桜と士郎   作:周小荒

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鮮血神殿

 

 セイバーは日課となった飲食店巡りを終えると士郎が通う中等部に戻る事にした。

 そして、中等部に戻る途中で高等部の近くを通り掛かった時に異変に気付いた。

 

「あれは、凛が言っていた結界!」

 

 セイバーのサーヴァントは平時は別だが戦闘になればマスターが近くにいる事が絶対条件である。

 セイバーは自身のマスターの元に急いで戻り、事態の報告と指示を仰ぐ必要があった。

 

(凛、私が戻るまで持ち堪えて下さい)

 

 セイバーに無事を祈られた凛は苦戦しながらも孤軍奮闘していた。

 

「なんて奴なの!」

 

 異変が起きた瞬間に凛はライダーを令呪を使い呼び寄せて鮮血神殿の完全発動を止めたのだが、元より魔力不足気味のライダーとガス漏れ事件に偽装して魔力を集めたキャスターとでは力に差が有りすぎた。

 

「他人の結界を自分の為に利用するなんて!」

 

 凛は結界の発動と同時に現れた使い魔をガンドで打ち砕く。

 ライダーは結界の完全発動を防ぐ為に動けずに廊下で迫り来る使い間達を迎撃している。

 頼りのアーチャーも狭い校舎内で得意な弓を使えずに逃げるキャスターを使い魔を倒しながら追跡する。

 

「クソ。この結界に邪魔されて力が出せん!」

 

 事態は時間の経過と共に悪化して行く。

 

「お嬢さん。残念だったわね。ライダーを手に入れた時に結界を破壊するべきだったわね」

 

 凛の前に突如、キャスターが歪な刀身のナイフを片手に現れる。

 ライダーの鎖が唸りを挙げてキャスターを貫くが素通りしてしまう。

 

「チィ、幻影か!」

 

 凛はライダーの背後に転がる様にして逃げ込む。

 

「ライダーは前に集中して、後ろは私が守る!」

 

「凛、分かりました」

 

 ライダーが返事をした途端に天井からキャスターが現れて凛に再び襲い掛かる。

 ライダーが途端に凛を突き飛ばして身代わりになる。

 

「ライダー!」

 

 キャスターのナイフがライダーに突き刺さる寸前にキャスターを横殴りの衝撃を受けて吹き飛ぶ。

 

「キャスターよ。私が来たからには行く事も退く事も叶わぬと心得よ!」

 

 耐魔力を持つセイバーだけが結界内で自由に動けるのである。

 

「やっと、本命の登場かしらね」

 

 フードの下でキャスターが微かに笑うのがセイバーには見えた。

 

「戯れ言を!」

 

 セイバーがキャスターに少しずつ詰め寄るとキャスターも少しずつ後退する。

 

「セイバー。後ろ!」

 

 士郎の叫び声に反応して倒れる様にして振り向くと背後からキャスターが短刀を片手に襲い掛かって来ていた。

 キャスターの短刀は空を切り倒れながらセイバーの剣がキャスターの短刀を弾き飛ばす。

 短刀を犠牲にしてセイバーの刃から逃れたキャスターの視界が天と地が入れ替わると同時にキャスターの後頭部に衝撃が走る。

 背後に居た士郎がキャスターにバックドロップを食らわせたのである。

 サーヴァントとは言え、女性で魔術師のキャスターには眼前のセイバーと対峙するだけでも難行であり、人間の少年に対しては完全な無警戒であった。

 後頭部を抑えて転げ回るキャスターにセイバーの剣が襲い掛かるが寸前にキャスターは姿を消してたのである。

 

「しまった。逃げられたか」

 

 セイバーが呟くと同時に結界の発動が止まる。

 

「ライダー。全ての呪刻を消去して!」

 

「分かりました。凛」

 

 全ての呪刻が消去された途端に凛は崩れ落ちる様に倒れた。

 

 

 凛が目を覚ますと傍らにはセイバーが椅子に腰を掛けていた。

 

「気がつきましたか。凛」

 

「あれ、セイバー。ここは?」

 

「キャスターが撤退した後で凛は倒れたのです。覚えてませんか?」

 

「そうだっだ。セイバーがキャスターを追い払ってくれて、ライダーが結界を消去したら安心したら……」

 

 凛は完全に記憶を取り戻した様である。

 

「その後で、士郎の指示で凛を連れて学校から脱出したのです」

 

「そう」

 

「それから、士郎から伝言があります。学校の人達は全員無事だそうです。ライダーが結界の作動にブレーキを掛けてくれましたから」

 

「そう、ライダーは?」

 

「霊体化して屋根の上で見張りをしてます」

 

「アーチャーは?」

 

「先程まで台所で士郎と何か料理を作っていましたけど」

 

(アーチャー。聞こえる?)

 

(凛。目覚めたのか)

 

(今、起きたところよ)

 

(丁度良いタイミングだな)

 

 何が良いタイミングなのか凛には理解が出来ない。

 

「遠坂先輩。入ってもいいかな?」

 

 士郎が部屋の外から声を掛けてきた。

 

「うん。大丈夫よ」

 

「では、失礼します」

 

 部屋に入って来た士郎は凛の顔を見ると安心した様である。

 

「良かった。回復したみたいですね。因みに明日から一週間程、学校は休校になりました」

 

「そう。それも仕方がないわね」

 

 凛にしたら冬木市の管理者として、己の失態が招いた事である。

 キャスターに指摘されたがライダーを捕らえた時に、その場で結界を解除させるべきだったのである。

 

「まあ。アホの学校経営陣には良い薬でしょうよ」

 

 意外な事を言い出す士郎に凛も軽く驚いた。

 

