けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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過去編最終話 「あるいっしょうのおわりに」

「お見苦しい所で済まないが」と、ハルカ君を招き入れながらドアを閉める。

 

 寝室には私とシガニーのベッドがそれぞれ並んでいたが、普通のベッドでしかないシガニーのそれとは違って、僕のはギャッチアップ機能を備えた手すり付きだった。

 ベッド脇のナイトテーブルにはいくつもの薬の瓶や血圧計なんかが乱雑に置かれていて、何とも言えない薬臭さが充満している。

 いかにも病人の寝床といった有様だ。

 

 ・・・・・・が、ここでなら2人きりで思う存分話すことができるだろう。

 ハルカ君は青ざめながら重苦しいため息をついている。一体これから何を話してくれるというのだろう?

 

「・・・・・・セルリウムという素粒子のことをご存じでしょうか?」

「いいや。何のことだい?」

「サンド型ニュートリノ粒子・・・・・・サンド線が反物質化し、大気中においても安定した状態となったもの。それがセルリウムというそうです」

 

 静かな口調で、謎の言葉について語りだすハルカ君。

 セルリウムという物は聞いたことがないが・・・・・・サンド線、もといサンド型ニュートリノ粒子のことについては僕も良く知っている。

 かつてそれは僕の専門領域だった。

 フレンズの誕生に関与する放射線だ。

 空気中では存在することが極めて難しく、空気中に暴露したところで大抵はすぐに分解されて消えてしまう。

 

 が、ごくまれに強い波長を持ち、可視化できるほどの光を伴いながら、ごく短時間だけ空気中を漂うことがある。

 それがサンド線の重粒子たる状態。つまりサンドスターだった・・・・・・

 天文学的な確率で出現したサンドスターが、生命体に取り付くことで異常な細胞分裂を促し、ごくまれにヒト型の特殊生命体フレンズへと変異させるのだ。

 

 補足的な情報になるが、体内のサンドスターにてエネルギー変換を行うためには、肺呼吸によって酸素循環をする必要がある。

 このような事情から「肺呼吸すること」がフレンズ化の前提要因となる。

 肺呼吸を行う爬虫類、鳥類、哺乳類・・・・・・いずれかの種族でなければフレンズになることはできない。

 エラ呼吸を行う魚類や、全身にある気門によって呼吸を行う節足動物では、サンドスターを用いたエネルギー変換には不向きなのだ。

 

 フレンズの体内に宿るサンドスターは、いわば微小かつ無数の核融合炉のようなものであり、摂取した食料などから得られるカロリーを、驚くべき変換効率にて運動エネルギーに転化する働きを備えている。

 ・・・・・・それが彼女たちの途轍もない身体能力の秘密だ。

 彼女たちの肉体から、常に微量のガンマ線などが放出されている理由。

 それは、エネルギー変換を行った際の余剰物を、呼吸などから排出しているためだ。

 

 人工的にサンドスターを生み出すことは現在の技術では不可能だった。

 大がかりな機器を用いて、屈折率と波長パターンを疑似的に再現したところで、不完全なサンド線を作るのがせいぜいだった。

 空気に触れない密閉された容器の中で、肺呼吸生物の死体にサンド線を浴びせる。

 そうすることで人為的にフレンズを作り出すというのが、かつての僕の仕事だった。

 

 原発事故などで流出したガンマ線に、近隣の住民が被ばくするといった事件が何十年も前から社会問題になっている。

 が、あのような事態がサンド線で起きるとは考えにくい。

 たとえサンド線がサンドスター状態になったとしても、宿主を見つけられなければ短時間で分解されてしまうはずだ。

 

 また、ジャパリパークに住んでいる僕らは、常日頃からサンド線を含んだ土壌にて栽培された作物を口にしているが、それで健康に問題が起きることもない。

 観測部署が何度も検証し安全性を確認している。

 

 このことについて説明するためには、そもそも植物というものが成長する機序から語る必要があるだろう。 

 ごくわずかな例外はあれど、植物は基本的に光合成をしなければ育つことが出来ない。

 生き物が呼吸するのと同じように、日光、水、二酸化炭素を用いたエネルギー変換を、種として生まれてから枯れるまで繰り返すことを宿命づけられている。

 

 そしてサンドスターは植物の光合成にも関与する。 

 フレンズの肉体同様に、常識を超えたエネルギー変換効率を得た植物は、驚くべきスピードで成長を遂げる。

 根を伸ばし、葉を茂らせ、次の世代に命を繋ぐために実を付ける。

 が、成長の過程において出現したそれらの部位にサンド線が残留することはほぼ全くないと言っていい。 

 

 どうやらサンド線は何か別の物質に変異した段階で消えてしまうらしい。

 植物が光合成によってタンパク質やビタミン、ミネラルなどを取り出した段階で、成長を遂げた葉緑体からは消滅してしまうのだ。

 

 理屈の上では、作物の栽培を繰り返すごとに、土壌に含まれるサンド線が減少してしまうことになる。しかしこの20年間定期的に測定された結果によると、ほとんど数値の減少は見られていないらしい。

 計算では、人類が化石燃料を使い切ってしまうよりもずっと長持ちするだろうとのことだった。

 やはり変換効率が抜群に優れているからだろう。

 フレンズの肉体がなぜ半永久的にサンド線を保持し続けるのかは謎が多いが、遺伝子レベルでサンド線を生成できる酵素を備えている可能性が高いと僕は見ている。

 

 とにもかくにも、サンドスター、もといサンド線は空気中に安定して存在することが難しく、土壌に含まれたとしても人体に害を与える可能性が極めて低いと言って良い特殊な放射線だ。

 

 と、このように、サンド線のことに関しては我ながら指折りの識者であるという自負がある。

 しかしサンド線の反物質セルリウムなどという物はついぞ発見することは出来なかったし、存在しているとも思っていなかった。

 

「いったいどういうものだい?」

「はい、それは・・・・・・」

 

 セルリウムはサンドスターとは真逆の性質を持ち、大気中においても安定した状態を得ている。

 つまり空気中で減衰、消滅することがなく、すでに世界中の大気にバラ撒かれてしまっているという。

 

 既存のガイガーカウンター等では測定が不可能であり、極めて高い透過力を持っているために遮断することも出来ない。

 サンドスターが光り輝くのとは対照的に、その見た目は黒色でススや埃などと区別が付きづらい。その目立ちにくい外観からは、有毒な放射性物質だと判断することも難しい。

 そのために今まで発見されることなく放置されてきたのだというのだ。

 

「フレンズの誕生にサンドスターが関与しているのと同じように、セルリウムはセルリアンの誕生に関与していると考えます」

 

 表裏一体の性質を持った二つの物質が同時期に地球上に出現し、競い合うようにして世界中に分布を広げていったのだとハルカ君は推理する。

 ・・・・・・そして、その延長線上にあるのがフレンズとセルリアンなのだと。

 ふたつの種族の戦いは、いわばサンドスターとセルリウムの代理戦争であり、どちらかが滅びるまで戦い続ける運命にあるのだと。

 

 サンドスターは既存の生命体に取り付き、宿主に爆発的な成長エネルギーを与える。

 フレンズは自身の中にある本能や意志に応じてサンドスターから加護を受ける。

 アムールトラやクズリのように、己を研ぎ澄ませたフレンズほど強大な力を得る・・・・・・やがて自分自身ですら制御しきれなくなるほどの力を。

 

