けものフレンズR あるトラのものがたり   作:ナガミヒナゲシ

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 これで完結です。本当にありがとうございました。
 苦節4年、だらだらマイペースに続けてきましたが、無事終わらせられて良かったです。

 ※後日、あとがきとかキャラ解説とかを投稿します。


最終話「いままでも、これからも」

 海食洞にジョナサン号が避難してからいくらかの時間が経った。

 帆を丸く畳んでしまい、錨も下ろしてしまって完全に停泊状態だ。

 カモメの予言通り、嵐が辺り一帯の海を直撃している。外の猛烈な風と雨の音が洞窟の中に響き渡っている。

 海も荒れていて船体がゆらゆらとひっきりなしに揺れているから落ち着かない。

 これぐらいじゃ全然問題ないってカモメは言っているけど。

 

 とにもかくにも、揺れる船の上で私達は食事を取ることにした。

 料理を作るのはもちろんイエイヌだ。ミナミオットセイからもらった魚介類を食材に使うことにしたようだ。

 人数もいるし、食材が痛む前に皆に食べてもらおうと言うのがその理由だ。

 

 食材がどこに保存されていたのかというと、もちろんともえのバッグだ。

 薄っぺらいバッグの中から、大きめの寸胴が何個も取り出されるのを見た時には驚いた。寸胴の中は海水で満たされていて、魚やカニが生きたまま保存されていたんだ。

 私の代わりに、居合わせたフレンズ達から口々に「そのバッグどうなってるの!?」と突っこまれていた。

 

 調理はジョナサン号の船内で行われた。

 ろくに使われず埃をかぶっていたけれど、船内には立派なキッチンがあって、それを見た途端イエイヌは小躍りするように喜んだ。

 彼女のように料理の出来るフレンズは珍しいし、もしかするとこの船は、遠い昔ヒトに使われていた物なのかもしれないな。

 

 気になったのでそのことをカモメに訊いてみたが、彼女はこの船をいつどこで手に入れたのか覚えていないらしい。

 思い出せる最も古い記憶の中において、彼女は舵を取っていたそうだ。それなら船を家族同然に思うのも頷ける話だ。

 

 イエイヌは料理をする前に皆をキッチンから立ち退かせた。

 生き物を捌く所を見られたくないからというのがその理由だ。

 やむなく他のフレンズ達はキッチンのすぐ隣にある食堂のテーブルに座って、ドア越しに漂ってくる料理の香りを嗅ぎつつ、腹の虫をグーグーと鳴らしながら待ち続けた。

 

 そうこうしている内に料理は完成し、テーブルに次々と並べられていった。

 献立の目玉は「アクアパッツァ」と「カポナータ」とか言うらしい。

 ようは魚の蒸し焼きとカニのオイル煮のことのようだ・・・・・・うーん、いつもながらイエイヌの作る料理は、意味不明の呪文みたいな名前をしているな。

 後は貝をふんだんに使ったシーフードリゾットだ。うん、まあリゾットは私でも知っている。

 

 見た目のインパクトはものすごい物があった。他の子たちも唖然としている。

 なぜなら魚やカニの原型がほとんどそのまんま残っていたからだ。

 正直食べるにはかなり抵抗があったけれど・・・・・・恐る恐る口にしてみると、そんな感情は簡単に吹き飛んでしまった。

 

 海の生き物ってこんなに美味しかったのか。

 今までイエイヌに食べさせてもらった料理の中でも一番かもしれない。

 歯ざわりの良さもさることながら、濃厚な旨味が口の中でずっと尾を引いている。それが付け合わせの野菜にも染み込んでいる。

 周りの子はみんなカニの旨さを絶賛しているけれど、私はだんぜん魚の方が好みだなぁ・・・・・・

 

「すっごいおいしー! 生き返る!」

 イエイヌの料理を食べなれた私たち以上に、始めて口にするフレンズ達のおどろきぶりがすごかった。

 昼間には死ぬような思いをして疲労困憊だった彼女達が、そんな記憶などなかったように元気を取り戻し始めたんだ。やっぱりイエイヌの料理を食べるとそうなるよな。

 

「・・・・・・まあ! なんて美味しいのかしら」

 オオコウモリもまた例外ではなかった。

 戦っている最中も冷静沈着そのものだった彼女が、溜息を付きながら料理を味わっている。

 いつでも閉じられていた目を見開き、うっとりと陶酔するように瞳を潤ませている・・・・・・始めて見たけど、彼女の瞳は白く濁ってるんだな。

 

「ルルル~♪ なあオオコウモリ~♪」

「どうしましたのカモメ」

「これほどのご馳走~♪ あの子にも食べさせてあげようよ~♪」

 

 カモメにそう言われて、オオコウモリは一瞬ハッとし、テーブルに並んでいる料理に視線を落とした。何やら複雑そうな表情だ。

「そ、そうですわね・・・・・・」

 少しの沈黙の後、何かを決意したように顔を上げた。

 そして共にテーブルを囲んでいる他のフレンズ達に「ちょっと失礼しますわね」と頭を下げると、カモメと共に立ち上がって食堂を出て行ってしまった。

 その手には料理が盛られた皿を携えたままだ。

 

 突然のことに首をかしげる私達だったが、前々からジョナサン号に乗り込んでいるキンカジュー、キーウィ、ヤマバクの三人は様子が違った。

 どうやらこの船には、あともう一人フレンズが乗っていたようだ。

 だったらどうして姿を現さないんだろう?

 

 三人に事情を訊いてみると、どうやらそのフレンズは重たい病気を患っていて動けないとのことだった。

 ・・・・・・動けないんなら仕方がないと思うが、少し違和感をおぼえる。

 さっきのオオコウモリといい、この三人といい、何やら気まずそうな感じが漂っているからだ。

 

「ちょっと会いに行ってみようか」と、私はともえ達と一緒に席を立ち、その病気のフレンズに顔を見せることにした。

「・・・・・・そっとしておいてあげたほうがいいと思うよ」

 テーブルに残った3人からはそんな言葉が投げかけられた。

 何でそこまで言うのか良くわからなかったが、とりあえず挨拶ぐらいはしておくのが筋だろう。

 

 薄暗い船内を進んでいく。いくつかの回廊を通り過ぎ、梯子を上り下りしたりしていると、どうやら例のフレンズがいるらしき部屋を見つけた。

 そこだけ明かりが灯っているし、オオコウモリたちの気配も感じる。

 

「ごめん、入るよ」

「ラララ♪ 君たち来たのかい」

 ノックしてから部屋に入るなり、振り返ったカモメと目があった。

 そしてオオコウモリはベッドの傍で身をかがめている。

 彼女の背中越しに、一人のフレンズがぐったりと横たわっている姿が見えた。

 

「さあ、ヒョウ、お食べになって。とっても美味しいお料理ですのよ」

「・・・あー・・・」

 

 オオコウモリがそのフレンズの上半身を抱き起こしつつ、口元にスプーンを持っていく。

 だが反応はない。その子はオオコウモリと目を合わせることもなく、ぼんやりと天井の方を見ているだけだ。

 起きているのか眠っているのか、それさえもわからない。

 ・・・・・・ただひどく衰弱していることだけはわかる。肌は青白く、手足は枯れ枝のように痩せこけてしまっているんだ。

 橙色の全身には斑模様が入っていて、少し私に似た特徴を持っているような気がする。

 そうか。名前はヒョウっていうんだ。

 

「その子、大丈夫?」

「いつもこんな調子ですのよ」

 

