桜と士郎   作:周小荒

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刺客

 

 指定された店は商店街にある小さな中華料理店であった。

 士郎が店内に入るとテーブルが縦が三つと入口の横に一つだけの小さな店であった。

 

(これで商売になるのか?)

 

 士郎は場違いな事を考えながら真ん中のテーブルで言峰が既に食事をしていた。

 

「すまんぬな。早く着いたので先に食事にさせて貰っている」

 

 言峰の前の麻婆豆腐を見て士郎の顔が歪む。素人が見ても危険物と判る色をしていた。

 士郎が席に座ると色だけではなく危険な刺激臭が漂ってきた。

 

「食うか?」

 

「食うか!」

 

 士郎は言峰の言葉に脊髄反射で拒否する。

 

「そうか」

 

 言峰が残念そうな顔をするが士郎には一ミリの共感を与えなかった。

 言峰が麻婆豆腐を完食すると店員を呼び二皿目を注文する。

 それに便乗して士郎も炒飯と餃子と中華サラダとデザートに杏仁豆腐とコーヒーを注文する。

 

「杏仁豆腐とコーヒーは食後にお願いします」

 

「私にも食後にコーヒーを」

 

「分かりました」

 

 士郎は店員が厨房に入るのを見届けると言峰に確認をとった。

 

「話は食後で良いでしょう?」

 

 言峰と士郎は運ばれた料理を食べた後に士郎のデザートも終わり、店員が二人の前にコーヒーを運び終えてから話を始めた。

 

「君は聖杯を欲しくは無いのかね?」

 

 言峰にしたら士郎は初めてのタイプの参加者であった。

 聖杯を欲する者。聖杯戦争に参加する事を名誉と捉える者。聖杯戦争で戦って勝つ事に価値を見出だす者。今までの参加者とは違う動機で目の前少年は参加しているのである。

 

「そりゃ、欲しく無いと言えば嘘ですが、使えるか怪しい賞品に命を賭けるほど、馬鹿じゃ有りません。他の参加者も同じです」

 

 言峰としては苦労して手にした紛い物の聖杯が欠陥品と知った時の勝者の落胆する顔が見たいのである。

 士郎の指摘は言峰の愉悦を妨げる発言なのである。

 

「聖杯戦争を継続させたいなら、聖杯の欠陥を修理して欲しいですね。それと、前回のアーチャーの件も有りますからね」

 

 士郎の主張は正論であるだけに言峰も士郎を嗾ける事が出来ないのである。

 

「君も意外と頑固だな」

 

「当然の事を主張しているだけです。逆に教会側は何をしているんですか」

 

 士郎からの逆襲に言峰は自身の不利を認めざる得なかった。

 

「私の一存では決められない事ばかりで私も困っているのだ」

 

「だから、賞品の欠陥を無視して聖杯戦争を始めろと言いたいのですか?」

 

 士郎は言峰と同じ人種に心当たりがあった。本来の業務を行わずに自己の都合を優先する姿勢は学校の教員にそっくりだと思った。

 

(姉ちゃんや葛木先生の方がマシだよなあ)

 

 大河や葛木は教員としては規格外の人間なのだが本来の業務を怠る事の無い人間である。

 

(ヤクザの孫や元殺し屋より質が悪い人間が教員とは大丈夫か?)

 

「そう言う訳では無い。サーヴァントとマスターが同じ場所に終結するのは如何なものかと言っている」

 

「仕方ないでしょう。前回のマスターとサーヴァントが生き残り聖杯戦争を継続するつもりなんですから」

 

 非常に馬鹿馬鹿しい状況である。言峰もランサーが士郎の陣営の手に奪われた事を知っているのに互いに知らないふりをしているのである。

 

「それより、多数決の原理で自分達に賛同して貰えませんか?」

 

 士郎が遠回しとは言えない呼び掛けをする。

 

「私に権限があれば、君達に賛同するのだがな」

 

 言峰は士郎の呼び掛けに応じる気は無い様である。

 

「仕方ないですね。神父さんも上からの命令が無いと動けないのでしょう」

 

 士郎は最初から説得が成功するとも思っていなかったが言峰の説得を諦めたのであった。

 

「神父さん。今日はご馳走様になりました」

 

 結局、会談は何の実りが無いまま終了したのであった。

 

 士郎が言峰との会談を終了させた頃に衛宮邸を電柱の上から眺める視線があった。

 

「ふん。此方の目論み通りにセイバーは小僧に同行している様だな」

 

 ギルガメッシュは衛宮邸に集結しているサーヴァントとマスターを一気に葬る為に遠くから衛宮邸を伺っていた。

 幸いにもギルガメッシュにはアーチャーのサーヴァントとして単独行動スキルと鷹の目を持っている。

 

「綺礼が小僧とセイバーを引きつけている間に事をすますか」

 

 ギルガメッシュの背後に大量の黄金の波紋が現れる。

 ギルガメッシュが所有する宝具の内でも破壊力に優れた宝具を選び衛宮邸を火の海に変えて最悪でもマスター達だけでも葬る気でいた。

 しかし、ギルガメッシュが宝具を射出するより先に衛宮邸から一本の矢が飛んで来た。

 

「雑種め。王に向けて弓を引くとは無礼な!」

 

