ちょっと不思議なAK-12との日常   作:なぁのいも

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ふぇいとふるみーてぃんぐ?

近頃、とあるグリフィンの基地では占いが流行っているようだ。

 

しかも、人間たちの間ではなく、戦術人形達の間で。

 

どこまでも現実的な予測しか出来ない戦術人形達が、占いという不確定要素を気にするなんて何とも滑稽だと思われるかもしれないが、彼女達にも擬似とはいえ感情が存在する。

 

人間のように不確定要素に明るい未来を見出し、それに期待値を置いてみることは決して悪いことでは無いだろう。

 

話を戻そう。とにかく戦術人形達の間では占いが流行っているのだ。花占いや星座占い、数秘術やタロット、風水に四柱推命、と言った西洋から東洋までの手広い占いが戦術人形達の間で行われている。毎日色んな戦術人形が、自分を占って欲しいとK5が引っ張りだこになっているくらいには流行している。

 

そしてその波は、指揮官ーーではなく、彼の秘書官である白雪色の髪を一纏めにした戦術人形、AK-12にも来ている。

 

訓練所にいる係に戦術人形の特殊技能を最適化のスケジュールを手渡し、執務室へと戻る中、ずっと雑誌に齧りついてる位にはご執心な様子。何故、彼女が占いにハマっているかと判断したのか。それは興味があることにしか本当に関心を示さない彼女が、『星座……』、『風水……』と度々口にしていたからだ。

 

訓練所の人員からスケジュールミスを指摘され、当初のスケジュールを達成するために快速チケットを使っていいかと電話で聞かれ、疲れたように息を吐きながら承認する指揮官。電話を切りながら傍のAK-12を盗み見る。

 

本を読みながら歩くことはあまり褒められた行為ではないが、AK-12が珍しく興味を広げようとしている事と、彼女を怒らせたらグリフィンの基地にある機械を全て掌握しようとして、ボイコットを超えた何かを仕掛けてくるので、あまり逆らわないようにしている。どちらかというと、指揮官的には前者の意味合いが強いのだが。

 

AK-12は余程面白い占いを見つけたようで、「ふーん」、「なるほど」と唸り声をあげている。そんな姿を目にすれば、興味があることを発見していいことだ、と微笑ましく思えるかもしれないが、彼女の行動に度々振り回されてきた指揮官としては、背筋を冷や汗が伝うような緊張状態だ。

 

良くも悪くもAK-12は興味を持ったことをすぐさまやりたがる節があるのと、普段から瞳を瞼で塞いでるのもあってか、全く持って考えが読めないのだ。

 

つまり、何が言いたいのかというと、嫌な予感がしている。

 

「ねえ、指揮官」

 

「なんだ?」

 

うんうんと頷くような仕草と、納得したように唸るのをやめて、隣で歩く指揮官に声をかけるAK-12。それに対して指揮官は視線を合わせずにリアクションを返す。

 

「運命の相手が近くにいるそうよ」

 

「ほーん」

 

運命の相手。この基地には指揮官以外にも人間がいる。カリーナや上級代行官であるヘリアン、それに整備士などがそうだ。

 

つまり、自分という可能性はまだまだ低い。

 

そうやって自分に言い聞かせる指揮官だが、散々AK-12に振り回されてるだけあって、この後の展開が何となく予想できてしまうのが悲しいところか。

 

「私の半径1メートル以内にいる男性、だそうよ」

 

AK-12と指揮官は横並びで歩いている。手を大きく伸ばさずとも手を繋げそうな距離感で。

 

その言葉を聞いた瞬間、指揮官は条件反射で一歩大きく後退した。人間の大股で歩ける一歩は一番多くて自分の身長くらいとの言い伝えがある。少なくとも指揮官の身長は1メートルは超えている。だから、AK-12の言った判定には引っかからない。そうやって額に浮かぶ汗を袖で拭った所でーーAK-12が一歩大きく後ろに下がってきた。

 

これでは、1メートル以内に入ってしまう!

