さて諸君、ここで残念なお知らせなんだが……
これはサスペンスでもミステリーでもない!もう一度言う、サスペンスでもミステリーでもない!
ちくせうタイトルに騙された!って人はブラウザバックをおすすめするぜ……
1-1
ファイル1 嗤う人形
現場:保護区域中央区
時間帯:深夜
犠牲者:老若男女の数名(※添付ファイルに詳細あり)
凶器:素手
捜査概要
当局はこれが暴走した人形のものであると断定、捜索へとあたる。しかし難航したあげく、数人の死者を出した。当局はこれを第三種案件から特殊案件へと移行、臨時特別捜査課へと引き継ぐ。健闘を祈る。
「……はあ」
少女は暗い顔でため息をついた。お手洗いの鏡の前で自身を見つめ直す。時計を見れば約束の時間まであと五分ほどしかない。
「だめ、やっぱりいつもどおりで」
前髪をおろして左目を隠す。おとなしそうと言えば聞こえはいいが、第一印象としては良いとは言えないだろう。しかし、彼女にとってはそれがいつもの自分の姿だった。
お手洗いから一歩でれば、そこは騒がしいオフィスだ。常に電話が鳴り響き、人がバタバタといったり来たりを繰り返している。
まさに忙しそうの一言につきる。
「おい!そこにつったってると邪魔だ!」
「は、はい!すみません!」
彼女の目の前をガタイの良い男たちが早足でとおり過ぎていく。彼らの腰には拳銃と手錠、そして首からは身分を示すタグがぶら下がっている。
男たちの背中を見送りながら彼女は再びため息をつく。気分は最悪と言ってもいいほどだった。
重い足を進め、目的地へと進んでいく。通路ですれ違うのは、すべて人間だ。このご時世には珍しく人形が一体もいない――
――彼女自身を除いて。
「そこの女の子!こっち来て!」
「……えっ私?」
「そうそう!ボケって突っ立ってないで手伝って!」
奥の方のデスクにいる女性から手招きされる。スラッとしたスーツ姿はいかにも仕事ができる女といった風貌だった。
「いや~たすかったよ。いま他の部下は手が空いてなくてさ」
「いえ、それでなんでしょうか?」
首をかしげる彼女に対して、その女性は笑顔で笑いかけた。
そしてバインダーを手渡される。中に挟まっている書類は、ある事件の捜査資料だった。
「いま3番の部屋に被害者の家族がいるから話をしてきて」
「えっ?でも私」
「いいからいいから」
そういうと女性は自分のパソコンへと向き合う。横見防止のフィルターがあり詳しくは見えないが、なにやら一人称視点の動画を見ているようだった。
「あの、私まだここの職員じゃありません。バッジもなしに事情聴取するのは違反ですので……」
そういって彼女がバインダーを返そうとすると、女性はパソコンを操作する手を止めた。
「はぁ、わかったわ」
そういって女性は引き出しを無造作に開ける。目は画面を向いたままだ。しばらくガサゴソとさぐって、なかからなにかを取り出した。
「はいこれ」
「……これは手帳?」
中を開くと、この職場の職員であることを示すバッジと、個人情報がのっている身分証が入っている。
「それじゃあ初仕事頑張ってね、新人さん」
女性はそれだけいうと、早く行くようにと手をヒラヒラと振った。
=*=*=*=*=
目の前の扉はとても重そうに見える。だが、実際は軽い。なぜならこの部屋は取り調べ室ではなく談話室であるからだ。中に人を閉じ込め、精神的にもプレッシャーをかけるような部屋ではない。開放的で、気軽にはいれるような部屋だ。そのはずだった。
しかし彼女にとっては、それが一等地にひっそりとたたずむバーの扉よりも重く見えていた。
コンコンとノックをすれば、中からか細い声ではいと返事が聞こえる。
彼女は胃が痛むような感覚を覚えながら、その扉を開いた。
「……あなたは?」
中に居たのは1人の女性だった。今は落ち着いて入るが、目の辺りは泣き腫らした跡がある。
