桜と士郎   作:周小荒

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柳洞寺の戦い

 

 失意の士郎とライダーが帰宅したのは昼過ぎになってからである。

 桜を拉致された事を聞かされて、事の重大さに出迎えた主従も顔色を青くする。

 

「それで、セイバーは?」

 

「新都に置いて来た。今頃は魔力補給に勤しんでいるだろ」

 

 ライダーが凛に説明する。桜を拉致された後に思わず士郎がセイバーの胸ぐらを掴んだのである。

 

「士郎にしたら耐魔力のある騎士のセイバーが魔術師の奸計に嵌まって桜を拉致されたのです。怒るのは無理もないです。逆に胸ぐらを掴んだだけで終わらせた士郎を褒めるべきです」

 

「それで、双方が頭を冷やす為に別行動を」

 

「はい」

 

 凛も士郎を責める事が出来なかった。貴重な令呪を使い呼び寄せた戦いの専門家が魔術師に遅れを取ったのである。

 ましてや、人質になったのが最愛の女性なら無理もない事である。

 自分が士郎の立場なら士郎の様に胸ぐらを掴むだけで終わる自信がない。

 

「取り敢えず食事にするが良い。食事して魔力を蓄える事は大事だ」

 

 その場をアーチャーが取り成して食事が始まる。

 

「取り敢えず冷蔵庫の食材を全て使った。全て平らげてくれ」

 

 セイバー抜きで食事を済ませた後に士郎は間桐邸の間桐臓硯に事の報告をする為に行く事にした。

 

「年齢が年齢だから、引退している人だからなあ。力は貸して貰えんが知恵は貸して貰えるだろう」

 

 ライダーは間桐家の事情を知る為に、士郎が狼退治の知恵を虎に借りに行く行為を止める事が出来なかった。

 

「じゃあ、セイバーが帰ってきたら士郎が謝りたいと言っていたと伝えてね」

 

 これは、士郎の本音である。セイバーは騎士であり城や土地を奪い合う戦争の専門家で魔術師相手の専門家では無いと考えた為である。

 そして、セイバーの方は戦闘により魔力を消費した事と自分の失態で桜を拉致された事も合わせて食事に専念していた。

 取り敢えず食べている間は嫌な事を忘れられるのである。

 5軒目の店を出た時は流石に幾分か気分も晴れたので帰宅する事にした。

 

(士郎が令呪までを使い任せた責務を果たせずに信頼を裏切ったのだから士郎の怒りは当然です)

 

 セイバーには苦い過去がある。前回の聖杯戦争でもマスターの伴侶であるアイリスフィールを敵に拉致された経験があるのだ。

 今夜、必ず桜を奪還する事を誓ったセイバーである。

 そして、セイバーが帰宅するとライダーから士郎が謝罪したいと伝言を受け取ったのである。

 

「士郎の怒りは当然の事なのですが」

 

「貴方も貴方のマスターも良い人ですね」

 

 ライダーは自身のマスターを考えるとセイバーが羨ましく思える。

 2人が会話していると玄関から士郎の声が聞こえて来た。

 

「ただいま」

 

 ライダーは霊体化してセイバーが迎えに行く。

 

「士郎。お帰りなさい」

 

「セイバー。悪いが話は後にして、遠坂先輩達を居間に呼んでくれ」

 

 セイバーが凛を連れて居間に戻ると士郎が居間で桜に渡す筈だった炒飯のお握りを食べていた。

 

「夕飯前に駄目でしょう」

 

 凛が姉の様に小言を言うと士郎も弁解する。

 

「その、勿体ないでしょう」

 

「もう。それより何か間桐の家で情報を仕入れられた?」

 

「それが、間桐の爺ちゃんは死んでいたよ。第一発見者になってしまったよ」

 

「何ですって!」

 

「死因は心不全と言っていたけどね。まあ、故人の年齢から言えば不思議では無いと思えるけどね」

 

「偶然にしては、タイミングが良すぎるわ」

 

「だろうね、問題はキャスターに何のメリットが有るかだよな」

 

「分からないわ」

 

 凛も本気で困惑していた。遠坂家と間桐家は互いに干渉しない取り決めがされていて、間桐臓硯の事も何を考えているか分からない陰謀家としか知らない。

 

(間桐臓硯が死んだとなると桜を遠坂の家に戻した方が良いわね。慎二では桜を守れ無いでしょうから)

 

 凛と同様に桜も潜在的な魔術回路を持っている筈であり、他の魔術師達から間桐の家が守っている状況である。

 間桐家の象徴である臓硯が死んだとなると桜の身が危ないのである。

 

(それも、キャスターから桜を取り戻してからの話よね)

 

「まあ。詳しい話はキャスターを捕まえて聞けば良いか」

 

 士郎の意見に全員が賛成をして夜に備えて休養を取る事にした。

 士郎も疲れた様で会議が終わると舟を漕ぎ出した。セイバーが抱き上げて士郎を布団まで連れて行く。

 士郎の服を脱がすと自分も着替えて添い寝をする。

 セイバーは不思議だと思った。我が子にさえ感じた事の無い愛情を士郎に持つ事に。

 そして、士郎に対して愛情を持つ事に心地よさを感じていた。

 

 