 

「成る程、そうか」

 

その瞬間、指揮官は立ち幅跳びの要領で腕を振って跳躍。再びAK-12から距離を取ることに成功する。

 

「運命って案外近くにあるもの、だって」

 

指揮官が距離をとった事に反応したAK-12も正規軍製特有のハイエンドな演算機能を使い、すぐさま対策を取る。つまり、AK-12も軽く飛び、再び指揮官に迫る。

 

「成る程、よく周りを見渡してみるものだ、な!」

 

しかし、そんなことが予測が出来てない指揮官では無い。指揮官は着地の勢いをすぐ様殺し、バックステップを踏んで距離を取り、AK-12とのすれ違いを演出する。

 

人間の柔軟な思考には驚かされるばかりだ。そんなことを演算装置の片隅で思いながら、AK-12は踵を返し、指揮官と相対する。

 

指揮官としては、絶対に捕まえられたく無い。捕まえた後に何をされるのか、予想が付かなすぎて怖いからだ。あの手この手で弱みを握られるのか、それとも強引に何かを迫られるのか、或いはAK-12の興味あることに永遠と付き合われるのか。どれを考えても、それ以上のことをしそうなAK-12という戦術人形が怖くて仕方ない。

 

「ふふっ」

 

AK-12は怪しく微笑む。指揮官の考えなどお見通しと言うかのように、或いは指揮官を捕まえた後のことを予測し始めてるかのように。

 

「ははっ……」

 

AK-12の次の手を予測しつつ、何とかスプリングフィールドの居るカフェに逃げ込もう。大正義スプリングフィールドなら何とかしてくれる。そう考えつき、逃走経路を練る指揮官。

 

AK-12は薄っすらとマゼンタの瞳を覗かせながら、手に持っていた雑誌を脇に投げ捨てる。もう用済みかと言うかのように。

 

悲しき人間の本能なのだろうか、指揮官の視線が投げ捨てられた雑誌に、一瞬だけ目を向けられた。そのくらいで油断する指揮官では無いが、その投げ捨てられた雑誌こそが彼女が仕掛けた一番の罠だった。

 

パラパラと宙を羽ばたく雑誌、その雑誌が開いたまま地面に着地する。

 

「……はっ?」

 

指揮官が素っ頓狂な声をあげるのも無理はない。AK-12が投げ捨てた雑誌。その開かれたページは真っ白で何の文字も写真もイラストも無かった。開いた時、両面とも白紙のページがある雑誌が存在するだろうか?否、存在しないだろう。

 

つまり、これはーーAK-12は表紙しかない雑誌を熱心に読んだふりをしてて、さっき言った占い結果はデタラメかと思ったらデタラメ以上の何かで、全てはこの時のために仕組まれたトラップでーー

 

刹那の時が流れた世界。微かに肌で感じる自然じゃない空気の流れ。それが指揮官を現実世界に呼び戻し、大きく手を伸ばして自分を組み敷こうとするAK-12の手を自分の掌で受け止めて、応戦する。

 

「逃がさない!!!」

 

AK-12の腕力は戦闘モードでないために抑えられているが、それでも成人男性で平均以上の筋力はある指揮官のそれと引かずとも劣らない。

 

「逃せ!!!」

 

対する指揮官は応戦しようとしたことが判断ミスであることに気がついた。その理由は簡単、持久力では戦術人形には勝てないからだ。人間がフルに力を発揮できるのはほんの一時。それは疲労や体力の消耗など様々な要因による決まりごと。

 

対する戦術人形にはスタミナ切れがと言うものが殆ど存在しない。言い方を変えればエネルギー切れがあるが、少なくとも指揮官のような筋力が多少あるだけの人間ではAK-12のエネルギーが切れる前に力つきることだろう。

 

「んぐぐぐ!!」

 

ならば、手を離して逃げてしまえばいい。そう考えてももう遅い。AK-12に手を握り締められて脱出不可能。

 

「ふふふっ」

 

ゆっくりじっくりと蜘蛛の糸に絡め取られる指揮官。AK-12は自分から糸に塗れようとする指揮官に余裕の笑みを浮かべる。

 

押してダメなら引いてみろ。その精神で手を引いて、AK-12の力を逃がそうとした瞬間、

 

「よんごねー!あれなーにー?」

 

廊下に響き渡る、舌足らずな高い声。その声が聞こえた方角に2人は視線をやる。

 

そこには、子供スキン適用のUMP9と、

 

「あれはねー!バカップルのケンカよー!」

 

腰に手を当てて自慢げに言う子供スキンが適用されたUMP45がそこにはいた。

 

彼女たちがここに来た理由。それは先程快速訓練を終えた報告に来てくれたのだろう。先程、快速訓練の許可を出してまで訓練させていたのは彼女たちなのである。しっかりして偉いものだ。