彼女は覚悟を決めた。頼れるものは自分だけだった。
「私は捜査官の佐藤楓です。今回は……お悔やみ申し上げます」
「どうも」
「早速ですが話に入りましょう。今日は早く帰ったほうが良いでしょう」
「ええ、そうかもしれないわね」
女性はすっかり消沈してしまっている。
「被害者であるあなたの夫について、お話をきいてもよろしいですか?」
「ええ。あの人は、真面目で本当にいい人だったわ。常に連絡に気をつかってくれるし、記念日を忘れたことは今まで一度もなかったの」
相槌をうって話を促す。女性は言葉を続ける。
「でも昨日は……いつまで経っても連絡はこないし、それに結婚記念日だったの。あの人が結婚記念日を忘れるなんてありえなかったから、私心配でいろんな友達に連絡して……」
「それで、お友達の1人が倒れているあなたの夫を見つけたんですね」
「ええ。そのあと私、頭が真っ白になっちゃって、友達にもひどいことを言っちゃったり……」
「そう……ですか。わかりました。いくつか質問してもいいですか?」
「ええ、なにかしら」
女性は再び流れ出した涙を拭いながらそう応えた。
「最後に連絡をとったのは何時頃ですか?」
「えっと……お昼の14時ごろよ。あの人がお昼ご飯を食べている時間帯ね」
「お昼?」
「あの人は営業職だったから、お昼の時間はいつもバラバラなのよ」
「なるほど、それでその後は連絡が取れなくなったと?」
「そうね。午後は大事な商談があるから返信が遅くなるかもしれないって」
そういいながら女性は携帯端末を彼女に見せる。そこに表示されているのはメジャーなチャットアプリだ。返信が遅れるかもという男のメッセージがたしかにある。そしてその数時間後、何回か女性から心配するメッセージを送っていた。
「ありがとうございます。このチャット履歴を記録しても?」
「ええ、どうぞ」
しばらく画面を見つめて端末を返す。
「撮らなくてもいいんですか?」
「いえ、もう大丈夫です。覚えましたから」
「すごいのね」
人形ですから、という言葉をグッと堪える。わざわざ偽名を使わせられているからだ。人形であることをひけらかす真似は控えるのが得策だと考えていた。
「今日は以上ですね。タクシーを呼びますか?」
「いいえ。車で来ているから」
「わかりました。ご協力ありがとうございます」
彼女が立ち上がると、女性も立ち上がって手を差し出してくる。それは握手を求めているようだった。彼女は快くそれに答える。
「必ず……必ず犯人を捕まえてください」
「はい、全力を尽くします」
最後に女性は涙を拭いて、笑顔を浮かべる。
部屋を出た女性は通路の奥から走ってくる男の子を抱きかかえる。
「ママ!もうお話終わった?」
「ええ、終わったわ。いい子にしてた?」
「うん!お姉ちゃんが遊んでくれたんだ!」
そういって男の子が通路奥の少女を指差す。少女は人当たりのよい笑みを浮かべており、どうやら母親を待っている男の子を世話していたようだった。
「ありがとうございました」
「とてもいい子にしてましたよ」
「そうですか。ほら、お姉さんにお礼を言いなさい」
「お姉ちゃん、遊んでくれてありがとう!」
「どういたしまして。またおいで」
子供は無邪気に手をふりながら、女性は何度も礼をしながらエレベーターへと乗り込んだ。
「……あとはお願いします」
最後に女性がそれを言うと、エレベーターの扉が閉まっていく。女性は頭を下げたまま、男の子は手をふったまま、その姿が見えなくなった。
「それで、あなたは?」
「ケフィだよ。いらっしゃい、新人さん」
そう言いながら少女は笑顔で手を差し伸べてくる。
「楓です。よろしくおねがいします」
握手だと思って手をだすが、その手を掴まれる。
「う~ん、今後が心配ねぇ」
「何を?」