 心配して近づいたともえにオオコウモリが答える。

 ヒョウが意識を取り戻すのは、一日のうちで極々わずかな時間しかないらしい。

 オオコウモリはその短い時間を見計らって、彼女にジャパリまんを食べさせたり水を飲ませたりしてきたようだ。

 でも、全然栄養が足りていないことは明らかだった。

 

「あ、食べてくれそう」

 少ししてからヒョウが鼻先をヒク付かせる。

 オオコウモリがそれを見てスプーンを彼女の口元に当てると、ヒョウはおもむろに口を開けてそれを受け入れた。

 

 その様子を見守る私達がホッと安堵しそうになった刹那。

_______カハッ

 ヒョウがむせ込んだ。せっかく口に含んだ料理は、食べられることなく吐き出されてベッドのシーツを汚してしまった。

「・・・あ、う、あ・・・」

 部屋が気まずい空気で静まりかえる。ヒョウのうめき声交じりの浅い呼吸だけが聴こえる。

 

「ごめんなさいね、気にしなくて良いんですのよ。みんな食事にお戻りになって」 

 

 オオコウモリが苦笑いしながら私達にそう促してきたので、やむなく従うことにした。

 もう彼女は食事を切り上げてヒョウに付き添うことにしたようだ。

 ヒョウがどういう状態なのかはわからないけれど、私達がしてあげられることがないのは確かなようだった。

 

 食堂にもどって食事を再開した私達だったが、ヒョウの可哀そうな姿が気になって、せっかくの料理も味気なく感じられた。

「ルル、ル・・・・・・出会った時からあんななのさ~」

 カモメがオオコウモリとヒョウに出会った時のことを、悲し気な抑揚で話し出す。

 

 それは季節が何巡りかするぐらい前のことだった。

 カモメがいつものようにジョナサン号でのんびりと航海をしていると、ヒョウを抱えながら海の上を飛んでいるオオコウモリを見かけたそうだ。

 気になったカモメは彼女達に声をかけて、船に乗せてあげることにしたらしい。

 2人とも全身に酷い怪我を負っていて、その時からすでにヒョウは今のような寝たきり状態になってしまっていたようだ。

 

 ・・・・・・以来、2人はずっとジョナサン号に身を寄せているようだ。船がどこの港に寄っても陸に上がろうとするつもりはないようだった。

 ヒョウは船内でずっと眠っている。

 オオコウモリはヒョウの世話をする傍ら、船に居させてもらっているお礼にと、カモメの船旅の手伝いをしているらしいんだ。

 

「何があったか聞いてないのかよー?」

「オオコウモリが話したがらないからね~♪ だったら聞くのは野暮ってもんさ~」

「・・・・・・わ、わふっ、でもオオコウモリさんはホッカイに降りるつもりなんですよね? いったいどうしてなんですか?」

「さ~あどうだかね~♪ 彼女なりに「風を読んだ」んだろうね~」

 

 カモメだって2人のことを心配していないわけではない。

 けれども相手の意向に口をはさむようなことをしたくないんだという。

 来るもの拒まず去るもの追わず、他人を縛らないし自分も縛られない・・・・・・それがカモメのモットーなんだと言う。

 

 事情を問わず、通りがかったフレンズは誰でも船に乗せるし、乗っている間は親身になって接する。そして降りたい時にいつでも好きに降ろさせる、と。

 ・・・・・・親切なんだか冷たいんだかよくわからないが、カモメにとって大事なのはジョナサン号で自由に旅をすることだろうから、そう考えるのも仕方がないことなのかな。

 

「ごちそーさま~♪ さ~あ明日も早いよ~」

 

 オオコウモリと、もし食べてくれたら・・・・・・とヒョウの分も残して私達は食事を終えた。

 みんなで後片付けをしている時、カモメが明日の予定を教えてくれた。

 お得意の風読みによると、夜明けごろには嵐が過ぎ去ってしまうと。そして明日は一日晴天だろうというのだ。

 早朝から船を出せば昼前にはポート・オータルに着く。

 

 そこでオオコウモリらを予定通り降ろした後に「中つ海(なかつうみ)」へと船出するんだそうだ。

 中つ海というのは、楕円形に並んでいるジャパリパークの島々を隔てている、途方もなく広い内海の通称のようだ。

 海を渡る船さえあれば、翼のないフレンズでも全てのエリアに行くことが出来る。

 もちろん停泊できる場所は限られているし、天候やら潮の流れやら、色んなものに影響を受けての船路になるから、口で言うよりずっと難しいらしいけれど。

 

「あの、カモメさん、わたし達キョウシュウに行きたいんだけど」

「キョウシュウか~! がってんだ~い♪ じゃお休み~、空いてる部屋好きに使って~ね」

 

 カモメはともえの言葉を快諾すると食堂を後にした。

 どうやら私達のことを完全に「船の客」として扱うことにしたようだ。

 完全に成り行きだったけど、彼女という船乗りに出会ったことで、キョウシュウに行くまでの段取りはほぼ完全に整ったと言っていいだろう。

 私達には私達の旅がある。ポート・オータルに着いたら、オオコウモリ達ともそこでお別れだ。

 

「ごちそうさま! すっごく美味しかったよイエイヌ!」

「わふっ、おそまつさまでした」

「おやすみ~」

 

 キンカジューら3人も大満足な様子でそれぞれの寝室へと散って行った。

 私達ももうそろそろ明日に備えて休んだほうがいいだろう。 

 嵐は未だに続いているから時間も何もわかるものじゃないけれど、きっともう夜も更けているはずだものな。

 

_______ビュオオオ・・・・・・

 私は寝室には行かず、甲板へと出て座り、洞窟の外に吹きすさぶ嵐の音をじっと聴いていた。

 最近休み方のコツを思い出したんだ。どうやら私は横になるよりも、座って休む方が性に合っているらしい。

 足を組んで輪っかを作るような独特の座り方だ。

 こうしていると、気持ちが落ち着いてきて身体も心も休まる。一人で瞑想して静かに夜を明かそう、と思っていたんだが・・・・・・

 

「どうしてここにいる」

「べ、別にいいじゃねーか!」

「良くないだろ。お前は怪我をしているんだから」

 

 何故だかロードランナーが付いてきて、私の真似をするように座っているんだ。

 けれども、もぞもぞと動いていて落ち着きも何もあったもんじゃない。

 

「こーいうトレーニングなんだろ? オレ様も一緒にやらせてくれよ」

「トレーニング? いや、休んでいるだけだが」

「こんな恰好で眠るつもりかよー?」

 

 そうだ。と答えたらロードランナーは理解できないと言った風に首を振った。

 正確には本当に眠り込むワケじゃない。起きたまま半分眠ったようになるだけだ。

 これだと万一セルリアンに襲われてもすぐに対処できるから都合がいい。

 それでいて熟睡したように頭がすっきりするから、私にはこの寝方が一番向いているんだ・・・・・・だけど、他のフレンズに勧めようとは思わないな。

 

 それきり黙り込む。ロードランナーの奴もしばらくしたら飽きて帰るだろうかと思われた。

 しかし思った通りにはならない。彼女は私の真似をしながらも、もぞもぞと落ち着きなく動き続けている。

 やがてそれにも飽きたように足を崩すと「なあ、なあ」と私に話しかけてきた。

 

「アムールトラ、オレ様に戦い方を教えてくれよ」

「お、お前な・・・・・・」

 

 ぜんぜん意外には思わなかった。ロードランナーがこんなことを言いだしてきそうな気配は前々からあった。

 日中の「海の魔物」との戦いの時もそうだったし、今の彼女は焦って強くなろうとしている感が半端じゃない。

 確かに今後どんな敵と遭うか分からないから、そう思う気持ちはわかるんだけど、それにしたってうわつき過ぎだと思う。

 

「キョウシュウに着けばオオコノハズクと合流できる。彼女に鍛えてもらえばいい。お前は鳥なんだから、私の真似をしたってしょうがないぞ」

「けどよ、どーせなら一番つえー奴に教えてもらいてーよ」

「・・・・・・この世界に一番なんてものはない」

 

 世界のすべてを照らす太陽は偉大かもしれないが、命に満ち満ちたこの大海原もおなじく素晴らしいだろう。

 そんな海の上でずっと浮いていられるこのジョナサン号だって、その二つに負けてない。

 この世に存在するものは、何であれ唯一無二の価値があるはずなんだ。

 

「どーいうことだよ?」

「自分なりの強みを見つけなきゃダメだってことだ」

 

 ロードランナーが目を白黒させている。残念ながら伝わっていないようだ。

 例によって私は説明が不得手だから、こういう観念的なことを誰かにわかるように話せる自信はなかった・・・・・・

 ていうか、別に彼女は今のままでいいと思うんだが、そう考えているのは私だけか?

