桜と士郎   作:周小荒

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休戦

 

 教会を出た後で凛が突如として笑い出したので士郎とセイバーは凛の正気を疑ったものである。

 

「大丈夫よ。私は正気よ」

 

 まだ、笑いの発作が治まりきらない様子で凛は士郎とセイバーを安心させる。

 

「何がツボにはまったんだよ」

 

 士郎も安心すると同時に呆れるのである。

 

「あの綺礼が苦虫を噛み潰した顔なんか初めて見たわ」

 

 どうやら、凛は綺礼の事を快く思って居なかった様である。

 

「神父さん相手に罰あたりな人だな」

 

 士郎も綺礼に悪印象しか無いのだが、腹を抱えて笑う凛を目の前にして綺礼に同情した。

 セイバーも凛の様子に困惑していたが途端にポンチョを脱ぎ捨て剣を構える。

 セイバーが戦闘体制になると同時に霊体化していたアーチャーもセイバーの隣に現れる。

 凛も士郎を抱えて2人のサーヴァントから距離を取ると士郎を自分の背に隠す。

 状況の急な変化に驚いた士郎が3人の視線の先を目で追う。

 

「アンドレ!」

 

 士郎の口から往年の巨人レスラーの名前が出てきた。

 3人の視線の先には巨人と銀髪の少女が立っていた。

 

「今晩は、お兄ちゃん。こうして会うのは2回目だよね」

 

「あっ、ゴメン。何処で会いましたけ?」

 

 聖杯戦争とは無関係の気不味い空気が場を支配した。

 士郎にしたら年齢や容姿に関係なく桜以外の女性には興味を持たない事が当然なのである。

 気不味い空気を打破したのは凛であった。

 

「ヤバい。桁違いだわ。あのサーヴァント!」

 

 凛の声は焦りの塊であった。

 

「初めまして凛。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 イリヤがスカートの両端を持ち上げてお辞儀をする。

 

「これは、ご丁寧に、僕は衛宮士郎です」

 

 士郎もイリヤに釣られて礼儀正しく、お辞儀して礼を返す。

 その横で凛はアインツベルンの名に反応する。始まりの御三家の一角であり、その家柄は

遠坂や間桐よりも古く魔道の世界でも有数の名家である。

 

「これ以上の挨拶は要らないよね。どうせ、直ぐに死んじゃうんだから」

 

「ちょっと待った!」

 

 士郎が制止を掛ける。

 

「何、命乞い?」

 

「まさかと思うけど、ここで戦う気かい?」

 

「当然でしょう。聖杯戦争でサーヴァントを連れた魔術師が会えば戦うに決まっているでしょ!」

 

「駄目に決まっているわ。こんな住宅街で戦えば大惨事になるわ。魔術は秘匿する決まりだろ」

 

 確かにイリヤのサーヴァントが暴れられる場所ではなかった。

 

「それに、他にも理由がある。ここで立話もなんだから場所を移そう」

 

 士郎の提案で3体のサーヴァントと3人のマスターは近くの公園に移動した。

 士郎を挟み3人のマスターは缶の甘酒を手に公園のベンチに座る。

 

「その、えっと、君の事は何て呼べばいいかな?」

 

「イリヤで良いわよ。日本人には発音が難しいでしょ」

 

「あ、有り難う。僕の事も士郎で良いよ」

 

「分かったわ。シロウ」

 

「それで、本題に入るけど、今回の聖杯戦争の賞品の聖杯は欠陥品である可能性が高いんだよ」

 

「欠陥品?」

 

「うん。前の聖杯戦争の時の聖杯は欠陥品で最後のマスターが破壊したら冬木の町が大火事になったんだよ。その後で本当なら60年後に始まる聖杯戦争が10年後に始まった。普通に考えて今回の聖杯にも問題があるだろ?」

 

「それで聖杯戦争をやめるの?」

 

「やめなくても良いけど、苦労して勝ち取った聖杯が欠陥品で使えないなら意味が無いだろ。それに、本当は50年後に始まる予定だった聖杯戦争なんだから聖杯が使える様になるまで待っても問題無いだろ」

 

「そうね。聖杯が壊れていたら意味が無いわね」

 

「そこで、イリヤも聖杯を管理している教会に聖杯の調査する様に言って欲しいんだ。それと聖杯が壊れた理由に心当たりが無いか家の人に聞いてみて欲しい」

 

 突然の話でイリヤも困惑する。確かに折角の聖杯も欠陥品なら意味が無い。

 

「直ぐに返事が出来ないのは当たり前だよ。イリヤも帰ってから家の人に相談すればいいよ」

 

「分かったわ。帰って相談してみる」

 

「それと、他にもイリヤに頼みが有るんだけど」

 

「何?」

 

 士郎は恥ずかしそうにイリヤの耳に囁く。

 

「別にいいわよ」

 

 イリヤは笑いを堪えて了承する。

 

「バーサーカー。シロウを肩に乗せてあげて」

 

 それまで、黙っていた凛と2体のサーヴァントは呆れるのであった。

 

「な、何を考えているのよ!」

 

 凛の怒りを含んだ声はバーサーカーの肩に乗った士郎には聞こえなかった。

 

「うわ。高い!」

 

