士郎はセイバーが3軒の店を梯子した後に言峰教会へと足を延ばした。
「何用かな。今日は」
「実は前回の聖杯戦争のサーヴァントの生き残りが居て、クレームを言われました」
「前回のサーヴァントだと?」
「前回のアーチャーです。冬木の聖杯について著作権の侵害を主張して来ました」
「サーヴァントが著作権の侵害?」
言峰が怪訝な表情をするのを見て士郎は仕方ないと思う。サーヴァントとか著作権とか日常的に一緒に語る事の無い単語である、
「まあ、冬木の聖杯の修理も始まっていない様ですし、著作権侵害のクレームも出ている代物を欲しがるマスターもサーヴァントも居ないでしょう」
「私の手に余る案件だな。上に判断してもらうしかない」
「そうでしょうね。それでは失礼しました」
士郎が部屋を出て行くと綺礼は隠し棚からワインのボトルを取り出した。
「ふん。ギルガメッシュめが!」
綺礼が取り出したボトルは既に空であった。
綺礼が悪態をついている頃、士郎はセイバーと共に帰り道を歩いていた。
「なあ。セイバー。教会にサーヴァントの気配はなかったか?」
「いえ、何も感じられませんでした」
「そうか」
「士郎は教会を疑っているのですか?」
「うん。他の神父さんを知らんけど、あの神父さんは怪しいよ。一種のサイコパスかもね」
セイバーは何も言えないでいた。短い付き合いだが士郎の為人は把握していた。士郎は無闇矢鱈に人を中傷する人間では無かったからだ。
「確か、凛も良く言ってませんでしたね」
その後は会話も無く2人が帰宅すると凛と桜が姉妹喧嘩をしていた。
「ちょっと、我が儘も大概にしなさいよ!」
「それこそ、姉さんの我が儘じゃないですか!」
ライダーが2人の間でオロオロしているのである。アーチャーとアサシンは霊体化して傍観を決め込んでいる。
「やめなさい。何を揉めているのですか?」
セイバーが仲裁に入る。生前は騎手達の揉め事の仲裁に入るのが日常だったので癖になっている。
「セイバーさん。聞いて下さい。姉さんが酷いんですよ。学校を卒業したら私にもロンドンに留学しろと言うんですよ」
「当たり前でしょう。魔術回路があるんだからコントロールが出来る様にならないと駄目でしょう」
「別に魔術師になる気も無いので構わないわ!」
「魔術回路に相応しい魔力もあるから暴走したら、大事になるのよ」
凛の言い分が本当なのかセイバーも士郎も分からないのでライダーとセイバーが仲裁をしている間に士郎が離れに居るメディアを呼んで裁定してもらう。
「結果的に言えば暴走する可能性は大きいわよ」
桜の顔が青くなるの仕方がない。
「でも、今は無理だけど一年後には簡単に暴走が起きない様にする事が出来るわ」
この言葉に凛も驚くのである。簡単に暴走を抑えられる術があるなら魔術師としての知的探求心が刺激されるのである。
「言っておくけど、当然、秘密よ!」
「私も魔術師の端くれよ。そんな事は分かっているわ!」
「桜に聞くのも無しよ!」
「そ、そんな事する筈は無いでしょう」
凛の表情から図星である事は明白であった。
「それより、サーヴァントは全員集合!」
士郎の合図でサーヴァント達が実体化する。
「全員に聞くが、金ピカに勝てる自信はあるか?」
アーチャーだけが手を上げた。
「何だ。アーチャーにはアーチャーだけか」
「無理も有りません。あれだけの宝具を雨の如く放って来るのですから」
ギルガメッシュと対戦したセイバーの意見だけに全員が納得する。
「それと、遠坂先輩は教会の本部に6人のサーヴァントのマスターが休戦を決めた事を伝えて下さい。それと聖杯の汚染の調査を伝えて下さい」
「分かったわ。冬木の管理者として10年前の大火を再び起こさせないわ」
「それと、キャスターと葛木先生は僕と一緒に来て欲しいのですが」
何処に行くの?」
「アインツベルンの城です」
「では、私も同行しましょう」
「当然だな」
四人はアインツベルンの城まで行くのだがキャスターの格好が問題になった。
「このままの格好で行く訳ないでしょう」
キャスターが、その場でクルと1回転すると上は黒のトレーナーにGジャン、下は茶色のロングスカートに変身した。
「うわ。便利だな!」
「流石、魔術師です」
凛と桜も羨ましそうにメディアを見ていた。年頃の娘としたら当然であろう。
特に桜は地味に着る服には体型的に苦労するのである。
一行はアインツベルンに行く途中で聖杯について話をする。
「理屈から言えば、聖杯と言ってもキリストの聖杯じゃないわよ。恐らくはヨーロッパの大釜伝説の亜流でしょうね」
「釜と杯とでは、随分と物が違うけどね」