 

 ロードランナーは良くも悪くも「普通」のフレンズだと思う。ともえやイエイヌ、そして私のように特別な事情を抱えていない。

 そういう子が仲間に一人ぐらいはいないと、旅の空気が暗くなってしまう気がする。

 それだって十分な強みだと思うんだけどな。

 

_______ヒタ、ヒタ

 後ろから小さな足音が近づいて来るのを感じた。

 足音の主へと振り返ると、緑と赤の瞳の持ち主が照れくさそうにはにかんだ。

 ・・・・・・なんだ。結局いつもの仲間が集まってきたな。今この場にいないのはイエイヌだけか。

 

「2人の声が聞こえたから来ちゃった」

「ともえもトレーニングしに来たのかよー」

「えー何それ? ちょっと眠れないから散歩してたんだよ」

 

 ともえがロードランナーの突飛な物言いに苦笑しながら近づいて来る。

 そして私たちの傍に丸まるように座った。膝を抱いて縮こまりいかにも元気がない様子だ。

 それを見て、さしものロードランナーも軽口を叩く空気じゃないことを察したようだ。

 

 私はここ最近の彼女が落ち込んでいるのを知っている。

 みんなの前ではいつも通りに明るく振るまっているけれど、自分の正体や過去のことが不安で仕方ないようだ・・・・・・でも、無理に元気づけようとは思わない。

 彼女が悩みを聞いてもらいたい時だけ寄り添おうと決めている。

 

「わたしね、同じ夢をよく見るの」

「へえ、どんな夢だ」

「・・・・・・お父さんの夢」

 

 しばらく3人で黙ったまま座っていると、ともえが突然に口を開いた。

 お父さんという存在が何者かはまったく覚えていないんだという。

 ただ、ともえが今よりもずっと幼かった頃、よく彼女をおんぶして歩いてくれて、その背中の広さが大好きだったんだと話す。

 夢の中にはフレンズではなく、ヒトらしき同年代の友達もいっぱい出てきたと。

 ・・・・・・けれどもいつの間にか、お父さんも友達もどこかに消え去ってしまい、ともえは一人ぼっちで取り残されてしまう。

 夢は決まってその場面で終わるんだと。

 

 それにしても、お父さんか・・・・・・私がこうして生きているってことは、私にもきっとそういう存在がいたんだよな。どんな見た目だったんだろう。私に似ていたのかな? 

 今となっては、会いたいとか寂しいとか、そんな気持ちすら湧いて来ない。

 他にも思い出せないことが多すぎて、いちいち考えていたらキリがなくなってしまうからだ。

 

「メリノヒツジさんが言ってたよね。そのむかし、ヒトは神様に星から追い出されて、宇宙に逃げて行ったんだって」

「ああ、そうだったな」

「でもだったらどうして、わたしは一人であんな氷漬けの場所で眠ってたんだろう? わたしがアニムスっていうやつだから? わたしはヒトでもフレンズでもないってことなのかな・・・・・・」

 

 今までともえは旅を続ければそのうち「お父さん」や他のヒトに会えると信じていたという。

 だがどうやらそうでないらしいことがメリノヒツジの口から明かされた。

 残酷なものだ。事の真相を知るにはあまりにも断片的で、それでいて彼女の淡い望みを絶つには十分すぎる情報だった。

 

「悪い方にばっかり考えるな」

「そーだぜ。ゴコクで“かばん”ってのに会ってみねーことには何にもわかんねーじゃん」

「わたし、怖いよ。かばんさんに会って、また色々知ることになって・・・・・・もし、わたしの想像が当たっちゃったら・・・・・・」

 

 ともえの心はひどい板挟みにあって苦しんでいる。

 自分のことを知るためには旅を続けるしかない。でも、悪い想像ばかりが頭に浮かんで、先に進むことが恐怖を伴うようになってしまっているんだろう。

 これまでは先に進むのに精一杯だったから、まだ気にしないでいることが出来たかもしれない。

 しかし今、移動手段を手に入れたことで、旅が一気に進展しようとしている。

 それでまた恐怖心が再燃してきたという感じか。

 

「ともえ、私はお前のそばにいるぞ」

「も、もちろんオレ様もだ! ラモリさんもいるだろ! それに何より、ともえにはイエイヌがいるじゃねーか!」 

「イエイヌちゃんがわたしを助けてくれるのは、わたしをヒトだと思ってるからだよ。もし、そうじゃなかったのなら・・・・・・」

 

 ロードランナーと2人で必死にともえを励ましてみる。

 だが、イエイヌの名前を出したことで思わぬ地雷を踏むことになった。

 イエイヌは長い間自分の主人を探して旅をしてきた。その結果アンタークティカでともえを目覚めさせた。それが2人の旅の始まり。

 

 だがともえがイエイヌの探し求めていた主人であるわけではない。

 イヌという生物にとって、ヒトは無条件に友愛の対象となる。だからイエイヌはともえを庇護しているんだと。

 そして、その前提が崩れてしまったら・・・・・・と、ともえはイエイヌとの関係に危うさを感じているみたいだな。

 

 私もロードランナーもこれ以上うまい励ましの言葉を思いつけなくなった。

 ともえはますます気落ちして膝を抱いて黙りこくっている。

 イエイヌがこの場にいたらこうはならなかっただろうか? それとも、今は余計に落ち込ませてしまう結果になるだろうか?

 

_______ファサッ・・・・・・

 そんな気まずい空気の中、またしても新たな来客が私の前に現れた。

 船内から黒い影が羽音を立てながら飛び出し、私達が座っている所のほど近くにまで飛んでくる。

 そして彼女は折り畳まれた帆を固定している帆桁に降り立ち、上下逆さまにぶら下がった。

 その一見奇妙としか言えない姿勢が、驚くほどにサマになっているように見えるのだった。

 

「や、やあ、オオコウモリ・・・・・・」

「私も話に混じってもよくって?」

 

 てっきり彼女はヒョウの傍で一夜を明かすものと思っていた。

 しかし、いま私達の前に現れて話しかけきている。こんな所で油を売っていて良いのだろうか。

 

「あの子が、イエイヌが申し出てくれたんですわ。今晩だけでもヒョウの看病をさせてくれって」

「・・・・・・イエイヌちゃんが?」

「あの子からちょっとだけ事情を訊きましたわ。あなた方はこれから途轍もない冒険を始めようとしていますのね」

 

