桜と士郎   作:周小荒

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宣戦布告

 

 士郎は言峰教会前で凜と合流していた。

 

「桜先輩から連絡が有りました。金ピカが予想通りに奇襲を掛けて来ました」

 

「被害は?」

 

「攻撃前に迎撃して被害はゼロです」

 

「そう。それは良かったわ!」

 

 事前に予想をしていても心配だったのだろう。凜は胸を撫で下ろす。

 

「それより、そちらは?」

 

「連絡があったわ。既に綺礼をして処理して、此方に向かっているわ」

 

「そうですか」

 

 士郎は凜が処分ではなく処理という単語を使った事に言峰の運命を悟ったが何も言わずにいた。

 

「ほら、寒いでしょう。中に入りなさい」

 

 メディアが教会の中から顔を出して士郎と凜を教会内に誘う。

 

「もう、冬の風に当たると風邪をひくわよ」

 

 教会のキッチンでキャスターが温かい麦茶をカップに淹れてくれる。

 

「しかし、私達と同じ飲み物を東洋の島国でも飲んでるとは思わなかったわ」

 

 メディアの話によると、古代ギリシャでもプティサネーという麦茶を飲んでいたそうである。

 

「へえ。今の日本では夏の定番の飲み物だけどね」

 

 口にしてからギリシャも暖かい国だったと納得する士郎であった。

 

「他にもキャスターの時代と同じ食べ物とかあるの?」

 

 士郎の中学生らしい疑問にメディアも苦笑しながらも教えてくれた。

 

「そうね。私達の国も海が近く土地が狭かったので肉より魚を食べていたわ」

 

「日本は島国だからね」

 

「私達の時代だとマグロも食べていたわ」

 

「今の日本と同じだね」

 

 場所と時代が違えども、人の営みは変わらない様である。

 士郎とメディアが話をしている時に凜はメディアの気さくな人柄に驚きを覚えていた。

 

(伝え聞く歴史上の悪女とは思えないわね)

 

 メディア自身が積極的に悪事を働いた事は無いのである。

 常に報復であった。ただ、報復の仕方が苛烈過ぎる為に、当時の人も現代人もメディアを必要以上に恐れるのである。

 

「衛宮君。そう言えばセイバーは?」

 

「セイバーなら、新都にお使いに行って貰った」

 

 士郎の返答に凜も慌てる。

 

「ちょっと、セイバーを連れずに金ピカに襲われたらどうするの?」

 

 凜だけではなくメディアも焦りの表情を見せた。

 

「大丈夫だよ。奴はセイバーのストーカーだからね。僕を殺すとセイバーが現界が出来なくなるからね。それが証拠に僕達を家から引放してから襲撃しただろう」

 

 士郎は豪胆なのか鈍感なのか微妙に思える凜とメディアであった。

 三人が話をしていると査察官と部下がキッチンに入って来た。

 

「遅れて申し訳ない。ミス遠坂」

 

「いいえ。構いませんわ。それより、例の物は?」

 

「表のトレーラーの中です」

 

「では、キャスター。お願い」

 

 メディアは査察官の部下に案内されてキッチンから出て行く。

 

「ミス遠坂と衛宮士郎君には、此方の書類にサインをお願いする」

 

 査察官が差し出した書類には凜と士郎が大学を卒業するまでの全学費を奨学金として聖堂教会が負担する事が明記されている。

 

「後で利息を付けて返せとか書いてないですね」

 

 士郎の言葉に査察官は苦笑しながら返事をする。

 

「何処かの国の様に学生ローンを奨学金と呼ぶ様なセコい事は聖堂教会はしません。安心して奨学金を受け取って下さい」

 

 要は言峰の犯罪行為に対する口止め料である。

 

「衛宮君。子供が遠慮するもんじゃあ無いのよ」

 

 凜が守銭奴らしく書類にサインをする。凜は卒業後に時計塔に留学する事が決まっているので聖堂教会が学費を負担してくれる事は有難いのである。

 

(聖堂教会の金で反目の魔術協会の学校に留学するのかよ)

 

 士郎は査察官の内心を考えると凜が悪魔に見えた事は内緒である。

 二人が書類を確認してサインをした直後にメディアが帰って来た。

 

「二人とも待たせたわね。英雄王の令呪は無事に写し取ったわよ」

 

 メディアは令呪を写し取った魔導書を掲げて見せた。

 

「では、後は我々に任せて下さい」

 

 査察官は他にも言峰の背信行為が無いか家宅捜索を始めるというので三人は邪魔にならない様に帰宅する。

 実は士郎が言峰と食事をしていた隙にメディアと凜は教会の地下でギルガメッシュの贄にされていた子供達の救出作業をしていたのである。

 メディアが贄にされた子供達に回復魔術を施して、凜がアシストを務めたのである。

 

「これで、金ピカを倒す手段は手に入った。後は大聖杯を壊すだけだね」

 

「そうね。勿体ない気がするけど、冬木市の住民の安全には変えられないわ」

 

 帰宅途中での会話である。士郎もメディアと凜が自分には内緒で何か動いていた事は分かっていたが内容までは把握していなかった。

 子供であり魔術の世界と無関係な自分を巻き込みたくないのであろうと二人の気持ちも理解していた。

 

(しかし、遠坂先輩とは将来的には姉弟になる予定なのに、水くさいなあ)

 

 士郎が能天気な事を考えていた頃、新都ではセイバーが昼食を摂り終わり店から出た所をギルガメッシュに待ち伏せされていた。

 

