桜と士郎   作:周小荒

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魔術師2人

 

 士郎は早朝から朝食の支度をしていた。

 メニューは生卵にとろろオクラ、ニンニクの丸揚げにアジの刺身、大根おろしと納豆にネギと揚げの味噌汁である。

 

「衛宮君。おはよう」

 

 凛がセイバーに付き添われて居間に入って来た。

 

「おはようございます。遠坂先輩」

 

 凛が卓袱台に座るとセイバーが配膳を手伝う。

 

「アーチャー、ライダー!」

 

 士郎が呼ぶとアーチャーとライダーが現れた。

 

「頂きます!」

 

 過半数がサーヴァントという異常な光景だが、全員が違和感を持たずに食事をする。

 

「アジの刺身にはワサビより生姜の方が良いぞ」

 

「やはり、生姜が正解か!」

 

「魚を生で食するとは!」

 

「私はマリネ等で慣れてますから」

 

「お味噌汁が美味しいわね。衛宮君、後で作り方を教えてね」

 

 食事が終わると士郎は後片付けをして、魔力の消費を抑える為にアーチャーとライダーは霊体化する。セイバーは凛の介護を担当する。

 

「衛宮君も大袈裟ね。病気でも無いのに」

 

「士郎は色んな意味で凛を頼りにしている証拠です」

 

 セイバーのフォローに苦笑しながらもベッドに横になると直ぐに寝息を立てる凛であった。

 後片付けが終わった士郎がセイバーに留守番と買い物を頼むと自分は霊体化したライダーを連れて病院に慎二と大河の見舞いに行く。

 

「直ぐに帰るから午後から遠坂先輩の回復具合を見てから間桐の家に行くからセイバーも頼むよ」

 

「分かりました。しかし、キャスターが士郎を狙う可能性もあるので危なくなれば迷わずに令呪を使って下さい」

 

「分かった」

 

 士郎が見舞いに行くと大河は満面の笑みを浮かべた。

 

「士郎。待っていたわよ!」

 

 士郎が差し入れの炒飯のお握りを渡すと飢えた虎と同様に食べ尽くす。

 

「もう。病院のご飯が少なくて死にそうだったわ!」

 

「まあ。普通は昨日の今日で食欲があるとは思わんけどね」

 

 大河は士郎が持って来た差し入れを全て食べ終わるとカーテンを閉めさせる。

 

「何、着替えるの?」

 

 子供の頃からの付き合いである。着替え程度では恥ずかしさを感じない。

 

「えいっ!」

 

 大河が士郎を胸に抱き締めると士郎も大人しくされるがままにされる。

 

「ごめんね。心配させて」

 

「うん。大丈夫だよ。姉ちゃんの事を信じてたから」

 

 士郎が大河に抱き締められてる頃、凛とセイバーは衛宮邸の土蔵に居た。

 

「土蔵とか初めて見たわ」

 

「凛でも珍しいのですか?」 

 

「そうね。土蔵とか今の日本では珍しいわよ」

 

 土蔵の内を見学していた凛の目が一点に集中する。

 

「ねえ。セイバー。貴女が召喚されてから衛宮君は土蔵に入った?」

 

「いえ、ランサーと戦った時から士郎は一歩も入っていません」

 

「あの子は何者よ。非常識にも程があるわ」

 

「凛、何事ですか?」

 

 凛が床に転がっている鉄鍋を手に取る。

 

「セイバー、分からない?」

 

「はい。私は騎士であって魔術師ではありません」

 

「魔術も所詮はある所から持って来る技術なの。無から何も作れないわ」

 

 凛が手にした鉄鍋をセイバーに渡すと鉄鍋が光の粒子となり消えていく。

 

「これは?」

 

「衛宮君が自分の魔術で作った物よ。魔術教会に知られるとホルマリン漬けにされるわよ」

 

 凛の言葉にセイバーも息を呑む。

 

「しかし、士郎は魔術師ではないと言ってましたが」

 

「ええ。魔術師をじゃないわ。魔術師を超えているもの」

 

(帰ったら、叱ってあげないと)

 

 凛が士郎の心配をしていた頃、士郎は大河に甘えていた。

 

「もう、中学生になっても甘えん坊ね」

 

 自分から水を向けていて言う台詞ではないだろうと思った士郎だが、大河に抱き締められるのは心地よい。

 

(士郎。上の階からサーヴァントの気配がします)

 

 念波でライダーが士郎に報告する。

 

(上の階だと間桐先輩の病室だな)

 

「じゃあ、姉ちゃん。間桐先輩の見舞いに行って来るね」

 

 大河が一瞬だけ寂しそうな表情を出したが、直ぐに笑顔で士郎を送り出す。

 

(キャスターと話がしたいから、攻撃は少し待ってね)

 

(今は魔道書を持っている。貴方がマスターです。私に遠慮は不要です)

 

(悪いねえ。コロコロとマスターを変えて)

 

 士郎はライダーと会話しながら、慎二の病室に入る。

 

「桜先輩!」

 

 士郎が反射的に桜の名を叫んだ。士郎の視線の先には桜が床に倒れていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 倒れている桜に掛け寄ると桜を抱き起こした瞬間、士郎の胸にナイフが数ミリ手前で急停止する。

 

「甘い!」

 

 ナイフを持った桜の手を士郎が掴んでいた。

 

「ライダー!」

 

 ライダーが呼ばれて現れると同時に桜からナイフを取りあげると桜を士郎から受け取ると急いで病室から脱出する。

 

「ライダー、敵は近くに居るのか?」

 

「はい。気配があります!」

 

「なら、取り敢えず病院を出るぞ」

 

