ファインダーの中の君   作:しゃもじん

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人物が写った写真を撮るのが好きという朋花の話ですが、元はと言えば私がそういう趣味だから、という。
風景を撮るのも楽しいですが、スポーツだったりイベントだったり、そういう場面で人が何かをしている様子を撮るのが楽しいんですよね。
おかげで趣味として散歩しつつカメラを撮ろうにも、撮りたい対象が少なくて悲しい思いをしております。


第六話

 そして当日、学校が終わって予定の場所に向かうと、すでに木賊はカメラを抱えて待っていた。同じ時間に学校が終わって、同じタイミングで出てきたとは思えないほど素早い行動だ。あるいは天罰の影響で遅れた……ということは敢えて考えないことにした。

 

「ごめん、待たせた」

「大丈夫、ボクもさっきついたばっかりだから……って、同じクラスなんだからそんなに着く時間は変わらないって」

「まぁ、それもそうか」

 

 同じクラスなんだからここまで一緒に行けばいいのに、というのも考えはしたが、なぜか木賊に強硬なまでに否定されてしまった。理由はまともに教えてくれなかったが、無理強いすることではない。

 

「それで、被写体になってと言われても何をすれば良いのか」

「うーんとね、とりあえず前みたいに道を歩いているだけで良いよ。それをボクは色んな角度から撮る。ね、簡単でしょ」

「簡単って、撮られ慣れてないから結構緊張するんだがな」

 

 結局、言われたとおりに普段の散歩みたく道を歩くことにした。卯ノ花にしっかりと天罰を吸っておいてもらったおかげか、普段よりストレスフリーな散歩ができたのは言うまでもない。ただ一点、横でせわしなくシャッター音が鳴り響くこと以外は。

 

「あの、木賊?」

「どうしたの?」

「俺なんか撮ってて楽しいのか? もっと、それこそ葵とかのほうが画として栄えそうな気もするけど」

「まぁ、確かにそうかもね」

 

 そこで言葉は途切れた。そう思っているなら葵を呼んだほうが良かったんじゃないのか、なんて言いたくもなったが、そもそもこれはカメラを勝手に触ったことのお詫びだった。つまり、俺に拒否権はない。

 

「ふぅ……ちょっと疲れたし、休憩しよっか。この近所に喫茶店があるんだ、そこで良い?」

「良いよ、手持ちが足りるかちょっと不安だけど」

「そこは大丈夫。コーヒーぐらいならボクが出すから」

 

 女の子に奢られる、というのは男としてどうなんだ。なんてことを少し思いもしたが、事実俺の懐は常時寂しい。こういうときに困るとは思っても見なかったが。

 

「そう言えば、普段新聞部ってどんなことを取材してるんだ?」

「うーん、色々。って言いたいところだけど、まぁ生徒会のことや、あとは部活動。他にはちょっとしたゴシップみたいなことも」

「俺はむしろ今まで、一番最後の活動しか聞いたことがなかったがな」

「ええっ、そんなはずないよ。ボクだって少しは真面目に取材してるんだから!」

「……ちなみに、そのゴシップって言うといわゆる色恋沙汰とかも含む?」

「そうだね! ここだけの話、先生同士でデキたって話も……。おっと、これはまだ非公開の情報だったかな」

 

 恐るべき情報網、さすが新聞部と感心すべきところなのだろうか。そう言えば、木賊はそういうのはないのだろうか。取材しているうちに対象に入れ込んで……ってのはたまに聞く話な気がするが。野球選手とかまさにそうだし。

 

「木賊はそういう話ってないの?」

「ボクは報道と結婚したからね!」

「エリザベス一世かよっ」

「あはは、よく知ってたね。それは冗談として、ボクはそういうのには興味ないかなぁ……」

 

 どこか遠くを見るような目で、そう言う木賊の表情はどこか物憂げだった。この前の転げ落ちた時の表情と同様、どういう意味があるのかやはりつかめない。ただ、そんな彼女の横顔を見てどこか胸の奥が痛む。前のあの泣きそうな顔を見たときに感じたものと同じだ。木賊のことを守りたい、そばに居たい。そのことをちゃんと口に出さないと、と思ったのもつかの間。すぐにその思いはためらいに変わってしまった。やはり、変なことは言わないほうがいいか。

 

