桜と士郎   作:周小荒

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別れと未来

 

 セイバーとアーチャーを犠牲にして聖杯戦争は終結したが、士郎はイリヤの体調を心配したが大聖杯が存在しない時点でイリヤは小聖杯としての機能は働かない様である。

 

「大丈夫よ。少し時間が掛かるけど、私が聖杯としての機能を取り除くから」

 

 メディアが心配する士郎に苦笑しながらも保証した。

 

「桜先輩とイリヤと、色々とお世話になります」

 

 士郎はメディアに深々と頭を下げながら、メディアを仲間にして良かったと思っていた。

 

「私も遠坂とアインツベルンには世話になるから気にする事ないわよ」

 

 話題になったイリヤと桜は自身のサーヴァントと最後の別れの挨拶をしていた。

 

「バーサーカー。短い間だったけど、ありがとうね」

 

 物を言えぬバーサーカーが巨大な手でイリヤの頭を優しく撫でるのである。

 生前に狂気に呑まれて我が子を炎に投じた事とイリヤに対するサーヴァントを超えた愛情とは無関係では無いであろう。

 バーサーカー主従を見ていたランサーも複雑な表情を浮かべていた。

 ランサーも息子を手に掛けているのである。今回の聖杯戦争では己の意志に反して主を変えたランサーとしては仕え甲斐の主を持ったバーサーカーは羨ましい限りである。

 

「最後に挨拶だけはしたかったな」

 

 自分を召喚した最初のマスターの事を思い出すランサーであった。

 ランサーと同じマスターを持つアサシンは士郎から感謝の言葉を掛けられていた。

 

「佐々木様には我慢のいる仕事をして頂きました」

 

「気に病む事はない。セイバーにランサー、双剣使いのアーチャーと試合が出来ただけでも果報というものだ」

 

 小次郎にすれば生前に出会えなかった雄敵と試合とはいえ戦えた事は剣士冥利に尽きるものであった。

 アサシンの様に思い残す事が無い者も居れば、親馬鹿ならぬサーヴァント馬鹿ぶりを発揮する者もいた。

 

「桜。本当に大丈夫ですか?」

 

「ありがとう。ライダー。でも、姉さんもいるから大丈夫よ」

 

「困った時は何時でも凜や士郎に相談して下さい」

 

「分かったわ。ライダー。心配してくれて、ありがとう」

 

 ライダーは三人姉妹の末っ子である自身の境遇から桜には主従を超えた思いがあるのだろう。最後まど桜の心配をしながら光の粒子となった。

 サーヴァント達が光の粒子と還元された後にマスター達の心中には寂しさがあった筈だが、誰も表情には出さなかった。

 

「皆様。御無事だった様でお祝いを申し上げます」

 

 洞窟の外で待機していた筈のアインツベルンのメイドのセラが洞窟内まで入って来ていた。

 

「皆さん。お疲れのご様子ですが、この場を急いで離れて頂きます。既に夜明けとなっています」

 

 凜を筆頭に生き残ったマスター達はセラの指示に従い洞窟内から急いで撤退した。

 魔術は秘匿するのが鉄則である。大聖杯が消滅したといえ二百年前からの秘密の洞窟を発見されるのは色々と不味いのである。

 

「イリヤは人避けの魔術を展開して、キャスター達はもう一台の車で脱出して!」

 

「分かったわ」

 

 冬木市の管理者の凜としては先祖代々、秘匿していた秘密を自分の代で世間に晒す訳にはいかないのである。

 キャスターも葛木との生活を送る為にも凜に協力する必要があるのだ。

 2台のアインツベルンの車は人目を避けて一旦はアインツベルンの城に向かったのである。

 

「イリヤ様もお疲れでしょうから、皆様も一緒にアインツベルンで休息された後に事後処理を話し合われた方が宜しいと存じます」

 

「では、遠慮なくお世話になるわ」

 

 凜達もセラの提案を素直に受けたのである。全員がサーヴァントへの魔力供給で疲労困憊であり、物事は無理をすれば悪い結果を招く事になるからである。

 アインツベルンの城に到着した一行は、最初に女性陣は大浴場で汗を流したのである。

 男性陣はあてがわれた部屋のシャワーを使うと、そのままベッドの住人となった。

 

 士郎が目覚めた時は昼過ぎであった。

 

「あら、良いタイミングでお目覚めになりましたね」

 

 セラが起こしに来たところであった。

 

「皆様は既に食堂にて、お待ちですので御案内をさせて頂きます」

 

 士郎がセラに案内されて食堂に行くとセラの言葉通りに既に全員が集合していた。

 

「じゃあ。シロウも来た事だし食事にしましょうか」

 

 イリヤが切り出すとシチューとサラダにパンという質素ながらも、栄養豊富な食事を供された。

 流石にアインツベルンである。出された食事は吟味された素材を巧みな技術で調理された素晴らしい味である。

 

「美味しいなあ。後でレシピを教えて下さいね」

 

 士郎の発言に気を良くするセラがいた。

 食事が終わると全員にコーヒーにコーヒーが出されてセラからの報告を受ける事になる。

 