 電柱の上から飛び降りながらも悪態をつくギルガメッシュである。

 地上に降りたギルガメッシュに今度は赤い閃光が襲い掛かる。

 赤い閃光がギルガメッシュの体に触れる寸前に黄金の波紋が現れて1枚の盾が出現する。

 赤い閃光が盾と衝突すると同時に辺りは白い光に包まれる。

 

「ほう。アイアスの盾を貫くか」

 

 白い光が消えると赤い槍の刃先が盾を貫いていた。

 

「やるではないか。原典のグングニルを超えるとは」

 

 ギルガメッシュが驚きながら感心すると霊体化して姿を消した。

 そして、一瞬前までギルガメッシュが居た地面に矢が突き刺さる。

 

「逃げ足の早い奴だ」

 

「英雄王の襲撃を避けるだけにしろと士郎から言われた筈ですよ」

 

 アーチャーとライダーがペガサスに騎乗して上空からギルガメッシュに攻撃を仕掛けたのである。

 

「うむ。手傷を負わせる程度なら、奴の魔力を削ぐ事になるからな」

 

「確かに、英雄王の魔力源は今頃は断たれている予定ですからね」

 

 ライダーからギルガメッシュの魔力源と言われた言峰は士郎と別れて教会に戻る途中で1台のベンツに呼び止められていた。

 

「言峰神父。今から貴方の教会に向かう所でした」

 

 助手席の窓から教会本部からの中年の査察官の男が顔出す。

 凜とイリヤの連盟で教会本部にクレームを入れた結果である。

 

「これは、査察官殿ですか。予定より早い訪問でしたな」

 

「運良く。飛行機のキャンセルが有りましたのでね。それより、今から教会に戻られるのですか?」

 

「はい」

 

 言峰は一瞬だけ躊躇してから返事をする。

 所詮は現場を知らない官僚に過ぎない。代行者を務めた事のある。自分に害を成す事は無いと判断する。

 

「それは、良かった。娘さんの事で報告する事も有りますので」

 

 査察官は車を降りると後部座席のドアを開けて言峰に同乗を勧める。

 

「これは、助かります」

 

 娘の名を出されて無警戒に査察官に続き後部座席に乗り込む。

 

「では、出してくれ」

 

 査察官 の命令を受けてベンツが走り出すと査察官は懐から1枚の封筒を取り出して言峰に渡す。

 

「先ずは、これを見て下さい」

 

 言峰は査察官から渡された封筒の中身を確認する。中には1枚の写真が入っており、写真には銀髪金眼の少女が写っていた。

 

「カレン……」

 

 産後の肥立ちが悪く妻が亡くなった時、人として欠陥がある自分の元で育てるより、修道院にて育つ事が娘には幸せだと思い、親子の名乗りを挙げないまま修道院に預けた娘である。

 妻に似て病弱だが心穏やかに生活している様子が写真から見てとれる。

 言峰が僅かな間だが人間性を取り戻した瞬間に全身に衝撃が走った。

 

「な、何!」

 

 手にした娘の写真が赤い血に染まった。胸と両腿からは数本の剣が生えていた。座席に細工がされていたのである。

 

「ほう。流石は元代行者ですな。常人なら即死してるのですが」

 

 査察官は感心しながら懐から拳銃を取り出すと言峰の側頭部に向けて引き金を引いた。

 完全防音処置されたベンツの車内で銃声が響いた頃、ギルガメッシュは霊体化して民家の通り抜ける事によって、アーチャーからの追撃を振り切っていた。

 

「綺礼が死んだか」

 

 ギルガメッシュにしても士郎が手を下したとは思っていなかった。

 ランサーが奪われた時点で予測はしていたのである。

 

「しかし、思ったよりは早かったな」

 

 言峰を殺害した者達は既に教会の地下の生贄を解放している事であろう。

 

「さて、受肉した身が魔力供給無しで何日もつ事やら」

 

 現界に未練の無いギルガメッシュであった。受肉してから10年の年月はギルガメッシュに退屈を覚えさせていた。

 あらゆる技術は進化しているが人の営みはギルガメッシュの時代から何の変化が無いのである。

 

「ふん。これも、あの小僧の筋書きか?」

 

 ギルガメッシュの読みは半分は当たりであった。士郎も凜も不祥事隠蔽の為に教会側が何かしらの工作活動に出ると予想はしていたが言峰を殺害するとは予想していなかった。

 

「さて、俺の魔力供給を断った後の奴らの行動は当然、大聖杯の破壊か」

 

 サーヴァントが聖杯の召喚に応じる理由の多くは聖杯である。その聖杯が欠陥品となれば現界する理由も無い。聖杯の破壊に躊躇する事は無いだろう。

 

「他の者は構わんがセイバーまで座に帰られては詰まらんな」

 

 ギルガメッシュとしては士郎達より先に大聖杯を確保して聖杯の中身をセイバーに飲ませて受肉させねばならない。

 

「雑種にしては、良く出来た筋書きではないか」

 

 ギルガメッシュは自分が不利になったとは思っていなかった。

 ギルガメッシュにはサーヴァント全員を敵に回しても勝利する自信があったのである。

 そして、それは事実に裏打ちされた自信であり過信ではなかったのである。

 

 

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