。

 

 当初は会見が済みしだいカコさんのことを殺してしまうつもりだったらしいが、今は気が変わったと言う。

 カコさんの美貌を見初め、殺すのは惜しいと思ったグレンは、彼女のことを何人もいる妾の一人に加えようと言うのだ。いずれは己の子を産ませ、一族繁栄の末席に加えるつもりであると・・・・・・

 

「・・・・・・ウウウウッッ!!」

 

 気が付くと意思とは無関係に、野生のトラそのもののように牙を剥き出しにして唸っていた。

 宿敵グレン・ヴェスパーがほくそ笑みながら、聞くに堪えない醜悪の極みのような言葉を垂れ流している。

 その下でカコさんが猿ぐつわを噛まされながら惨めに組み敷かれている。

 それらの光景の相乗効果が、私を凄まじい怒りに駆り立てている・・・・・・核の炎を見た時と同等かそれ以上だ。

 

 体中がぼうっと熱くなって思考回路が鈍っていく。

 両方の手のひらからは耐えがたい灼熱を感じる。

 怒りに飲まれたが最後、どんな結果をもたらしたかは身をもって知っているはずなのに、感情を抑えることが出来ない。

 ふたたび理性を無くした獣に変身してしまう予感を本能で感じる。

 

「絶対にお前らを殺してやるぞッッ!」

 激しい怒りに駆られて冷静さを無くしつつあるのは私だけじゃなかった。

 メリノヒツジが、その赤い毛皮と区別が付かないぐらいに顔面を紅潮させている。あの狡猾な策略家である彼女の面影はすでにどこにもない。

 

 グレンは余裕の表情で私たちを物笑いの種にするように見下ろしている。

 奴に手が届かない所でいくら怒ってみせたところでどうにもならない。

 それどころか、ここで私がもし暴走してしまったら、ヴェスパー親子を仕留めるよりも先に、傍にいる仲間たちに危害を加えてしまうのは言うまでもない。

 ・・・・・・ヒグラシ所長だって、命は取り留めてもいまだ目を覚ませないでいるというのに。

 

≪お父様、そろそろお時間です≫

 イヴ・ヴェスパーが突如なにごとか耳打ちすると、グレンは意味深な表情で頷いてから、突っ伏しているカコさんの髪を鷲掴みにしたまま立ち上がった。

 

≪ふっ、君たちは間もなくこの世から去ることになるだろう。醜い肉塊と化してな≫

「な、何ィ!? どういうことだ!」

≪ハイブリッドが私の刺客であることは既に承知と思うが、そいつはただの挨拶だ。遅効性の催眠狂乱剤によって暴走させ君たちを襲わせたに過ぎない。ウルヴァリンを負傷させることが出来ただけでも上出来だ。

 ・・・・・・本命はその部屋だ。そこには既に君たちを始末する必殺の罠を仕掛けてある≫

 

 グレンが高笑いしながらまた語りだす。

 この辺りの区画はイヴ・ヴェスパーの私設研究室があるエリアだった。

 ・・・・・・だがヒグラシ所長が倒れていたこの部屋だけは違う。スターオブシャヘルの可塑性を利用して、私たちを抹殺するために後から取ってつけた場所なのだ。

 傷ついた所長をその場に置き去りにしていたのは、彼を見つけた私たちの冷静さを失わせるためだったのだ。

 

 自分たちの意志でカコさんを探しに来たつもりが、まんまとグレンのいう必殺の罠とやらに嵌められることになってしまったのだ。

 ・・・・・・何を仕掛けてくるかはまったくもって不明だ。ただ私たちにとってそれが紛れもなく致命的な物であることだけはわかる。

 奴の邪悪な”してやったり顔”がそれを裏付けている。

 

「どこかに異常があるはずだ! 探せ!」

 

 ジフィ大佐たちが銃を構えながら辺りを見回しはじめた。

 怒りに飲まれている私と違って、歴戦の軍人である彼らは冷静だ・・・・・・だが、彼らをして何らの異常も発見できていなかった。

 全周囲がモニターと化してはいるものの、この部屋が相変わらず殺風景の箱のような場所であることには変わりなかった。

 天井が崩れるか、床が沈むか・・・・・・予想できることと言えばそれぐらいだろう。

 