 いっぽうのセルリウムは宿主を求めることなく、無の中から新たな生命体を創造し、それをある一定の法則の中で使役する。

 セルリウムの基本原理は「再現すること」に他ならないという。

 原始的なアメーバから始まり、動物、植物、果ては機械類に至るまでを再現し、自己増殖のための雛形とする。

 無限のトライアンドエラーを繰り返し、より優れた生命の在り方を模索する生命体・・・・・・それがセルリアンなのだと。

 

「ま、待ってくれ! 僕にはとても理解が及ばない。セルリウムが存在するという根拠は何なんだ?」

 

 熱に浮かされたように話し続けるハルカ君を制止する。

 言っている内容があまりに突拍子もないからだ。

 いかに彼が優れた頭脳を持っていようとも、往年の学説を根本から否定するような内容には簡単に賛同できない。

 

「根拠は・・・・・・母のメモです」

 

 ハルカ君がその時のことを、今しがた体験したことのように語りだす。

 ある日、彼が暮らしている家で、その出来事は起こったという。

 上層のジャパリパーク職員が立派な居を構えるセントラルタウンの住宅地の中でも、組織のリーダーであるカコ・クリュウ女史が住まう邸宅は、別格の敷地と厳重な警備を持つ豪邸だ。

 

 多忙を極めるカコ代表が自宅に戻るのは、1か月に一度あるかないかの稀な出来事だった。

 そして母親ほどではないにせよ、ハルカ・クリュウ少年もまた、観測部署のメンバーという職を得た今となっては、生活のほとんどの時間を外での仕事に費やしていた。

 

 そんな冷え切った関係である母と息子が、ある日顔を合わせることになったという。

 カコ代表がハルカ君のことを呼び出したのだ。仕事の進捗状況を報告させるためだったという。

 仕事上で得られた情報などはすべてデータ化して提出しているはずなのに、何故わざわざ口頭で伝えなければならないのか、とハルカ君は疑問に思ったそうだ。

 が、反抗する理由もなく、とにもかくにも言われるがまま、普段は固く閉ざされたカコ代表の執務室に向かった。

 

 彼が部屋に入った時、カコ代表はデスクに座って外の景色を眺めながら、部下の誰かと電話をしていたという。

 電話が済むまでは待ちぼうけだ・・・・・・そんな時、謎のメモを見つけたという。

 埃一つなく磨かれた応接用の机の上に、古ぼけたノートが不自然に置かれていたというのだ。

 ハルカ君は良くないと知りつつもノートを手に取った。しかし電話に気を取られていたカコ代表は息子の盗み見行為に気付くことはなかった。

 

 中には複雑な数式がびっしりと記載されていたという。

 一般人がそれの意味を理解することは困難だったろうが、ハルカ君ならば話は違った。

 彼は以前から自分流の思考実験を繰り返していた。

 サンドスターに近しい、しかし性質の異なる物質が存在するのではないかと思い当たり、数式にて立証しようとしていたが、最後の詰めの時点で破綻が生じてしまい上手く行かなかったという。

 

 ・・・・・・ノートの中にはあろうことか、ハルカ君の思い描いていた数式と同じ物が書かれていたというのだ。それも完璧な形で。

 彼にとっては、とてもじゃないが冷静ではいられなくなるほどの衝撃の体験だった。

 ノートを垣間見たのは、時間にしてみれば僅かな間のことだったが、彼の脳内は数式を完全に記憶したという。

 

 そういえば彼には、幼い頃、ある種の瞬間記憶能力のような物があったことを思い出した。

 成長するにつれて失われたとばかり思っていたが、念願の数式を忘れんとする情動が再び眠れる能力を掘り起こしたというのか。

 

「わ、わかった。ひとまず信じよう・・・・・・それで、セルリウムが実在するとして、君はそこからどのような事態を予見する?」

「・・・・・・セルリウムは、人類を絶滅させます」

 

 静かな口調で、ぞくりと肌を刺すようなワードを告げるハルカ君。

 昨今の人間社会の衰退に関する話だ。

 人体に蓄積したセルリウムは生物濃縮を起こし、その汚染は子を成すごとに濃くなり、遺伝子障害を引き起こす。やがて子孫を残せる個体が途絶する。

 それは人類絶滅に向かって突き進む片道列車だった。

 

 ハルカ君の予想では、およそ100年から200年の間に人間は絶滅の危機に見舞われるだろう、というものだった。

 人類絶滅に伴って多くの生物種も滅ぶ。

 だが、フレンズ化することが出来た動物や、セルリウムによって生み出されたセルリアンたちは繁栄を謳歌する。

 植物も問題なく生い茂り、サンドスターとセルリウムの争いの枠外に位置する魚類や節足動物も変わりなく生きていくだろう・・・・・・と。

 

「そう、か」

 一通り話を聞くと、目を閉じて思案を巡らせた。

 人類の待ち受ける運命いかんに関わらず僕はもうじき死ぬ。

 だが残されたシガニーやアマーラたちに幸せに生きてほしいという想いは強い。

 これから彼女たちがどんな苦境を辿るか、考えただけで胸が張り裂けそうになる。

 

 しかし同時に「避けようがないこと」と、諦念めいた気持ちにもなってくる。

 人類はついぞ失敗から学ぶことがなかった。自らを万物の霊長であると驕り、自然を弄び、核を弄び、しまいにはフレンズを弄んだ。

 これがその報いなのだとしたら、甘んじて受け入れるしかないではないか。

 

「僕はいやだ。滅びたくなんかない・・・・・・」

 

 ハルカ君は諦めるつもりはないようだった。

 どのような時代であっても若者には未来を輝かせる権利があるはずだ。

 そのうえ彼には持って生まれた特別な才能がある。それが発揮されないまま終わることがどんなに悔しいことかは察するに余りある。

 

「君はすでに人類を救う手立てを考え付いているとみるが?」

 おもむろに思ったことを聞いてみた。

 ハルカ君の苦悶の表情が、ただ未来に絶望しているだけには見えなかったからだ。

 すでに思うアテがある者の顔をしている。自分が背負い込むことになるであろう荷の重さを自覚している顔だ。

 こういう表情はカコ代表に良く似ている。血は争えないんだな・・・・・・

「はい」

 僕に看破されたハルカ君が白状するように語り始める。

 ここからが彼の話の骨子だと思い、心して聞こうとその母親似の瞳を見つめた。

 

「人類が生き延びる道は二つしかありません。ひとつは星を捨てて宇宙に飛び立つこと。もうひとつは、セルリウムに汚染された地球上でも生きていけるように肉体を義体化することです」

 

 宇宙に飛び立つというのは平々凡々なアイディアだろう。誰もが真っ先に思いつくはずだ。

 近年では宇宙開発技術も進んでおり、数十万人を乗せて、数百から数千年航行できる超巨大宇宙船の開発が行われているとの話も聞く。

 ・・・・・・だが宇宙に逃げたところでその先は保証されない。地球と同じく生命を育んでくれる星にたどり着けるとは限らない。

 

 そもそもの話、八十億もいる人類のうちの何パーセントが宇宙船に乗り込める? 

 これから何十年もかけて目いっぱい準備したとして、良くて10パーセント行くかどうかだ。

 政治家や資産家、それに類する者たちなどの上流階級に限られるだろう。

 さらには宇宙船の乗船権を巡って新たな争いが起きることだって考えられる。とてもじゃないが、人類を救うには程遠い焼け石に水のような案だ。

 ・・・・・・だがハルカ君の言うもうひとつの案が気にかかる。肉体の義体化とは?

