けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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過去編終章35 「じょおうたんじょう」(前編)

 

 ほの暗い回廊を、私、クズリ、メリノヒツジの3人で駆け抜ける。

 ぶよぶよとした感触の床を一歩踏みつけるたびに気色悪い水音が弾ける。

 血管のような有機的な細い管が、赤黒い床や壁にびっしりと張り巡らされている。それらは鼓動するように絶え間なく収縮していた。

 

 ここスターオブシャヘルはもともとからして機械と生物が混ざりあったような内装だったが・・・・・・進めば進むほどに機械の要素は減り、いまや完全に生き物の内臓の中にいるような景色へと変貌していた。

 

__________ミヂミヂミヂィィ

 地面からいくつも盛り上がったイボのような穴の中から、ワラワラと蟻のように小型セルリアンの群れが這い出てきた。

 一つ目を見開かせた丸い胴体に、ヒトの腕によく似た3本の触手を生やした不気味な姿が、床も壁もあっという間に埋めつくすと、私たち3人にめがけて津波のように飛び掛かってきた。

 

 先ほどから何度も目にしている姿に臨戦態勢を取る。

 この”3本脚”は今までに見たことがないタイプのセルリアンだったが、おおよその性質は地上の各地で目にした幼体と何ら変わりはない。物量は半端じゃないが、一匹一匹は大したことはない。

 今の私たちはそのような相手を前にして、わずかばかりでも足を止めることさえ許されない。

 

「ガウウウウッッ」

__________バチバチバチイイイイッッ! 

 感覚が命じるまま両腕を思い切り前方に突き出す。

 すると手のひらから、私の闘気の具現体とも言うべき紫色の稲妻が、ズンと伝わってくる反動と同時に鋭く一直線に発射された。

 反動を押さえつけるように踏ん張りながら、稲妻を右から左へと掃射して小型セルリアンの群れを薙ぎ払った。

 

 みずからの意志で稲妻を放つのはこれが初めてじゃない。さっきから幾度となく”進化態”としての力を解放して戦っていた。

 スターオブシャヘルにて目覚めた当初は暴走を恐れていた私だったが、今はもう全くと言っていいほど怖くなくなっていた。

 

「どんどん来いよッ!」

 

 すぐ後ろではクズリが同じように進化態の力で敵を蹴散らしている。

 彼女が巻き起こす黒い衝撃波は、私が放つ稲妻と同じ能力であるはずなのに、見た目がずいぶんと違うものだと思う。

 私と比べるとエネルギーを収束させるサイクルは明らかに短く、さらに狙いはより正確だ。戦いの天才たる彼女は、早くも進化態の力を思い通りにコントロールしつつあるようだ。

 

 目に見える小型セルリアンたちをあらかた排除すると、一時的な静寂が場に訪れた。

 辺りの壁や床が、ところどころ赤く焼けただれながらクレーターを作っていた。

 私とクズリの攻撃がもたらした痕だ。

__________ズグ、グググッッ

 ・・・・・・しかしそんな状態も長くは続かない。クレーターを塞ぐようにして触手が張り巡らされ、破損が再生されていっているのだ。

 まるで植物が成長する様子を早回しのビデオで見ているみたいだ。

 

 こんな光景はすでに何回か目の当たりにしていたものだった。

 私たちがどんな攻撃を仕掛けようともまるで意味が無いのだ、とグレン・ヴェスパーに嘲笑されているような気分になる。

 奴の近くにまで来ているような気はするのだが、具体的な行方はようとして知れない。こうなると焦りだけが募ってくる。

 

 進めば進むほどに景観が異様になっていくだけでなく、敵の攻撃も激しくなってきていた。

 行く先々には今みたいな”三脚”タイプや、ヒト型セルリアンも含めた多様な小型セルリアンたちが待ち受けていた。

 おまけに無人兵器の銃撃も付いてくる始末だ。

 ・・・・・・だが、その一方でヒトの兵士の姿は全くと言っていいほど見かけなくなっていた。

 

≪気をつけるのじゃ。おぬしらの進むエリアの放射線濃度がどんどん高まってきておる。すでに人間が入り込めるような場所ではなくなってきているようじゃのう・・・・・・≫

「おいジジイ、大佐たちはもうマザーユニットから出たんだな?」

≪さよう。今のところは敵との交戦は起こってはおらんようじゃ≫

 

 耳の奥に取り付けた小型通信機から、いかにも老人といった口調の物腰おだやかな声が聞こえてくる。それに対してクズリが彼女らしいぶっきらぼうな口調で応対する。

 声の主はジェームズ・ファインマン。Cフォースのセキュリティ開発の第一人者として長年活躍してきた名エンジニアだ。

 

 色々な経緯があって、私たち3人とジフィ大佐たちとは別行動を取ることになった。

 グレン・ヴェスパーたちとの邂逅を終え奴らが画面から消え去った後、カコさんの救出に向かおうにも手がかりのない私たち一行はマザーユニットへと一時退却するしかなかった。

 ユニットの中で打開策を考えた結果、二手に分かれることになったんだ。

 

 私たち3人の役目はもちろんカコさんを救出することだ。

 そして大佐たちはもう一つの重要な仕事に取り掛かっている。

 脱出手段を確保することだ。

 言うまでもなく、想像を絶する高さの空の上に浮かぶスターオブシャヘルから生きて出るためには避けて通れない問題だった。

 