「あら、しらない?手相を見てるんだよ」
「手相?そんな非科学的な」
「非科学的とも言えないよ。手相を見れば利き手がわかる」
彼女はオフィスまで歩こうと言った。とりあえずはそれに従うことにする。
「この仕事で一番大事なのはね、観察眼だよ。たとえ手相でも、何かの手がかりになるかも知れない」
「はぁ、参考になります」
少し気の抜けた返事になってしまう。外見はすこし幼い気もするが、これでも一応は自分の先輩のようだった。
「ボス、見送ってきたよ」
「ん?ああ、ありがとう」
オフィスにつくとケフィはまっさきに先程の女性の元へと向かった。まるでご主人を見つけた犬のようなんて考えながら、ボスと呼ばれた女性へと目を向ける。
「ねえボス、何をしているの?」
「ライブストリーミング。アッチソンのね」
「ふ~ん。それで、成果は?」
「なし。何も面白くない」
ボスはすねたように口を尖らせる。
「それと、なぜ新人に取り調べを任せてるの?」
「いいでしょ。どうせあの奥さんからはなんの情報も得られないわ」
ボスはそういうと深く椅子にもたれかかった。
「っといけない。新人さんね、えっと楓ちゃんだったっけ」
「は、はい!佐藤楓です」
「よろしく。私はリリアーナ、一応この課のボスを務めているわ」
ボスは握手のために手を差し伸べてくる。しかし、手を伸ばすよりも先にボスとの間にケフィが割り込んでくる。
「さっきも言ったけど改めて、私はケフィって名乗ってる」
「よ、よろしくおねがいします」
笑顔の中に、なにか威圧されるものを感じる。まるで警戒されているようだった。
「それともうひとりいるんだけど、今は外出中だから今度会ったときにね」
「はい、さきほど言っていたアッチソンさんですか?」
「うん、今はちょっとね~」
そういって画面を回転させる。その画面に映っているのは一人称視点の映像だった。
『ちょっとボス、なんの話?』
スピーカーから少女の声が聞こえる。
「あの!佐藤楓です!よろしくおねがいします」
『……ああ、そういえば新人がいるんだっけ。よろしく~』
気だるそうな声が帰ってくる。しかし、画面の中に少女の持つ銃がチラリと映り込んでいた。
AA12、その特徴的なフォルムは銃を特定するのに十分すぎた。
「リリアーナさん」
「ボスとよんで」
ケフィが口を挟んでくる。
「ではボス、あなたいったい何者ですか?」
「ん~どういうことかな」
「とぼけないでください。どうして人形を2体……いえ、私も含めて3体ですね。3体も指揮できるんですか?」
言い終わった瞬間、額に拳銃が突きつけられていた。突きつけている銃はK5である。もちろん突きつけているのはケフィだ。
「ケフィ……いいえ、K5。やめなさい」
「でもボス」
「いいから」
渋々と言った様子でK5は銃を下ろす。
「それじゃあ改めて紹介しようか。そっちがケフィことK5。画面の向こうにいるのがアッチソンことAA12。そして私は……」
楓はゴクリと喉を鳴らす。
「元人形部隊指揮官、リリアーナよ。よろしく楓……じゃなくてTAC50」
左目が熱くなる。
「その名前は捨てました」
「そう簡単に捨てられるものではないでしょう?」
ボスはTAC50の後ろを指差す。
そこにはガンロッカーが設置されていた。
震える手をおさえつけながら、その扉へと手をのばす。鍵はノブを触るだけで解除された。ゆっくりと扉は開いていく。
「これは……」
「TAC50、君の半身だよ」
「無理です、私もう……」
「いいや、ここに来たからには再リンクしてもらうよ」
TAC50はいますぐに泣き出しそうだった。しかし、己の半身は何も言わない。
「ようこそ、TAC50。ここ、臨時特別捜査課へ!」
ボスはにっこりと笑いながら、そう言った。
次回はしばし待たれよ……
もう一つの連載の投稿も滞らせるわけにはいかないのでね