 いつでもともえの傍から離れないイエイヌが不在である理由とは、そういうことだったんだな。

 人一倍優しい心を持った彼女は、傷ついた者や病んだ者に対して何もしないでいることが出来なかったのだろう。

 それだけじゃなく、友を探して旅するオオコウモリに少なからずシンパシーを感じていたからというのもあるかもしれない。

 

「明日になったらあなた達ともお別れだから、ちゃんと話がしておきたかったんですの・・・・・・特にともえ、あなたには改めて謝らせて欲しいんですの」

「・・・・・・別にいいよオオコウモリさん。本当のことかもしれないし」

 

 言うまでもなく、オオコウモリが謝ろうとしているのは、ともえに対して「もしかして普通のフレンズじゃない?」と訊いたことだ。

 ともえがこんなにまで気にしていることを、ずけずけと指摘してしまったことに対して彼女は申し訳なさを感じているんだ。

 

「いいえ、本当にごめんなさい・・・・・・それと私から、ひとつアドバイスをさせていただきますわ」

「え、な、何?」

 

 オオコウモリは語る。フレンズには忘却の運命がついて回るものだが、多くの場合は「忘れたこと自体を忘れてしまう」のだと。

 忘れたことを自覚できるのは、自分にとって掛け替えのない思い出である証拠だと言うのだ。

 ・・・・・・だから、事実が何であれ、失った記憶を取り戻す機会があるなら迷わず進むべきだと。

 それがオオコウモリのともえに対するアドバイスだった。

 

「そうだ」と、ともえがハッと目を見開く。

 

「オオコウモリさんも友達を探して旅をしているんだよね? 顔も名前も思い出せない友達を・・・・・・大事な友達なんだよね?」

「・・・・・・ええ、でももう良いんですわ。今の私にはヒョウが一番大事ですもの」

 

 オオコウモリが恩人のカモメにさえ話していなかった己の過去を語りだす。

 彼女とヒョウとは、互いにいつ出会ったかわからないほどの長年の相棒同士であり、2人でずっと旅を続けて来たんだという。例の友達を探す旅だ。

 ・・・・・・だがあまりにも長い年数が経過したために、彼女もヒョウもその子の顔と名前はおろか、何者だったかすらも忘れてしまった。

 それでも2人はあきらめずに探し続けた。

 

 だがある日、強大なセルリアンとの戦いでヒョウが重傷を負った。

 彼女もまたオオコウモリと同じく高い戦闘能力を持っていたらしいが、不運にも当たりどころが悪かったらしいんだ。

 

「私は這う這うの体でヒョウを連れて逃げました。そして運よくカモメと出会い、この船に避難させてもらうことが出来ましたの」 

 

 それからオオコウモリはこの船の中でヒョウの看病をすることに決めたそうだ。

 大体のセルリアンは陸生だ。なかにはあの「海の魔物」みたいな例外だっているけれども、陸上よりはずっとセルリアンに襲われる頻度は少ない。だから都合が良かったんだろう。

 オオコウモリはひたすらにヒョウの回復を待った。

 船がどこに行こうとも降りることはなかった。カモメもいつまでも居て良いと言ってくれた。

 

 だがヒョウが回復することはなかった。

 セルリアンにやられた傷自体は癒えたものの、ほとんど目を覚ますことはなく、起きている時も呻き声しか発さない寝たきり状態になってしまったんだと。

 何が起きたのかはわからない。ひょっとしたらケガ以外の原因があったのかもしれないという。

 

 ・・・・・・私はその話を聞いて、自分の身に起きていたことを思い返した。

 私は長い間ビーストとして正気を失い、言葉すら話せなくなって彷徨い続けていた。あの状態も一種の病気だったと言えるような気がする。

 もちろんヒョウはビーストとは全然違う状態なんだけれども、言葉を発せられない所とかに共通点を感じる。

 

 やがてオオコウモリはヒョウの回復を諦めた。

 次に彼女が考えたのは、親友の終の棲家を探すことだった。

 近い内に訪れるであろう「その時」に備えて、ついにジョナサン号を降りる決意をしたんだと。

 見た目から分かる通りヒョウは陸のフレンズだ。

 だから海の上よりも、母なる大地に抱かれて最後の時を迎える方が幸せなんじゃないかと思ったとのことだ。

 

 ・・・・・・やるせない話だな。傍らではともえとロードランナーがグスっと涙ぐんでいる。

 ともかくそういった理由で、オオコウモリはホッカイに安息の地を求めることにしたようだ。

 長い船旅の中で、どうやらホッカイエリアは比較的セルリアンが少なくて平和らしいという情報を耳にしたかららしい。

 ・・・・・・うーん。ホッカイでもかなりセルリアンが暴れていたと思うが、それでも「比較的少ない」ぐらいなのか。

 これは今後の旅路ではよっぽど気を引き締めていかないとな。

 

「・・・・・・友達を探すのはやめるの?」

「ええ、ヒョウがあんなことになってしまったんですもの。もう諦めましたわ。彼女と2人で静かに暮らせる場所を探しますわ」

「そっか・・・・・・あのね、ホッカイで暮らすんだったら、おすすめの場所があるよ」

 

 そう言ってともえはオオコウモリに「虹の楽園」の話をし始めた。

 後でハツカネズミにも連絡をとって2人のことを紹介しておいてあげると。

 オオコウモリは逆さまの姿勢のまま目を閉じて興味深そうに頷いている。

 

「本当に大変なことがあったんだね」

「でも、そんなのみんなそうですわ」 

「うん・・・・・・」

 

_______ビュオオオ・・・・・・

 ともえがしんみりとした表情で洞窟の天井を見上げる。

 昼間はあんなに幻想的な景色だったこの場所も、今はすっかり闇に包まれていて、吹き荒れる雨風の音だけが洞窟内に響き渡っている。

 

 広がる暗闇はともえの未来への不安そのもののようだ。

 そして止まない嵐は、これまで大変なことばかりだったオオコウモリの人生のように思える。

 

「ところで、聞きたいことが・・・・・・」と、ともえが言いかけたその時。

「ああっ!!」

_______ストッ

 オオコウモリが突如大声を上げた。

 逆さまにぶら下がっていた柱から飛び降りて甲板に降り立つと、顔の横に手を当てて耳を澄ませるようなポーズを取った。

 その鋭い聴力で、私達には聴こえない何かの音を拾ったということだろうか。

 

「な、なに? とつぜんどうしたの?」

「そんな、こんなことって・・・・・・」

 

 ひどく取り乱した様子のオオコウモリが、ともえの呼びかけにも答えずその場から走り出す。

 船内へと再び入って行ったのだった。

 あまりにも様子がおかしかったので、私達も後を追いかけることにした。

 

_______ガチャッ

 そうこうしている内に辿り着いたのは、ヒョウが眠っていた例の部屋だ。

 先頭にいるオオコウモリが慌ててドアをこじ開ける。そして、その先で待っていたのは思いがけない光景だった。

 

「おい、し、おい、し」

 

 ヒョウが目を覚ましていた。

 イエイヌに抱き起こされ、顔の近くに食器を寄せてもらいながら、自分の手で食事を取っていたんだ。何口も何口も、スプーンですくって口元に運んでいる。味の感想も言っている。

 あれはお粥か何かだろうか。あれからイエイヌはまた新しい料理を作っていたみたいだ。

 

「ヒョウ・・・・・・」

 言葉を失ったままオオコウモリがよろよろと近づき、ヒョウへと手を伸ばす。

 目覚めたヒョウは未だに前後不覚のような呆然とした表情だったが、親友がそばにいることだけは理解できたようだ。

 そして「オ、コモリ」と、聞き取れないほどの小声だったが、確かに彼女の名前を呼んでいるのが聴こえた。

 