 巨大なスターオブシャヘルの各所には数十もの脱出艇が備え付けられているという。

 3~4人で乗り込む小型の脱出ポッドから、数百名もの人員と物資なども十分に積み込める大型の輸送艇など下に降りる手段は無数にある。

 

 ・・・・・・しかしすでに私たちの存在が知られているために、当然それらの周囲には見張りが強化されているはずだった。

 見つからないように奪取するのは至難の技だ。必ずや戦闘になるだろう、と。

 だがそれでは余りにも多勢に無勢、さらにこっちには重体のヒグラシ所長まで抱えているんだ。戦闘は絶対に避けなくてはならなかった。

 

 そしてジフィ大佐にはとある決意があった。

 ヴェスパー親娘の下で使い捨ての駒のように扱われている兵士たちを助けたい、と。

 イヴは私たちを殺すために要塞を自爆させることを提案した。それはすぐにグレンによって却下されたが、代わりにセルリアンの女王が起動されることになった。

 ・・・・・・もしあの天を衝く巨大な女王が現れたのなら、この要塞を丸ごと飲み込んで、そこにいる兵士たちは漏れなく犠牲になるだろう。ヴェスパー親娘が彼らを助けるわけがない。

 

 なので彼らと戦って脱出艇を奪い取るのではなく、彼らにヴェスパーからの離反を促し、武装解除させて脱出艇に乗り込ませたいと言うのだ。

 そのためにわざと敵の矢面に立ちに行くのだと。

 ジフィ大佐はじめ彼ら将校は組織内でかなり顔と名前が知られており、彼らが話せばたとえヴェスパーの手下の兵士であろうとも、言うことを聞いてくれる目算は十分にある。

 

 上手くいけば血を流さずに脱出の手段を確保することが出来る。

 説得を成功させるためにも、兵士たちを相手に大暴れした私たちが大佐に付いていくわけにはいかない。

 特にメリノヒツジは彼らに恐怖を与えるために意図的に虐殺を行っていたんだから。

 

 その後は脱出艇をスタンバイさせたまま、私たちがカコさんを連れて戻ってくるのを待っているという。

 ・・・・・・正直、かなり分の悪い賭けだと思う。兵士たちが言うことを聞かなければ大佐たちは瞬時に血祭に上げられる。

 また兵士たちが言うことを聞いたとて、無人兵器やセルリアンが襲ってくる可能性もある。

 が、事ここに至って大佐たちはすでに覚悟を決めた様子だった。

 先に進むしかない私に出来ることは、彼らの無事を祈ることだけだ。

 

≪カーネル・ジフィからの伝言じゃ。ミスターヒグラシも、ハイブリッドのこともきっと守り切ってみせる、と言うとった≫

「あ、あう・・・・・・」

≪後は頼んだぞシベリアン、ウルヴァリン。ワシにはもうユニットの中で皆の無事を祈ることしか出来ん・・・・・・もし生きて帰れたら、ワシのセキュリティを破ったというハッカーに会ってみたいもんじゃのう≫

 

 戦う術を持たない技術者であるファインマン氏は、私たち3人と大佐たちが出て行った後もマザーユニット内に残っていた。

 未だ意識の戻らないヒグラシ所長と、ハイブリッドのあの子も彼と一緒だ。

 仮に私たちやジフィ大佐たちが仕損じれば、彼らの命運も尽きることになる・・・・・・

 

 ファインマン氏はただ留守番を務めているだけでなく、私たちにヴェスパー親娘の居場所について、わかる範囲で案内をしてくれている。

 彼の手には今、奴らの居場所を示す逆探知装置が握られているのだ。

 

 逆探知装置の元になっているのは、ハイブリッドのあの子の体内に埋め込まれていた、私が勁脈打ちによって不発に終わらせた小型爆弾だった。

 爆弾というものは仕掛けた者の意図しない所で爆発させるわけにはいかない物だ。

 手動で起爆、または停止させられるように、例外無く発信機が内臓されている。仮に発信源との交流が絶えても記録が残る。

 そしてそれこそが、私たちの手元にあるヴェスパーの居所への唯一の手がかりだった。

 

 ・・・・・・本当に、ハイブリッドのあの子には感謝してもし足りない。

 逆探知装置を作るためには、彼女の体内にある爆弾を取り出す必要があった。

 彼女はそれに同意してくれた。操られていたとはいえ、皆のことを襲ってしまった罪を償いたい、と健気にも献身を申し出てくれたのだ。

 

 一刻を争う状況の中、麻酔もなしに割腹し爆弾を取り出すという手術が行われた。

 あの子はずっと耐えていた・・・・・・傷口を縫われ包帯を巻かれるまで、瞳に涙を浮かべながらも一言のうめき声も上げなかった。

 あんな経験を二度とさせるわけにはいかない。今後の人生では幸せに生きてほしい。

 

 他のフレンズもそうだ。苦しいことも、悲しいことも、これで終わりにしなければならない。

 そして信じている。カコさんを助けることが出来れば、きっと悲しみの時代の終わりが来るであろうことを。

 今の私は未来への希望を胸に戦っている。その気持ちが、暴走をもたらす根源となる怒りを遥かに上回り、進化態の力を制御しているように思えた。

 

