桜と士郎   作:周小荒

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姉妹、親子、主従、

 

 凛達が衛宮邸に戻った時には夜が明け始めていた。

 

「何とか夜明け前に帰れたわ」

 

 士郎はセイバーが桜はライダーが凛はアーチャーが受肉したキャスターはアサシンが衛宮邸に運んだのである。

 葛木のみが徒歩で衛宮邸に移動となった。

 士郎は自室に桜は客間に、それぞれ寝かせる。その間に凛とアーチャーの主従コンビが朝食を作る事にする。

 朝食が出来ると士郎と桜を起こして全員で朝食となる。

 

「葛木先生とキャスターは暫くは離れで住んでもらいます」

 

「遠坂。名目が必要だぞ」

 

「藤村先生が居ない間の保護者として住んでいただきます。それと桜も一緒に住みなさい」

 

「それから、キャスターは私達に協力してもらうわよ」

 

「私に何か見返りはあるの?」

 

「キャスターには国籍と戸籍を用意するわ。この2つがないと葛木先生と結婚は無理よ。直ぐに入管が密入国者として逮捕するわよ」

 

「受肉したら色々と大変ね」

 

「桜もライダーのマスターになってもらいますからね」

 

「そんな、遠坂先輩!」

 

「諦めなさい。あんたも間桐の家から遠坂の家に戻らさせるわよ」

 

「えっ!」

 

「間桐臓硯が死んだのよ。もう遠坂の家しか貴方を守る事は出来ないわ」

 

「それから、士郎も金ピカを上手く乗せて帰した事は誉めるけど、この先はどうするの?」

 

 食事が済んだ途端に凛がテキパキと命令を出し始めたのである。

 

「まずは、キャスターは真名を教えなさい」

 

 観念したのか凛が用意する国籍や戸籍に釣られたのかキャスターは全てを話した。

 

「はあ。あの大魔術師のメディアだったとはねえ。まあ。仲間に引きずり込めたもんだわ」

 

 魔術史上のビックネームに凛も驚嘆するしかない。

 

「それから、貴方の妹さんには平時はライダーのマスターを務めてもらうにしても戦いには妹さんは無理よ」

 

「あら、桜も魔術師の家に生まれたからには甘やかさないわよ!」

 

「違うの。妹さんは普通の暮らしは出来ても暫くは魔術師としては身体が保たないわ」

 

 メディアは桜に向き直り桜自身を説得する様に話す。

 

「貴女自身がよく分かっているでしょう」

 

「はい」

 

 桜の返事は簡潔だが力が無い。

 

「大丈夫よ。貴方を苦しめた者は私が退治しておいたからね」

 

 メディアの表情は裏切りの魔女と呼ばれた冷酷な女性のそれとは違う。慈母に溢れた女性の表情であった。

 メディアにしたら生前は不誠実な男性に苦しめられた人生だっただけに、桜には親近感を持っているのだろう。

 

 メディアの優しい言葉に涙を流す桜を凛が優しく抱き締める。

 

「落ち着いたら禅城の家に行きましょう。お祖父様もお祖母様も桜が帰って来た事を知れば喜ぶわ」

 

「ね、姉さん」

 

 遠坂姉妹が抱き合う間に士郎はセイバーに切嗣との事を尋問される事になる。

 

「正直、私も切嗣の事は分かりません」

 

 セイバーの説明によればセイバーは切嗣の妻と行動を共にしていたそうである。

 

「つまり、父さんは自分の奥さんを身代わりにしたのか」

 

「はい。セイバーのサーヴァントの側に魔術師が居れば誰もがマスターと思うでしょう。そして、切嗣は私達に敵の注意が集中している隙に敵のマスターを銃器で倒す算段でした」

 

「成る程ね」

 

「ですから、私と切嗣が話した事は殆ど有りません。しかし、一度だけ私と切嗣は衝突をしました」

 

 士郎としたらサーヴァントとマスターが衝突するとは考えられない話である。

 

「敵の婚約者を人質にしてサーヴァントを自害させた後にマスターも婚約者諸ともに始末したのです」

 

「まあ。本当の戦争みたいにジュネーブ条約は無いからね。怒ったセイバーが目に浮かぶよ」

 

 騎士道精神の持ち主と何でも有りの魔術師なら衝突するだろう。

 

「しかし、私の怒りより、切嗣が抱えた怒りの方が大きかったのです。切嗣は英雄という存在を憎んでいました。英雄が若者を魅力して戦争に駆り立てると」

 

「セイバーは知らないだろうけど、一人を殺せば犯罪者だが、戦争で百万人殺せば英雄という言葉があるからね」

 

 セイバーは両肩に重い岩を載せられた錯覚を覚えた。自分の半分程の士郎でさえ切嗣を支持していた。

 

「はい。そして、切嗣は聖杯戦争で流す血が人類最後の血にすると宣言しました。それを可能にするのが聖杯であると信じてました」

 

「その父さんが聖杯の破壊を令呪で命令したんだ」

 

「はい。英雄王と一緒に私の宝具で消滅させたのです」

 

「金ピカは生きているわ。その時の魔力が今回の聖杯戦争に持ち越されたのか」

 

「恐らくは」

 

「その後の事は僕が父さんに直接に聞いている」

 

 そこまでの話で、士郎には疑問があった。

 

「それで、父さんの奥さんは?」

 

 セイバーの顔が青くなった。

 

