士郎と桜はペガサスの背中に乗りご満悦である。自宅から柳洞寺まではアインツベルンが用意した自動車二台に分乗して柳洞寺まで移動してメディアの神殿まではペガサスで移動したのである。
「ありがとう。ペガサス」
士郎と桜が異口同音で礼を言うとペガサスが士郎と桜の頬をペロりと一舐する。
(桜に懐くのは当然として、この子が、ここまで懐くとは士郎も桜と同様に清い心の持ち主なんでしょうね)
ライダーが身内の身贔屓を絵に描いた様な事を思っていると葛木が作戦の確認を始める。
「私とキャスターが神殿で待機して、此方からは間桐と衛宮とアサシンが攻め入る」
「はい。キャスターには大聖杯を作った時の本来の入り口から入ったランサー達との連絡役をしてもらいます」
士郎達は二手に別れて大聖杯を目指す事にした。軍事用語で言う分進合撃である。
ギルガメッシュが外で士郎達を迎撃した場合はギルガメッシュを円の中央に置き包囲して360度から攻撃する。
ギルガメッシュの宝具が強力でも、360度に宝具を射出すれば攻撃の密度は粗くなり、士郎に言わせれば「当たらなければ、どうと言う事はない」のである。
ギルガメッシュにしたら狭い洞穴内に士郎達を誘い込む必要に迫られるのである。
「ここまでは衛宮の読み通りに敵の攻撃が無かったが既に私達は狭い洞穴内に入った。襲撃の可能がある」
葛木の懸念は当然であるが士郎は楽観視していた。
「その場合は、持久戦に持ち込んで、反対側のグループが聖杯を破壊するだけです」
「私とキャスターの役目は衛宮達が全滅した場合、この神殿を破壊して地下の大聖杯を破壊するのだな」
「はい。その後は葛木先生達には自力で逃亡してもらう事になるのが心苦しいのですが」
神殿側からは士郎と桜の主従コンビとアサシンである。本道側に凜とイリヤの主従コンビとランサーである。
「坊や。必ず帰って来なさいよ。坊やには色々と教えて欲しい事があるのだから」
メディアは思わず士郎に声を掛けた。生前に弟を手に掛けた事がトラウマになっていた。
メディアを召喚したマスターは幼い子供達を犠牲にした事でメディアの怒りを買ったのだが、根元的には弟を手に掛けたトラウマを刺激された結果である。
「まあ。一応は全員が帰る事が出来る計算をしてますので」
中学生の士郎はメディアの悪評を知らない。無知なのでメディアに対しては先入観を持つ事なく優しい大人の女性と思っている。
「無事に帰ってきたら、ご褒美に箒で空の散歩に招待するわ」
メディアの言葉を横で聞いた葛木が微妙な表情をしたが士郎が喜んでいるので何も口にする事はなかった。
「では、行ってきます!」
士郎達がメディアの神殿を出発した頃、凜達も既に大聖杯が設置された本道内に入っていた。
「しかし、天然の洞穴を利用したのでしょうけど、江戸時代に大聖杯なんかを、よく設置ができたわね」
凜が自分の先祖が設置したにも関わらずに関心する。
「嬢ちゃん達には見えないだろうが壁面に松明を差し込む穴もあるぞ」
ランサーがサーヴァント特有の視力で凜とイリヤに見えない穴の存在を教えてくれる。
「地面にも轍の跡が有るわ。馬車で瓦礫を外に運んだのね」
どうやらイリヤは大八車の存在を知らないらしい。
「当時としては大工事を、よく冬木藩が黙っていたわね」
凜もイリヤも知らないが聖杯降臨の儀式を始める直前の日本では地震が頻繁していたのである。
幸いにも冬木は地震の難に見舞われなかったが当時の冬木藩主も防災意識を刺激され、避難所として工事を認めたのである。言わば公共工事としての工事であった。
「アーチャー。敵の気配は?」
「敵の気配どころか罠も仕掛けてない。どうやら大聖杯と共に我々を待ち構えているようだ」
「金ピカらしいわね。私達が束になっても勝てないと思っているのよ。何が英雄王よ。慢心王と名乗るべきよ!」
凜から慢心王と揶揄されたギルガメッシュは大聖杯の上に立ち士郎達の到着を待っていた。
「此度の聖杯戦争は興をそそる。あの小僧め。楽しませてくれるではないか」
前回の聖杯戦争で道化ぶりを発揮した言峰綺礼や遠坂時臣より面白味があった。
言峰綺礼や遠坂時臣と違い士郎の行動はギルガメッシュの意表をつく。
「雑種の小僧にしてはサーヴァントとマスターを糾合して我に刃向かうとは無礼を超えて愉快よ」
魔術師として型に嵌まった遠坂時臣や自身の趣向に悩みギルガメッシュに唆された言峰綺礼よりギルガメッシュの興味を刺激する。