 

が、そんな風に褒めてやる余裕は指揮官にはない、

 

「誰がバカップーー」

 

45の発言を否定しようと口を開いところで、

 

「ぬおっ!?」

 

意識がよそに向いて僅かに力が抜けたのか、その隙を突かれてAK-12の右手に両手を一纏めにするように掴まれてしまった。

 

「あら、いい子達ね」

 

AK-12から褒められて、2人は自慢げに鼻を鳴らす。いつも柔和な笑みを浮かべているAK-12であるが、2人に対して浮かべる笑みにはいつもの倍は柔らかなもの。

 

AK-12はスラックスの左ポケットに手を突っ込むと、何かを取り出して2人に放り投げる。

 

2人は小さく背伸びをして見事にキャッチ。彼女たちの小さな手に収まっていたのは包装された飴玉だ。

 

「それはご褒美よ。指揮官と私がカップルだと言いふらしてくれればもっとあげるわ」

 

「おぉ!」

 

「ちょっ、オマ」

 

「ホントに!?」

 

「本当よ。ほら、早く行きなさい」

 

「「はーい!」」

 

「おーい止まれー!!!」

 

指揮官の懇願するような悲鳴に2人は耳を貸すことはしない。そのまま2人は背を向けて駆け出す。また良い子のご褒美を貰うために。

 

いたずら好きの双子の小悪魔が世に放たれた瞬間である。

 

「ちょ、待て!!」

 

腕一本だけの拘束では流石に足りなかったようで、指揮官はAK-12の戒めから見事に抜け出し、2人を止めるために駆け寄ろうとするが、第三者が彼を羽交い締めにする。

 

「捕まえた!!」

 

AK-12の声とは別の、普段はあまり抑揚がないのが特徴的なーーだけど今はとても興奮気味な声が。

 

咄嗟に振り向いてみる指揮官。そこにはAK-12より明るめの、光の当たり方によっては太陽と同じ淡い金色の髪を持った、AK-12の相棒とも言える戦術人形がそこに。

 

「AN-94!?」

 

そう、指揮官を羽交い締めにしてるのはAN-94。普段なら指揮官と同じようにAK-12の興味に振り回される苦労人仲間。その仲間だと思ってた彼女がなんで指揮官を取り押さえているのか、

 

「AK-12から通信で聞いたぞ指揮官。AK-12と結ばれるって!」

 

「違う!」

 

どうやらAK-12は指揮官と押し合い圧し合いを繰り広げてる間にAN-94に通信を送ってきたようだ。ただ、その言葉だけで彼女がAK-12の救援に来るとは思えない。その理由は、すぐに彼女の口から語られた。

 

「それと、私を養子にしてくれるって!」

 

AN-94の目が欲しかったおもちゃを与えられた子供のようにキラキラと輝いている。彼女が自らの存在意義としてるのはAK-12を全力でサポートすること。存在意義と言うよりは、彼女の一方的な依存ではあるのだが……。

 

そんな彼女が、(仮定とは言え)指揮官とAK-12の養子になったらどうなるか?それこそ、AN-94がどこぞに嫁入り(別オーナーの引き取り?)が無い限りはまず離れることはないだろう。彼女に取って手放しに喜べるような最高の条件。逃すわけにはいかないだろう。

 

指揮官はギギと首回りの関節が凝り固まったかの如くぎごちなく正面を向き直る。

 

「うふっ❤️」

 

そこには瞼を薄っすらと持ち上げ、妖艶に微笑みながら小首を傾げる、珍しく可愛らしい仕草をするAK-12がそこに居た。

 

「さぁ、私と結ばれる時よ、運命の指揮官!」

「早く私のお義父様になってくれ指揮官!私も指揮官の娘になれるのなら悪くない!」

 

自分勝手に願望を押し付ける大事な部下2人に対して指揮官は、

 

「オ・マ・エ・らああああああ!!!!!」

 

基地中に響き渡るような、喉が張り裂けんばかりの怒号をあげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこのやり取りの数分後に、いたずら好きの2人の小悪魔の効果が発動し、数多くの戦術人形と女性が集結しようとしたらしい。

 

そんな敵達から、雑に指揮官を抱えて逃げるAK-12とAN-94の表情は何処と無く楽しそうだったそうな。

 

一言だけ言えるとしたら、指揮官の振り回される日々はAK-12を気に入って副官に置いている限りは永遠に続くことだろう。


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