 

「僕はこの義体を仮に”アニムス”と呼ぶことにしました」

 

 ハルカ君が知性(アニムス)と名付けたそれは、人間がフレンズとともに未来の地球を生きていくための苦肉の策だった。

 今の技術ならば、義体とやらを作ることも確かに出来るとは思う。

 最新のテクノロジーを用いれば、実に人体の90%近くを人工物に置換することが可能であると聞いている。

 

 にも関わらず、いわゆる人造人間のような物が開発されないのには至極単純な理由がある。

 脳が作れないからだ。いかに優れた性能を持つスーパーコンピューターであろうと、人間の脳のように感情を持ち、外部要因の影響を絶えず受け続ける不正確な思考回路は持てないのだ。

 コンピューターは結局のところ性能の良い計算機でしかない。ほどよく冗長さを持った人間の知性を再現することは出来ない。

 

「いいえ。再現はきっと出来ます。非常に優れたコピー能力を持った、とある生物の性質をうまく利用すれば」

「き、君が言っている生物とはまさか・・・・・・」

「セルリアンです」

 

 ハルカ君の発想は常人ではおおよそ理解も及ばないものだった。

 確かにセルリアンは優れたコピー能力を持っている。地球上のあらゆる生物や機械を、種の生存のために模倣してきた事実がある。

 ・・・・・・だが、よりにもよって、セルリアンに人間の人格をコピーさせるなどとは他に誰が思いついただろうか。

 

 人工的に作られた義体の中にセルリアンを封じる。そしてセルリアンの中に自身の記憶を移し込ませる。

 然るのち、目覚めた義体は元の人間の記憶と思考を引き継いで自立行動を始める。

 クローン人間とは違って、作り物の体を持ったアニムスならば、セルリウムに汚染された地球上でも生きていける。自分自身は生きられなくても、自分の分身を未来に生かすことができるのだ。

 ・・・・・・それがハルカ君の提唱する”アニムス”の全容だ。

 

「こ、このことを他の人に相談してみたかね?」

 

 正直な話、僕ごときでは付いて行くだけで精一杯な内容だったが、ハルカ君の考えていることが実現するのなら、多くの人間が救われることになる。

 ハルカ君の言葉はただちに世間に知られるべきだと思う。

 少なくとも遺伝子障害の原因が、未知の放射線セルリウムであることだけでも知るべきだ。

 

 そのうえで、宇宙に逃げられる者はその準備をするべきだし、それが叶わなくても肉体のアニムス化に一縷の望みを託すことが出来る。

 人類を絶滅から救う研究は、ハルカ君にとって一生をかけた大仕事になるはずだ。いったいこれからどれほどの苦労が彼を待ち受けていることだろう・・・・・・

 だが彼が研究を成し遂げた暁には、母親に勝るとも劣らない偉人として歴史に名を残すはずだ。

 

「・・・・・・いいえ。まだ誰にも。ヒグラシ先生が最初です」

 

 ハルカ君はひどく迷っているように見える。

 素晴らしい考えを持っているにも関わらず、こうして人目を忍んで僕に打ち明けるのが精一杯という感じだ。

 いったい何を恐れ逡巡しているのだろう?

 

「まず大前提として、母は僕に先んじて全てを知っています・・・・・・とするのなら、あの人の意向をもっとも警戒しなければなりません」

 

 ハルカ君の恐れと葛藤は、どうやらカコ代表が原因となっているようだった。

 それは親子関係の不仲から来るものではなく、明確な理由付けがあってのものだった。

 いわく、自分が考えるようなことは既に母が考えているはずだし、実行に移しているはずだと。

 そうしないのには何か理由があるからとのことだ。

 

 確かにハルカ君の言う通りだ。

 カコ代表ならば世界各国にセルリウムの存在を周知させ、連携して対応策を実施することだって出来るはずだ・・・・・・が、しかし、実際には何の動きもない。

 

 さらに言うなら、カコ代表はここのところ滅多に人前に姿を見せなくなっている。

 映像だったり、側近からの言伝という形で、絶えず発信は行ってはいるものの、正確な所在がとんとわからなくなっているのだ。

 ・・・・・・ただまあ、今の彼女ほどにもなると、たとえその場にいなくても十分な威圧感と存在感があるので誰も逆らったりしないわけだが。

 

「もしかしたら、母は人類を見捨てる気でいるのかもしれません」

「・・・・・・め、滅多なことを言うものではないよ」

「そうでしょうか? 母を見ていると、フレンズさえ守れれば、人間なんてどうなっても構わないと考えているように思えてきます」

 

 まあ、ハルカ君の見解も理解できなくもない。

 セルリアン対策に関しては確かに、必要以上に注力するのを避けている。 

 そのいっぽうでフレンズの保護活動とジャパリパークの運営・開拓に関しては並々ならぬ情熱を燃やし続けている。

 二つの事項の間に温度差があるのは明確だ。

 ・・・・・・確かに、こうして考えを詰めていくと、今の彼女の考えがずいぶんと謎に満ちていることがわかる。

 

 所在もわからないカコ代表に直接問いただすことは困難を極めるだろう。

 本人以外だったらどうか? 彼女の真意を知る者がいるとすれば、今の彼女の最側近である”あの2人”を置いて他にいないだろう。

 アーサーと、メリノヒツジだ。

 

 アーサーはシガニーと同様に古参の幹部だったが、落ちぶれたシガニーと違ってカコ代表に重用され続け、事実上の組織のナンバー2になっている。

 2人の明暗を分けたのはやはり、ヴェスパー関係者の大量不審死事件だと思われる。

 カコ代表を疑い追及したシガニーとは対照的に、アーサーは彼女を擁護し続けた。

 ・・・・・・もしかしたら彼も、持ち前のコンピューター技術を用いて秘密の隠蔽に関与していたのかもしれない。

 今となっては誰にも証明しようがないことだが。

 

 アーサーは長い年月をかけて、彼の助手であるフレンズのハツカネズミと共に、とある巨大プロジェクトに取り組み続けている。

 それはジャパリパーク運営のAI化だった。

 すなわち、今はスタッフの手で行われている3つの基盤業務「地形のデータ観測と解析」「土地開発とインフラ整備」「食料生産」をAIに行わせようという試みだ。

 その構造は、ジャパリパーク全域の情報を管理するマザーAIと、マザーから個別の指令を受け取って仕事を行うチルドAIとに別れている。

 

 マザーAIは鋭意開発中とのことだが、チルドAIを搭載した自律行動型ユニットに関しては、つい最近試作機が公開された。

 その珍妙な見た目には驚かされたものだった。

 人間の膝丈ほどのタマゴ型のボディには、動物のような三角形の耳と、二足歩行を行うための扁平な脚部を備え、さらに尻尾のような細長いサブアームを生やしていた。

 機械的な印象を極力排除した、マスコットみたいなデザインだ。

 フレンズに親しまれるようにという意図でああなったらしいが、僕の意見を言わせてもらえば、機械であるのに機械らしさが皆無というのは却って不気味だ。

 

 まあデザインはともかくとして、AI化計画の行きつく果ての意図という物が気にかかる。

 労働力の拡張や、スタッフの業務のサポートという枠組みを超えて、際限なくAI化が推し進められていった場合どうなるだろう? 

 ジャパリパークがまったくの無人となっても問題なく存続し続けることさえ可能になるのではないか?