「シベリアンッ! 壁を破壊しろ!」

「・・・・・・ウウウウッッ」

「ど、どうした? 聞こえないのか!?」

 

 それなら、と頭を切り替えたジフィ大佐が私に向かって指示を飛ばしてくる。

 だが今の私に彼の声は届かない。

 いや違う。聞こえてはいるし、それが意味することも理解出来ている。だが気を向けることが出来ない。

 今の私は、怒りという水で満杯のグラスだ。必死に押さえつけていなければ、ほんの些細な衝撃で溢れ出してしまうだろう・・・・・・ほんとうに、他のことを頭に入れる余裕がないんだ。

 

「オレがやってやるぜっ・・・・・・!」

 動かない私に代わって、腹に大穴が空いたクズリが異形の右腕を振りかぶる。

 腕からは例によって黒い炎が湧き上がり、衝撃波として撃ち出さんと手のひらの中心に向かって収束していった。しかし・・・・・・

_______ゴフッッ!

 鮮血がびちゃりと地面に付着する。クズリがとつじょ吐血したのだった。

 彼女が再び力なく膝を付くと、せっかく手のひらに集めた黒い炎も一瞬でかき消えてしまった。

 

「クズリさん! だ、大丈夫ですか!?」

「・・・・・・うるせえ。オレを心配するよりやることがあんだろ」

_______ガシィッ

「てめえの役目は罠を暴くことだぜ。奴らの手口に一番くわしいのはてめえなんだからよ・・・・・・!」

 

 心配して駆け寄った弟分に対して、クズリは胸倉をつかみ睨みつけながら答えた。

 クズリに檄を飛ばされたことで、怒りと混乱ですっかり冷静さを失っていたメリノヒツジはハッとして目を見開くのだった。

 

「ま、まさか・・・・・・罠の正体はっ!?」

 

 迫真の表情のまま何秒間か、もしくはそれにも満たない時間を思考に使ったのち、メリノヒツジが叫んだ。

 彼女がおもむろに視線を向けた先は、壁や床ばかりを警戒しているジフィ大佐たちとは全く違う方向だった。

 そしてそれに向かって電撃に撃たれたように走り出していた。

 

 メリノヒツジの向かう先はネズミのあの子のところだ。

 意識を失って横たわっている彼女のすぐそばに近寄り、おもむろに手をかざした。

 

「僕から離れろ! ニンゲンども!」

「な、何をしている!? ハイブリッドがどうしたというのだ!?」

「コイツの体内に爆弾が仕掛けられている!」

 

 メリノヒツジの推理はこうだ。

 たとえこの部屋の壁や床に罠を仕掛けられていようとも、私たちならば罠ごと吹き飛ばすことは造作もない。それはグレンだって百も承知だ。だが奴は余裕の笑顔を崩さない。

 となれば脅威は奴が送りつけてきた刺客であるネズミのあの子以外に考えられないというのだ。

 

 もちろんあの子には実力で私たちを倒すほどの力はない。だから実力が及ばなくても確実に私たちを始末できるように体内に細工を施したのだ。

 彼女の体内に爆弾を仕込んで密室内で私たちを爆殺する・・・・・・それがグレンが考えた”必殺の罠”だというのだ。

 

「そうだろうヴェスパー? 体内に何かを仕込むのはお前らの常套手段じゃないか」

≪すばらしい、正解だ。だが今更どうしようもないぞ。小型爆薬だが、君たちがいる区画一帯を吹き飛ばすだけの威力がある≫

「だまれ・・・・・・お前の思い通りにはさせないぞッッ!!」

 

