桜と士郎   作:周小荒

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死闘

 

 ギルガメッシュの眼前には空に浮かぶ巨大な歯車と果てし無い荒野と墓標の如く大地に突き刺さる無数の剣があった。

 

「これは、固有結界」

 

 非現実的な風景であった。固有結界とは術者の心象風景を現実化するものである。

 どの様な人生を歩めば、この風景を内包するに至るのか。

 

「人生を謳歌できぬとは哀れな者よ」

 

 人生を謳歌する事を最大の価値を置くギルガメッシュにしたら愚かな人生としか言えなかった。

 

「貴様に言われなくとも自覚はある!」

 

 アーチャーがギルガメッシュの哀れみを払い退ける様に返した。

 アーチャーの前で天の鎖で捕らえたランサーとバーサーカー主従の姿は見えなかった。戦闘の邪魔になると考えて現実世界に置いてきたのだろう。

 

「ふむ。確かに固有結界を展開すれば多少は有利になると踏んだか。しかし、その程度で勝てると思うの浅慮であるぞ」

 

「それは、承知している」

 

 アーチャーは不利を認めながら余裕を持って応えるのはブラフなのか本音なのかギルガメッシュは判断に迷った。

 

「固有結界を持ち出すとは、意外と楽しませてくれるではないか」

 

「まだ、慢心を捨てぬ。愚か者め!」

 

 この期に及んでも慢心を捨てずにいるギルガメッシュにアーチャーも内心は呆れを通り越して感心している。

 

「ギルガメッシュ。自害しろ!」

 

 令呪を使い命令を下す声が背後より聞こえた。

 

「何!」

 

 アーチャーに気を取られていたが固有結界内には神殿から来たセイバー達も居るのである。

 ギルガメッシュの右手が主の意思とは無関係に乖離剣を呼び出しながら背後を振り返る。

 

「第三の令呪を以て命ずる。ギルガメッシュ。自害しろ!」

 

 士郎が魔道書を片手に再び令呪を使い命令を下していた。

 二段重ねの令呪の命令に抗える筈もなくギルガメッシュは乖離剣で自らの心臓を貫いた。

 流石のギルガメッシュもバランスを崩して大聖杯の上から地面に落下する。

 落下しながらギルガメッシュは士郎の手にある魔導書から令呪が消える気配を感じ取ったのである。

 

「そうか。綺礼が持つ令呪を魔導書に写したのか!」

 

 道理で言峰とのラインとパスが途絶えた後に新しいマスターとの繋がりを感じられない筈である。無機物に令呪を写しているとはギルガメッシュも想像もしなかったのである。

 

「小賢しい真似を!」

 

 地面に叩きつけられたギルガメッシュは胸を乖離剣に貫かれたまま立ちあがる。

 

「衛宮士郎が令呪を以て命ずる。セイバーよ。宝具で大聖杯を破壊せよ!」

 

 士郎がギルガメッシュが反撃に転ずる前に先手を打ってセイバーに命令する。

 

「エクスカリバー!」

 

 セイバーもギルガメッシュを嫌っていても侮ってはいない。汚染された聖杯の力を逆に取り込む程のサーヴァントなのである。

 最後の令呪の魔力も使い渾身の一撃を放つ。

 

「凄まじいわね」

 

 ペガサスに騎乗して上空から凜が呟いた。凜とアーチャーはギルガメッシュが大聖杯から落ちた隙にライダーによりエクスカリバーの射程外に避難したのである。

 

「セイバーが最優秀のサーヴァントと言われるのも理解が出来ます」

 

 ライダー達の眼下では黄金の光の壁が大聖杯もろともギルガメッシュを飲み込むのが見えた。

 

「しかし、あんな強力な宝具を街中で使われたら魔術の秘匿もあったものじゃない!」

 

 アーチャーの感想に凜も苦笑しながら頷くしかなかった。

 凜にはアニメの知識に乏しかったが、それでも「波動砲」というアニメ用語が頭に浮かんだ程である。

 エクスカリバーの発動が収まるとライダーは地上にペガサスを降ろさせる。

 

「桜、大丈夫でしたか?」

 

「私は大丈夫だけどセイバーさんが……」

 

 桜の視線の先には剣も甲冑さえ編む魔力も無いセイバーがいた。

 

「士郎との誓約を守る事が出来ました」

 

「ありがとう。セイバー」

 

「礼を言うのは私の方です。貴方は私の蒙を啓てくれました」

 

「そんな事はないよ」

 

「貴方の様な息子を持ちたかった」

 

「お母さん!」

 

 思わずセイバーに抱きつく士郎に苦笑するセイバーであった。セイバーは母として息子を持ったなかった。父として息子を持ち失敗したのである。

 

「セイバーは僕の母さんだよ」

 

「士郎。私は貴方を愛しています」

 

 抱きつく士郎を抱き返してセイバーは無言で桜に視線を送る。

 

(桜。士郎の事を頼みます)

 

(セイバーさん。士郎君の事は任せて下さい)

 

 同じ少年を愛した者同士で無言の会話を交わした後、セイバーの身体は光の粒子となり消えた。

 立ち尽くし泣き続ける士郎を後ろから桜が優しく抱きしめる。

 

「私が傍にいるから寂しくないわよ」

 

 士郎は桜の腕の中で桜を振り返り、桜の胸に顔を埋めて泣き続けた。

 士郎の背中に腕を回した桜は士郎を安心させる様に強く士郎を抱き締めた。

 

「士郎君」

 

「桜先輩」

 

 すがりつく士郎を胸に抱き優しい表情をしていた桜の顔が驚愕の表情に変わる。

 

「そんな……」

 