 凛は士郎の丼がピンク色に染まっているのに呆れていた。

 柳洞寺に行く前に士郎が温かい物を食べて体を温めるべきだと主張してラーメン屋に寄ったのだが、士郎は麺を食べた後のスープに大量の紅生姜を入れて食べている。

 

「塩分の摂り過ぎでしょう」

 

「生姜は体を温めるから寒い日に食べた方がいいんだよ」

 

(そりゃ、冬場にミニスカートにニーソを履いてる人には関係無いか)

 

 士郎はジーパンにトレーナーにジャンパー姿である。一応はジーパンとトレーナーの下には膝パットと肘パットを装着している。

 これから戦いに行くのに無防備なミニスカートにニーソ姿の凛には内心は呆れていた。

 体を温めた凛と士郎は柳洞寺の山門の

階段前まで来たのである。

 

「衛宮君。ボヤボヤしていたら置いて行くからね」

 

「分かっているよ」

 

「では、まずは私が先鋒を務めます」

 

 セイバーが前に出ると見えない剣を手にする。

 

「ほう。私が分かるとは」

 

 声と共にサーヴァントが現れた。

 

「あっ、佐々木小次郎!」

 

 士郎が思わず声を出してしまった。

 

「ふむ。良くぞ見抜いたな。童」

 

「いえ、貴方の武名は日本では有名ですから」

 

 内心は敗者として有名なのは黙っておく事にする。

 

「童。気を遣わずとも良い。所詮は人々が勝手に作り上げた名ゆえ」

 

「では、貴殿は架空の英霊なのか?」

 

「無から何も生み出せん。同時代に剣で幾分かの名を売った同姓同名の男がいただけよ」

 

「セイバー。伝説では空飛ぶ燕さえ切り落とした技の持ち主だぞ!」

 

「ほう。空飛ぶ燕を」

 

「所詮は伝説に過ぎぬ。それよりは」

 

「我らは、戦うのみ!」

 

 セイバーが先に仕掛けたが、小次郎は一合も打ち合わずにセイバーが繰り出す斬撃を身を捻り反らして躱していく。

 

「セイバー。この国の剣士は刀が傷むから打ち合う事は嫌がる。達人になると服の表地は切らせても裏地は切らせない程の見切りをするぞ」

 

「ほう、童。詳しいな」

 

「それだけ、貴方達が有名なんですよ」

 

「そうか。なら、童達は先に行くがよい。童が居ると色々と面倒だ」

 

 どうやら、小次郎は照れてる様である。士郎にしたら幼い頃から漫画や時代劇の歴史上の英雄である。許されるならサインの一つも欲しいのが本音である。

 

(私も英雄なんですけど)

 

 セイバーの思いとは別に凛が先頭をきって通り抜けて行く。士郎もそれに続く。

 士郎は通り抜けた後に振り返るとセイバーに大声で声を掛ける。

 

「負けるなよ。セイバー!」

 

「勿論です。マスター!」

 

「良いマスターに引き当てられたな。セイバーよ」

 

 小次郎はセイバーに声を掛けながら大上段から刀を打ち据える。頭上に落ちてくる刀を弾き飛ばしながらも淀みなく反撃をする。

 

「確かに、私には過ぎたマスターです」

 

 返事をしながらもセイバーも連続で剣を繰り出す。小次郎はセイバーの息もつかせぬ攻撃の全てを避けて最後には反撃する。

 

「この様に清清しく華麗で鋭い剣は初めてです。士郎が憧れる訳だ」

 

「セイバーのサーヴァントよ。お主の剣も一点の曇りも無く堂々とした剣ではないか!」

 

 セイバーは小次郎の剣技の技量に驚嘆していた。セイバーのサーヴァントである自分はスキル補正されているが、アサシンのサーヴァントである小次郎はスキル補正が無いままで自分と互角の戦いをしているのである。

 

「そろそろ頃合いだな」

 

 小次郎が有利な上段の位置を捨てセイバーと同じ踊り場に降りて来た。

 

「悪いが決めるぞ」

 

「有利な上段を捨て降りて来るには、それなりの自信があるとみた」

 

「我が秘剣は平地しか使えぬ」

 

「面白い。その秘剣を破って見せ」

 

 全てを言いきらない内にセイバーの姿が消えたのである。

 

「令呪か。あの童め、最初から狙っていたな」

 

 山門に括られたサーヴァントの身ではセイバーの後を追う事も出来ない。

 キャスターが令呪か魔術を使わない限り身動きが取れないのである。

 

「果たして女狐に私を呼び寄せる余裕があるかな」

 

 キャスターの元にたどり着いた士郎が耐魔力があるセイバーを令呪で呼び寄せたらキャスターに勝ち目は無いであろう。

 まして、自分が安否はキャスターに伝わっている筈、自分が健在なのにセイバーが現れたら心理的にも奇襲として成立する。

 

「なかなかの策士ではないか。セイバーが心酔する筈だ」

 

 生前、小次郎は主取りをせずに一介の浪人として生涯を終えた。

 その事が小次郎の実在をあやふやにして、数々の伝説を作る要因になった。

 その事に悔いは無いが士郎とセイバーの主従を見ていて羨ましくなる小次郎であった。

 

「女狐が倒された後に果たし合いの続きをする余裕が有れば良いのだが」

 

 残念な事に小次郎がセイバーと果たし合いの続きをする事は無かったのである。

 

 

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