同刻 帝国議会 審理席
「議長、宜しいでしょうか?」
その声で、本郷は相手の胸ぐら数センチのところで手を止め…、たところで背中の裾を思いっきり引っ張られ座らせられた。
突然のことに本郷は思いっきり背中を打ちつけ、「痛たた…。」と背中をさすり呻きながら引っ張った同僚の顔を恨めしそうに見る。
「頭は冷えたか?」
が、当の本人からは、その一言だけである。
「…。まあな。」
本当は恨み言の一つでも言ってやろうかと思ったが、不毛なだけなのでやめておく。ただし、不満げな表情は崩さなかった。
「そうか。」
が、同僚は本郷のその表情を見ても、顔色一つ変えず一言答えるだけである。コイツ…!と思ったが彼の視線はもう本郷には向いていない。本郷はため息をついて自分も議員席へ視線を移す。
議場には189人の議員と各局の代表者がいるが、発言者は起立していたので見つけるのに苦労しなかった。
若い。議員の平均年齢が30代後半前後と言われているが、彼は20代後半のようだ。名は日高というらしい。頭の切れそうなやつだった。
マイクを受け取った日高は、議員達に向けて一礼するとマイクのスイッチをいれる。
「議長。このまま審理を延ばすことに自分は甚だ疑問を感じます。」
そして彼から放たれる言葉は、本郷達にとって思わしくないものになりそうだった。
「既に予定されていた時間を2時間も超えています。他の審理もあるので財務局と国防省で決められないのであれば、議会の採決によって決めるべきであると思いますが?」
嫌なことを言ってくれる。と、本郷は忌々しげに口を歪める。投票になればほぼ確実に否決されてしまうだろう。
それだけはなんとしても阻止せねばならない。望みがあるとすれば、
(多くの議員がこの議題を議会の採決によって片付けることを望んでいない。ということか。)
本郷がそう考えた直後、
「日高くん、それは些か早計に過ぎると思うがね?」
議場の前の方に居た議員から早速反論の声が上がった。
声のした方に目を向けてみると、こっちは50代くらいの白髪混じりの髪の議員が居た。
たしか名前は土肥重蔵。見た目は50代中盤くらいだが、年齢は71歳。議員歴30年を超えるベテランだ。
議会の陰の実力者とも言われている大物である。
「と、言いますと?」
普通の若手議員なら萎縮してしまいそうな相手だが、日高は顔色一つ変えない。
そして土肥も、顔に余裕の笑みを浮かべている。
「この問題は、国の存亡をかけたものだ。専門家たる担当省局でお互いに、双方納得できるところまで議論をを深めていくべきだろう。」
「つまり、議会には決める勇気がないのですね。立法を司る、民意の代弁者たる議会が、本当に民意の通りに決められる自信がないと、そういうことですね。」
「そうは言ってないだろう?」
「事実、そうじゃないですか。いままで議会が単独での採決を見送った議案のほとんが国民の批判が多かったものばかりです。」
「それは仕方なかろう。国を左右する重要事項ともなれば、批判するものも多くなる。それこそ喜ばしいことではないかね?批判するものが多いいうことは国民一人一人が、真剣に我が国について考えているということだろう?」
「そうですか。自分には国民の批判を逸らそうとしているようにしか見えませんが。」
「…。結局、君は何が言いたいのかね?議会の批判をしたいのならもっと別のところに行くのをお薦めするよ。」
嘲笑するように言ったあと土肥は、ゆっくりと振り返って日高を見つめる。恐らく睨み付けているのだろう。
「…。そうですね。私の言いたいことはこんなことではありません。」
一応、舌槍を納めた形の日高だが、別に土肥の眼光に戦いたわけじゃ無いのは明らかだ。あの男に睨み付けられて、涼しい顔をしている若手議員を本郷は初めて見た。
「さて…。議長。改めてになりますが宜しいでしょうか?」
「構いませんよ日高議員。」
「…では。私は今でもこの議題に関しては議会の採決によって決められるべきだと思っています。しかし、先程の通り、議会にその能力がないのであれば、議会の採決に委ねるわけにはいきません。」
議場の雰囲気が一瞬ピリッとしたものになったが、日高は意にも貸さない。
「であるのなら、私は…。」
何故か日高は言い淀んだ。…様に見えた。一体どんなことを言うんだろうなと、本郷は少し楽しみにしていた。この後彼の口から飛び出す新生大日本帝国の現状をひっくり返す言葉が出るとは夢にも思わずに。
次は早めに出す予定です。早くプロローグを終わらせないと…。