 ハイブリッドに向けてかざしたメリノヒツジの両手が金色に光り輝いた。

 金色の火の粉が彼女の周囲を舞い、収束して形を成していく。あらゆる形状の武器を作り出すという彼女の能力を発露させているのだ。

 やがて現れたのはヒトの背丈ほどの直径の大きな盾・・・・・・いやドーム状の半球体だった。

_______ガコンッ

 メリノヒツジは手にした金色のフタを横たわるハイブリッドの体にかぶせると、自らの体が重石代わりであると言わんばかりに上から覆いかぶさった。

 

「メリノ、てめえ・・・・・・」

「ま、待てっ! そんな物で爆発を防ぐつもりか!? お前はどうなるんだ!?」

≪クククッ、よほど自己犠牲の美徳に酔い知れて死にたいと見える≫

 

 目を細めて独りごちるクズリと、驚き唖然とするジフィ大佐たち。あざけ笑うグレン・ヴェスパー。

 その場にいる誰もが同時にメリノヒツジの意図を悟ったようだった。

 爆発を盾越しに間近で受け止める彼女はどう考えても無事には済まない。それを覚悟のうえで、命と引き換えに仲間たちの身を守ろうとしているのだ。

 

「僕は死んだっていい! クズリさんとアムールトラさえ生き残らせることさえ出来れば僕の勝ちなんだ! ・・・・・・最強の2人が、かならずヴェスパーを打ち滅ぼしてくれる!

 だから早く正気に戻れアムールトラ! 壁を破壊して皆を連れて逃げろ!」

 

_______ドクンッ

 

 その言葉を聞いた瞬間、全身が電流に撃たれたように震えた。

 それまでのことが嘘であったかのように、私はにわかに正気を取り戻していた。

 死を賭したメリノヒツジのとてつもない覚悟と気概が、言葉ではない別の何かとして伝わってきて、私を狂気から呼び覚ましてくれたような気がした。

 

「あうッッ!!」

 メリノヒツジの言葉に呼応するように吠えた。

 だが彼女の言いつけ通りに逃げ出すつもりはない。今度は私が彼女のために命を張る番だ。

 

 メリノヒツジは少し自己評価が低いように見える。

 自分自身のことを私とクズリよりも弱いと決めつけている。

 単純な腕っぷしならばそうなのかもしれないが、その頭の回転と精神力は今まで出会ったフレンズの中でも図抜けている。

 こういう言い方はなんだが、彼女だってまた違った形での”最強”であると思う。 

 そんな彼女の存在は、ヴェスパーに勝利するために必要不可欠だ。

 

 ・・・・・・そしてもちろんハイブリッドのあの子も助けなくてはいけない。

 グレン・ヴェスパーの非道に苦しめられる彼女のような存在を救うことこそが、私のそもそもの戦いの目的だったのだから。

 

_______タンッ!

 私なら2人を救うことが出来る・・・・・・そう疑わずに確信しながら、手のひらを床に押し当てた。

 暗闇の向こうにある”意”の世界へと入り込んだ私が目指したのは、ハイブリッドの体内に埋め込まれたと言われる爆弾だ。

 

 爆弾の仕組みがどういうものかは知らないが、だいたい銃と同じだと思えばいいだろう。

 撃鉄が落ちなければ弾は発射されない。それと同じように、爆発を起こすための引き金に当たるパーツが存在するはずだ。

 フレンズの体内に埋め込める程度の大きさしかない小型爆薬。さらにその内部にある部品の一つ。言うまでもなく極小の物体だ。

 ・・・・・・だが、こんなことは今まで何度だってやってきた。きっと見つけ出せるはずだ。

 

(あそこだっ)

 白く美しい体を持つハイブリッドも、中身は他のフレンズと変わらない。

 ほどなくして見つけ出した。赤黒く複雑にうねる内臓の隙間に、一枚のコインのような小さな円盤が挟まっているのを。

 

 それにしても目の前の景色には驚いた。

 今までに”意”の世界の在り様が、こんなにはっきりと鮮明に見えたことはない。

 実感としてわかる。二つ目の能力に目覚めたことによって、一つ目の勁脈打ちの精度も上がっているんだ。

 精神という形のない物に入り込めるまでになったんだ。現実に形がある物を見つけ出すことぐらい出来ないはずがない。

 

 さらに深く意識を潜らせ円盤の中身を探った。

 コインの中に敷き詰められた基盤を流れる微弱な電気の流れ・・・・・・それらが一点に収束する先に、ごく小さな針のような物が見えた。

 どうやらあれが破壊すべきターゲットであるらしい。

 無機物であるにもかかわらず有機的な殺意を放ち、もう間もなく目的のために動き出さんとする気配がはっきりと伝わってくる。

 

(あれを打つ・・・・・・!)