「アイリスフィールは亡くなりました」

 

 士郎も顔を青くするセイバーを見て分かっていた事だが、更に踏み込んで聞く必要があった。

 

「そのセイバーには気の毒だが、奥さんの最期を知りたい。出来れば花なり線香なりを供えたい」

 

「それが、アイリスフィールが聖杯だったのです」

 

 予想外のセイバーの返答に士郎も虚をつかれた。

 

「えっ、どういう事なの?」

 

 それまで、横で黙って聞いていたメディアがセイバーの代わりに返答をした。

 

「つまり、ホムンクルスだったのね」

 

 セイバーが力なく頷く。

 

「ホムンクルス自体が分からんのですけど」

 

「造られた完成した命。人の心を持った生きた人形」

 

 士郎はメディアの言葉で全てを悟った。魔術的なクローン人間。人の心を持ちながら道具として扱われる生命。

 

「はあ。ろくなもんじゃないね。魔術師なんぞ!」

 

 士郎の言葉には怒りが込もっていた。

 

「父さんが魔術師を辞める筈だわ!」

 

 士郎は魔術師という存在を本気に嫌いになっていた。一子相伝で魔術を秘匿して研鑽を重ねるとは悪い冗談と思いたい。

 

「大昔の丸鍋屋(すっぽん鍋屋)でもあるまいし、まあ、丸鍋屋は親から子への利益の継承だと言えるけどね」

 

 そこまで言ってから自分の言葉で重大な事に気付いた。

 

「ちょっと待て。セイバー。アイリスフィールって、アインツベルンの人間なのか?」

 

「はい。前回は私はアインツベルンの陣営に召喚されました」

 

 アインツベルンは前回も失敗して今回も同じ事をする気でいる疑惑が士郎に浮かんだ。

 

「イリヤも今回の聖杯なのか?」

 

「しかし、イリヤスフィールが聖杯なら勝利した後に聖杯を持ち帰る者が居ません。聖杯はサーヴァントしか触れられません。バーサーカーを支配する者が居なくなります」

 

 セイバーも自身の言葉に違和感を感じたのである。

 

「切嗣には、御息女がいました。名前はイリヤスフィールです。でも、生きていれば凛や桜と同じ年代です」

 

「あら、そんな事には成らないわよ」

 

 二人の会話を聞いていたメディアが始めて口を挟んだ。

 

「どういう事だ。キャスターよ!」

 

「ホムンクルスと人間の間に子供が出来ても、それは母親のコピーよ。元は完成した生命なのだから人間みたいに成長はしないわ。成長するにしても遅いわよ」

 

「じゃあ。イリヤが聖杯で最初から聖杯を手に入れる気が無いのか」

 

 

 

 士郎の結論にキャスターが補強する。

 

「アインツベルンは聖杯が汚染されて使えない事を把握しているのよ。だから、今回は勝利した後の事は考えて無いのよ。それだけじゃないわ。汚染された聖杯を冬木の地で完全消費するつもりね。バーサーカーなら理性が無いまま聖杯に触れて何かを願うでしょうね」

 

「セイバー。気分転換に散歩するから一緒に来て!」

 

「分かりました。士郎」

 

 横で話を聞いていた、凛と桜は同じ魔術師の家に生まれて、自身の事も合わせて魔術師の在りかたを考える事になった。

 

「姉さん。士郎君やセイバーさんの反応が人して当たり前なんだと思うんです」

 

「そうね」

 

 将来的には桜を士郎に任せるべきだと凛は思った。自分は根源を目指す魔術師として生きて来たのだ。そして、その事に後悔も無い。ただ、残された妹との貴重な時間を大切にするだけである。

 

(衛宮君には悪いけど、簡単には桜を渡さないから)

 

 凛がシスターコンプレックスを発露させた頃、士郎とセイバーは深山商店街のレンタルビデオ屋に来ていた。

 

「アニメなら7本借りられるのか!」

 

「士郎はアニメが好きなのですか?」

 

「いや、アニメの方がセイバーには分かり易いと思ってね」

 

「私がですか?」

 

「うん。聖杯でも過去を変える事が出来ない事を理解してもらうのにね」

 

 士郎はタイムパラドックスを取り扱った作品をレンタルする。

 セイバーにしたら自分を洗脳する準備に付き合わされた気分である。

 

「士郎。折角ですから新都に足を延ばして見ませんか?」

 

 士郎はセイバーがアニメを観るのを遅らせる為に悪足掻きをしていると分かっていたが、敢えてセイバーの提案に乗るであった。

 

(セイバーにはコートも必要だしな)

 

 士郎は自宅に電話して新都に足を延ばす事と昼食も新都で摂る事を伝えると、新都に向かう道すがらセイバーに切嗣の話を聞くのである。

 

「父さんも無茶苦茶するなあ」

 

「確かに犠牲者が出ませんがビルを丸ごと破壊するとは考えられません」

 

 自身も宝具で客船を両断した事は忘れるセイバーである。

 

 そして、二人は新都に到着すると数件の店を回りセイバーのコートとマフラーにライオンのヌイグルミを買うのである。

 

(ライオンのヌイグルミを欲しがるとは意外と子供だよなあ)

 

 その後、士郎は知る事になる。セイバーが新都の飲食店関係者から「白い悪魔」と呼ばれている事を。

 

「コートとマフラー代を稼ぎやがった!」

 

 

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