「そうよ。柳洞寺の地下神殿の更に地下に大聖杯があるの。あそこは冬木で一番の霊脈よ」
「しかし、前回の聖杯戦争で私は聖杯を目の前で見ている」
セイバーがメディアの発言に疑問を提する。
「それは、小聖杯よ。小聖杯を使い大聖杯から魔力を受けるの」
「素人流に解釈すれば大聖杯が貯水タンクで小聖杯が蛇口みたいな物かい?」
士郎の発言にメディアは最初は困惑していたが最後は妙に納得した。
「厳密には違うけど、そう理解してもらっても構わないわ」
「しかし、キャスター。もし、今回の聖杯戦争が中止になったら私達はどうなるんですか?」
「自害されても困るわね。サーヴァントが死ねば大聖杯を起動させる事になる。前回は小聖杯を破壊した事で大聖杯の一部が流れ出して大火を引き起こしたのだから」
そうなれば、遠坂の庇護は受けられずに密入国者として司法から逃げ回る生涯になる。
また、前世と同じ運命を辿る事になるのはメディアとしては遠慮したいのが本音である。
「その、素人考えだど60年の期間を置いて始まる聖杯戦争が10年後に始まったのは大聖杯の中の魔力が溜まり過ぎているのでは?」
士郎の不安は当然過ぎた不安である。
「前回の分の魔力は50年の時を省略した事で消えているから大丈夫よ」
「安心したけど、もう一つの疑問は何故、聖杯の故障が汚染と言いきったんだよ?」
「それは簡単よ。実際に大聖杯を調査したもの」
「それで?」
「聖杯自体に問題は無いわ。問題は聖杯の中よ。何か良くない物が聖杯の中に入っていて聖杯自体を汚染しているわ」
「そんな聖杯で受肉する気だったの?」
「大丈夫よ。英雄王の聖杯で叶えられる程度の願いですもの。小さな願いなら悪影響は無く叶うわ」
士郎もメディアの大胆さに呆れるばかりである。
(この人、賞味期限切れの食べ物でも平気で食べるタイプだな)
士郎が小市民的な感想を持ったが口は別の事を質問した。
「大聖杯の中を浄化は貴女でも無理ですか?」
「無理ね」
メディアの返事は簡潔である。大魔術師が無理と言うなら無理なのだろうと士郎も納得した。
「はあ。現界して間が無く魔力が少ないうちに破壊するしかないかな」
「そうね。本来は代を重ねて研鑽するのが魔術よ。聖杯で簡単に望みを得ようというのが間違いだもの」
(自分も聖杯を利用するつもりだった癖に!)
メディアが自分の事は遠くの棚に上げて正論を言う事に呆れたのは士郎だけでなかった。
「キャスターよ。ならば、我らサーヴァントも聖杯に望みを託すのは許されないのか?」
「本来はサーヴァントは生前に功なり名なりを得た人間よ。死後にも望みを叶え様とするのは、欲が深いと思わない?」
セイバーとしても自身が恵まれていたと問われたのは初めての経験である。
今まで、王として敵を破り国を守る事だけしか考えなかった。それが「王は人の心が分からぬ」と評された原因でもある。
(自分が聖杯を手に入れて、王の選定をやり直す事も許されないのか?)
セイバーは頭を振り、思考の迷路を振り払った。今は目前の戦いに集中するべきである。騎士として無辜の人々の災厄を見過ごす訳にはいかないのである。
ましては、アイリスフィールと同じ運命を娘に辿らせる事はセイバーの矜恃が許されないのである。
色々と話をしている間に一行はアインツベルンの城の敷地前に到着したのである。
「キャスター!」
セイバーが鋭い声を飛ばすのと同時に甲冑姿に変わる。
「ええ、セイバー!」
メディアもセイバーの声を受けて魔術師の姿に変わる。
「キャスター、敵襲か?」
「はい。宗一郎様!」
「私が偵察に言って来ます。キャスターは撤退の準備を!」
セイバーは言い残すと青い弾丸となって城に向かって行った。
(10年程度では敷地内は変わらないままか!)
城の中に突入するとギルガメッシュとバーサーカーが戦っている?
「何をしている。英雄王!」
「ほう。セイバーではないか」
「私の質問に答えよ!」
激昂するセイバーに対照的にギルガメッシュは落ち着いている。
「見ての通りに聖杯の器を回収している」
「貴様も聖杯は使い物にならないと理解しているだろう!」
「使える使えないではない。自身の宝物を回収するのは当然ではないか」
「イリヤスフィールは生きている人間だぞ!」
「何だ、セイバー。これが人形である事を知らんのか」
「人の体を持ち人の心を持つ者である以上、人間ではないか!」
「例え人間でも神である我に全てを差し出すのは当然であろう」
セイバーの両手が怒りに震える。民の為に正しい王であろうとしたセイバーと人間は神である自身の為の奉仕者と信じているギルガメッシュの決定的な違いである。
「英雄王よ。聖杯戦争とは関係なく、貴様は私が倒す!」