社畜は作り物の檻で幸せを願う   作:さくららんらんぼ

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小さな妹

「今日からコニーはあなた達の部屋よ。よろしくね。」

 

そう言ってママが連れてきたのは、小さな女の子だった。少し伸びた髪をツインテールに結って、遠慮がちにこちらを伺っている。

 

─あぁ、もうそんなに原作が近付いているのか。なんて。その子を見ながら苦しく思った。

 

 

 

 

 

「コニー、私はマリーだよ。よろしくね」

 

そう話しかけると、コニーは驚いたのかぴゃっとママの後ろへ逃げてしまった。苦笑したママがコニーの頭を撫でて言う。

 

「コニーは少し人見知りさんなのよね?」

 

コニーが小さくこくこくと頷いた。幼気なその仕草に面食らってしまった。何この可愛い生き物。

 

「マリー、同じ部屋だしコニーのことをよろしくお願いね。」

 

了解の意味を込めてこくりと頷くとママはコニーを一撫でして行ってしまった。ママは今日も忙しいらしい。

ママが居なくなってしまったためかコニーが不安そうに視線を巡らせる。

 

コニーの目線に合わせようとしゃがむと、コニーはびくりと肩を震わせた。…しまった。怖がらせちゃったかな。

 

 

─…そう言えば、私も初めて大きい子達に混ざった日は不安で仕方無かったなぁ。大きい子達は私よりずっと背が高くて、別世界の人のようで少し恐ろしかった。

きっとダリアが話しかけてくれなかったら、私はずっとひとりぼっちだった。

 

 

もう居ないダリアのことを思い出して少し目頭が熱くなった。コニーが心配そうに顔を覗き込んでくれる。優しい。

 

私は手を伸ばして丁度目の前の位置にあるコニーの頭をゆっくりと撫でた。一瞬コニーは逃げてしまうかなと思ったけれど、逃げなかった。

 

「何か不安なことがあったらいつでも言ってね。絶対に力になるから。」

 

そう言うとコニーはぱちくりと目を瞬かせた。少し間を置いて控えめに頷いてくれる。かわいい。

 

「じゃあトイレの場所とかお風呂の場所を案内するね。行こうか?」

 

コニーに手を差し出すとぎゅっと握り返してくれた。その小さな手は8歳になる私の手とは全然違う。柔らかくて、ふにふにしていて、守りたいなと思える手だった。

 

 

 

「…何だか懐かれたね?」

 

テストの終わった洗濯の時間、私と同じ当番だったギルダが微笑ましそうに言った。その目線の先には新しい妹、コニーがいる。

 

コニーは私の服の裾をつまんで、作業するギルダの手元をじっと見つめていた。

 

「…えへ。うん、嬉しい。」

 

正直言っていつもより二割増でにまにましてる自信がある。コニーが可愛くて今日も楽しい。

 

私が動くと雛鳥みたいに後を付いてきてくれるし、時々手を繋いでくれる。たまに何か言いたいことがある時は私の服の裾をくいくい引っ張ってくれる。かわいい。年の離れた妹がいるってこんな感じなのかな。

 

何というか日々のストレスが吹っ飛ぶ癒しパワーだと思う。昔まだ私が働いてた時に戻れるのなら、是非とも連れて歩きたい。

 

 

「あれ?マリーにギルダ、コニーもいんじゃん。3人でなにしてんの?」

 

 

その声と共ににゅっと洗い場に影が伸びた。驚いて見上げるとその正体はドンだった。私達の組み合わせが珍しかったのか話しかけに来てくれたらしい。

 

ドンは7歳の現時点でもハウスの上位を争う高身長だ。どうやら早いうちから成長期が来るタイプだったようで、元々高めの身長はにょきにょきと伸び続けている。

 

 

ふと嫌な予感がした。…もしかしたら、コニーとドンがまともに顔を合わせるのはこれが初めてなんじゃないか?

…目線の低いコニーにとって、身長の高いドンは怪物のように見えてるんじゃないか?

 

 

そう思った予想は的中したらしく、コニーは小さく悲鳴を上げて丸まってしまった。

 

 

「もー、ドンが怖がらせるからー。」

 

「えっ!?」

 

ギルダが呆れたようにため息をついた。ドンにはそんなつもりはなかったようでおろおろと動揺している。ギルダが「大丈夫よ?」とコニーに声をかけてもコニーは頑なに起きようとしなかった。

 

「…コニー?」

 

コニーが私の服に顔を埋めたままふるふると首を振る。どうやら意地でも顔を上げたくないらしい。というかちょっと怖いのかな。

 

私はドンを手招きして、コニーの目線と同じくらいにしゃがませた。そしてその手に洗濯したばかりのシャツを握らせる。

顔の前で翳しておくようにドンに言ってそれからコニーにもう一度声をかけた。

 

 

「ねぇねぇ、ほらコニー。シャツが何か言いたいみたいだよ?」

 

 

ドンはそれだけで私の意図を察したらしい。濡れたシャツをお面のように顔の前へ翳してうやうやしく話し始めた。

 