 ・・・・・・だとするのなら、AI化計画の真の目的とは、人類絶滅を期しての前準備と言った所なのかもしれない。

 そう考えれば、アーサーもカコ代表と同じ考えを共有していると見ていいだろう。

 

 一方のメリノヒツジはどうしているだろうか。

 かつて戦争によって深い心の傷を負った彼女だったが、やがて立ち直り、周りのフレンズとも仲良く過ごすようになった。

 またカコ代表のことを、立ち直る切っ掛けを教えてくれた恩人として慕い、彼女の傍仕えを希望したのだった。

 

 そのかたわらでメリノヒツジは勉学に明け暮れた。

 元々からして読書を好むという稀有な性質を持っており、フレンズの中でも取り分け賢い子だと思っていたが、その知識への欲求は年を経るごとに増大していき、いまや人間とフレンズを含めて、ジャパリパークスタッフの中でも最も優秀であると目されるようになった。

 

「知識を深めてジャパリパークに貢献したい」と、メリノヒツジからはそんな殊勝な言葉を良く聞いたものだ。

 彼女は僕の誇りだ。心の傷を乗り越え、立派に成長していった。

 ・・・・・・が、やはり寂しくもある。

 僕に楽しそうに絵本の感想を話してくれた、幼気なあの子羊はとっくの昔にもういないのだ。

 人間もフレンズも、自分のやるべきことを見つけた者は物凄いスピードで成長していくのだな。

 

 僕の目から見ても、メリノヒツジの知力に並ぶ者はそういないと考えている。

 生まれつきの天才であるハルカ君が若干勝っている程度だろうか。

 ・・・・・・が、そのハルカ君が相手でもなおメリノヒツジが有利な点がある。

 カコ代表から直々に教えを受けていることだ。その結果メリノヒツジは、多くのスタッフにとって極秘となっている機密を熟知している。

 ジャパリパークのことも、サンドスターのことも、セルリウムのことも、カコ代表と同等の知識を得ていると考えられる。

 

 アーサーならば担当分野がハッキリとしているが、メリノヒツジがカコ代表の命を受けて何をしようとしているかは不明瞭だ。

 ・・・・・・恐らくは、命令されればどのような難事でさえこなすことだろう。

 考えれば考えるほどに、カコ代表は周りを優秀なイエスマンで固めている。

 彼女たちの真意を探るのは並大抵の事じゃない。

 

 ともかく、もし仮に、カコ代表とその側近たちが人類を見捨てる意図を持っているのだとしたら、ハルカ君が慎重になる理由もわかる。

 かつてのシガニーのように、ハルカ君がカコ代表の意に反する行動を取る者と見なされた場合、圧力がかけられて動きが封じられてしまうことだって考えられる。

 それはつまり彼が人類を救うチャンスが潰えることを意味する。

 ・・・・・・しかし、だ。相槌を打ちながらも、一点だけ気になったことがあった。

 

「今は君にだって信頼できる仲間がいるはずだ。ミライさんやカレンダさん、イエイヌちゃんにさえ打ち明けないのはどうしてだね?」

 明け透けに僕が尋ねると、ハルカ君は今までで一番痛い所を突かれたという表情で押し黙った。

 

「ごめんなさい先生・・・・・・僕は卑怯な人間です」

 目に涙さえ浮かばせるハルカ君の不安に満ちた表情を見て、ようやく彼の真意を悟った。

 仲間たちのことを信頼しているからこそ、かえって話す覚悟が決まらないということらしい。

 打ち明ければ、後に引くことが出来なくなる。それ即ち、ジャパリパークの支配者たる母親との骨肉の争いの始まりを意味する。

 彼にはまだそこまでの覚悟と自信がないようだ。

 

 ハルカ君の苦しい胸中を慮ると胸が痛くなる。

 誰かに話すことは憚られるが、これ以上黙っていることも耐えられない。

 そんな板挟みにあった彼が、最後に頼ってきたのが僕というわけだ・・・・・・余命いくばくもない、口を滑らせた所であと腐れのない人間だから丁度良かったのだろう。

 もちろん彼にそんな打算はあるまいが。

  

「すこし昔話をしようかな」

 

 溜息を付いてから切り出す。

 もう少し若かったのなら、あるいは健康な体だったのなら、ハルカ君の力になってあげたい。

 ところがそれはもう叶わない。

 僕に出来るたった一つの手助けは、彼が少しでも前向きに一歩を踏み出せるように、心を尽くしてアドバイスすることだ。

 ・・・・・・それが僕の最後の役目なのかもしれない。

 

「君が生まれる前に起きた戦争のことは知っているね?」

「はい、すみずみまで勉強しました」

「当事者の身になって想像してみたことはあるかい? 特に、君の母上について、もし自分が母と同じ経験をしたならば、と」

 

 ナイーブな話題であろうが、今一度考えてみてほしいのだ。

 偉大な親の存在がいかにプレッシャーであるのかは察するに余りあるが、おそらく彼は自分の母親のことを知らなすぎる・・・・・・

 もっとも、息子と距離を作ってばかりいる母親のほうも問題があるだろうが。

 

「母は特別なんですよ。生き残るべくして生き残ったんだ」

「そんな卑屈な物言いで思考停止するのはやめなさい・・・・・・!」

 

 急に語気を強めた僕に対して、ハルカ君が深緑色の目を見開いて絶句する。

 カコ代表がいかに優れた人物であろうが、あの戦争は個人の才覚でどうにかなるような次元の話ではなかった。

 彼女はいつも命を危険に晒してきた。非常に危ない橋を渡ってきた。

 今ああして生きていることは実に稀な偶然と言える。志半ばで倒れる可能性の方が高かった。

 本来ならハルカ君はこの世に生まれなかったし、ジャパリパークも地球上に存在しなかった。

 

「君の母上が生き残れた理由は、たった一つしかない」

「どういうことですか」 

「・・・・・・彼女には仲間がいた」

 

 カリスマがあると言えば簡単だが、カコ代表には他人を引き付ける才能があった。

 特筆すべきエピソードは、たった1人で手ぶらでヴェスパーの本拠地に乗り込んで、反乱を促すためにデモを起こしたことだ。

 その結果、心ある将校たちが彼女の意志に呼応し、ヴェスパー派が瓦解する切っ掛けになった。

 

 カコ代表のそんなエピソードは他にいくつもある。

 とにかく彼女は、無私の精神があるというか、他人のために平気で自分を捨てられる。他人を信じる天才とも言うべき人間だ。

 だからこそ仲間からも信頼された。

 死んでしまった者も、生きている者も、人間も、フレンズも。

 みんなカコ代表のことを信じて必死に戦った。

 多くの想いと願いが重なった結果、巨悪を打ち倒すことが出来たのだ。

 

「他者を愛し信じる心。それこそがカコ代表の本当にすごい所なんだ。信じ続けたからこそ、いかなる困難も仲間と共に乗り越えることが出来た」

「・・・・・・僕なんか、とてもあの人みたいには生きられない」

「そう思うのは君が物事の結果しか見ていないからだ・・・・・・今の君に必要なのは結果予測じゃない。一歩を踏み出す勇気だ。仲間を信じて、自分の思っていることを話してみるべきだ」

 

 ハルカ君からの返事はなく、苦しそうな表情で俯くだけだった。

 もちろん今すぐ答えを出すことなど期待していない。

 おそらくこの決断は彼の一生を左右するほどに重大なものだ。せいいっぱい悩んでから答えを出せばいい。

 僕が彼の決断を知ることなくこの世を去ることになったとしても全くかまわない。

 

