桜と士郎   作:周小荒

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地下神殿

 

 セイバーを残して先に進んだ凛と士郎だったが階段の中腹の踊り場で急に凛が立ち止まった。

 

「罠ですか?」

 

 士郎が身構えて凛に質問する。

 

「違うわ。こっちよ」

 

 凛が階段脇の道なき道を歩き出す。士郎も黙って凛の後に続く。

 時間にして5分程度を歩くと家庭用冷蔵庫2台分くらいの岩が現れた。

 凛が岩に手をかざして士郎には理解が出来ない呪文を唱えると凛の手が岩の中に入っていく。

 

「秘密の通路か!」

 

 士郎は理解した。人の多い寺である。夜中に女性が山門を通れば誰かに目撃される可能性もある。

 秘密の通路を作る事に寄り人知れずに出入りが出来るのだ。

 

「衛宮君、行くわよ!」

 

 自分の後に士郎が躊躇せずに続く事に凛は軽い驚きを持っていた。

 

(こんな、非日常的な扉に平気で足を入れるなんて)

 

 士郎にしたら桜を取り戻す為なら例え炎の中にでも飛び込む覚悟なのである。

 

 秘密の出入り口の内側は岩盤が剥き出しの通路になっていた。

 凛と士郎が通路を抜けると眼下には古代ギリシャの町並みが現れた。

 

「呆れた。やりたい放題ね。溜め込んだ魔力で作ったのでしょうけど」

 

「あっ、あんな所に神殿がある!」

 

 士郎が驚きの声と一緒に指差した先には日本人がよく知る古代ギリシャの神殿があった。

 

「あの神殿にキャスターが桜と一緒に待っている訳ね」

 

 眼下の町の家から大量の竜牙兵が現れたて来た。

 

「素直に行かせるつもりは無いみたいね」

 

「しかし、キャスターもセコいよな」

 

 キャスターの狙いは竜牙兵を使った消耗戦である事は自明の理であった。

 

「所詮は魔術師。戦術レベルは素人以下だよな。ライダー!」

 

 実体化したライダーに士郎が何か指示をしてライダーが首肯く。

 

「確かに相手の思惑に付き合う義理は有りませんね」

 

 ライダーは士郎の指示に納得した様で手にした鎖を槍投げの要領で遠くに投げると神殿の近くの地面に先端が突き刺さる。

 そして、手元に残った鎖を大縄跳びの要領で回し始める。

 大きく回転する鎖で神殿に続く通路に出ていた竜牙兵を一気に掃討する。

 

「では、士郎」

 

 ライダーが中腰になり士郎はライダーの背中にしがみ付くとライダーは一気に走りだした。

 凛も士郎に習い、アーチャーの背中にしがみ付く。

 4人は一気に神殿まで、かなり安直な方法で到着する事に成功したのである。

 神殿に到着した途端に凛が急に笑い出す。

 

「凛、どうしました?」

 

 凛の意外な反応にライダーが驚くのは無理も無いであろう。

 

「だって、若い魔術師の私でさえ考えつかない方法だもん。古代の魔術師のキャスターには絶対に考えつかない方法だし、今頃は苦虫を噛み潰した顔をしていると思うと笑いが止まらないわ」

 

 凛の予想は当たっていた。キャスターは凛達の行動の全てを監視していたが、士郎の予想外の行動に苦虫を噛み潰していた。

 

「敵を子供と思って舐めて掛かるからだ」

 

 葛木に言われて反省するしかないキャスターであった。

 

「この程度の予想外の行動をされても私達の優勢は覆りませんわ」

 

 キャスターの言葉は負け惜しみでもあり事実でもあった。

 

「俺は何をしたらいい?」

 

「宗一郎様にはアーチャーの相手をお願いしますわ。蛇と子供達は私が相手をします」

 

 キャスターが恐れるの三騎士と規格外のパワーを持つバーサーカーのみである。

 そして、今は溜め込んだ魔力がバーサーカーを凌駕している。

 現状、一番の難敵は耐魔力を持つセイバーだが、セイバーはアサシンのサーヴァントに足止めをされている。アサシンが勝つ事はないであろうがセイバーがアサシンを倒して駆け付けた時には全てが終わっている。

 勝利の為の道筋は既に出来ているのである。

 

「キャスター。油断をするなよ」

 

「はい。マスター」

 

 キャスター陣営が待ち構えている、神殿の最奥まで、凛と士郎は遂に辿り着いた。

 

「うわ。まるで球場だな」

 

 柳洞寺の地下深くに広々とした空間を作られた事に士郎は驚くばかりである。

 そして、球場に例えればマウンドの位置に桜が立っていたのである。

 

「桜!」

 

「桜先輩!」

 

 2人が桜に意識を集中していた時にアーチャーの声がした。

 

「油断をするな。凛!」

 

 次の瞬間には凛に目掛けて投げられた石をアーチャーが弾いていた。

 

「流石、英霊だけあるな。奇襲は通じぬか」

 

 柱の影から葛木が姿を現した。

 

「この変態教師!」

 

 士郎が葛木に向かって大声で怒鳴る。傍らにいる凛も性犯罪者を見る目で見ている。

 

「何と罵倒しても構わんが、事実と反する事を言われるのは心外だな」

 

 葛木が反論するが士郎が更に反論する。

 

「桜先輩にあんな格好をさせて、変態では無いと言い訳をするつもりか!」

 

 士郎が指差す先に居る桜はSMショーの女王様の様なボンテージを纏っている。

 

