ファインダーの中の君   作:しゃもじん

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ホノカチャン.....は別作品だ。朋花ちゃんかわいいね。


第三話

 それからは階段を見つけてなんとか土手の上へと戻れた。強打したところは多少あざになって痛かったが、それ以上にあの木賊の泣き顔が脳裏に残って離れない。あんな顔されたら、俺も悲しくなるじゃないか。あの元気な木賊があれだけしょんぼりしているのを見たのは初めてだった。その後はお互いにバツが悪かったのもあって、すぐに別れて家へと帰った。それから晩飯と風呂を済ませた後も体は痛かったが、それ以上に木賊にあんな顔をさせてしまった自責の念に押しつぶされそうで、寝られそうにない。

 

「心配したのに泣かれたら、何して良いのかわかんねぇよ……」

 

 痛む背中をかばうために、珍しく横向きで毛布を被って寝る。幸い、今日のあの落下事故については今の所誰にも気付かれていなさそうだ。きっと佐奈に言ったら大げさなぐらいに心配することは見えているし、卯ノ花に言っても余計な不安を煽るだけになる。

 意識が遠のき、そのたびに姿勢が崩れて背中の痛みに目を覚まさせられる。折れてはいないだろうが、この様子だと3日ぐらいはこの痛みに耐え続ける必要はありそうだ。擦りむいているわけではないから、湿布でも貼ってごまかせるだろうか。

 

「……っ、痛っ。ってあれ」

 

 家に帰ってから着替えるときに出して、そのままにしていた携帯に通知が来ていた。不在着信が2件と、あとはメールだ。発信元は言うまでもなく。律儀に家に帰ってからも連絡をするなんて、むしろ巻き込んだ側の俺からしたら申し訳無さもあるぐらいだというのに。

 

「こりゃ、明日学校行ったらいの一番に謝らないとな」

 

 メールの文面は、怪我を心配する内容と、あとはかばってくれたことへのお礼。気付いたのがもう深夜だったから、返信するのはためらわれる。こればかりは気付かなかった俺が悪いのもあるので、明日学校に行ったら返信遅れについては謝る必要がありそうだ。ただ、正直気が向かない。

 

 

 

 痛みと睡魔の勝負がいつまで続いたかは覚えていないが、このとてつもない眠気から推測するに相当長い戦いだったらしい。最近は自発的に目が覚めることが多かったのに、今日は卯ノ花に無理やり起こされるまで起きることは出来なかった。

 

「こら、ハルキ。早う起きんか!」

「んんっ……あと15分」

「後15分も寝たら遅刻じゃ間抜けが」

「それじゃ今日は学校行かない……」

「いい加減にせいっ!」

 

 しっかり手のひらを開き、スナップを効かせて打ち込まれた平手打ちは背中に命中した。普段なら目が覚める程度で済むその叩打に、見事なまでに昨日の傷をえぐられた俺はベッドの上で暴れ、そしてうつ伏せになり沈黙する他なかった。

 

「ちょっと、大丈夫かハルキ。お主、もしや背中を怪我しておったのか」

「昨日ちょっと落っこちて……ちょっと動けそうにないから飯はなしでいいや。佐奈に伝えといて」

「まったく、妾がいるというのに誤魔化そうとは……つくづく、お主は馬鹿じゃな。とはいえ、気付けぬ妾も妾じゃな。ほれ、ちょっと背中を借りるぞ」

 

 少し念じて見せてから、背中にやんわりと熱がこもっていく。動かすのすら億劫だった痛みは徐々にとれて、気付いたら体が軽くなっていた。これが神の力か……と素直に感心しつつも、そもそも追い打ちをかけなければここまでにならなかったのでは、という余計な言葉は飲み込んだ。

 

「ほれ、これでよくなったじゃろ。おまけで肩こり解消もつけておいたぞ」

「マッサージ屋かなにかかよ。ともかくありがとう」

「気にするな。ハルキの怪我は妾のミスでもあるからな」

 

 痛みはとれたが、つまりはこれで学校に行かない口実はなくなった。気は進まないがリビングに向かい、いつもどおりの朝食を済ます。できる限りそういう雰囲気を悟られないように過ごしてはいるものの、心なしか朝食に時間がかかってしまった。

 

「兄さん、体調でも悪いんですか」

「大丈夫だ、それより食器はどこに置いておけばいい?」

「机の上で大丈夫です、あまり無理はしないでくださいね」

「無理はしてないが……まぁ気をつける」

 

 食事を済ませてから、さっさと着替えて家を出る。普段通り校門をくぐり、教室へと向かうとまだ人はまばらだった。木賊は……席にカバンがあるから、もう来ているみたいだ。おそらく新聞部の朝練取材にでも行ってるのだろう。

 

「おはよ、ハル」

「おはよう。そういえば木賊は見てない?」

「うーん、さっき確かグラウンドに居たと思うけど、どうしたの?」

「いや、ちょっとね」

 

 葵に事の顛末を説明することも一瞬考えたが、赤の他人を巻き込むものでもない。とりあえずは無難に言い逃れて木賊が来るのを待つことにした。

 

「あっ……おはよう」

「おはよう、昨日は携帯置きっぱで気付かなかった、ごめん」

「良いよ良いよ、それより、怪我はない?」

「大丈夫。そっちも怪我とかしてない?」

「ボクは大丈夫だよ、これからは気をつけるね」

 

 ぎこちないが、とりあえずメールを無視したことについては謝ることができた。それに、木賊も別段気にしている様子じゃなかった。だが、なにか妙な違和感がつきまとう。決して悪い印象を持たれているような感じはしないが、それでも何故か、妙な目線や間を置かれているようで。まるで誰か周りの目を気にしているかのような雰囲気だ。

 

「おっと、もうチャイムなるからまたね」

「おう、またな」

 

 適切な言葉が思いつくよりも早くチャイムが鳴り、お互い席に戻る。しかし、その後も目線を感じ続けるものだから、その日は一日集中できそうになかった。目線の主は、言うまでもなく。決して悪意は感じないが、それでもやはり見られ続けるというのはあのときと同じく、落ち着けるわけがなかった。

 

「おい千歳、さっきからどうしたんだ?」

「いや、なんでもないんだけど、今日だけはちょっと別のところで飯にしようと思って」

「ふーん、まぁいいけど。屋上でいいか? 俺は先にパン買ってくるわ」

「わかった、先行っておく」

 

 流石にこんなに落ち着かない教室にいられるわけもなく、屋上で東雲と飯を済ませることにした。教室を出るときも、やはり目線が気になって仕方ないとはいえ、今ここでその理由をきいてもまともに答えてくれるわけはないだろう。

 

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