「う、う、う・・・・・・」

 感極まったオオコウモリがヒョウの肩に手を回して抱きしめる。それきり項垂れて声を押し殺すように涙を流し始めたのだった。

 それまでヒョウの傍にいたイエイヌが、微笑みながらさりげなくその場を離れた。

 

「イエイヌちゃん、どうやってヒョウさんを起こしたの?」

「わふっ? どうって、特別なことはしてないですよ。今のヒョウさんが食べやすい物をって思って、お粥を作ってみたんです。声をかけたりして様子を見ながら、ちょっとずつ食べてもらって・・・・・・そしたら自分で食べてくれるようになって」

「そ、そうなんだ」

 

 さも当然といったイエイヌの返答には、その場にいる皆が呆気に取られた様子になった。

 これまでヒョウは、オオコウモリが必死に看病を続けても回復しなかったのに、いとも簡単に体調が良くなったのは不思議と言うしかないだろう。

 ・・・・・・でも何となく納得できるかな。 

 長年のビースト状態や、戦いに次ぐ戦いでボロボロになった私も、イエイヌの料理を食べ続けたら、こうして見違えるように元気になった。

 ただ美味しいとか栄養があるってだけじゃ説明が付かない気がする。

 もしかすると彼女もまた、特殊な能力っていうのを持っているのかも知れないな。

 

 意識を取り戻したヒョウを見つめてみた。

 なんというか、一切の邪気が感じられない澄み切った目をしているなと思う。

 未だぼんやりとしていて、まともに言葉を発したり立って歩いたりすることは叶わないようだ。

 それでもオオコウモリはこれ以上ないぐらい喜んでいる。

 

 そして彼女は希望した。久しぶりにヒョウに外の空気を吸わせてあげたい、と。

 だったら皆で行こうってことになって再び甲板に戻ることにした。

 ヒョウを背負うのは自然と体格の大きな私の役目となった。

 こんな時間でこんな天候でなければ、彼女に素晴らしい景色を見せてあげられるのにな・・・・・・と思いながら甲板へと続く階段を上がった。

 

「わぁ・・・・・・!」

 

 階段を登り切った途端、その場にいる誰もが歓喜のため息を漏らす。

 洞窟の中の景色が、先ほどまでとは全く違う様相になっていたからだ。

 どうやら嵐は去ってしまったようだ。穏やかな潮風が洞窟の中に吹き込んでくるのを感じる。

 

 さっきまでとはうって変わって、天井の裂け目からは星明りが差し込んでいる。

 昼間のまぶしい陽射しと比べたら、あまりにもか細く弱弱しい光だったけれど、暗闇の中では十分すぎるほどの存在感が感じられるんだ。

 光の点が水面にいくつも瞬いていて、それはまるで星空が私達のいる所にまで降りてきて、空と海とがひとつに繋がったかのようだった。

 

「・・・・・・あー、うあー!」

「ひ、ヒョウ!」

 

 ヒョウが甲高い声を上げる。あまりの景色の綺麗さに感極まってしまったんだろう。

 それと同時にバランスを崩してひっくり返りそうになってしまった。

 私におぶさっていたはずが、きらめく星空に向かって手を伸ばしたからだ。

_______ガシッ

 あわてて身をひるがえし、地面に落ちそうになっていたヒョウを抱きとめる・・・・・・直後、それを近くで見ていたともえ達が安堵のため息をつくのが聴こえた。

 

「ヒヤッとしたぜアムールトラよー」

「ああ、危なかった」

「・・・・・・あ、む・・・と・・・」

 

 訳が分からない様子のまま私に抱き上げられるヒョウだったが、やがて元のように首にしがみついてくれた。

 ・・・・・・耳元で彼女が私の名を呼んでいる。ロードランナーが言ったのを復唱したんだな。

 

「あらためてお礼を申し上げますわ。こんな素晴らしい景色は久しぶりですもの」

「オオコウモリ、君にも見えているのか」

「ええ、もちろん・・・・・・」

 

 オオコウモリは目ではなくて耳で景色を楽しんでいるんだという。

 嵐が過ぎ去った後にやってくる、穏やかな風とさざ波が奏でる音が、目で物を見ているフレンズには想像も出来ないぐらいに美しく立体的に聴こえるらしい。

 まさしく形や色に囚われない音の世界なんだと。

 ・・・・・・でも、そんなことよりも、ヒョウが久しぶりに元気を取り戻して楽しそうにしている息遣いを聴けたのが何より嬉しいんだと。

 

「理屈じゃありませんのよ。こんな音が聴けるなんて、今まで生きてきた甲斐があった。何故だかそんな風に思えるんですの・・・・・・大げさかしらね」

「いいや」

 

 私もオオコウモリとまったく同じ感想だ。

 長い間ビーストと化していた私は、自分が何者であったかも忘れて一人孤独に彷徨っていた。

 生き延びることに必死で、自分のことが信じられなくて、風景を味わう余裕なんてとてもじゃないけどなかった。

 でも今は違う。ともえ達と出会い、メリノヒツジと戦い、ビーストと和解を果たした今、目に映るものがどこまでも色鮮やかに広がっていると思える。

 ・・・・・・今まで生きてきた甲斐があった。

 

「この世界は、きれいだな」

「ええ、本当に・・・・・・」

 

 洞窟の中に零れる星明りを瞳に映しながら呟くと、オオコウモリが相槌を返してくれた。

 そしてヒョウもまた無邪気な瞳で星々を眺めている。私の腕の中で「あ、む、あ、む」とうわごとのように繰り返している。

 なんだかやたらと私に懐いているみたいだ。

 斑模様の背中を撫でると、彼女はゴロゴロと甘えるように喉を鳴らした。

 

 ともえ達のほうに視線を向けてみる。

 ロードランナーは両手を上に広げて、星空を掴もうとしているような動きをしている。

 イエイヌはうっとりとした表情で風景に見入っている。

 ・・・・・・ともえは、何だか浮かない表情をしているような気がした。上を見上げることもなく放心状態になっている。

 イエイヌが「ともえさん」と呼びかけるとハッとして、すぐにいつもの彼女らしい快活な表情に戻った。

 私もそれ以上は気にすることをやめた。

 

 オオコウモリとヒョウが船の上で過ごす最後の夜は、こうしておだやかに更けていった。

 

 

 その日はカモメが予想した通りに快晴となった。

 夜明けと共に洞窟を抜け出したジョナサン号は、ポート・オータルを目指すために大きくUターンするような航路を取ることになった。

 

 こうして船上に揺られているだけではいまいち分かりにくいんだけれど、舳先によってかき分けられた波が一瞬で後方に遠のいていくのが見える。

 やっぱりかなりのスピードが出ているんだろうな・・・・・・そうこうしているうちに、一旦は遠のいていたホッカイエリアの陸地が再び大きくなってきた。

 

 太陽は真上よりも少しだけ東寄りに傾いている。

 朝から船を出して、もうそんなに時間が経ったんだな。

 おおむねカモメが言っていた通りになったか。昼前ぐらいには着くという話だったもんな。

 

 だんだんと見えてきた。あそこがポート・オータルか。

 磨き上げられたように真っ白い岸壁が、目印のように海面から突き出しそびえ立っている。

 岸壁の根元は大きく内側へと抉れており、奥まった場所には美しい黄金色の砂浜が見える。

 さらには砂浜の向こうにはなだらかな丘と森が地平線の向こうにまで広がっている。ホッカイエリアの玄関口だ。

 