「そう言えば」と、答えを出せないでいるハルカ君が、遠い目をしながら違う話題を切り出した。

 

「僕がまだ小さかった頃、母とある話をしました」

「ほう、それはどんな?」

「アムールトラさんのことです」

 

 アムールトラは未だ目覚めない。

 20年前から、例の砂時計型の容器に入りっぱなしで、永遠とも思える長き眠りに付いていた。

 それでもジャパリパークが出来てしばらくの間は、いつでも姿を見に行けるような所に安置されていたので、僕やアマーラはたびたび彼女に会いに行ったものだった。

 

 が、数年前。

 カコ代表が周囲に姿を見せなくなったのと同時期に、アムールトラが入った容器も「特別機密」として、一般スタッフが知らないどこかへと所在が隠されてしまったのだ。

 こんな体になってしまったから、せめて死ぬ前に一度アムールトラの顔を見ておきたいものだったが、そんな自己都合で機密に触れさせてくれ、だなんて掛け合いに行くわけにもいかず・・・・・・

 遠い未来で、アマーラが僕の代わりに再会してくれることを祈るしか出来なかった。

 

「アムールトラさんはどんなフレンズだったのか、と母に聞いたことがあるんです」

 

 ハルカ君が生まれた頃には、アムールトラはすでに長い眠りについていた。

 彼にとってアムールトラは、歴史の授業で習う過去の偉人といった感じでしかないだろう。

 それでも彼は過去の戦争ことについては熱心に勉強していたし、この僕から何度か思い出話も聞いているから、アムールトラがジャパリパークにとっていかに英雄的な存在であるかは知っているはずだ。

 

「母は言いました。”アムールトラは私の命そのものだ”と」

「彼女がそんなことを・・・・・・」

「あの人のあんなに優しい顔を見たのは初めてでした。だから良く覚えてるんです」

 

 カコ代表とアムールトラがいかに強い絆で結ばれていたかは分かっているつもりだった。

 僕がグレン・ヴェスパーの下に幽閉されている間も、2人は激しい戦いを共に潜り抜け、ついに空中要塞スターオブシャヘルまでをも墜落させ、戦争を終結に導いたのだ。

 ・・・・・・しかし「命そのもの」とまで表現するとは驚いた。

 

 正直、この20年の間に起きた出来事で、カコ代表に対する印象がガラリと変わってしまったことは否めない。

 謎の組織を用いて、ヴェスパーの関係者を大量に暗殺したかもしれない疑惑。自分の意に反したシガニーを冷遇し窓際に追いやった事実。そして今、滅多に姿を見せない秘密主義者となり、実の息子にさえ酷く疑われてしまっている現状・・・・・・

 

 考えるだけで心苦しいのだが、独裁者という意味では、かつてのグレン・ヴェスパーと部分的に重なってくる物があるほどだ。

 しかし彼女にはあの男とは決定的に違う所がある。野望や私利私欲とは無縁であることだ。

 ハルカ君と話していると、段々とカコ代表の考えていることがわかってきた。

 彼女の全動機はフレンズへの愛なのだろう。

 家庭のことさえ顧みなくなってしまうほどに、彼女にとっては何よりも重要なのだ。

 

 このジャパリパークはカコ代表の愛が具現化したフレンズの楽園だ。

 しかし、そこに人間が立ち入ることは許さない、ということなのかもしれない。

 もし人類が滅んで、フレンズだけが生き残るようなことになったら、まるでジャパリパークはノアの方舟、もしくはエデンの園のようになってしまう。

 さながら楽園を創造したカコ代表は、新世界の神と呼べるかもしれない。

 

 ・・・・・・いや、暗い想像はやめよう。人類絶滅などという未来は、きっとこの少年が回避してくれるはずだ。

「僕は君のことを心から応援するよ」

「ヒグラシ先生・・・・・・」

 手を差し出して握手を求めると、ハルカ君の方もおずおずと手を取ってくれた。

 

________ピンポーン!

 

 甲高い呼び鈴の音によって、突如会話が打ち切られた。

 ハルカ君とともに玄関先まで出ていくと、既にシガニーが訪問者に対応していた。

 彼女と一緒に料理をしていたイエイヌちゃんや、自室にこもって仕事をしていたアマーラも出てきている。 

 ウッドデッキの階段の下にいたのは、グラマーな体をラフな服装に包んだ金髪の女性だった。

 

「よく来たねカレンダさん」

「オー、ミスターヒグラシ。体の調子はいかがですか?」

「相変わらずだけど、今日はお客さんが多いから、賑やかで気分が良いよ」

 

 何があったというのだろうか。

 普段はほんのりと赤みが差したカレンダさんの白い頬がひどく青ざめている。

 神妙な顔で僕と言葉を交わしたのもつかの間「ヘイ、ハルカ! イエイヌ!」と慌てた様子で2人を手招きした。

 

「カレンダさんどうしたの?」

「シリアス・プロブレムよ! 今すぐ一緒に来て! 現地に残ってた”2人”から連絡が!」

「・・・・・・わ、わかった。行こうイエイヌちゃん!」

 

 血相を変えたカレンダさんに呼ばれるまま、ハルカ君とイエイヌちゃんが走り出す。

 ウッドデッキの階段を降りきった後、2人とも同じタイミングで振り返って「今日はありがとうございました」と僕に向かって頭を下げるのだった。

 

「さあ、これでひとっ飛びよ! ちょっと待っててネ!」

 

 カレンダさんはそう言って、自分のすぐ後ろに鎮座している物体を軽く叩いた。

 あれは紛れもなく「フリッキー」だ。

 ジャパリパーク内では広く使われている汎用作業機械。用途に応じて様々なモデルが存在しているが、横長に角ばった箱のようなボディを、4本の有機的な脚で支えているというスタイルはどれも共通している。

 その外観は「首なしの馬」とでも言うべき様相だ。

 

 しかし今、特徴的な四本足はコンパクトに折りたたまれ、ボディは地面に接地している。

 まるで動物が「伏せ」のポーズを取ったようなその姿勢は、機体がスリープモードに入っていることを意味する。

 あれで移動するつもりだろうか? 確かにフリッキーは多少の物資輸送能力があり、人間を乗せて動くことも可能だが、3人乗りは少々きついような・・・・・・

 

________ゴウウンッ

 

 眠りから覚めたようにフリッキーが動き出す。

 ボディの底部が左右にスライドし、中からはブースターがせり出してくる。

 4本の足は関節をまっすぐに伸ばしきった状態で地面と平行に張りつめ、まるで動物が伸びをしているような姿勢となった。

 箱型のボディが前後に拡張し、オートバイの座席のような起伏を持った形状に変化した。ボディ最前部にはバイクのハンドルを思わせる持ち手がせり出している。 

 ・・・・・・これは驚いた。あのフリッキーは変形機構を備えているのか。

 

「ちゃんとつかまってて!」

「わふ、高いです!」

________ブォォォンッ!

 カレンダさんを先頭に、ハルカ君とイエイヌちゃんも一列になって座席にまたがる。

 ハンドルのスロットルをカレンダさんが思い切り絞ると、フリッキーはバイクそのもののようなエンジン音を轟かせ、勢いよく離陸した。

 

 地面から離れていく3人を見上げていると、ハルカ君がこっちを見下ろしているのが見えた。

 やっぱり不安そうな表情をしているな・・・・・・と、彼の顔を見て感想を抱いたのも束の間。 

 エアバイクと化したフリッキーの機動力は凄まじく、あっという間に空の向こうに消えていってしまった。

 