「先程、魔術協会から間桐臓硯の魔術協会除名の連絡がありました」

 

 全員が桜の心中を憚り無言でいたが、これで間桐の家が潰えた事になり、桜は魔術師の世界から解放された事になる。

 以後は遠阪の家に戻り姉である凜の庇護のもと生涯を送る事になるであろう。

 

「他には?」

 

 凜の質問は質問というより確認であった。

 

「いえ、魔術協会からはありません。我がアインツベルンからは、以前に衛宮士郎様から提案があった様にキャスター様を当家の客人として迎える事になりました」

 

「それで、キャスターの法的な身分の作成は大丈夫なの?」

 

 凜にしたらキャスターの仕事や住み処は冬木市に在住する限りは用意が出来るが遠坂家の力ではキャスターの法的な身分までは作成する事が出来ない。アインツベルンと遠坂家の力の差である。

 

「そちらの方は明日にでも用意が出来ます」

 

 凜も知っていた事だが、キャスターの国籍から経歴にパスポートまでを短時間で揃える事の出来るアインツベルンの力に驚嘆するしかない。

 

「あのう。いいかな?」

 

 士郎が片手を挙げて発言の許可を求めた。

 

「はい。衛宮様。何でしょうか?」

 

「葛木先生達には、これからも我が家の離れに住んでもらうのは駄目?」

 

 士郎の申し出はメディアに取っては渡りに船であった。流石に若い僧侶もいる寺院での新婚生活は遠慮したいメディアであった。

 

「僕の家に住めば学校も近いし遠坂先輩達との連絡も取りやすい、それに、僕も家賃収入が入る」

 

「確かに色々と便利だな」

 

 士郎の提案に葛木も乗る気の様子である。

 

「細かい事は、後で藤村の爺ちゃんと相談してもらえますか」

 

「分かった」

 

 未成年の士郎の一存では決められないので、後見人である藤村雷画に話を通す必要がある。

 

「それから、イリヤ様も日本に残り学校に通う事になりました」

 

 セラが士郎と葛木話が纏まったタイミングでイリヤの処遇について話をする。

 

「そうね。キャスターが冬木市に住むなら、誰かアインツベルンの人間が冬木市に必要になるわよね」

 

 凜の言葉は常識的な見解であったが、実は凜もしらない事で、アインツベルンとメディアしか知らない事実があった。

 小聖杯の容れ物として調整されたイリヤの身体は成長が極端に遅く、寿命も短くなっている。

 メディアはイリヤの身体の成長と寿命を伸ばす役目があるのだ。

 メディアは女性に対する理不尽が許せない性分である。彼女の生前の人生を考えれば当然の結果といえる。

 

「そうね。お嬢ちゃんには色々と教えてあげたい事があるもの」

 

 メディアの台詞は額面通りに受け取れば、魔術師として得難い弟子を得たと思えるが、実際はアインツベルンにより道具として洗脳されたイリヤの洗脳を解く事であった。

 

「フラウには、宜しくお願いします」

 

 イリヤから葛木の妻として扱われて頬を朱に染めるメディアであった。

 頬を赤くしたメディアを見て士郎も何か冷やかしたい気分になったが、後で桜との関係で仕返しされるのが分かっているので黙っている事にした。

 

「それじゃあ、僕と桜先輩は先に帰って準備しておきますね」

 

 全員が何の準備なのかと思ったが口にしなかった。士郎なりに自分や桜には聞かせられない話があるだろうと気を回したのである。

 

「それじゃ、リズさん。申し訳ありませんが車を出してもらえますか」

 

 士郎と桜がリズに案内されて部屋を出て行くと凜とイリヤとメディアで魔術協会と聖堂教会との対応策の話となった。

 凜は士郎と桜の事を魔術協会に知られると封印指定を受けると危惧をしていた。

 イリヤも義弟である士郎と士郎の想い人の桜の事が心配していた。

 メディアは魔術協会や聖堂教会が奇跡の具現化である聖杯を諦めたと思えず、両陣営を牽制する必要を感じていた。

 

「他者を犠牲にしても己の欲望を満たす人間の本質は私の時代から変わらないわ」

 

 凜もイリヤも内心は「貴女が言えた義理か!」と思ったが聖杯戦争に参加した身では口に出来なかった。

 

「少なくとも、私の目の黒いうちは、冬木で聖杯戦争は起こさせないわ」

 

 凜としては魔術として根源に至る願望と遠坂家の悲願である第二魔法を手にしたいと思う以上に冬木市の管理人として戦争戦争を認める訳にはいかないのである。

 イリヤは魔術協会や聖堂教会だけではなく、祖父であるアハト翁が第三魔法を諦めたとは思えずに対応策を打つ必要を感じてもいた。

 

「それにしても、聖杯戦争が終了して聖杯が消えても、色々と事後処理が大変だわ」

 

 凜の愚痴にイリヤもメディアも苦笑するしかなかった。

 

「ぼやくな。遠坂。死ぬよりはマシだろう」

 

 説得力が有り過ぎる葛木の一言に女性陣全員が笑い出したのである。

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