 2人が病院を出て隣の公園に逃げ込んだ途端に竜牙兵が襲って来た。

 

「ライダー!」

 

 今度は士郎がライダーから桜を受け取るとライダーが竜牙兵達を蹴散らす。

 ライダーが竜牙兵を蹴散らすと新しい竜牙兵が現れて士郎達に襲い掛かる。

 士郎が一瞬だけ悩んで左手を強く握ると叫んだ。

 

「来い、セイバー!」

 

 左手の令呪が大きく光ると光の中からセイバーが飛び出して来た。

 そのままの勢いで、セイバーが竜牙兵達を一瞬で蹴散らす。

 

「良い判断ですこと」

 

 頭の上からの声に反射的に全員が上を見るとキャスターが空に浮かんでいる。

 

「キャスター、話がある。一時休戦して話をしろ!」

 

 士郎が大声でキャスターに呼び掛ける。

 

「聖杯が汚染されている事は私は承知しているわ」

 

「ならば、協力して聖杯を浄化するなり新しい聖杯を要求するべきだろう!」

 

「私には完璧な聖杯等は不要よ。それより、貴方は目障りだわ」

 

 空に浮かぶキャスターから光の柱が士郎に向けて放たれる。

 

「士郎!」

 

 ライダーが叫ぶが桜を抱えてる士郎には避ける事も出来ない。

 

 光の柱が命中する寸前にセイバーが我が身を盾にして士郎を守る。

 

「耐魔力!」

 

 セイバーの耐魔力の前にはキャスターの攻撃は無力化されてしまう。

 キャスターがセイバーに意識が向いている隙をついてライダーが鎖を投げつける。

 キャスターは地上からの攻撃を余裕を持って避けたが次の瞬間には余裕を無くす事になる。

 ライダーは1投目は避けられる事を承知であった。本命は2投目である。

 ライダーは大きくジャンプしてキャスターとの距離を詰めて鎖を投げつける。 

 2投目の攻撃は紙一重で避けるとジャンプしたライダーの後ろからセイバーがライダーを踏み台にしてキャスターに襲いかかる。

 

「私を踏み台にした!」

 

 ライダーも予想外の攻撃をキャスターが避ける事が出来る筈もになく。セイバーの剣がキャスターを一刀両断にした。

 両断したキャスターが微笑むのをセイバーが確認した。

 

「しまった!」

 

 セイバーは自分とライダーがキャスターの罠に嵌まった事を悟った。

 空中で士郎に視線を向けると地面に倒れた士郎と桜を抱えた葛木宗一郎がいた。

 着地したセイバーとライダーが桜を取り戻す為に突進するが竜牙兵に邪魔をされる。

 葛木の背後にキャスターが現れると桜を抱えた葛木と一緒に上昇して行く。

 

「この娘を返して欲しければ、私の神殿で待っているわ」

 

 キャスターはセイバーとライダーに宣言をすると地面に倒れている士郎に光の槍を放つ。

 士郎は光の槍が到達する前に転がる様にして避ける。

 

「相変わらす、油断の出来ない坊やね」

 

 どうやらキャスターも士郎が狸寝入りをしていた事を看破していたらしい。

 士郎達は無言でキャスターが消えた後の空を睨むしか出来なかった。

 

 セイバーが士郎から令呪で呼び寄せられた直後の衛宮邸ではアーチャーが凛に指示を乞うていた。

 

(凛。セイバー達の応援に私達も行くのか?)

 

「今から、新都まで行ってセイバー達を探しても遅いわよ。それより、士郎達が帰って来た時の為に食事の用意をお願い」

 

 アーチャーが実体化して台所に向かうと凛はアーチャーの襟首を後ろから掴み引き摺り倒す。

 

「凛。何の真似だ!」

 

「それは、こっちの台詞よ。衛宮君!」

 

 凛は引き摺り倒したアーチャーに馬乗りになり、今度は胸ぐらを掴む

 

「凛、何の事だ?」

 

「まだ、惚ける気?何なら令呪を使うわよ!」

 

「何故、私を衛宮士郎と断定する?」

 

「疑い始めたのは昨日の朝からよ。筑前煮と餡かけの揚げ出し豆腐よ」

 

「そんな事ぐらいで疑う根拠になるか!」

 

「あの筑前煮の味付けは冬木市の人間特有の味付けよ。それに、土蔵に衛宮君が作った鍋や包丁があったわ。あんたの双剣も同じ投影魔術でしょ。同じ街に2人も投影魔術師がいる筈がないわ!」

 

「まさか、料理が原因で真名が露見すると思わんかったよ。私も迂闊だった」

 

「本当に迂闊ね。筑前煮はハッタリだったのに」

 

「な、何!」

 

「まあ。あんたがサーヴァントになった経緯を聞きましょうか?」

 

 令呪を見せつけてくるのが凛らしい。エミヤは素直に降参する。

 

「先に言っておくが、私は衛宮士郎だが、ここの世界の衛宮士郎とは全くの別人だぞ」

 

 アーチャーは自分が英霊エミヤになった経緯を凛に告白した。

 

「じゃあ。貴方は私と同級生だったの?」

 

「その点だけでも、私とこの世界の衛宮士郎とは違う。それに奴は私との決定的な違いは自分に一番大事な者を知っている事だ」

 

「貴方の世界の私は何をしていたのかしらね」

 

「言っておくが、君も私の世界の遠坂凛とは違う。君は恋人を冬のテムズ川に放り投げたりはしないだろ」

 

 何となく、目の前の男が英霊エミヤになった理由が分かった気がした凛であった。

 

 

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