「ジジィ、さっきから同じような風景ばっか続いてんだが、本当にこっちにヴェスパーがいんのかァ?」

≪電波は間違いなくその辺りから放射されておる・・・・・・しかしすまんの。それ以上詳しいことはわからん。というのも、おぬしらが今いる場所のマップ情報が急速に書き換えられているのじゃ。

 つまり、それまでデータに無かった新たな地形が矢継ぎ早に作られておる≫

 

 グレンの居場所を突きとめられれば、きっとカコさんのことも見つけられるはずだ。

 奴に逃げる意思はない。自分でそう言ったんだ。

 セルリアンの女王を使って私たちを抹殺することに固執している。私たちと相対しようものなら、女王をけしかけようとしてくるはずだ。

 その女王のコアに使われようとしているのが、他でもないカコさんなのだから・・・・・・

 

 手詰まりに近い空気が漂っている中「おい、アムールトラ」とメリノヒツジが後ろから声をかけてきた。

 そういえば今しがたの戦いでは彼女の姿が見えなかったが、いったい何をしていたのだろうか。

 

「メリノ、そのオモチャは何だァ?」

「釣り竿・・・・・・とでも言っておきましょうか」

 

 メリノヒツジが手にしているのは、能力で作り出したとおぼしき金色の細長い棒きれだった。その先端からは同じ色の糸が垂れさがりどこまでも続いている。

 釣り竿とは言っても糸を巻く仕掛けが付いてるわけではない。糸は長い柄と一体化している。

 そのシンプルな形状は長さこそ規格外だが、ほぼ鞭と言っていい。

 彼女の能力には、銃火器のような複雑な形の物は作れないという制限があるらしいが、そこから外れてはいないだろう。

 

「あれほど大量のセルリアンがどこから湧いて出てくるのか気になりましてね。試しに奴らの中の一匹を死なない程度に痛めつけて、糸を括り付けて釣り餌にしてやったんですよ」

「なるほどなァ・・・・・・で、何かわかったのかよ?」

「それをこれからアムールトラに調べてもらいましょう」

 

 メリノヒツジがそう言いながら私に”釣り竿”を手渡してくる。

 鉤爪の生えた手では物を握れないから、小脇に挟んで手のひらを添えて持つしかない。

 竿から垂れている糸の終点を目で追っていくと、さっきセルリアンが這い出てきたイボの中のひとつへと投げ込まれているのが見えた。

 竿からは微妙な振動と重さの変化が伝わってくる。糸の先に括り付けたっていうセルリアンが動き続けている証拠だ。

 

「どうだ? 本体の場所をコイツで探れないか? お前のその、千里眼みたいな感知能力で」

 

 メリノヒツジの言いたいことがわかった。

 セルリアンの習性を利用して、本体の居場所を探り出そうと言うのだ

 長い間セルリアンと戦ってきた私たちにとっては常識だが、数で押してくる幼体セルリアンというのは、それを操る本体が必ず近くにいる。

 そして戦えないほどの重傷を負った個体は、死ぬ前に本体に体を還元する。奴らの普遍的な習性だ。そうすれば本体の消耗が少なくなるからだ。

 セルリアンが個ではなく全体として生きている生命体だと言われる所以だ。

 

 私の感知能力は万能な物なんかじゃない。何でもかんでも瞬時に見通せるというものでは決してない。

 ”意”の世界に潜ることで探し出せるのは「そこに在る」という確信があるものだけだ。

 カコさんもヴェスパー親娘も、今ここで居場所を探ることは出来ない。

 ・・・・・・だがメリノヒツジがこうして手がかりを作ってくれた。竿の先に括り付けられたセルリアンの動きを把握すれば、おのずと本体の居場所もわかるはずだ。

 

__________ズウンッ・・・・・・

 瞳を閉じた瞬間、イボの先の暗闇の中へ体が落ちていくビジョンが脳裏をよぎる。

 そこは単なる落とし穴などではなかった。くねくねと蛇行しつつ、いくつもの分かれ道や袋小路がある複雑な迷宮であるようだ。

 

 形を無くした意識が、あたかも電線を伝う電気信号のようにスムーズに伝播していく。

 これまで”意”に潜る時に道具を使ったことなんてなかったけど、なかなかどうして良いものだ。

 垂らした糸がまるで自分の手のひらの一部のように感じる。道具を使うことで感覚が拡張されるなんて思ってもみなかった。

 

 ・・・・・・やがて糸の先端に括り付けられたセルリアンへと到達していた。今しがた戦った”三脚”タイプのうちの一匹だ。

 どのような形をしていて、どのように動いているか、その個体のことを出来るだけつぶさに観察してみる。

 三つの触手のうち二つがもぎ取られており、残りのひとつに糸が括り付けられている。

 大きな単眼や、その裏側にあるコアを避けるように無数の切り傷が付けられている・・・・・・メリノヒツジが「死なない程度に痛めつけた」と言った通りの有様だ。

 

 酷く傷ついた体を休むことなく動かして、私たちのいる場所から離れているのがわかる。

 その道の途中で、同じ姿形をしたセルリアンたちと何度もすれ違った。一つ屋根の下に住まう仲間といったところか。

 だが傷ついた個体は仲間のことになどまるで関心を払わず、ひたすらどこかを目指して進んでいるように見える。

 ・・・・・・思った通り、一刻も早く本体の元へ帰ろうとしているんだろう。

 

 長く暗い深淵の中を進んだ個体は、やがて野放図に広い空間へと抜け出した。

 スターオブシャヘルにまだこんな場所があったのかと驚くほどだ。

 ドーム状のその地形から連想されるのは、何万人ものヒトが集まってスポーツやら何やらを観戦する施設だ。

 だがもちろんそんな平和な場所とは似ても似つかない。

 生き物の内臓の中にいるような生理的な嫌悪感は、私たちが今いる場所と変わりない。

 

(・・・・・・な、何だ、あれは・・・・・・!?)