「あれは、キャスターの仕業だ。私は関知していない」

 

 静かに弁解する葛木の言に士郎も驚く。

 

「じゃあ、キャスターはレズの上に変態だったのか!」

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 士郎の言葉にキャスターが桜の後方に姿を現した。

 

「変な誤解をしないで、私は宗一郎様一筋よ!」

 

 残念ながらキャスターの言葉は凛と士郎に信用されなかった。

 

「なら、何であんな格好をさせる!」

 

「ちょっと、キャスター。生贄にする前に人の妹に変な事をしなかったでしょうね?」

 

 完全に性犯罪者扱いである。当然と言えば当然である。

 特に凛はギリシャ神話の知識もある為に、古代ギリシャでは同性愛が盛んな事を知っているので深刻である。

 

「儀式の前の下準備で着ていた服が駄目になったから手元にあった服を使っただけよ!」

 

 キャスターが弁解しても凛と士郎は納得していなかった。

 

「あんな服を持っている時点で変態だろ!」

 

 士郎が怒鳴る様にキャスターに反論する。

 

「だって、日本の殿方は、あんな格好が好きなんでしょう!」

 

「そんな物は一部のマニアだけじゃ!」

 

 完全に聖杯戦争とは関係無い話で互いにヒートアップする。

 

「そんなマニアックな話を誰に吹き込まれた!」

 

「上の寺の若い修行僧達」

 

 キャスターの言葉に呆れる凛と士郎である。

 

「無知な外国人に変な事を吹き込むなと柳洞君に言っておくわ!」

 

「それなら、自分で着ろよ!」

 

 士郎の言葉にキャスターが反論する。

 

「自分でも着たけど、サイズが合わなかったのよ」

 

「サイズも確認せずに服を買うアホがいるか!」

 

 士郎の言葉に反応したのはキャスターではなく凛だった。

 

「男の子の衛宮君には分からないでしょうけど、女の子には、よくある事なのよ」

 

「えっ、そうなんだ!」

 

 服には拘らない士郎には理解が難しいのだが、凛には理解が出来るのである。

 デザインが気に入って買った服も、とある事情から胸元がスカスカだったりするのである。

 ましては、桜にビッタリのサイズならキャスターも自分と同志の可能性もある。

 

「その、遠坂。そろそろ始めても良いか?」

 

 葛木の声で変な方向に暴走した流れた事に気付いた凛と士郎にキャスターが我にかえる。

 

「えっ、はい」

 

「忘れていたわ」

 

「失礼しました。マスター」

 

 アーチャーが目だけで葛木に無言で礼を言う。

 

「それじゃ。アーチャーは葛木をお願い!」

 

 アーチャーに言い残すと凛は士郎を連れて下に飛び降りた。

 下に降りた士郎は着ていたジャンパーを桜に着せてやる。

 

「坊や。この娘が本当に大好きみたいね」

 

 士郎の背後に現れたキャスターが耳元で囁く。咄嗟に士郎は横に飛び退く。

 

「本当に戦術では素人だな。唯一のチャンスを捨てたな」

 

「あら、油断じゃないわ。今のは余裕よ」

 

「愚かな。来いセイバー!」

 

 士郎はキャスターと無駄な話をする気が無く。令呪でセイバーを召喚する。

 

「まさか、貴重な令呪を!」

 

 士郎の目の前にセイバーが現れる。

 

「キャスター、今度こそ行く事も退く事も叶わぬと心得よ!」

 

 形勢は一気に逆転した。耐魔力を持つセイバーと凛がキャスターを追い回す。

 キャスターの魔法攻撃はセイバーには聞かないのでキャスターは逃げ回るしかないのであり。

 葛木にはアーチャーとライダーが相手をしている。葛木もアーチャー1人なら優勢でいたがライダーが加わると守勢に回らざる得ない。

 キャスターもアサシンを呼べば良いのだがセイバーと凛がアサシンを呼ぶ隙を与えない。

 アサシンである小次郎は山門に括られている為にキャスターの危機を感じても何も出来ないのである。

 ならば、桜を人質にと思っても士郎が桜を抱えて神殿内を走り回りキャスターに捕捉されない様にしている。

 まさに万事休すである。そして、破局は唐突に来た。葛木がライダーの鎖で縛られたのである。

 

「キャスター。マスターの命が惜しければ抵抗を止めろ!」

 

 アーチャーが葛木の首に刃を突き付けて脅迫して来たのである。

 

「抵抗しないから、待って!」

 

 セイバーがキャスターの背後に回る。キャスターが不自然な動きをしたら一撃て切って捨てる事が出来る指呼の間である。

 

「ねえ。セイバー。私達と組まない?」

 

「戯れ言を!」

 

 キャスターは苦しまぎれの手段としてセイバーを誘惑に出た。

 

「私が貴女のマスターになれば魔力不足に悩む事も無い。完成された聖杯も貴女の物よ。私は聖杯の力を少し借りるだけよ」

 

「キャスター。セイバーを誘惑しても無駄よ。騎士道に反する事がセイバーには絶対に出来ないから」

 

「その小娘の言う通りだ雑種!」

 

 全員が第三者の声に驚き、その場にいた者は声の主を仰ぎ見る事になった。

 全員の視線の先には数十種類の剣や槍が中空に浮かんでいる。

 その一つ一つがセイバーの聖剣クラスの宝具であるのが分かる。

 そして、その中央に一体のサーヴァントが声の主であった。

 

「アーチャー!」

 

 セイバーが思わず声を漏らした。

 

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