「何のつもりだ。英雄王!」

 

「騎士王とあろう者が雑種の小僧の従属の身とはな」

 

「士郎を愚弄する事は許さんぞ!」

 

「まあ。まて。セイバーよ」

 

 一気に感情を昂らせるセイバーをギルガメッシュは宥める。

 

「どうだ。我が后になる気になったか?」

 

「戯れ言をいうな!」

 

「ほう。ならば、騎士王よ。貴様が渇望する聖杯をくれてやろう」

 

 セイバーの昂った感情がギルガメッシュの一言で一気に醒めた。

 

「英雄王よ、私を謀るつもりか?」

 

 セイバーは美しい顔に似合わぬ冷笑を浮かべていた。

 

「貴様が所有する聖杯の原典では、サーヴァントを受肉させるのが限界。ましては汚染された聖杯には無理な話」

 

 図星をつかれたギルガメッシュの顔が一気に険しくなる。

 

「更に言えば、私は既に聖杯を望んでは無い。過去を修正する事は不可能だと私は知ってしまった。それに、国が滅んでも人が生きていれば新しい国を作る事が出来るが人無しでは国も作れぬ事を私は学んだ」

 

 セイバーの説明を聞きギルガメッシュの表情から険しさが消えた。

 

「ふむ。この数日の僅かな間で成長したか」

 

 10年前の余裕の無かったセイバーが自身の成功も失敗も受け入れる程に成長した事にギルガメッシュも驚きと同時に歓喜した。

 

「良いぞ。益々、気に入ったぞ。そうでなくては、手に入れる甲斐が無いというものだ」

 

 ギルガメッシュも英雄王と呼ばれる程の男である。餌に釣られ程度の女なら興醒めした事であろう。刃向かう者を心身共に屈服させて手に入れる事に価値を認めるのである。

 

「自身も望まぬ相手から求婚をされて、退けた過去を持つ身で言えた義理か!」

 

 セイバーとしては呆れるしかない。ストーカーに言い寄られて最後まで拒絶した者がストーカーに成り果てたのである。

 

「あの程度で諦めるとは、イシュタルも存外に情けない」

 

 ギルガメッシュはセイバーに皮肉を言われても何とも思わない様子である。

 

「まあ、良い。英雄王よ。首を洗って待っていろ!」

 

 セイバーの宣戦布告をギルガメッシュは心地良く聞いていた。

 ギルガメッシュは人生を謳歌する事を信条としていた。全ての事を楽しむギルガメッシュにはセイバーの宣戦布告でさえ娯楽と言えるのである。

 セイバーがギルガメッシュに宣戦布告をしていた頃、既に帰宅した士郎は、庭に居たペガサスと友情を成立させていた。

 

「馬って、たくさん水を飲むんだね」

 

 帰宅した士郎は盥に入れられた水を6杯を飲み干したペガサスと戯れ合っている。

 

「もう、ちょっと待ってね。セイバーに人参を買って来て貰っているからね」

 

 士郎の言葉を理解しているらしくペガサスは士郎の顔を舐めている。

 

「本当に、いい子ね」

 

 桜も珍しく士郎と一緒にペガサスの首を撫でている。

 

「ねえ。ライダー。ユニコーンとペガサスは親戚なの?」

 

 士郎の質問にライダーの後頭部には大きな汗を掻いたが、正面に居る士郎と桜には幸いにも気付かれなかった。

 

「いえ。よく間違えられますが、全く関係ありません」

 

 士郎の質問にライダーが困惑しているとセイバーが帰ってきた。

 

「ただいま。士郎の注文の品を受け取って来ました」

 

 セイバーは「JA冬木人参5kg」と印刷された段ボール両手に持っていた。

 

「セイバー。こっちだよ」

 

 セイバーから人参の箱を受け取ると、ペガサスに人参を与える。

 

「士郎。馬に人参を与える時は人参の頭を掌の窪みに乗せて人参を立て与えるのです」

 

 騎士だけあって、セイバーは馬の扱いに慣れて

いる。士郎と桜もセイバーに倣いペガサスに人参を与える。

 

「たくさん食べなよ。今夜はペガサスにも働いて貰うからね」

 

「では、今夜、仕掛けるつもりですか?」

 

「そりゃそうでしょう。こちらが交渉をしたけど、金ピカの方から攻撃してきたんですから」

 

 士郎も内心はギルガメッシュの様な古代の王が平和的に交渉に応じるとは思っていなかった。

 

「まあ。人間って、権力を握ると他人が自分の為に奉仕する存在と思うからなあ」

 

 士郎の学校の剣道部の新任顧問が士郎の家に道場が有る事を知ると、士郎に承諾を取る前に夏休みの合宿に利用する計画した事があった。

 事前に剣道部の生徒から確認をされた士郎が慌て大河の祖父にあたる藤村雷画に相談をして事なきを得た事がある。

 

(生徒相手に権力を握ると大学を出たばかりの若造さえ増長するんだから、歴史に名を残した王とかなら尚更だろうね)

 

 士郎は最初からギルガメッシュが嫌いだったのである。ギルガメッシュ以外にもセイバーか歴史に名を残した王だったので口にしないだけである。

 

「まあ。こんな馬鹿らしい儀式は終わらすに限るよ」

 

 士郎の言葉はギルガメッシュではなく聖杯戦争に対しての宣戦布告であった。

 

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