桜と士郎   作:周小荒

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舌戦

 

 全員が驚いて見る先に一体のサーヴァントが立っていた。

 全身を黄金の甲冑で包んでいた男を見て士郎が大声を出す。

 

「天秤座のゴールドセイント!」

 

 その場にいた者で士郎の言葉の意味が理解出来たのは呆れた顔をした凛とアーチャーのみの様である。

 

「我を、あの様な下劣な連中と同じにするな!」

 

 士郎も驚いたが意外な事に黄金の男も意味を理解していた様である。

 

「失礼しました」

 

 士郎が素直に自分の非礼を認めたので黄金の男も、それ以上は何も言わないでいた。

 

「それより、キャスターよ。わが宝物を掠め盗らんとした上に騎士王を、しもべにとは赦しがたい大罪よ!」

 

 黄金の男の怒りはキャスターに向けられていた様である。そして、セイバーを指差して宣言をする。

 

「あれは、王である。我の物である!」

 

「ちょっと待った!」

 

「今度は何だ小僧」

 

「まずは貴方様は何時かの時代の王様で間違い無いですね」

 

「その通りだ」

 

「次にキャスターが掠め盗らんとした貴方の宝物というのは聖杯の事でしょうか?」

 

「それも、その通りだ」

 

「では、セイバーの事を騎士王と呼ばれましたが、セイバーの正体もご存知で?」

 

「騎士王とは10年前の聖杯戦争で争った仲である」

 

「そうですか。それなら、最初に貴方が聖杯の所有者である証拠を見せて下さい」

 

「小僧、我を疑うか!」

 

「しかし、僕は冬木の聖杯はアインツベルンと遠坂と間桐の三家が制作した物と聞いてます」

 

「ふむ。正確に言えば冬木の聖杯の原典は我の宝物庫にある」

 

「つまり、勝手に模造品を作って使うなと」

 

(著作権の問題みたいだな。古代か中世の人間にしたら進んだ考えを持った人なんだな。流石は王様だよな)

 

 士郎は能天気に勝手に解釈し感心していた。

 

「小僧にも分かる様に言えば、そうなる」

 

「では、後学の為にも原典をお見せ下さい」

 

「ふむ。本来なら見る事も許されない事だが、雑種にしては賢明な故に特別に見せてやる」

 

 士郎の前に直径20センチ程の光の輪が出現して士郎の手に黄金の酒器が出で来た。

 

「小さい!」

 

 普通のワイングラスのサイズである。士郎の想像した物とはかけ離れていた。

 

「見た通りの大きさ故に叶えられる望みも限定される。試しに何か望んでみよ」

 

「では、遠慮なく。セイバーと遠坂先輩のオッパイをワンサイズだけ大きくして!」

 

 聞いていた周囲の人間は思わず目が点になってしまった。

 最初に立ち直ったのは、名前を出されたセイバーであった。

 

「士郎。ふざけているのですか!」

 

「あっ!」

 

 セイバーの怒りの声に凛の驚きの声が重なった。

 

「凛、どうしました?」

 

 セイバーの声には凛の身を心配する響きがあった。

 

「あの、本当にバストが大きくなったわ。ブラのホックが弾けたわ」

 

 報告した凛の服の裾から2つの白い物体が落下したが、その場に居た者のは見なかった事にする。凛に注目した後で全員の注目がセイバーの胸に集中する。

 

「わ、私は何も変化が有りません」

 

「たわけ。セイバーは王となるのを引き換えに成長を担保に出したのだ」

 

「つまり、他の力が働いていると力負けするわけですか?」

 

「そうだ。別にサーヴァントだからという訳ではない。騎士王が先口の契約をしていたからだ」

 

 士郎が他のサーヴァントで試してみるつもりでアーチャーとライダーを見たが二人とも目をそらすので残ったキャスターで試す事にした。

 

「じゃあ、キャスターは何を望む?」

 

「私は受肉を」

 

「受肉?」

 

「生身の人間になる事よ」

 

 凛が受肉の意味を説明する。

 

「成る程ね、聖杯よ。キャスターの望みを叶えてやって」

 

 聖杯が小さく輝いた。

 

「あっ!」

 

 今度はキャスターが驚きの声を出した。

 

「本当に私は受肉した様です」

 

 キャスターの報告に皆が驚く中で士郎が、この際とセコい願いを望む。

 

「桜先輩の服を何時もの服に変えて!」

 

 桜の全身が淡い光に包まれて光が消えると拉致された時の服に戻る。

 

「凄い。桜先輩と結婚が出来ます様に!」

 

 今度は聖杯は光らない。

 

「あれ?」

 

「たわけ。言った筈であろう。その聖杯は限定された望みしか叶わんと言ったではないか」

 

「じゃあ。僕は桜先輩と結婚が出来ないのですか」

 

「その様な未来の事を決定させる力が無いだけだ」

 

「じゃあ。結婚が出来ない訳じゃあ無いのですね」

 

「もう良かろう」

 

「その前に、遠坂先輩が今、履いてるパンティーをおくれ!」

 

 聖杯が小さく光る。

 

「きゃ!」

 

 凛が小さい悲鳴をあげるて両手でスカートを押さえる。そして、士郎の手には温かい布切れが現れた。

 

「やったー!」

 

 無言で士郎の背後に回った凛が士郎の脳天にマッハの拳骨を落下させる。

 頭を抑える士郎から布切れを奪うと凛は物影に隠れたのであった。

 

