桜と士郎   作:周小荒

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エピローグ

 

 桜の花ビラが舞い散る季節である。士郎はイリヤを連れて釣りに来ていた。

 水面で揺れるサビキウキを眺めながら士郎がイリヤに話し掛けた。

 

「イリヤ。日本の学校は慣れた?」

 

「楽しいわよ。お友達も出来たから」

 

 イリヤはアルビノで白人としても目立つ存在である。日本の学校に馴染めるか士郎は心配していたが杞憂だったようである。

 イリヤの発言に士郎だけでなく、セラも胸を撫で下ろすのであった。

 

「お友達も、たくさん出来たし、みんな親切よ」

 

 セラはアインツベルンの城でイリヤの家庭教師として自身が教えていたが、イリヤに同世代の友人が居ない事に不安を持っていた。

 

(衛宮様の薦めで学校に通わせて良かったわ)

 

「それより、シロウは私より桜とデートでもしたら良かったんじゃないの?」

 

 イリヤの指摘に士郎も苦笑する。士郎が義理とは言え姉のイリヤを可愛がる様に、凜はシスコンの姉馬鹿と化して桜を独占しているのである。

 

「離れての生活が長かったし、来年には遠坂先輩はイギリスだから仕方がないよ」

 

 ぼやく士郎を見てイリヤもセラも苦笑するしかない。

 

「シロウには私がいるでしょう!」

 

 イリヤの言葉に士郎も苦笑しながら頷くしかなかった。

 

 イリヤと士郎から話のネタにされた姉妹は仲良く料理をしていた。

 

「士郎君は料理上手だけど、お菓子作りは、あまりしないから」

 

「へえ。意外ねえ。衛宮君ならホットケーキの素でのドーナツ作りとか得意そうだけど」

 

 士郎の料理スキルは家庭内無能者の切嗣相手に磨かれたスキルである。切嗣は甘い物が苦手だったので自然と菓子を作る事はなかった。

 

「じゃあ。お菓子で衛宮君の胃袋を掴む?」

 

「もう。姉さんたら!」

 

 桜が照れて赤くなるのを見て喜ぶ凜であった。妹相手でも、赤い悪魔は健在の様である。

 

(衛宮君も誂い甲斐があるから、卒業までは退屈しそうに無いわ)

 

 士郎と桜の受難は続きそうである。

 

 遠坂姉妹が菓子作りをしていた頃、衛宮邸で留守番をしているメディアは結婚式の準備に忙しかった。

 法的な手続きは葛木が行ってくれたのだが、国際結婚とは手続きが大変なのである。日本政府からの必要書類を貰うとドイツ大使館にアポスティーユを貰う為に提出する。それと別にアインツベルンが用意したメディア側の書類を日本の外務省に提出をして同じ様にアポスティーユを貰い深山町区役所に提出するまで苦労を考えると葛木には感謝するしかなかった。

 それでも、アインツベルンの力が有ればの異例のスピード手続きである。

 それを考えると結婚式の準備くらいはと思い孤軍奮闘するメディアであった。

 式は柳洞寺で行う事にした。葛木の立場を考えれば当然であるが、冬木教会は関係者一同が忌避するのは無理からぬ事である。

 披露宴は全ての準備をアインツベルンが申し出てくれたが場所の提供だけ受け入れた。

 招待客もメディア側は聖杯戦争の関係者だけにして葛木側も校長と教頭に学年主任と士郎の繋がりで大河だけである。

 問題は送迎と料理である。料理も市内のケータリングを頼み送迎は大河の実家が協力申し出てくれた。

 流石に招待客の実家に頼るのはとメディアも考えたのだが大河に説得されたのである。

 

「メディアさんと葛木先生には士郎の事で、これからも色々と面倒を掛ける事になりますから当然ですよ。士郎は私の弟とですから」

 

 大河はメディアに精神的な負担を掛けずに送迎を受け入れさせて、自然にメディアに士郎の味方を引き受けさせたのである。

 藤村大河にはセイバーのカリスマ性とは別に、人の心を癒し信頼させる何かがあったのである。

 

 その日の衛宮家の夕食は鰺のフルコースであった。

 

「ちょっと、何百匹の鰺を釣ったのよ」

 

 大河の声には驚きよりも呆れの成分が大量に含まれていた。

 

「イリヤは釣りの才能があるわ。鰺の群れに当たったみたいでね」

 

