ランサーは寄せ鍋のシメのうどんの後のシメのシメの雑炊を食している最中にルールブレイカーで背後から一突きされてしまった。
「我ながら情けない」
食事前は犬を食わせると脅された挙げ句、寄せ鍋の具材を見て安心した後で寄せ鍋の魅力に警戒心が薄れたのである。
「此方も、本当に成功するとは思っていなかったよ」
実行犯のメディアも士郎の感想に左手の甲に浮かんだ令呪に視線を向けながらな頷いている。
「こんな事なら召喚に応じるんじゃなかったぜ。豪傑と全力で闘えると思ったのに!」
愚痴を言うランサーに士郎も苦笑しながらも流石に同情した。
「まあ。殺し合いは駄目だけど、試合なら道場でしてもいいよ」
士郎の言葉に目を輝かせるランサーとセイバーに呆れる士郎であった。
(セイバーもバトルジャンキーだったか)
「まあ、その前に貴方が知っている全部の情報を吐いてもらいますよ」
アーチャーが人数分の茶を用意した事からランサーの証人喚問が始まった。
「俺の最初のマスターは時計塔から派遣された女魔術師だったが、日本に来て最初に、この町の教会に挨拶に行って奴に襲われた」
「その人なら、私が発見して病院に運んだわ。命に別状ないわ」
「そうか。本人の不覚とは言え気の合う奴だったから、嬢ちゃんには俺からも礼を言わせて貰うぜ」
謝辞を口にするランサーを見て、北欧の英雄が小娘に簡単に頭を下げる事に凛も軽い驚きを隠せない。
(恩を受けたら、相手が誰でも素直に頭を下げるとは、流石に英雄と呼ばれる人間は違うもんだな)
ランサーには悪印象しかなかった士郎もランサーの態度に感心したが口では話の先催促する。
「それで、神父の目的は何ですか?」
「ああ、奴は聖杯が欲しい訳じゃない。単に倫理観が崩壊しているだけさ。信仰心は本物だが常人と美醜の価値観が逆転してやがる」
「昔からヤバい奴だと思っていたけど、本物だったのね」
言峰綺礼とは付き合いの長い凛の感想に一同は暗澹たる気分になる。
「まあ。日本なら珍しく無い話だわ。学校の教師が教え子相手に猥褻事件を犯すし、警官が落とし物をネコババして届けに来た妊婦に警察署ぐるみで濡れ衣を着せる」
「おいおい、俺達の時代より遥かに豊かな時代なのに大丈夫なのか?」
ランサーも士郎の話に他人事ながら心配をする。
「まあ。大丈夫では無いですが、未来の事より目先の問題でして、それで金ピカの目的は?」
ランサーも士郎が危惧する事は分かる。この冬木市に居れば嫌でも10年前の惨劇は耳に入る。
「奴にしても聖杯戦争も単なる余興に過ぎん。セイバーを伴侶にしたいのも単なる退屈しのぎさ」
ランサーの言葉でセイバーが色々な意味で憤るのが分かったが、今は話を先に進める。
「奴も聖杯には興味がないのですか?」
「奴の場合は興味が無いが他人が聖杯を使う事が我慢ならないらしい」
「そう言えば、そんな事を言っていたなあ。セイバーを口説きたいなら聖杯でもプレゼントすればいいのに」
士郎の言葉にコメカミに青筋が浮かぶが我慢するセイバーに気づかないまま話を続ける士郎である。
「神父は明日は僕に何を話すつもりなんでしょうか?」
「分からんよ。あの手の異常者の考える事は常人には理解が出来んよ」
ランサーは言峰に対しては深く考え無い事にしている様である。
これ以上はランサーから情報を得られないと判断した一同は明日の言峰との会談に対して話をする事にした。
「綺礼に対しては私に一任させてもらうわよ」
凛は自身の後見人なだけに思う所があるらしく開口一番に宣言した。
「それは構いませんが金ピカとの闘いだけは避けて下さい。どちらが勝っても、大聖杯に力を与えるのはまずいです」
士郎が凜に釘を刺す。
「分かっているわよ。綺礼だけを排除するだけなら問題は無いでしょう」
「まあ。神父を排除すれば金ピカの力は半減するでしょうけど」
「その事でランサーに話が有るのだけど、その前に衛宮君は先にお風呂に入りなさい。子供が夜更かしをするもんじゃないわよ」
凛に言われて見れば夜も遅い時間になっている。
「その前に、これを坊やとサクラちゃんは飲んでね」
メディアが差し出したカップには黒い液体が入っていた。
「その怪しげな物は何ですか?」
士郎が質問するとメディアは魔力不足を補う薬湯だと説明する。
「だから、レシピを聞いているんですよ!」
「坊や。知らない事が幸せな事も世の中にはあるのよ」
メディアが眩しい微笑み浮かべながら不気味な返事をする。
士郎とメディアの会話をしている隙に、桜がコッソリと居間から逃げ出そうとしたがライダーに捕まる。
「放してライダー!」