「私も頑張らなきゃ」と、3人を見送るやいなや、アマーラがそそくさと家の中に戻っていった。

 

「もう、皆して・・・・・・忙しい子たちさね」

「彼らは未来の希望そのものだよ」

 

 ポツリと寂しそうに呟くシガニーの肩を抱き、澄み切った青い空をいつまでも眺めた。

 

 

 それからまた日々が過ぎていった。

 身辺整理も済ませたし、親しい者たちへの遺書も書き終えた。

 もうやることも残っていないだろう。その時を迎えるだけだ。

 抗がん剤治療なんかはしていなかったので、日を追うごとに体調が悪化していった。

 ベッドに寝たきりの全身が、絶えず鞭で打たれているようにズキズキと痛くてしょうがない。

 呼吸器を付けなければ呼吸さえも覚束なくなってしまった。

 

 今思うと、ハルカ君は丁度いい時期に訪ねてきてくれたものだな。

 あの時はまだ、まともに立って歩いたり、少量でも食事を楽しめたり出来た。イエイヌちゃんの料理は、実にいい思い出となった。

 ・・・・・・もちろんあの日ハルカ君から聞かされたことは誰にも言わない。まさしく墓場まで持っていくつもりだ。

 全てはハルカ君が決めるべきことだ。それが当事者としての責任なのだから。

 

《出力、上げてください!》

 

 テレビの向こう側では今まさに、アマーラの悲願であった大規模フラワーガーデンの竣工式が執り行われている。

 我ながら、この日まで良く体が持ったものだった。

 本当なら現場に赴いて式に参列しに行きたかったが、末期癌と戦う自分の体にそこまで求めるのは贅沢というものだろう。

 

 アマーラの号令の下、はるか上空にある衛星からレーザーが照射されると、蕾の状態だった花弁が一斉に開かれ、辺り一面に色とりどりの花畑が現れた。

 出席していたスタッフやフレンズたちの喜びぶりと来たらなかった。

 フレンズの中には、花という物をほとんど知らない子もいたようだ。

 その美しさにうっとりと心を奪われている子や、嬉しくなってはしゃぎ回っている子もいる。

 

《ほら、こうして、こうするんだよ》

《わーっ! すごい! きれい!》

 

 引いた視点から映されるカメラではわかりにくかったが、アマーラはどうやら花輪の作り方をフレンズたちに実演で教えているようだ。

 花と戯れる姿は幼い頃と何ら変わりはない。三つ子の魂百までとは良く言ったものだと思う。

 アマーラは昔からの夢を叶えた。後世に残るだろう見事な花畑を作ってみせたのだ。

(・・・・・・そうか、そういうことだったのか)

 

「あの子も立派になったね」

 と、ベッドの横に立っているシガニーが、画面の中にいるアマーラを見てつぶやく。

 青春を投げうって仕事に入れ込む娘には、シガニーは普段は苦い顔をしていたものだが、この時ばかりは娘のことを誇らしく思っていることだろう。

「後は良い相手を見つけてくれたら言うことないんだけどね」

 

「シガニー、あまりアマーラを急かしてはいけないよ」

「でもねアンタ。あの子はもう30だよ、立派に行き遅れてるからねえ」

「違うんだ。そんなつまらないことに拘ることはない。アマーラにもそう言っておいてくれ」

 

 シガニーがきょとんとしている。

 夫婦同士の何気ない会話かと思いきや、僕が突然に真剣な物言いをして空気を変えたからだ。

 このことだけは言っておきたい。

 近い将来、アマーラが子供を授かろうとした時、もしかしたらそれが出来ない可能性がある。

 ・・・・・・その真実を話すことは出来ないが、もしそうだとしても、ショックを受けないでいて欲しいから。 

 

「血が繋がってなくたって、家族になることはできる。僕たち一家がそうだろう? ・・・・・・いや、そもそも人間である必要すらない」

 

 とても不思議な気持ちになってくる。

 シガニーに話しながらも、自分自身を諭しているんじゃないかと錯覚するほどだ。

 ・・・・・・それはまるで天啓のようだった。誰かにずっと言ってもらいたかった許しの言葉を、今こうして自分が口にしている。

 

 人間とフレンズは家族になれる。

 アマーラの花を愛でる心は、今後はフレンズたちに受け継がれていくことだろう。

 子どもが産めなかったとしても、未来に自分の存在を残すことはできるんだ。

 そしてきっと、この僕だって。

 

 たとえ絶滅したとしても、フレンズのよき友人であり続ければ、フレンズがずっと人間のことを覚えていてくれる。

「種」は途絶えようとも「意志」は永遠に語り継がれる。

 あの花畑も含めて、ジャパリパークの存在そのものがその証なんだ・・・・・・人間は既に絶滅から免れているんだ。

 

 もちろんハルカ君を否定するわけではない。

 たくさんの無辜なる人々の命を救うことが間違っているはずはない。

 ・・・・・・しかしそれは単なるひとつの正義だ。人類絶滅の可否がかかっているとか、壮大なスケールの話ではない。

 彼は自分の正義を貫き、仲間とともに、多くの人々を救うために奔走していくだろう。それが彼のこれからの道だ。

 

「アンタ、大丈夫かい? 顔色が悪いよ」

「し、シガニー、僕のやってきたことは無駄じゃなかった・・・・・・自己満足の償いなんかじゃ・・・・・・!」 

 

 その夜、体の調子がさらに急激に悪くなった。

 40度を超えるほどの高熱が出ているようだ。意識が混濁してきて、痛みや苦しさといった感覚は既にない。

 ぜいぜい、ひゅうひゅう、と切迫した呼吸を続ける体が、自分とは無関係な物のように思える。

 アマーラの仕事が一区切りするのを見届けたからだろうか。

 それとも人生を充足させるに足る悟りに達したからだろうか。

 ついに僕の体は、これ以上頑張ることをやめたようだった。

 

「アンタ!」

「・・・・・・お父さん」

 

 ベッドの横に立ったシガニーとアマーラが、涙ぐんだ顔で僕の手を握りしめている。

 やがて目の前が霞んで、愛しい彼女たちの顔さえ見えなくなったころ。

 ・・・・・・僕は最後の夢を見た。

 

 そこは一面に広がる花畑のようだった。

 場所は定かでない。アマーラがつい先日作ったジャパリパークの花畑なのかもしれないし、南アフリカの花畑かもしれない。

 ・・・・・・が、そんな美しい花畑の真っ只中で、ある1人がおもむろに立ち上がり姿を表した。

 橙色の長髪をなびかせた人ならざる娘が、黒い横縞の入った両腕を広げて気持ちよさそうに伸びをしている。

 

「目が覚めたら、楽園が君を待っているよ」

 

 僕はアムールトラに呼びかけた。

 ゆっくり振り向いた彼女が僕に向かって笑いかけたような気がした。

 

 

「ハルカさん」

「・・・・・・うん」

 

 イエイヌちゃんと頷き合ってから、ヒグラシ先生が横たわる棺に花を供えた。

 先生の表情はとても安らかだ。まるでお花畑の中で昼寝をしているかのようだ。

 ・・・・・・アマーラさんが作った、ジャパリパーク初の花畑が、こんな形でさっそく役に立つ事になるなんて思わなかった。

 