「何でよ?」

 

「そりゃ、これだけ治安が悪いのに部活をやらせたりして危機管理とかイスカンダルまで投げ飛ばしていたからね」

 

 帰宅部の士郎にしたら運動部が予算的に優遇されている事や運動部の生徒が威張るのが気に食わないし、それを黙認している学校の経営陣が気に食わないのであった。

 

「まあ。取り敢えず2人分の魔力を使って落ちた体力を回復する事に専念して下さい」

 

 にっこりと笑う士郎に凛も釣られて笑ってしまう。

 

「そこで、はい。どうぞ!」

 

 士郎が後ろ手に隠していたジョッキを凛に差し出す。

 

「何、これ?」

 

 凛が戸惑い気味に質問する。士郎が差し出したジョッキには見事なまでの赤い液体が入っていた。

 

「すっぽんの生き血のリンゴジュース割り」

 

「嫌よ。セイバーにも飲ませてあげなさい!」

 

 凛が激しく拒否する。

 

「意外だったなあ。遠坂先輩なら喜んで飲むかと思った」

 

「私は中年のオヤジか!」

 

「仕方ない。セイバー」

 

 士郎がセイバーの名を呼ぶのはセイバーに処分させる為と思うのも当然であった。

 

「あまり気が進まないですが仕方ないですね」

 

 セイバーがゆっくりと立ち上がった瞬間、凛はセイバーから羽交い締めにされて床に尻餅をついた体制になっていた。

 

「ちょっと、衛宮君。何の真似かしら?」

 

「アーチャーもライダーも了承済みですからね。令呪を使うとか馬鹿な真似はしないで下さいよ」

 

 万事休すの状態で口を固く閉じて、凛は悪足掻きする。

 士郎は尻餅をついた凛の膝に乗り無情にも凛の鼻を摘まむ。

 息が出来ずに口を開いた凛の口にジョッキの中身を流し込む。

 

「諦めて飲みなさい。溢したりしたらお気に入りのパジャマが血だらけになりますよ」

 

 士郎の一言で凛は無条件降伏をしてジョッキの中身を飲み干すのであった。

 

「衛宮君の馬鹿!」

 

 セイバーから解放された凛が半泣きになりながら枕で士郎を叩き始めた。

 

「セイバー、遠坂先輩を止めてよ!」

 

 セイバーが止める間もなく凛が士郎の上に崩れ落ちた。

 体力を消耗している状態で枕を振り回せば当然の事である。

 

「遠坂先輩、大丈夫ですか?」

 

 偶然にも凛に抱き付かれる格好になった士郎が顔を真っ赤にしながらも凛を気遣う。

 顔を真っ赤にする士郎を見て、凛が意地の悪い笑みを浮かべると士郎を抱き締める。

 

「ち、ちょっと、遠坂先輩!」

 

「こうして近くで見ると、衛宮君って、可愛いわねぇ。セイバーはサーヴァントだからノーカンだったけど、私は生身の女の子なのよね」

 

 凛が士郎の耳元で囁くと吐息が耳をくすぐり、士郎は耳まで赤くする。

 

「間桐さんには勿体ないかなぁ」

 

「遠坂先輩、駄目!」

 

 士郎が凛を跳ね除ける前にセイバーが士郎から凛を引き剥がす。

 

「仕返しにしては悪質でやり過ぎですよ。凛」

 

「ごめんなさい。衛宮君が可愛い反応するから」

 

 士郎は無言で立ち上がると部屋を出て行く。部屋の外からセイバーに声を掛ける。

 

「セイバー。遠坂先輩を居間まで運んで!」

 

「あら、怒らせたかしら?」

 

 全く反省の色の無い凛に頭を抱えたくなるセイバーであった。

 

 2人が居間に行くと卓袱台には人数分の小鍋が用意されていた。

 

「衛宮君。これって?」

 

「遠坂先輩の想像通りですよ」

 

「凛。士郎が凛の為に新鮮な素材を探してくれたのだ」

 

 アーチャーの一言で凛も諦めて箸を取る事にした。

 

「へえ、スッポンって栄養があるから高価なのかと思っていたけど、美味しいわね」

 

 普段は少食の凛もスッポンの味に魅せられたのかシメのうどんに最後のシメの雑炊まで完食したのである。

 

「こんなに食べたのは初めて!」

 

「それは良かった。捌いたアーチャーも喜ぶ!」

 

 食後には今後の方針とキャスター対策の会議が始まった。

 

「葛木先生がマスターだったの!」

 

「令呪こそ無かったが手強い相手だった」

 

「しかし、信じられないなあ。力を半分しか出せないサーヴァント相手に互角の戦いをするとは!」

 

 信じられない事と言えば、士郎も信じられない事をしているのである。

 サーヴァント相手にプロレス技を決めているのである。

 

「非常識な人間とは思っていたが、トコトン非常識な奴だな」

 

 話を聞いたアーチャーの感想である。士郎以外は納得する感想なので異論も出ない。セイバーさえ士郎を擁護する気にならない。

 

「非常識の塊の連中に言われるとは!」

 

 士郎にして幽霊同士を戦わせたり、幽霊が料理を作ったり食べたりする事が常識から逸脱していると思うのだが、口にしたのは別の事である。

 

「こちらの主力の遠坂先輩がダウンしてますから、明日は休養日としますか」

 

「ごめんなさいね」

 

「遠坂先輩が謝る事じゃないですよ。遠坂先輩がいなければ高等部は全滅していたのですから」

 

(ランサーとイリヤから連絡が無いのが気になるけどな)

 

 聖杯戦争が始まって3日目が終わろうとしていた。

 

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