 ターゲットである針と”揺らぎ”を同調させる。これで完全に狙いを付けた・・・・・・後は向かって行くだけ。

 自分の体があたかも弾丸になったかのようなイメージを思い描き、ただひたすらまっすぐに流れていった・・・・・・。

 

≪ハハハハハッッ! みじめに爆ぜろ!≫

「うおおおおおおおおっっ!!」

 

 意識を取り戻した時、ふたつの声が聞こえた。

 勝ち誇って哄笑を上げるグレン・ヴェスパーと、死への恐怖を気合で打ち消さんとするメリノヒツジの怒号だ。

 傍らで息を飲む迫真のジフィ大佐たちの息遣いも聞こえた。その場にいる誰もが、直後に起きるであろう瞬間に意識を向けていた。

 ・・・・・・だからこそ、その後に訪れた静寂がいっそう異様に思えただろう。

 

「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・何だ?」

≪なぜだ! なぜ爆発しない!?≫

 

 メリノヒツジと、グレン・ヴェスパーがまたも声を上げた。起きるはずの爆発が起きていない。

 なぜそのような事になったのか理解が追いついていない様子だ。

 

「くくくっ・・・ははは・・・あーはっはっはっ!」

 

 驚き絶句している者たちの中で、たった一人だけ頭を抱えて大笑いしている者がいた。

 クズリだ。腹部に開けられた穴の痛みよりも、可笑しさのほうが完全に上回ってしまっていると言わんばかりだ。

 やっぱり彼女だけは私がやったことを既に見抜いているようだ。

 

「まったくまいったぜ。オレとしたことが良い所がまったくねえ・・・・・・メリノとアムールトラに美味しいとこ全部持ってかれちまうんだからよォ」

≪シベリアンが何をしたというのだ?≫

「わかんねえんのかァ? オレたちからかき集めたご自慢のデータとやらはどっかに行っちまったのかね」

 

≪お、お父様、ひとつ心当たりが。シベリアン・タイガーのあの動きは・・・・・・≫

 イヴ・ヴェスパーが私に視線を向けながらグレンに耳打ちする。

 クズリの言葉がヒントになったのか、父よりも先に私の仕業に思い当たったようだ。

 

 いま私はただ地面に手のひらを付けているだけだ。

 しかしその動きは、過去に私が勁脈打ちで大型セルリアンの核を触れもせずに破壊した時の動作に酷似していることだろう。

 二つの動きの類似性を見抜いたイヴは、私がハイブリッドに仕掛けられた爆薬の起爆装置を破壊した可能性までも即座に推理してみせた。

 しかしグレンの方はまだ納得がいかないような顔をしている。

 

_______ドタンッ

 何が起こったのかを察し、自らの無事を確認したメリノヒツジが、緊張の糸が切れたと言わんばかりに金色の蓋をかき消し倒れた。

 その傍らには、ハイブリッドのあの子が白い体を五体満足のまま投げ出している。

 

「おら立て。いまの主役はてめえだろうが」

「・・・・・・クズリさん」

 

 クズリは腹部から血が滴るものお構いなしにメリノヒツジに近寄り手を差し伸べた。

 安堵の溜息をついてから、手を取ってよろよろと立ち上がるメリノヒツジ。

 流石に生きた心地がしないのか、冷や汗まみれで荒い息を吐いている。しかし一瞬後にはクズリに並び立ってモニターの方に向き直り、ヴェスパー親娘を鋭く睨みつけた。

 