 

 そして見た。中心に巨大な何かが蠢いているのを。

 昆虫のサナギのような、あるいは心臓のような、何とも形容しがたい異常な姿に戦慄を覚える。

 一見してわかるのは、それが途轍もない力を持った「生命」だということだけだ。

__________ドッ、ドッ、ドッ・・・・・・

 地鳴りのような鼓動を発しているのは、ドームの天井から垂れさがる極太の血管だ。

 そのどれもが下方に不気味に鎮座する”それ”に接続され、途轍もないエネルギーを絶え間なく流し込み蓄積させていっているのがわかる。

 

__________プツンッ

 私が乗り移っていた傷ついたセルリアンが”それ”に接触した。

 その後は何もわからなくなった。セルリアンの体が瞬時に溶け落ち、存在が消滅したからだ。

 

「・・・・・・ア、アアアッッ!!」

 

 意識を本来いた所に引き戻すと、私は驚きのあまり吠え声を上げた。

 クズリとメリノヒツジが目を見開いて私を見ている。

 ・・・・・・もちろん何も教えられないわけだが、仮に私が今も言葉を話せたところで、目撃した光景を彼女たちに説明できたとは到底思えない。

 

「さあ、それを返せ」

 察したようにメリノヒツジが言ってくる。

 あたりまえだが釣り竿の先からはもう何の感触も伝わってこない。だが重要な手がかりである事には変わりないだろう。

 私たち自身がイボの中に飛び込み、糸をたどっていけば、やがてあの巨大な心臓のところにたどり着けるはずだ。

 

 ・・・・・・だが、そんな悠長なことをやっていて良いのだろうか?

 すでに”意”の世界で垣間見た。イボの中はアリの巣のような迷宮だ。私たちが通れないほどに狭い道だっていくつもあった。

 力づくで道を切り開くことも出来るだろうが、ここいらの壁や床には再生能力があるってことを考えたらかなりの手間だ。

 さらに内部には無数の”三脚”がひしめいている。いったい奴らを何匹倒せば目的地にたどり着けるのだろうかわかった物じゃない。

 

__________カランッ

 

「何してる?」

 メリノヒツジが非難めいた声をあげる。

 それも無理はない。返せと言われた釣り竿を、私がその場に放り捨ててしまったからだ。

 そしては次に片膝を付きながら、地面に転がっている竿の柄に手のひらを押し当てた・・・・・・このポーズが意味するところは、もうクズリとメリノヒツジには一目瞭然だろう。

 

「勁脈打ちだと? 一体何をする気だ?」

「オレはなんとなくわかったぜ」

 

 クズリが不敵に微笑みながら、今にも技を放たんとする私に近寄ってくる。 

「その糸を使って、ずっと下のほうまで勁脈打ちの威力を届かそうってんだろ」

「まるで爆導索みたいですね。そんなことが出来るんですか?」

「知らねー・・・・・・コイツの技だ。コイツが一番よく知ってんだろ」

 

 気持ちのいいぐらいにズバリと言い当てられて思わず微笑む。

 クズリの言う通り、私はこの糸を使って勁脈打ちをやるつもりだ。

 もちろん初めての経験ではあるが、出来る気はしている。糸というものは”意”を伝わらせる道具としては最適だ。

 糸はあの巨大な心臓が鎮座する広間にまで達している。

 勁脈打ちのエネルギーを伝わらせて爆発させれば、あそこに通じる大穴を瞬時にこじ開けることが出来るはずだ。

 

 ・・・・・・ただ不安なのは、威力が足りるだろうかということだ。

 他の物体をすり抜けて相手の急所だけを打つのが勁脈打ちという技なんだ。その性質がゆえに、過剰な破壊力を求めたことはない。

 フルパワーで放ったら一体どれだけの威力があるのかは正直わからない。

 地下深くまでを広範囲にわたって吹き飛ばすなんてことが出来るのだろうか。

 

「手伝ってやるよォ」

「あ、あう?」

__________ユラァ・・・・・・

 膝を付いた私の肩の上に、クズリがおもむろに異形の右手を乗せてきた。

 生き物の体温とは思えないぐらいの熱をじんと感じる。

 

「手伝うですって? まさかクズリさんも勁脈打ちが使えるんですか?」

「んなわきゃねえだろ。だがよ、オレの力をコイツに上乗せすることは出来るかもしれねえ」

 

 先ほどの戦いでクズリはある異変を見たというのだ。

 私が放った稲妻と、彼女が放った炎が、射線上で何度か交わった瞬間があったのだと。

 もとからして強力な破壊力を持つ二つのエフェクトが重なった時、激しくスパークを起こした。

 それによってもたらされた壁や床の損傷はより広く深く、何よりも再生するまでに時間がかかったらしい。

 その様を見たクズリは、2人の進化態の力は共鳴させることが可能なんじゃないか、と思ったそうだ。そうすればより強力な攻撃を生み出せるんじゃないかと。

 

「おら、物はためしだ。やれよ」

 

