完成したので投稿いたします。
どうぞお楽しみください。
階段を下りてきた真由美は、開口一番にこう言った。
「‥‥‥‥ここ、風紀委員会本部よね」
「いきなりご挨拶だな」
「だってどうしちゃったのよ、摩利。リンちゃんがいくら注意しても、あーちゃんがいくらお願いしても、全然片づけようとしなかったのに」
そのセリフに摩利が噛みつく。
「事実に反する中傷は断固抗議するぞ、真由美!片づけなかったんじゃない、片付かなかったんだ!」
「女の子としては、そっちの方がどうかと思うんだけど」
的確過ぎる真由美の指摘に、摩利はとっさに顔を
「別にいいけどね‥‥‥‥ああ、さっそく役に立ってくれてる訳か」
固定端末のハッチを開いて中をのぞき込んでいる達也の姿を見て、真由美は納得顔で頷いた。
「そういうことです」
と、ハッチを閉じて達也が振り向いた。
「委員長、点検が終わりました。もう問題ないはずです」
「ご苦労だったな」
「ふーん‥‥‥‥摩利を委員長って呼んでいるということは、スカウトに成功したのね」
「最初から俺に拒否権はなかったような気がしますが‥‥‥‥」
人の悪い笑みを浮かべている真由美を見ようともせず、達也は投げやりな声で答える。
その態度が気に入らなかったようで、真由美は抗議の声を上げた。
「達也君、おねーさんに対する態度が少しぞんざいじゃない?」
言い方もそうだが、まるで子供が
何から何までわざとらしすぎる。
‥‥‥‥とりあえず達也が彼女に言いたかったのは、自分に姉はいないということだった。
どうも摩利といい真由美といい、この二人には正面から挑んでも勝ち目は薄そうだ、と達也は思った。
真由美が降りてきたのは、今日はもうすぐ生徒会室を閉めることを伝えるためだった。
入学式が終わったばかりで忙しかったのが、ようやく一段落したらしい。
彼女は手を振って、生徒会室へ引き揚げていった。
本格的な活動は明日からということで、達也と摩利の間でもこれで切り上げよう、という話になった。
そこにちょうどタイミング良くか悪くか、二人の男子生徒が入ってくる。
「ハヨーッス」
「おはようございます!」
威勢のいい掛け声が部屋に響く。
「おっ、
ここはどこでいつの時代だ、と達也は思った。
背の高さはそれほどではないものの、やけに身体中がゴツゴツした短髪の男が、とても板についた口調で「姉御」と呼んだその相手は――
(渡辺先輩のことなんだろうな‥‥‥‥)
当の本人を見ると、微妙に恥ずかしそうだった。
彼女が少しでもまともな神経を持っていたことに、場違いな安堵を感じる。
「委員長、本日の巡回、完了しました!違反者、摘発者、ともにありません!」
もう一人の方は比較的普通だが、とにかくやたら威勢がいい。
「‥‥‥‥もしかしてこの部屋、姉御が片づけたんで?」
散々整理整頓された室内を
その行く手に摩利が立ちはだかった、と見るや――
「ってぇ!」
スパァン!という小気味いい音とともに、男が頭を押さえてうずくまっている。
摩利が素手で思い切り叩いたのだ。
「姉御って言うな!何度言ったら分かるんだ!」
「そんなにポンポン叩かねえでくださいよ、姉‥‥‥‥いえ、委員長。ところで、そいつは?新入りですかい?」
それほど痛がっている様子もなく、男子生徒がぼやいた。しかし、凄みのある視線を向けられて慌てて肩書きを取り替える。
「そうだ。こいつは一年E組の司波達也。生徒会枠でウチに入ることになった」
「へぇ、
男子生徒は興味深げに達也のブレザーを眺め、次に達也の身体つきを見回した。
「
もう一人の男子生徒も、そう言いながら値踏みするような態度を注意しようとはしない。彼自身、値踏みするような視線を達也に向けていた。
「お前たち、そんな単純な
だが、からかうように摩利から告げられた事実に、二人の表情は急に
まじまじと見られて居心地悪いことこの上なかったが、相手はどうやら風紀委員会の先輩だ。ここは我慢する以外の選択肢はない。
「そいつは心強え」
「逸材ですね、委員長」
拍子抜けするほど簡単に、二人は見る目を変えた。
「意外だろ?」
あまりに
「この学校は、ブルームだウィードだとそんなくだらない肩書きにこだわるヤツらばかりだ。正直言ってうんざりしていたんだよ、あたしは。幸い、真由美も十文字もあたしがこんな性格だって知ってるから、比較的そういう意識の少ないヤツを選んでくれている。残念ながら、教職員枠までそんなヤツばかりとはいかなかったが、ここは君にとっても居心地の悪くない場所だと思うよ」
「三ーCの辰巳
「二ーDの
鋼太郎、沢木が、次々と握手を求めてくる。二人が最初値踏みしていたのは、達也の実力の有無だったのだ。
確かに少し、意外に感じた。そして確かに、悪くない空気だった。
挨拶を返し、沢木の手を握り返す。が、なぜか手が離れない。
「十文字さんというのは、課外活動連合会、通称部活連代表の十文字会頭のことだ」
これを教えてくれるためだろうか?しかしそれなら、もう手を放してもよさそうなものだ。
「それから自分のことは、沢木と呼んでくれ。くれぐれも、名前で呼ばないでくれたまえよ」
手にかかる圧力が、達也の意識を現実に引き戻す。
この学校は魔法だけではなく、他の面でも優秀な生徒が集まっているようだ。
そしてどうやらこれは、警告のつもりらしい。
「心得ました」
そう言いながら右手を細かくねじり、握られた手をほどく。
達也の見せた体術に、沢木本人よりも鋼太郎の方が驚いた顔をしていた。
「ほう、大したもんじゃねえか。沢木の握力は百キロ近いってのによ」
「‥‥‥‥魔法師の体力じゃありませんね」
自分のことを棚にあげて、達也は軽口を叩いた。
少なくともこの二人とは、うまくやっていけそうな気がしていた。