「これでわかっただろ? てめえらは所詮こんなモンだ」

≪・・・・・・何が言いたいのかね≫

「誰かを操ってイキることしか能がねえ。勝つためにてめえの命を張ることも出来やしねえ、小物中の小物だって言ってんだよ」

 

 明確に愚弄する言葉を投げつけられたグレンの表情が固くこわばる。しかし今までとは一変して何も言い返せないでいた。

「そんなにビビんなよ”支配者さん”よォ」

 クズリは流れがこちらに傾きつつあるのを逃さずに、まくし立てるように挑発を繰り返した。

 

≪ウルヴァリン。死にぞこないの分際でよく吠えるものではないか?≫

「ああこれかァ? ・・・・・・じゃあオレもいっちょ良いとこ見せてやろうか!」

 

_______ゴゴゴゴ・・・・・・

 クズリが己の腹部に空いた穴を見やりながら不敵に笑うと、突然に唸り気勢を高め始めた。

 狭い空間にビリビリとプレッシャーがほとばしる。やがて彼女の右手から発せられた黒い炎が全身に伝播し、ひとつの巨大な火だるまへと変身した。

 

 次の瞬間には驚くべき様相を目の当たりにすることになった。

 クズリの腹部に開けられた大穴が、見る見るうちに塞がれていっているのだ。

 それはフレンズの自己治癒能力が十倍にも百倍にも増したようなスピードだ。

 

「ちょっとばかし休憩すりゃ、今のオレにとってこんな傷は屁でもねえ」

≪・・・・・・こ、このおぞましい化け物!≫

「そりゃねえぜイヴ。あんたらが作った”お注射”のおかげじゃねえか。研究の成果ってヤツさ」

 

 思えばクズリが異常な回復力を見せたのはこれが初めてじゃない。

 暴走した私によって負わされた重傷をも彼女は短時間で治してみせたのだ。ちぎり飛ばされた右腕をも新たに生やしてしまった。

 これが今のクズリや私・・・・・・進化態と呼ばれるフレンズの力なのか。

 

「で、次はどうすんだ? また爆弾かァ? それとも新しいザコでも寄越すかい?」

「・・・・・・やれやれですよ。僕らは今までこんな程度の連中に踊らされてきたんですね」

 

 最強の肉体を持つクズリと、死もいとわない精神を持ったメリノヒツジが共に威圧の言葉を強めている。

 グレンは石のように押し黙っているだけだが、イヴは顔色に明らかな恐怖が浮かべていた。

 化けの皮が剥がされた・・・・・・とそんな感想が思い浮かんだ。

 少なくともクズリたちの上を行く要素など一切ない。彼女たちの復讐が達成される時が確かに近づいてきていると思った。

 

≪お父様、このような下郎共にまともに取り合う必要はありません≫

 

 青ざめたイヴ・ヴェスパーが息を吐くように主張をはじめた。

 カコさんの身柄も、セルリアンの女王の”胚”も、必要なカードはすべてこちらに揃っている。依然として自分たちの優位性は揺るぎないと言うのだ。

 

≪スターオブシャヘルを自爆させましょう。その後に体勢を立て直せばいい・・・・・・こ奴らに脱出手段はありません。飛行能力のあるフレンズもいない≫

「き、貴様らだけ脱出するつもりか!? どこまで外道なのだ!」

 

 イヴは今すぐスターオブシャヘルを自爆させて私たちを殺すべきと提案した。

 それに対してジフィ大佐が血相を変えて憤慨する。 

 内部にはシャヘル所属の兵士たちがまだ大勢いるというのに、彼らを巻き添えで殺すことには何ら抵抗がない事に対してだ。

 軍隊の長を努める彼にとって、部下の命を使い捨てにして当然という態度は許しがたいものなのだろう。

 だが大佐のまともな軍人としての良心など、他人の命なんて砂粒よりも軽い物だと思っているであろうヴェスパー親娘には響くはずもなく。

 

「娘のほうがまだ頭の切り替えが早えみてえだな・・・・・・でも、そんなんでこのオレが死ぬかなァ?」

 

