桜と士郎   作:周小荒

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交渉と絆

 

 間桐慎二は不本意の最中に居た。

 ライダーと妹を誑かす衛宮士郎を始末する筈がライダーが戦意を喪失して泣き出したのである。

 貴重な令呪を使って衛宮士郎を亡き者にするべきか迷っている間に遠坂凛とアーチャーの主従に拉致されてしまったのである。

 

「まさかね。あんな単純な策に掛かるとは」

 

 遠坂邸の地下に連行された慎二を囲んで士郎は呆れた様子である。

 霊体化したアーチャーに発見されて手にした魔道書を取り上げられたのである。

 取り敢えず気絶させて遠坂邸まで運んだのである。

 因みに新都の通り魔も魔道書を片手にしたら凛がライダーに白状させている。

 

「じゃあ、学校の魔方陣も貴女の仕業ね」

 

「はい。慎二に命令されました」

 

「遠坂先輩。どうします?」

 

「聖杯戦争に参加したからには、慎二も覚悟が出来ているでしょう」

 

「セイバー。苦しまない様に介錯をしてあげなさい」

 

「了解しました。マスター!」

 

 セイバーが透明な剣を大上段に構える。

 

「あっ、待った。海で溺死させたら事故という事で保険金が貰えるんじゃないの?」

 

「どうなのかしら?」

 

 完全に凛と士郎は玩具にしている。

 

「保険金は別にして警察が動くと面倒よ」

 

「じゃあ、ライダーに頭から食べて貰うのは?」

 

「命令とあれば!」

 

 ライダーは凛と士郎に加担する気は無く真面目に返答をしているだけである。

 

(凛。その辺にしておけ)

 

 流石に同情したアーチャーが凛を諌める。

 

「分かったわよ」

 

 凛は霊体化しているアーチャーに返事をすると慎二にガンドを打ち込む。

 

「じゃあ。ライダー。慎二が死なない様に見張っていてね」

 

 遠坂邸の地下に慎二を放置すると一行は衛宮邸に戻るのである。

 

「実際はどうします?」

 

 士郎が凛に慎二の処分を質問する。士郎としては桜との仲を邪魔する慎二を闇に葬っても構わないと思っている。

 

「慎二だと間桐との取引材料にもならないでしょうね」

 

「足の一本でも折って河原に捨てて置くしかないか」

 

「そうね。そうしましょうか」

 

 慎二の処遇が決まると凛も士郎も若い肉体が栄養を求めるのであった。

 

「今日は簡単にカレーにしましょうか」

 

「セイバー、帰ったら土蔵から鍋を出すのを手伝って!」

 

「心得ました」

 

 凛達が衛宮邸に帰り着くと同時に戦場と化した。呪刻の消却と慎二の拘束に時間を取られた為である。

 

「アーチャーは玉葱のみじん切りを頼むわ!」

 

「了解した。ジャガイモと人参も任せて貰うぞ」

 

「じゃあ。セイバーは土蔵から鍋を出すのを手伝ってくれ」

 

 凛が中華鍋で玉葱のみじん切りを炒める間にアーチャーがジャガイモと人参を切り電子レンジで火を通す。

 炒めた玉葱とジャガイモと人参を土蔵から出した大鍋に入れて電気ポットのお湯と前日に作り置きした返しを加える。

 その間に合挽きミンチを中華鍋で炒めてから大鍋に投入する。

 浮き出たアクを丁寧に取るとニンニクと生姜を加えてから隠し味としてインスタントコーヒー投入して火を止める。

 仕上げに市販のカレールーを入れて出来上りである。

 その間にアーチャーと士郎でキャベツと大根を千切りにしてサラダを作る。

 

「出来ればスパイスを足したかったが残念だ」

 

 辛いのが苦手な士郎としたら時間が無くて幸運であった。

 そして、辛い物が苦手なのは士郎だけじゃなく桜と大河も苦手であった。

 

「これのカレーは遠坂さんの作品ね」

 

「流石、先生。分かります」

 

「そりゃ、士郎は辛いのが苦手だからね。何時もは甘口か中辛だもん」

 

「先輩は辛いのは大丈夫なんですか?」

 

「私は普通だと思うけど」

 

「間桐さんは辛いのは駄目なの?」

 

「うちはお祖父ちゃんがいますから」

 

「そうだ。桜先輩。今度、桜先輩のお祖父ちゃんに、昔の冬木市の話を聞かせて貰いに行っていいですか?」

 

「今日、帰ったらお祖父ちゃんに聞いておくわね」

 

「お願いします」

 

 大河と桜が帰った後に士郎達は遠坂邸に電話して向かったのである。

 互いに自分のサーヴァントの背に乗り移動した。

 

「まあ。この聖杯戦争は誰も得をしないですからね。間桐も協力はすると思いますよ」

 

「確かに、そうだけど」

 

「明日にも間桐先輩は熨斗をつけて返品しても問題ないでしょう」

 

 完全に慎二を物扱いする士郎である。

 

「それに、一応は彼方の顔を立てないと平和的に話が出来ないでしょう。ランサーもアインツベルンも連絡が無いままです。地元の人間だけでも結束しないと、他の土地の人間は10年前と同じ事が起きても他人事ですから」

 

 冬木市の管理者の凛としては10年前の惨劇は絶対に回避するべき事項である。

 その意味では士郎は信用が出来る貴重な味方なのだ。

 

「そうね。間桐も10年前の大火を繰り返すのは困るでしょうね」

 