 セントラル・タウンの一角にある、ジャパリパークの中でも一番立派な教会で、ヒグラシ先生の告別式が粛々と行われている。

 あいにく天候は最悪だ。横殴りの大雨が降り続いている。

 雨粒が礼拝堂の屋根やステンドグラスに当たって絶え間なく音を立てている。

 

 先生は本当に優しい人だった。誰が相手でも分け隔てなく愛情を注いでくれた。

 僕もそうだ。X班という居場所を自分の力で勝ち得るまで、僕は孤独そのものだった。

 どこに行っても「カコ代表の息子」として扱われてきた。

 今後もそうだろう。親が親だから仕方がないって、とっくにあきらめも付いている。

 ・・・・・・でも先生だけは違った。

 まだ僕が物心もついていないような頃から、ちゃんと1人の人間として扱ってくれた。僕の本音と向き合ってくれた。

 この間だって、突然押しかけて突拍子もない話を始めた僕に真剣に耳を傾けてくれた。

 

 整然と並べられた長椅子の最前列では、遺族であるシガニーさんとアマーラさんが、身を寄せ合って静かにうなだれている。

 涙を流し切ってしまった彼女たちの代わりに、多くのフレンズたちの嗚咽が礼拝堂じゅうに響いている。無理もない・・・・・・みんな先生の元生徒なんだもの。

 

 人間もフレンズ問わず多くの参列者が集まっており、先生がどれだけ周りに慕われていたかがわかる。

 ジャパリパークの創設メンバーたちの姿もある・・・・・・一番偉いうちの母さんはいないけれども。

 親子だというのに、僕から連絡を取る手段はなかった。式に参加するのかしないのか、なんて会話をすることすら出来なかった。

 

 僕たち観測チーム第X班はというと、スケジュールを合わせて全員出席している。

 ミライさんもカレンダさんも、喪服を着ていると普段とまったく別人に見えるから不思議だ。

 ・・・・・・ただ、パンサーさんとメガバットさんに関しては、無理して出席する必要はなかったんじゃないかと思う。

 

 何故なら彼女たちは2人とも大怪我をしているからだ。

 命には別状ないけれど、無数の刺し傷や切り傷を包帯で覆った姿は見るだに痛々しい。

 あの強い2人が、あんな傷を負うなんて並大抵のことじゃない。人間にはまず不可能な芸当だ。

 それこそ、ディザスター級のセルリアンとかだったり、もしくは2人と同じように手練れのフレンズが相手でもない限りは。

 

 話はヒグラシ先生を最後に見舞ったあの日にさかのぼる。

 

 血相を変えたカレンダさんからもたらされた一報は、2人の負傷に関連している内容だった。

 最も未開のエリアであるキョウシュウ島で調査活動をしていたX班は、観測したデータのまとめと物資補給のために一旦セントラル・タウンに戻っていたわけだけど、パンサーさんとメガバットさんは、現地に残って調査を継続していたんだ。

 

 メガバットさんが、その極めて優れた聴覚で持って、とある異常な気配を感じ取ったらしい。

 それは、本来ならジャパリパークでは一度も発見されていないはずのセルリアンの気配だったそうだ。

 2人は気配の元を辿るために、どんどんと未開の奥地に踏み入っていった。

 

 やがてたどり着いたのは、キョウシュウ島にそびえ立つ切り立った山脈の中、火山の火口にほど近い谷の中だったそうだ。

 そこで2人が見た物は、崖の中腹に不自然に空いた横穴だった。

 空中を漂う一匹の幼体セルリアンが、確かにその穴のなかに入っていくのを見たという。

 さらに察知した気配はその一匹だけではなく、ざっと数百から数千のセルリアンがいるような気がしたらしい。

 

 パンサーさんとメガバットさんが意を決して洞窟の中に入ろうとした瞬間、ある1人のフレンズに背後から強襲された。

 ・・・・・・それがメリノヒツジさんだったという。

 初手では完全な不意打ちが決まり、刃物による強力な一撃を2人ともくらってしまったようだ。

 

 無理もなかった。パンサーさんたち2人は、フレンズとの戦闘に突入することなど、その時点ではまったく予測すらしていなかったのだから。

 一方のメリノヒツジさんは背後から容赦なく襲い掛かってきた。差が出るのは明らかだ。

 ・・・・・・ただ、メガバットさんは一連の流れを「一生の不覚」だと評した。

 鋭敏な聴覚に加えて未来予知能力まで持っている自分が、どうして背後から襲ってくる相手の気配に気付くことが出来なかったのかわからないというのだ。

 

 先手は取られたものの、普通に考えれば、そこから先は有利に戦えそうなものだった。

 傷を負わされたとはいえ、たった1人の相手に対して2人で戦うのだから。

 さらにパンサーさんは”影分身”の能力があるので、実質的に3対1の状況だった。

 

 しかしメリノヒツジさんは一歩も引くことなく激烈な抵抗をしてきたという。

 パンサーさんはかつて、戦時中に彼女と戦ったことがあるらしいが、その時よりも遥かに強くなっていたという。

 しばらくすると状況はさらに悪化した。

 新手が出現し、メリノヒツジさんに加勢を始めたというのだ。

 

 数十名もの、イヌ科とネズミ科のフレンズが現れて2人を取り囲んだ。

 かつての戦争で「量産型」と呼ばれたフレンズたちだった。

 彼女たちが昔からメリノヒツジさんのことを慕っているのは知られていたが、今も徒党を組んで行動しているようだった。

 多勢に無勢の状況で、パンサーさんとメガバットさんは成すすべなく消耗させられていった。

 

 やがてメリノヒツジさんの手によって戦いに終止符が打たれた。

 彼女は鞭のような武器を手のひらに出現させると、一瞬の隙を付いてパンサーさんとメガバットさんに巻き付け、そのまま崖から突き落としたというのだ。

 空に逃れることも出来ず、絡み合ったままかなりの距離を転がり落ちた2人だったが、やがて自分たちを拘束していた鞭が消滅したので、何とかメガバットさんの翼で元の場所に戻った。

 しかしその頃には既にメリノヒツジさんや他のフレンズたちの姿は無く、洞窟の中にいた無数のセルリアンたちの気配も忽然と消えていたという。

 

 ・・・・・・以上が2人が持ち帰った話だ。

 このことは僕らX班だけで共有するに留めている。

 ジャパリパークでは一度も出現していないはずのセルリアンが見つかったなんてことが知られれば大パニックが起きる。

 真相は何もわからない。事の詳細を突きとめるまでは下手に口外するわけにはいかない。

 

 一つだけ確かなのは、メリノヒツジさんの背後には、確実に母さんがいるということ。

 どうしてキョウシュウ島にセルリアンがいたのか? 母さんとメリノヒツジさんは一体何をやろうとしているのか。

 ・・・・・・そもそも、何で母さんは、セルリウムの存在を証明する数式を、わざと僕の目に触れるような所に置いて知らせてきたんだろう?

 僕がどう動くか様子をうかがっているのか?