 言うなりクズリは肩の上に置いた手に力を込めてきた。

 火傷しそうなほどの熱を肩からじんわり感じる・・・・・・が、力が強まっているかどうかというのは正直よくわからない。

 深く深く意識を潜らせていくと、クズリの右手から発せられる熱すらも瞬時に感じなくなってしまった。

 

 後はいつもと同じだ。打つと決めたものを打つ。

 垂れさがった糸の隅から隅までに狙いを研ぎ澄まし、揺らぎと化した己を全力でぶつける。

 クズリが貸してくれた力の分まで余すことなく送り込む・・・・・・

 

≪あ、ああ、なんだこれは!?≫

 

 意識が戻りきるまではどうしても感覚が鈍くなる。

 すぐ近くにいるはずのメリノヒツジの声が遠くから聞こえるような感じがする。何やらひどく驚いたような声色だ。

 だが目を開けると間もなく、彼女が絶句する理由がわかるのだった。

 

__________ゴォォォォッッ・・・・・・

 

 私たち3人がいるすぐ目の前には、直径数十メートルほどもある大穴が空いていた。

 深さはもはや目視では分からないが、下から絶え間なく吹き込んでくる生暖かい風が、断崖絶壁の前に立っているという実感を五体に与えてくる。

 ・・・・・・信じられない。私のフルパワーにクズリの助力を加えた勁脈打ちが、これほどの破壊力を産んだとは。

 

「くっせえなァ」

 功労者たるクズリは、断崖の淵に身を乗り出しながらそんな感想を漏らしていた。

 目の前の有様に驚くでもなく、生温かい風が運んでくる匂いに反応しているんだ。

 

「セルリアンの腹ン中と同じ臭いがするな。まだ食われてもいねえってのに・・・・・・こりゃあ相当なヤツがこの下にいるぜェ」

「・・・・・・やはり女王なのでしょうか」

 

 ずいぶん昔に聞いた話だ。

 クズリは動物だったころセルリアンに捕食されたんだ。完全に消化される前に死体が取り出され、ヒグラシ所長の手でフレンズへと生まれ変わった。

 この臭いは、彼女にとっては死そのものを想起させる物なのだろう。

 

「・・・・・・クククッ」

__________ダンッ

「なっ、ちょっと!? 待ってくださいよ!」

 

 クズリが何の前触れもなく動いた。

 私とメリノヒツジに合図もなく、一人でさっさと大穴の中へ身を投げたのだ。

 遠い目で昔を思い返していたように見えたが、まったくの見当違いだった。

 出会った頃からああいう奴なんだ。恐怖などという感情は、より闘志をたぎらせるための燃料でしかない。

 

「賽は投げられた」

「あ、あうっ?」

「・・・・・・もう後には引き返せないという意味さ」

 

 青ざめたメリノヒツジが覚悟を決めたように呟きながらクズリに続いた。

 彼女の言う通りだ。後には引き返せない。そしてカコさんを取り戻すまでは戻るつもりもない。

 

 決意とともに私も飛び降りる。

 いつ着地するかもわからない大穴の中を落ちていると、おもむろにゲンシ師匠に言われた言葉が頭の中に立ち上ってきた。

≪次に起きた時、おめェにとって最も大事な時がやってくるだろう。最後の、最大の試練だ≫

 ・・・・・・不思議な気分だ。これまで戦ってきた意味も、私がこの世に生まれた意味さえも、今ここに集約されているような気がする。

 

__________バチュンッ

 

 前後不覚になるぐらい落下し続けていると、横にも縦にも広いドーム状の空間へと抜け出した。

 赤黒い床が、水音とともに私たちの体を受け止めるのがわかる。

 

__________ドッ、ドッ、ドッ・・・・・・

 腹に響くような鼓動を震わせて、巨大な黒い心臓が鎮座していた。

 あまりにも禍々しい”それ”は、天井のパイプから注ぎ込まれ続ける途轍もない生命力を、動かずにひたすら内側に押し込めている。

 その黒っぽい体表のところどころが、虹を溶かし込んだように七色の光を放っている。

 眼球と思しき丸い縁取りが体の中央にはあるが、何かを見ている様子はない。

 目ではなくただの「窓」とでも言うべき無機質さだ。

 

 ・・・・・・すでに一度見た物体ではあったが、自分自身の体で対峙した時の存在感は段違いに強烈に思える。

 この異常なプレッシャーは何だ? 恐怖よりももっと原始的な、得体のしれない威圧感だ。

 

「あ、あれが女王なのか?」

 メリノヒツジが私の感想を代弁するかのようにつぶやいた。

 だが目の前にいるあの女王は、最初に見た巨大植物と同種族であるとはどう見ても思えない。

 

 プレトリアにて核爆発のエネルギーを得て誕生した巨大植物は、後先考えずに凄まじいスピードで成長し、すぐに自壊してしまった。

 いっぽうで目の前にいる女王はとても静かだ。 

 急成長してスターオブシャヘルを崩壊させるといった可能性はひとまずは無いように思える。

 

「・・・・・・そろそろ来ると思っていたぞ」

 

 静かに鎮座する巨大な女王の影から、点のような人影が姿を現した。

 一見しただけでは何者かはわからない。ダボっとした白い防護服によって全身が覆い隠されてしまっているからだ。

 

