桜と士郎   作:周小荒

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団欒

 

 セラの話を聞き終えると同時にリズが帰ってきた。それを合図に朝食となる。。

 凛は宣言通りにアーチャーに朝食作りから給仕までを扱き使うのである。

 イリヤを代表するアインツベルン組には、英霊であるサーヴァントを召し使い同然に使う凛の態度にカルチャーショックを受けていたが、アーチャーの作る食事を味わうと凛の態度に納得したものである。

 

「イリヤ。新都に出掛けようか」

 

 朝食が済んだ後にお茶を片手に士郎がイリヤに持ち掛けた。

 

「何の為に新都に?」

 

 イリヤとしては当然の疑問である。

 

「イリヤも日本に来てから観光とかして無いだろ。今は学校が休みの間しかイリヤと出掛けるチャンスは無いからね」

 

 聖杯戦争中であるにも関わらずに能天気な発言に最初は全員が呆れたものである。

 

「だって、イリヤも聖杯戦争が終われば、次に日本に来るのが何時になるか分からんだろ」

 

 士郎の心情が分かったのである。義理とはいえ、姉に次に会えるのが数年後になるかもしれないのである。士郎にしたら貴重なチャンスなのである。

 

「そうね。大事な弟とのデートだものね」

 

 イリヤの返事に士郎は胸が熱くなるのを覚えた。

 士郎としたら切嗣を盗ったとイリヤに恨まれているのではと思いがあったのである。

 士郎の思いが分からない者は誰も居なかった為に二人のデートには誰も反対はしなかったが、念の為にセイバーとバーサーカーのサーヴァントが護衛に付くのは仕方がない事であった。

 

「では、セイバー。お二人を宜しくお願いします」

 

 霊体化したバーサーカーは別にしてセイバーに執拗に念を入れるセラに日頃の過保護ぶりを見て取る事が出来た。

 知らない人達から見れば外国人の姉妹を案内する日本人の少年に見えた事だろう。

 しかし、実際はセイバーが案内役をしていた。ショッピングモールや映画館に海岸等、イリヤが珍しいがる場所を案内して行く

 

(コイツ。本当は王様じゃなく、ホストじゃないのか?)

 

 普通の女の子が喜ぶ様な場所を案内せずにイリヤが喜びそうな場所をピンポイントで案内するのである。

 

「そろそろ、昼餉の時間ですね。士郎!」

 

「そうだな。イリヤは何が食べたい?」

 

「あのね。日本に来たらスシを食べたいみたかったの!」

 

 恐るべし日本食ブーム。閉鎖的な魔術師の大家の人間も魅了するとは寿司の力は偉大である。

 日本人として日本食が人気なのは嬉しいが、士郎は聖杯戦争が始まって以来の最大のピンチを迎えていた。

 

(寿司の食べ放題とか新都にあったかな?)

 

 神は士郎を見捨てないでいた。回転寿司の食べ放題の登りが視界の端に見えたのである。

 

「よし、日本でも人気のある寿司屋さんに行こう」

 

 士郎は二人を連れて店に入る。平日のランチタイムより僅かに早かった為に士郎が回転寿司のマナーを二人にレクチャーしている間に順番が来たのである。

 

「1時間食べ放題だからね。食べ残しの無い様にね」

 

 結果としてイリヤは満足した様である。レーンを回って来る寿司も注文して自分の前まで列車が運んで来る寿司も珍しく好きなネタを選んで食べれる事もイリヤを喜ばせた。

 

「日本人は凄いわ。少しずつ色んな味が楽しめなんて!」

 

「イリヤスフィールの言う通りです。魚の切り身を米の上に乗せただけのシンプルな料理で多種多様の味を出せるとは!」

 

(そりゃ、千年前の戦時中の人からしたらね)

 

 士郎はセイバーの言葉を聞いて平和の尊さを実感したのである。

 店を出た後で再びセイバーが近くの飲食店に引き寄せられて行く。

 

「セイバー。何処へ行く?」

 

 夢遊病者の様な様子のセイバーを見たイリヤなどは瞬間的に魔術を掛けられたと疑った程である。

 

「士郎。魔術じゃないみたい」

 

「これは、魔術じゃないけど、別の魔力だな」

 

 セイバーが引き寄せられる方向にはラーメン屋の登りと豚骨スープ特有の芳香が流れている。

 

「士郎。先程の食事は少々、軽かったのでラーメン等は如何でしょうか?」

 

 呆れる士郎の横で目が点になるイリヤであった。

 

「イリヤ。セイバーには責任は無い。未熟なマスターの俺がセイバーに十分な魔力提供が出来ないのが悪いだけだ」

 

「そういう問題?」

 

 イリヤにしても初めての経験である。もっともイリヤじゃなくても普通の人でも初めての経験である。

 

「まあ。仕方がない。セイバーの好きにするれば良い」

 

「では、遠慮なく!」

 

 諦めた様子の士郎に嬉々として返事をするセイバーに呆気にとられるイリヤであった。

 

「8玉のラーメンを30分で食べれば料金無料で賞金も貰えるのですか。本当に日本は良い国です」

 

 セイバーが店内に入ると店員が慌てながら店主に報告する。

 