 遠坂も間桐も冬木市内に複数の不動産を所持している。大火が再び起これば家が傾く事になるのだ。

 

「それより、衛宮君」

 

「はい。何でしょう」

 

「今朝、セイバーに聞いたけど、貴方とセイバーは、まだラインが繋がってないらしいわね」

 

「すいません。ラインって何ですか?」

 

 全員が士郎の発言に驚愕したのである。

 

「衛宮君。そんな事も知らなかったの!」

 

「こんな素人に敗北するとは」

 

「これは、迂闊でした」

 

 それぞれが士郎の素人ぶりに落胆するのであった。

 

「ラインとはマスターからサーヴァントに魔力を送る線の事よ。まあ。ラインを繋ぐ方法はあるから後で繋ぎましょう」

 

「お願いします」

 

「それじゃ、柳洞寺のサーヴァントの件ね」

 

「はい。柳洞寺には2体のサーヴァントが居ます。門前にアサシン。寺の中にはキャスターが籠城してます」

 

 ライダーの報告では柳洞寺には結界が張ってあり山門しか入り口が無いとの事であった。

 

「しかし、籠城って、他からの味方が来るまでの作戦だろ。何処から味方が来るんだよ」

 

 士郎が当然の疑問を出す。

 

「恐らくは、新都のガス漏れ事故はキャスター仕業たろ」

 

 アーチャーが実体化して会議に加わる。

 

「サーヴァントがガス漏れを起こして何の得が有るのさ」

 

 士郎にしたらガス漏れと籠城との接点が無い様に見える。

 

「衛宮君には分からないと思うけど、ガス漏れに見せ掛けて魔力を奪っているのよ」

 

「じゃあ。魔力を貯金しているのか」

 

「そうよ。私達が共倒れして数が減った頃に討って出るつもりなんでしょう」

 

「直ぐにでも攻め入るべきです!」

 

 セイバーの主張は凛に却下された。

 

「駄目よ。罠を仕掛けて待っている中に飛び込むのは危険だわ」

 

「しかし、凛。無辜の人々に被害を出すのは、この地の管理者たる凛には許せない事の筈!」

 

「まあまあ。セイバー。今回の聖杯には問題があるんだから。キャスターにも先に話してみればいいじゃん」

 

 セイバーを宥めると士郎はライダーにランサーの事も聞く。

 

「残念ながら、聖杯に召喚されてからランサーとは遭遇していません」

 

「バーサーカーも?」

 

「はい。アサシンは山門の門番をしているのは確認しています」

 

「ランサーは行方不明のままか。壊れた聖杯の為に戦争を続けるつもりかな?」

 

 士郎はランサーを解放した事を後悔しだした。

 

(待てよ。壊れた聖杯に燃料を入れたら危ないよなあ。ランサーの動きも無いので情勢を見ているだけかもな)

 

「取り敢えず。近い内に私と衛宮君とで柳洞寺に行ってみるわ。その前に衛宮君とセイバーのラインを繋げないと」

 

「はい、お願いします」

 

「それじゃ。セイバー」

 

 凛の合図と共にセイバーが士郎の前に進み出ると士郎の両肩をガッチリ掴む。

 

「ちょっと、セイバー?」

 

 そのまま、セイバーは士郎の唇を奪うと片手を首に巻き付け、反対の手を士郎の腰に回す。

 サーヴァントの膂力に抗える筈も無く士郎はセイバーにされるがままである。

 セイバーに指示を出した凛も所詮は思春期の少女である。少年が年上の少女に無理矢理に唇を奪われる場面を見て頬を染めていた。

 

「セイバーも上手では有りませんか」

 

 ライダーは冷静に論評している。士郎にしたら慎二の意識が無いのが救いである。

 数分が経過してからセイバーから解放された士郎の顔は耳まで真っ赤になって、その場に座り込んでしまった。

 

「その、衛宮君。大丈夫?」

 

 凛が心配して声を掛けると士郎が猛烈に抗議を始めた。

 

「あんた、セイバーに何を吹き込むんだ!」

 

「その、最も手軽で確実なラインの繋ぎ方なんだけど」

 

「それなら、先に言えよ。心の準備が必要なのに!」

 

「まあまあ。セイバーはサーヴァントだからノーカンという事で、私達も絶対に口外しないからね」

 

「そんなの当たり前です!」

 

「士郎を傷付けたなら謝罪します」

 

 セイバーに謝れると再び顔を真っ赤にする士郎であった。

 

「セイバーなら別にいいけど、僕がセイバーのマスターなんだから、これからは僕に相談してよね」

 

「はい。私が軽率でした」

 

「それから、この事は秘密だからね。特に桜先輩に絶対に秘密だからね」

 

 士郎の桜に対する丸分かりの心情が微笑ましいのだが口にする事は勿論、表情にも出さない女性陣であった。

 

「ところでセイバー。ラインは繋がったの?」

 

 凛が露骨に話を逸らしにきたが士郎も黙っている。

 

「はい。細いながら繋がっています」

 

「そう。細いの。衛宮君。もう一度してみる?」

 

 純情な年下の少年を見ていて、からかいたくなる凛であった。

 

「私は一向に構いません!」

 

 更にセイバーが追い打ちを掛ける。

 

「様子を見て必要ならすればいいだろ!」

 

「そうですか。それは残念です」

 

 セイバーの意外な発言に思わず顔を見直す凛と士郎であった。

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