「お前たちはじつに幸運だ。この歴史的な瞬間を目の当たりに出来たのだから。

 私の御業の偉大さを身に噛みしめながら死んでいくのだから・・・・・・」

 

 だがこの声を聞き間違えるはずもない。

 通信機のたぐいを介さない肉声を放つその姿は、決してホログラムの写し身なんかじゃない。

 グレン・ヴェスパー・・・・・・私たちに悲劇を齎し続けた根源たる男が、同じ空間に立っている。

 

「ノコノコ出てくるたぁ、もう死ぬ覚悟が出来てんのか?」

「どうせ卑劣な罠でも仕掛けているんでしょうがね」

 

 クズリが鉤爪に炎を灯らせ、メリノヒツジが虚空から呼び出した槍を構えた。

 血に飢えた二匹の猛獣が、恨み骨髄の相手へ向かって、爆発寸前の殺気を向けている。

「・・・・・・あ、あうっ!」

 このままじゃ本来の目的から外れたまま2人が戦闘を始めてしまう。それを恐れた私は慌てて2人よりも前に出てグレンに視線を投げかけた。

 

「フッ・・・・・・シベリアンタイガー。お前の探し人も勿論ここにいる」

 

 グレンが私の無言の問いかけを見下すように鼻で笑うと、パチンと指を鳴らし、そのまま片手を掲げ、すぐ傍らにいる女王を指さした。 

 グレンの鳴らした指が合図になったかのように、女王の体が一部分だけ透けて見えてきたのだ。

 それはちょうどあの瞳のような部分の周辺だった。

 

(ま、まさか・・・・・・)

 

 黒く濁った液体の中に彼女の姿があった。

 固く瞳を閉じて、一糸まとわぬ白い陶器のような四肢を力なく投げ出して、カコさんが浮いていたのだ。

 

「ア、ア、ア・・・・・・」

 もうすべて手遅れになってしまったんじゃないか、という予感に顔面が青ざめさせながらカコさんの傍へ近づこうとした。

 しかし透けていた女王の体は一瞬で元の黒ずみを取り戻し、彼女の姿を覆い隠してしまった。

 

「待て! 落ち着け! ・・・・・・カコ・クリュウを殺したのか?」

 メリノヒツジが茫然自失の私の肩を掴んで制止しながらグレンに問いかけた。

 グレンは「違うな」とゆっくりと首を横に振った。

 

「生体コアとはまさしく生体。生きた部品なのだ。殺してしまっては用を成さぬよ」

「コアが再び意識を取り戻すことはあるのか?」

「そのような可能性は想定していない」

 

 カコさんはひとまずは死んでいない。しかし再び目を覚ますことはない、というのがグレンの答えだった。

 いまの彼女は細胞レベルで女王と繋がりつつあるのだと。

 大脳皮質に女王の”胚”を埋め込んだからだ。

 女王の細胞が、胚に接続することを求めてカコさんの脳の中に侵入してくる。時間が経てば経つほどに同化は進んでいく、というのだ。

 

「やがてあの美しい女の姿は失われ、他の臓器と遜色ない姿となるであろう」

「ガウウウッッ!」

 

 身をよじるような怒りが私から正気を奪い去ろうとしてくる。

 怒りは絶望とセットでやってきた。カコさんが戻らないなら世界に希望はもたらされない。

 ・・・・・・ならばもうどうでも良い、と思ってしまいそうになった。

 

__________ガシィッ

「何あきらめようとしてんだァ?」

 が、肩に乗せられた手のひらの高熱が私を正気へと揺り戻した。

 この熱はさっきから触れていたメリノヒツジではない。クズリの異形の手のひらから発せられるものだ。

 

「アムールトラよぉ、オレはてめえにボコられて一度死んでたらしいんだよなァ・・・・・・でもまだ生きてるぜ? てめえも今はこうして正気を取り戻してる。それはどうしてだァ?」

「ウウッ?」

「オレたちにツキが巡ってきてるからに決まってんだろうが」

 

 クズリはそれだけ言って私から手を離すと、再び手のひらに黒い炎をともして前に出た。

 根拠はなくても、ともかく自分たちに幸運が巡ってくると信じる。

 上手くいかない可能性なんて意識の片隅にも登らない。

 そんな気風をほとばしらせる彼女が、御託はいらないと言わんばかりに会話から戦闘へと場の空気を切り替えた。

 

「援護しますっ!!」

 最初に動いたのはメリノヒツジだ。

 怒声とともに無数の投げナイフが、機関銃のような勢いでグレンめがけて投げつけられる。

 そして、ナイフに先んじる形でクズリが先陣を切っていた。

 音速に迫る素早さでいつの間にかグレンに接近し、黒い炎を発する鉤爪を振り下ろしていた。

 

 ・・・・・・これで決まりかと思った。

 ただのヒト一人を相手に、百戦錬磨のフレンズ2人がかり。常識で考えれば余りにも一方的な組み合わせだ。

 そのうえ今のクズリの動きはヒトの反射神経を遥かに超えている。自慢じゃないがあれを見切れるのは私だけだ。

 

__________ガイインッ!

 

「ぐっ、何だァ!?」

「・・・・・・それで私を攻撃しているつもりかね」

 

 とつじょ地面から黒色の壁が隆起し、クズリの爪の一撃を受け止めた。

 そして数コンマ遅れて飛んでくるメリノヒツジの投げナイフも、グレン・ヴェスパーの体のすぐ手前で、新たに現れた別の障壁に突き刺さって止まった。

 