 イリヤが次々と鰺を釣るので持参したクーラーでは入りきらないので途中から士郎が鰺を捌いてが間に合わずに、セラが途中でクーラーボックスと氷を買いに行ったほどである。

 食卓の上には鯵の刺身に鯵のなめろう、鯵のたたきに鯵のさんが焼き。鍋には鯵のつみれ汁が控えている。

 軒先には鯵の一夜干しと焼き干しが入った干し籠が列を作っている。

 

「釣る方も釣る方だけど、捌いて料理する方も大概だわね」

 

 夕食を作りに来て、鯵の加工作業に従事させられた遠坂姉妹とメディアとセラも大河の言葉に苦笑するしかなかった。

 それでも、新鮮な鯵の味は美味である。生魚を食べる習慣の無いアインツベルンの面々も最初は警戒しながらも箸を伸ばしたが一口で鯵の魅力に虜になった。

 

「生魚は栄養があるから、食べれる習慣をつける事は良い事だ」

 

 葛木の教師らしい言葉にメディアも仕方なしに刺身を口にする。

 

「あら、意外と美味ね」

 

 ワサビを山盛りにして食べるメディアに疑問を持つ士郎であった。

 

「そうだ。生は駄目だけど、つみれとフライなら大丈夫だろ」

 

 士郎は鯵フライとつみれを小皿に取り仏壇に供えるのであった。

 

「父さんもイリヤが釣った魚が食べたいだろ」

 

(父さん。イリヤの事は心配ないからね)

 

 士郎が切嗣に報告した様に、イリヤは80歳の天寿を家族に囲まれて全うするのである。

 イリヤの延命に貢献したメディアは二児の母となり、葛木と平穏な一生を終える事になる。

 かつての教え子達は葛木の死を惜しみ、残されたメディアの元に通うのであった。

 

(宗一郎様。貴方は脱け殻なんかでは有りませんでしたよ。貴方は立派な教師として教え子を導いてましたよ)

 

 大河は聖杯戦争時に入院した際に知り合った勤務と二年の交際期間を経て結婚したのである。

 結婚後も夫婦喧嘩をする度に衛宮家に家出して来るのに士郎も閉口したものである。

 

「さっさと離婚しろ!」

 

 大河の話を聞いては大河に肩入れする士郎であった。

 

 凜は第二魔法の探求を中断する事になった。持病であるうっかりを発動して国税を納め忘れて追徴金を取られて遠坂家は傾く事になるのである。

 経済破綻寸前の遠坂家を再興させる為に、なけなしの財産で事業を始めて成功してはうっかりを発動して傾くの繰り返しであり、本業の魔術師としての活動は中断したままであった。

 

「凜が魔術研究を中断してくれた方が冬木市や世界の平和のためになるわ」

 

 凜の魔術実験に場所を提供して巨大なクレーターを作られたイリヤの言である。

 

 桜は結婚後は良妻賢母の見本となり充実した生涯を送る事になる。

 但しメディアからは「私の新婚時代よりも浮かれている。それも子供が成人した後まで続くとは……」

 

 士郎は高校卒業後は進学せずに藤村雷画の紹介で新都の料亭に就職して十五年後に「小料理屋えみや」を開業する。

 イリヤや凜とは親戚として付き合いがあったが、魔術世界とは縁を切り、料理人としての生涯を送る事になる。

 妻であり従業員である桜と二人だけの小さな店だが口コミで評判となり繁盛したが、店の名物は接客中で客の前で堂々とイチャつく二人のバカップルぶりであった。

 

「はあ。二人目の子供が出来たのに万年新婚気分とは、この店、大丈夫かしら」

 

 頭を抱える凜にカウンターから士郎の声がした。

 

「義姉さん。スズキの酒蒸し中華風を一丁!」

 

「了解!」

 

 今月の生活費まで、うっかりと定期預金にしてしまった自分が恨めしい。

 その前は、3ヶ月ぶりに帰国して電気、ガス、水道を止められていて、宿代として働いた苦い思い出がある。

 

「同じ遠坂の血を引いているのに!」

 

 自分と違いしっかり者の妹も恨めしい。凜は知らないが間桐臓硯が生前に「姉の方を貰えば良かった」と発言したが、今の凜を知ったら違う発言をした事であろう。

 それでも、妹の幸せそうな顔を見ると凜の口元も緩むのである。

 

「はい、スズキの酒蒸し中華風あがったわよ!」

 

 凜の声が店内に響いた。

 

 

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