「だって、望み事を言う時のお約束でしょう」

 

 残念ながら士郎の言葉の意味を理解できる者は居なかった。

 

「下らぬ事に使うな」

 

 呆れた声で黄金の男が言うと聖杯が現れた時と同じ様に光の輪の中に消えていく。

 代わりにプラスチック製のハンマーが現れたて士郎の頭に炸裂する。

 

「痛い!」

 

「我の宝物庫には、あらゆる物の原典が貯蔵されている。今のはピコピコハンマーの原典だ」

 

(原典じゃなく試作品なのでは)

 

 士郎は内心の声は出さずに、別の事を口にした。

 

「貴方様が聖杯の原典を持っている事は分かりました。なら、早急に聖杯を回収してお引き取り下さい」

 

「ふむ。小僧は聖杯を欲しくはないのか?」

 

「残念な事に冬木の聖杯は壊れています。住民としては迷惑な話です。貴方様も前回の聖杯戦争の時に異常は感じれなかったのですか?」

 

「我は最初から聖杯等に興味が無い。我が興味があるのは聖杯に群がる浅ましい者達よ」

 

「それと、セイバーにも所有権を主張されてましたが、セイバーは家来としてですか?」

 

「たわけめ。我の伴侶としてだ!」

 

「おおっ!」

 

 士郎が思わず驚きの声を出してしまった。聖杯戦争の間だけ現界しているサーヴァントに結婚の

概念があるとは思ってなかったのである。

 

「しかし、聖杯戦争が終われば消えてしまうのがサーヴァントではないですか!」

 

「我と同じく聖杯の中身を飲めば良い。さすれば、肉体はサーヴァントのままだが聖杯の力を借りずに現界も可能である」

 

「では、貴方様も?」

 

「我も10年前に偶然に聖杯の中身を飲んだのだ」

 

「しかし、セイバーは聖杯で叶えたい望みが有るそうですが?」

 

「小僧は何を望んでいるか、知っているのか?」

 

「いえ。私はセイバーの真名も何も聞いてはいません」

 

「ならば、問ってみよ。聖杯に何を望むかを」

 

 ギルガメシュは士郎がセイバーの望みを聞いて、どんな反応をするのか見てみたくなっていた。

 

「セイバーが聖杯に叶えて欲しい事は何?」

 

「私の望みは滅びた故国の救済です」

 

「えっ、それは聖杯でも無理が有ると思うけどね」

 

「士郎、どういう事です?」

 

「まあ、過去を変える事は可能だが歴史的な大きな事象は多分、無理だぞ」

 

(この小僧、雑種の身で有りながら聡いではないか)

 

 士郎は現代人としてSFの概念を持っているからセイバーの望みが不可能な事は理解していたが

、SFの概念の無い時代の人間に理解させる自信はなかった。

 

「しかし、万能の願望機である聖杯なら不可能も可能にするのでは!」

 

 士郎も困惑するだけである。セイバーに説明して理解させるにしろ。時間が掛かるのである。

 

(ふむ。聡いと言っても所詮は小僧だな。この辺りが限界か)

 

「王様。セイバーに理解させるのに暫く時間が掛りますので、後日に再びご足労を願えますか?」

 

「ほう。小僧よ。前回の聖杯戦争にて英霊と呼ばれた存在に成し得なかった事を成せると言うか!」

 

 前回の聖杯戦争でライダーのサーヴァントとして召喚されたイスカンダルが説得したがセイバーは聞く耳を持たなかった。

 

「五分五分の自信ですが、理解させる事は不可能では無いと思います」

 

「では、小僧のお手並みを見物させてもらうぞ」

 

(ふむ。雑種の子供にしては面白い奴ではないか)

 

「その前に、貴方様のお名前は?」

 

「我は人類最古のウルクの王。英雄王、ギルガメシュである」

 

 サーヴァント達の間に動揺が走る。凛に至っては顔を青くしていた。

 

「これは、御丁寧に僕は穂波原学園中等部二年の衛宮士郎と申します」

 

 無知な士郎したら古い時代の王様程度の認識しかないので恐れる事もなく、礼儀正しく自己紹介をする。

 

「ほう。衛宮切嗣の息子か」

 

「はい。切嗣は養父でした。父を御存知ですか?」

 

「我よりセイバーに聞くが良かろう」

 

「セイバーに?」

 

「親子二代で同じサーヴァントのマスターになるとは面白いものよ」

 

「何ですって!」

 

「何だ。騎士王からは何も聞かされてなかったのか」

 

 皮肉な笑みを浮かべたギルガメシュが消えるのを確認すると士郎は倒れるのであった。

 

「士郎!」

 

 セイバーが倒れる士郎を咄嗟に抱き止めたのである。

 

「大丈夫だよ。セイバー」

 

 セイバーの腕の中で微笑む士郎であった。

 

「でも、疲れた限界。少し寝かせて」

 

「はい。安心して寝て下さい」

 

「それと、起きたら色々と聞く事があるから」

 

 セイバーの顔が硬直するのが傍目からも確認する事が出来た。

 

(帰ってたら、色々と大変だわ)

 

 凛も士郎と同じく寝る事で色々な事から逃走したくなった。

 

(アーチャー。私もダウンしてもいい?)

 

 アーチャーの返答は簡潔を極めた。

 

(駄目!)

 

 凛の苦労する1日が始まろうとしていた。

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