「なぜ私がわざわざお前たちの前に姿を現したのだと思う?」

 

 謎の障壁に守られて傷一つ負っていないグレンは、その場から一歩も動かないまま、あざけるように溜息をついた。

__________ギチギチギチッ

 障壁が生々しい音を立てながら蠢く。そして無数の空虚な”瞳”がびっしりと表面に現れた。

 その正体は無数のセルリアンの集合体だったのだ。

 

「理由はただ一つ。勝利を確信しているからだ・・・・・・何度でも来るといい。お前たちが絶望するまでここで見ておいてやろう」

「舐めてんじゃねえよっ!」

 

 怒気を纏わせるクズリが力任せに障壁を引き裂く。

 セルリアンの集合体たる黒い壁が難なく四散する・・・・・・しかし無数の黒い肉片は消滅することなく、形を保ったまま空中で制止した。

 

__________ドキュキュキュッ!

 かと思いきや、肉片が意思を持ったように動き出し、機関銃のごとくクズリに飛んできた。

 思わぬ反撃を前にして、さしもの彼女もいなすのが精一杯で、反撃に転じることはできなかった。弾のいくつは躱しきれず、異形の右手で受け止めていたようだった。

 

 いったん引いたクズリが「おい」と私へ一瞥を投げかけてくる。

「・・・・・・ガオオオッッッ!!」

 彼女の意図を察した私は、相槌の代わりに獣じみた唸り声を発した。

 私は私のまま戦い抜いてみせる。

 そんな決意の咆哮とともに戦闘のスイッチを入れて、同じ黒い炎を鉤爪に灯すクズリの横に並び立った。

 

__________ドギャギャギャッッ!

 

 どちらからともなく呼吸を合わせてグレン・ヴェスパーを挟みこむと、持ちうる限りのパワーとスピードで連続攻撃を仕掛けた。

「・・・・・・こ、こんなの見切れっこない!」

 少し離れた所で武器を構えているメリノヒツジが絶句している姿がチラリと見える。

 援護射撃をしようとしてくれているのだ。だがタイミングを見つけられないために動くことが出来ないでいるようだ。

 

 交錯する稲妻、あるいは竜巻。

 ひいき目に言って私とクズリの連携はそれぐらいの密度があると思う・・・・・・が、しかしグレン・ヴェスパーにはまるで通じない。

 奴は一歩も動いていないし、そもそも私たちのことを目で追ってすらいない。

 にもかかわらず、攻撃が奴に届く一歩手前で受け止められてしまうのだ。

 

 奴の周囲には、セルリアンとおぼしき虚無の一つ目を生やした夥しい数の黒い球体が飛び回っている。先ほどの障壁と同じように、それらが私たちヤツへの攻撃をことごとく遮断してしまっているのだ。

 

「進化したフレンズが2匹揃ってこうも無力とは・・・・・・情報を下方修正しなくてはなるまいか」

「見損なうのは早いぜっ!」

 

 阿吽の呼吸でいったん引き下がると、私とクズリはそれぞれ自身の内側から湧き出る黒いエネルギーをチャージしていった。私は突き出した両腕に雷を、クズリは顔の前に掲げた右手に炎を・・・・・

 私たちに備わった進化態の力は、重ね合わせることでより威力を増すのはすでに実証済みだ。

 そしてそれが今出来る最も強力な攻撃であるに違いない・・・・・・いかに奴が大量のセルリアンに守られていようと、防御ごと焼き尽くすことが出来るはずだ。

 

「行けえっ!」

「ガアアアッッ!」

 

 限界まで凝縮した雷と炎を同じタイミングで打ち放つ。

 空中で重ね合ったふたつがスパークし、視界を覆うほどに眩しい光と化した。

 地面を吹き飛ばしながら突き進む閃光に、微動だにしないグレン・ヴェスパーが包まれた。

 

__________シュウウッ・・・・・・

 光は数秒ほどで収束し、周囲の様相が露わになっていった。

 深々と抉り飛ばされた地面の様相を見て、その強烈な威力に、私たち3人の誰もが戦いの終結を予見した。

 

「やれやれだ・・・・・・やはり愚かな畜生どもにはわかるまいか」

 

 しかしそんな予想はあっけなく覆されることになる。

 防護ヘルメットごしに嘲る笑みを浮かべながら、グレン・ヴェスパーは健在のまま立っていた。

 無数のセルリアンが寄り集まって作られた黒い結晶体が、強固な盾のように奴の前方に出現し、私たちの攻撃を防ぎきってしまっていた。

 

__________バチバチバチッ

 今度はグレンのいる側が眩く光り始める。

 宙に浮いた結晶体が電流を放ちながら白熱化してきている・・・・・・。

 

「危ない! 避けてください!」

 メリノヒツジが飛び出し、黄金の盾を展開しながら私たちの前に立った。

 結晶体から途轍もないエネルギーの奔流が放たれ、先ほどと同じように眼が眩む光が視界を包んだ。光の出どころはさっきとは真逆だ。

 

 ・・・・・・メリノヒツジは反撃が飛んでくることを予測していたのか、先んじて動き私とクズリを庇ってくれたのだ。

 しかし完全に防ぎきることは叶わなかった。

 光のいくらかは金色の盾によって左右に分散されたが、ほどなくして盾が粉砕されメリノヒツジを直撃し、後ろにいる私たちもろとも爆風に吹き飛ばされた。

 

