ところどころ話が変わっている、のは物語の都合上なのでご了承を。
放課後、ヒメちゃんに呼び止められた。クラスで話す機会は幾度もあったけれど、2人きりで話すのは初めてだ。人もまばらな教室で2人、千歳くんはもう帰ったみたいで、葵ちゃんは確か今日はロビンで手伝いがあるとか言ってたっけ。
「さて、わざわざ呼び止めてすまぬな。あまり人の色恋沙汰に口を出すのもとは思っておったが……」
「ヒメちゃん、もしかして千歳くんから何か聞いているの?」
「ハルキはああ見えても口は堅い男じゃ。妾の予想や、あとはあやつの態度で勝手に想像しただけじゃよ。それに、朋花のその聞き方じゃと、まるで秘密があるようにしか聞こえぬぞ」
ハッと口を押さえる。すでに昼休みの時点でバレていたのかもしれないけれど、こういうところでヒメちゃんに色々看過されてしまっていたのかな。ともかく、できる限り動揺を見せないようにしつつ話を続ける。
「それで、ボクに何の用事?」
「うむ……お主はもっと自分本位で考えてみる必要がありそうじゃな」
「自分本位って、ボクはいつでも自分がしたいことをしているつもりだけど」
「普段のお主なら、な。こと恋愛のことになった瞬間、あれだけ遠慮をするようになるとは妾も驚きじゃ」
恋愛、か。最初に会ったときから只者ではないと思っていたヒメちゃんだけど、こう言うときに鋭く核心を突くあたりボクよりも新聞記者に向いているかもしれない。こうなると完全にペースを握られてしまう。
「そっか……やっぱりバレちゃうんだ」
「しかし、何故お主はそこまで遠慮する。お主とてハルキのことは好きなのじゃろ」
「そりゃ、そうなんだけど……」
千歳くんにはもっとふさわしい、葵ちゃんや佐奈ちゃんがいるから。なんていうのはきっと通用しないだろう。あくまで自分の心に正直になるならば、ヒメちゃんの言う通りだ。
「妾もあまり偉そうなことは言えぬが……。朋花はもっと自分に素直に生きるべきじゃな。人のことを気遣えることは素晴らしいが、それだけじゃお主が苦しいだけじゃ」
「……うん、わかった」
「ほう、いい顔になったのう。良い知らせを待っておるぞ。それではまたな」
ボクの答えを待たずして席を立つ。自分に素直に、か。一度自分で拒絶しちゃったけど、もし、もう一回チャンスがあったら……
それから、数日ほどして、海に行く日がやってきた。あれから学校で幾度となく顔を合わせ、話もしたがもう気にしていないようだった。少し寂しい気もしたが、こうでもしないと元の関係には戻れないということだろう。あくまで表面的には極めて冷静に、それでいて少し痛む胸を抑えながら毎日を過ごした。
「ハルキ、ちょっと良いか」
「どうした、アレはもう済ませただろ」
「それはそうなのじゃが……お主、結局これで良いのか?」
「これって、何が」
大きくため息をつく卯ノ花の言いたいことがまだ理解出来ていない。仮に、まだあのことを引きずっているとしたらあのクラスの様子を見てなさすぎでは。
「全く、このニブチンが……」
「いや、一度フラレたのは知ってるだろ」
「あのな。お主は一度フラれた程度で諦めがつくほど軽い男なのか?」
「それは……」
言われて考える、明確な拒絶を受けたとはいえ、まだ事あるごとに木賊を目で追ってしまう。さすがにメールとかは自重しているが、それでももっと話したい、なんて思ってしまうことはあった。
「まぁ、仮にお主がそんなに軽い男であったなら、妾から願い下げじゃがな」
「お前は木賊のなんなんだ」
「妾か? 妾はただの神じゃ。ともかく、お主がまだ諦め切れていないことはよくわかった。それに、お主はまだ嫌われたわけではないようじゃ」
「嫌われていないのはわかるけど、だったら何をしろと」
「まぁ、そこは妾にまかせておれ」
ただの神、か。いっそ縁結びの神様だったらここは神頼みとか言ってみたかもしれない。ただ、今から俺にできることなんてのは思いつくわけもなく。とにかく、今日はそのことを他の皆に悟られないように、そして迷惑をかけないようにしよう。
海についてからはびっくりするほどすぐに時間は経っていった。皆、思い思いに遊んでいるのを俺はパラソルの下で寝転びながら眺めるだけだ。一応、天罰はマシになっているはずとはいえ安全のためだ、ここで海に入ったり、そこで三人で遊んでいるビーチバレーに加わったりしたら何が起こるかわかったもんじゃない。
「ハルキ、ちょっと良いか」
「どうした、何の用事だ」
「そうじゃな……これはハルキにしか頼めぬことでな。さっき海に入ってサンオイルが落ちてしまったのじゃ」
そう言って卯ノ花がサンオイルのボトルを差し出し、うつ伏せで水着を脱ぎ始める。お世辞ではなく、誰が見てもスタイルが良い卯ノ花の背中が露わになって少し生唾を飲む。普段ならこの時、佐奈あたりが駆け寄ってきてツッコミを入れるところだが、どうやら近くにいないらしい。さっき常磐先輩と一緒に屋台へ行っていたようだし、まだ戻ってくる様子はない。
「こら、俺じゃなくてもっと別に頼める奴がいるだろ」
「だってー、妾はハルキになら傷物にされても構わぬから」
「いい加減にしないと本当にやるぞ」
「ほう、ハルキにそんな度胸があるのかの。それにさっきからそこで見ているやつも居るぞ」
「……えっ?」
言われて振り向くと、ビーチバレーをしていた4人がこっちを向いている。まぁ、こんないかがわしいシチュエーションを無視するわけもないか。
「あの、これは誤解でして」
「そうか……千歳。お前、幸せになれよ」
「だから違うっての!」
「ハル……イチャイチャするのは良いけど僕たちが見えないところで頼むよ」
「そうだよね、ハルももうそんなお年頃だよね」
「だから虎太郎に葵まで」
流石に本気だと思われてはいないだろうが、呆れた様子の三人とは違って、一人だけ明確に動揺した様子を見せる。この前自分でフッたのに、どうしてそんな顔をしているんだ。それに、俺もどうして諦めたはずなのに、こんなに気になるんだ。
「ほらハルキぃ、早くやってくれぬか」
「全く……。葵、もしよかったら卯ノ花にサンオイル塗ってやってくれないか」
「ハルはそれでいいの?」
「当たり前だろ、ただのからかいに決まってる」