「うっ…ゴホン!こんにちは、わたくしはシャツの妖精です。」

 

あんまりにも面白かったので私は思わず噴き出してしまった。隣でドンの行動を見守っていたギルダも肩を震わせている。

ドンは熱くなって周りが見えなくなる時もあるけれど、小さい子の面倒を見るのは一番上手い。ちびっこのお相手は断トツハウスNO.1だ。

 

コニーはびっくりしたのか、きょとんとしたままドンのシャツを見つめている。

 

 

「先程はわたくしの部下、ドンが失礼致しました。うるわしきレディ、許して下さいますかな?」

 

 

シャツが下手なお辞儀をして言った。コニーは首を傾げて、一言。

 

 

「…うるわしき?れでぃ?ってなぁに?」

 

 

「ちょ、待ってドン、これコニー絶対意味分かってないよ…っふふ、」

 

「えっマジで!?」

 

「ちょ、もう無理、あは、あははは!」

 

きっとハウスの本で得た知識だろうけど、“うるわしきレディ”だなんてドンにしてはあまりにも似合わない言葉選びだ。とうとう耐えきれなくなって私もギルダも笑い出してしまった。

一人、コニーだけが状況を理解していないのか変わらず首を傾げている。

 

「……ふ、ふふ、ふ」

 

コニーがふにゃりと笑った。どうやら私とギルダに釣られたらしい。ドンは少し顔を赤くして、照れたように項をかいた。

 

「…え、えっと、コニー。俺はドン。さっきは怖がらせてごめんな?」

 

ドンがそっとシャツの隙間からコニーの様子を伺う。コニーはふるふると顔を横に振って、それから控えめに微笑んだ。

 

「…私も、怖くなって、ごめんなさい。」

 

「いいって、いいって。謝んなよ。いきなり人が現れたらそりゃあ普通に怖いもんな。」

 

 

 

だからさ、仲直りしよーぜ。ドンがにっと笑って手を差し出す。コニーは少し目を見開いて、それから嬉しそうに破顔した。

 

 

「…うん!」

 

 

コニーがぎゅっとドンの手を握る。仲直りの握手は成功らしい。丸く収まって良かった、と私とギルダも息をついた。

 

 

 

 

 

 

──どうやら、コニーとドンは意外と相性が良かったらしい。私にずっとくっ付いて回っていたコニーも、その日からはドンにくっ付いている所を見かけることが多くなった。

 

コニーを連れ歩けなくなったのはやっぱりちょっと寂しいけれど。嬉しそうなコニーを見てたら、これもこれで良かったかなと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の知っている原作は、絶望的なストーリーのわりに死亡するキャラクターが少ない。

 

何故ならエマが全員で脱獄することを望むから。成し遂げるからだ。

 

 

 

けれど、だからこそどうしても──最初の犠牲者、コニーを助ける方法が分からない。

 

 

 

「…あのね、マリー。髪の毛、結んで欲しいの。いい?」

 

 

コニーがもじもじしながらもお願いしてくれた。断るはずがない。「いいよ。こっちおいで。」と答えて椅子に座らせる。

コニーの髪の毛は柔らかくて、ふわふわで。それで小さな子特有のいい匂いがした。

 

 

「あのね、マリー。私のこと気にかけてくれてありがとう。」

 

 

コニーがぽつりと呟くように言う。椅子の後ろに立った私は、正面を向く彼女の表情が分からない。思わずコニーの髪の毛を結う手が止まった。

 

 

 

「私ね、マリーのこと大好きだよ。」

 

 

 

──おい、神様。お前、本当にろくな仕事しないな。なんでこんな優しい子が。…残酷な結末を、辿る運命になってるんだ。

 

 

 

「マリー?どうしたの?…泣いてるの?」

 

 

コニーの手が暖かい。けれどあと三年も経てば。この手は温もりを失ってしまうのだ。あの寒々しいトンネルで、最後に惨い恐怖を感じながら。1人寂しく命を落としてしまうんだ。

 

 

「…コニー、私もあなたのこと大好きだよ。」

 

 

 

──だから、お願いだから死なないで。

 

 

 

最後は、口に出せなかった。それを出したらその先が。エマやレイ、ノーマンの、皆の結末が変わってしまう。二度目以降の脱獄は不可能に等しい。コニー以上に沢山の兄妹達が死んでしまう。

 

 

…コニー、ごめんね。見ていることしか出来なくてごめんね。逃がしてあげられなくてごめんね。

 

 

「泣かないで、マリー…」

 

 

コニーが抱きしめてくれる。コニーの心音がトクトクと聞こえる。まだ生きてる。生きている音だ。

 

コニーを抱き締めながら、どうかどうかと必死に願った。願うことならこの子も、この先出荷される予定のハオやセディも。どうにかして一緒に逃げて、助かる未来を。

 

 

 

 

 

 

──そんな未来なんて、ある筈がないのに。

 

 

 

 

 

 

私には何も出来ない、変えられない。…そう思い知った夜だった。

 

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