「が、ガハァ!」

「メリノっ! しっかりしやがれ!」

「・・・・・・く、クズリさん、謎が解けてきましたよ」

 

 メリノヒツジが地面に倒れ込みながら呟く。

 彼女は私とクズリを庇ったことで全身が焼けただれるほどの重傷を負ってしまっていた。

 

「2人が攻撃を加えれば加えるほど、敵の動きがだんだん良くなってきているように見えました。まるでこちらの攻撃を学習しているかのように・・・・・・そして今の攻撃の正体も恐らく、こちらを模倣した物・・・・・・」

「目ざといヒツジよ、最初に気付くのは矢張りお前だったか。その洞察力は褒めてやろう・・・・・・だがもう何もかも遅い。ここに足を踏み入れた時点でお前らの敗北は確定していたのだ」

 

 勝ち誇ったグレンは己のすぐそばにある”巨大な心臓”に触れ、それを満足げに見上げながらつぶやいた。

 

「女王とはお前らの目の前にある”これ”のことではないぞ。

 これは単に女王のコアでしかない・・・・・・先ほどからお前たちが足を踏み入れている、この区画全体が女王の肉体であり、餌場なのだ!

 お前たちはそうとも知らず、女王に数多くの糧を与えてくれた。本当に感謝する」

「・・・・・・か、糧、だと・・・・・・?」

 

 セルリアンの女王の特質とは、周囲のエネルギーを捕食し、それを糧に無制限に自己進化し続けることだという。

 しかし最初にプレトリアにて生まれた女王は、捕食する対象が定まっていなかったために、周囲のありとあらゆる物質を捕食して成長を遂げようとした。

 結果として成長スピードにエネルギー供給が追いつかず、あっという間に栄養が尽きて動けなくなってしまった。

 

「あまりにも無差別な女王の捕食行動は致命的な弱点だ。それにブレーキをかけるためにも、カコ・クリュウという生体コアを通じてコントロールする必要があったのだ。

 その結果この新たなる女王は、捕食する対象を明確に限定することに成功している」

「そ、その対象とは・・・・・・」

「メリノシープ、お前はもう気付いているな? そう、貴様らフレンズの、サンドスターを伴った攻撃エネルギーだ!」

 

 ここにたどり着くまでに私たちのことを襲ってきた無数の小型セルリアン。

 あれらは女王を成長させるために、グレン・ヴェスパーが意図的に差し向けた物だったらしい。

 私たちが小型セルリアンを蹴散らせば蹴散らすほど、その攻撃が女王の糧となっていった。 

 私の放った稲妻が、クズリの放った炎が、女王を着実に成長させていった。

 その結果、私たちと遜色ない威力の攻撃まで放てるようになってしまった、というのだ。

 

「・・・・・・もうひとつ気になっていることがあるだろう。なぜ女王が私のことを守るのか、その秘密はこれだ」

 

 グレンがおもむろに防護服の胸元にあるポケットを開き、そこに入っている物体を掲げて見せてきた。

 それはペンダントだった。細い鎖で編まれた紐の先に、手のひらに収まるほどの小さなガラス玉が取り付けられている。

 いっけんして何の変哲もない首飾りに見えたが、ガラス玉の中には、よく見ると何か異様な物体が入れられていた。

 

 虹色に輝くとても小さなそれは、どうやら生命体のようであった。

 ・・・・・・カニか、あるいはクモみたいな複数の脚を生やした胴体に、蛇のような長い尻尾が生えている。脚と尻尾をコンパクトに丸めてガラス玉の中に収まっている。

 

「・・・・・・女王の胚だよ。カコ・クリュウの脳に埋め込んだ物の片割れだ」

 

 女王の生命の源に等しい胚。

 それを手中にしているグレンは、女王の体内にいるカコさんと等しく、女王に守られる存在と化しているのだという。

 あの胚がグレンの手元にある限り、私たちの攻撃が奴に届くことはない・・・・・・

 

「お分かりいただけたかな? ・・・・・・権力と財力を極めながら、最強の武力すらも手にした今の私はもはや、神にも等しい存在なのだ」

 

 グレンが奇妙な挙動を始めた。

 掲げた両手を広げたり閉じたり、それはまるでオーケストラの指揮者のような動きだった。

 ・・・・・・すると奴の周囲を飛び回っていた小型セルリアンが、奴の手の動きに合わせて激しく目まぐるしく動き出した。

 

「さあ、絶望の時だ!」

 ほくそ笑むグレンが両手を振り下ろした瞬間、小型セルリアンが一斉にこちらに向かって飛んできた。

 

 to be continued・・・




_______________Cast________________

哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種
「アムールトラ」 
哺乳綱・鯨偶蹄目・ウシ科・ヤギ亜科・ヒツジ属
「メリノヒツジ」
哺乳綱・ネコ目・イタチ科・クズリ属
「クズリ」

_______________Human cast ________________

「久留生 果子(くりゅうかこ)」
年齢:26歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「PARK」構成員 南アフリカ事業所代表
「グレン・S・ヴェスパー(Glenn Storm Vesper)」
年齢:74歳 性別:男 職業:Cフォースアメリカ本部総督ならびにアトランタ研究所所長
「ジェームス・F・ゴードン(James Feynman Gordon)」
年齢:72歳、性別:男、職業:Cフォース本部 防諜担当副次官

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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