 士郎は能天気に喜んでいる。反対側の肩に乗っているイリヤは士郎の反応に気分を良くしている。

 

「いいでしょう。私のバーサーカーは!」

 

「有り難う。貴重な体験が出来たよ」

 

 イリヤは士郎に休戦と聖杯の調査を本国に打診する事を約束して帰った。

 その後、士郎とセイバーは凛の家に寄り作戦会議を開く事にした。

 

「しかし、君も大した度胸だ」

 

 アーチャーも士郎のバーサーカーの肩に乗る事を要求した士郎に感心をしていた。

 

「まあ。イリヤの機嫌をとる事が出来たから良かっただろ」

 

「そうな物か?」

 

「しかし、この紅茶、美味しいね」

 

「淹れた方にコツが有るのだ」

 

 士郎はアーチャーが淹れた紅茶を飲みながら凛とセイバーを待っている。

 士郎が紅茶を飲み終えた頃に凛とセイバーが部屋に戻って来た。

 

「お待たせ」

 

 部屋に入って来たセイバーは青のドレスではなく白のブラウスに青いロングスカート姿である。

 

「うわぁ。凄く似合っているよ!」

 

 士郎が感嘆の声を出す。

 

「どう。私のコーディネートも捨てた物じゃないないでしょう」

 

「凛には感謝を」

 

「有り難う御座います。遠坂先輩」

 

(幽霊って、着替える事が出来たのか)

 

 凛が知れば1時間は説教されそうな事を考えた士郎であった。

 

「それで、アインツベルンは直ぐに攻撃を仕掛ける事は無いと思うけど、警戒は必要ね」

 

 凛が自宅に招いた本題を口にした。

 

「セイバーとアーチャーの2人掛りでも勝てないの」

 

「無理ね。あのサーヴァントの正体はヘラクレスね。古さといい知名度といい残念ながらセイバーとアーチャーでは太刀打ちが出来ない。更にマスターも桁違いの魔力を持っている」

 

「サーヴァントとマスター共に最強レベルなのか」

 

「そこで、衛宮君に提案が有るの」

 

「提案?」

 

「そう。アインツベルン正式に味方になるまでの間は衛宮君の家で下宿させて欲しいの」

 

「下宿って!」

 

「衛宮君と一緒に居た方がアインツベルンに襲われた時に対処しやすいでしょう。それに衛宮君の家なら天井が低いからバーサーカーが家の中に入りにくいわ」

 

 凛の言う事に間違いが無いが士郎も思春期の男子である。桜一筋とは言え、凛の様に美少女と一緒に暮らすのは問題がある。

 最大の問題は桜である。桜に変な誤解をされても困るのである。

 

「士郎。凛の申し出を受けるべきです」

 

 戦いの専門家のセイバーも凛を支持する。

 

「分かった。今日は遅いから明日の放課後でいいかな?」

 

「私も色々と準備があるから明日の放課後が都合がいいわ」

 

 その後、士郎は凛と細かい打ち合わせをして遠坂邸を辞去した。

 帰宅するとセイバーに布団を敷いて貰う間に風呂の準備とセイバー用の寝間着を用意する。

 セイバーには悪いが先に風呂に入るとセイバーが入って来た。

 

「あんた何を考えているんだ!」

 

「私は女である前にサーヴァントです。要らぬ気遣いは無用です」

 

「そっちが良くても、こっちが困る!」

 

「しかし、既に浴場に入ってしまいました」

 

 結局、セイバーに背中を流して貰い先に風呂がら出る士郎であった。

 

「もう。僕も子供じゃないのに!」

 

 文句を言いながら寝室に行き布団に入ると、風呂から上がったセイバーが布団に入って来た。

 

「あら、隣の部屋に布団を敷いたんじゃないの?」

 

「隣の部屋ではアサシンのサーヴァントに対応が出来ません」

 

「そう。朝、桜先輩が来る前には隠れてね」

 

「承知しました」

 

 士郎は布団の中でセイバーに向き直ると、そのままセイバーに抱き付く。

 

「士郎。どうしたのですか?」

 

「ごめんね。昔から一度でいいから、こうして寝てみたかった」

 

 セイバーは士郎を抱きしめた。まだ、甘えたい年齢である。

 幼い時に実の両親を亡くし養父も亡くした士郎は誰か女性に甘えてみたかったのであろう。

 実の息子にも王として扱い親らしい事をしなかった事に後悔の念があるセイバーは僅かな時間だけでも母親代わりになる事を決めた。

 しかし、不思議な年頃だと思うセイバーであった。 一緒に入浴すれば女性の裸に興味を示す訳でなく自身の裸を恥ずかしがり、一緒の夜具に寝れば甘えてくる。

 市井の士郎でさえ理解が出来ない自分が王として息子に叛かれたのも当然だと思った。

 セイバーは聖杯戦争と関係無く士郎を守りたいと思った。

 セイバーは知らなかったが士郎は中学校入学直前まで大河と一緒に入浴していたのである。

 士郎にしたら女性の裸に免疫というより、肉体年齢的には士郎と変わらぬセイバーの裸などは興味がなかったのである。

 率直に言えば士郎は貧乳には興味がなかっただけである。

 知らぬが仏の言葉の見本である。

 

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