 なるほど、広さといい地形といい、あの砂浜は船を止めるのに持ってこいだ。

 海と陸をつなぐ玄関口ってわけだな。ああいう地形があるからこそホッカイエリア有数の港として成り立っているんだろう。

 ・・・・・・だが今は船もフレンズの姿も見あたらない寂しい場所だった。

 海の魔物騒ぎのせいだろう。姿を隠してしまっているんだ。

 

 ジョナサン号がさっそく砂浜へ接舷しようと舳先を向かわせた矢先、すぐそばの海面で小さな影がちょろっと跳ねるのが見えた。

 大きめの魚かな? と思って柵ごしに身を乗り出して眺めてみる。

「おーーーい!」

 どうやら魚ではなくフレンズだ。私の姿を見るなり海面から上半身を出し、両手を振って存在をアピールしている。

 程なくしてその子が顔見知りであることに気付いた。

 

「おーっ! アムールトラでねえが!」

「ミナミオットセイか」

 

 どうやらミナミオットセイは私達に船を与えてくれた後もずっと気にかけてくれていたらしい。

 私達がポート・オータルを目指していることを知っていたので、無事ならば必ずやって来るだろうと思い、先回りして待っていたとのことだ。

 

「ミナミオットセイ、申し訳ないんだけれど、君の船をダメにしてしまったよ」

「ありゃおめ達にやったもんだべし気にすんな! そっただことより、おめ達がこの船に乗って現れたっづーことは・・・・・・」

「ああ、魔物はもう倒した」

「や、や、やったべーー!!」

 

 私からその言葉を聞いた途端、ミナミオットセイは海面高くジャンプして、空中で宙返りしながらガッツポーズを決めて見せた。

 そして派手な水しぶきを上げながら着水すると、背後にある砂浜に振り返りながら「聞いただか!」と大声で叫んだ。

 

「海が平和になったべよ!」

 

 あたかもその声が号令になったかのように、にわかに砂浜が賑やかになり始めた。

 海の中から、砂浜の向こうの森から、または空から、いったいどこにそんなに隠れていたのかと思うぐらいたくさんのフレンズ達が姿を現わした。

 

「わーーっ! 久しぶりの海だ!」

 さらには彼女達の多くが船を所持していた。

 歓声を上げながら、先を争うようにして船を海面へと引きずっていく。

 そうこうしているうちに、ヨットだったり手漕ぎボートだったり、様々な種類の船が辺りの海に浮かび始めたのだった。

 ・・・・・・みんな本当に楽しそうだ。

 この辺りに住んでいるフレンズは、船が生活の手段っていうのもあるだろうけど、単純に海が好きでしょうがない子達ばかりなんだろうなと思った。

 

 お祭り騒ぎのように賑わう船と船の間をかき分けて、ジョナサン号が砂浜近くに停泊する。

 船旅を終えたキンカジュー、キーウィ、ヤマバクの3人が、それぞれの目的のために新天地ホッカイへと上陸する時がやって来たんだ。私達4人はこのまま船に乗って海に出るわけだけれども、一旦は降りて彼女達を見送ることにした。

 彼女達はここまで自分を連れてきてくれた感謝をカモメに向かって口々に告げた。

 カモメも「がーんばれよ~♪ げーんきでな~♪」とお得意の歌い節を決めながら彼女達を送り出したのだった。 

 

 そしてオオコウモリとヒョウも旅立とうとしている。

 カモメも長いこと船に乗っていた彼女達が去ってしまうことには名残惜しそうにしている。

 他人の旅路にあれこれ言わないっていうポリシーを持つ彼女だけれども、寂しいことには変わりないんだな。

 

 ヒョウの様子はというと、昨日目を覚ましてからは変わらず調子が良さそうだった。

 私はあれからオオコウモリにひとつアドバイスをしたんだ。

 もしかすると今のヒョウの身体は、ジャパリまんを受け付けなくなっている可能性がある。

 だから野菜や果物とかを代わりに食べさせた方がいいかもしれないと。

 ・・・・・・まあ、確かな根拠は何もないんだけれど。

 今のヒョウはビーストに近い存在なんじゃないかって、私が勝手にそう思っているだけだ。

 

 そんな頼りないアドバイスだったけれども、オオコウモリは興味深そうに頷き「心に留めておきます」と言ってくれた。

 そして試しに今朝がた、ヒョウにいくつかのリンゴをあげてみたところ、おいしそうに食べてくれたとのことだった。

 

「カモメ、あなたには本当に助けられましたわ」

「ラララ♪ 君達がいなくなると寂しいよ~、ヒョウと一緒に達者でね~・・・・・」

 

 オオコウモリはカモメと握手しながら別れの挨拶を済ませた後、傍らで見送ろうとしている私達4人の方に向き直った。

 

「・・・・・・本当に、奇妙な巡り合わせですわね」

 

 微笑みかけるでもなく、名残惜しそうにするわけでもなく、白く濁った瞳を開いて、真剣な面持ちで私達の事を見つめてきている。

 彼女の足元にはヒョウがいて、ゴロゴロと甘えたように鳴きながらペタンと座り込んでいる。

 

「あなた達はこれから、行く先々で色々な出来事に直面するのでしょうね。まるであなた達を中心に大きな引力が働いているかのように・・・・・・」

「オオコウモリ、それは君の未来予知の能力で言っているのか?」

「私の力ではそこまでの予知は出来ませんわ・・・・・・何となく、そんな気がするだけですのよ」

 

 あなた達に会えて本当によかった。旅の無事を祈っている。

 オオコウモリはそう言い残すと、ヒョウを抱きかかえながら翼を羽ばたかせ飛び上がった。

 十分な高さにまで上昇すると、空中でひらりと身を翻し、ホッカイの広々とした大地と空の間へと飛び去ってしまった。

 

「いつかまた、絶対に会おうね」

 

 ぽつりと呟きながら空を見上げてみる。

 オオコウモリ・・・・・・ほんとうに不思議なフレンズだった。

 昨日出会って今日別れた、ただそれだけの間柄でしかない。

 ・・・・・・なのに、まるで長年背中を預けて戦っていた仲間であるような友情を感じた。

 彼女とはもっとゆっくり話をしてみたかった。

 でも今は叶わないことだ。それぞれ行く道が違うんだから。

 

「・・・・・・いいの、アムールトラさん?」

「ん、どうした、ともえ?」

「オオコウモリさんを追いかけてもいいんだよ」

 

 ともえが急に突拍子もないことを言ってきた。

 私だけじゃなくイエイヌとロードランナーもぽかんとなり言葉を失っている。

 何を言っているんだと問い詰めてみると、彼女は目に涙をにじませ嗚咽交じりに語り始めた。

 

「メリノヒツジさんが、ある2人組のフレンズの話をしてたじゃない」

 

 ・・・・・・ああ、そう言えばメリノヒツジは戦いの最中にそんなことを言っていたな。

 あの時は彼女との死闘を繰り広げるのに必死だったから半分聞き流していたけれど、落ち着いて思い返せばどんどん情報が蘇ってくる。

 

 この時代に目覚める以前、私はとある戦いが原因で永い眠りに付いていたらしい。

 そしてメリノヒツジの手によってジャパリパークのどこかに厳重に幽閉されていた。

 しかし例の2人はそんな私を助け出し、メリノヒツジの手から長年守っていてくれていたという話だった。

 彼女をして「目の上のたんこぶ」「尊敬に値する」と言わしめるほどに強かった2人だからこそ出来たことだったそうな。

 

 さらに時が経ってから、メリノヒツジはビースト化して彷徨っている私だけを見つけ出した。

 例の2人はいずこへと姿を消してしまっており、生きているのか死んでいるかも分からない状況だったと。

 メリノヒツジが話したのはそこまでだった。

 私は2人の名前さえ聞けず仕舞いだった。聞いた所で思い出せまい、と彼女は私に教えてくれなかったんだ。

 