「まぁ、ともかく。今日はありがとう、これはボクからのお礼」

「そもそもは俺のお詫びだったはずなのに、ありがとう」

「良いよ、ボクも千歳くんと話しながら写真が撮れて楽しかったし」

 

 満面の笑みでコーヒーを飲む彼女の様子に、少し胸が躍るような気持ちを覚える。さっき言いかけた言葉がまた喉までせり上がってきて、すんでのところで飲み込む。きっと一過性のものに違いない。これで勘違いして告白して、それでこっぴどく振られでもしようものならきっと立ち直れないだろう。

 

「ねぇ……もし良かったらさ、また付き合ってもらっていいかな。今日はいつも以上に写真を撮るのが楽しかったから」

「……良いけど、その前に一つ俺から言いたいことがある」

「うん? どうしたの」

 

 不思議そうに首をかしげる彼女。さっきの言葉で一気に決心がついた。また写真撮影に付き合ってほしい、と言われて飛び上がるほどに嬉しかった気持ちに嘘はない。それに、中途半端なまんまデートみたいなことをし続けるのは俺にとっても気になってしまう。それぐらいならここではっきりと言ってみるほうが良いに決まっている。

 

「木賊、俺。お前のことが好きだ」

「……それって、友達として、だよね」

「いや、そうじゃなくて」

「それなら、ボクは受けられない……かな。千歳くんにはもっと相応しい人が居るって。ボクなんかじゃないよ」

 

 頭をガツンと殴られたかのような衝撃が走る。もしかしなくても、これは俺の勇み足だったらしい。思えば、すべて俺の思い込みだったのかもしれない。彼女が見せたあの表情、さっきの顔、そしてこの態度、すべて友達として俺を見ていたがためのものだったのか。

 

「そうか……ごめん」

「千歳くんは謝らないでいいよ、それより、今度の海楽しみだね。皆の水着姿が見れるなんて、特に葵ちゃんのとか、凄そうだなぁ」

「あ、あぁ……そうだな」

 

 心なしか早口で、無理やり話題を変えてきた木賊だが、無理もない。俺も今、この場に居ることが正直苦しい。ただ、わざわざ海の話を持ち出してきたあたり、あくまで友達でいましょう、ということだろうか。不幸中の幸い、なのか。

 

「ごめん、そろそろ帰るね! それじゃまた明日」

「おう、また明日」

 

 また明日、か。振られた相手になんて言葉をかけるんだ。なんて言うのは完全に八つ当たりのそれだ。彼女とて、友達と思っていた俺から告白されて多少なりともびっくりしているだろうに。

 

「はぁ……」

 

 入り口で木賊が会計を済ませて、そして去っていく。一人取り残された店内で、泣くわけもいかず呆然とグラスの氷が溶けるのを眺めるほかなかった。

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい、兄さん。って、どうしたんですかその顔」

「聞かないでくれ、男にはこんな日もある」

「そうですか、晩ご飯はもうちょっと掛かりそうなの」

 

 孤独な帰路を進み、ようやく帰ってきた家で佐奈の出迎えを受ける。自室に戻って、制服も脱がずベッドの上に転がった瞬間、今日起きたことをすべて理解し泣き出しそうになってしまう。

 

「なんじゃ。もしや、お主フラレたのか」

「うるせぇ」

「そうか……いや、妾のほうこそすまなかった。まさか見立てが外れるとはな」

「見立て?」

「うむ……。前に話した時、どうも朋花はお主のことを好いておったようじゃったからな。きっと上手く行くとおもっとったが」

「……はい?」

「やはり、人の心は複雑怪奇じゃ。ともかく、今日のことは妾にも責任がある。改めてすまなかった」

 

 卯ノ花から伝えられた話を聞いて、更に追い打ちをかけられる。俺だけの思い込みでもなかったことを確認できた一方で、それでもなおダメだったという事実が重くのしかかり、視界が徐々にぼやけていく。卯ノ花を前に泣き顔を見せたくはなかったが、結局我慢できずひとしきり泣いた。ひたすら泣いて、泣いて、晩飯に呼ばれるまでずっとそれは続いた。

 




春樹が泣くのかどうか、ちょっとだけここは解釈が分かれそうな気はしますが、文字通りどうしようもない絶望を前に、泣くしかないって場面はあるんじゃないかなと。
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