「大変です。例の白い悪魔が来ました。断りますか?」

 

 動転した店員の声はカウンターに居た客やエアコンの風に乗り士郎とイリヤにも聞こえていた。

 既に「白い悪魔」と呼ばれているセイバーの来客を断っても、店側としても当然の判断であると言えた。

 しかし、店主は逃げる事を恥と考える男であった。

 

「男なら負けると分かっていても戦わないといけない時がある。その時が今なのだ!」

 

 店主は玉砕覚悟でセイバーの挑戦を受けたのである。

 15分後。セイバーの前には空になった巨大な丼があった。

 しかし、白い悪魔の恐怖の伝説は、まだ続くのであった。

 

「本当に美味でした。この様に美味な料理を提供してくれた店主に感謝を」

 

 セイバーの言葉に気を良くした店主の束の間の幸せだった。賞金を受け取ったセイバーの次の台詞で恐怖に変わる。

 

「では、おかわりを所望します!」

 

 注文を受けた店員が震える声でオーダーを店主に通す。

 

「宜しい。本懐である!」

 

 店主は無自覚に無慈悲なセイバーの挑戦を受けるのであった。

 セイバーは一度目と変わらぬペースで完食して賞金を手に店を出て行く。

 セイバーが出た後には、店の隅で椅子に腰を掛けて真っ白に燃え尽きた店主の姿があった。

 店内で一部始終を見た客達は店主に対して敬礼して退店したのであった。

 白い悪魔の恐怖伝説が終了するまで、あと幾日かの時が必要なのである。

 セイバーが恐怖の伝説を作った後にファンシーショップで買い物する一行であった。

 

「うわ。どれも可愛い!」

 

「本当に、どれも愛らしいですね」

 

(女の人って、大人になっても可愛いぬいぐるみが好きなんだなあ)

 

 士郎にしたら容姿が小学生のイリヤは18歳、自分と同年代のセイバーは年齢不詳だが一応は子持ちである。

 その二人がファンシーショップの店内でヌイグルミを見て喜ぶ姿は奇異に写るのである。

 

「シロウ。この猫がいいわ」

 

 イリヤが選んだのは黒猫の仔猫のヌイグルミである。

 

「イリヤは流石に魔術師とだな」

 

 士郎が感心しているとセイバーもヌイグルミを選んだ様である。

 

「私は、この子が良いです」

 

 セイバーが選んだのはライオンのヌイグルミである。

 

「ライオンか。セイバーらしいね」

 

 士郎は苦笑しながらも代金を払う。

 

「シロウ。一生大事にするね」

 

 イリヤの言葉で士郎の頬も緩んでしまう。

 

「じゃあ。帰りに商店街で買い物をして帰ろう」

 

 深山町の商店街での買い物もイリヤには珍しい体験の様である。

 魚屋の生きたカニや生の魚もイリヤには初めて目にする物である。

 

「セイバー。ドイツには日本みたいな魚屋さんは無いのか?」

 

「私も詳しくは知りませんが、イリヤの住んでいたアインツベルンの城は人里離れた山岳地帯に在りました」

 

「成る程ね」

 

 士郎は納得すると、あるアイディアが浮かんだ。

 

「イリヤ。聖杯戦争が終わったら魚釣りに一緒に行こう。自分で釣った魚は格別に美味しいぞ!」

 

 士郎の提案にイリヤは目を輝かせる。

 

「シロウ。約束よ。絶対だからね!」

 

「うん。約束だ!」

 

 セイバーはイリヤと士郎が仲良く笑い合っている光景を見てアイリスフィールと切嗣を思い出した。

 

(騎士王の名にかけて、イリヤスフィールと士郎は必ず守ります。惜しむらくは彼らの行く末を最後ま見守れない事だ)

 

 そこまで考えた後にセイバーは自嘲した。

 

(私が見守る必要はありませんね。士郎には桜や凛にイリヤ。大河が居るのですから)

 

「セイバーも聖杯戦争が終わった後の身の振り方は考えていてくれよ。この時代で新しい人生を始めるのもセイバーの自由だ」

 

「……!」

 

 意外な士郎の発言にセイバーも絶句する。

 

「だって、急いで座に帰る必要も無いだろう。この時代を楽しんでから帰ればいいよ」

 

 言われてみれば、士郎の言う事は尤もな話なのである。英霊の身には時間の概念は通常とは違うのである。

 

「しかし、聖杯のサポートが無ければ受肉したとしても士郎の魔力では現界出来ないのでは?」

 

「その辺は、キャスターに知恵を借りれば良いさ。僕はセイバーに居て欲しい」

 

 士郎の気持ちは嬉しいのだが、それはそれで困るのである。

 今の士郎の気持ちに嘘が無い事は分かるが、人は成長するのである。

 何時かはセイバーを必要としなくなる日が来るのである。

 

(確かに、その日まで現界しているのも悪くはないでしょう)

 

 セイバーは気付かないでいたが、生前に王として生きて為にセイバーが手に入れる事が出来なかった家族の団欒が、そこに存在していたのである。

 セイバーが士郎の提案に惹かれたのも無理からぬ話であった。

 

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