「例の2人っていうのは、オオコウモリさんとヒョウさんなんじゃないの?」

 

 確かに、オオコウモリほど強いフレンズは滅多にいない。

 彼女がかつてメリノヒツジに一目置かれる程の戦士だったならば納得がいく。

 そして私とああまで息を合わせた連携が出来たのは、過去にも私と共闘したことがあるから。

 もし、オオコウモリが探していた「友達」っていうのが私だったとしたら、メリノヒツジの話と色々なことが合致するのは確かだ。

 

「2人と一緒に暮らしたら、アムールトラさんはそれがきっと一番幸せだよ。だってあの2人は、アムールトラさんの本当の仲間なんだもん」

「・・・・・・何を言っているんだ? これからの旅はどうする? ジャパリパークの未来がかかっているんだぞ」

「アムールトラさんは今まで辛いことばっかりだったんだから、幸せになる資格があるよ」

 

 ともえのその言葉をどう受け止めたらいいか分からなかった。

 私の幸せのことを考えてくれているようであった・・・・・・だがそれでいて、どこへなりと去ってくれてかまわない、といった冷たい拒絶の言葉にも感じた。

 だいたい本当の仲間って何なんだ? 私とともえはそうじゃないのか? と嫌悪を感じてしまうほどだった。

 そしてともえの言葉の矛先は、私以外にも向けられた。

 

「・・・・・・イエイヌちゃんも」

「と、ともえさん!?」

「いつかイエイヌちゃんの本当の”大事なヒト”が見つかったら、わたしのことは気にしないで行っていいからね」

 

 2人の絆の根幹を揺るがしてしまうような言葉がともえから飛び出した。

 だがどうやら冗談や意地悪の類ではない。言っている当人が一番辛そうな顔をしているからだ。

 緑と赤の瞳からは涙が溢れ、それを隠すように顔を俯けて黙り込んでしまった。

 

 イエイヌはというと、予想だにしなかったであろう親友の言葉に対してどう答えたらいいかわからず狼狽えている。

 ロードランナーは「おめーらしくねーよ」と小声で呟いた。

 彼女は昨晩のともえの落ち込んだ姿をすでに目撃しているので、合点がいっている様子であったが、上手い励ましの言葉を思いつけないでいるようだ。

 

 私はともえからワケを聞いてみることにした。

 すると「わたしには誰もいない気がするから」という言葉が返ってきた。

 それを聞いて、何となくだけれども彼女の考えていることが分かってきた・・・・・・昨晩のあの表情の理由も。

 

 ともえはずっと寂しかったんだな。

 イエイヌには本当の主人が、ロードランナーにはプロングホーンが・・・・・・という風に、切っても切れない仲の存在が自分にはいないことを気にしていたんだ。

 そして私が「本当の仲間」のオオコウモリ達と心を通わせる様を見て、寂しい気持ちがいよいよ極まってしまったということか。

 

「きっとわたしはイエイヌちゃんに起こしてもらうまで、ずっと眠ってるだけだったんだ。冷たくて何もない氷の中で・・・・・・それがわたしの全部なんだ・・・・・・」

「違うぞともえ! お前は空っぽなんかじゃない! それこそ、メリノヒツジと戦った時のことを思い出してみろ」

「え? あの時頑張ったのはアムールトラさんで、わたしは何も・・・・・・」

「お前も私と一緒に戦ってくれたじゃないか」

 

 ともえが置かれた特殊な状況。そこから来る苦しみを解消してあげることは私には出来ない。

 だけどこれだけは自信を持って言える。ともえは強いと。

 何故ならメリノヒツジに対して一歩も引かずに自分の意見を伝えたからだ。

 

 メリノヒツジは過去のすべてを知っていた。それがゆえに歴史は繰り返すと断じ、未来への希望を見出すことを止めていた。

 そんな彼女に対してともえは、未来を信じる気持ちを最後まで曲げなかった。

 戦う力があるわけじゃないのに、本当にすごい勇気だと思う。

 

 ともえ達には知る由もないことだけれど、私は事切れる寸前のメリノヒツジと話したんだ。彼女の心の中で・・・・・・

「僕もあのアニムスのように未来を信じてみたい」

 彼女はそう言ったんだ。そして自分の分まで未来を見届けてくれ、と私に頼んでこの世を去った。

 最後の最後でともえに共感を示したんだ。それは紛れもなくともえの言葉があったからだ。

 

 それだけじゃない。ともえは私のことも救ってくれた。

 長い間、私はビーストである自分自身のことを信じられないでいた。そんな私をともえは信じてくれた。

 だからこそ私はもう一度自分を信じようと思えたんだ・・・・・・今思えば、それこそが立ち直れた切っ掛けだった。

 

「お前にはすごい力がある。未来を信じる心の強さだ・・・・・・でもそれは、誰かがお前に教えてくれた物なんじゃないのか? それこそ、夢の中に出てくるっていうお前のお父さんが」

「・・・・・・知らないよ。何も憶えてないもん」 

「思い出せなくたって過去は過去だ。記憶はなくても想いは残るんだ」

 

 それは私自身の言葉じゃない。

 メリノヒツジとの戦いの最中、脳裏によぎる謎の声が語っていたことだ。

 優しくてどこか懐かしい・・・・・・それでいて遠くに感じるような声だった。

 あの言葉があったからこそ、今の自分のみならず、昔の自分も信じる勇気を持つことが出来た。

 そうして私は昔の自分そのものであるビーストと完全に和解を果たした。

 

「記憶はなくても、想いは残る・・・・・・」

「そうだ。その想いがお前を突き動かしている。そんなお前だから、私達は付いていこうって思えるんだ」

 ともえが私の言葉を反芻するように呟いている。

 未だにその目は涙に濡れているけれども、二つの色の瞳に再び光が宿るような気がした。

 

「・・・・・・わふっ、ともえさん」

 イエイヌがともえの手を取りながら語り掛ける。その声色は優しかったが、ともえに対する気遣いというよりはむしろ神妙な感じがする。

 この際だから言いにくいことを言ってしまおうという覚悟が垣間見える。

 

「ご主人のことは、今でも懐かしいです。会いたくて仕方がないです。正直、あのヒトとともえさんを重ねて見てしまうことだってあります」

「・・・・・・やっぱり、そうなんだ」

「でも今は少し違います。私はともえさんがヒトだから付いて行っているわけじゃないです。ともえさんが好きだからです。優しいだけじゃなく、思ったことは絶対に曲げない強さを持ったともえさんのことが・・・・・・

 アムールトラさんの言う通り、そんなともえさんがいるからこそ、私達はまとまれているんだと思います。そして私は、みんなで旅が出来ている今がとっても幸せです・・・・・・これから何があったとしてもこの気持ちは変わりません。だから、寂しいことを言わないでください」 

 

 ともえは少し安心したような表情になった。

 一番大事な相手から正直な気持ちを聞かせてもらったからだ。

 元の主人への揺らがぬ愛を持つイエイヌにとって、ともえが主人と重なって見えてしまうことは仕方がない。

 それでも、彼女はともえだけが持っている良さをちゃんとわかっているんだ。

 

「・・・・・・お、お、オレ様よー」

 ロードランナーが頭をかきながら照れくさそうに口を開く。この空気で自分だけ黙っていることは無理だと察したんだろうな。

「えーと、その、つまりよー」

 だが中々語りがはじまらない。考えがまとまりきらないようだ。

 