「桜、駄目です。折角、キャスターが桜と士郎の為に煎じてくれたのです」
桜とライダーが揉めている間に士郎も逃げ出そうとするがセイバーに捕まってしまう。
「おい。セイバーは僕のサーヴァントだろ」
「たとえ主人の不興を買ってでも、主人の健康を守るのは騎士道というものです」
「姉さん。助けて!」
「諦めなさい」
「イリヤ。助けて!」
「伝説の英霊が作った薬湯を飲めるなんて、士郎はラッキーよ」
「ラッキーじゃない!」
士郎と桜は自身のサーヴァントに羽交い締めにされてメディア手製の薬湯を無理矢理に飲まされる事になった。
「「苦い!」」
士郎と桜は異口同音に叫び畳の上を転げ回るのである。
ライダーは転げ回る2人を両脇に抱えると風呂場まで連行して行く。
「こらこら、桜先輩と一緒に連れて行くんじゃない!」
結局、風呂場で薬湯を吐き戻さない様に脱衣場にライダーが待機して交代で風呂に入る士郎と桜であった。
その間に居間ではアーチャーが深刻で陰惨な議題を提出したのである。
「ランサー。君は言峰教会の地下に何があるのか知っているのか?」
「ああ、知りたくも無い事だがな。胸糞が悪くなるぜ!」
ランサーの口調には嫌悪感が溢れている。
「教会の地下に何があるの?」
メディアの問いに返答したのはランサーではなくアーチャーであった。
「あの教会の地下には10年前の大火で孤児となった子供達が英雄王の魔力源として監禁されている」
衝撃の告白であった。魔術師ではない士郎や桜には聞かせられない話にイリヤ達、アインツベルンもアーチャーの告白に嫌悪感を隠そうともしない。対象的に無表情のメディアと葛木である。
「キャスター。お前の好きにしろ」
メディアは無表情だが内心は嫌悪感と怒りに満ちていた。葛木以外の者は知らないが、メディアは金で買ってきた子供を魔術儀式の贄にした元のマスターを殺した前科のある女なのである。
「今回は、宗一郎様の言葉に甘えさせて頂きます」
簡潔な言葉の裏にある隠しきれない怒りの感情に全員が気づいていた。
「キャスター。貴女が手を汚す必要は無いわ。既に教会の本部には連絡済みよ。今日か明日には教会からの刺客が来日している筈よ」
凜はアーチャーに真名を自白させた日に言峰教会の地下室についても告白されており、既に教会本部に冬木の管理者としての恫喝付で報告している。
「キャスターには、救出された子達のケアを頼みたいの」
凜の依頼に二つ返事で了承するメディアであった。
「しかし、受肉してもサーヴァントのままで魔力が必要とは驚いたわ」
凜にしたら受肉とはメディアの様に二度目の生を得る事だと思っていた。
「多分、英雄王は聖杯を手に入れて無いわよ。聖杯の力なら完璧なサーヴァントの受肉程度ならお釣りが来る程度の願いの筈よ」
「じゃあ。どうやって金ピカは今の受肉をしたの?」
凜は肝心な聖杯に関しては深く考えていなかった。それよりは、聖杯戦争に勝利する事が遥かに重要事項であり、その為にセイバーのサーヴァントを手に入れる事のみを考えていたのである。
「恐らくは聖杯の中身を飲んだのでしょうね。普通なら聖杯から取り込まれるでしょうけど、逆に聖杯の力を取り込むとは、流石は英雄王ね」
キャスターの言には英雄王に対する畏怖も込められている。
宝具の数に精神の強さからも最強のサーヴァントである事は否定が出来ない。
「出来れば敵に回したくない相手ね」
凜の呟きは、この場にいる者の全員の本音でもあった。
「綺礼だけなら、何とでもなるけどね」
言峰綺礼を倒すのも困難であるが出来ない事では無い。ギルガメッシュを倒す事は困難を超えて至難の業である。そして、ギルガメッシュを倒す事は大聖杯に力を与える事になるのである。
ギルガメッシュを倒さずに無力化するしか無いのである。
「英雄王に関しては、暫くは静観するしか無いでしょう」
メディアの発言は要約すれば対応策が無いとの宣言であった。
そして、その宣言に反対する者もいなかったのである。
「金ピカを倒す前に大聖杯を破壊すれば、金ピカも安心して倒せるのでは?」
凜の作戦もメディアが即座に否定する。
「大聖杯を破壊すれば私と英雄王以外のサーヴァントは現界が出来ないのよ。サーヴァント抜きで英雄王に勝てると貴女は思っているの?」
「そうか。金ピカは受肉していたのよね」
メディアの指摘に遠坂家のうっかり病も指摘された気分の凜であった。
話の流れに口を挟めないセイバーは前回の聖杯戦争でギルガメッシュを討止めなかった事を後悔していた。
(今度こそ英雄王は私の手で討止める)
人知れず誓うセイバーであった。