桜と士郎   作:周小荒

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大聖杯

   

 ギルガメッシュを倒すと宣言したセイバーはバーサーカー主従の前に仁王立ちなる。

 

「ほう。10年前の事を忘れたか。セイバー」

 

「あの時も貴様に遅れを取った覚えは無い!」

 

 セイバーの右手に黄金に輝く聖剣が現れる 。

 

「何のつもりだ。セイバー!」

 

 ギルガメッシュも屋内でセイバーが宝具を使うとは思ってなかったらしい。

 セイバーはギルガメッシュの反応を無視して問答無用とばかりに宝具の力を解放する。

 

「エクスカリバー!」

 

 セイバーが聖剣を振り切る寸前にギルガメッシュは霊体化して離脱する。

 一瞬前までギルガメッシュの存在していた空間に黄金色の衝撃波が通過した。

 ギルガメッシュが居た後方の壁と屋根は消え去り夕陽がセイバー達をオレンジ色に染めた。

「セイバー!」

 

 士郎が律儀に玄関の扉から駆け込んで来た。

 

「何かあった?」

 

「ギルガメッシュがイリヤスフィールを襲撃していたので撃退したのです」

 

「そうか。金ピカの奴め!」

 

 事態に納得した士郎は辺りを見てセイバーに質問する。

 

「で、イリヤは?」

 

「バーサーカーの後ろに居ませんか?」

 

 士郎がイリヤの無事を確認の為にバーサーカーに近寄った時に夕陽と共に屋敷の屋根があった部分から葛木とメディアが文字通りに飛び混んで来た。

 

「衛宮。先に1人で行くな」

 

「そうよ。坊や。危険よ」

 

「心配を掛けて、すいません」

 

「セイバーも宝具を使う時は周囲に気を付けなさい!」

 

 メディアがセイバーを窘める。

 

「それより、この娘はどうすれば良い?」

 

 葛木の腕には頭に:大きなタンコブを作り気絶しているイリヤがいた。

 

 

 イリヤが目覚めると冬木にある自分の城で無い事が分かった。

 

「ここは?」

 

「お嬢様。お目覚めになられましたか」

 

 家庭教師兼使用人のセラが自分の顔を覗き込んでいた。

 イリヤは脳裏で自分の最後の記憶を検索する。セイバーのエクスカリバーで発生した突風で飛んで来た床の破片が当たりバランスを崩して転倒したのである。

 

(セイバーも傍迷惑な事をしてくれるじゃないの!)

 

 そう思いながらも、あの場でセイバーがギルガメッシュに不意打ちとも言える一撃を出さなければバーサーカーも自分も死んでいた事も理解が出来る。

 

(はあ。お礼を言わないと駄目なのか。あのセイバーに)

 

 今はセイバーに罪の無い事は分かるが長年の恨みの対象だっただけに感情が追い付かないイリヤであった。

 

「お嬢様。身支度をしたら皆さんの所に行きますよ」

 

「分かったわ。セラ。支度を手伝って」

 

 身支度を手伝ってもらいながら、自分が気絶した後の事をセラに報告させる。

 セラとリズは買い物から帰る途中の車中でセイバーのエクスカリバーが放つ黄金の円柱を見て急いで屋敷に戻ったのである。

 そして、屋敷に帰り着いたセラ達が見たのは気絶したイリヤを介抱するセイバー達であった。

 その後、セイバー達に事情を聞いて衛宮邸に避難をしたのである。

 

「そう。それで、士郎は私の事は何も聞かなかったの?」

 

「士郎様は私とリズの立場を慮られて、お嬢様が目覚められるのを待つと言われました」

 

「そう」

 

 イリヤは口にして出したのは一言だけだったが、心中は複雑であった。

 

(切嗣が養子にするだけの事はあるわね)

 

 自分の義弟は魔術師としては未熟の様だが、人格的には年齢には似合わぬ見所がある人物の様である。

 

「じゃあ。行きましょう」

 

 イリヤは身支度を済ませるとセラに案内をさせて居間に行く。

 そして、居間に入って見た光景にイリヤは呆気に取られたのである。

 士郎が尻餅をついた状態で後ろからセイバーに羽交い締めされていて、前からは凛が馬乗りになり士郎に赤い液体を無理矢理に飲ませている。

 士郎の耳元で凛が何かを小声で囁くと士郎が大人しく液体を飲み始めた。

 イリヤは知らなかったが数日前の仕返しをされた士郎であった。

 

「遠坂先輩は卑怯者!」

 

「ふん。士郎の健康の事を考えてやったのよ!」

 

「士郎。凛に感謝するべきです」

 

「セイバーは僕のサーヴァントだろ。何で遠坂先輩の味方をするんだ!」

 

「だから、凛は士郎の健康の慮っての行為です。感謝をしても恨むのは筋違いです」

 

 セイバーが士郎に反論してアーチャーがエプロンをして洗い物をしている。

 イリヤには色々な意味でカルチャーショックな光景なのであった。

 

「あっ、イリヤ。目が覚めたんだ」

 

 最初に士郎が気付くと全員が卓袱台に座り桜と士郎が座布団を用意する。

 用意された座布団にイリヤとセラが座るとアーチャーが凛、イリヤ、セラ、セイバーに紅茶を、他の人間には緑茶を出す。

 

「あの、リズさんは?」

 