 クズリが不敵にほくそ笑む。

 今しがた彼女は己が肉体の不死身ぶりを見せつけたばかりだ。

 仮に要塞の爆発に巻き込まれた所で、確実に死ぬ保証などはないのはヴェスパー親娘だってわかっているはずだ。

「もしオレが生き残ったら、てめえらを地の果てまで追いかけてってブチ殺してやる・・・・・・そん時が来るまで怯えて縮こまっとけやァ」

 

_______ドタッ!

 石像のように固まっていたグレン・ヴェスパーが突然に動いた。

≪この女を持て≫

 髪の毛を鷲掴みにしていたカコさんを乱雑に突き放して地面に昏倒させると、傍にいた2人の兵士たちを顎でしゃくった。

 兵士たちは慌てながらカコさんの腕をつかんで引き起こした。

 

≪・・・・・・私は貴様らから逃げるつもりなどはないぞ≫

≪お、お父様!?≫

≪この世のすべては私に屈服する運命にある・・・・・・ウルヴァリンよ。この私を追い詰めたつもりになっているのかもしれないが、勘違いも甚だしいのだよ≫

 

 グレン・ヴェスパーは誰に言うでもなくうわ言のような言葉を虚空に向かって呟き始めた。

 クズリはそんな奴のことをもはや完全に小ばかにしたように鼻で笑っている。

 

≪しかしお父様。今の状況では奴らを確実に抹殺する手段は≫

≪今より”女王”の再調整、そして起動実験を行う・・・・・・女王の胚に生体コアを接続、そして融合させる≫

 

 セルリアンの”女王”・・・・・・あれが誕生する瞬間を私は見た。あのときは正気を失っていたが、記憶だけはしっかり残っている。

 核爆発によって誕生するや否や、恐ろしい勢いで天にまで達する巨大さに成長したあの異容は忘れられない。

 少し経つとその巨体はすぐに崩れ落ちてしまったが。

 

 すでにメリノヒツジから経緯は聞いている。

 あの女王が僅かな間しか生きられないことは既に予見されていた。

 生み出しておいて核だけ回収することがヴェスパーの目的だった。

 すべてのセルリアンを操る能力を持った女王をヴェスパーが操る・・・・・・そんな奴らの野望を達成するために、いま再び生み出されようとしている。

 

≪・・・・・・そ、それはいけません! 今使える女王の完全な胚はひとつしかないのですよ? 時間をかけてスペアを培養すべきです。このような場で不用意に消費するべきでは!≫

 

_______バチィンッ!

≪ああっ!≫

≪愚娘よ。お前の意見など聞いていない。私がやれと言ったらすぐやるのだ・・・・・・準備に取り掛かれ≫

 

 乾いた音がモニター越しに響き渡り、イヴ・ヴェスパーが地面に倒れた。

 真っ青な顔で忠言する娘を、父が無表情のまま平手打ちにして黙らせたのだ。

 頬を押さえてよろよろと立ち上がったイヴはそれきり何も言わず、一礼してからすごすごと画面から立ち去っていった。

 

「せ、生体コアだと? まさかまた量産型フレンズをコアに使うつもりか?」

 

 メリノヒツジがハッとした顔で言及しているのは、ついさっきの戦いで私たちが倒したヒト型セルリアンのことだ。

 異常なほどの再生能力を誇った奴らの内側には、生ける屍と化した量産型フレンズが埋め込まれていた。

 生物をセルリアンのコアとして用いる技術がヴェスパー親娘にはある。

 ・・・・・・もしかすると、僅かしか生きられない女王の寿命を延ばすための秘密が”生体コア”にあるのだろうか?