 桜が驚愕した理由は、傷だらけの鎧で満身創痍ながらもギルガメッシュが立っていたからである。

 

「桜!」

 

 ライターが桜と士郎を一緒に抱えて後方に飛び退く。

 

「アーチャー!」

 

 凜の声にアーチャーがギルガメッシュの前に立ち塞がる。

 

(不味いな)

 

 アーチャーは自分達の不利を悟らざる得なかった。固有結界は大量の魔力を消費する。更にセイバーのエクスカリバーの威力を外部に出さない為に結界強化に魔力を消耗した後である。

 

「凜。令呪を使い私の魔力補給をしてくれ」

 

「了解。一つでいい?」

 

「まずは、それで構わん」

 

 凜が令呪をアーチャーの魔力補給に使うが手負いのギルガメッシュに、何処まで対抗が出来るか不安は尽きない。

 

「雑種、無駄なあがきだ!」

 

「ローアイアス!」

 

 ギルガメッシュが右手の乖離剣を振り上げるのに合わせてアーチャーも自身の最大防御を展開する。

 アーチャーが英霊となる前の衛宮士郎時代に参戦した聖杯戦争で目にした解析不能の剣である。

 

(相殺する事が出来るか?)

 

 乖離剣の威力を知るアーチャーは焦るがギルガメッシュはアーチャーの予測の超える行動に出た。

 乖離剣を振り上げたギルガメッシュの背後に無数の黄金の波紋が出現した。

 

「何っ!」

 

 宝具の散弾がアーチャーに降り注ぎ、七重のローアイアスの盾を1枚ずつ削り取っていく。

 

「トレース・オン」

 

 アーチャーも自身が複製した剣でギルガメッシュの宝具を迎撃するが数に大差がある。

 

(ローアイアスを展開しながらでは魔力が足りん)

 

 形勢はアーチャーに不利であった。アーチャーはギルガメッシュの乖離剣に備えてローアイアスを展開しなければならず固有結界と合わせて魔力の消費が激しい。対するギルガメッシュは所有している宝具を射出するだけで魔力の消費は少ないのである。

 

(奴の魔力が尽きるか私の魔力が尽きるかの勝負だな)

 

 アーチャーにすれば、剥き出しの神経にヤスリ掛けをされている気分である。

 そして、遂にローアイアスの最後の盾が砕け散り数本の宝具の散弾を双剣で打ち払ったがギルガメッシュの宝具の散弾をアーチャー自身の身体で受け止める事になる。

 

「アーチャー!」

 

 凜の叫び声が響く中でアーチャーが倒れると同時にライダーが降り注ぐ散弾を弾き僅かな時間を稼ぐ間にマスター三人をペガサスでギルガメッシュの射程外に逃がす。

 

「ライダー!」

 

 今度はペガサスの上で桜の叫び声が響く事になる。

 

「逃がさぬぞ!」

 

 ライダーを宝具の射出で牽制して、ギルガメッシュが上空に向けて乖離剣を振り下ろす体制になった瞬間に乖離剣を握った右手と左腕が弾け飛ぶ。

 ギルガメッシュは自身の両腕が弾け飛んだ事を知覚する事は無かった。

 ギルガメッシュの両腕が弾け飛ぶと同時にギルガメッシュの首も胴体から弾け飛んでいた。

 

「秘剣、燕返し」

 

 小次郎は何が起きたのか理解が出来ない表情のギルガメッシュに自身の奥義である事を伝えると地に転がったギルガメッシュの首に仕止めをする。

 

「もしかして、私達が勝ったの?」

 

「そうです。僕達が勝ったんです。凄くセコい策を使って!」

 

 メディアの神殿から霊体化したままアサシンのスキルを使い気配を殺していた小次郎はギルガメッシュの一瞬の隙を待ち構えていたのだ。

 満身創痍で虚勢を張っていたがアーチャーはギルガメッシュにとっては強敵であった。

 ギルガメッシュもセイバーとアーチャーの連戦の後でなければ気配遮断スキルを持ってしてもアサシンの接近に気付いていただろう。

 ギルガメッシュもアサシンクラスのサーヴァントに遅れをとるとは思っていなかっただろう。

 そして、士郎は前回の聖杯戦争でセイバーのエクスカリバーを受けても生き残っていたギルガメッシュにセイバーでは倒しきれないかもと予想していた。そして、最後の保険としてアサシンを用意していたのが効を奏した。

 

「それより、遠坂先輩。アーチャーに魔力補給を」

 

 凜も士郎に言われて慌て気味に令呪を使いアーチャーを回復させるとアーチャーに側に駆け寄る。

 

「ご苦労様。アーチャー」

 

「凜。固有結界を解くぞ。折角、君が残りの令呪を使って回復させてくれたが長持ちしそうにない」

 

 アーチャーは宣言すると固有結界を解き洞窟内に居たランサーとバーサーカー主従と合流をした。

 

「アーチャー、霊体化しなくても大丈夫なの?」

 

「霊体化しても焼け石に水だな。その前に凜に頼みたい事がある」

 

 凜もアーチャーが限界である事が分かっていた。

 

「桜の事は言う必要も無いが、士郎の事を頼む。奴は私ではないが私でもある。それに、奴のお陰で自分の理想も道も間違えでない事が分かった」

 

 正義の味方に憧れた少年の成れの果てだった自分に無辜の人を守る事が正義であると士郎に気付かされたアーチャーであった。

 

「分かったわ。安心してアーチャー」

 

 凜が返事をするとアーチャーは安心した様な笑顔を残してセイバーと同様に光の粒子となった。

 2体のサーヴァントを犠牲にして聖杯戦争は終結したのである。

 

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