ファインダーの中の君   作:しゃもじん

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第九話

 半ば強引に押し付けて、気分転換も兼ねて散歩に出かける。手元のポチ袋にはジュース一本分ほどのお金が入っているから、海でも見ながら飲もうか。自販機にお金を入れ、ボタンを押すとすぐにガコン、と小気味よい音とともにペットボトルが出てくる。近くの岩場に腰掛けて飲み始めると、すぐ近くで物音が聞こえた。

 

「……誰だ」

「あっ、ごめん。つけてたわけじゃないんだけど、一旦休憩になったからボクもジュース買おうかなって」

 

 今一番顔を合わせたくない相手がそこにはいた。ただ、様子がおかしい。自販機にお金を入れ、ボタンを押したのに全く反応する様子はなく、木賊も狼狽している。

 

「あれ、どうした?」

「この自販機、壊れてるみたい……」

 

 さっき俺が使ったときは正常に動いていたのに、結構運がない。あるいは俺の不運体質が自販機を壊したのか、ともかくそんなことを考えても仕方ないが、さてもう一本買い直してまた飲まれたら可哀想だ。

 

「これ、飲むか?」

「えっ、良いの」

「一本まるまる飲むと後で気持ち悪くなっちゃいそうだし。ほら」

「ありがとう、気が利くね」

 

 屈託のない笑顔で笑う木賊に、幾分か気持ちが楽になる。待てよ、今自然と渡してしまったが、そういえばすでに俺はそのボトルに口をつけて後だった。木賊は気にする様子もなく飲もうとするが、俺がじっと見てしまったおかげで、口につける寸前で止まる。

 

「千歳くん、やっぱり飲みたかった?」

「いや、そういうわけじゃなくて……。なんでもない」

「そ、そっか」

 

 渡したドリンクを一気に飲む木賊と、それを眺める俺。傍から見たらきわめて奇妙な雰囲気だろう。他の人が来たら何を言われるか、ましてや卯ノ花や、佐奈あたりがやってきたら……。そんな不安は杞憂に終わり、木賊は横に腰掛け、一つのボトルを回し飲みすることにした。

 

「千歳くん、今日は楽しかった?」

「こんなに大人数で海に行ったことはなかったから、楽しかったよ」

「そっか、それならよかった」

 

 本当のところは、この不運体質を恐れて海にすらあまり行ったことはなかったのだが、それは余計な話だろう。もちろん、この前のことがなかったらより楽しめた、というのは言うまでもないが、それでも皆でこんな時間を過ごせたことに感謝だ。

 

「そうだ、今日、この後花火持ってきたんだ。千歳くんは花火したことある?」

「あー……。実はないんだ」

「それじゃ、今日はじめて花火をするんだ、どんな反応するか楽しみだなぁ。カメラがあったら写真を撮りたいぐらいに」

「花火って、写真に撮れるのか」

「おっ、千歳くん鋭いね。実は業務用の高い機種でもないと、中々難しいかな……」

「前にカメラの話は聞かされたからな。多少は覚えてるよ」

「そこは『木賊の話なら全部覚えてるよ』くらい言ってほしかったな」

 

 さっきから俺と話す木賊の声は明るく、いつも以上に弾んで聞こえる。あの日以降、話す機会がなかったわけではなく、学校では幾度も話をしていたけれどここまでテンションが高いのは久しぶりじゃないか。

 

「今日、千歳くんと海に行けてよかったな……」

「……」

 

 あえて聞かなかったふりをした。誰に向けたわけでもなくこぼれた木賊の言葉を、今俺が拾い上げてはいけないような気がして。あくまで俺と木賊は仲のいいクラスメイトだと、自分の中で一線を引こうとしていた。

 

「そろそろ戻ろっか。あまり長いと皆心配しちゃうし」

「あぁ。そうだな」

 

 

 

 戻る頃には日が傾いていたものだから、急いで着替えに向かった。皆はもう殆ど着替えまで済ませていたものだから、少し急かされつつ済ませる。更衣室から戻ってくると、さっき話には聞いていた花火の用意が着々と進んでいた。

 

「遅いですよ兄さん。もう皆、花火の準備をしてたんですから」

「すまん……あと俺はちょっと離れておいたほうが良いかな」

「そうじゃな、普段ならそのほうが良いが、今の様子だと少しは大丈夫じゃろ」

「なら、兄さんも参加しましょうよ」

 

 佐奈に手を引かれ、俺も手に花火を持つ。すでに次々と、いたるところから煙と火が立ち上る。打ち上げ花火を遠目に見たことならあったが、手持ちの花火をこんな近くで見たのは初めてだ。

 

「あっ、みんなボクを置いてずるいよ!」

「朋花が遅かったからでしょ、ちゃんと朋花のぶんは取ってあるから」

 

 葵が戻ってきた朋花に花火を渡す。そして、俺に続いて花火に火をつけはじめた。あちらこちらで歓声が上がるなか、隣の朋花が話しかけてきた。

 

「千歳くん、花火は楽しい?」

「うん、初めてやったけど楽しいよ」

「良かった! やっぱり海といえば花火でしょ、って思って用意して良かったぁ」

 

 すでにあたりは暗くなっていて、はっきりと顔は見えないがそれでも嬉しそうなことは伝わる。念には念をと思って、周囲から少し距離を取っていたこともあって、あたりには俺と木賊しかいない。

 

「ねぇ、千歳くん」

「どうした?」

 

 お互いが手に持った花火の火が消える。途端に真っ暗になったものの、声の方に振り向いてすぐに、頬に柔らかいものが押し当てられた。頭が混乱する。今、隣にいたのは木賊だけで、呼びかけてきたのも彼女だ。そして、この前告白してフラれたはずなのに、この感触は間違いなく唇のものだ。

 

「この前は、ごめん。やっぱり、ボクは千歳くんのことが好きです」

「それじゃこの前のは」

「あれは……やっぱり自分勝手だよね、一回フッておいてまた告白なんて」

 

 好きです、と言われて思考が停止した。この前は「もっとふさわしい人が」なんて言っていた彼女が、今は俺に明確な好意を示してくれた。その事実を飲み込むことができず、しばらく答えに窮してしまう。

 

「ごめん、やっぱり忘れ」

「俺も好きだ。この前のことなんて気にしなくて良いから。俺も、木賊が好きだ」

 

 やっぱり、一度抱いた好意はそう簡単に否定出来なかった。一度フラレてからも未練がましく心のうちに去来した木賊への気持ちに嘘はつけない。逃さないように、手にした花火の燃えカスを投げ捨て抱きしめる。彼女の小さな体をしっかりと捕まえ、逃さない。少し間を置いてから、木賊の手が背中に回り、お互いに抱きしめる形になった。

 

「もっと早く、ボクは自分の気持ちに素直になれれば、良かったのにね……」

「でも、こうやって言ってくれて、俺は嬉しかったよ」

 

 暗がりで抱き合う俺たちは、幸いなことに皆の目に触れることなく。しばらくじっとして、それから花火で盛り上がる皆のもとに戻っていった。

 

 




若いねぇ.......それがまた良きかな。
自分で書いておいて、甘酸っぱさに自分がダウンしそうになってました。
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