「リズには城に行きお嬢様に必要な物を取りに行かせてます」

 

「まあ。金ピカの事だから、大丈夫だと思うけどね。それは危ない事ですよ」

 

「はい。リズには例のサーヴァントに対する注意喚起はしております」

 

 士郎も危険が少ないと思っているがセラもリズも自身の身に対する危機感は少ない様子に危惧を抱いた。

 

「行かせたのは仕方ないわ。それより、聖杯の異常について何か知っているのでしょう」

 

「はい。私から説明させて頂きます」

 

 イリヤもセラに説明役を任せている。

 

「事の起こりは第三次の聖杯戦争の時になります。始まりの御三家として、アインツベルンは必勝を期してサーヴァントを召喚したのですが失敗してしまいました」

 

「えっ、アインツベルンって、魔術世界では大家だよね?」

 

「はい。召喚自体は成功したのですが、召喚したサーヴァントが想定外のサーヴァントで問題が有りました」

 

「アインツベルンでも狙ってサーヴァントを召喚が出来ない事も驚きよ」

 

 凛にしたら触媒を集める財力と組織力が有りながら召喚に失敗する事の方が驚きである。

 

「完全なイレギュラーでした。召喚したのがアンリマユでした」

 

「アンリさん、マユさん?」

 

 士郎は名前を聞くと女性の漫才コンビかと思い、脳内で検索を開始する。

 

「衛宮君。何を勘違いしているか分かるけど、ゾロアスター教の悪神よ。分かり易く言えば、ショッカーみたいなものよ」

 

「なるほど!」

 

 セラには凛の例えは理解が出来なかったが士郎が納得したみたいなので話を進める事にする。

 

「問題のアンリマユですが、スキルも宝具も無く最初に敗退しました。問題は敗退した後です」

 

 セラは一口、紅茶を啜り喉を潤すと再び話を始めた。

 

「これは、アインツベルンの推測になりますが聖杯の内でアンリマユの影響を受けて聖杯が汚染されたと考えます。前回の聖杯戦争の時に切嗣様は聖杯の汚染に気付き破壊されましたが、残念ながら切嗣様が破壊されたのは小聖杯でした」

 

「汚染された大聖杯は健在なままかい?」

 

「はい。今回は小聖杯が現れたの同時に大聖杯も破壊する計画でした」

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 凛がセラの話を聞いて割って入った。

 

「前回は小聖杯を破壊しただけでも大聖杯から溢れ出た魔力で街を焼く大火になったのよ。大聖杯を破壊するなら。それなりの準備をしているんでしょうね」

 

 凛の声には疑惑を越えた確信の成分が大半であったが念の為の質問であった。

 

「いえ。私達に命じられた内容は聖杯の破壊のみです」

 

「それで、バーサーカーを召喚したのね」

 

 召喚したサーヴァントの為人によれば聖杯を破壊する事を拒否するであろう。

 極端な例で言えば、今回のセイバーや前回のランサー等は令呪を使われる前に自害するであろう。故に判断力のバーサーカーを召喚したのである。

 

「はい」

 

 セラも凛に計画を看破され正直に認める。

 

「計算違いは、前回のアーチャーがイリヤを直接に狙って来た事か」

 

「はい」

 

「キャスター。何とか出来ませんか?」

 

 士郎はセラには目もくれずにキャスターに相談する。

 

「ある程度の被害は覚悟して欲しいわね。魔術を弄んだ代償は払わないのは当然よ」

 

 メディアの声には大魔術師としての怒りと厳しさが込められていた。

 

「キャスターよ。前回のライダーは固有結界を具現化するスキルを持っていたが固有結界内でも被害は出るだろうか?」

 

「それでも被害は出るでしょうけど、微々たる程度に抑える事が出来るわ」

 

「肝心の固有結界とやらを作れるサーヴァントが、この中に居るのか?」

 

 士郎はセイバーの作戦の最重要な部分に触れる。

 

「それなら、私が使える」

 

 アーチャーが台所からの名乗り出た。

 

「ナイス。アーチャー!」

 

 単純に喜ぶ士郎と対処的に怒りを露わにする存在がいた。

 

「ちょっと、アーチャー。マスターの私は初耳なんだけど!」

 

「言ってないからな」

 

 怒りを心頭の凛に対してアーチャーは人を喰った返答をする。

 

「何故、言わないのよ」

 

「君に聞かれなかったからな」

 

 アーチャーの返答に凛が怒りを爆発させる寸前に士郎が間に入った。

 

「短気を起こしたら駄目だよ。遠坂先輩」

 

「衛宮君は黙っていて!」

 

「令呪を使わないなら構わんけどね」

 

 図星だったらしく凛は士郎を睨む。

 

「まさか、そんな事する筈が無いでしょう!」

 

 その場に居た全員が凛の言葉を信用していなかった。

 

「そう。なら、アーチャーへのお仕置きは後にして、作戦を考えるべきでしょう」

 

 士郎の提案の正しさを理性で理解が出来る凛だが、感情が追い付かない。

 

(本当に衛宮君とは別人よね。それとも、アーチャーの世界の私は、それほど恨まれたのかしら)

 

 理性の一部がアーチャーの性格形成について分析をしたが口にした事は別の事である。

 

「そうね。死ぬ程、扱き使ってあげるわ!」

 

 アーチャーは自分の死刑執行書にサインをした様であった。

 

 

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