ギルガメッシュにすれば聖杯戦争は座に固定された自身の退屈しのぎでしかないのである。聖杯戦争での勝利は二の次なのである。
「悪いな、待たせたな。金ピカ!」
士郎達が到着した様である。
「ふむ。思ったより早かったな。雑種」
ギルガメッシュは士郎が、どの様な詭計、奇策に出るか楽しみで機嫌が良い。
「一応は聞くが大人しく座に帰る気はないのか?」
士郎がギルガメッシュに最後の説得と言えない説得を試みる。
「我を座に帰す気なら実力で帰せ」
「そうか。英雄王よ。座に帰る時が来たのだ!」
ギルガメッシュの返答にセイバーが前に出る。
「ほう。セイバーよ。懲りずに、また刃向かうのか」
ギルガメッシュの笑みと言葉に神経を逆撫でされたセイバーが飛び出す寸前にセイバーの勘が脳裏で警報を鳴らす。
「全員。後退!」
セイバーの呼び掛けに全員が後方に飛び退いた次の瞬間、大聖杯から黒い触手が鞭の様に唸りを挙げて飛び出た。
「あ、あれは?」
「あれに触れては駄目!」
本道側から到着した凜が黒い触手の正体を看破して警告する。
「あれが聖杯を汚染したアンリマユよ。サーヴァントが触れたら取り込まれるわ」
イリヤが黒い触手の正体を暴露する。
「英雄王。アンリマユに取り込まれたか!」
セイバーの叫びにギルガメッシュは気分を害した様子で反論する。
「取り込まれたのではない。我が取り込んだのだ!」
ギルガメッシュの反論に衝撃を受けたのはセイバーではなくイリヤであった。
「そんな、サーヴァントが取り込まれるのではなく逆に取り込むなんて!」
前回の聖杯戦争後にアインツベルンは聖杯の調査を極秘で行ってきたが、サーヴァントが聖杯を取り込むとは全くの予測外の事態であった。
「それって、金ピカは聖杯から魔力提供されているのか!」
全ての前提を覆す事実であった。聖杯を取り込むサーヴァントなど、聖杯戦争の根幹から揺るがす事である。
更に聖杯から魔力提供されているという事は持久戦になれば相対的にギルガメッシュが有利になるのである。
聖杯からの魔力と人間であるマスターからの魔力では絶対的な差があるのである。
「雑種の分際で王に逆らった報いを受けるよい!」
ギルガメッシュが宝具の乱射を始めるが近づく事も出来なかった。
迂闊に接近すればアンリマユの餌食になる。アンリマユに意識を向ければギルガメッシュの的になるだけである。
バーサーカーが先頭に立ち、飛来する宝具を打ち払う。
その後でランサーがゲイボルグ投擲の準備をしている。ゲイボルグ自体は既に防御されているが宝具の乱射を一時的な中断をさせる程度の効果は期待が出来るであろう。
「甘いぞ!」
ランサーがゲイボルグを投擲する寸前にランサーの手足が黄金の鎖に拘束された。
「何!」
異変に気付いたバーサーカーが石斧で黄金の鎖を断ち切ろうとしたがバーサーカーの力を持ってしても鎖に傷をつける事も出来ない。
「バーサーカー、後ろ!」
ランサーの悲鳴でバーサーカーは自身の背中を目掛けて飛来するギルガメッシュの宝具を叩き落とすのと同時にバーサーカーの手足と首に胴にも黄金の鎖が巻き付く。
「バーサーカー!」
イリヤが叫ぶと同時に全身を赤く光らせるがバーサーカーに変化は無い。
「何故、私の中に帰らないの?」
イリヤの悲痛な叫びに応えたのはバーサーカーではなくギルガメッシュであった。
「無駄だ。瞬間転移でも天の鎖からは逃れる事は不可能だ。神性が高ければ高い程、その鎖の餌食になる」
「貴様、そんな隠し球を持っていたのか!」
士郎はセイバーから前回のギルガメッシュの戦いについて色々と聞いていたがセイバーはギルガメッシュとイスカンダルの戦いは見ていない。
見ていない物をサーヴァントでさえ知る事は叶わないのである。
「小僧、当たり前だ。我の宝物庫にはあらゆる宝物が貯蔵されている。量は既に我の認識を超えている。余人に把握が出来る筈もない」
「自身の財も把握が出来ない程度だから、単純な罠にも簡単に掛かる!」
「何だと!」
士郎に代わり、セイバーがギルガメッシュの慢心を揶揄する。
「まだ、分からぬとは慢心ではなく、愚鈍だな!」
セイバーがギルガメッシュに対して冷笑を浴びせた時にアーチャーの声が洞窟内に響いた。
「so as i pray unlimited blade works」
ギルガメッシュがアーチャーの詠唱が終わるまでの時間稼ぎの為にランサー、バーサーカー、セイバーが囮となっていた事に気付いた時には世界は白い光に染められた。