 

≪量産型フレンズなどを女王のコアにしたところでつまらない。もっと面白い、お前らにより苦痛と絶望を与えられる組み合わせをたった今考え付いたぞ・・・・・・いいか? 心して聞くがいい≫

 

 熱に浮かされたように笑い出すグレン。その表情にはふたたび狂気と余裕が取り戻されている。

 わざともったい付けて、口にするのが愉快で仕方がないといった様子で、次の言葉を続けた。

 

≪コアに用いるのはこの女だ!≫

≪・・・フ、フーッッ・・・!≫

≪またしても気が変わった。妾に出来なくてじつに残念だ≫

 

 グレンは兵士たちに持たせたカコさんに今一度歩み寄ると、彼女の頬を”ムギュ”と侮辱するように掴んで顔を持ち上げる。

 

≪女王を倒すことなど誰にも不可能だ。お前らにとっての希望が絶望へと変わる瞬間を見届けるがいい。それこそがこの私を愚弄したことへの報いだ。

 足元にひれ伏させ、惨めに命乞いをさせた後で細切れの肉塊にしてやる! 今からその時が楽しみだ! フハハハハハッッ!≫

 

 グレンが天を仰いで高笑いしながら画面から去っていった。

 それに続く形で兵士たちに抱えられたカコさんが運ばれていく・・・・・・その姿が画面から見切れてしまう刹那、カコさんと目が合った。

 見開かれた黒い瞳には苦痛の色が混じりながらも、決して曇らない光が宿っている。

 

 その瞳を見て、カコさんが皆のもとから去った時のことが強制的に思い出された。

 マダガスカルのイーラ女史のお屋敷で、たった一人でグレン・ヴェスパーのお膝元へ乗り込もうと決意して見せたあの時のことを。

 ・・・・・・彼女は別れ際に、いつか平和になったら、私を自分が操縦する飛行機に乗せてくれると言ってくれた。 

 

 私の胸を高ぶらせるこの気持ちは何だろう? 

 力が無限に湧き出てくるようだ。怒りとはまったく別の、心地よく澄み切った、それでいて揺るぎない闘志は。 

 ひとつわかるのは、私がカコさんを助けたいのは個人的な好意だけが理由ではないということ。

 あのヒトこそ未来への希望そのものだ。これは未来を切り開くための戦いに他ならない。

 

「カコ・クリュウか・・・・・・あの状況でも心が折れてないたあ気に入ったぜ。綺麗ごと喋るだけが能のヤツだって見くびってたかもなァ」

「ええ、どうやら助ける値打ちはありそうです」

「彼女こそがヴェスパーの支配を終わらせる存在だ。絶対に殺させるわけにはいかん! 早く救出に向かうぞ!」

 

 ジフィ大佐たちはもちろんのこと、本来の目的は違っていたはずのクズリとメリノヒツジでさえ、なぜだか私と同じ高ぶりを共有しているように思えてならなかった。それが無性に頼もしく、嬉しかった。

 

 私のすべてをかけて、この仲間たちとともに、絶対にカコさんを助けてみせる。

 そして見てみたい。彼女が見せてくれる景色を。どこまでも広がる自由な青空を。

 

 to be continued・・・




_______________Cast________________

哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種
「アムールトラ」 
哺乳綱・鯨偶蹄目・ウシ科・ヤギ亜科・ヒツジ属
「メリノヒツジ」
哺乳綱・ネコ目・イタチ科・クズリ属
「クズリ」
哺乳綱・げっ歯目・ネズミ科・ハツカネズミ属 
「ハツカネズミ」

_______________Human cast ________________

「久留生 果子(くりゅうかこ)」
年齢:26歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 南アフリカ事業所代表
「グレン・S・ヴェスパー(Glenn Storm Vesper)」
年齢:74歳 性別:男 職業:Cフォースアメリカ本部総督ならびにアトランタ研究所所長
「イヴ・B・ヴェスパー(Eve Brea Vesper)」
年齢:25歳 性別:女 職業:Cフォースアフリカ支部研究所(別名スターオブシャヘル)所長
「日暮 啓(ひぐらしけい)」
年齢:53歳 性別:男 職業:元Cフォース日本支部研究所 所長
「ギレルモ・セサル・ジフィ(Guillermo César Jiffy)」
年齢:67歳、性別:男、職業:Cフォース南米支部 陸軍連隊総司令官

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。