 

________ギィィィ・・・・・・

 

 とつじょ、重苦しい音を立てて入口の扉が開かれた。

 静かな礼拝堂の中に、外の激しい雨音を呼び込みながら、新たな参列者が現れたようだった。

 心臓が飛び出しそうなぐらい驚いた。

 その者は、今まさに僕が頭の中に思い描いていた当人だったからだ。

 

 メリノヒツジさんは静かに扉を閉めると、礼拝堂の中央を通るように敷き詰められたカーペットの上をゆっくりと歩き出した。

 左右に別れた長椅子に座る参列者たちの、驚きと奇異の視線が一心に注がれる。

 重傷を負ったパンサーさんたちほどじゃないにしても、体じゅうに生傷が目立ち激闘の痕跡が見て取れる。

 傘も差さずに来たのか、その赤い羊毛にはたっぷり雨水が吸い込まれているようで、歩く度に水滴が滴っている。

 

「あんたよくも・・・・・・!」

「パンサー、場をわきまえるべきですわ」

 

 パンサーさんが思わず振り返り、メリノヒツジさんを睨みつけ、今にも飛び掛からんとするような殺気を浴びせかけた。

 しかし隣に座っていたメガバットさんが、すぐさま彼女の手を引いて鎮める。

 すんでのところで一触即発の事態は避けられた。

 それでも2人は、一部の油断もない緊張感でメリノヒツジさんを警戒する眼差しを向けている。

 

 メリノヒツジさんは素知らぬ顔で2人を黙殺し、ヒグラシ先生が眠る棺に近づいて行く。

 ・・・・・・しかし、そんな彼女に向かって猛然と近づき行く手を阻む者がいた。

 

「アンタだけなのかい?」

「お母さんやめて!」

「いいや言わせてもらうよ! アンタの”ご主人様”はどこで何してるんだい!? ・・・・・・うちの人がどれだけ組織に尽くしてきたのか知ってるはずだろうに、こんな時までだんまりかい!?」

 

 目を腫らしたシガニーさんが、メリノヒツジさんの胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

 アマーラさんが後ろから止めに入るのも聞かない。

 されるがまま黙って罵倒を受け止めていたメリノヒツジさんだったが、やがて「申し訳ありません」と頭を下げて謝罪した。

 

「・・・・・・カコ様は今、訳あってどうしてもここに来ることが出来ないのです。しかし僕に言伝を残された。ヒグラシ博士はかけがえのない友人だった。心からお悔み申し上げると」

 

 あまりにも形式ばった返礼が、シガニーさんの怒りを更に沸き立たせたようだった。

「アンタなんか」と、歯ぎしりしながらメリノヒツジさんを睨みつけている。

 彼女は次にこう言うだろう・・・・・・出ていけと。

 いくら何でもそんな言葉を言わせてはいけない。この告別式が台無しになってしまう。ヒグラシ先生があまりに可哀そうだ。

 

「あ、あの!」

 

 場に割って入るために、思わず僕は立ち上がって叫んだ。

 他の参列者の間を縫ってメリノヒツジさんに近づいて行き彼女の手を取った。

 そして礼拝堂のとある一点を指さした。

 ヒグラシ先生の棺のすぐ脇にある、色とりどりの花が並べられている献花台だ。

 

「いらっしゃったのなら、花を供えていってくれませんか」

「ああ、喜んで」

 

 メリノヒツジさんは相変わらずの無表情のまま献花台に手を伸ばすと、はたと思案するように動きを止めた。

 少し間が空いてから、オレンジ色の花と黒い花を、それぞれ一輪ずつ選び拾い上げた。

 もっとたくさん取ればいいのに、何でその二輪だけなんだろうと思った。

 

「すまない・・・・・・」

 メリノヒツジさんはポツリと呟くと、青白いヒグラシ先生の顔の真横に、二輪の花を添えた。

 彼女は本当に悲しんでいる。単なるメッセンジャーとしてこの場に現れたわけではない。

 不審な所ばかりだけれども、その事だけは真実だと思いたかった。

 

 多少のトラブルはあったけれども、告別式は粛々と行われていった。

 献花がひと通り終わると、式を取り仕切る神父と、喪主たるシガニーさんからの弔辞が順番に述べられた。

 やがて出棺の時がやってくる。

 ヒグラシ先生が眠る棺を乗せた霊柩車と、遺族であるシガニーさんとアマーラさんを乗せた車が、火葬場へ向けて出発していった。

 

 降りしきる雨の中、走り去る二両の車を黙とうを捧げながら見送った。

 これが本当に最後の別れだ。

 個人的な感情を抜きにしても、ヒグラシ先生の死はジャパリパークにとって大きな損失だ。

 僕が生まれるずっと前からフレンズと関わり、ジャパリパークにおいても教育者として貢献してきた重要人物だったのだから。

 ・・・・・・残された僕たちは、彼の分まで歴史を未来に繋いでいかなければならない。

 

 一般弔問客はここで解散となる。

 重苦しい空気の中、それぞれの家路に付こうとする人やフレンズたち。

 その中にメリノヒツジさんも混じっていた。

 傘も差さずに去っていくその後ろ姿には、得体のしれない強い意志が感じられた。

 彼女は今何を思っているのか。これから母さんと共に何をやろうとしているのか・・・・・・

 

「大丈夫ですか? ハルカ君?」

 

 茫然と立ち尽くしていた僕に向かって、後ろから心配そうな声が呼びかけてくる。

 傘ごしに見えるその姿はミライさんだった。緑がかった黒目が優しく僕を見つめている。

 

 彼女だけじゃない。X班の皆が僕の後ろに立っていた。

 弔問客が去って人気がなくなった教会の中庭に、僕らだけがポツンと残っていたのだ。

 イエイヌちゃんも、カレンダさんも、パンサーさんもメガバットさんも、みんな僕を心配してくれている。

 

「・・・・・・あなたが最近、とても思い詰めているように見えたから、気になっていたんですよ?」

「ありがとう。ミライさん、みんな」

 

 仲間たちに頭を下げ、俯いたまま深呼吸してみる。

(今の君に必要なのは結果予測じゃない。一歩を踏み出す勇気だ)

 ヒグラシ先生が言ってくれた言葉を反芻し、胸の中にある恐怖や不安を押しのけるようにして、僕はやっと顔を上げた。

 

「今からみんなに大事な話があるんだ」

 

 僕は引き返せない道を行く。この頼るべき仲間たちと共に、人類の未来を掴み取ってみせる。

 ・・・・・・たとえ母さんと争うことになったとしても、やらなきゃいけない。

 それが僕の運命だと思うから。

 

 運命と向き合い一生懸命に生き抜けば、たとえどのような結末が待ち受けていたとしても、未来に何かを残せるはず。

 母さんも、ヒグラシ先生も、アムールトラさんも、そうやって生きてきたんだ。

 

 僕にだって、きっと出来る。

 

 to be continued・・・ 




_______________Cast________________

哺乳綱・鯨偶蹄目・ウシ科・ヤギ亜科・ヒツジ属
「メリノヒツジ」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・イヌ属 
「イエイヌ(ハイブリッド)」
哺乳綱・コウモリ目・オオコウモリ科・オオコウモリ属
「インドオオコウモリ(俗称メガバット)」
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属
「パンサー」

_______________Human cast ________________

「日暮 啓(ひぐらしけい)」
享年 74歳 性別:男 職業:国際的非政府組織「JAPARI UNION」元教育省長
「久留生 悠(くりゅうはるか)」
年齢:14歳 性別:男 職業:国際的非政府組織「JAPARI UNION」観測部署職員
「八重山 未来(やえやまみらい)」
年齢:19歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「JAPARI UNION」観測部署職員
「カレンダ・C・アルマナック(Calenda Chronicle Almanac)」
年齢:27歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「JAPARI UNION」観測部署職員
「シガニー・日暮(Sigourney Higurashi)」
年齢:62歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「JAPARI UNION」教育省職員
「アマーラ・日暮(Amara Higurashi)」
年齢:30歳 性別:女 職業:国際的非政府組織「JAPARI UNION」農務部署職員

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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