「オレ様、早く強くなりてーって思ってる。故郷を奪われたのは悔しいし、プロングホーン様の自慢の子分になりてーし・・・・・・でも、それがオレ様にとって一番大事かって言うと、正直違うような気がするんだよなー。

 ・・・・・・で、よくよく考えたんだけどよ、オレ様は、単純にこの旅を楽しんでるんだよな。

 おめーらが一緒にいて、行く先々で色んなフレンズに出会えて、毎日がキラキラしてて最高なんだ・・・・・・だからともえ! おめーにこの旅を仕切ってもらわなきゃ困るんだからな!」

 

 言い終えてからロードランナーは照れくさそうに赤面する。

 ・・・・・・彼女がオオコウモリから「いつか大物になる」と言われた理由がわかるような気がする。

 彼女には自分を含めて何者をも否定しない心の明るさがある。

 その光は傍にいる私達を照らし続けてくれるだろう。

 

「・・・・・・みんな、ありがとう。ごめんね」

 ともえが仲間たちの思い思いの言葉を受けて呟く。

 涙をぬぐい去ると、腫れぼったい眼で上を向き、広がる空と海とを仰ぎ見た。

 遠くを見つめる緑と赤の瞳には、どんなに心細くても前に進もうとする強い気持ちが垣間見えたような気がした。

 

「一緒に行こうね。どこまでも、一緒に」

 

_______じーっ・・・・・・

 今度こそ4人で気持ちを一つにして、砂浜に停泊しているジョナサン号に戻ろうとしたその時、カモメが私達のことを見ているのに気付いた。

 柵から身を乗り出して、無言のまま何とも言えない微笑みを浮かべてこちらを凝視している。

 ・・・・・・彼女は私達のやり取りをぜんぶ聞いていたんだよな。何だか気恥ずかしい。

 

「な、なんだよー! 見せもんじゃねーんだぞ!」

「・・・・・・いやなに、青春だな~、と思ってーね~。大きな旅が始まる前ってさー、ワクワクよりもブルーが勝るんだよね~」

「ちぇっ、まーこれからよろしく頼むわ。船長さんよー」

 

 ロードランナーが怒ったリアクションを見せるも、見事にあしらわれてしまった。

 旅慣れたカモメだからこそ、今の私達の気持ちも手に取るようにわかるってことか。

 ・・・・・・それにしても「船長」か。これから彼女の船に世話になるわけだし、そう呼ぶのも悪くないかもな。

 

「さあ、いよいよ出発だよ~♪ ヨーソロー!」

 

 カモメは私達が乗り込むのを確認すると、ゆっくりとした足取りで舵の所まで歩いて行った。

 彼女が舵を握った途端、ジョナサン号が息吹を吹き込まれたように動き出す。

 海中に刺さった錨がゆっくりと船内に回収され、船中に張り巡らされたロープが動いて、丸く畳まれていた帆が張られていく。

 その様はまるで魔法だ・・・・・・やっぱりこの船も、たいがい得体の知れない仕掛けで動いているみたいだな。

 

_______ザザァッ・・・・・・

 ジョナサン号がぐんとスピードを増し、ホッカイの陸地があっという間に遠ざかっていく。

 私達はしばし好きなところに散って、思い思いに風景を眺めることにした。

「うおーーっ! すげー!」

 ロードランナーは船の帆先に身を乗り出して、前方に広がる海に目を輝かせているようだ。

 

 ともえとイエイヌは船尾にて身を寄せ合い、互いに言葉を交わすことなく、小さくなっていくホッカイエリアを見つめている。

 名残惜しいだろうな。ホッカイは2人が出会った場所であり、ともえにとっては出生地も同然の場所だもんな。

 

 そしてホッカイは私が帰る場所でもある。

 どんなに時間がかかっても、この旅でやるべきことを終えて、ともえ達と一緒にホッカイへと戻る。虹の楽園へ行って、オオコウモリとヒョウに再会するんだ。

 かつての仲間だったからとかそういうのは関係ない。2人とは新しく友達になればいい。

 

「ホクセイノ カゼ フウソク7メートル、キョウカラ アスニ カケテ テンキセイロウ・・・・・・」

「そうなんだ」

「トコロデ トモエ キノウヨリ ゲンキニ ナッタカ」

「うん、ありがとう・・・・・・!」

 

 ともえの方をチラリと見やると、彼女は手首にあるラモリさんに顔を近づけて会話をしていた。

 ラモリさんはともえ以外とは言葉を交わさないんだ。ともえが他のフレンズと会話をしている時にそれに混ざるようなことはない。

 それでも、彼が一番そばで彼女のことを気遣っているんだなと思った。

 

 私は特に場所にはこだわらず、甲板の中ほどでじっと佇み、船に吹き付ける風を感じていた。

 結構強めの風だ。頬を打ち髪の毛をなびかせている。それでいて心地よさも感じる。

 船っていいな・・・・・・風に乗ってどこまでも行けるって言うんだから、カモメが降りたがらないのもわかる気がする。

 

(記憶はなくても想いは残る、か・・・・・・)

 

 船旅の心地よさに浸りながら、私はふと、先ほどともえに話したことを思い返していた。

 あの時私は、ともえに対して話しているだけじゃなく、自分で自分に語り掛けているような気分になっていた・・・・・・

 この言葉はとても深い意味を持っている。そして誰にでも当てはまる。

 

 花が枯れても種が残るのと同じように、誰もが過去の想いを受け継いで生きている。

 ・・・・・・そして、私は何があってもこの旅をやめるわけにはいかない。

 何故ならばメリノヒツジから「未来を見届ける」という意志を受け継いだからだ。

 メリノヒツジとのことだけじゃない。今まで起きたことすべてに意味があったように思える。

 

 寂しくて苦しいばかりの人生だと思ってた。けれども今は感謝で胸がいっぱいだ。

 かつて私と出会い、想いを託してくれた多くの者たちに。

 これから私と一緒に歩んでくれる素晴らしい仲間たちに。

 ・・・・・・これまで頑張って生きてきた私自身に。

 

 どんな運命が待ち受けているかわからないけれど、私は変わらずに進み続ける。

 過去があるから今を生きていられる。今を一生懸命生きれば未来へとつながっていく。

 ただそれだけを信じて・・・・・・

 

「ありがとう、がんばるよ」

 風に吹かれながら、目の前に広がる美しい世界に向かって私は呟いた。

 

 the end




_______________Cast________________
 
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属トラ亜種 
「アムールトラ」
哺乳綱・ネコ目・イヌ科・イヌ属 
「イエイヌ」
鳥綱・カッコウ目・カッコウ科・ミチバシリ属 
「ロードランナー」
哺乳綱・コウモリ目・オオコウモリ科・オオコウモリ属
「オオコウモリ」
哺乳綱・ネコ目・ネコ科・ヒョウ属
「ヒョウ」
鳥綱・チドリ目・カモメ科・カモメ属
「カモメ」
食肉目・鰭脚類・アシカ科・ミナミオットセイ属
「ミナミオットセイ」
哺乳綱・食肉目・アライグマ科・キンカジュー属
「キンカジュー」
鳥綱・キーウィ目・キーウィ科・キーウィ属
「キーウィ」
哺乳綱・ウマ目・バク科・バク属
「ヤマバク」 
自立行動型ジャパリパークガイドロボット 
「ラッキービーストR‐TYPE-ゼロワン 通称ラモリ」
????????????????????? 
「通称ともえ」

_______________Story inspired by________________

“けものフレンズ”  “けものフレンズ2”
      byけものフレンズプロジェクト

     “けものフレンズR”
      by呪詛兄貴
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